「あれから一年…、待たせすぎとちがうか?」
ウチは小川近くの木に腰を降ろし、杯に酒を注いだ。
杯は二つ、ウチの持つ杯と誰も居ない隣に置かれた杯。
此処はウチにとって大切な場所。
かけがえの無い思い出、って言うもんなんやろな。
今日は三国の平和が一年続いた記念のぱぁてぃ。
えぇ酒は振舞われるし、各国の酒飲みがぎょうさん来る。
そいつら相手に酒を飲み交わすんも悪くない、けど……
「どうしても、最初はアンタと飲みたかってん。」
ウチ以外誰も居らんから、‘キンッ’と杯を合わせた音が響く。
一人呟いた乾杯は直ぐに虚空へと消えていった。
「せや、ウチ話したい事がいっぱいあんねん。耳かっぽじってよぅ聞きや?」
そして、ウチは語りだす。
…一刀が消えた後のウチらの事を。
真恋姫無双 魏伝 ~君の名を呼ぶ~
ウチが城に戻ったとき、酒宴はまだ続いてて笑顔も絶えず浮かんでいた。
これからその笑顔を奪うとなると、やり切れん気持ちになる。
…恨むで、一刀?こないな憎まれ役まで押し付けるやなんて…。
どうやって魏の皆に一刀の事を伝えようか考えてたら
『霞ぁぁああ、一刀とりょこいってたにょらぁぁぁ!!』
と、飲みすぎて猫になった惇ちゃんがウチに引っ付いてきた。
どうやらウチと一刀が二人で抜けてたんはバレてたらしい。
『…そら秘密に決まっとるやろ、いくら惇ちゃんでも教えたらへんで。』
一刀の名前がでた出た瞬間、胸がズキリと痛んだ。
笑ってごまかそうと思たけど、正直笑えてる自信なんかまったく無かった。
『うぅぅ~~、にゃら一刀はどこいったのら~~!!』
…惇ちゃんは何とかなったみたいやけど、正直他のやつら相手やとごまかしきれん。
だから、うちは…
『惇ちゃん、よう聞きや、一刀はな……』
ウチから一刀の場所が聞けると思た惇ちゃんは静かに聞く態勢になった。
普段からこう素直やと一刀も苦労せえへんかったやろに…。
『一刀はな、消えてしもてもうどこにも居らへんねん…。』
ウチと惇ちゃんの間に沈黙が流れた。
…多分、何を言うてるんか理解出来てへんのやろな。
『にゃにを言ってるのら、一刀が消えるわけ、ないのら!!』
『冗談なんかや無いで、…消えたんや。ウチの前から…ウチらの前から、この大陸から…』
途端、惇ちゃんの体が震えて…
気づいたときには押し倒されとった。
「あん時は焦ったで、いつの間にか倒されとったからな。」
そう言ってウチは酒を飲み干す。
今はこうして笑い話に出来とるけど、あん時はホンマに焦った。
なんせ魏の大剣、夏候惇に思いっきり押し倒されとったんたから、焦りもする。
一回勝った事はある言うてもあんなん、たまたまに過ぎん。
それに、あん時勝てたんは一刀が居ったから…
ウチは酒を注ぎ、また語りだす。
『ふざけるのも…いい加減にしろ、霞ぁぁ!!』
ウチの上に乗った惇ちゃんが大声で叫ぶ。
信じられんのやろな、一刀が消えたなんて言われても…。
けど…
『ふざけてなんか無いわ。さっきも言うたやろ、冗談やないて!!』
大声を出した事で、ウチと惇ちゃんの周りに将が集まり出す。
けれど、ウチと惇ちゃんにはそんなん気にしてる余裕は無かった。
『まだ言うか、いくら霞とてそれ以上は……』
そう言って拳を握り腕を振り上げる惇ちゃん、そしてそれが振り下ろされそうになった時、
『止めなさい、春蘭!霞!』
…華琳の声が響いた。
華琳の声に動きを止めた惇ちゃん、ウチの上から退き、華琳の方に向き直す。
ウチも立ち上がり、華琳の方に体を向ける。
『それで?このめでたき日に貴女たちは何をしているの?』
『そ、それはですね………』
惇ちゃんは口ごもって喋らんようになる。
華琳相手やと、さっきまでの惇ちゃんが嘘に思えてくる。
『春蘭じゃ相手にならないわ、霞。』
そう言ってウチを見る華琳の眼は、全てを語れと、そう訴えているように見えた。
『…ウチと惇ちゃんで話し合いして、行き過ぎただけや。どっちも本気や無かったよ。』
『そう。なら、何の話し合いをしていたのかしら?』
華琳のその言葉にウチも惇ちゃんも、黙るしかなかった。
けれど、いつか言わなアカン事やからウチは口を開いた。
『一刀の事や……』
その言葉に華琳は驚いたように目を丸くした。
『あら、珍しい事があるものね。春蘭が一刀のことで熱くなるなんて。』
