No.184496

TINAMI学園祭 ~こんな喫茶店もあり?~

狭乃 狼さん

以前投稿したお話を、半分ほど追加・改訂しての、

再投稿です。

学園祭でのあるひとコマ。

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2010-11-14 14:28:53 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10493   閲覧ユーザー数:9592

 「由(ゆい)~!お待たせ~!」

 

 「輝里(かがり)遅いやんか!あたしも蒔(まき)やんも、待ちくたびれたで~!」

 

 「ごめんってば~!お詫びに、次のところは私がおごるから、機嫌直してよ、ね?」

 

 ぷりぷりと、頬を膨らませて怒る親友に、私は手を合わせて謝った。

 

 「由、もう許してやれ。輝里だって悪気があったわけでなし」

 

 「やはは~、流石は蒔ねえさん!懐が広い!よっ!あねご!」

 

 「姉御はやめろ!……まったく、ほら、とっとと次いくぞ。せっかくの学園祭だ。しっかり楽しまないとな!」

 

 『は~い!』

 

 見事なまでの赤い髪をしたその人、二年の北深 蒔(きたみ まき)先輩の仲裁で、私こと、東乃 輝里(とうの かがり)と、小学校からの我が大親友、南 由(みなみ ゆい)は、先ほどのやり取りなんかどこ吹く風って感じで、すたすたと歩き出す蒔姉さんの後についていく。

 

 今私たちの高校、私立TINAMI学園は、学園祭の真っ只中。

 

 一年の私と由は、初めての本格的な学祭が楽しくて仕方なく、あっちに顔を出し、こっちに顔を出しと、部の先輩である蒔姉さんの案内で、学校中をくまなく見て回っていた。

 

 「で、蒔ねえさん。今度はどこ行くんですか?」

 

 「そうだな。そろそろ昼だし、休憩もかねてどこか、喫茶店でもしている教室に行くか」

 

 「あ、そらええね。せやったら一年の教室やけど、E組が喫茶をやっていたはずやで」

 

 「そういえばそうだっけ。じゃ、そこでお昼にしましょうよ、ねえさん」

 

 ちなみに、私が蒔さんをねえさん、と呼ぶのは、別に実の姉妹とかだからじゃない。ねえさんはその気風の良さから、学内のほとんどの生徒から、ねえさん、もしくはあねさんと呼ばれているからだ。

 

 「お。あそこがそうだな?」

 

 「せや。E組みの教室、なん、や、けど……」

 

 一年の教室が並ぶ三階にやってきた私たち。全部で十あるクラスが、それぞれ思い思いの出し物を行い、かなり賑わっているその長い廊下を歩き、私たちは目的のクラスに到着した。けれど、そこに着いたとたん、由が突然、言葉の切れを悪くする。

 

 なんだろう、と思ってその視線を追う、私と蒔ねえさん。そこには、喫茶店の看板があり、呼子の女生徒が廊下を歩く人々に、元気よく声をかけていた。

 

 「……どうしたのよ、由。べつに、変わったところなんかないわよ?」

 

 「……輝里。あの、看板の文字、よお見てみぃ」

 

 「看板?ん~……い?」

 

 「……なあ、二人とも。あれ、なんて読むんだ?」

 

 看板の文字を見て愕然と、というか、あきれ返る私たちに、蒔ねえさんが本気で聞いてくる。

 

 「……なんなのよ、あれ?!『喫茶、男の娘』って!!」

 

 

 

 で。

 

 今私は、蒔ねえさんと由と一緒に、一つの席を囲んでいた。その周りでは、メイド服に身を包んだ”美少女”達が、喫茶店の飾り付けをしてある教室内を、せわしなく駆け回っている。で、私たちの席にも、当然の如く(?)、メイド服にエプロン姿で、ニコニコと(少し引きつった)笑顔の人物がお盆を片手に立っていた。

 

 「……」

 

 「……」

 

