No.190636

真・恋姫無双~君を忘れない~ 十九話

マスターさん

一九話の投稿です。皆さま覚えていらっしゃるでしょうか?月末から始まった鬼のような忙しさで睡眠時間すらろくに取れず、気づいたら1ヶ月くらい放置してしまい、申し訳ありません。やっと、少し落ち着きましたので、これからも投稿したいと思います。
さて、皆さまももうすでにわかっているでしょう。この作品は駄作です。決して期待はしないでください。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2010-12-20 01:46:07 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:14742   閲覧ユーザー数:11708

 

どうしてこんなことになってしまったのだろう?

 

こんなつもりではなかったのだ。

 

それが正義だと信じていた……。

 

やつらはこれを知っていたのか?

 

知らなかったのは自分だけ……。

 

でも、もう後悔しても遅い。

 

全ては終わってしまったのだから。

 

膝から地面に崩れ落ちた。

 

膝に泥が付こうと、擦りむこうと構わない。

 

とんでもない過ちを犯してしまった。

 

自責の念しか浮かばなかった。

 

張譲視点

 

 全くしくじってしまったわい。まさか、こんな所で邪魔が入ろうとはの。董卓を騙すまでは計画通りだった。全ては儂の掌で動くはずだったのじゃ。しかし、小さな綻びが広がり、収集できないような大きなものになってしまった。

 

 全ての原因はあの袁家の小娘どもじゃ。どの諸侯よりも兵力を有しておったのにも関わらず、呆気なくやられよって。おかげで、連合の指揮は曹操がすることになってしまった。

 

 曹操はおそらく儂の手に負えまい、そう判断した儂は、董卓どもを拉致し、一度都を脱し、機を見て董卓の首を手土産に戻るつもりだった。

 

 その道中でこやつらに邪魔されてしまった。益州の人間め、わざわざ董卓を助けるためにこんなところに来るとはご苦労な事じゃわい。

 

「北郷、とぼけないほうが身のためよ。私が気付いていないとでも思ってるのかしら?」

 

 しかし、不幸中の幸いと言うべきか、目を覚ましてみると、何やら面白い展開になっているようじゃな。奴らはまだ儂が目覚めた事に気づいておらんようじゃし、上手くいけば逃げられるやもしれんな。

 

 曹操の放つ覇気は、儂が気絶していると思っているため、儂に向けて放たれていない。儂の位置は、曹操たちからは離れておるし、董卓たちからは死角になっておる。今ならこやつらに気付かれずに動けそうじゃわい。

 

「……分かりました。董卓さんは私の恩人でもあるのです。せめて、私の手で始末をつけさせてもらえませんか?」

 

 そっと薄眼を開いて、周囲の様子を窺ってみると、どうやらあの北郷とかいう小僧、自らの手で董卓を殺すつもりのようじゃな。ふん、何が董卓を救いに来たじゃ。

 

 董卓の首を手土産に、都に戻るという儂の計画は完璧に潰えてしまいそうじゃが、今は己の命の方が大事じゃわい。どこかに身を隠して、改めて策を練り直すとしよう。

 

 鞘から剣が抜かれる音がした。ゆっくりと気付かれない程度に身体を動かして、逃げる準備をした。そして、魏延とかいう小娘の悲痛な叫び声が聞こえた。

 

 儂は逃げられると確信を得た。董卓の首が飛んだ瞬間を狙って、一気に逃げるとしよう。フハハハハハ!

 

華琳視点

 

「北郷、とぼけないほうが身のためよ。私が気付いていないとでも思ってるのかしら?」

 

 あなたが私を巧みに言いくるめようとしているのも分かっているのよ。そんな幼稚な心理戦で、この曹孟徳をだませると思ったら、大きな間違いというもの。

 

「都は御覧になりましたよね?董卓さんは檄文にあったような人ではありません。それでも、曹操様は董卓さんを殺すんですか?」

 

「それが連合の存在意義である以上、私は董卓を殺すわ。例え、董卓が善政を布いていたとしてもね」

 

「そこに正義はあるんですか?」

 

「正義?今回の戦に最初から正義なんて存在しないわ。私の己の信念を貫くだけよ。覇道の実現のためにね」

 

 董卓が名君である事は認めるわ。だから、逆に潰せる時に潰しておくのよ。私の覇道の邪魔をする可能性が少しでもあるのなら、それは私の敵という意味なのだから。

 

「……分かりました。董卓さんは私の恩人でもあるのです。せめて、私の手で

始末をつけさせてもらえませんか?」

 

 自ら董卓を殺すと言う北郷に、私は不信感を抱かざるを得なかった。そんな簡単に自分の恩人を殺す事が出来るのかしら?それともこれも駆け引きなのかしら?

