No.187651

昇龍伝、人 十四章、――終幕。

テスさん

○この作品は、真・恋姫†無双の二次著作物です。

○十四章を分割した『残り』になります。この作品をクリックした方は、インスパイア元から読み進めてください。

○注意

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2010-12-03 00:46:31 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:19465   閲覧ユーザー数:14145

――終幕

 

 冀州国境付近、何かが近付いてくる。耳を澄まさないと聞こえないほどの低い音は、徐々に大きく、大地を震わせながら近付いてくる。

 

 それは百近い馬の群れが一度に走る、迫力ある音。荒野の道をもの凄い速度で駆け抜けていく。

 

 その先頭を走る少女は、後頭部に高く束ねた桃色の髪を靡かせながら、溜息を一つ吐いた。

 

「……何でかなぁ」

 

 腕と胸腹を守るだけの必要最小限の装備。それは身軽さを重視した彼女の戦装束で、武人としての正装でもある。

 

 この日のために新調した白鎧は、彼女の身分に相応しい輝きを放ち、また白馬に跨り颯爽と駆ける姿を見て、後に普通、残念と叫ばれる姿を一体誰が想像できようか。

 

「……なぁ越? 『啄郡の太守に任命するから洛陽までこい』 なんて使者を寄こすならさ、何で任命する使者を出さないんだろうな?」

 

 普通はそうだろ? 何故そんなまどろっこしいことをするんだと、彼女はまだ幼さを残す少年に問う。

 

「中央の考えることですからね。見栄を張っているのでしょう」

 

「見栄、ねぇ……」

 

 そう言って、彼女は真新しい鎧を眺める。

 

「言っときますけど、姉さんは違います! 姉さんはこれから太守になられるのですよ。あんな傷だらけの鎧を着ていては、配下の者に示しがつきません!」

 

「まぁ、そうなんだけどさ。でもちょっと煌びやかすぎないか? おっと、町が見えてきたな」

 

 町に近付くに連れ、彼女の口数が減っていく。

 

 何かがおかしいと、眼を細めた。

 

「――微かに、血の匂いがするな」

 

「姉さん?」

 

「越、皆を急がせろ! ――ハッ!」

 

 彼女の名は公孫瓚。字は伯珪。白馬に跨り、騎馬隊を手足のように動かすことから、異民族からは白馬長史(白馬に乗っている長史)と呼ばれ、恐れられている人物である。

 

 ちなみに、この時はまだ白馬は数えるほどで、彼女が本格的に白馬を集め出すのはもう少し後のことである。

 

 

 町にはやせ細った官軍の兵士達がいた。飯を平らげ、憔悴しきった顔でじっと遠くを見詰めている。

 

 越の話によると、この町にいた責任者は、賊の討伐に出ていた官軍の将に斬り殺されてしまったそうだ。何でも賊と結託していたらしい。

 

 そして官軍は……。

 

「追い詰められて、村を見捨てて生き延びた、か」

 

 そこで初めて、この官軍の将らしき人物が現れる。

 

「何も知らぬ癖にほざくな! 兵糧攻めに遭い、死に物狂いでこの先にある砦を突破してきたのだ。兗州側にも賊がいて道を塞いでいる! 兵糧の無い村に留まって戦うなど、できるものか!」

 

 男は兵士を指差す。

 

「……見ろ! もう誰一人戦える兵はおらん! 我等にできることは、援軍を要請することしかできぬのだ!」

 

 だがその一言に、越は笑う。

 

「ふん、中央で安穏と過ごしてきたから、賊ごときに後れを取ったのではないのか?」

 

「き、貴様―っ!」

 

「煽るんじゃない、越。――すまなかった。身内の無礼を許してくれ」

 

「ふん、ならば援軍として出向かれいっ!」

 

「――何だとっ!」

 

「あぁ、もう。話がややこしくなるから、引っ込んでおけ」

 

「ですが、姉さん!」

 

