「……これで、何人目、だっけ?」
「……さあ、ね。くそ、やっぱ、無理なのかな?」
「弱音を吐くとは、らしくないじゃないか。……絶対に、あきらめない。そう言ったのは、お前だぞ、一刀」
自身の斧を杖代わりに、どうにか立っているといった感じの華雄が、ふと弱音をこぼした一刀を叱咤する。
”ソイツ”の下にたどり着き、戦いを開始して、二刻も経っただろうか。一刀たちはこれまでに、何度もソイツの命を奪った。だが、
「……君らもいい加減、諦めが悪いよね。……ま、ボク楽しいからいいけど♪アハハハハハ」
ソイツは、倒れるたびに姿を変え、いまだ、そこに立っていた。……その顔に、一種無邪気とも言える、笑いを浮かべて。
「チッ、本当に際限がないのか。……おい貂蝉、何か打つ手は無いのかよ?」
「……残念だけど、私の漢女センサーでも、何も捉えられないわ。せめて、彼のシステムの一端でも見えないものかと、センサーフル稼働で探ってみたけど」
「……駄目、か」
「ええ。……ここにある、八つの生命反応しか、感じ取れなかったわ」
その筋肉だるま――貂蝉が悔しそうに、そうつぶやく。
「……なら、いったん逃げるという手は、どうでしょうか?」
「……させてもらえるんなら、それもありだけど」
「……おや残念。知らなかったかい?ラスボスからは逃げられないのさ。古今東西、どんなゲームでもそうだろ?」
「ゲーム、ね。あなたにとっては、すべてが遊びってことなわけ」
キッ、と。貂蝉がソイツをにらみつける。
「そりゃそうさ。五神将も虎豹騎も、ボク、いや、ボクたちにとっては、ゲームのためのコマに過ぎない。そう、君らという登場人物に踊ってもらうための、ね」
「……俺たちは、道化、って言うことか」
「そういうことさ。ボクらにとっても、この外史を生み出したクリエイターにとっても、君らはただの道化。超高性能のA・Iを積んだ、ただのNPC。……そうじゃないかい?管理者ちゃん」
「…………うふふ」
「?……貂蝉?」
「うふ、うふふふ。あはははははははは!」
突然、狂ったように貂蝉が笑い出す。唖然とする一刀たちをよそに。
「こら!貂蝉!!何でこの状況でそんな馬鹿笑いができるんだよ!」
「どっかおかしくなったのか!?」
大笑いを続ける貂蝉に、馬超と張飛が、当然の疑問をぶつける。
「……だって、笑わずにいられないわよ。うふふ。……彼が、とんでもない、勘違いをしているんですもの」
「な……に?」
貂蝉の台詞に、本気でわからないという顔を向けるソイツ。
「おい、貂蝉。それってそういうことだよ?」
「……ねえ、ご主人様?私の肩書き、なんていったか覚えてる?」
「?……たしか、時空管理局の、特別任務執行官、だっけ」
貂蝉の質問の意図に疑問を持ちつつも、一刀はその問いに答える。
「そ。せーかいよ♪さて、と。ねえ、貴方。もし仮に、貴方の言うとおり、この世界が、クリエイターによって創られたとしたら、その管理を担う部署がどこか、判るわよね?」
「……!!まさか」
「そう。私たち管理局が管理する外史には、大別して二つの区分があるわ。一つは、貴方の言った、クリエイター、つまり、”こんな外史を見てみたい”と願った、正史の住人によって生み出された外史を管理する、時空管理局・第一課。通称、事務局。そしてもう一つは」
「……外史の生みの親が、クリエイター以外。つまり、”外史の住人”である場合の、担当局は」
「そ。私の所属する管理局よん。何が言いたいのか、解ってもらえたかしら?」
二人の会話に、一刀たちは完全に、置いてけぼりにされていた。だが無理も無いことである。二人の会話は、一刀たちの知識のはるか外を行っているのであるから。
「……では、この世界は、この外史は、この外史に住まう者の願いで、生まれた外史だと?」
「そーいうことよ。そして不思議なことに、そうやって生まれた外史の外史には、通常の転移では、誰も渡ることはできないの。唯一の例外は、私の着ているこの漢女スーツのみ。しかも」
「……漢女スーツを着用して、当該外史に渡るためには、管理局でも極限られたものしか入室できない、最重要機密ブロック、通称・”漢女のお部屋”からしか出来ない……」
ズルズルと。
力なくその場に座り込むソイツ。
「……なあ、貂蝉。さっきから、一体何の話をしているんだ?」
「私たちにも、わかりやすーく、説明してくれると、嬉しいんだけどな」
頭から煙でも噴出しそうな表情で、一刀と劉備が貂蝉に問いかける。
