眩しい光に包まれた次の瞬間、俺は荒野のど真ん中にいた。
剣道場での対峙のままの姿勢で固まってしまった。
あの女はどこにも見えない……むしろ知っているものが存在しないのだが。
「なにこれこわい」
あまりの非現実にボケてみたが無論、状況は変わらない。見渡す限りの山と岩、地平線まで見えているそして胴着に刀持った青年が一人だ。シュールすぎる。
「とりあえず、ここはどこなんだろうな?日本の風景じゃないよなぁさすがに」
納刀しながら考える。意外というか、自分でも驚くほど冷静だ、なんでだろ?もしかしてあの日の出来事はもしかして……。
と、そこで辺りの変化に気が付いた。
景色に変化は無いんだが、微妙に揺れてるな、地震か?
「て、てめえ!なにしやがった!?」
「……は?」
思いもよらぬ人の言葉、振り返るとそこには黄色い三人組が居た。ガタガタと震えているが。
「こ、この妖術はてめえの仕業かときいてんだよ!」
「妖術?ただの地震だろ、大丈夫か?」
いったい何をいってるんだこいつ。格好もおかしいし、なんか野盗っぽいな。
「兄貴ー、やばいですってー。こいつが天から落ちて来た途端にこれですぜ?なんか良くない予感がしますぜ」
「そうなんだな、見たところ金目の物も持ってなさそうだし早くアジトに戻るに限るんだな」
「バカヤロー!こんな事で黄巾党がびびってられるかぁ!」
「でもよー……」
……
ちっちゃい奴と大きい奴が真ん中の男を宥めてるみたいだ。……ちらほら聞こえる言葉を辿ると、
彼ら→黄巾党?→町へ略奪の途中→近くに流星が落ちたので見に来た→俺発見→こいつ流星?→天界の人間?→珍しいものもってるんじゃないか?→うまくいけば一攫千金?→ヒャッハー略奪だー!
らしい。
……まるで夢物語だ、これじゃあ、過去の大陸にタイムスリップしてきたみたいじゃないか。
「ちっ、アテがはずれたな。とにかくだ兄ちゃん、その得物をよこしな」
「なんでだよ」
「はあ?わかんねえのかよ、そのボロ剣で見逃してやろうっていってんだよ、頭悪いなお前」
「そんな身なりで金なんかほとんど無いだろ、さっさと出せよ、殺されてえのか?こら」
「ア、アニキの優しさに涙するんだな」
どうやら野盗には間違いない……仕方ないな。
無言で刀を抜き、構える。
「おいおいwやる気かよw剣が当たったら死ぬんだぜ?わかってんのか?」
ヘラヘラと三人組が嘲笑っている。
(そんな事、百も承知だ……)
これからするのは命の駆け引き、どんな人間も斬られれば死ぬ、一瞬の油断で生死が別れる世界。
だというのに俺の心は落ち着いていた、力み過ぎず冷静に相手を見据える。
集中しながら、剣の修行に実家へ帰った時に爺さんに言われた事を思い出す。
「一刀、お前……人を斬っとりゃせんだろうな」
戦争を経験した爺さん曰く、命のやり取りをした者の眼をしていたらしい。
無論、そんな事は無いが心当たりがあるとしたらあの夢しかない。
つまり現実でこれなら。
「ほうら、当たるぞー」
夢は本物で俺は。
こんな世界で戦って居たのかもしれないと、相手の攻撃を受け流し思った
「!?こ、こいつ!」
アニキと呼ばれた男は避けられると思わなかったか、ムキになって斬りつけてくる。
それを冷静に捌いていく。すると、
「なんでそんな細剣で折れねぇんだよ!」
ますますムキになり動きが雑になってゆく。
日本刀は斬る事のみに特化した武器だ。極端な方向性ゆえに鋼を断ち割るほどの切れ味を得たが、その反面、どんな名刀であろうと攻撃を受け止めれば直ぐに曲がるか欠けてしまう程の薄さだ。
故に、日本の剣術は独特の進化を遂げていった。防御するのでは無く、『受け流し』、『体捌き』、相手に攻撃させず仕留める『居合い術』等、世界に例を見ない技が数多く存在する。
本当に相手が過去の人間ならこんな戦い方は初めてだろう。
……
………
やばい、俺格好良いかも知れない!
この雄姿を見てどっかの美少女が一目惚れしないだろうか?
なんかこう、褐色肌の肉付きのいい美少女が現れないかな?
と、相手を押し返し、辺りを伺う。
そこで気付く。
「地震が止まってない?……っていうかあの土煙は?えっ?あれが震源地なの!?」
三人組の後ろから煙が迫ってきていた。とてつもないスピードで。
近付くにつれて震度が上がってる気がするような……。
「仕方ねぇ!お前らアレをやるぞ!!」
「了解だアニキ!」
「任せるんだな!」
なにやら縦一列に整列し出したようだが、それより前に、
「喰らえ小僧!!黄巾爆発気流攻……」
……
……
謎の煙に黄巾三人組が吹っ飛ばされていった。
俺の前で急停止した煙が晴れていく、その中にいたのは!?
褐色肌の肉付きのいい美少女…
「ごぉ主人んんさまぁぁぁんっ!」
……
「やっぱりお前かぁ!貂蝉!!」
全力全開で思いっきり刀で袈裟斬りを放つ。が、
「ふんぬらばっ!!!」
体に当たる前に刀が弾かれてしまった。
妖怪だった。
この上なく化け物だった。
出来れば二度と見たくなかった。
ていうか、始めに思い出したのお前かよ!
切ないわ!
と、一人身悶えしていると奴の追撃が無いことに気付く。おかしい、いつもならここで、
「あらん?ずぃぶん情熱的なあいさつねぇ、ご主人様んっ」
と踊り出すぐらいやりそうなものだが……。
どうやらそのまま静止したままのようだ。
「え?まさか効いたのか?お、おいっ」
この人外があの程度で死ぬはずが……
近寄ろうと一歩踏み出すと、
豪快な音を立てて崩れ落ちる貂蝉。
「えっ!」
肉塊の後ろに女性が居た。
彼女がやったのか?
身の丈を大きく超える槍を持ち。
風にたなびくボロボロの衣装。
赤い髪の下から見える瞳は強い意志が潜んでいる。
そして全身から溢れ出すかのような闘気。
この少女は……
―――ああ……そうだ、思い出した。この子は……
「……………………」
無言。
けれど、俺には伝わった。
ゆっくりと近付き、抱きしめた。
「……ただいま、恋」
「…………………………お帰りなさい、ご主人様………(ぎゅっ)」
しっかりと。もう離さないと抱き返してくれる恋。それがたまらなく嬉しい。
先程の闘気は霧散し、身体を預けてくる。
―彼女こそ、大陸に名を馳せる飛将軍、呂布奉先。真名を恋という。
………やっと確信が持てた、やっぱり俺はこの世界にいたんだ。
思い出せるのはまだ少ないけれど、帰ってきたんだと実感する。
この三国志の世界へと。
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第一話をお送りします。
前回、左慈(女)によって外史に招待された一刀。
その外史で待ち受けるあの子との出会い―――
では、開幕。