「分かった。行ってやる。その代わり、指揮権はすべて私に委ねてもらうぞ」

 

 その一言で、男は肩の荷が下りたと言わんばかりに、満面の笑みで歩いていった。

 

「……姉さん」

 

「そう落ち込むな、越。丁度良い実践になるだろ? 新しい陣形とか戦法も試せる。そうと決まればぐずぐずしている暇はないぞ。越は輜重隊の準備を。食糧は……多めに用意しておけ」

 

「私は騎馬隊を率いて先に援軍に向かう。――騎乗せよ!」

 

 

 砦に近付くに連れ、死体の数が増えていく。――暗い門の中を通り抜けた瞬間、世界が黒く変わった。

 

 道の両側には、黒く焼け焦げ、見るに耐えない死体が乱雑に並べられてる。

 

「――何だ、この違和感?」

 

 しばらくして彼女は気づいた。砦を突破してきたと言った官軍の将。その割には、真新しい死体がほとんどないのだ。

 

 次第に道幅が広くなり、徐々に村が迫ってくる。

 

 ――見えた!

 

 叫び声を上げながら、村では無く別の何かを囲む賊たち。

 

「まだ戦っている! 間に、あっ……」

 

 それ以上、彼女は言葉を紡げなかった――。

 

 村の横を走り過ぎたとき、見えたのだ。たった一人の少女が、全身を赤く染めて槍を振るう姿が。

 

 まるで武人の最後を飾るかのような大舞台。そこで彼女は淡々と舞っていた。

 

 一瞬で相手の命を散らせ、その一瞬を紡いでいく。じっと見ていると死に魅了されそうな、そんな危うい光景だった。

 

 ――だが、余りにも無謀すぎる。

 

 彼女の周囲には死体の山が幾つも、幾つもすでに築かれている。このままではいずれ体力が底を突き、彼女もまたその山の一つとなることは明白だった。

 

「ば、化物か!?」

 

 誰かが言った。彼女が一人で相手にしている数は、百や二百ではない。千に近い。

 

 先頭の白馬が速度を上げて、単騎で駆けていく。

 

「は、伯珪様、お待ちください!」

 

「――え、援軍がきたぞ!」

 

 賊からは悲鳴が上がるも、村からは何も聞こえない。

 

「たった一人相手に、寄って集る賊共がっ! 幽州の公孫瓚がお前達を成敗してくれるっ!」

 

 馬に跨ったまま弓を射ると、矢は鎧を貫通して死に至らしめる。四馬身ほど引き放された兵士達が彼女に続いて弓を射ると、その周辺は阿鼻叫喚の巷と化す。

 

 賊の本隊を抉り取るかのように走り抜けると、距離を取って矢の雨を降らす。成すすべもなく、矢の餌食となっていく。

 

「ち、ちくしょう!」

 

 歩兵が距離を詰めようとすれば……。

 

「――ハッ!」

 

 その機動力を生かして、また抉るように賊の横を駆け抜けては離れていく。

 

「――なっ!?」

 

「賊兵ごときがこの公孫瓚を止められると思うな! 弱き者達を踏み躙り、傷つけるお前達を、私は決して許しはしない!」

 

 馬の上で剣を抜いた公孫瓚が賊の前を横切る。

 

「――放てーっ!」

 

 

 公孫瓚の騎馬隊を前に、賊は成すすべもなく撤退していく。が、公孫の兵士達は追撃の手を緩めることなく、手元の矢が尽きるまでその背中に矢を突き立てていった。

 

 公孫瓚が馬から降り、真っ赤に染まった少女の前に立つ。

 

 構えを解かず、血を滴らせて、たった一人戦場で立ち尽す少女。

 

「……終わったぞ」

 

「……」

 

 赤い涙を流すその少女を公孫瓚が抱きしめると、彼女は槍を落として立つことを止めた。

 

「……遅くなった。許してくれ」

 

