No.194251

真・恋姫無双 ~異聞録~ 其の参

うたまるさん

『真・恋姫無双』の短編小説です。

あるお方のイラストを見て、妄想を垂れ流してみました。
魏√のIF物語となります。

続きを表示

2011-01-05 23:25:16 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:14141   閲覧ユーザー数:9962

真・恋姫無双 二次創作短編小説 ~異聞録~ 其の参

   『 月に見る想いに、天は唯涙する 』

 

 

 

 

 

 この話は、原作と違う設定が含まれています。

 登場人物の口調がおかしい事があります。

 一刀は、無印補正が掛かっています。

 オリキャラがメインのお話になります。

 基本思い付きで書いたお話なので矛盾点はご了承ください。

 基本異聞録は読みきりですので、一話限りのお話です。

 

 この話の趣旨:

 金髪のグゥレイトゥ!様の書かれた劉協の絵を下に、星屑の囁きに応えて浮かんだ彼女の成長のお話を書いてみました。

 恋姫のヒロイン達とは関係ないと言われるかもしれませんが、良かったら見てやってください。

 

オリキャラ紹介

★姓:劉  名:弁  真名:綺羅(きら)

 何進を筆頭とする軍閥に擁護された先代皇帝である小帝弁。

 明るく活発で我儘ばかり言うが、それは小名作して実母を亡くしたが故に、甘える先を欲している気持ちの裏返しでしで、本当は優しい娘なのだけど素直にそれを露わせれないでいる。 義妹の劉協とも仲良くしたいのだけど、周りの思惑と素直になれない気持ちが折り重なって、ますます素直になれないでいる事が目下の悩み。

 ある日木の上で降りられず一人ぼっちで怯えている子猫を見て、その子猫に自分を見た劉弁は、した事も無い木登りをして子猫を助けようとしたが、その様な事をした事のない劉弁は案の定滑り落ちてしまい。 自分一人では歩けなくなってしまう。 宦官達はそれを理由に退位を迫り押し切られてしまった。

 一人寂しく臥所で過ごしていたある日。 宮中を忙しそうに駆け回りながら、それでも自分の我儘を優しい笑みで受け止めてくれる青年に出会う。

 

 

★姓:劉  名:協  真名:春儚(はるな)

 張譲を筆頭とした宦官達が擁立した現皇帝である献帝。

 義姉の劉弁と違い控えめな性格であるものの、甘やかされて育った劉弁と違って精神的に成熟しており、聡明な少女。 義姉の劉弁と仲良くしたいと思っているが、その引っ込み思案な性格のため、なかなか自分から近づく事が出来ない。

 民を想い。民の悲しみを何とかしたいと言う想いがあるが、その想いは親友である董卓ぐらいにしか話す相手が居なかったが、その親友である董卓も、望みもしない世継ぎ争いに巻き込まれ、自分の前から姿を消す事になった。

 たった一人で悩む彼女。 彼女の聡明さと優しさが彼女をより追い詰める事になって行くが、ある日曹操が連れて来た青年によって、彼女の運命は大きく変わり始めて行く。

 

 

 

 金髪のグゥレイトゥ!様、またまたキャラと設定を使わせていただきます。 氏のイメージを壊してしまう作品になってしまうかもしれませんが、せめて面白かったと思ってもらえるような作品にしたいと思って書きました。

 

劉協(春儚)視点:

 

 

「曹操。 天下とは何なのですか? その先に何が在ると言うのです…?」

「天下とは万人に示して見せるモノ。 何かが在るかではなく、作り築いて行くべきモノ。 少なくても私にとってはそう言うモノです。

 天であらせられる陛下にとっての天下とは、おそらく別物になりましょう。

 陛下にとっての天下とは陛下自身の中から見つけるべきモノだと、私は考えております」

「朕自身の中に答えがあると言うのか?」

「御意」

 

 私の問いに、曹操は一度だけ目を瞑り力強くそう答える。

 目を瞑ったのは考えを纏める為ではなく、おそらく覚悟と誓いを己の内にもう一度刻み込むため。

 その言葉その物にではなく。 その言葉と行動によって齎される多くの死と嘆きを、その身に黙って受け止めると。 それでも、その先に在るモノを信じて歩み続けると。 死者達の魂の怨嗟の声を知った上で、より多くの魂達のために踏みつけて行くために。

 一切揺らいだりしないだろう決意の光をその瞳に浮かべながら、私に反論の余地も寄せ付けない程の覇気を見せつける。 少なくともそう私には感じた。

 

 曹操は、絶対に揺らがないと。

 

 頭を垂れながら、去って行く曹操を眺めながら、私はそれでも迷う。

 天下とは、………いいえ、曹操は私が思い悩んでいる本当の問いに気が付いていたと思う。

 だからこそ己の想いのみを遂げ、それは私の答えとは違うものだと言って去って行った……。

 私の中で本当に問いかけたい言葉に、人である者が答える訳には行かないと。

 そんな事は分かっている。

 それでも私は曹操に問いかけたかった。

 天とは、皇帝とは何なのかと。

 

 

 

 

 皇帝とは人の上に在る天人であり、人の世界におわす神で在ると。そう教えられてきた。

 そして、それは下界の民もそう教えられていると聞いている。

 だけど、これが神であると言えるのだろうか?

 何の権力も持たず。 ただ、言い様に利用される存在が神であると言えるの?

