No.185953

真・恋姫無双~君を忘れない~ 十八話

マスターさん

十八話の投稿です。

遅くなってしまい申し訳ありません。いろいろと言いたい事があるのですが、それはあとがきにて。
今回も相変わらずの駄作です。特に前回の予告を見て、期待してしまった方がいらっしゃったら、注意してください。

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2010-11-22 14:12:53 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:15002   閲覧ユーザー数:11917

霞視点

 

 袁術の部隊も数は多かったものの、兵士の質は大したもんではなかった。

 

「邪魔やぁぁぁぁぁ!!!」

 

 雑兵どもを騎馬隊で蹂躙していく。相手はすでにうちらの突撃に恐れをなしているようで、必死の形相で逃げていくだけやった。

 

 このまま、袁術の陣地を縦一文字に切り裂いて、潰走したところを、一気に叩き潰して終いや。けど、ふと寒気のようなものを感じたんはそんときやった。

 

 まるで肉食獣が獲物を狙っとる時のような、殺気の満ちた鋭い視線を感じたんや。その方向に視線を向けると、袁術軍の将軍の一人やろうか、孫の旗が見えた。

 

 その陣頭に立っている桃色の髪をした女から凄まじい覇気が放たれていた。せやけど、こちらを攻める素振りは見えへんかった。ただ、近づいたら容赦なく殺す、それだけは感じるとる事が出来た。

 

 あそこは攻めたらあかんな。武人としてあの女と斬りおうてはみたいんやけど、今は兵士らを生かす事を優先させんとな。その一瞬の思考が、うちの動きを鈍くさせたみたいや。

 

 部隊の中腹に衝撃が走った。別の騎馬隊が突っ込んできたみたいや。騎馬隊の武器はその勢いにある。うちが考え込んで部隊の動きを緩めてしまったときを狙ったんやろう。

 

 舌打ちをして、部隊を一旦纏めようと振り向いたとき、首筋を狙った鋭い斬撃、うちの武人としての経験のおかげで、何とかその一撃を、得物で受け止めることができたんやけど。

 

「んなぁ!!?」

 

 その衝撃を受け切ることが出来ずに、うちは馬上から吹き飛ばされてしもうた。うちが力負けするなんてありえへん。

 

 すぐに受け身を取って、反撃態勢をとるも、相手は追撃をせえへんかった。黒髪を腰まで伸ばし、大剣を肩で背負っとるこの女は、一目で腕が立つと分かった。

 

「姉者、後は任せて平気だな?」

 

「任せろ!華琳様のためにすぐに片をつけてやる!」

 

 水色の髪、こいつの妹みたいやけど、それを聞いて頷くと、すぐにうちの部隊を包囲させるように指示を出し始めよった。指揮官であるうちがおらんから、そんなにもたんやろうな。

 

「張遼、華琳様の命で、この魏武の大剣、夏侯惇が相手になる!」

 

 夏侯惇、あぁ、曹操の陣営にいる猪武者の名前やったな。かなりの手だれやって聞いてるわ。

 

「あんたを倒さんと先へ進めんってことかいな?」

 

「そうだ!」

 

「なら、惇ちゃん、この神速の張遼の力、見せたるわ!」

 

「来い!」

 

 惇ちゃんは馬から颯爽と飛び降りると、凄まじい勢いで上段切りを放ってきよった。えぇ、太刀筋やわぁ、惚れ惚れするでぇ。

 

 体内で闘気がグツグツと湧き上がるのを感じ、思わず舌舐めずりをしてしもうた。

 

「甘いで!」

 

 飛龍偃月刀の刃でそれを弾き返して、そのまま胴薙ぎを放つ。惇ちゃんは、それを後ろに跳躍することで簡単に避けてしもうた。

 

 さぁ、惇ちゃん、戦いはこれからやでぇ。もっとうちの血を熱ぅさせてや。

 

秋蘭視点

 

 

 逸る姉者を抑えつつ、私たちは機を窺った。相手は西涼が誇る神速の張遼が率いる騎馬隊、真っ向勝負を挑もうものなら、こちらも被害が甚大になりかねない。騎馬隊が勢いに乗っている時に攻め込むのは、得策ではない。

 

 張遼の指揮をじっと見つめていると、不意に張遼の視線が別の方向に行き、一瞬だけ部隊の動きが緩慢になった。

 

「秋蘭!」

 

「分かっている、姉者、行っていいぞ」

 

「よし!」

 

 桂花の声に頷き、姉者に声をかけた。そして、同時に私も部隊を動かして、張遼の部隊の中央に突撃を仕掛けた。上手く相手の動きを乱すことが出来た。

 

