所変わってここは執務室。
壁には様々な武器が架かっており、ここが館の主の部屋であろうとは誰も思うまい。
普通の人がこの部屋を見て抱く思いがあるならば、それは「あれ?ここって武器庫だったっけ?」という戸惑いだろう。
それほどまでに飾られた見渡す限りの武器の数々・・・
それに埋もれるようにして、中で一人瓢箪を傾けながら月を見る桜色の長髪をした女性が横たわっていた。
「・・・・・・。」
見た目は二十代のそれと変わらない顔立ちをしており、既に娘三人がいる母だとは誰も思わないだろう。
実年齢は・・・筆者は命が惜しいので敢えてここでは書かないでおこう。まだ童貞卒業してもないし。
話が逸れそうなのでトンカチで叩いて修正。
しかしこの女性、見た目は誰もが羨む美貌を持ってはいるのだが・・・
「んぐッ・・・んぐッ・・・プファ!!やっぱ一日の終わりは酒に限るわねぇ~♪ここにつまみでもありゃ、さいッこうに贅沢なんだけどなぁー」
口を開けばどっからどう見てもいい年したオッサンなのだった。
女性の名は孫堅。通り名は『江東の虎』
当時小さな豪族でしかなかった孫家を、一代にして瞬く間に大陸に覇を唱えんとする勢力まで築き上げた猛者中の猛者である。
また、日々戦いに明け暮れ、親友である祭と共に各地を転戦した彼女は、三人の娘の父親でもあり、母親でもあるのだった。
「噂の御使い君のところから雪蓮の怒鳴り声が聞こえたけど・・・大丈夫かしら?」
心配そうな口ぶりで言ってはいるものの、端から見れば楽しそうに微笑んでるとしか見えない表情だった。
孫堅が再び瓢箪を仰ごうとすると、背を向けている後ろの扉から声が聞こえてきた。
「文台様~?起きておられますか~?」
ゆったりした口調で尋ねてきた声に孫堅は振り返ると、そこには扉を開けて此方を見ている眼鏡をかけた巨乳の女性が立っていた。
「おう、穏か。どうした~?」
「いえ、冥琳様から「玉座の間へとお越しになられるようにとお伝えしてくれ」との言伝を預かりましたので、それをお伝えに~」
顔は真面目なのだが、穏と呼ばれた女性はその口調のせいかあまり迫力が無かった。
「あっそ。ったく、あの子も王の扱いが荒いんだから困ったものよねぇ・・・」
よっこらせっと言いながら立ち上がる孫堅。完全にオッサンである。
そしてその場で瓢箪を煽り、中身を全部飲み干し終えると部屋に投げ捨てた。
「あぁ~、後で冥琳様に怒られても知りませんよ?」
「ふん、別に構いやしないさ。この部屋はあたしのなんだし、勝手だろ?」
カカカッと笑いながら歩き出した孫堅に続き、穏も後に続いて玉座の間へと歩いていった。
俺が部屋から案内された場所は、所謂玉座の間だった。
しかし、聞かされていた話で想像したよりは大した大きさも無く、豪華さもあまり感じられなかった。
まぁ簡易型なんだろうな。
「・・・・・・。」
しかし、一つだけ疑問に思うことがある。
何故俺は体をいきなり縛られたんだ?
その俺の雰囲気を感じ取ったのか、眼鏡をかけた女性が声をかけてきた。
「悪いな。いかに天から来た御使いと言えど、我等の王に何もしないという確証は無いからな。縛らせてもらったと言うわけだ。」
「・・・まぁいいですけど。」
良くないけど。
(ちょっとは考えなさいよ・・・。こうなることは予想できたはずでしょう?)
突然一香が意識を同化させてきた。
って、起きてたのかよ。
(そりゃ私の体でもあるんだし?今後が左右される場面で寝ていられるほど図太くはないわよ。)
ごもっともで。
ていうか俺いつまでここに座ってなきゃいけないのだろうか・・・
(私が知るわけ無いでしょ。)
それもまたごもっともで。
俺達が内側で会話をしていると、頭上から声をかけられた。
「北郷、立て。」
「あ、はい。」
命令されるがままに立ち、前を見るとそこには玉座の前で此方を見る二人の女性がいた。
一人は先程部屋から一緒に出た人だけど、もう一人の女性はその人よりも若干年上に見えた。
もしかして姉妹とか?