 確かに曹操は今まで私や義姉様、そして御父様を利用してきた何進や宦官達とは違う。

 民を想い、民の為にとしてくれているのはよく分かっている。

 でも私を、皇帝と言う名を利用している事に何の変わりはない。

 むしろ私達を政から遠ざけている。

 実権を握り、皇帝である私を飾りに仕立てようとしている。

 名前だけの皇帝……こんなものなど私は望んでいない。

 いいえ、そもそも皇帝の座など欲っしてはいなかった。

 

 皇帝は義姉様が即位するものとばかり思っていたし、その方が義姉様にとっても私にとっても幸せだったと思う。

 義姉様は自由奔放だけど、幼き頃より何進達に次期皇帝として祭上げられてきたし、その自覚だけはある。

 私も母様や宦官達に推されてはいたけど、とてもそんな気にはなれなかった。 義姉様を差し置いてその様な大それた事……何より例え母が違っても姉妹で争う事等考えたくもなかった。

 私は唯一この地で人で無い者同士として、…姉妹で寄り添って生きたかっただけ。

 市井の者達が、心から笑っている姿を見ていたいと思っているだけ。

 なのに、周りはそんな細やかな私の願いすら叶えてくれなかった。

 何進達も……。

 宦官達も……。

 周りの文官達も……。

 己の欲望を叶えようと、幼い私達をの運命を弄ぶだけだった。

 

 

 きっと、曹操も同じだわ……何も変わらない。

 

 

 

 

「ほれほれ一刀。 余はあっちに行きたいぞ」

「だぁぁー、さっき言ってたのと逆の方じゃないか」

「気が変わったのじゃから仕方なかろう。 ほれ、とっとと行くのじゃ♪」

「はいはい、分かりましたよ。お嬢様」

「なんじゃ、それは?」

 

 私の溜息を余所に、騒がしい声が私の思考を打ち壊してくる。

 活発で明るい声は聞き覚えがあるどころか、今しがた脳裏に浮かんでいた人物の義姉様。

 そして義姉様の奔放さに振り回され苦笑染みた声を上げながらも、その人物の人柄が表れているかのような温かく優しげな声に、私の心まで少しだけ温かくしてくれる。

 二人の騒がしい声に、私は誘われる様に声のする方向である庭に足を傾けと、其処には義姉様が満足げな様子で、豊かで艶のある黒髪と大きく煌びやかな冠が、初夏の陽の光を受け輝きながら一人の青年と共に庭を散歩をしていた。

 ううん、…違う。 本当に輝いているのは義姉様の顔。

 本当に心から満足げに笑っているのが分かる。

 何の警戒も無く…。

 何の二心も無く…。

 心から安心して…。

 まだ子供だと言う事を利用して彼に甘えている…。

 

 彼が義姉様のために作らせた車椅子とか言う物に腰かけながら…。

 時折彼の存在を確かめるように彼を下から見上げながら…。

 其処に彼が居る事に満足して、彼が義姉様のために見せてくれる風景を楽しんでいる。

 見飽きたはずの庭の風景を、彼と共に廻れる事を心から楽しんでいる。

 

チクリッ

 

 小さく…。

 まるで小さな棘が刺さったような痛みが、私の胸を襲う。

 

 

 

 

 陽光を浴びて白く輝く服を纏った黒髪の青年。

 義姉様の腰掛けている車の付いた風変りな椅子を、振動を与えぬように気を付けながら押し進む彼の真っ直ぐ歩く姿は、未熟なれどそれなりの武を齧った者だと言う事は、武の素養もなく、鍛錬などした事も無い私にも感じる事が出来た。

 だけどそれ以外は、何の変哲もない青年に見える彼は、私達と同じ人で無い者。

 私達姉妹の始祖とは違う天から降りてきた青年。

 曹操は、始祖が住まわしていた天よりも、遥か下にある天から降りてきたと言っていたけど、それでもこの地で最も私達に近い存在と言える。

 そして天の御遣いを名乗る青年を天の詐称と訴える文官達を、彼の齎した知識と曹操の力が封じ込め今に至っている。

 

「義姉様。 あまり無理を言っては一刀の御仕事の邪魔をする事になります」

 

 二人の邪魔をしたくはないと思いつつも、私の口は想いとは裏腹に反対の事を言ってしまう。

 自由に歩き廻る事の出来なくなった義姉様から、ほんの一時の楽しみを奪うべき言葉が口から出てしまう。

 

「みゅ、春儚よ。 仕事と言うても、街を遊び歩いているだけと荀彧より聞いておるぞ。

 そのような物より余の力になる事の方が余程重大な仕事でないか」

「義姉様。 一刀は遊び歩いている訳ではありませぬ。 警邏をする事でこの洛陽の街の平穏を築いておるのです。 それに一刀の御仕事はそれだけではありません。 我等が失いし天の知識を、民の為に活かすための御仕事など、やるべき仕事は我等と違い幾らでもあります」

「みゅぅぅ。その様な事他の者にでも・」

「それは我等が決めるべき事ではありません。 それとも義姉様は一刀の誠意ではなく、仕事で付き合って欲しいと言うのですか? そこらにいる文官や侍女達のように」

 