 張遼は部隊を纏め上げようとするが、そこに姉者の鋭い一閃が放たれ、受け切ることが出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 

「姉者、後は任せて平気だな?」

 

「任せろ!華琳様のためにすぐに片をつけてやる!」

 

 姉者に張遼を任せると、私は桂花と協力して張遼の部隊の包囲にかかった。いかに屈強な西涼の騎馬隊といえども、指揮官を失ってしまえば、私たちの敵ではない。勢いを与えないようにじっくり囲んでしまえば、すぐに片づけられるだろう。

 

 思った通り、張遼隊はすぐに捕虜にすることが出来た。下馬させ、武器を取り上げた兵士たちの監視を桂花に任せると、張遼と姉者の様子を見に行った。

 

 まだ勝負は決まっておらず、激しい打ち合いが続いていた。さすがは神速の張遼と謳われるほどの武人、姉者の繰り出す斬撃を紙一重で避け、反撃さえしていた。

 

 しかし、すでに何十合と打ち合っている。張遼は姉者と一騎打ちの前に、騎馬隊を率いて、袁紹と袁術の部隊、自分たちの何倍もの兵力を有している部隊、を打ち破ったのだ。そこでかなりの気力を消費したはずだ。

 

 徐々に姉者が張遼を押し始めた。張遼の動きにも先ほどまでのキレがなく、姉者の攻撃を防ぐだけで精一杯のようだ。姉者の強烈な一撃を、何とか受け止めたものの、勢いを殺すことが出来ず、身体ごと後方へ吹き飛ばされてしまった。

 

 何とか起き上がれることは出来たものの、足にきているようで、膝はガクガク震え、得物の石突を地面に突き刺し、そこで何とか身体を支えているような状態だった。

 

「ハァ……ハァ……。うちはこんなところで負けるわけにはいかへんねん。月を守れるんは、うちらだけやねん。だから負けへん。絶対に……絶対にやぁぁぁぁ!!!」

 

「!?」

 

 張遼の動きが息を吹き返したようにキレが戻り、姉者の身体が吹き飛ぶほどの一撃を繰り出した。しかし、一体どんな想いがやつをここまで動かしているのかは知らんが、想いなら姉者も決して引けをとらない。

 

「その意気やよし!しかし、私も華琳様のために負けるわけにはいかん!来い、張遼!貴様の想いごと、我が剣で一刀のもとに斬り捨ててくれる!!」

 

 姉者は得物の七星餓狼を両手でしっかり握りなおし、身体中から溢れんばかりに闘気を発した。姉者、我らの想いを見せてやれ。華琳様の覇道を支える我らの想いを。

 

霞視点

 

「ハァ……ハァ……」

 

 何合ぐらい打ちおうたやろうか、さすがに魏武の大剣と言われるだけはあるわ。まだずっと打ちおうてたいけど、そろそろうちの体力の方がもたんくなってきたな。

 

「どうした!?神速の張遼の武とはその程度か!?」

 

「はっ!これから本気出そうと思ってたとこや!」

 

「そうでなくては面白みがない!……はぁぁぁ!!」

 

 惇ちゃんの繰り出す袈裟切りを弾き返して、右脇を下から切り上げるように薙いだ。それを、身体を捻る事で避けられると、うちはそのまま身体を反転させて、同じ箇所に蹴りを放った。

 

「甘い!」

 

 蹴りを腕で防がれ、そのまま掴まれ、思い切り投げられてしもうた。あかんな、今のうちじゃ、そんなに力のこもった攻撃はできへんわ。

 

 空中で身体を反転させて地面に着地すると、惇ちゃんは一気に距離を詰めてきて、連続して斬りかかってきよった。うちに反撃の暇すら与えへんってことかいな。

 

「くっ!」

 

 横薙ぎの一閃を何とか受け止める事が出来たけど、威力を殺しきれずに、後方に吹き飛ばされてしもうた。立ち上がろうとしたんやけど、身体に思うように力が入らへん。

 

 得物を杖代わりに立ちあがったが、膝がガクガクいうて、このままの状態でいるんがやっとのことや。あかん、うち、もうダメかもしれへん。せやけど、武人としてこいつに斬られるんやったら……。

 

「月……」

 

 うち、何言うてるんやろ?ここで死んだら、誰が月を守るんや?誰があいつらから月を救ってやるんや?

 

「ハァ……ハァ……。うちはこんなところで負けるわけにはいかへんねん。月を守れるんは、うちらだけやねん。だから負けへん。絶対に……絶対にやぁぁぁぁ!!!」

 

 身体が軽ぅなったような気がしたわ。さっきまでの疲れが嘘のように感じられる。大丈夫や。うちは負けへん。恋が言うてたやないの、霞は強いって。恋が言うてくれたんや、うちは強い。

 

 だから、こんな所で負けん!

