No.186546

真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 23:酒家の誓い

makimuraさん

歴史には残らない、五人が交わす杯。

槇村です。御機嫌如何。


続きを表示

2010-11-25 18:19:15 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5453   閲覧ユーザー数:4176

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

23:酒家の誓い

 

 

 

 

 

店を閉めた後の酒家。時にそこは、訳ありな将たちが人知れず集う場所となる。

場を提供するのは、北郷一刀。集まる面子は、関雨、鳳灯、呂扶、華祐。彼と同じく、元々いた世界から弾かれた四人である。

毎日集まるわけでもない。

なにか気になること、話をしたいことが出来ると、自然と声をかけ集まるようになった。

 

 

 

今夜の献立は、焼きソバのペペロンチーノ風味。

麺を茹でた後、にんにくと一緒に植物油で炒める。唐辛子がないので、辛味として醤を投入。きつめのものを極々少量。

塩と山椒で味を整えるも、味見をするたびに首を捻る一刀。納得いかない様子。

 

「……やっぱり、胡椒がないのが敗因か」

 

古代ローマの時代にも胡椒はあったらしい。

だが、握り拳程度の量で奴隷十人が手に入るくらいの高級品だったという。

例え中国に流れてきていたとしても、庶民の一刀がそんなものを手に入れられるわけがない。

 

「ペペロンチーノが食べたいです……」

 

これなら普通の焼きソバでいいじゃん、と、肩を落とす一刀だったが。

 

「これはこれで、おいしいと思うのですが」

「はい。不思議な味ですね」

「そもそも、汁のない麺料理というのが新鮮だ」

「……おかわり」

 

案外、好評だったようだ。

 

 

お腹が満たされた後は、酒を嗜みながら雑談に興じる。これまたいつもの通り。

この日集まった理由は、かつていた世界では旧知である知将、賈駆の登場。話題は自然と彼女のことになっていく。中でも古くから共に過ごしていた華祐は、彼女が遼西に現れたことがとても気になっていた。

 

「雛里よ。詠のやつは結局なにをしに幽州まで来たのだ?」

「先の黄巾討伐で、公孫軍が張遼さんの率いる官軍を助けましたよね?

同じ董卓さんに仕える仲間として、そのことの礼を述べに来たというのがひとつあります。

あと本命としては、曹操さんと同じく、噂の遼西を視察しに来たというのが本音みたいです」

 

華祐の問いに、鳳灯は答える。

賈駆に対する応対をしたのは、主に公孫瓉と鳳灯。隠すことではないかもしれないが、こういった私的な場で話題にするのはどうなのか、と、一刀は内心思っていたりする。それだけ気を許しているのか、それとも彼が気にしすぎているだけなのか。

 

それはともかくとして。

 

此度、遼西にやって来た賈駆は、董卓に仕える軍師兼文官という立場だった。彼女らの知る立ち位置と、それは変わってはいないことになる。

公孫瓉や曹操、劉備と同様に、董卓もまた大規模な黄巾討伐を果たした恩賞として官位を授かっている。

涼州一帯に発生した黄巾賊を討伐し、その後、朝廷からの要請により司州近辺の警護を引き受けていた。その働きが認められ、董卓は河東郡の太守に任ぜられる。

河東郡は司州の一角。朝廷の目が届きやすい地であるため、その治世にも気を抜くことが出来ない。

太守である董卓は、民によりよい暮らしをして欲しい、という気持ちを強く持っている。自身の出世などよりもそれを優先しようとする。

ならば参考のために、良政を布くと名高い遼西を視察してはどうか、という風に話は流れ。

賈駆は、護衛として張遼ら少数を引き連れ、幽州は遼西までやって来たという。

 

そんな説明に、なるほど、と、うなずいてみせる面々。

 

「曹操殿もそうだが、遼西の治世はそれほどまで噂にのぼっているのか?」

「結構遠くまで広がってるみたいだよ? 商人の旦那方がいうには、呉とか荊州の武稜とか、そんなところでも知られているらしいし」

「それはすごいですね……」

 