 「へ~え。みんなよく似合ってるじゃないか。あ、あいつも”男の娘”とやらなのか?」

 

 そう、男の娘(おとこのこ、とよむ)。

 

 すなわち、周りを駆け回るのは全員、女装した男子(!)なのである。しかも、傍目には全員、本物の美少女にしか見えないという、完璧さ。

 

 ……あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる今の状況に、開いた口がふさがらない私と由には一切気づかず、嬉々として店内を見回す蒔ねえさん。

 

 ……も、なんでもいいや。

 

 「……で、このくだらない事の発端は、いったい誰なわけ?」

 

 「……一人しか、居ないじゃないですか。あうぅ」

 

 青筋を立てつつも、冷静に問いかける私に対して、お盆を抱きかかえたまま、真っ赤になって返事をする”ソイツ”。

 

 「……舞先生?」

 

 「……はい。僕の愚姉です……」

 

 「いやなら断れば良かったのに。仮にもあんたの姉さんでしょうが、拓海ってば」

 

 ソイツ-わが幼馴染である、西脇 拓海(にしわき たくみ)にそう私が言うと、

 

 「だって、断ろうとしたら、クラス全員の女子に猛反発されたんだよぅ。みんな、すっごい鼻息を荒くしてさ、……怖かった」

 

 「……はあ。この半年で、すっかり染められちゃっていたわけね、このクラスの女子は。あんの、変態教師に」

 

 拓海の姉こと、西脇 舞(にしわき まい)。この学園で日本史を担当する教師で、この拓海と同じく、私の幼馴染でもある。ただし、根っからの変態だが。

 

 「まったく。自分の妄想だけで済ませとけば良いのに。……そのうち犯罪でも起こしかねないわね、あの腐教師は」

 

 「ほんで、、クラスの女子全員に押し切られて、拓海を含めた男子の何人かが、そうやって女装することになった、と」

 

 「……うん」

 

 はあ~、と。

 

 深々とため息をつく、私と由。

 

 そこに、

 

 「でも、人気はばっちりよ?ほら、そこかしこでシャメ撮ってる人も居るわよ?」

 

 「……出たわね?この変態教師!」

 

 「誰が変態よ、人聞きの悪い。可愛い子を可愛く着飾るのの、どこが変態よ」

 

 ぷんすか、と。

 

 そんな擬音でも出そうな表情の、諸悪の根源の当人が、いつの間にやらそこに居た。

 

 

 

 「十分変態でしょうが!男に女の格好させて、なにが楽しいのよ!」

 

 「え~?可愛いと思わない?ね~、拓海ちゃん?」

 

 「何で僕に同意を求めるのさ?!」

 

 「やあん!怒った顔も可愛い!!んも~、お姉ちゃん、すりすりしちゃう!」

 

 ……自分の弟に、ほお擦りを始めたわよ、この人。

 

 「あ~もう!こんなところに居たら、私までおかしくなっっちゃう!蒔ねえさん、由!はやいところ出ま、……アニシテンノ?」

 

 「え?……あ、あはは。その、拓海の姿だけでも、写真撮っとこかな~って」

 

 ケータイを片手に、拓海をローアングルから撮ろうとしている、わが親友がそこに居た。

 

 ……友達、やめよかな?

 

 「好きにしなさいよ、もう!で、ねえさんは何してんですか?」

 

 「あ?輝里も食うか?これうまいぞ。お~い!こっちにもう一つ、このミルクレープくれよ!」

 

 いつのまにやら、ケーキの皿を二十は積み上げていた蒔ねえさんが、さらに追加のケーキを注文していた。

 

 そうね。この人はそういう人だったわね。まず、食欲ありき。それでこのスタイル維持してんだから、悔しいやら憎たらしいやら。

 

 「もう、二人とも勝手にすれば!わたし、帰る!!」

 

 「だ・め・よ」

 