「……貴女の、所為ではない」

 

 そして意識を手放したのだった。

 

 

 ……血の匂いがする。

 

 最悪の目覚めだった。身体は重く、思うように動かない。

 

 徐々に意識がはっきりとしてくる……。

 

 ここは……、部屋? そうか。私は気を失って……

 

「大丈夫か?」

 

 心配そうに声を発して、恐る恐る私の顔を覗き込んできた人は、同い年くらいの女性だった。

 

 彼女は、確か……。

 

「えっと、飯食うか?」

 

「……頼む」

 

「良し! 作ってきてやる。待ってろ!」

 

 そう言って、彼女は走り去ってしまった。扉から視線を戻すと、寝台の傍に椅子があるのに気付いた。

 

 ようやく身体を動かせるようになったころ、彼女は粥を持って戻ってきた。

 

「一人で食えるか?」

 

 指を動かす。

 

「……あぁ」

 

 体力をつけねば……。私は粥を掬い口の中に入れる。

 

 ――これは!?

 

「何だよ、一口食べたら固まって。そんなに不味かったか?」

 

 私は首を横に振る。

 

 美味くもなく不味くもないことを、言葉に包み込んで彼女に伝える。

 

「いや、そんなことはない。……以前、病に倒れたときのことを思いだしてな。――あの人が作ってくれた粥は、何故あんなにも甘かったのだろうかと……」

 

「――お、おい! 泣くほど不味いなら、無理に食べなくても!?」

 

「いや、違うのだ。別に泣くほど不味い訳ではない……」

 

 ……気づいてしまった。もう愛する人はいないのだと。

 

 私を助けるために、そして村を頼むと言い残し、崖から落ちて死んでしまったのだ。

 

 ――あまりにも無力だった。愛する人すら守れない。守るどころか、私は守られてしまった。

 

「気遣い感謝致します。確か……」

 

「あぁ、自己紹介が遅れたな。私の名前は公孫瓚だ。字は伯珪という」

 

「我が名は趙雲、字は子龍。伯珪殿、村を救って頂いたこと、本当に感謝致します――」

 

 もし村を守り通せなかったら、私は……。

 

「いや、そんなに頭を深く下げないでくれ。――偶然だったんだ。洛陽に用事ができて、たまたまその道を賊が塞いでいた。だから退治して洛陽まで行ってきた。う、運が良かったんだよ!」

 

 ――と、顔を真っ赤にしてしまった。

 

 だが、私は彼女の台詞を覚えている。彼女もまたこの時代を憂う者。でなければ、賊に囲まれ、いつ死んでもおかしくない私を助けようなどと、誰も思わないだろう。

 

 私は目を閉じる。

 

「通りかかったのが伯珪殿で、本当に良かった……。あの人との約束を果すことができたのだから」

 

「……疲れてるだろ? もう休め」

 

「……いや、全身が血の臭いで落ち着かんのだ。きっとまた悪い夢を見る。……伯珪殿、言伝を頼めないだろうか。私が湯を張ってほしいと、村の者にそう伝えて貰えないだろうか?」

 

「分かった。準備が出来たら呼びにくるから、それまでちゃんと横になってるんだぞ」

 

 彼女は立ち上がって、静かに部屋を出ていった。

 

 ――限界だった。

 

 止め処なく溢れてくる涙。

 

 楽しかった。彼と旅して過ごした日々が。今にして思えば、ほんの一瞬でしかない。

 

「……続くはずだったのに」

 

 奪われた彼との時間。……私はもう、取り戻すことはできない。

 

 言い残した沢山の言葉と、彼に伝えきれなかったこの想いを胸に、私の意識は深い闇の底へと沈んでいく。

 

 ――夢なら貴方に逢えるだろうか。

 ■■■■■、■……■。――■■■……■■■■……

 

「おい、子龍! 大丈夫か!?」

 