 流石の義姉様も、私のその言葉に呻きながらも納得してくれます。

 大きく頬を膨らませながら、妹である私を少しだけ恨めし気に見上げながら、拗ねた振りを見せます。

 そんな義姉様を、彼は苦笑を浮かべながら宥め始めますが、その傍らで私の気遣いのお礼のつもりなのか、優しい温かな笑みを向けてくれる。

 文官や侍女達が浮かべる笑みと言う名の仮面ではなく。

 何の含みも持たない心からの微笑みを…。

 私のためだけに向けてくれる。

 

とくんっ

 

 小さく、だけどハッキリとそんな音が私の身体の中から聞こえてくる。

 理由もないのに、何故か心が温かくなって行く。

 義姉様が目の前に居ると言うのに、視界が狭まり彼の顔を意識してしまう。

 だと言うのに、

 

「ならこの際陛下も・」

「今は春儚で良い」

 

 私人でいた私の心を、彼の不用意な一言が私を一気に冷めさせ、再び皇帝へと追いやろうとしたので、私は義姉様ほどではないけど小さく頬を膨らませて、一刀の言葉を遮ってでも訂正させる。

 そんな私の様子にしまったと小さく言葉を零しながら、感情を隠そうともせずに頬を掻いている彼の様子に、私はついつい彼の失敗を赦したくなってしまい。 そんな彼に私は自然と頬を綻ばせながら視線で話の続きを促す。

 

 

 

 

「にょぉぉっ。 のうのう、アレは何をしておるじゃ?

 あのような事、以前何進達に連れられて馬車で街を廻った時には無かったぞ」

「露店さ。ああやって人の目を引いてから、話巧みに品物を売って行く商売の一つの手段さ」

 

 義姉様が以前街で見なかった光景に、興奮気味に一刀に矢継ぎ早に問いかけて行く。

 洛陽の街の風景。 煌びやかな馬車の中でしか見る事の叶わなかった風景を、こうして皇族と一目で分からぬ服を着て自分の足で見て廻る等、生涯出来やしないとばかり思っていた出来事に、私も自然と胸が高鳴ってしまう。

 だけど、これは遊びでは無い。

 あくまで一刀にとっては街の警邏であり、要人である私達の警護。

 そして私達姉妹にとっては、民達の姿を見る民情視察。

 一刀に誘われたこの抜き打ちの視察は、私達姉妹に洛陽の街の本当の姿を見せてくれる。

 作られた平穏な風景ではなく。 民達の暮らしの在りのままの姿。

 華やかな大通りだけど、時折見せるみすぼらしい姿の市井の民。

 脇道の影に見え隠れする蹲った人。

 罵声と嫌な音と共が響き、人と人が争う音。

 そんな人々が一刀の視線と指の合図と共に、付いてきた数名の警邏の兵と一刀の配下の将の指示で喧嘩を止めさせ仲裁に入ったり、蹲った人を何処かへと連れて行ったりとしていく。

 以前には見る事の叶わなかった、洛陽の街の暗い影。

 だけど、そんな私の視線に気が付いたのか、一刀は何かを言おうとする。

 

 正直聞きたくはない。

 きっと普段はあんな事は無いとか、もっと民が笑顔で歩いているとか言うに決まっている。

 そんなおためごかしなど聞きたくはない。

 よりにもよって一刀の口から、そんな嘘など聞きたくはない。

 そんな悲痛な声を、私は心の奥底で叫ぶ。

 だけど、一刀の発した言葉は私の予想を裏切るものだった。

 もっと悪い意味で……。

 

「あれでも大分減ったんだけどね。

 やはりこれだけ大きな街だと、どうしても出てしまう」

 

 えっ?……減った?

 それはどう言う事?

 一瞬一刀が何を言っているか理解できなかった私の心に、一刀の新たな言葉が流れ込んでくる。

 

「正直、君達のような何も知らない娘達に見せるべきではないとは思う。

 でも知っておいた方が良いとも思っている。 君達が君達であるためにね」

 

 そう言って一刀が語ってくれたのは、嘗ての洛陽の光景。

 董卓が…月と詠が一生懸命復興しようとしては居たけど、袁家の老人達と腐敗官僚達によって再び荒廃してしまった洛陽の光景を。

 街の治安は荒廃し、人のモノを盗む等まだ可愛いもので、殺して奪う事が日常茶飯事だった事。

 殺され打ち捨てられた死体が道に転がり腐敗して行く。それを喰らう犬猫ですら餓える民達の上の前にその姿を消す事となり。

 人が人を喰らわねば、生きて行けない者達も居たと言う事を。

 そうしてその痕跡の一端を私達姉妹に、やんわりと見せてくれた。

 一刀の言を信じるのならば、その光景ですらまだ良い方だと言う事らしい。

 

 

 

 

 そんな私達を気遣ってか、一刀は近くの茶館の私達を連れて行くと、そこで今若い娘達の中で人気と言う茶と菓子を振る舞ってくれる。

 正直宮殿のそれと比べれば、味そのものはそれ程でもないと思ういもするのだけど、于禁と李典の楽しげな会話に、宮殿で普段食している菓子とは比べ物にならない程美味しく感じてしまう。

 

「…そいでね。 隊長ったらビビッてあの玉無しどもと一緒にサーイエッサーと言っちゃうんだよ」

「あぁ、アレにはウチも思わら腹を抱えて笑ろうてしもうたなぁ」

「もう真桜ちゃんたら、あの時は髪が砂まみれになるのも構わず地面に転がって笑うんだから。あとで洗うの大変だったんだよ」

「二人共、いい加減あの時の事は勘弁してくれよ。 後で華琳の耳に入ってエライ目に合ったんだから」

「まぁ、大将の耳に入ったって事はそう言う事や。 でもおかげで隊長はんも、あれからち~~とだけマシになったと思えば良い勉強代と思うておき~。 それも大将の優しい心遣いやで」