関雨の疑問に、一刀が答える。

事実、その噂は広い範囲で口にされており、その伝聞に惹かれて幽州へとやってくる人たちもそれなりにいる。

だが噂に挙がる高さの割には、その数は決して多いとはいい切れないだろう。

その理由として、幽州は遠い、という点が上げられる。漢という朝廷が治める土地の中で、幽州は最も北に位置する。また他民族との衝突が起こる地としても知られているため、わざわざ遠路を経てまで移り住もうと考える人がいなかった。現在は烏丸族との関係も良好になっているが、そもそも異民族に対する偏見もある。これもまた、幽州から人が遠ざかる理由のひとつになっているのだろう。

逆に考えれば、幽州においては異民族との融和がなされており、それぞれに大きな不満が生まれることもなく治められているといえる。

黄巾賊の蜂起は、治世者に対する不満が切っ掛けとなって起こったものだ。幽州において、黄巾賊に同調して動く輩が少なかったことは、まさに治世の安定を裏付けている。それゆえに却って黄巾賊を寄せ集めてしまったことは想像外の出来事ではあったが、太守である公孫瓉が先頭に立ちしっかりと鎮めて見せた。黄巾賊の活動も収まりつつある中、幽州の名はより一層高まることになるだろう。

 

平穏さが世に知られるのはいいことだ。一刀はつくづくそう思う。

 

 

一刀が抱いた安堵感をよそに、交わされる話は物騒なものになっていく。

 

「黄巾党がひと息つけば、次は反董卓連合、か」

「……やっぱり、起こるのかね?」

「おそらくは、起こるでしょうね」

 

関雨の言葉に、一刀は現実に引き戻されゲンナリしてしまう。鳳灯もまた、間髪入れずに肯定して見せた。

知識でしか知らない彼と違って、彼女たちは実際にその歴史の渦中にいた人間である。いつなにが起こるのか、それは分かっているしその原因もおおよそ理解している。

すべてが同じではないにしても、まずその通りに起こるであろうことも予想していた。

だからこそ、近い未来を予測し、緊張してみせる。

その点だけは、庶民という立場を通している一刀と異なるところだろう。

 

「だが、董卓殿が治めているのは河東なのだろう?

洛陽にいないのならば、連合が組まれる火種はまだないと思うのだが」

「連合が組まれた切っ掛けは、宦官と外戚の権力争いです。以前の世界でも、董卓さんはそれに巻き込まれたようなものですから。朝廷内の諍いが静まらない限り、おそらくこの世界でも、董卓さんが巻き込まれることは変わらないのではないかと」

 

四人は自分たちの経験に基づき、これから起こるであろう事柄を思い起こす。

呂扶でさえも、かつて臣下として仕えていた董卓のことは気になるのだろう、なにか考え込んでいる。

そんな中で、頭脳担当の鳳灯がまず最初に口火を切る。

 

「天の世界では、董卓という人は暴政を布いていたと聞きました。一刀さんの知る"董卓"も同じですか?」

「そうだね。俺の持ってる知識では、暴君ということになってる」

 

彼女の言葉にうなずいてみせる一刀。

 

「これまでに会った人たちから考えると、この世界の董卓さんも、私たちの知る月さんと同じ人物だと思います。

私たちのいた世界では、董卓、いえ、月さんは暴政など行っていませんでした。

暴君どころか、むしろとても優しい人で、民のために心を砕いていました。当時の洛陽はまったく荒れていなかったんです」

「でも、反董卓連合は起こった?」

「はい。袁紹さんを始めとして参加した諸将は、地位や名誉勇名といった、それぞれの思惑を実現するために集まりました。本当に暴政が行われているかどうかは、あまり関係なかったんです」

 

もっとも、私たちも半ばそれを承知した上で参加していたんですけれど。

と、鳳灯は自嘲するように笑みを浮かべる。

 