「雪蓮、この子がそうなのか?」
「ええ、母様。この子の名前は確か・・・北郷一刀。『今』は判らないかもしれないけど、もう一つの名前があって、その名前が一香って名前だったはず。」
「は?一人に二つの名前?・・・雪蓮、お前頭大丈夫か?」
「大丈夫よ、問題ないわ。」
怪訝な顔でその女性は俺の事をジーッと見てきた。
なんだかいつもそうだけど、女の人にジロジロ見られるって言うのはどうも苦手だ・・・
(へ~?村の人達からの視線はそうでもなかったのに?)
うるせぇ!!あれは複数同時だったから特定し辛かっただけで、今は明確に相手がわかるじゃんか。
「ねぇ、君。雪蓮からさっき聞いたんだけど、この孫家に仕えてくれるってホント?」
値踏みするような視線はそのままに、その人は俺に聞いてきた。
「・・・・・・はい。そうです。」
「何故そう決心したのか教えてくれるかしら?」
あくまで冷静に、しかし嘘をつくことは許さないとでも言うような眼で見てきた。
「・・・・・・俺達は今まで行く先々の人に嫌われてきました。その言葉に傷つき、傷つけられてきました。ですが・・・」
そこで俺は言葉を切り、ある女性に目線をやった。(まだ名前も教えてもらってないから一応こうするしかなかった・・・)
「思い出したんです。確かに俺達は他の人々から嫌われたりしたけど、それでも俺達の事を好意に思ってくれていた人がいたってことを。その人は言ってくれました。『変な力があったとしても、その力でどんなに嫌われたとしても、誰かの為にその力を使ってやれ』と。そこで俺は思ったんです。この人の為に力を使いたい・・・と。」
そして目線を目の前の女性に戻して俺は言った。
「それが俺の理由です。」
「・・・・・・・・。」
女性は俺が視線を向けた方へ見ると、微かにニヤリとした。
「・・・ふーん。それが君の理由なのね。・・・・・・その心意気、気に入ったわ。」
いつの間にか手にしていた短剣で、女性は俺を縛っていた縄を切った。
「歓迎するわ、天の御使い北郷一刀。・・・ようこそ、我が呉へ。」
手を差し伸べながら優しく微笑んだ女性は、とても美しかった。
「・・・・・・此方こそよろしくお願いします。」
俺はこの瞬間、初めて自分の居場所が出来たことにまだ気付いていなかった。
「それじゃあ自己紹介といこうじゃないか。」
俺を立たせた後、女性は玉座へと向かいながら言った。
「私の名は孫堅。字は文台よ。まぁ、通り名としては江東の虎とも呼ばれているけどね~」
孫堅と名乗った女性は、先程までの口調とは一変して急に崩れた感じになった。
てか口調が変わるの幾らなんでも早すぎって思うのは俺だけだろうか?
(私もそれに同感よ)
おお、一香お前もそうなのか。
「次は私ね♪」
そう言いながら孫堅さんに並ぶ女性は微笑んでいた。
「私の名は孫策。字は伯符よ。よろしくね一刀・・・と、一香?」
(なんで私は『?』が付いてんのよ!!)
俺の頭の中で一香の怒り声が反響する。
やめてくれ、脳内がグワングワンするから。
「私の名は周瑜。字は公謹だ。」
周瑜さんは眼鏡をクイッとしながら挨拶をしてきた。
「ワシの名は黄蓋。字は公覆じゃ。これから宜しく頼む。」
・・・・・・お告げで一応説明みたいのは聞いたけど、本当みたいだな。
(そうね。名前が全部三国志の超が付くほどの有名人だものね。)
「最後は私ですね~♪私の名は陸遜。字は伯言ですぅ~」
なんだこの力が抜けそうな発声音はッ!!