 

「いいわ。北郷一刀、董卓の首を刎ねなさい」

 

「……分かりました」

 

 私の声に静かに頷くと、北郷は自分の腰に佩いている剣をゆっくりと抜いた。

 

「一刀!ダメだ!」

 

 魏延という娘の声、明らかに動揺している。少なくとも両者の間に何か打ち合わせがあるようには思えない。本当に董卓を殺すつもりなのかしら?

 

 私も秋蘭も北郷に目を奪われていたようね。その時にはまだ気付かなかった。北郷達の背後に倒れていた老人の身体が、ゆっくりとだが動いている事に。

 

 北郷は後ろを振り向き、跳躍して、老人の身体に刃を突きたてようとした。しかし、老人はそれを寸前で避けて、立ち上がろうとした。しかし、次の瞬間には北郷の剣は老人の首を飛ばしていた。

 

 首のない胴体から血が噴き出した。北郷は二人の少女が血で汚れないように間に立ち、一身に血を浴びた。その見た事もない純白の服は血に染まった。

 

一刀視点

 

「いいわ。北郷一刀、董卓の首を刎ねなさい」

 

「……分かりました」

 

「一刀!ダメだ!」

 

 焔耶の必死な声が聞こえた。しかし、俺はそれを無視してゆっくりと後ろを振り向いた。曹操さんを相手に下手な心理戦は無駄だと分かった。それならば、もうこれしか手は残っていなかった。

 

 董卓さんと目を合わせる。身体が少し震えているし、賈駆さんとしっかり身体を寄せ合っている姿は、怯えていると映っても不思議ではないが、瞳だけは違っていた。

 

 北郷さん、あなたを信じています。言葉を交わさなくても、彼女がそう思っているのははっきりと伝わった。

 

 大丈夫です、俺を信じてください。董卓さんだけにしか分からない程度に、頷いて見せ、視線を董卓さんの向こう側へ移した。

 

 一度目を閉じて深呼吸をして、精神を落ち着かせた。そして、目を見開いてから一気に前方へ跳び、張譲の胸に刀を突き立てようとしたが、張譲はギリギリのところでそれを避けてしまった。

 

 腕は自然と横に振られていた。振り向き様の横薙ぎ。思った以上に軽い手応えだった。首はまるで手毬のように空中に飛んで行った。

 

 俺は無意識に身体を張譲と董卓さんの間に立ち、吹き出る血飛沫に身を晒した。俺の制服が真っ赤に染まった。しかし、俺は何の感情も抱く事が出来なかった。

 

 初めて人を斬った。

 

 初めて人を殺した。

 

 初めて血で汚れた。

 

 その実感はあまりなかった。俺は血の雨が止むのを待ち、そのまま張譲の髪を掴んで首を拾い上げた。頭部は身体のパーツの中で重い部位であると聞いたことがある。そのズシリとした重みを感じた瞬間に、初めて俺は心にじわりと闇が広がるのが分かった。

 

 ダメだ!今はこんなところで立ち止まっている場合じゃない。董卓さんを救うんだ。これからが本当の勝負なんだよ!

 

 無理やり自分を鼓舞するために、刀の柄を思い切り握りしめた。そして、振りかって、再び曹操さんと俺は対峙した。

 

華琳視点

 

 北郷は老人の首を拾い上げると、再び私の前に戻ってきた。彼の真意はまだ読めなかった。魏延は目を開き驚愕の表情を浮かべている。本当にその首が董卓とでも言うのかしら?

 

「曹操様、董卓の首にございます」

 

 北郷は跪いて私の足元にその首を置いて差し出した。この老人が董卓……。しかし、まだ私の中には依然として違和感が残っていた。この老人が董卓であると言う決定的な何かが足りない気がした。

 

「この戦に必要なのは田舎太守の董卓の首。これさえあれば、反董卓連合の存在意義をなくさずに戦を終わらせられましょう。曹操様もこれで名声を得られ、覇道の実現も近づきます」

 

 北郷は立ちあがり際に、私にしか聞こえない程度の声でそう呟いた。

 

 そう。そういうことなの。

 

 この首は董卓ではない。しかし、現在それに気付いているのは、あなた達と私だけ。秋蘭や後ろの兵たちは、この首が董卓であると信じている。

 