「私たちの主、桃香様は、本当に圧政が行われているのなら董卓を倒さなければならない、そう考えていました。

その気概はとても得難いもので、美しいものではあるのですが、世の中は綺麗ごとばかりではありません。私たち軍師は、桃香様の想いを御旗にして、あえて事実確認をしないまま、連合に参加しました。そのおかげで、群雄の世に乗り出すことが出来たんです」

 

その戦いの中で、倒された立場にいた、華祐。彼女は、鳳灯の言葉にじっと静かに耳を傾ける。

彼女とて今であれば、そういった表に出ない思惑も理解は出来る。だが例え当時の自分が理解できたとしても、納得など出来るはずもない。

今の自分であってもそうだ。あらぬ疑いをかけ攻め立ててくる連合に対して、力の限り反抗するに違いない。

関雨もまた、風評を信じていた側の人間だった。悪政を布く董卓、それに与する武将として、すぐ隣にいる華祐を打ち倒している。巡り巡って共に仲間として過ごすようになったとはいえ、反董卓連合に関する一連の出来事は、彼女たちにとって思うところの募るものであった。

 

「それじゃあ、暴政云々って話はどうして出てきたんだ?」

 

一刀の疑問。彼にとってはもう、まったく知らない世界の出来事になる。

 

「私たちが知ったのは、袁紹からの檄文が最初だな」

「はい。その風評も同時に、方々で聞かれるようになりました。

出所が名家として知られる袁家であれば、それなりの信憑性をもって伝わります。十分な根回しをした上での檄文だったんです」

「いいがかりであったとしても、払拭できない状況を作って追い込んだわけだ」

「そういうことです」

 

関雨の言葉の通り、袁紹の手による檄文によって"董卓の悪政"を知った者がほとんどだったろう。その内容が事実かどうか、中には独自に調べた勢力もあったかもしれない。だがほとんどは、自分たちの思惑を果たすいい機会だと乗ってみせたに過ぎなかった。なにより発起人である袁紹が、"地位が欲しいという"自分の思惑丸出しでいたのだから。

 

「その噂って、お膝元の洛陽ではどんな感じだったの?」

「そもそも悪政自体がでまかせなんだ。どうしてそんな噂が立つんだ、と、憤る者で持ちきりだったな」

「……みんな、怒ってた」

 

華祐と呂扶は、当時を思い起こし、答える。

彼女らを始め、董卓、賈駆、張遼、その他数多くの武官文官らにとって、その檄文は寝耳に水のこと。気がついたときには、もう既に風評に対してどうこう出来るほどの時間は残されていなかった。すでに連合は組まれ集結を始めており、その進軍を阻むための軍勢を急いで編成するくらいしかできなかったのだ。

 

「霊帝が崩御され、宦官と外戚、つまり十常侍の皆さんと何進大将軍の対立が激しくなりました。

その中で、袁紹さんは思っていたほど頭角を表すことが出来なかった。

その後、内外で乱れていた洛陽をまとめて落ち着かせたのが月さんです。その働きが評価され、朝廷内で高い地位を得ることになりました」

「袁紹は、それが気に入らなかった?」

「簡単にいえば、そういうことですね」

 

地位を望まなかった董卓が召し上げられ、地位を望んだ袁紹が野に降ったということになる。

なんだかなぁ、と、一刀は腕を組みながら、知識だけであれこれと考える。

 

「袁紹って、外戚派だっけ? 外戚筆頭の何進が勝っていれば、反董卓連合は起きなかったのかな」

「それも、怪しいですね。

月さんの率いる西涼軍を洛陽に呼び寄せたのは何進大将軍でした。

袁紹さんと月さんは同じ外戚派といっても、求めているものが違っていたでしょうし」

「月と、麗羽、か。朝廷の中で地位が同じだったとしても、反りは合わなかっただろうな」

「袁紹が一方的に捲くし立て、董卓殿が苦笑して終わりだろう」

 

関雨の想像に、華祐が突っ込みを入れる。その様が簡単に想像できて、思わず鳳灯は笑ってしまった。

 

