No.187169

魏√after 久遠の月日の中で14

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で14になります。前作の番外編から見ていただければ幸いです。

それではどうぞ。

2010-11-29 23:25:59 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:23341   閲覧ユーザー数:18789

宿前に着き漸く華雄は手を離してくれた。

するとすぐに部屋を取り荷物を置き金剛爆斧を取り出した。

 

「一刀!鍛錬だ!」

 

「え、ちょ……」

 

休むんじゃなかったんだろうか。

瞳を爛々と輝かせ鼻息荒く迫る華雄。

興奮からか呼び方が戻ってしまっている事に苦笑い。

 

「霞の武は私と同じかそれ以上。神速と言われる程の槍撃は私ですら防ぐだけでやっとだ。初めて仕合う一刀では……」

 

早口で捲し立てる彼女の肩を軽く掴む。

 

「痛ッ!」

 

途端、痛みから身をよじり肩を庇う。

涙を眼に浮かべ訴える華雄に溜め息を吐く。

 

「そんな怪我で鍛錬なんてできないでしょ。それに今日は朝から色々あったし、休もう」

 

「ぐ、しかし……」

 

渋る華雄の横を通り過ぎ部屋に入る。

 

「……聞いて欲しいこともあるしさ」

 

「む……そうか」

 

納得してくれたようで俺に続き部屋に入る。

 

 

俺が寝台に座ると、華雄も金剛爆斧を壁に立て椅子に座る。

数秒の沈黙を挟み、俺は口を開いた。

 

「まず初めに、俺は五年前まで天の御遣いと言われていたんだ──────

全てを話し終え、一息つく。

華雄は最後まで口を挟まずに聞いてくれた。

両目を瞑り黙る華雄。重苦しい空気が部屋を包む。

 

どのくらい経っただろうか。華雄が眼を開いた。

 

「そうか、分かった」

 

彼女の口から発せられたのは、それだけだった。

 

「……え、えっと」

 

「何だ?まだ何か話があるのか?」

 

面倒くさそうに言う華雄に、俺は驚きを隠せない。

 

「何か聞きたい事とか、言いたい事とか無いの?」

 

「ん……一刀の素性はとても驚いたが、さっきも言った様に私は愛だの恋だのはよく分からんからな。一刀がその行動に至った考えなど私には計り知れん。まぁ霞の友人から言わせてもらうと、あいつは今でも一刀の事を待っているだろうな」

 

その一言が、心に突き刺さる。

 

「そして武人として、これだけは言わせてもらおう。……明日の仕合では決して、手を抜くな」

 

鋭い眼で睨みかけられるその言葉に深く頷く。

俺も武人の端くれ。華雄の言っている事は理解できる。

 

「……言うまでも無かったか。では私は霞と話をしてくる。あいつと会うのも久しぶりなのでな。一刀は明日に備えて鍛錬でもしていろ」

 

「了解。後呼び方なんだけど……」

 

「ふふ。二人きりの時ぐらいは、別にかまわないだろう?」

 

意地悪な笑みを浮かべる華雄。

自分の顔が火照るのを感じながら、小さく頷く。

俺を見てその笑みを満足気なものに変え、華雄は部屋を出て行った。

「はーーー」

 

両手を投げ出し寝台に仰向けに倒れる。

華雄にはああ言われたが、今はゆっくり休みたい。

 

気を抜くと同時に胸に襲う鈍い痛み。

村に着くまで自分を誤魔化していたが、やはり怪我をしていたようだ。

 

原因は恐らく、あの熊から受けた一撃。

いくら氣で防いだといっても、無防備に受けたのだ。

これは祖父との鍛錬中によく慣れ親しんだ痛みだ。

恐らく、肋骨にひびが入っている。

 

こんな状態で霞と戦えるのか?

そんな不安が胸を掠める。

だが泣き言は言っていられない。

今の自分が出せる最高の武を彼女に示すのだ。

 

目を閉じる。

凛々しく佇み飛龍偃月刀構える霞。

そこにはまったくといって良いほど隙が無い。

どう攻める?いや、守りに徹するべきだろうか。しかしあの神速と言われる程の槍撃を受け切れるのか?