 

「その意気やよし!しかし、私も華琳様のために負けるわけにはいかん!来い、張遼!貴様の想いごと、我が剣で一刀のもとに斬り捨ててくれる!!」

 

 惇ちゃんから発せられる闘気、まだこいつこんな力隠してたんかいな。でも、関係ないわ。こいつこれで終いにする気やな。ええやないの、うちの最っ高の一撃で、あんたの想いを貫いたる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 刃と刃が交差した。その瞬間、目の前が光ったような気がしたわ。あぁ、うちの飛龍偃月刀が砕かれてしもうたんかいな。刃の破片が太陽の光を反射して、不覚にも綺麗やなぁ、と思ってしもうた。

 

 月、ごめんなぁ。うち、月を守れそうにないわ。惇ちゃんの放った斬撃は、そのままうちの身体に吸い込まれるように振り下ろされた。

 

秋蘭視点

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 二人の距離が一気になくなった。これで決着だ、と思った時だった。視界の隅に何かが映った。私はこれまでに何万本と放ってきたもの、確認するまでもなく、それが矢だとわかった。

 

 しかし、瞬時に感じた違和感。

 

 どうしてそんなところに矢が飛んでいるのか?

 

 どこからそれは放たれたのか?

 

 張遼隊は桂花が監視しているため、矢など放てるはずがない。違う部隊の放った流れ矢にしては、その威力は一切死んでいなかった。まるで、戦っている二人を狙っているようだった。

 

「姉者ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 矢は姉者に向かって一直線に飛んだ。

 

「ぐぅ!!あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 矢は姉者の目に突き立った。その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。すぐに姉者のもとに駆け寄った。

 

「姉者ぁ!!姉者ぁ!!」

 

 嘘だ!誰か嘘だと言ってくれ!姉者がこんなところで……。

 

「くっ……ぬぁぁぁぁぁ!!!」

 

 姉者は矢を掴むと一気に引き抜いた。そこには姉者の貫かれた眼球が付いていた。そして、姉者はふらつきながらも立ち上がると、その矢を高く掲げた。

 

「天よ!地よ!そして、全ての兵たちよ!よく聞けぇい!我が精は父から、我が血は母からいただいたもの!そしてこの五体と魂、今は全て華琳様のもの!断り無く捨てるわけにも、失うわけにもいかぬ!我が左の眼……永久に我と共にあり!……ん、んぐ……ぐっ……がは……っ!」

 

 姉者は自分の眼球を一気に飲み込んでしまった。

 

「姉者!大丈夫か、姉者!」

 

「……大事ない。取り乱すな、秋蘭。私がこうして立つ限り、華琳様への想いは砕かれはしない」

 

 あぁ、姉者、やはり姉者は私の誇りだ。

 

「姉者……!せめて、これをその目に……」

 

 私は姉者の事を思って、自らの服の袖を破り、それを眼帯代わりに渡した。

 

「あーあ、負けてもうた」

 

 姉者の顔に布を巻き付けると、張遼はそう言いながら、どっかと地面に胡坐を掻いた。その前には砕かれた武器が横たわっていた。

 

 武将にとって武器とは、命の次に大事なもの。それを破壊された時点で、張遼は己の敗北を認めたのだろう。

 

「まぁ、ええわ。生きているうちにこんな勝負が出来るなんて思いもせんかったで。もう悔いはないわ……さ、殺しぃ」

 

「何を馬鹿なことを……。貴様にはこれから、華琳様に会ってもらわねばならんのだ」

 

「曹操に?何でぇよ?」

 

「華琳様が貴様の事を欲しているのだ。故に私は貴様と戦い、こうして倒してみせた。……ここで死なれては私が困る」

 

「ええよ。会うだけ会ったるわ。うちは勝負に負けたんや。選択肢は残っとらんわ」

 

 そう言う張遼を縄で縛り、張遼隊と一緒に我が軍の監視下に置いた。戦が終わったら、華琳様に会ってもらうことになる。

 

 まだ戦える、と叫ぶ姉者を無理やり治療のために後方に下げた。強がってはいるが、あれほどの傷を受けたのだ。しばらくは安静にしてもらわねば。

 

 その後、私はすぐに矢を放った者を捜索させたが、結局誰が放ったのかは分からなかった。流れ矢だったのであろうか?しかし、私の胸にはざわりとした嫌な予感だけが残った。

 

華琳視点

 

 張遼隊に秋蘭の部隊が突っ込んだのが見えた。どうやら上手く足止め出来たようね。呂布隊はどうやら劉備と公孫賛の部隊が迎撃し、関羽、張飛、趙雲ら三人がかりでも足止めすら出来なかったが、劉備の陣営にいる諸葛亮という軍師が、一瞬の隙を見逃さず、兵を巧みに展開し、呂布隊を包囲した。

