No.191482

真・恋姫†無双~恋と共に~ #21

一郎太さん

#21

2010-12-24 19:39:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:18301   閲覧ユーザー数:12087

 

 

#21

 

 

 

 

俺はその日、勉強の為に書庫に来ていた。時間が合えば、冥琳に師事して教えを乞おうかとも思ったが、俺が先日教えた政策関連で、最近は忙しいらしい。先ほど別の用事で冥琳の執務室を訪れた時も、細々としたことを質問された。

 

 

 

「さて、先日は孫子を読んだからなぁ。今日は、と………」

「………んん………はぁ………………」

「………?」

 

 

 

俺が書棚の間を歩いていると奥の方から、微かな呻き声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

――――――ダメだ。

 

 

 

 

 

頭の中で警鐘が鳴る。

 

 

 

 

 

―――――――――近づくな。

 

 

 

 

 

声のする方から、耐え難い氣が伝わってくる。

 

 

 

 

 

―――後悔するぞ。

 

 

 

 

 

どう表現すればよいだろうか。なんというか………色で表すなら、そう、ピンク色の氣が漂ってくるのだ。

 

 

 

 

 

俺は、意を決して足を進めた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~ん、やっぱり孫子はよいですねぇ。………読み返すたびに新しい発見があって、身体が疼いちゃいますぅ~」

「………………何やってるんですか?」

 

 

 

そこには、緑色の綺麗な髪をした少女が頬を赤らめて、床にぺたりと座り込んでいた。その手に持つのは少女の言葉の通り、孫子の兵法に関する書物。………………文官か何かだろうか?

 

 

 

「あらあら、恥ずかしいところをお見せしてしまいましたねぇ………あら?貴方、城では見たことのないお顔ですが、新しく入った方ですか?」

「読書をしているだけなら恥ずかしいこともないとは思うんだが………。俺は北郷一刀。先日から雪蓮のもとで客将をしている者です」

「あら、もう真名を許されているとは………信頼されているんですねぇ」

「信頼されているかどうかはわからないけど、気に入られているとは思いますよ」

「謙遜なさってぇ。私は陸遜伯言。雪蓮様の元で軍師をしておりますぅ」

「へぇ………貴女があの陸遜か」

「ご存知なんですか?嬉しいですぅ」

「まぁね。それより、さっきから顔が赤いけど、大丈夫ですか?」

「あぁ、これはそのですねぇ………あら、よく見るとなかなか良いお顔立ちですね」

「へ?」

 

 

 

 

 

突然の話題の変化に、思わず変な声をあげてしまった。そして―――

 

 

 

 

 

「私のことも気遣ってくれますし………気に入りました。北郷さん………………私のこの疼き、鎮めてくれませんか?」

 

 

 

 

 

――――――とんでもない爆弾発言が投下された。

 

 

 

 

 

 

「ちょ、何言ってるんですか!?身体を鎮めろとか―――」

「だって、もう疼いて疼いてどうしようもないんですよぉ。お願いしますぅ………北郷さんは何もしなくていいですから、ね?」

「『ね?』じゃないです!」

「だってぇ………」

「(くそ、埒が明かない。こうなったら………)」

 

 

 

 

 

か ず と は に げ だ し た !

 

 

 

 

 

「扉だ!あと少しで………」

 

 

 

 

 

俺は書庫の扉を開け、外に飛び出した。

 

 

 

 

 

「捕まえましたぁ~」

 

 

 

 

 

と思ったら、腰に陸遜が抱きついてきた。

なんだと!?こいつ、ニュータイプか!?武に関してはまったく相手にならないと踏んだ少女が、俺の脚に追いつくだと!?

 

 

 

「ダメですよ、北郷さん?私のお相手をしてくれるんでしょう?」

「そんなこと言ってないです!いいから話してください!!」

「い・や、ですよ~」

 

 

 

俺が悪戦苦闘していると、後ろから視線を感じた。

 

 

 

 

 

「………………………………」

「れ、恋………」

 

 

 

なんという修羅場………なのか?恋の眼は俺と俺の腰に抱きつく陸遜をずっと捕らえて離さないが、その視線からは、感情を読み取ることができない。

と、恋の足元にいたセキトが、面白いものを見つけたというように、こちらに駆け出そうとした。

 

 

 

「(ナイス、セキト!!)」

「ダメ、セキト。…お邪魔虫」

「わふぅ……」

 

 

 

 

 

セ キ ト は つ か ま っ た !

