◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~
24:【董卓陣営】 既知との遭遇 其の参
「本当に、よかったのかしら」
「なにがですか?」
馬上で揺られながら、賈駆がひとりごちる。小さい呟きを耳にした鳳灯が、その言葉を聞き返した。
「内政に携わる人間を、こうも簡単に外に出すことよ。
鳳灯、あなた筆頭内政官なんでしょう?
公孫瓉が州牧になって忙しいはずなのに、こんなことをしていていいの?」
「確かに。公孫瓉さまの治める地域が格段に大きくなりますから、やるべきこともかなり多くなるでしょうね」
「……それだけ?」
「はい」
なんでもないことのように、鳳灯はさらりといってのける。
そんな彼女を見て、賈駆は頭を抱えている。自分の持つ常識と必死に戦っているかのように。
「あまり気にしないでください。付いて行きたいと思ったのは私ですし、公孫瓉さまも許してくださいました。なにも、河東に行きっ放しというわけじゃないんですから」
「確かにそうなのよ。そうなんだけど、気持ちとしてこう、なんだか納得いかないというか」
気持ちの上で、なにか消化不良を起こしているような気持ち悪さ。自分たちにばかり都合のいい出来事と、それによってこれまで良く流れていた幽州の治世に影響が出るのではという懸念、そのふたつが彼女の中でせめぎ合う。そんなところだろうか。
なにやら葛藤している賈駆の姿を見て、鳳灯はついつい笑みを浮かべてしまう。
鳳灯の知る"詠さん"とは、一度こうと決め割り切ったのならばすべて切り捨てることが出来る人物だった。物事の理と利を情、それらを把握した上で優先順位をつけることが出来る。もっともその優先順位も、董卓、いやさ親友である"月"にどう影響を及ぼすかが判断基準になっている。それ以外に関しては、情が勝ち、決めきれない事柄も多々あるのだろう。
「大丈夫ですよ。これまでやってきたことですし、理解すれば誰でも出来るようなことです。
内政官の皆さんに不安は持っていません。
それに、いざとなったら一刀さんに頼るようにいってありますから」
「……それって、あの、酒家の男?」
「はい」
「一地方の筆頭内政官の、後を頼む人間が料理人?」
「そうですよ?」
賈駆は、彼女がなにをいっているのか理解できなかった。
それもそうだろう。一地方の政治を左右するであろう人間が、いざとなったら頼れといい含んだ人物。それがただの料理人だというのだから。
「えーと、つまりあの男は、貴女の考えることと同じ水準の頭を持っているというの?」
「少なくとも私はそう思ってます」
鳳灯が幽州で立ててきた数々の治世案。それらの大元は、以前にいた世界で一刀が提案したものだ。
展開し均していったのは鳳灯や諸葛亮などの手によるとはいえ、そもそも彼がいなければ発想さえしなかったであろうものである。
こちらの世界の一刀も、同一人物であるならば、同じ程度の頭脳を持ち発想が出来るはず。庶民の目線での生活を経験している分だけ、彼の世界の一刀よりも取っ掛かりとなる視野が広いという点もある。そんな諸々の考えから、鳳灯は一刀に対して、出来る限り知識をと知恵を治世に貸してもらえないかとお願いをしてあった。状況に応じて、新しい策を提示することも出来るに違いない、と、彼女は考えている。
もちろん、賈駆がそんな内情を知る由も無い。彼女からしてみれば、北郷一刀という男はただの料理人でしかなかったのだから。
料理人としてならば、一流だろうということに異議を挟もうとは彼女も思わない。
曹操らと同様に、賈駆や張遼もまた彼の酒家へと連れられ。やはり同様に、滞在中その料理にハマり込んでいた。
賈駆は、董卓のためにお土産として日持ちするものを用意してもらい。張遼は張遼で、一刀秘蔵の日本酒を分けてもらっていた。ただでさえ貯蔵の少ない酒だったために、かなり吹っかけられたが張遼はまったく後悔していなかった。ホクホク顔である。
話を、ふたりの会話に戻す。