 

 呂布自身は己の武力を駆使して囲みを突破し、どこかに落ち延びたそうだが、とりあえず、虎牢関を突破する事が出来た。

 

 劉備という小娘、汜水関の時もそうだったが、なかなか強かのようね。フフフ……将来、どんな風に化けるか楽しみね。

 

 連合軍の主体だった、麗羽と袁術の部隊はかなりの被害を被ったようで、麗羽の代わりに私が実際的な指揮をすることになった。兵は神速を尊ぶ、私たちはすぐに洛陽に迫った。

 

 しかし、私たちが洛陽に接近しても、董卓軍が現れることはなく、城壁の前に布陣しても、城内はまるで水を打ったように静かだった。

 

「華琳様、城内に兵はおらず、すでに董卓は洛陽から脱したようです」

 

「そう……すぐに追撃部隊を編成なさい」

 

 桂花が近づいてきて、私にそう告げた。しかし、その顔はどこか動揺したように青ざめていた。私の命令を聞いてもすぐに動こうとしなかった。私の命令は何よりも優先する子にしては、動き出すのが遅すぎる。

 

「それよりも華琳様、御覧になってもらいたいものがあります」

 

 桂花の言葉に従って、洛陽の街並みを見て、私は言葉を失ってしまった。都は以前とは比べられないほど整理されており、誰が見ても栄えているのが分かった。

 

 やはり麗羽の発した檄文の内容は偽りだったようだ。予想出来たことではあったけど、まさかここまで都を発展させるとはね。それなりの名君だったということね。

 

 しかしもう遅い。都に兵を向けた以上、董卓には死んでもらうしかない。

 

「華琳様、追撃隊の編成ですが、指揮は秋蘭でよろしいですか?」

 

「いえ、私自ら行くわ。董卓という人物をこの目で見てみたい」

 

「御意」

 

「各諸侯には無暗に民を脅かす行為を禁じる旨を伝えなさい。破った者はどんな者であろうと、厳罰に処すると」

 

「はっ。華琳様、お気をつけて」

 

 呂布と張遼という二人の豪傑を従えるだけでなく、ここまで都を発展させたという実績は称賛に値するわ。あなたがどれ程の器なのか見極めさせてもらうわよ。

 

焔耶視点

 

 私は一刀と二人で洛陽までの道のりを馬でひたすら駆けてきた。一刀も旅を始めた頃は、馬には全く乗る事が出来なかったが、旅の中で練習を積んで、今では見事とは言えないが、私に付いてくることくらいには乗りこなす事が出来ている。

 

 今回は桔梗様と紫苑様はいなかった。劉璋の手の者が、桔梗様たちの動向を監視している可能性があるということで、私たち二人だけで月様の救出に向かった。

 

 桔梗様は人目を憚らず劉璋様の批判をしていて、成都の官僚たちから目の敵にされている。軍功のおかげで、今の所は事なきを得ているが、少しでも失態を晒してしまったら、一斉攻撃をされかねない。

 

「一刀、馬を飛ばし過ぎるな!逸る気持ちは分かるが、馬を潰してしまったら、それだけ救出に行くのが遅くなるってことだぞ!」

 

「分かってるけど……くっ!」

 

 一刀は悔しそうに唇を噛み締めた。一刀の気持ちは痛いほど分かる。私だって少しでも早く月様の安否を確かめたい。月様だけでなく、詠様や霞様の安否も。

 

 私たちが長安と洛陽の間付近に差し掛かった時だった。前から馬車がこちらに向かって駆けてきた。何の変哲もない馬車だった、御者が見るからに賊であるということを除けば。

 

「一刀、あれ……どうする?」

 

「洛陽の方から来たってことは、戦について何か知っているかもしれない。それに、あの馬車、もしかしたら、中に囚われた人がいるかもしれない」

 

「わかった」

 

 私たちは馬車の道を塞ぐようにして、馬から降りた。

 

「おい!邪魔だ!そこをどけ!!」

 

 馬車の御者は手を振りながら叫んだ。近くで見てみると、いやに焦っているように見える。それに他の仲間がいないのも怪しい。誰かに追われているのか?しかし、戦が行われているこんな場所で、誰が賊を追っていると言うのだろうか。

 

「止まれぇ!!止まらぬ場合、馬車ごと粉砕するぞ!」

 

 鈍砕骨を掲げて攻撃態勢をとると、御者の男は舌打ちをしながらも、馬車をゆっくりと止めた。しかし、すぐに馬から降りると、剣を抜いて、こちらに近づいてきた。

 

「何だ、おめぇらは!?死にたくなければ、さっさとどけ!!」

 

「その馬車には何が積んである!?」

 

「うるせぇ!!こっちはそれどころじゃねぇんだよ!!」

 

 おかしい。こいつは何に怯えているんだ?しかも、さっきから馬車の方をちらちらと見ているし、あれには一体何が積まれているんだ?