 田舎太守、その言葉が意味する事とは、おそらく連合に参加している諸侯のほとんどが、董卓の顔を知らないだろう、ということ。

 

 この首を董卓のまま、悪逆非道の董卓のまま処理すれば、戦は私たちの勝利で終える。この首を都に持って帰った私たちは、崩壊しかけた連合を立て直し、董卓の首を得たという名声が得られるだろう。

 

 そして、北郷はこの首を董卓として渡している。それは言外に、董卓は死んだことになり、二度と表舞台に出てこない事を意味している。

 

 つまり名声を得たい私たち、董卓を助けたい北郷の、両方の望みを叶えた形になっている。

 

 私に心理戦が通用しないと分かった瞬間に、こんな展開に持ち込むなんて、北郷、なかなか男にしては頭の回転が早いようね。おそらく、この展開になることを味方すら知らされていなかった。だから、魏延の反応も、まるで本物の董卓を殺すことに驚いたように見えたのね。

 

 そして、何よりも私たちの狙いを瞬時に見極めたその目は、称賛に値するわ。まるで私の心を見透かしているようね。

 

 少し不愉快ではあるけれど、いいでしょう。あなたのその展開に乗ってあげるわ。別にここで本物の董卓を殺そうが、偽物を殺そうが、名声さえ得られるのなら、私たちに損はないものね。

 

焔耶視点

 

「一刀!ダメだ!」

 

 私の声を無視したまま、董卓さんの方向に振り向いた。そして、ゆっくりと構えた。月様は一刀の目をじっと見つめて、抵抗する意思を見せなかった。

 

 次の瞬間、一刀は地面を蹴って、月様を通り過ぎて、その先に横たわっている、張譲の胸に剣を突き立てようとした。そして、その紙一重で避けた張譲の首を見事に一閃した。

 

 一刀は初めて人を殺した。あれだけ剣を振う事を嫌がり、私との鍛錬でさえ、私に斬りかかることを躊躇してしまうような男なのに。そんな男が人を斬って、無事で済むはずがない。

 

 一刀は張譲の髪を掴んで持ちあげた。その瞬間、一瞬ではあったが、一刀の表情が暗く悲痛なものになったのを私は見逃さなかった。心が蝕まれているのだろう。

 

 一刀は曹操に安い嘘が通用しないと分かって、こんな策を咄嗟に思いついたのだろう。月様を救うために、自らの手が血に汚れる事を、自らの心が闇に堕ちるのも構わずに。

 

 しかし、すぐに冷静な表情に戻り、曹操の所に首を置いた。曹操は少し考えるような表情を浮かべたが、すぐに微笑のような表情を浮かべた。

 

「秋蘭、首級を持ち帰るわよ」

 

「はっ!」

 

 水色の髪をした曹操の部下の女が、一刀と同じような髪を掴んで首を持ちあげると、兵士を呼んで首を手渡した。

 

「北郷、董卓の首、確かに頂戴したわ。ご苦労だったわね」

 

 曹操は微笑を浮かべたまま、一刀にそう言った。労いの言葉に聞こえるが、まるで他の事を褒めているかのように思えた。

 

 曹操は本当に気付いていないのだろうか?それとも気付いた上で、その首を持ち帰ろうとしているのだろうか?

 

「それから、あなたの足元にいる少女の事だけど……」

 

「董卓さんが連れていた者でございます。どうやら董卓さんが可愛がっていた侍女のようですが、帰る家もないようなので、我らが保護することにいたします」

 

「……そう。ならば良いわ。では失礼する」

 

 結局、曹操はそのまま何も言うことなく、踵を返して、都の方に兵を率いて去って行った。危機は去ったと言ってもいいだろう。

 

 私たちは月様を助け出す事が出来た。今はその状況に満足すべきだ。

 

華琳視点

 

「秋蘭?」

 

「はっ」

 

「都に着いたら、桂花に益州に放つ細作を増やすように伝えてちょうだい」

 

「北郷という男が気になりますか?」

 

 さすがは秋蘭というところね。私の事がよく分かっているわ。まさか益州なんて辺境な地に、あんな逸材が眠っていたなんてね。

 

 私が楽しげに見えたのだろうか。秋蘭はやれやれといった感じにため息を吐いた。

 

「全く、桂花辺りが聞いたら、大変な騒ぎになりますよ。華琳様が益州の男を大層気にしているなんて」

 

「あら?そういうあなたはどうなのかしら?」

 

「わ、私は……」

 