 どうすることもできない闇の中から連れ戻される。伯珪殿が心配そうに私を覗きこんでいた。

 

「あぁっ……」

 

 緊張で強張った身体を起こし、まだ震える手で顔を覆う。

 

 夢の中でさえ何もできず、私は彼を救うことが……。

 

 すぐにそれを否定するように首を振る。何を馬鹿なことをと。

 

 心が落ち着いてきたところで大丈夫だと言葉を紡ぎ、一呼吸置いて、そこでやっと大きく息を吐き出すことができた。

 

「湯が張れたって……」

 

「……そうか」

 

 立ち上がろうとすると、彼女が私を支えてくれる。

 

「何から何まで、申し訳無い」

 

「いや気にしないでくれ。あ、あのさ……」

 

「……何か?」

 

 彼女は何やら言いにくそうにして、結局。

 

「いや、やっぱり後でいい。私の質問は子龍が落ち着いてからでも構わない」

 

「……ふむ」

 

 

 湯気が立ち込める浴室で、湯に浸した布でひたすら身体を擦り続けた。

 

「髪の毛一本に至るまで、清めなければ……」

 

 全身が焼けるように痛い。隅々まで身体を洗い流す。湯船に肩まで浸かった後、頭の天辺まで沈む。

 

 己の身体から血の臭いがする。今はもう耐えられなくなってしまった。本当に武人なのかと問いたくなるが、武人の前に歴とした一人の女。……いや、それでもここまで毛嫌いすることは無かった。

 

 彼が私の匂いを気に入ってくれたときから、意識した。――嬉しかったから。

 

 だから私の残り香に彼が心ときめいてくれたことが、凄く恥しくて……、でも嬉しかった。ただ、その行為に及ぶ彼の姿は少し変態染みていて、傑作で……。

 

 ……己のことを棚に上げて、よく言ったものだ。

 

 二人粥を分けあったとき、いざ受け身になり、恥しいのを我慢して、覚悟した途端に肩透かしを喰らって……、耐えられなくなった私は彼の寝台へと逃げ込んだ。

 

 だが彼の匂いが先ほどの行為を思い起こさせる。甘く切なくて堪らない。身体が痺れていく。ずっとここにいたいのに、己の鼓動が煩くて、眠れなくて、おかしくなりそうで……、我慢できずにそこから逃げ出した。

 

 ……なのに忘れられず、翌朝、彼が朝食の準備で部屋から出ていくと、すぐさま彼の寝床へと潜り込んだ。まだ残る彼の温もりと残り香を、私の身体全身に擦りつけた。

 

 果して、どちらが変態なのか……。

 

 息苦しくなってきたので、そろそろ良いだろうと立ち上がり、己の臭いを確認する。

 

「……よし」

 

 湯船から出て身体を丁寧に拭いていると、伯珪殿がやってきて呆れながら叫んだ。

 

「いくら何でも、長すぎるっての!」

 

 ――ごもっとも。

 

 だがこれがその成果だと、髪の先を彼女に差し出す。

 

「……どうだ?」

 

「ん? ……あぁ、匂いか!」

 

 彼女が近付けて匂いを確かめる……。

 

「うん、血の臭いはもうしないな。湯上りの良い香りがしている」

 

 私は大きく頷いて、下ろし立ての服に身を包んで部屋へと戻る。

 

 その途中で伯珪殿が何やら耐えきれずに、興奮気味に私の名を呼んで、今一番聞きたくない者の名を口走った。

 

「なぁ、子龍。桃……いや、劉備を探している、んだけど、そ、そんなに睨むことないだろ!?」

 

 ……その名を聞くだけで、怒りが静かに湧き上がり、形ある物を壊したい。そんな衝動に駆られる。ただその質問に知らないとだけ答えたあと、彼女の両肩に手を置いた。

 

「伯珪殿」

 

「……な、何だよ」

 

 伯珪殿も誰も、知らないのだ。

 