 

「どうしたのじゃ?急がなければ追手が来るぞ」

 

 すると、馬車の中から一人の老人が現れた。

 

「こ、これは張譲様、申し訳ありやせん。こいつらが邪魔をして……」

 

 張譲だと?張譲といえば、長い間、宮廷内を牛耳っていた、十常侍筆頭の名前ではないか。しかし、十常侍は月様が洛陽入りをなさってから、全て誅殺されたはずでは。

 

「愚か者が!儂の名を無暗に出すなと言ったじゃろ!」

 

「す、すいやせん」

 

 どうして、その張譲がこんな賊みたいな奴と一緒に、ここにいるんだ?

 

「……董卓さんはどうした?」

 

 後ろから一刀の声が聞こえた。そこで、私も気付いてしまった。どうして、反董卓連合が結成されたのか。どうして、死んだはずの張譲がここにいるのか。張譲はニヤリと笑った。背筋が凍るような邪悪な笑みだった。

 

 こいつが諸悪の根源、裏で糸を操っていたのだ。

 

詠視点

 

「……月、大丈夫?」

 

「私は大丈夫だよ、詠ちゃん」

 

 月はボクに微笑んで見せた。でも、その微笑みはとても儚げで、無理して笑っている事がすぐにわかった。どうして、こんなことになってしまったのよ。

 

 洛陽から使者が来て、月に洛陽に来るように、十常侍の張譲から、要請があるということで、ボクたちはすぐに洛陽に入った。洛陽は噂通り、とても人が住めるような状態ではなく、ボクたちは、十常侍らを粛清するよう行動を始めた。

 

 何とかあいつらを全員誅殺することが出来た。だけど、そこで油断しちゃったんだと思う。都を栄えさせるために、業務に追われる日々の忙しさのせいで、少しだけ出来た意識の隙間、そこに付け込まれた。

 

「フッ……健気じゃのう。しばらくの命じゃというのに」

 

 恨みを込めた瞳で、目の前でニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるこいつを睨んだ。ボクと目が合うと、さらに表情を醜く歪めた。殺したいほど憎いよ、こいつ、張譲は。

 

 張譲は生きていたのだ。長い間、都に巣食っていた狸爺のことを、ボクは見誤っていたようだ。自分にそっくりな影武者を使って、ボクたちの手から逃れていたのだ。そして、密かに袁紹と接触して、月が都で好き放題して、皇帝陛下を蔑にしていると唆して、見事に反董卓連合なんてものを結成されてしまった。

 

 結成された時には、まだ張譲の仕業だなんて思ってもいなかった。ボクたちは霞や恋に洛陽から兵を率いさせて、連合軍を迎撃させた。しかし、張譲は将兵の少なくなった頃合いを見計らって、再びボクたちの目の前に現れたのだ。

 

 武力を有していないボクたちは抵抗すら出来なかった。張譲の狙いは、袁紹に都を陥落させて、ボク達を処刑して、再び宮廷の権力を握ることだった。袁紹だったら与しやすいって思ったんだろう。

 

 しかし、誤算だったのが、虎牢関における、霞と恋の奮戦だった。主力であった袁紹と袁術の部隊を蹴散らした結果、連合は曹操が仕切ることになった。

 

 曹操の噂は都まで届いていた。おそらく、張譲も曹操を籠絡することが不可能だと悟ったようで、虎牢関が突破されると、ボクたちを連れて都を脱した。おそらく、騒動が収まった後にでも、月の首を手土産に曹操に恩を売ろうっていう魂胆でしょうね。

 

 洛陽からどれくらい離れたときだろうか、不意に馬車を操っている男が騒ぎ出し、馬車を止めてしまった。どうやら、誰かが馬車の行く手を邪魔しているようだ。

 

「ちっ……誰じゃ、この大事な時に」

 

 張譲は悪態をつきながら、馬車を降りていった。今なら逃げる好機かもしれない。でも、見つかったら、ボクたちの足では、張譲ならまだしも、あの御者の賊には追い付かれるだろう。

 

 少し外の様子を窺おうと思っていた時だった、張譲の怒鳴り声、しばらくしてから、あの御者だろうか、男の悲鳴があがった。

 

 そして、馬車の幌が急に開かれて、外の光が中に入ってきた。眩しさで視界が悪くなったが、男の影が見えた。誰だかは分からなかったが、それは天使なのだと思った。

 