 

この世界ではまだ至っていない未来。その原因をたどってみせる鳳灯。

そんな彼女の表情が、だんだんと強張っていく。まるで、なにかを決意していくかのように。

 

「私がこの世界でやろうと決めたのは、出来るだけ戦を避けて、平穏な世の中を作ろうということです」

 

ふと、話が途切れる。しばし沈黙した後、鳳灯は再び言葉を紡いでいく。

 

「反董卓連合での争いは、人の命がとても容易く失われました。

月さんは善政を布いていた。それなら董卓軍は、汜水関で、虎牢関で、戦死する理由なんてなかったんじゃないか。

袁紹さんは董卓を倒せと檄文を発しました。でも朝廷内の権力闘争がなければ、地位を得ようと欲をかかなかったんじゃないか。

権力闘争が激しくなったのは何故か。朝廷の持つ求心力が弱くなったからでしょうか。

ならもしも、朝廷の力を取り戻すことが出来たら?

"もしも"といい出したらキリがないことは分かっています。

でも、今の私は。その"もしも"を、歴史の流れを切り直せるかも知れない場所にいるんです。だから」

 

漢王朝という名の、死を待つばかりの伏した龍。その大いなる陰で日々を過ごす民のために、再び龍を飛び立たせんと、鳳雛と呼ばれた者が決意する。

"天の知識"を元に、戦の原因を事前に絶つ。そのために、洛陽に行く、と。

 

「私、賈駆さんについて行こうと思います」

 

鳳灯は、小さく、けれどしっかりとした声で、そう口にする。

 

「群雄割拠の時代が愚かだとまではいいません。でももっと、人が命を落とすことなく、平和な世の中を目指すことが出来るはずなんです」

 

そのためにまず、反董卓連合が組まれる原因をつぶす、と。

 

彼女が経験した歴史と同じ道をたどるならば、董卓は西園八校尉のひとりとして任ぜられる。

何進が呼び寄せた軍閥勢力のひとつとして、洛陽の中枢に食い込んで行くことになる。

その後、何進と張譲の対立が活発化し、やがてふたりともが暗殺され。霊帝の娘である劉弁と劉協が、董卓の保護下に置かれる。

董卓の下でなら、戦を止めるために動けるかもしれない。そして今ならば、賈駆の手引きで董卓の下に入れるかもしれない。

 

「この遼西で、以前の世界で得た天の知識を元にした治世を実行してきました。

長い目で見た結果はまだこれからでしょうけど、今のところ問題はないと思います。

公孫瓉さまや、範ちゃん越ちゃん、続ちゃんたちならきっと、私たちと同じ想いを実現してくれると思うんです」

 

大袈裟にいうならば、幽州の治世はすでに鳳灯の手を離れた。彼女がいなくとも、公孫瓉らがしっかり治めてくれるだろう。

鳳灯は、さらに大きなものに目を据えた。自分の目指すもののために、幽州を離れる。

かねてから、うっすらと考えていたこと。それを自らの意思を持って、口にし決意した瞬間だった。

 

 

「それなら私は、この幽州をより精強にすべく動いてみせよう」

 

関雨はいう。

どれだけ戦を忌避したくとも、この時代、どうしても争いは起こる。ならばそのときに備えて兵を鍛える。

 

「以前の世界では、白蓮殿は麗羽に敗れ幽州を追われた。それを避けられるようにしたい。それを目指す。

雛里がうまくやってくれれば、兵の増強は無駄になるのかもしれない。いや、それでも公孫瓉殿にとっては無駄にはならないだろう」

 

曹操らの魏軍に勝るとも劣らぬ軍勢を作ってみせる。

そんな自分の想像に心躍ったのか、関雨の気分は妙に高揚していた。

 

「かつて私たちがいた世界とは異なる未来を目指すのは、確かに面白いな。

天の意思に背くことなのかもしれないが、私はその天から弾かれた身だ、今更そんなことを気にすることもないだろう」

 