「まあね。 それは分かってるよ」

 

 そんな一刀の様子につい笑ってしまう私は、今の一瞬の間に先程から気になっている事を口に出す。

 

「何故、楽進はあのような所で突っ立っているの? 見張りなど兵にでも任せ手此方に来れば良いものを」

「あははは、凪ちゃんは、ちょっと上がり症でね。 たとえお忍びでも陛下と同じ机に付くなんて恐れ多い事が出来ないって言ってはいるけど、カチコチに固まっちゃって椅子に座れないってだけなんだよ」

「まぁ慣れるまでの間だけの事やから、今回は勘弁してやってほしいわ」

「二人は少し慣れすぎな気もするから、少しは凪を見習ってほしい言って気がするのは俺の気のせいか?」

 

 そうして再び何の装飾も無い笑い声が私達姉妹を覆い囲む。

 月と詠の時以上の笑顔で、私達の寂しい心を包み込んでくれる。

 あの人の困ったような、それでいて温かな笑顔を中心に皆が…、そして兵達も笑顔を見せてくれる。

 この人の優しい笑顔の前だけでは、私は皇帝で在る事を忘れられる。

 ただの春儚で居させてくれる。

 ……本当に、何て贅沢な事で夢のような出来事。

 だけど夢は所詮は夢でしかない…。

 その短い夢は必ず覚める時が来てしまう。

 

「こ、この考え無しの節操無し男ーーーっ!」

「桂花どうしたんだ? そんな肩で息をするほど急いで」

 

 罵声の声と共に現れた荀彧の姿に、この儚い夢ももう終わりの時だと心の中で溜息を吐くと同時に、普段の姿からはとても想像もつかない汚い言葉で罵る荀彧の姿に、私も義姉様も驚きのあまりに目を丸くする。

 

「急ぎもするわよっ。 あんたねぇ。無いのは脳みそと節操だけにしなさいってのよっ!

 報告を聞いた時には、心臓止まるかと思ったわよっ!!」

「とりあえず落ち着けって」

 

 そう言って一刀の差し出した湯呑を奪い取るなり一気に飲み干した桂花は、その湯呑を派手な音を立てて机に叩き置くなり。

 

 

 

「最近少しはマシな働きをするから安心していたら。何なのよあんたはっ!

 考え無しにも程があるわよ。 鶏以下の頭の春蘭だってもう少し考えるわよっ!」

「待て待て、流石にそれは言い過ぎだぞ」

「何処がよ。これでも穏便な方だわ。

 だいたい陛下を勝手に街に連れ出すだなんて、畏れおおいにも程があるって言うのよっ!」

 

 そう言って私達の方を指差した所で、やっと私達の存在を思い出したのか荀彧は顔を青褪め。

 非礼の数々を謝ってくる。 …主に一刀の事を無茶苦茶に言いながらだけど、私も義姉様も今はお忍びと言う事で気にしていないと言う事を知ると、深い安堵の息を吐く。

 そんな彼女の姿を見て、せめて最後の御茶を飲みきる間まではと、荀彧に机に付くように命ずると畏れ覆いと断ろうとする彼女に目を細めて見せると、畏まりながらも就いてくれる。

 ……そう、普通はこう言った態度を誰もが私達に対して取る。

 私を、そして義姉様を人として見てはくれない。

 一刀やこの娘達の態度が異常と言える。

 そして、私達姉妹を人から神の座へと勝手に押し上げておきながらも、荀彧は机の下で妾達に見えぬように一刀の足を踏みながら、妾達の耳に聞こえぬように小声で、妾達を街に連れ出した事で一刀を叱りつける。

 あいにく、宮中での噂話や内密の話にはなれているため、自然と耳が良くなった私達にはその内容がしっかりと聞こえており、正直一刀を悪く言うその内容に面白くないのだけど、それ以上に私もそして義姉様も…。

 

「ああして一刀に接する荀彧は、何故か楽しげに思えるのは余の気のせいか?」

 

 見た事も無い荀彧の態度と表情に、私は義姉様の言葉に小さく頷きながらも、思いっきり一刀に自分をぶつけれる荀彧を羨ましく感じてしまう。

 そして同時に一刀はもし私が思いっきり自分をぶつけても、荀彧のように黙って受け止めてくれるのだろうか…と、またもや夢のような事を考えてしまう。

 

「とにかく陛下にもしもの事があったら、あんたの頸なんかじゃ済まないんだから」

「もしもなんてないさ、凪達もいるし桂花が二人に付けていた人達も遠くで警護しているんだろ?」

「あ、あんた生意気にも気が付いていたの?」

「いいや、俺にそんな能力はないよ。 ただ桂花ならその辺りは抜かりがないって信じているだけさ」

「なっ…、まったく。 普段どうしようもない最低男の癖に、こう言う事だけは鋭いんだから嫌になるわ」

「褒めるか貶すかどっちかにしてくれよ」

「一言たりとも褒めてなんていないわよっ! 呆れ果ててるのよっ! それくらい分かりなさいよっ!!」

 