一刀視点

 

「どうしたのじゃ?急がなければ追手が来るぞ」

 

「こ、これは張譲様、申し訳ありやせん。こいつらが邪魔をして……」

 

「愚か者が!儂の名を無暗に出すなと言ったじゃろ!」

 

「す、すいやせん」

 

 俺たちが止めた馬車の中から張譲が現れた。その瞬間、俺の頭の中で、バラバラだったピースが全て繋がった。

 

 善政が布かれていたのにも関わらず結成された反董卓連合、袁紹が発した檄文の根拠、そして、処刑されたはずの張譲がここにいるという事実、そこから導き出される答えは、こいつが裏で糸を操っていた張本人だということ。

 

「……董卓さんはどうした?」

 

 俺の声に張譲はニヤリと笑みを浮かべた。吐き気がするような笑みだった。しかし、間違いない、俺の考えは正しいのだと、確信を得た。

 

「か、一刀……まさか?」

 

 焔耶もそれに気付いたのだろう、軽く動揺しているようだ。

 

「ふん、気付かれたようじゃな。おい!構わん、殺せぇ!」

 

 その声に反応して、馬車の御者だった男が俺たちに向かって突っ込んできた。

 

「一刀、下がっていろ!」

 

「焔耶、張譲は殺しちゃだめだ」

 

「分かっている!」

 

 焔耶は鈍砕骨を構えて、御者の身体を剣ごと吹き飛ばした。骨の砕ける嫌な音をさせながら、そいつは地面に落下した。そして、焔耶は地を蹴って、張譲に近づくと、張譲の鳩尾を突き、一瞬で気絶させてしまった。

 

「焔耶、怪我はないか?」

 

「ふん、こんな連中を相手に怪我などするものか」

 

「そっか、良かった」

 

「……ッ!そ、そんなことよりも馬車の中を検めるぞ」

 

 その言葉に頷いて、俺はゆっくり馬車に近づいて、幌を開いた。すると、中には寄り添うようにしている、二人の少女、董卓さんと賈駆さんの姿があった。

 

「董卓さん!賈駆さん!無事でしたか!」

 

 最初は俺の姿を確認出来なかったのだろう、警戒していたようだけど、俺の声に気付いて、歓喜の表情を見せた。

 

「北郷!?」

 

「北郷さん!」

 

 駆け寄って来る董卓さんの身体を抱きしめた。どうやら怪我はしていないみたいだけど、怖かったのだろう、身体が震えていた。

 

「ちょっ!あんた、なに月を抱きしめているのよ!?」

 

 賈駆さんは悪態をついているものの、急に安心したせいで身体の力が抜けてしまったのだろう、その場にへたり込んでしまった。

 

 とりあえず、幌の中にあったボロ布で二人の身体を包んであげて、馬車から降ろし、焔耶にも二人が無事であることを伝えた。そして、二人から事の真相を聞いた。虎牢関が突破され、董卓軍の将の生死は定かではない事も。

 

「とにかく、一度、安全な所まで行きましょう。それから、桔梗さん達にも……」

 

「一刀!あれを見ろ!」

 

 焔耶の声に視線を上げると、洛陽の方角から砂塵が近づいてくるのが見えた。旗には曹と書かれていた。確認するまでもない。近づいてくるのは、乱世の奸雄、覇王、曹孟徳だ。

 

華琳視点

 

「華琳様、斥候より報告です。この先の道に馬車が止まっているようです。おそらくは董卓かと」

 

「全軍、進路をそちらに変更するわよ」

 

「御意」

 

 どうやら捉えたみたいね。でも、秋蘭の言葉に違和感を覚えた。馬車が止まっている?逃げているはずなのに、どうしてそんなところで止まっているのかしら?

 

 そんなことを考えている内に、私の視界に馬車が小さく見えた。その馬車は確かに止まっていた。そして、その周りには数人の人影が見える。

 

「秋蘭、念のため、いつでも攻撃出来る準備をしておきなさい」

 

「はっ」

 

 私たちが近づいているのはとっくに分かっているはずなのに、馬車の周りにいる人間は逃げようとはしなかった。そして、馬車から少し離れたところで兵を止めて、私と秋蘭が馬から降りた。

 

 馬車の周囲には、男が一人、女が一人、それから布で覆われた少女が二人、そして、倒れている老人と、すでに死んでいるのであろう男が一人いた。

 

 私が近づくと、二人の少女は男の後ろに隠れ、女性はかなりこちらを警戒するように睨んできた。

 

「我々は反董卓連合の者だ。この馬車の所有者は誰だ?」

 

 布が邪魔で表情までは確認できないが、秋蘭の声に、二人の少女はひどく怯えているようだった。

 

「失礼ですが、曹操様でいらっしゃいますか?」

 

 男がゆったりとした口調でそう尋ねてきた。

 

「ええ、そうよ」

 

「私は益州の太守、黄忠の部下、北郷一刀と申します。こちらに控えておりますのは、同じく益州の太守、厳顔の部下の魏延でございます」

 

 益州の者?確か、益州は反董卓連合には不参加を表明していたはずよね?それがどうしてこんなところにいるのかしら?