 

 

関雨の言葉に、華祐もまた考え込む。

 

「天に歯向かう、か。

……ならば私は、雛里に付いて行くか」

 

以前の世界の話が通じる相手はいたほうが良いだろう? 華祐は、鳳灯に向けていう。

鳳灯にしてみれば、護衛役としても、精神的な意味でも、彼女が付いて来てくれるのはありがたい。

本当にいいのか、と聞くも。

自分が行きたいのだ、むしろ供が出来てこちらがありがたいくらいだぞ、と、華祐は返す。

 

「ついでに、この世界の華雄を鍛えてみるか。

愛紗。前の世界では不覚を取ったが、この世界の私をもって、この世界の関雲長を倒してみせるのも一興かもしれんな」

 

歴史が変わるぞ? と、華祐はさも愉快そうに笑う。

関雨もまた、不適な笑みを浮かべ応えてみせた。

 

「例え今は至らずとも、あれは私だぞ? そう簡単に勝てるのか?」

「なに、今考えて見れば、あのときの私とお前に大きな差があったとは思えん。私が仕込めば、すぐに追い抜いてしまうのではないか?」

 

ズルいとはいうなよ? と、華祐は指を差し、関雨を挑発してみせる。

 

「私自身も、この世界の華雄も、どちらもお前を超えて見せよう。楽しみにしていろ」

「ふふ、楽しみにしておこう」

 

嬉々とした表情を見せながら。さも楽しいことを見つけたかのように、ふたりは互いに拳をぶつけ合った。

 

 

 

「となれば、恋は一刀を守る役だな」

「……一刀を守る?」

 

華祐の言葉に、呂扶は首を傾げてみせる。

 

「そうだ。我々がまた集まるためには、その場所が必要だろう?」

 

一刀の酒家がなかったら、私と雛里が帰ってくるときに困るじゃないか。

さも当然のように、華祐はそういい含める。

 

「……分かった。頑張る」

「いや、それなら私も残るのだから私でも」

「恋。可哀相だから愛紗のやつも一緒に守らせてやれ」

「……愛紗はおまけ?」

「あぁ、おまけで構わん」

「分かった」

「分かった、じゃない! 恋、ちょっと待て!! いやそれよりも華祐、なんだ私が可哀相っていうのは!!」

 

関雨の想いを分かっていながら、華祐はまぜっかえしてみせる。

真に受けてうなずく呂扶と、噛み付いてくる関雨。

そんな風に騒がしい空気を醸しながらも、トントン拍子に決まっていく、彼女らにとっても重要な岐路の先。

あまりのことに、いい出した始まりである鳳灯も、ただ耳を傾けていただけの一刀も、ふたりは呆然としてしまい顔を合わせる。

それもわずかな間。互いの呆けた顔を見て、ついつい、笑い出してしまった。

 

散々、一刀が促してきた、自分で決めて自分で進む道。

四人がどんな気持ちでそれを選び、それを決めたのか。

言葉に出した以上のものは、彼にはうかがい知ることが出来ない。

でも、彼女らが自分でそう決めた。ならば、それでいい。

 

「歴史に名を残した"関羽"と"呂布"に守られる男ってなんだよ。大袈裟に過ぎない?」

 

空気に合わせるように、茶化したような声でいう一刀の言葉。

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。得ようと思って得られるものじゃないぞ?」

「贅沢すぎるだろ」

「恋も愛紗も、やりたくてやろうとしているんだ。男の甲斐性だと思って受け止めろ。

さっきもいったが、やることを終わらせたらお前のところに帰ってくるつもりなんだ。お前になにかあると困るんだぞ?」

 

華祐の言葉に続いて、鳳灯が補うようにいう。

 

「この世界に迷い込んで、今まで折れずにいられたのも一刀さんのお陰なんです。

一刀さんのところが、私たちの家、っていう気持ちでいられるとすごく嬉しいんですけれど」

「なるほど。雛里、その考えはいいな」

「……家族?」

「確かに家族なら、守ろうとするのはするのは当たり前のことだな」

 