 劉備が村を裏切ったことを。あの下郎が大手柄を立てたと、誰もが思っている。

 

 ――悔しい。北郷がいなければ誰一人助からなかった! それなのに、それだというのに――、私の心の中で彼が微笑んでいる。本当に良かったと。――それが悔しくて堪らない。――私に耐えろと呟き掛ける。

 

「もしその者を見つけたら、ぜひ私の前に突き出して頂けると助かるのですが……」

 

「わ、分かった」

 

 止めていた足を前へと踏み出すと、後ろで伯珪殿が何だよと呟く。

 

 事情を知らない彼女からしてみれば、確かに腑に落ちんだろう。だが説明する気にもなれない。説明しても無駄なのだから。

 

 気まずい雰囲気に耐えられなかったのか、彼女がまた口を開く。

 

「そ、そうだ。北、郷って言ったっけか? 官軍と合流して隣町に援軍を要請しに行ったって聞いたんだけど、まだ村に戻ってきてないらしい。お前があんな姿になってまで戦っていたのに、顔一つ見せないなんて! 私が引き摺ってでも連れてきてやるよ!」

 

 伯珪殿は何も知らない。それは残された村の者達の士気を保つために、私が流した苦し紛れの策なのだ。

 

 部屋の前で立ち止まり、扉に手を掛けて真実を告げる。

 

「――崖から落ちて死んだ。私の目の前でな」

 

 彼女は言葉を詰まらせて立ち止まる。

 

 それを横目で見届け、部屋に入って預かっていた彼の服を手に取り、そのまま彼の部屋へと向かう。

 

「――お、おい」

 

 突然別の部屋へ入っていく私の行動に、彼女は理解できず急ぎ足で追いかけてくる。

 

 伯珪殿の前で、構わず彼の服を着込んだ途端、――彼の匂いが切なくて――、強く、己を抱きしめた。

 

「その服――」

 

 遮るように、私は彼女に謝罪する。

 

「――無礼を許されよ、伯珪殿。まだ冷静になれぬのだ。――心がまだ、痛くて辛い」

 

 彼女は肩を落としてしまう。その姿が少し不憫でならない。

 

「すまなかった。まさか……」

 

 私は首を横に振る。彼女は何も悪くないのだから。

 

「今は亡き主も、私も。この村にいる誰もが貴女に感謝しております。ですからそう肩を落とさないで――!?」

 

「ど、どうした?」

 

「……違う」

 

「はっ?」

 

 寝具が真新しくなっていた。洗濯籠に目をやると、そこには別の寝具が無造作に入れられたままになっていて……。

 

 迷わず籠から取り出し、顔を近付けて匂いを確かめる。新しいのを洗濯籠へと放り込み、寝床を整えながら彼女に伝える。

 

「明日の朝、必ず貴方の話を伺いましょう」

 

「そ、そうしてくれると助かるよ。……私も北郷って奴に、一度会ってみたかったな」

 

 寝床へと私は潜り込み、大きく息を吸い込む。

 

「……我が主の匂い。少し嗅いでみますかな?」

 

「え、遠慮しておくよ。……って普通そんなこと言わないぞ?」

 

「ふふっ、そうですな。……本当に申し訳ない、伯珪殿」

 

 眼を閉じれば、全身の力が嘘のように抜けていく。

 

「今だけは……、今だけは愛した人だけを想っていたい。彼の部屋で、彼の寝床で、彼の匂いに包まれて、私は眠りたい――」

 

「……あぁ。お休み」

 

 彼女の優しい声に見送られ、意識の底へ、ふわりふわりと降りていく。

 

 そこは草原。風が頬を擽る。吹き抜けるような青空が広がり、暖かな日差しが私に降り注ぐ。

 

 ――そう。空には日輪が輝いている。

 

 手を伸ばそう。もう二人で歩くことはできないけれど……。

 

 この手で掴み取って見せる。もう誰も悲しまないように。辛い想いをしないで良いように。私は前に進みます。

 