 

「北郷とやら、私の質問に答えてくれ。この馬車は誰のものだ?そして、そこに横たわっている老人と、あそこで死んでいるものは何だ?」

 

「はっ、失礼致しました。御存じの通り、益州は反董卓連合には参加しておりません。というのも、益州は最近賊が頻繁に出現していまして、その制圧に追われているからです。今も賊を追ってこんな所まで来てしまったのですが、その道中、怪しげな馬車を発見しましたので、中身を検めようとした所、武器を取りだして抵抗されましたので、あの者は殺しました。この老人も仲間だったので、事情を聞くためにとりあえず気絶させました」

 

 私たちの顔をしっかり見据えながらはっきりとした口調で、男は説明した。賊の追撃でこんな所までね……。

 

「我々は董卓を追ってここまで来たのだが……」

 

「秋蘭、いいわ。北郷、董卓はどこかしら?」

 

 あなたの話は本当のようでいて、どこか怪しいわ。そして、あなたの後ろにいる少女、彼女たちは誰なのかしら?さぁ、私の質問にどう答えるの?

 

一刀視点

 

「董卓さん、賈駆さん、これから俺が何を言っても黙っていてもらえますか?」

 

「一刀!早く逃げなくては!」

 

「いや、ここで逃げたら、間違いなく追撃される。向こうの董卓さんと賈駆さんを乗せた馬では、おそらく逃げられないよ」

 

 俺の声に焔耶はさらに焦ったような、何か言おうとするか、それを手で静止した。

 

「董卓さん、俺を信じてください。必ず、救ってみせます」

 

「……分かりました」

 

「ちょっと、月!」

 

「詠ちゃん、北郷さんを信じよう。北郷さん達が来なかったら、私たちはどうせ殺されていたんだから……」

 

 賈駆さんも、董卓さんの言葉にゆっくりと頷いてくれた。さぁ、これからが本番だ。絶対に二人を救いだしてみせる。

 

「我々は反董卓連合の者だ。この馬車の所有者は誰だ?」

 

 俺たちの前に現れたのは、水色の髪の女性と、金髪の少女だった。水色の髪の女性は静かだが、威厳のこもった声で俺たちに尋ねた。

 

「失礼ですが、曹操様でいらっしゃいますか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 俺の問いかけに答えたのは、金髪の少女だった。この人があの曹操、乱世の奸雄にして、桔梗さんにも一目置かれている人物。

 

「私は益州の太守、黄忠の部下、北郷一刀と申します。こちらに控えておりますのは、同じく益州の太守、厳顔の部下の魏延でございます」

 

 とりあえず、俺は自分たちの素性は明らかにした。下手な嘘をつけば、簡単に見破られるだろう。剣で対峙している時と一緒だ、虚実を織り交ぜて、相手を翻弄することが肝要だ。

 

「北郷とやら、私の質問に答えてくれ。この馬車は誰のものだ?そして、そこに横たわっている老人と、あそこで死んでいるものは何だ?」

 

「はっ、失礼致しました。御存じの通り、益州は反董卓連合には参加しておりません。というのも、益州は最近賊が頻繁に出現していまして、その制圧に追われているからです。今も賊を追ってこんな所まで来てしまったのですが、その道中、怪しげな馬車を発見しましたので、中身を検めようとした所、武器を取りだして抵抗されましたので、あの者は殺しました。この老人も仲間だったので、事情を聞くためにとりあえず気絶させました」

 

 まずは小手調べだ。もちろん、こんなもので出し抜けるとは思えないけれど、相手の出方を窺うには、ちょうど良いだろう。黄巾の反乱直後である以上、賊の出現は不自然ではないし、こいつらに関して言えば、嘘ではない。

 

「我々は董卓を追ってここまで来たのだが……」

 

「秋蘭、いいわ。北郷、董卓はどこかしら?」

 

 くっ!これは予想以上だな。俺の答えには触れずに、董卓さんがどこにいるのか聞いてきたということは、御者の賊はまだしも、張譲が董卓でない事まで見抜いているのか。

 

「曹操様は董卓を追撃中なのですよね?もしかしたら、この老人が董卓の所在を知っているかも……」

 