「遼西の治世は軌道に乗っていますし、そのままとはいかないでしょうが、幽州牧としての仕事にも応用が利くはずです。私程度が不在にしていたところで、問題などありませんよ」
「その割には、公孫瓉の顔が物凄く哀しそうだったけど」
確かにそうだった。
去り際に見せた公孫瓉らの顔を、鳳灯は思い浮かべる。
鳳灯は、公孫瓉の下を離れたというわけではない。名目上は「新しい治世案に対する相談役」のような立ち位置で、意見を求められ出向する、という形になっている。やることをやったら幽州に帰ることになっているのだ。もちろん、彼女にしてもいずれ帰るつもりでいる。
とはいえ、幽州を離れるのはそれなりに長い期間に及ぶだろう。それを考えれば、これまで内政の屋台骨として働いていた人間が一時的とはいえ抜けるということに、新しい幽州牧が不安を覚えることは当然ともいえる。
公孫瓉だけではない。その姉妹や従姉妹ら、他の武官文官らからもあれこれ声をかけられた。表向きでは笑って送り出してはくれた。だがその実、やはり不安や寂しさも感じていたのだろう。申し訳ないという気持ち半分、そこまで良く思ってくれているという嬉しさが半分。それぞれが鳳灯の中に沸き起こる。
寂しさはともかくとして、不安に関しては、感じることはないと鳳灯は思っている。
いざというときのことを一刀に頼んだ、ということもあるが、彼女が手がけていた仕事の後を託した公孫続らの手腕を信じている点が大きい。
遼西の治世に係わり出してからというもの、鳳灯は文官らに対して自分の知識の伝達を積極的に行っていた。完全とはいわないまでも、おおよそのものは伝えられたと思っている。中でも、公孫続の呑み込みの良さ吸収の早さに、鳳灯は驚かされていた。知識はすでに十分。後は経験を積んでいくことで、その知識はより洗練されていくことだろう。
ちなみに。
卒業という意味と、また後を託したという意味も込めて。鳳灯は遼西を離れる間際に、公孫続に自分の帽子を手渡している。
手ずから被せてあげた鳳灯だったが、公孫続に思い切り泣かれ抱きつかれるといった一幕があった。かつて自分を送り出した水鏡先生もこんな気持ちだったのだろうか、などと、教え子を抱きとめながら感慨に耽ったりもした。
そういった理由で、かつては特徴のひとつでもあった帽子を鳳灯は被っていない。心機一転という意味で髪形も変えようかと試みたが、いまひとつピンと来ないため、まだツインテールのままになっている。そのせいか、髪をくるくるといじるクセがついたようだ。
文官組ふたりがあれこれやりあっている一方で。
武官組のふたり、張遼と華祐もまたいろいろと会話を交わしていた。
話のタネは、主に華雄と呂布のことである。
「しっかし、ウチの華雄はどんな反応するんやろな」
「そんなに私とそっくりなのか?」
張遼の言葉に、華祐が問いを返す。
本人なのだから似ていて当たり前なのだが。
そこはもちろん腹の中に仕舞いつつ。彼女は素知らぬ風を装ってみせる。
「そっくりもなにも瓜二つやで? まぁ、あんさんの方が落ち着いてるせいか、ウチの華雄の方が幼く見えるけどな」
「聞けば私の方が年上のようだしな。それは無理もあるまい」
「いやでも、それ以上に経験っちゅーか、驕りじゃない自信みたいなもんを感じるで?」
アイツも少しは見習って欲しいわ、と、張遼は華雄に対するあれこれをこぼしてみせる。
重ねていうが、華祐はその当人である。知らぬこととはいえ、"昔の自分"に対する評価を聞かされる華祐。こんな風に思われていたのだな、と、後から後から苦笑いが湧き出て止まらない。
だがさすがにこれ以上聞き続けるのは精神衛生上よろしくない。華祐は程よいところで、やんわりと張遼をなだめてみせる。
「なに、私も少し前までは猪と呼ばれた。私の短慮と勇み足で、部下をいたずらに失ったこともある。自分自身が死に掛けたこととてある。
そんな経験を、まぁ無いに越したことはないだろうが、そんな経験でも己の糧とし繰り返さないようにすれば。私程度の武ならばすぐに追いつく」
自分にも出来たのだ、華雄にも出来るだろう。そんな言葉を聞き、張遼は素直に感心してみせる。