 

 

 

 

 

「ちょ、恋さん!?」

 

 

 

セキトを抱き上げた恋は、そのまま歩き去っていく。

 

 

 

「ほらほら、北郷さん。これでもう、私たちを止めるものはありませんよ~」

「いーやーだーーー!」

 

 

 

俺も年貢の納め時か………そんな風に思っていると、今度こそ救いの女神が現れた。

 

 

 

 

 

「何をやっているんだ?」

 

 

 

 

 

 

声をかけてきたのは冥琳だった。………よかった。これが雪蓮や祭さんだったら、事態が悪化の一途を辿ることは想像に難くない。俺は縋るように、冥琳を見た。

冥琳も事態を察してくれたのだろう。眉間を軽く押さえながら、陸遜を俺から引き剥がした。

 

 

 

「穏。お前はまた勝手に書庫に入ったりして………雪蓮か私の許可なしに、書庫には立ち入るなと言ってあるだろう。それに、戻ってきたのなら、まずは挨拶に来ないか」

「あらぁ、冥琳様ぁ。お久しぶりですぅ。侍女の子に聞いたら、雪蓮様は賊の討伐に向かわれたし、冥琳様も最近はお忙しいと言われたので、控えていたんですよ」

 

 

 

陸遜の口調が段々とまとも(?)になっていく。どうやら窮地は脱したようだ。

冥琳はこちらに向き直ると、頭を下げた。

 

 

 

「すまなかったな、一刀。この娘は、本を読むとその………」

「いや、だいたい分かるよ。なんというか、大変だね」

 

 

 

そう俺は苦笑した。冥琳も溜息を吐きながら、ずれた眼鏡を戻す。と、陸遜がずっとこちらを見ていることに気がついた。

 

 

 

「あの、何か………?」

「本当にお優しいんですね。普通の方だったら、私のこの悪癖を見たら距離をとろうとするのに………」

「悪癖、ですか?まぁ、体質とかなら仕方がないじゃないですか」

「………冥琳様。私、北郷さんのこと気に入りました。先ほど客将ということはお聞きしましたが、ぜひとも、北郷さんを呉に引き入れるべきです!」

「おやおや、もう惚れたか?残念だが穏よ、私や雪蓮、それに祭殿がそれをしなかったと思うか?」

「ということは………いずれは出ていってしまうんですね」

 

 

 

そう言って陸遜さんは悲しそうに俺を見る。少し申し訳ない気持ちになるが、既に決めてあることだ。

 

 

 

「俺と、あとさっきいた女の子、呂布って言うんですが、二人で旅をしている途中なんですよ。だから、その申し出は、すみませんがお断りさせていただきます」

「はぁ~残念ですねぇ。でも、しばらくは居てくださるんでしょう?先ほども言いましたが、私の名前は陸遜、真名を穏と申します。これからはそう呼んでくださいね?あと、言葉遣いも気にしなくていいですよ」

「わかったよ、穏。あいにく、俺に真名はないんだ。姓が北郷で名が一刀。字もないんでね。よかったら他の皆みたいに名で呼んでくれるとありがたい」

「わかりました、一刀さん。これからよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

話によると、穏は実家に一時帰省していたらしい。道理でこのひと月会わなかったわけだ。穏は恋にも挨拶をすると、冥琳と共に執務室へと向かっていった。

 

残された俺は、若干緊張しながら隣にいる恋へと口を開く。

 

 

 

 

 

「なぁ、恋………」

「………」

「怒ってるか?」

「………………なんで?」

「なんで、って………その、俺が穏と抱き合ってるように見えただろ?」

「…(コク)」

「別に、何もなかったよ。だから―――」

 

 

 

俺が無様に言い訳をしようとすると、恋から予想外の言葉が出てきた。

 

 

 

「………なんで?」

「だから………って、え!?」

 

 

 

何かあって欲しかったのか?………いや、そんな筈はない………………と思う。

恋は言葉が見つからないのか、しばらく考え込んだ後、言葉を続けた。

 

 

 

「一刀は、すごい。………誰とでも、すぐ仲良くなる。………………一刀は、穏と、仲良くなってない?」

「いや、仲良くはなったけど………」

「なら、いい。………恋も、一刀といると、誰とでも仲良くなれる。………………一刀のおかげで、みんな仲良し。嬉しい」

 

 

 

俺は恋の言葉の意味が分からず、しばし考えたが、すぐにその言葉の意味を理解した。

 

 

 

 

 

「………………………く、くくく………あっははははは!」

「………?」

 

 

 

 

 

なんてことはない。恋は俺が悩んでいたようなことなど、歯牙にもかけないのだ。もちろん、その意味を知らないというのもあるだろうが、そんなことよりも、皆仲良し、それだけで恋は幸せになってくれるのだ。

 

 

 

俺は………ようやく、呂奉さんが言っていた『恋の純粋さ』というものを理解した。

 

 

 

 

 

「………おかしい?」

「いや、おかしくないよ。嬉しいんだ。………恋、大好きだよ。ずっと大好きだ」

「ん…恋も、一刀、好き。………おそろい」

「あぁ、おそろいだな」

 

 

 

 

 

俺は、恋の頭をいつものように撫でながら、笑う―――

 

 

 

 

 

―――恋ただ一人を愛すると、再度、心に誓って。

 

 

 

 


 
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