 ひそひそ声で怒鳴り散らかすと言う。 器用な真似を見せる荀彧に苦笑を浮かべる一刀は。

 

「取り敢えず、ウチの警邏隊の部隊も九班に分けて散らしてあるから、大丈夫だよ。

 何より抜き打ちの視察である以上、向こうもそんな大それた事は出来やしないよ」

「まったく、その抜け目なさに免じて。今は此処で引いてあげるわ。

 とにかく華琳様が戻られる前にとっと帰るわよ。 こんな所を華琳様に見つかったら、私まで同犯にされかねないわ」

 

 荀彧は瞼を瞑りながら小さく、そして深く諦めの溜息を吐くのだけど。

 私は憐みの目で、そんな彼女を見てしまう。

 そして義姉様は楽しげに……。

 

「荀彧よ。 どうやら、その願いは叶わぬぞよ」

 

 

 

 

「陛下。 劉弁様。 この様な場所で、珍妙な顔ぶれで居られる所を御目に掛けるとは思いませんでした」

 

 義姉様の言葉通り、荀彧の後ろに立つ曹操の発した言葉に、荀彧は面白いぐらいに顔を青く変えるが、そんな荀彧とは裏腹に、あちゃーと言った顔を見せる程度の一刀と他の面々を一瞥する曹操に義姉様が。

 

「ふむ。 この大陸は余の物じゃ。 何処に居ようともそれは許されるべきでは無いのか」

「この地の全て陛下方の所有物ですが、陛下方が無暗に宮殿の外に出れば民は驚き、騒ぎとなりかねます。

 何より余分な騒動を引き寄せかねません」

 

 せめて私達の我儘と言う事にしようと早々に問いかけたが軽く一蹴されてしまう。

 だけど、其れで簡単に引き下がる訳には行かない。

 一刀は、きっと私達のために無理をしたのだって事が分かるから。

 だから、せめて今回の件に係わった者達を守らねばと。

 

「曹操の考えは分かりました。

 たしかに民を無為な騒ぎに巻き込む訳には行かないと言う考えは、朕も賛同いたします」

「御意」

「一刀、今回は無理な事を命じましたね。 此度の朕の我儘を聞いてくれた事感謝する」

 

 そう言って私は席を立つ。

 この話はこれで終わりと。

 少なくとも皇帝の無理な命を聞かざる得なかったと言う事にしておけば。

 皇帝の感謝の言葉を受けたとあれば。 其処に何の罪科は無くなる。

 それをしてしまえば皇帝批判となり。 幾ら曹操でも、それを無視する訳には行かなくなるはず。

 だけど、それは曹操の言葉で打ち砕かれてしまった。

 

「一刀、王として問うわ。 今回の一件は貴方の独断ね」

「ああ、俺が二人を連れ出した」

 

 ……何で。

 何で認めてしまうの?

 私達の好意を、何故無視してしまうの?

 認めてしまえば、貴女は罰せられてしまうと言うのに…。

 

「いいわ。 今回はその正直さに免じて赦してあげる。

 まだ街を見せるのは早いとは思ったけど。 それなりの成果を見られたから文句はないわ。

「えーと、やっぱりまずかった?」

「……前言取り消すわ。 その辺りの教育と少しお仕置きが必要ね」

「げっ…藪蛇だった」

「それと桂花。 同犯が良いと言うのなら、お望みどおりそうしてあげるわ。」

「えっ…華琳様、私は北郷を諌めようと思い此処に来ただけで・」

「これは決定事項よ。 二人とも、今夜私の部屋に来なさい」

 

 曹操の言葉に、荀彧は全部あんたが悪いのよっ!と言って一刀の頸を軽く締めているけど、私達は事態に付いて行けずに呆然としてしまう。

 

 

 

 

 ただ分かったのは、結果的に私達の望みどおりになったと言う事だけ。

 そんな私達に曹操は膝を突き臣下の礼を取りながら。

 

「陛下、我が部下達が数々の非礼を働いた事、心よりお詫び申し上げます。

 ですが、それも全て陛下達の事を思っての事。 どうか御恩情を持って赦し戴ける事を切に願います」

「「う、うむ…」」

 

 突然の事態に戸惑いながら頷く私達に、曹操は少しだけ満足そうな顔をするとあっさり引き下がり。

 

「一刀。 二人を街に連れ出したのは貴方なんだから、きちんと責任もって送りなさい。

 それと次からは、秋蘭か霞にも必ず声を掛ける事」

「え?」

「そしてこの街の全てを見せてあげなさい。 綺麗な所も、そして目を覆いたくなる汚い所も。 二人にはそれを知る義務と責務があるわ」

「あ、ああ…分かった」

「それと言うまでも無いと思うけど」

「分かってるよ。 俺の命に変えても二人を守って見せるよ」

「それじゃ駄目よ。 必ず貴方も含めて無事に帰る事。

 そもそも貴方の命程度じゃ、陛下達の掠り傷一つの償いにすらならないわ」

「ひでぇなぁ。 でも分かったよ。 皆で必ず無事に戻って見せるよ」

「そう。 せいぜい期待を裏切らない事ね」

 

 

 

 