「なんや、アイツと同じ顔でいわれると、説得力があるんか無いんか難しいなぁ。
そうかぁ。……ウチも、もっと伸びるんやろか」
遼西でもボコボコやったしなぁ。と、張遼は溜め息をつく。
彼女は、賈駆らと視察に出歩く一方で、なにかと関雨にまとわり付いていた。
個人として気に入ったというのもあるが、また関雨の武将としての素地に震えたという面もあった。幾度となく立会いを申し込み、その度に倒され続けた。
関雨を始め、呂扶にも、もちろん華祐にも挑んでいる。この三人相手にはことごとく全敗。辛うじて趙雲を相手に五分五分の勝負を繰り広げていたが、遼西で挑んだ戦歴は大きく負け越している。それなりに自分の武才に自信を持っていただけあって、この結果には張遼も溜め息が出るばかりだった。上には上がいるという現実を思い知らされたというところだろう。
天下無双というべき呂布が仲間にいて、その武を毎日のように目にし、相手にしている。
逆にいえば、呂布以外の強者を見ることがほとんどないということでもある。
彼女は、完敗といえるほどの負け方は、呂布が相手のとき以外にはしたことが無かった。
ゆえに、知らず「呂布は特別だ」という意識が彼女の中に生まれていたのかもしれない。
そこに現れた、自分よりも遥かに実力を持つ、呂布以外の武将。為す術なく倒され自分の身の程を知らされた。
同時に自分の中から湧き上がる、渇きが癒されたかのような快感にも似たもの。自らに対する不甲斐なさと、まだまだ高みに至っていないことを知った歓喜。そんなものに張遼は気付く。
歓喜、そして愉悦。初めて偃月刀を手にしたときのような気持ちが沸きあがる。気がつけば、張遼は本来の要件である遼西の視察をすべて賈駆に押し付け、ヒマさえあれば誰かと仕合をし続けた。勢い余って公孫軍の修練にまで混ざるほどの熱の入れ様である。
そんな彼女の姿を見て呆れ果てる賈駆であったが、公孫瓉や関雨に頭を下げ「相手をしてやってくれないか」と願い出ていたりする。
ともあれ。
張遼にとって今回の遼西視察は、武将としては個人的に得るものばかりの内容であった。だがそれでも、まだまだ足りないと感じている。
「あー、もっと遼西にいたかったわぁ」
などというボヤキが漏れ出るほどに。
純粋に武をぶつけ合うのが楽しい、ということもあったが、もちろん、もっと関雨と仲良くなりたかったといった点も少なからずある。
関雨の真名を呼びながら、馬の背に身を任せへたり込んでいる姿を見れば、どちらが本命なのかは一概にいえない。こと武才に関することならば、華祐であっても相手をすることは出来るのだから。
「なんだ、私では不足か?」
「いやいや、そんなことあらへん。華祐はん相手でも十分以上に高ぶるで?
でもなんちゅうか、好み? うん、好みの問題や」
「確かに、傍から見ていてもよく分かるほどの執心振りだったからな」
「そうやねん。愛紗はえぇよなぁ。
こう、女としてもなにか醸し出すもんがあるにも係わらず、あそこまで武の力があるとかもう、なんていうか」
愛紗とあんなことやこんなことを、などと妄言を漏らしつつ、自分の身体を抱きしめながら馬の上で器用に身をくねらせる張遼。
そんな彼女を眺めながら、"こちらの霞も"変わらんのだな、と、改めて思う華祐。どこまで本気なのかは分からないが、華祐としては害がないので放置する。
晴れ渡る空を眺めながら、華祐はこれからのことを思う。
以前の世界でも、黄巾の乱が終わる頃になって、彼女は董卓に呼び寄せられている。涼州から河東に移り、司州近辺を護衛する兵たちを鍛えていた。おそらくはもうすでに、華雄は河東に呼び寄せられていることだろう。
かつての自分と会う。
そのことに、彼女は少なからず緊張を覚えていた。
河東郡安邑。董卓が太守として居を構える地である。
遼西からの帰路、賈駆ら一行は特に問題もなく安邑の町へと到着した。
護衛のひとりが先触れに走ったこともあり、彼女らの帰還はすでに伝えられている。その報を受けた董卓は、自ら町の入り口まで出向いていた。
「詠ちゃん、霞さん、お帰りなさい」