自問自答を繰り返し行うイメージトレーニング。

俺は寝台で体を休めながら、鍛錬を行った。

朝起きると顔の腫れはすっかり引いていた。

痛みも無く、すっかり元通りだ。

 

「……まぁ、必要だよな」

 

華雄は立会人として、すでに仕合場に向かっている。

独り言を呟き、包帯を手にする。

昨日と同じ様に顔を隠す様巻終えると、一心を掴み立ち上がる。

 

「よしっ!」

 

包帯の上から両頬を叩き気合を入れる。

高揚する胸を携えながら俺は仕合場へ向かった。

 

 

 

「では確認するが、何でもありの一本勝負だ。禁ずる事は一つ、相手の命に関わる怪我をさせる事。多少のものなら目を瞑る。準備は良いか?」

 

村の外れにある開けた地、整地されていない広場に俺と霞が武器を携え立ち、少し離れた所に華雄が腕を組みこちらを見ている。

華雄の言葉に俺は頷く。霞も頷き、笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「はは、華琳の言うてた『木剣の男』っつうのは、やっぱりあんたの事やったんか」

 

「木剣の男?」

 

ここに来て初めて言葉を返す。

俺の声を聞き、霞が何故かびくりと体を震わせるが、すぐに何事も無かったかの様に装う。

 

「……聞いとるでぇ。木剣で鉄をも切り裂く腕前。噂の真偽、ウチが試したる!」

 

霞は話し終えると共に腰を落とし武器を構える。

今は彼女の言葉の意を考える時ではない。

ひしひしと感じる彼女の闘気に冷や汗を流しながらも、一心を構えた。

 

「始め!」

 

華雄の開始の合図と共に地を蹴り駆ける。

向こうもまったく同じタイミングで動き始める。

霞との距離が一瞬で詰まり、金切り音と共に武器が交差した。

初撃からの鍔迫り合い。

霞は一瞬間の抜けた顔をし、すぐに笑みを浮かべた。

 

右足を振り上げ脇へ強襲するが後ろへ飛ばれ避けられる。

すかさず追いかけ一心を横へ薙ぐが、軽々と弾かれた。

すぐさま体制を立て直すが、既に眼前まで飛龍偃月刀が迫っている。

 

紙一重で避けると、それを皮切りに連続して繰り出される槍撃。

一撃一撃にあまり重さが感じられない。

避けきれないものは弾き、受け流す。

華雄との鍛錬の成果だろうか。金剛爆斧の一撃はこんなものじゃない。

 

霞はわざとらしく大きく振りかぶり横に凪いだ。

そこに隙は無く、大きく後ろへ跳躍し距離をとる。

 

「えぇ……あんたえぇなぁ!その木ぃへし折るつもりでいったのに、びくともせーへん!」

 

「そんな柔な物じゃないからね」

 

笑みを絶やさない霞に、肩を竦めて答える。

思った以上にうまく捌けている。

しかし自分の想像した霞は、こんなものじゃない。

彼女はまだ全然、本気じゃない。

 

「正直舐めとった。でも分かった。あんたは只者やない。本気ださせてもらうでぇ」

 

空気が変わった。

前となんら代わりの無い構え。

しかし先程とは比べ物にならないほどの闘気が発せられている。

全身が重圧感に襲われ、体が強張っている。これが霞の本気。

 

霞が駆け出す。

神速の槍撃が、来る。

 

「うらぁああああ!!!」

 

全神経を集中させ、無音の世界を展開する。

向かってくるのは矛先。つまり突きだ。

そこまで理解した時には、既に霞との距離は無かった。

 

一心を縦に構え刀身部分へ突きを当てる。

飛龍偃月刀の切っ先を刀身を縦に削らせるように滑らせ、体を回し大きく振りかぶる。

一連の動きはイメーイトレーニング通り。うまく往なす事ができた。

 

「ちぃっ!」

 

霞の舌打ちを耳にしたと同時に、突きの動作で伸びきった腕へ一心を振り下ろした。

「おらぁ!!!」

 

すんでの所での偃月刀の柄に阻まれる。

あの状態から無理やり軌道をずらしたのか。

相変わらずこっちの武将は無茶苦茶だ。

 

会心の一撃を阻まれたものの、直ぐに気を取り直し攻め立てる。

体制を立て直される前に畳み掛けるのだ。

 

俺には華雄のような力は無い。どちらかといえば速さと手数で押す方だ。

しかし相手はあの張文遠。速さはもちろん、重さも俺とは段違いだ。

数合打ち合っているうちに、霞には余裕が伺える様になった。

 

反撃の一振りを躱す。と、霞は追ってこずその場に留まっていた。

 

「ひゃぁ驚いた。あれをあない綺麗に返されるなんて思わんかったわぁ……」

 

でも、と霞は続ける。

 

「もう手の内は無いんやろ。楽しかったけど、終いにするでぇ」

 

その言葉に冷や汗が浮かぶ。

彼女の言う通り、イメージトレーニングで彼女に一太刀入れられたのはあのカウンターのみ。

想像以上にうまく決まったあの一撃を防がれては、詰んだも同然だった。

 

だったら。

 

「ふぅぅぅぅ……!」

 

目を閉じる。丹田に力を入れ、氣を四肢と一心にできる限り込める。

正眼に構えた一心が淡く光を纏い、体と一体化した様な錯覚を覚える。

一連の動作を終え、カッと目を開く。

 

自分の持てる限りの力を尽くす!