 初夏とは言え、すっかり陽が落ち。 月が高くなる頃には肌寒さが私の身体を包み込む。

 だけどそんな肌寒さも、昼間の興奮の治まりきらない身体には、何の苦痛を与えるどころか、心地よさすら感じさせた。

 ……嘘。

 本当は違うって事には気が付いている。

 昼間の街の視察に興奮が止まないのは確かだけど、それだけじゃないって分かっている。

 ただ、それが何なのかが分からないだけ。

 

 ただはっきり分かっているのは、それとは別にやはり昼間曹操へ問いかけた問いとその答え。 そして、街での曹操とのやり取りが気になっている事。

 やはり答えなど出ないけど、それでもその在り方が朝とはまるで違う事に気が付いている。

 答えが出ないからと言って、考えない訳には行かない。

 望む望まないに関係なく私が皇帝である以上、それを考えない訳には行かないと思うから……。

 

シュッ

フォンッ

 

 天へと、月へと問いかけて居ると、風を斬る音が私の意識の中に入り込んでくる。

 此処は宮中。 昼間ならともかくこのような夜に何事かと思って、その音の下へと足を向ける。

 少なくても、こうして音が聞こえ続ける以上不審な者ではないはず。

 そう考えながら庭を数区画歩いて行くと。

 

「あれ? こんな夜にこんな裏庭までどうしたの?」

 

 一刀がその手に持つ木刀を振るのを休め、汗を拭きながらも私に声を掛けてくる。

 私が彼の下に向かい間、何も言わずに息が乱れぬよう気を付けながらも、体の中に溜まった熱い空気を吐き出すように、ゆっくりと大きく息を吐きだして行く。

 

「そう言う所を見ると、やはり一刀が武の者だと言う事を自覚できます。

 普段はそんなところ少しも感じないと言うのに」

「武の者って言うほど強くはないよ。 せいぜい一般兵よりマシと言う程度さ

 こうやっているのも、いざって言う時に体が動かなければ、守りたい娘も守れないからね」

 

 とくん

 

 彼の言葉に…。

 彼の想いに…。

 月の光に優しく照らされた彼の表情に…。

 私の中から何かが大きく跳ねる。

 不快ではない暖かな何かが、私の中から溢れてくる。

 

 そんなよく分からない感情に戸惑いながらも、私は彼の言葉の意味を取り違える事無く受け止める。

 彼は私達姉妹を…。

 私を守ってくれると言っている。

 でも、それ以上に私達以外の誰かを、全てから守りたいと思っている事に気が付いてしまう。

 そしてそれが誰なのかも分かってしまう。

 

 

 

 

 彼が本当に守りたいと思っているのは…。

 

「……彼女を守るのは大変な事ですよ」

「うん、そうだね」

 

 俯き、唇から零れるように滑り落ちて行く言葉に、彼は肩を小さくすくめながら答える。

 それでも月を見上げ、眩しそうに目を細めながら。

 

「どちらかと言うと守られてばかりだし、不甲斐なさを思い知らされてばかりだけど。

 それでも何時かそうなりたいと思う。 例え、連れて逃げるのが精一杯だとしてもね」

 

 それで充分だと思います。

 彼女は貴方にそんな物など求めてはいない。

 ただ傍に居てくれれば、充分に貴方は彼女を守っているのですから。

 彼女が貴方の成長を心待ちにしながらも本当に求めているのは、自分が間違って居た時にきちんと叱ってくれる存在である事。 そして傍に居てくれる存在である事。

 その事だけは何となく分かります。

 …そして分かってしまう。

 彼女がどれだけ彼を信頼しているのかを。

 そう俯く私を、彼は勘違いしたのか。

 

「おいおい、此れでも春蘭から仕合で一本取った事あるんだぜ」

「え?」

「もっとも、まぐれな上に卑怯な手でだけどね」

 

 一刀の言葉に私は、目をん見開かされるほど驚かされる。

 あの魏武の大剣と言われるほどの剛の者から、一刀が例えまぐれでも一本を取る等と、天と地が引っくり返っても在り得ない事だと思っていたからです。

 だからそんな一刀の言葉に私はどうやって一本取ったのかと、子供のように教えて欲しいと縋ってしまう。

 なのに一刀は、そんな私を無視して私が歩いて来た方を指差し、

 

「ねぇ、あれ何かな?」

 

 そんな事を言ってきます。

 私は一刀の言葉と指に、その方向を見てみるのですが、特に何か変わった物が在るでもなく。 一刀が何をさしているのか聞こうと、もう一度一刀に振り返った時。

 

つん

 

 私の額を、彼が小さくつつき。

 

「こうしたのさ」

 

 そう、悪戯っぽい子供のような笑顔で、突然の事にポカンとした私に微笑みかけてきます。

 そして、その意味に気が付いた私は。

 

「ず、狡いです」

「言ったろ、卑怯な手だって」

「と言うか、こんな手に彼女は引っ掛かったのですか?」

 

 

 

 

 自分の事は完全に棚に置いておいて、こんな幼稚で古典的な手に引っ掛かった彼女に驚きを隠せないでいると。

 

「まぁ彼女からしたから、アレは完全に余興だったからね。

 普段だったらこんな手に引っ掛かる彼女じゃないよ。 実戦だったら俺なんか瞬殺だろうね」

「くすっ。 それって自慢げに言う事じゃないですよ」

「そうだね」

 