華琳は小さく笑って惇ちゃんを見る。
そこで終われば、笑い話になったんやろうけど…
『…華琳も、魏の皆もよう聞いとき。ウチは何度も言うつもりは無いさか。』
一度間をおいて、そして……
『一刀は…この大陸から消えた。これは嘘でも冗談でも何でも無い。』
辺りがシィンと静まり、沈黙がこの場を支配した。
『ね、姐さん?今…何て言いました…?』
真桜が何とか聞き返してきた。
その眼は今聞いた言葉が冗談であることを願っているように見えた。
『……一刀は消えた。ウチらの前から、この大陸から。どこを探しても、もう見つからへん。』
『そんなはずありません。隊長が…私たちを放って消える筈ありません…。』
『そうなの、きっと…どこかに隠れてる筈なの…』
まだ信じられんのか、北郷隊の二人が周りを見渡し始めた。
…それでも、真実からは逃れられへん。
ウチがここでごまかしても国に帰ったら、傷つくんは自分自身なんやから。
『ウチは嘘言うてるつもりは無い。…いい加減受け入れやんかい!!』
こいつらの傷が少しでも軽くなるんやったらウチは悪役にでも何にでもなったるわ…
…そうして、皆の抑え切れん何かがウチに向かおうとした時、
『静まりなさい!!貴女たち!!』
今まで沈黙を保っていた華琳の声がまた響いた。
『貴女たちは今何をしようとしたか分かっているの!?辛いのは貴女たちだけではないのよ!
霞だって辛いに決まってるじゃない!!』
…その言葉に皆俯いてしまう。
『霞、一刀はなにか言っていたかしら?』
『…絶対、帰ってくるとだけ……』
『そう、なら今は一刀のその言葉を信じましょう。…辛い思いをさせたわね。』
『…かまへんよ。辛いんは皆一緒やさかい…。』
そして、その日はそのままお開きになった。
「そっから皆が立ち直るまでかなり時間かかったんやで?」
一通り話し終わってからまた酒を飲む。
別に誰かが聞いているわけや無い。
ウチがただ一人話してるだけ。
けど、聞かせたかった奴がいてる。
聞いている筈が無い、聞こえている筈が無い。
けれど…
「惇ちゃんは調練中にボーッとするし、妙ちゃんも仕事に身ぃ入っとらんし、三羽烏は元気無いし、季衣は全然食べへんようになるし、流琉は料理失敗するし、軍師らは一刀の残した政策を実現しようと躍起になっとるし、天和たちも新しい世話役に当たりだすし、華琳かて夜な夜な泣いてたんやで?」
そしてウチは酒を飲み干す。
話し終えるまでかなりの酒をのんだ。
そのせいやと思う。こんな…感傷的になってしもたんは。
「…ウチかて寂しいんや、いつまで待たすつもりや。」
一度出してしまった想いは、止まることが出来ん。
会いたい、逢いたい、一刀に逢いたい……
そんなウチの弱い気持ちが…ウチの耳にある声を届かせた。
ーー…そう言うなよ、俺だって必死なんだからーー
あわてて周りを見渡す。
聞こえへん筈の声がきこえた。
聞きたかった声が聞こえた。
…けれど、やっぱり誰も居ない。
今のはウチがもたらした幻聴。
きっと我侭を言ったウチへの罰。
…けれど、今だけはこの声を聞いていたい…。
「ホンマに頑張ってんの?約束守れるん?」
ーー頑張ってるし、約束は守るってーー
「けど待たせすぎや、そんなん信じられんなぁ」
ーーそれを言われると痛いなぁ。けど、絶対帰るってーー
「ほんまに?」
ーーほんまにほんま。必ず大陸に…霞の元に戻るからーー
「しゃあないなぁ、もうちょっとだけ待っといたるわ。」
ーーおう、じゃ直ぐ帰らないとなーー
そうして一刀の声は聞こえんようになった。
例えあれが幻聴やったとしても、ウチにはそれで十分やった。
気分もええし、城に戻って飲みなおそうと立ち上がった時
視界が真っ白に染められた。
あとがき
君の名を呼ぶ 第二章ををお送りします。
いま気づきましたが今回の話でようやく霞姐さん以外のキャラが喋った気がします。
しかも、合っているかどうか…
読んでくれている人がいるのはとても嬉しいです。
誤字なども多く見られると思いますのでどしどし指摘してやってください
短いですが、また次回...
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読んでくださる皆さんに感謝してもしきれません。
皆さんの期待に応えれるよう精進します。