無事に戻ってきた友の姿を見て、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。
ふわりと波打つ髪をなびかせながら、董卓はふたりの下に駆け寄り抱きついてみせる。
そんな姿を見て、懐かしいものを愛でるような表情を浮かべる華祐。
鳳灯もまた、記憶の中にある"月"と同じ笑顔を目にして、心が温かくなるのを覚えた。
同時に、歴史を変えると決めた意志を新たなものにする。
朝廷内の権力闘争と、反董卓連合。その争いが、心優しい董卓からこの笑顔を奪ったのだという事実。そしてこの笑顔が、河東を、そして洛陽の人々に平穏を与えていた源だったという実感。彼女は表舞台から消えるべきではない、と、鳳灯は思いを重ねていく。
「詠ちゃん、こちらの方は?」
首をかしげながらの董卓の問いに、賈駆は鳳灯を紹介する。その後改めて自分から自己紹介をする鳳灯。
「姓を鳳、名は灯、字は士元と申します。幽州の牧、公孫瓉さまの下で内政に携わっています。
私が賈駆さんに我侭をいいまして、同行させていただきました」
「我侭だなんて思っていないわ。むしろその申し出はありがたいくらいよ」
噂に聞く良政の素地を作った内政官、その当人が足を運んで協力してくれるというのだ。賈駆にとって、断る理由など少しもない。
「そんなわけで、幽州牧の公孫瓉に許可をもらった上で、鳳灯に同行してもらったの」
詳しいことは城に戻ってから報告するわ、と、賈駆は董卓を促す。護衛の兵たちに労いの言葉をかけ、一行はその場を解散することになった。
「え? でも、華雄さん?」
「そのあたりもちゃんと説明するから」
華祐の姿を見て驚いている親友の手を引きながら、賈駆は歩き出した。
引きずられるように、その後を追う董卓。
そんなふたりの後ろを笑いながら付いて行く張遼。
董卓陣営にとって転機となる事象がまだ起こっていない時期。
そこには、暴君や悪政といった言葉とは程遠い、優しく穏やかで心地いい空気が流れていた。
「……やっぱり、なんとかしたいです」
「それは、お前次第なのだろう?
この時期を知る者としては、出来るならばこのままでいさせたい。私もそう思う」
「頑張ります」
華祐の言葉に、鳳灯はしっかりとうなずいてみせた。
こうして、鳳灯と華祐は無事に、董卓陣営に入り込むことが出来たのだった。
兵の調練に出向いていた華雄と呂布、それに陳宮が呼び出され、他にも主だった武官文官が一同に会す。そうして、鳳灯と華祐が紹介された。
案の定、華祐の姿を見た面々は誰もが驚いた。中でも一番の反応を見せたのは、やはり華雄である。
「……私の知らない、生き別れの姉かというくらいに似ているな」
「いるの? 生き別れの姉」
「いやいない。少なくとも聞いたことはないな」
「いやちゅーか、聞いたことあるんなら生き別れとはちょっと違うんとちゃうか?」
「細かいことは気にするな」
「……そっくり」
唖然とし言葉を漏らす華雄。そんな彼女に賈駆と張遼が突っ込みを入れ、それをよそに呂布が素直に驚いてみせる。
ちなみに悪態を吐きかけた陳宮に対して、賈駆は竹簡を投げつけ逸早く口を封じていた。
仮にも招いて来て貰った客人である。変なことを口にして機嫌を悪くされては困る、という判断だった。目を回す軍師仲間に、少しは考えてモノをいえ、と、賈駆は溜め息を吐いてみせる。もちろん、目を回す陳宮にその言葉は届かなかったが。
さて。
確かに驚きはしたが、華雄はだんだんと、遼西から来た武将に興味を覚える。
年はやや上のようだが、その風貌は瓜二つ。見れば身につけている甲冑や手にしている武器までが、少しは意匠の違いがあるもののほぼ同じ。なにからなにまで自分と似ている。
ならば武の程はどうなのか? そう結びつけるのに時間はかからない。
「華祐、私と勝負だ!!」
当然、こういう展開となる。それを見て董卓は素直に驚き、賈駆は頭を抱える。張遼は愉快そうに笑みを浮かべ、呂布はじっと華祐を見つめていた。陳宮はまだ目を回したままである。
勝負を挑まれた華祐は、内心いろいろな感情が駆け巡っていた。