 自信満々い、自慢にならない事を言う一刀の姿に、つい小さく笑ってしまう。

 分かっている。 彼にしたら、それでもそれは自慢なのだと思う。

 それだけの武を持っている彼女の事を誇りに思っているのだろう。

 その事が何となく羨ましいと思ってしまう。

 そんな私を見て彼は、本当に優しげな瞳で。

 

「うん、やっぱり女の娘は、そうやって笑っているのが一番かな」

 

どくんっ

 

 彼の瞳に…。

 彼の言葉に…。

 胸の鼓動が跳ね上がった。

 ……私が女の娘。

 ……しかも可愛いと。

 私を皇帝ではなく、女の娘だと。

 ……そっか、そう言う事なんだ。

 ……私が彼の事が気になる本当の理由が分かってしまった。

 

 彼は何時だって、私を皇帝ではなく、ただの一人の女の娘として見ていたんだ。

 この大陸で唯一人、私を、そしておそらく義姉様も、ただの一人の人間として見てくれていた。

 何の仮面も被っていない私自身を。 彼は最初から見つけていてくれていた。

 だから、私は無意識に彼に惹かれたんだと思う。

 そんな彼だから義姉様も、安心して甘えているのだと思う。

 なら、私も怖いけど一歩踏み出してみよう。

 義姉様の様に甘える事は出来ないけど、ほんの少しだけ彼の心に甘えてみよう。

 

「一刀。 天下とは何なのですか? その先に何が在ると言うのです…?」

 

 答えられるわけないと分かっている言葉。

 曹操にも拒絶された言葉。

 私自身が答えを出さないといけない言葉。

 彼は、私の言葉を違える事無く。

 真剣な問いかけだと感じとり。

 その優しげな瞳を一瞬驚きの色に染めながらも一度目を瞑り。

 そして、真剣な目を私の瞳に焼き付けるかのように、真っ直ぐと私と向かい合い。

 

 

 

「空に浮かぶ太陽のようなものかな」

「……え?」

「この地に住まう全ての生き物を明るく照らしてくれる。 天下とは文字通り天の下に在る存在。

 ……だけど誰もが眩しいと感じる其れは、空でたった一人で寂しいのに耐えて皆を温かく照らしてくれる。

 多くの羨望と同時に嫉妬や恨みを受け、自分の幸せを犠牲にしながらも、皆を照らしてくれている存在」

 

 私が求めていたモノとは違う答え。

 だけど確かに彼にとっての答えであると同時に、それが誰を示しているのか分かってしまった。

 そして、私が答えを出せない理由も理解してしまった。

 曹操は、それが分かっていたから私を突き放したのだと言う事も。

 

「華琳は、全部受け止めるつもりなんだ。

 世の中を治めると言う事は綺麗事ばかりじゃない。 むしろ暗く汚い事の方が多い。

 そんな物から君達を守りたいと想っているから。 汚れるのは王である華琳の役目だと想っているから君達を政の世界から遠ざけて来た。

 君達は、まだそれだけの覚悟も無いし、それが出来るだけの事を知らないでいる。

 例え知識として知ってはいても、其処に心が無ければそれは唯の書物と変わらない。

 人の世を作り出すのは、知識と力も必要だけど、心が其れに付いて行かなければ、形だけの物となり腐敗を生む原因になってしまう」

 

 一刀は何となく分かってしまった事を、教えてくれる。

 言っている事は結局は曹操と同じ。 答えは私自身で見つけて行くしかないと言う事。

 だけど、私を子供だと馬鹿にせずに、真っ直ぐと真摯に一刀の中の想いを私に語ってくれる。

 その事が何より嬉しかった。

 この人の想いを少しでも知る事が出来たから。

 少なくてもこの人は、真剣に私の事を考え、大切に想っていてくれると分かったから。

 

 やがて一刀は話を終えると、約束があるからと、私に夜風は冷えるから早く部屋に戻るように言い残して、この場を去って行った。

 だけど、そんな寒さなど私には気にならなかった。

 体の中からどんどん湧き上がる暖かな何かが…。

 心地よく、それでも早く打つ胸の鼓動が…。

 彼の少し汗臭い残り香が…。

 私の身体を優しく包み込んでくれている。

 よく分からない感情に翻弄されながらも、それを心地よく感じてしまう。

 不思議な気持ちに戸惑いながら…。

 曹操が私に告げてくれた言葉を…。

 彼の残してくれた言葉を…。

 彼が見せてくれた世界を…。

 私の中で組み立て直す。

 

 皇帝とは何なのかを…。

 天下の先に在るモノを…。

 己の内に問いかける。

 だけど、それで答えなど何一つではしない。

 当たり前だ。

 私はまだ幼く。

 何も知らない。

 彼の言う通り知識でしか、本の中でしか世界を知らない。

 私の知る世界とは、この宮殿の中と、本の中でしかない。

 それで何の答えを出そうと言うのか。

 ……滑稽よね。

 

 でもそれが分かっただけ、今日は良き日であった。

 皆の心を知る事を出来ただけ本当に良き日であった。

 そんな小さな、だけど大切な喜びに、自然と頬が緩み笑みを浮かべながら空を見上げる。

 其処には優しい光を皆に照らしながら、静かに月が浮かんでいる。

 その強すぎない光で、皆を優しく包み込む。

 皆が安心して心と身体を休めるように、空高く見守っている。

 

 

 

 