「北郷、とぼけないほうが身のためよ。私が気付いていないとでも思ってるのかしら?」

 

 曹操さんからは禍々しい覇気が放たれた。馬騰さんにも匹敵するほどの器。俺の後ろに隠れるようにしている董卓さん達の身体がビクッと震えた。ダメだ、曹操さんはすでに気付いている。

 

「都は御覧になりましたよね?董卓さんは檄文にあったような人ではありません。それでも、曹操様は董卓さんを殺すんですか?」

 

「それが連合の存在意義である以上、私は董卓を殺すわ。例え、董卓が善政を布いていたとしてもね」

 

「そこに正義はあるんですか?」

 

「正義?今回の戦に最初から正義なんて存在しないわ。私の己の信念を貫くだけよ。覇道の実現のためにね」

 

 曹操さんの目には確固たる意志があった。都に兵を向けたのだ、今さら檄文の内容が嘘でした、なんて言えるはずもない。董卓さんを悪者にして、処刑するしか他に道はないのだろう。

 

 乱世である以上、他人を蹴落とすのは悪い事とは言わない。だけど、俺は董卓さんを見殺しにするわけにはいかない。

 

焔耶視点

 

「秋蘭、いいわ。北郷、董卓はどこかしら?」

 

 私には何も言わなかったが、一刀は上手く誤魔化そうとしたのだろう。しかし、曹操はそれをすでに見抜いている。相手は曹操と、この水色の女だけ、何とか私が時間を稼げば……。

 

「曹操様は董卓を追撃中なのですよね?もしかしたら、この老人が董卓の所在を知っているかも……」

 

「北郷、とぼけないほうが身のためよ。私が気付いていないとでも思ってるのかしら?」

 

 曹操の身体から桁違いの覇気が放たれた。私は自分が時間稼ぎが出来るなんて、考えが甘かった。これでは身動きすら取れない。

 

「都は御覧になりましたよね?董卓さんは檄文にあったような人ではありません。それでも、曹操様は董卓さんを殺すんですか?」

 

「それが連合の存在意義である以上、私は董卓を殺すわ。例え、董卓が善政を布いていたとしてもね」

 

「そこに正義はあるんですか?」

 

「正義?今回の戦に最初から正義なんて存在しないわ。私の己の信念を貫くだけよ。覇道の実現のためにね」

 

 翡翠様の覇気を受けとめた一刀はさすがだった。この覇気を目の前にしても、曹操と会話を続けていた。

 

 だが、曹操の意志は強固なものだった。月様が名君であったという事実を知って、その上で殺すつもりだ。さすがは、桔梗様から評価されている人物だけある。その覚悟は並大抵のものではない。

 

「……分かりました。董卓さんは私の恩人でもあるのです。せめて、私の手で始末をつけさせてもらえませんか?」

 

 な!?一刀、お前何を言っているんだ!?本気で月様を殺すつもりなのか!?

 

 一刀はゆっくりと腰に佩いた剣を抜いた。桔梗様が出発前に与えた、益州の腕利きの職人に作らせた、一刀の世界の刀という武器。まるで、宝剣のように美しいものだった。

 

「一刀!ダメだ!」

 

 何とかそれだけは声に出せた。しかし、曹操の覇気の前に、身体だけは動かすことは出来なかった。そして、私の声は一刀には届かなかった。

 

 刀は太陽の光を反射させながら、振り抜かれ、次の瞬間には首が地面に転がっていた。首を無くした胴体からは噴水のように血が噴き出し、一刀の服を朱に染めた。

 

 まるで、一刀の心を闇が浸食していくように、白くて綺麗な一刀の服は血に穢されたのだ。

 

あとがき

 

十八話の投稿でした。

 

まずはいろいろとすいませんでした。

 

前回の予告でかなりハードルが上がってしまい、上手く書こうとしたのですが、

 

やはり無理でしたね。文才の欠片もないです。

 

そして、地味にリアルが忙しくなってきました。

 

しかも今月末が鬼のようにいそがしくなりそうです。

 

そのため、今回はここで区切らせていただきます。

 

予告の一番大事な部分を今回で明かせずに申し訳ありません。

 

次回の投稿も遅くなると思います。

 

はい、今回は春蘭と霞のバトルパート。

 

戦闘シーンが嫌いになりました。ちなみにこれでも何回も書きなおしたのです。

 

続いて、華琳と一刀の対峙。

 

いろいろと不満が残るでしょうが、次回もう少し詳しく書く予定です。

 

自らの意志で刀を振り下ろした一刀。

 

月の運命はどうなるのでしょう?

 

次回は反董卓連合の集結です。

 

原作にはない展開に期待は一切しないでください。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。


 
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