(・・・・・・イメージと全然違うんだけど・・・・・・。もっとこうかっこいい男の人かと期待してたのに・・・・・・。)
流石に性別までは言ってくれなかったもんな、あの女の人。
お告げで言われたことにはこういうのがあったのだ。
『貴方達がこれから行こうとしている場所では、ある歴史の人物達の名前をした人達がいます。しかしそこで戸惑ってはいけませんよ・・・』
まぁ部屋で公謹とか言ってたから大体は予想はついていたんだけどね。
「今ここにはいないヤツもいるけど・・・まぁそれについては随時来てからにしましょうか。」
孫堅さんは玉座にドカッと座りながら言った。
「それにしても一刀。お前にはどうして字が二つもあるの?」
字って・・・
「えぇーと、それは・・・明日の朝に判ると思うので、それまで待ってくれればありがたいです孫堅さん。」
「さん付けなんてよして頂戴な。あと敬語も。むずかゆくって敵わないわ。」
ジト目で言われた。
「一刀?私達は今をもってして仲間になったのよ?呼び捨てにしても別に構わないわよ?」
孫策さんがそう言ってきた。
でもそんなこと言われてもなぁ・・・
「とにかく、これからは全員呼び捨てでいいから。判った一刀?」
「え、えーと・・・」
「わ・か・っ・た・?」
「・・・・・・わ、わかったよ。孫堅・・・・・・」
うわぁ、なんだかとんでもなく恐れ多いことやってしまっているような気がしてならないんだけど・・・
「よろしい。・・・じゃあ今日はこれで解散しましょうか♪」
にこやかに笑いながら解散宣言をする孫堅に、俺は内心うな垂れた。
・・・・・・なんだかこれから先、きっとこの人に振り回されるに違いないだろうなぁ。
翌日。
与えられた部屋(もちろんあの鉄格子の部屋じゃない)で私は目を覚ました。
あの後一刀は周瑜からこの部屋に案内されて、そのままベットに寝転んじゃったみたいね。
私は寝ている間に凝り固まった体をボキボキと伸ばしながら、そういえば結局昨日は何も食べずじまいだったことを思い出した。
・・・・・・確か朝食とかになったら侍女が知らせに来てくれるんだっけ?
「あ~お腹減ったよぉ~・・・」
グギュルルルルルル・・・
私がベットに突っ伏していると、まるでタイミングを見計らったかのように扉が開けられた。
「北郷様、朝食の準備が整いまし・・た・・・?」
「ホントにッ!?いやぁナイスタイミングだよ~・・・って、どうしたの?」
今一番聞きたかった言葉と一緒に、何故か固まってしまった侍女に私は首を傾げた。
「えっと・・・北郷様、ですよね・・・?」
「ええ・・・そうだけど。」
「あの、男の方だとお聞きしていたのですが・・・」
あぁなるほどね。それでか。
「あー・・・とにかく、朝食が出来たんでしょ?案内してくれるかしら?」
頭にクエスチョンマークが見えるほどに、侍女は混乱していたけど、とりあえず疑問より仕事を優先させたようだ。
「では案内させていただきます。どうぞ此方へ・・・」
そんなこんなで共用の食堂に到着。
場所は私の部屋からそんなに遠く離れてはいなかった。
侍女の人は案内し終えるや否や、さっさとどっかに行ってしまって今は私一人だ。
「う~ん、美味しそうな匂いがしてるわねー♪」
中に入ると、そこには既に周瑜が食事を取っていた。
周瑜は私を見るなり一瞬「誰だコイツ」的な目になったけど、やがて思い出したのか口を開いた。
「お前は確か・・・・・・イチカ、だったか?」
あ、やっぱり覚えてくれてたんだ。・・・ちょっと嬉しいかも。
「そうよ。やっぱり最初は誰だか判らないわよね・・・」
「いやすまない。此方も昨日説明してもらったにも拘らず。それにしても・・・」
周瑜は私を値踏みするような目で全身をジーッと見てきた。
「な、何よ。」
「いやなに、改めて見ると男の時と違って、随分と可愛いらしいじゃないか。」
「そりゃまぁね。一応日が昇れば心と体は入れ替わるんだし。当然でしょ?」
私はそう言いながらボサボサだった髪をポニーテールに結んだ。
朝日を受けて青色の髪が光り輝く様は、自分でも気に入っている。
「おう?冥琳と・・・確かイチカじゃったか?早いの。」
と後ろから寝ぼけ眼で此方を見る黄蓋の姿があった。
「祭殿、おはようございます。」
「おう。ほれイチカ、さっさとメシを取りにいかんか。」
腰に手を当てて黄蓋は私にそう言って来たが、それより私は昨日から疑問に思っていることを聞いてみた。
「・・・ねぇ、昨日から気になってたんだけど、どうしてお互い名前でも字でもないので呼び合っているのかしら?もしかして愛称とか?」
その言葉に二人は驚いたようだった。
「一香、お主『真名』を知らんのか?」
真名?