血よりも濃いもの、という。

彼と彼女たちの間にあるものは、"世界から弾かれた"という、他には理解しがたい事実。

それを誰よりも理解できる間柄。得ようと思って得られるものではない。

なるほど、家族といっても過言ではない。

此の世界に独りぼっちだった一刀は、まさかこれほどに親しい間柄を得られるとは思ってもいなかった。

彼女らは、一刀がいてくれて助かったという。

だが彼にしてみれば、自分の方こそ、彼女らのお陰で取り戻したものが数え切れないほどある。感謝をしてもし足りないのは彼の方だった。

 

 

 

「じゃあ、疲れたらいつでも来い。体力気力を取り戻す料理を、腕によりをかけてご馳走してあげよう」

 

一刀はいう。まるで姉妹を甘やかすかのような優しい声で。

 

「力が必要になったらいつでも頼るといい。武力の後押しがあって初めて避けられる争いもあるだろうしな」

 

関雨はいう。同時に、華祐に対して「猪振りを発揮して雛里に迷惑をかけるなよ」と釘を刺しながら。

 

「ふ、いらぬお世話だ。愛紗はせいぜい、一刀と乳繰りあってるといい」

 

華祐はいい返す。後半は小声であったが、関雨はしっかり顔を赤らめさせた。

 

「……恋は、雛里も守る。いつでも呼んで」

 

呂扶もつぶやく。鳳灯の頭を撫でながら、少ない言葉の中に想いを籠めて。

 

 

そんな四人の前に、一刀は小さな甕を取り出した。

曰く、かねてから試行錯誤して作り出した結晶のひとつ。日本酒である。

 

「せっかくの門出だ。とっておきを出して乾杯しよう」

 

満足の出来る質ではまだ量産できないため、ひとりずつにわずか杯半分ほど。注がれた日本酒は、色もなく透き通っている。

彼女たちは、手元の杯を眺める。

 

「天など省みない、俺たちに」

 

一刀は、杯を小さく持ち上げて見せた。

そして、思う。

 

 

我ら五人、

進む道は違えども、

肝胆相照らす友として、

事あらば心同じくして助け合い、

困窮する友たちを救わん。

駆け抜けた彼の世界に厭われしも、

願わくば同年同月同日、そして同じ世界に死せんことを。

 

 

夜の帳がすっかりと降り、わずかな蝋燭の灯かりが、彼と彼女たちの姿を浮き出している。

誰ともなく、五人は自然と、己の杯を互いに傾ける。

言葉はない。わずかに重なり合う音だけが、闇の中に響き、それぞれの胸の中に染み込んでいった。

互いに表情をうかがうことは出来ない。

それでも五人は、確かに笑みを浮かべていた。

 

 

・あとがき

なぜか詠さん出番なし。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

詠さん自身がどうというよりは、彼女の登場が一巡組の状況を動かす切っ掛けになった。

そんな感じで。

桃園の誓いみたいなものを書きたかったんです。バラける前に。

 

大まかな話の筋道は出来ているのですが、肉付けにえらく難儀しております。

週に二回更新は、ちょっと難しそうだ。週イチが精一杯だぜ。要精進。

 

 

 

22話が妙に評判がよろしいようで。槇村は戸惑っております。

皆さん褒めすぎじゃないかしら。

や、嬉しいんだけども。

 

にも係わらず、なんとこれからしばらく一刀さん出番なし。舞台のメインは洛陽近辺に移ります。

原作ですっ飛ばされた権力闘争部分に介入。雛里さんと詠さんが、その智謀で暗躍します。(する予定)

はてさてどうなる『愛雛恋華伝』。

次回からは【漢朝内乱編】の仕込みに入ります。

 

 

 

その間、見えないところで恋さんと愛紗さんは、一刀さんとイチャついていることでしょう。

 

 

 

 

 

……なんだかどんどん話が大袈裟になっていく。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
66
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択