それは主に、かつて関雨が感じたものと同じ。かつての自分を目にした、穴があったら入りたいという気持ちだ。
……確かにこれはかなりキツいものがある。
関雨に今度会ったときに謝らねばなるまい、などと考えながら、鳳灯を横目に見る。彼女もまた、苦笑を隠せずにいた。
「董卓殿。このように申していますが、よろしいのでしょうか?」
「へぅ……。詠ちゃん、どうしようか」
「……あー、華祐さえよければ、あの猪の相手をしてやってくれないかしら。武官なら武官なりの自己紹介ってのもあるでしょうし」
董卓は"招いた将"にいきなり突っかかるのはどうかと考え、賈駆はもういっそ叩きのめされてしまえとばかりに頭を抱えてみせた。
「ふむ。ならば華雄殿、お相手しよう。
呂布殿もいかがだろうか。噂に聞く天下無双の武、ぜひとも見てみたい」
華祐のそんな言葉に促されて、武官たちは調練場へと移動する。華雄、張遼はもちろんのこと、呂布までもが、どこか浮き足立っているように見えた。武に秀でた者と立ち会う、ということに、どこか高揚感を覚えたのかもしれない。
「ごめんなさい。なんだか早々に変な展開になっちゃって……」
「いえいえ。武将の性、みたいなものなんでしょう。遼西でも、張遼さんも同じような感じでしたし」
「本当にね。仕事を放っぽり出して、視察先の武将と立会い三昧って、どんだけよもう」
「そんなことがあったんだ……」
溜め息を吐きボヤく賈駆。それを聞いて安易に想像がついた董卓。鳳灯もまたただ笑うことしか出来なかった。
「まぁ、あっちはあっちで仲良くしてくれるでしょう。こっちはこっちでやることをしましょう」
「うん。鳳灯さん、よろしくお願いします」
董卓が頭を下げる。
それ以降、彼女らと文官たち、そして鳳灯は、これからのことについて簡単に打ち合わせを始めるのだった。
鳳灯が、董卓らと接して抱いた印象。
彼女らは総じて、まだ"甘い"。
かつて鳳灯らが体験したような、果断や動きの鋭さや苛烈さには今ひとつ及ばないように感じられる。
もともと、董卓らは涼州の出である。常に五胡などの対応に追われる地でもあることから、武においても知においても常に高い力を持っていた。それが司州付近で起こる争いや諍いに巻き込まれることで、より高い質のものへと洗練された。
もっとも、以前にいた世界で董卓らと相見えたのは反董卓連合の際、汜水関や虎牢関が最初である。そのときの董卓らはすでに、朝廷内で裏に表にと駆け回ったあとだ。それが彼女らの実力を底上げさせたと考えれば、皮肉にも程があるといえよう。
おそらくそう遠くない内に、董卓らは洛陽へと呼ばれることになる。
彼女らの立場をどうこうしようと考えても、朝廷内での立ち位置が定まらないことには動きようがない。
ならばその時に備えて、状況を予測して策を考えておく。
それ以外には、武官文官ともに、いざという時に動けるよう実力を上げる。当面はそれに専念することになるだろう。
たかが文官と武官がひとりずつ増えたところで、そう大きく状況が変わるとは思わない。
だが、鳳灯と華祐には、他にはない"天の知識"がある。
無駄にはならないであろう手を打ち続け、大事に備える。あらゆる可能性を考慮し思考を巡らせる。ただ、無駄な争いを極力避けるために。
この時期はまだ、平和な時といえた。
・あとがき
なんだろう。妙に長くなるな。
槇村です。御機嫌如何。
現状把握の回。というほど説明してないな。
次回は、武官同士の(仕合という名の)会話を絡ませつつ、洛陽に行く前段階みたいなものを。
雛里さんメインになりかねないから、今のうちに華祐さんを目立たせておかないと。
『愛雛恋華伝』を書き出して、四ヶ月経ったことに気がつく。案外続けられるもんだな。
101203:誤字修正。
101204:誤字修正。
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董卓陣営に無事合流。
槇村です。御機嫌如何。
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