 ……その月の姿に一刀の事を思ってしまう。

 彼は一つだけ間違った事を言った。

 確かに太陽は皆を力強く照らし続けている。

 だけど決して孤独では無い。

 月と言う名のもう一つの陽が、太陽を休ませてくれる。

 強すぎる光の前に出れない者達を、優しく笑みと心で包み込んでくれる。

 多くの星達と共に。

 

 本当に、今日は良き日であった。

 彼の事を良く知る事が出来たのが、何より良き日だと言える。

 そこで私は思い出してしまう。

 今日これだけの良き日であったと言うのに、彼に、一刀に何の礼の言葉を言っていなかった事を。

 皇帝としてではなく、春儚として何も伝えていない事に…。

 確か一刀は約束があると言っていたけど、おそらく昼間の一件で曹操に御説教を受けている筈。

 なら礼を理由に、曹操の御説教から解放してあげようと心に決め、私は月光を浴びる土を踏みながら足を彼女の部屋へと向ける。

 

 

 

『 華琳様、どうかお許しを。 今日こんな汚らわしい奴の精を受けたら、妊娠してしまいます 』

『 ええ、危険日だと言う事は知っているわ。 でもお仕置きなんだから仕方ないでしょ 』

『 そ、そんな、どうかどうか御再考をお願いいたします 』

『 おいおい華琳、幾らなんでも・ 』

『 一刀は黙っていなさい。 これは貴方への罰でもあるのよ。

  でも、あんまり焦った可愛い顔に免じて、貴女に選ばせてあげるわ 』

『 あ、ありがとうございます 』

『 そうね。妊娠する危険性があるけど、一刀に朝まで犯され続けその精をそのお腹に受けるのと、

  妊娠は確実に避けられるけど、お尻の穴とその可愛い口を、見知らぬ兵士二人に朝まで犯されるのとどちらが良いかしら? 』

『 ひっ、そ、そそ、そんな… 』

『 あら、これでも不満だと言うの? なら一刀の代わりに見知らぬ兵士に・ 』

『 北郷が良いです。 それならこんな奴に犯された方がまだマシです 』

『 そう? なら一刀にどうして欲しいかを懇願なさい。 心からね 』

 

 限界だった。

 私は曹操の部屋から聞こえてくる声を背に、その場から走り去る。

 知っていた。

 彼が曹操の情夫である事は…。

 多くの女性と関係している事は…。

 天の血と言う事を考えれば、それも当然と言える。

 でも彼女達にとって、そんな血など関係ないと言う事も今なら良く分かる。

 

 男と女の情事など、宮中ではよくある事。

 幼き頃より、その様な場面に出くわした事等幾度となく在った。

 その様なモノ等、もはや見慣れた出来事に過ぎない。

 だと言うのに、私はあの場から必死に駆けだした。

 いいえ、逃げ出したのだ。

 

 気が付いてしまったから…。

 あの不思議な温かさが何なのかを…。

 義姉様や他の女性と仲良くしているのを見て、感じるモヤモヤした感じの正体を…。

 それが何を意味しているのかを…。

 私の中に在った想いの意味に、嬉しいと思う反面。

 悲しい現実を突き付けられた事に、私は逃げ出した。

 

 

 

 

 自室の臥所に逃げ込んだ先で見たのは、窓から覗く月だった。

 彼のような優しい光は、現実に打ちのめされる私を、彼その物の様に優しく包み込んでくれる。

 だけど今だけはその優しさに、眩しさに涙が溢れてしまう。

 零れ落ちる涙に…。

 締め付ける様な悲しみに…。

 まだ幼い私の心が悲鳴を上げる。

 悲しみの声すら出せず。

 ただ只管に月に向かって涙を流す。

 

 だと言うのに自分の想いが…。

 想いの先に彼があった事が…。

 自覚してしまった彼への想いが…。

 それ以上に、私を優しく包み込んでくれる。

 彼のような月に向かい、嬉しくて涙を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき みたいなもの

 

 

 ~異聞録~ 其の参話『 月に見る想いに、天は唯涙する 』を此処にお送りいたしました。

 何か、異聞録を書く度に、種馬伝説を更新しているだけのような気がしてきましたが、この際それは気にしないと言う事で(w

 このお話は毎度おなじみの金髪のグゥレイトゥ!様の絵を元に私の妄想を垂れ流してみたのですが如何でしたでしょうか?

 まだ幼いながらも、皇帝として必死に惑う少女の姿を。 少女でありながらも女である献帝春儚の姿を私なりに描いてみたつもりです。

 書くきっかけとなったのは、冒頭で述べたように、インスパイヤ元となった絵のコメント欄を見て執筆に居たりましたが、その方が呼んでくださり面白い感じてくれるかが少し心配です。

 

 いつも私の想像を膨らませて下さる素晴らしい絵を書いて下される金髪のグゥレイトゥ!様には、本当に感謝をするばかりです。最近発表された盧植も本当に素晴らしく、妄想が膨らんでしまいます。 彼女の短編も何時か書いてみたいなぁと思いますが、それは置いておいて、金髪のグゥレイトゥ!様いつもいつも絵を使わせていただき本当にありがとうございます。

 

 次回の異聞録ではいい加減正規の恋姫ヒロインで短編を描きたいと思っています。

同時刻某臥所にて:

 

 

 

「みゅぅ……余は皇帝なんだぞ…凄いんだぞ…」

 

「……にゅぅ……一刀は余のモノじゃ。 誰にも渡さぬのじゃ…Zzz」


 
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