「フフフ……これからは忙しくなるわよ。これまで通り私を支えてちょうだい」

 

「御意」

 

 都に着いた私たちを待っていたのは、驚くべき知らせであった。麗羽が河北へ戻ったという。あの女、一体何を考えているのかしら?目立ちたがりのあの女が、何も言わずに河北に帰るなんて考えられなかった。

 

 後半の指揮は私が執ったものの、形式的には麗羽が連合の総大将という事になっている。占領後の洛陽の統治権を主張されるくらいは覚悟していたのだけれどね。

 

 まぁ良いわ。いないのであればそれに越したことはないし、私の思うように行動できるのだから。ここで名声を得る事が出来るのは、私の覇道の実現のためには大きなこと。

 

「華琳様、あちらで張遼が」

 

「分かったわ」

 

 秋蘭に案内させて、張遼が待っている幕舎の中に入った。張遼は幕舎の中央で首を項垂れて座っていたが、私が入ると、恨めしげな眼でこちらを睨みつけてきた。

 

 私が董卓の首級を持ち帰った事を知ったのだろう。自分の主君が殺されたのだ、私を怨んでしまっているのは当然でしょうね。だったら、彼女には本当の事を告げなくてはいけないわ。

 

「秋蘭、人払いをお願い」

 

「御意」

 

 私はゆっくりと張遼の前に進み、身体を屈めて視線を張遼に合わせた。彼女の殺気のこもった視線を真っ向から受けてみせたのだ。私は微笑すら浮かべているのだろう。

 

秋蘭視点

 

「秋蘭、人払いをお願い」

 

「御意」

 

 今、この場には私と華琳様と張遼の三人しかいない。それで人払いをと言ったのは、周囲にいる間者を始末しろという意味。すなわち、華琳様は張遼と周囲の人間には聞かれたくない会話をするおつもりなのだ。

 

 人払いには当然私も含まれている。親衛隊を数人呼んで周囲に潜んでいた間者を速やかに排除して、その場を後にした。

 

 華琳様は北郷という男という言外の会話をしたに違いなかった。それがどのようなものだったのかは、分からないが、それで華琳様はかなりの評価を下したに違いない。

 

 華琳様には言っていないが、私のも引っ掛かることがあった。

 

 どうして、奴らはあそこにいたのだ?

 

 賊の追撃中だと言っていた。しかし、益州からあそこまでかなりの距離がある。そんなところまで追撃するのはどう考えても不自然だった。

 

 益州の、確か黄忠の部下と言っていたか……。

 

 どこかで聞いた事のある名前だと思っていたが、その瞬間、誰であるのか分かった。益州にも少数であるが細作は放ってある。彼らの情報の中で、益州の有力の武将として名が挙がっていたはずだ。

 

 弓の名手として。

 

 そして、姉者を襲ったあの矢の事を思い出した。あの矢は常人が放ったものとは思えなかった。明らかにあの二人を狙ったものであった。あの激しい戦闘の最中に、あそこまで正確に矢を放てる人間が、この大陸に何人いるのか。

 

 あるいは、黄忠であれば可能かもしれない。

 

 もし、あの矢を放ったのが黄忠だとしたら、北郷達はあそこで黄忠を待っていたのではないのか?そこに偶然、都から落ち延びた董卓が現れたのでは?

 

 フッ……やめよう。いずれにしても推測の域から出ることはない。我々が董卓の首を手に入れる事が出来て、華琳様の覇道の実現に一歩近づいたのだ。この結果に満足しようではないか。

 

 私は暴走しかけた思考を止めた。そして、今後の打ち合わせをするために桂花の元に向かった。

 

霞視点

 

「曹操様が董卓の首を持ち帰ったらしいぞ」

 

 曹操の所の兵士らがそんなことを言うているのを聞いた。結局、うちらは月たちを守り切ることは出来へんかったようや。

 

 そして、これから曹操と、うちの主を殺した曹操と相見えんとしとるわけや。曹操はうちのことが欲しいみたいやけど、自分の主を殺したやつに簡単に降るわけにはいかへん。

 

 死ぬ前にせめて腕の一本でももろうたる。そんなことを考えているうちに幕舎の中に曹操が現れた。曹操はうちが睨んでいるのを気にする風でもなく、うちと正面から目を合わせよった。

 

 さらにその顔には微笑まで浮かべていることが、うちの神経をさらに逆撫でた。

 

「うちは降らん!月を殺したやつの下なんかで働けるか!さっさと殺しぃ!」

 