「何よそれ、聞いたことが無いんだけど?」
「・・・・・・天の国では真名が無いのか?」
「真名ってのが何なのかは知らないけど・・・けどそんなの聞いたことも無いわよ?」
私達は苗字と名前しか聞いたことないし。
「ふむ・・・一香、真名というのはその人の本当の名の事を言うのだ。その人の本質、とでも言えるだろう。この名は本来自分が心を許した相手や、家族にしか呼ぶことを許さないものなんだ。例えば、私の名である周瑜は誰でも呼ぶことが出来るが、私の真名である冥琳は私が許した相手ではないと呼んではならんのだ。」
・・・・・・へぇ~。そうだったんだ。
「もし本人の許可無く呼んだらどうなるわけ?」
「まぁ最悪その場で切り捨てられても文句は言えまいだろうな。」
「・・・・・・。」
良かったね一刀。アンタ昨日何度か言いそうになったみたいだけど、言わなくて正解だったわね。
「ということはなんじゃ?一香、お主には真名は無いのか?」
黄蓋が腕を組みながら聞いてきた。
「無いわね。もし強引に当てはめるとしたら、それは私の名前である一香や、一刀に当たるんじゃないのかしらね?」
それを聞いて今度は目を丸くして二人は驚いた。
・・・・・・そんなに驚くことなのかしら?
「当たり前だろう。初対面でいきなり真名を預けるなど、考えられぬことだからな。」
「あ、そうなんだ。まぁ私は別に気にしないから、これからも一香って呼んでくれると嬉しいんだけど・・・」
此方の慣わしとか知らないし、私としても、一刀としても別に構わないと思うし。
「そ、そうか。判った。・・・・・・しかし余程不思議な所なのだな、天の国は。」
「一香よ。メシを食べながらで良いから他にも少し話さんか?お主の居た天の国とやらについてもっと聞きたいのじゃが。」
いつの間にか二人とも私に興味深げな視線を送ってきてるし・・・。きっと初めて日本に来た時のパンダとかもこういう視線を受けてたんだろうなぁ。
「あーはいはい。判ったわよ。出来る限りの質問には答えてあげるわよ。」
私は溜息を付きながら、二人に対して了承の返事を返したのであった。
南「機神と~」
雪「雪蓮の~」
南・雪「おたよりコ~ナ~」
南「ちっと間を開けてうpしてみたぜ、機神だ。」
雪「少し日が過ぎたけど覚えてくれているかしら?雪蓮よ♪」
南「今回は雪蓮のお母さん、孫堅が出てきたがいかがであっただろうか?」
雪「はぁー・・・今回から母様が出て来るのか・・・」
南「ん?なんだ嬉しくないのか?他の外史でも滅多にお目にかかれないんだから喜べよ。」
雪「アンタねぇ・・・あの人がどれだけ無茶苦茶な人か判らないからそんなことが言えるのよ。」
南「というと?」
雪「例としてあげるなら・・・そうねぇ、虫も殺さないような笑顔で素手で虎をぶちのめしたり、まだ小さい頃の私を日夜戦場へと連れて行ったり、一ヶ月間山に篭ったと思ったら、いつの間にか野生化してるわ、他にも熊の家族と仲良くなったり・・・」
南「アンタの母さんどんだけハッスルなんすか。」
雪「後ね、本文中ではアンタ書けなかったみたいだけど、あの人の実年齢はね・・・・・・」
孫「・・・私の年齢がどうしたって?雪蓮?」
雪「げぇっ!!母様ッ!?」
孫「雪蓮・・・ちょっと話があるからさ。・・・・・・ツラ貸せや?な?」
雪「ぎゃああああああ!!お~た~す~け~・・・・・・」
南「・・・・・・雪蓮。南無・・・。という訳で第三話だったが、意見とかこのコーナーでやる企画とか何か考え付いたらコメントしてくれや。ぶっちゃけ言ってネタが今のところ考えつかねぇ・・・。そこんところよろしくな!!ではごきげんようッ!!」
・・・・・・・・その頃のスタジオ裏では。
孫「雪蓮?お母さん怒ってないからこっちに来なさいよ。ね?」
雪「嫌ぁぁぁぁぁ!!そんなゴツイ鈍器持ちながら笑顔で言われても説得力なんて皆無よッ!!皆無ッ!!」
孫「いいから待てッつってんだろうがこの馬鹿娘ェェェェェ!!」
雪「ヒョエ~~~~~~~~~~~(泣」
※この後も約一時間位追い掛け回された雪蓮であった・・・
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江東の虎、孫堅登場!!