 

俺を見ていた霞は、身体を震わせ口角を吊り上げた。

 

「ええ、ええなぁ……まだそんな手ぇ残しとったんか……久しぶりやでぇこんな気持ち……」

 

飛龍偃月刀を構え直し腰を屈める霞。

 

来る!

 

「でりゃあああああああ!!」

 

「おぉおおおおおおおお!!」

 

間を置き三度目の刃の交差。

初撃で火花を散らし、孤影の乱舞が始まった。

地面が初めて赤く染まる。

それと同時に脇腹に鋭い痛みが走った。

 

「ぐっ!」

 

偃月刀の切っ先が脇を掠めたのだ。

痛みに堪え一心を振るう。

最初とは比べ物にならない速さで繰り出される槍撃。

これが神速。躱しきれない。

 

今まで見たいに受け流しはしない。

氣で限界まで強化した身体なら、霞と打ち合えると踏んだ。

そしてその読みは間違いではなかった。

 

同時に打ち合うと霞の両手が浮き懐が開いた。

透かさず踏み込み肘を打つ。

 

「かはっ!」

 

鳩尾に決まった一撃に、霞が苦しげに呻く。

追撃をしようとさらに踏み込むが、速度の衰えない一振りに遮られた。

 

「くっ」

 

予想だにしない不意打ちに体制が崩れる。

ここぞとばかりに連撃が襲い掛かる。

 

突きが肩に掠り血潮が舞う。

脇への横薙ぎを辛うじて一心を縦に防ぐ。

が、続く正面からの蹴りを胸に受け肺内の呼吸を持っていかれた。

 

衝撃に身体が浮き、後方数メートル飛ばされた所で着地し膝を着く。

 

「終いや!!」

 

怒号と共に振り下ろされる槍撃。

 

見えた!

 

霞む意識の中一歩踏み込み懐へ潜った。

距離は零。最後の力を振り絞り一心を振るう。

 

 

「ッ!!」

 

胸を襲う激痛。

痛みに意識を割き動きが一瞬止まってしまった。

 

ゴッ!

 

鈍い打撃音と共に頭に衝撃が襲う。

痛みを感じる間も無く意識が闇に飲み込まれた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

飛龍偃月刀の柄に頭を打ち、木剣の男は倒れた。

最後の一撃。男に懐を取られた時には負けを覚悟した。

結果は辛勝。男が剣を振るう寸前に飛龍偃月刀が振り下ろされた。

 

最後に感じた違和感。この男は本調子では無かったのでは?

 

「……ふぅー。まぁええか」

 

仕合の最中感じ取った男の本気。

この男は紛れも無く全力を尽くしてくれた。

 

何か憑き物が取れた様な心地良さ。

火照る身体。頬を流れる汗を袖で拭う。

 

ふと、目の前で倒れる男の顔が目に付いた。

包帯に覆われ伺えない表情。

昨日決めた事を実行しようと包帯へ手を伸ばす。

 

が、掴む寸前横から出た腕に動きを止められた。

 

「何をする気だ」

 

視線を横に向けると華雄が自分の腕を掴み憮然と立っていた。

 

「ウチとここまで戦える男が居るなんて思わんかった。お互い全力を賭して戦った相手の顔が見たいと思うのは当然のことやろ?」

 

「あぁ、だが一はその事を望んでいない。不条理だとは思うが、我慢してくれ」

 

本当に済まなそうに言う華雄に、無理やりに事を進める気にはならなかった。

 

「……なら、しゃあないな」

 

身を引くと、華雄が腕を放す。

飛龍偃月刀を肩に担ぎ、背を向ける。

 

「もう許昌に戻らんといかんから、そいつの介抱頼むわ」

 

「言われなくともやるさ」

 

華雄の男を見る目が、やけに熱を帯びている。

 

「……はっはー。華雄も乙女になったなぁ!」

 

「んなっ!…………うるさいっ」

 

華雄は悪態をつくが、否定はしなかった。

これは本当に……

 

「ははっ」

 

自然と笑みが零れる。旧友の初めて見る女の姿に、大きな喜びと、少しの嫉妬を感じる。

 

「……んじゃ、行くわ」

 

思い浮かぶ彼の姿。忘れようとはせず、心の奥底に大切にしまいこむ。

目尻に浮かんだ涙を拭い、その場を後にした。

あとがき

 

 

どうもふぉんです。

とってもとっても難産でした……うまく纏められたか不安です。

時間はかかりましたが、いつもより要領大ということでお許しを。

 

自分はなるべく効果音を文章に書きたくはありません。

ですが、文章力の無さにより書かざるを得ない場合がございます。

お目汚しになるとは思いますが、ご了承を。

 

次回らへん息抜きに短編を上げたいと思います。

 

久遠シリーズもそろそろ架橋かな?

半分は終わっているはずです。予定では、ですが……

 

それではまた次回作で会いましょう。


 
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