「董卓ね……。あなたの主君っていうのはこれのことかしら?」

 

 曹操はうちの目の前に首を一つ放ってきた。月の首を物扱いするやなんて。ギリッと歯を食いしばって殺意を込めた視線を曹操に送ったが、曹操は涼しそうな表情をしておった。

 

 不信に思って首をもう一度確認して、うちは声を失ってしもうた。それは月の首ではなかった。それはうちらの敵、張譲の首だった。

 

「驚いている所を見ると、本当に董卓の首ではないようね」

 

「どういうことや?月は……本物の董卓はどこにおるんや?」

 

「フフフ……これは紛れもなく董卓の首よ。」

 

 曹操は楽しそうに答えた。あぁ、もうイライラするやっちゃな!!

 

「董卓の追撃中に益州の北郷という男に出会ってね、彼が董卓を討ち取ったわ。董卓が連れていた侍女の二人は北郷が連れて行ったわ」

 

「一刀が!?」

 

「あら?北郷と親しいようね」

 

「てことは、月は……」

 

「さっきも言ったでしょう?董卓は討ち取られたわ。この戦は連合の勝利で終わったのよ」

 

 よく状況が掴めへんけど、どうやら一刀が月を助けてくれたみたいやな。ほんまに良かった。

 

「それで張遼、どうする?私に降って、その武を今後も存分に振るうか、ここで不様に死ぬか」

 

 月は生きている。その事実を知っただけで十分や。うちは武人。そこに戦場がある限り、戦い続ける宿命や。

 

「ええよ。あんたに降ったるわ。この神速の張遼の武、しっかり見ぃや」

 

焔耶視点

 

 曹操たちは立ち去って行った後、しばらくの間、私たちは茫然としてそこに動けずにいた。

 

「な、なんとかなったな」

 

 一刀はその場に崩れ落ちるように膝を付いて、安堵の声を発した。最後の最後まで一刀の思惑がわからなかった。まさか、張譲の首を董卓の首に見立てて渡すなんて。

 

「一刀……大丈夫なのか?」

 

 私は一刀の側で腰を屈めて、顔を覗き込んだ。初めて人を斬った影響が出ていないか確認しようとした。

 

「ん、大丈夫だよ。特に怪我はないよ」

 

 一刀は私に向けて笑顔を見せてくれた。

 

 やめてくれ、一刀。そんな風に笑わないでくれ。

 

 そんな悲しそうな笑顔なんて見たくない。

 

「董卓さん、賈駆さんも、怪我はしてませんか?」

 

「は、はい。私たちは大丈夫です」

 

 どうして、そんな風に笑えるんだ。

 

 つらいはずなのに。苦しいはずなのに。

 

「良かった。無事でいてくれて」

 

 お前は無事ではないだろう。

 

 優しいお前の事だ。私たちを心配させまいとしているんだろう。

 

 だからそうやって無理に笑顔を作っているんだろう。

 

「とりあえず董卓さん達を無事な所まで連れて行こう。焔耶?」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

 これ以上見ていられなかった。だけど、私にはどうする事も出来なかった。一刀に向けて弱々しい笑顔を向けながら、頷くことしか出来なかった。

 

あとがき

 

皆さまお久しぶりでございます。一九話の投稿です。

 

大変お待たせしてしまいまして申し訳ありませんでした。

 

そして、今回こそは皆さまから呆れられてしまっても仕方のないものになってしまいました。

 

一刀が思いついた策、それは張譲を月の身代わりにする事です。

 

田舎太守で顔が知られていない月だからこそ、可能な策というところですね。

 

そして、それは同時に名声を得ようとする華琳様の狙いにも合っていました。

 

しかし、そのためには張譲を自らの手で殺さなければならなかったのです。

 

宦官であることは調べれば容易にわかってしまうことですから。

 

これが作者がない頭を駆使して考えた事でした。

 

今は心配させまいと気丈に振る舞う一刀ですが、その心中は?

 

さて、後半の秋蘭の視点ですが、董卓が本物と信じている彼女だからこそ、抱いてしまった疑念。

 

彼女の疑念はこの後どう影響してしまうのでしょうか?

 

冒頭部分の語りの主は皆さまのご想像にお任せします。いつか答えは明らかにします。

 

いろいろと突っ込みたい所は満載だとは思いますが、ご容赦願いたいと思います。

 

次回ですが、クリスマスくらいに本編の時間軸に関係のない特別編の拠点でも書こうかなと思っております。

 

間に合えばの話ですが……。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれれば嬉しいです。


 
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