 ――主。

 

 

 楽快との戦いを制し、見事姉の仇を討った趙子龍。

 

 だが彼女は愛する人を失ってしまう。

 

 目指した空は闇に消え、想い描いた夢は叶わない。

 

 それでも彼女は決意する。

 

 そこにあるのだと信じて、昇り続ける。

 

 公孫瓚と出会い、彼女の客将となり共に幽州へと向かう。

 

 そこで彼女は武を惜しみなく披露する。

 

 幽州に公孫瓚ありと、彼女の名を幽州全土にまで響かせるほどの働きをこなす。

 

 が、その間にも漢王朝は滅亡の道を突き進む。

 

 そして彼女は劉備、関羽、張飛との運命の出会いを果す。

 

 物語の歯車が動き出す。まるでそう定められているかのように……。

 

 

 部屋に優しい風が吹き込んできては、私の髪をそっと撫でる。

 

 携帯と呼ばれる不思議な道具の中で、最愛の人が頬笑みを浮かべていた。

 

「……主」

 

 そっと指で撫でる。寂しさだけが募っていく。

 

 机の上に置いた途端、彼は闇に包まれて消えてしまう。

 

 窓の外を眺める。また季節が変わろうとしている。

 

「――遠い」

 

 彼と目指そうとした場所は、辿りつくどころか、遠く懸け離れていく。

 

 腰に輝く剣に触れ、遠く輝く日輪へと手を伸ばす。

 

 この想いが、天に届くと信じて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

――まずは謝罪から。

 最後の最後で二カ月以上間が開いてしまったこと、お詫びします。この間に人生を左右する出来事が多々ありまして、重圧に弱いテスがそんな中で小説を書けるはずもなく、面接対策や、現実逃避でサボッ……忙しくしておりました。

 山場を無事乗り越えることができ、ほっとしたのも束の間、これからまた仕事が慌ただしくなるので(去年も同じようなことを言ってましたが)、執筆活動ができるのは来年一月の後半辺りからになります。その間は仕事に、雑用、隙あらば執筆、プロットの作成などなどなど、色々と勤しみたいと思います。

 

――本題に戻ります。

 ここまで読んで下さった皆さん! 本当に有難うございます! 第一章からお付き合い頂きまして、約一年が経過したところで、一区切りとなりました。

 

 ここまで続けてこれたのも、皆さんの応援があってこそでした。反応が悪いようならこの辺りで『打ち切り』も視野に入れていたんですが……。

 

 ――さて、十四章どうでしたか?

 

 色々と突っ込みどころが満載かと思いますが……、絶食してそんなに暴れられるのか、ご都合展開、最後の最後で白蓮投入とか、命を助けて貰ったくせに、真名は許さないのか、死亡フラグ、愛の台詞、楽快(笑)、突然の森、そして定番の崖。……もう、数え切れません。

 

 ……大ポカしてないか本当に心配だ。

 

 取り敢えず『昇龍伝、人』はここで終端です。『昇龍伝、地』の最後辺りで、二人を再会させたいなぁと考えておりますが……。

 

 これからの流れをざっと考えてみました。『幽州、三姉妹編(仮)→どこかの陣営で黄巾の乱(仮)→政変(仮)→同僚は曹孟徳(仮)→十常侍と董卓(仮)→逃避行(仮)→反董卓連合(仮)→青州黄巾(仮)』という感じで予定(仮)しておりまして、しばらく星の出番はありません。星、辛い想いをさせてごめんね。そして相変わらず呉の色が薄い! 

 

 ――『俺得』以外の何ものでもありませんが、勉強不足ですぐには書けそうにありません。

 ということで、嗜好を変えて別の作品を書きながら、勉強するのもありかなぁと考えたり。例えば、魏軍の出番がほとんどない、魏afterとか……誰得? あ、勿論俺得です。

 

 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております!

 


 
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