 がしっと。突然肩をつかまれた。すっごい笑顔の舞さんに。

 

 ……あ、やな予感。

 

 「輝里ちゃんには、こっちを手伝ってほしいのよね~。そのために、あの人に言われて探してたんだから」

  

 と言って、一枚のビラを見せる舞さん。それには、

 

 「……み、みみみ、みずっ、水着きっさ~?!いやっ!絶対にいやです!!」

 

 「大丈夫、大丈夫。けっして後悔させないから♪」

 

 「いーやーでーすー!!はーなーしーてー!!」

 

 ずるずると。

 

 必死で逃げようともがく私を、舞さんはすんごい力で引っ張っていく。

 

 「ゆーいー!たーすーけーてー!!」

 

 「輝里ぃ~、がんばりや~。骨は拾ったるで~」

 

 「由のはくじょうもの~!!うらんでやる~!たたってやる~!!」

 

 

 

 で、その後私がどうなったかと言うと。

 

 「やっぱ一人ぐらいは、貧乳要員が居ないとね♪」

 

 笑顔でそんなことをさらっと言う舞さん。

 

 私は今、学園指定のスクール水着を着、腰だけのエプロンといういでたちでいた。

 

 そう。一年の別クラスで営業(?)されている、E組のとは別の喫茶。その名も、

 

 『喫茶・MI・ZU・GI』

 

 で。

 

 さらには、

 

 「何で私だけスク水なわけ?!しかもご丁寧に、こんな、ひらがなで『かがり』って!……一応聞きますけど、なんとな~く、判っちゃいますけど、ここの主催は?」

 

 ぎろ、と。

 

 舞さんをにらみつけて問う。

 

 「やん!もちろん、愛しのマイダーリン、征さんに決まってるじゃない♪」

 

 と、なぜか照れた顔で、しかも嬉しそうに言う舞さん。

 

 「……やっぱし。あんのあほおやじ~!!……今度顔見たら殺す」

 

 なお、舞さんの言う征、というのは、この学園の世界史教師であり、私の義理の父でもあるその人のこと(義理の父、とか、そのあたりの細かい事情は、さまざまな諸事情により、この場では割愛させていただきます)。

 

 「……んで、その当人は?」

 

 「ああ。何でも、長年の怨敵がここに侵入したとかで、その退治に往ってるわ」

 

 舞さん、それ、字が変ですよ?

 

 「怨敵、ねえ。……それはそうと、なんで私だけ、みんなみたいに普通の水着じゃないんですか?」

 

 とりあえず、何で水着で喫茶店なのかは置いといて。

  

 「え?だって、あの人が言ってたわよ?……『ペタにはスク水!これ常識!』……って」

 

 ……ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ。

 

 「……やっぱり、いつか、殺る」

 

 どいつもこいつも、ペタ、ペタと。

 

 小さくて何が悪い!

 

 チビでどこが悪い!

 

 ど~せ、幼児体型ですよ!

 

 電車に乗るときも子供料金で済んだこともあるわよ!

 

 胸だって、胸だって、大きけりゃ良いってもんでもないわよ!

 

 そうよ!形と感度よ!でかい人にはそれがわかんないのよ!

 

 「ね、輝里ちゃん?」

 

 「何ですかっ?!」

 

 「(にっこり)……落ち込まないでね?いつかきっと、良い事あるから。胸がちっちゃくても♪」

 

 

 

 そして、

 

 その日は私にとって、忘れられない一日になりました。

 

 とりあえず、家に帰ってから、馬鹿親父を半殺しにしておきました。

 

 そして、布団の中で私は、一人枕を濡らしました。

 

 

  

 ……ぐすっ。

 

 学園祭なんて、喫茶店なんて、(ついでにきょぬーなんて)、

 

 

 

 

 だいっきらいよーーーーーーー!!!

 

 

 

 ……。

 

 

 ぐっすし。

 

 

                             おわり。

 

 


 
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