「……一言で言えば、ね。彼もまた、正真正銘、この外史の住人だったということよ」
『……は?』
「ちょ、ちょっとまて!こいつが、俺たちと同じ、この世界の人間だって?」
「それはいくらなんでも無理があろう。現に、コイツは何度死んでも、そのたびに蘇ってくるんだぞ?!それに、お前と話が通じるだけの知識は、一体どうやって手に入れたというんだ?!」
華雄の疑問はもっともだった。
「……その答えはね、多分、そこにいる人が知っているんじゃないの?……ねえ?禰衡ちゃん?」
ごぼごぼっ、と。
すぐ近くにあった、透明な筒の中にいる全裸の少女が、貂蝉の言葉にかすかな反応を示す。
「な、何のことを言っている?!そいつは、私が造ったNO・五だ!ただ、今はサンプルとして眠っているに過ぎんやつだ!!」
「……あからさまに怪しい」
「まったくなのだ」
「ぐ、うう、う」
「おかしな話なのよね。最初に漢女センサーで感知した生命反応は八つ。でも、今この場にいるのは、劉備ちゃん、私以外に何人かしら?」
「え?え~っと。お兄ちゃんに私でしょ。愛紗ちゃんに、蒼華さんに、鈴々ちゃん。翠ちゃんと恋ちゃん。それから」
「……コイツ」
指を折りながら、その場にいる面子を数えだす劉備。そして最後に、じ、と。ソイツを見やる呂布。
「……あれ?筒の中の奴は?」
『あ』
「……」
その食い違いに気づいた一刀たちと、唇をかみ締めて黙りこくるソイツ。
「私の漢女スーツのセンサーはね、その外史の住人だけを、生物として認定して反応するのよ。……つまり」
じろ。
ごぼっ。
向けられた貂蝉の視線に対し、筒の少女が再び反応を表す。まるで、動揺しているかのように。
「そこにいる貴女こそが!本物の”仲達”!そして!次元犯罪者である元・時空管理局員こと、元・漢女候補者・禰衡!貴女よ!!」
「おらああああ!!!」
『!!』
ガッシャーン!!
馬超の一撃が、その筒を砕いた。あたりにその破片が飛び散り、中の液体が外へとあふれ出す。
「……ふ、ふふふ。ふふふふふふふふふ。アハハハハハハハ!!!ばれちゃあしゃーない。……久しぶりね、貂蝉」
くすくすと。
その少女――禰衡は笑みをその顔に浮かべる。
「……五年前、私と漢女継承者争いに敗れて以降、姿をくらました貴女が、これほどの犯罪を犯すような輩に成り下がっていたこと。それを知ったときにはホント、驚いたものよ。お師匠様も、めちゃくちゃ落ち込んでおられたわよ?」
「ふん。……そう、落ち込んでたの。……ふふ、いい気味」
「なんですって?」
「ふん!……管理局秘蔵の、転移装置を使うためという目的があったとはいえ、そんな化け物スーツ一着のために、あんなくだらない修行をしていたかと思うと、思い出すだけで吐き気がするわ」
バチバチと。
放電現象でもおきかねないような、そんなにらみ合いを続ける貂蝉と禰衡。
「おい、一体何がどうなってるんだ?」
「も、私訳わかんない」
完全に置いてけぼりの状況に加え、二人の会話の内容にも、全くついていけていない一刀たち。
「この子はね、当時、私と同じ、時空管理局の一員だった子なのよ。能力も高く、何より、正義感のめっぽう強い子だったわ。私と一緒に、漢女道を極めんとしていた、良きライバルだったわ」
「は、はあ……」
「でもね。あるとき、お師匠様から、突然の破門を言い渡されたの。それからすぐに、この子は行方不明になったわ。さらに、この子の部屋の端末から、隠されたファイルが発見されたの。……兵器密売の、様々なデータがね」
「……あれは完全に手落ちだったわ。データは全部消したと思っていたのに、わずかに残った残留ファイルから、私の裏の商売をすべて、調べ上げるとはね。……さすが、漢女道正統継承者」
にやにやと。
禰衡はその顔の笑顔を崩さず、そう吐き捨てた。
「挙句の果てに、どうやったか知らないけど、漢女門、この世界に渡るための装置なんだけど、それを何らかの形で利用し、ここに渡ってきた。そして」
「……そう。そこにいる、”この世界の私”を影武者にし、顔や体型まで変えて、計画を進めてきたってのに、すべてを台無しにしてくれちゃってからに」
憎憎しそうに、その顔をゆがめて吐き捨てる禰衡。
「……えっと。つまり、結局のところ、コイツが本物の仲達で、間違いないってことで、良い……のか?」
少々ためらいがちに、一刀が貂蝉に問いかける。
「ぶっちゃけ、そういうことよ。そして、おそらく、他次元の自分たちをつなげているのも、この子。もしくは、その装置のコア的なものを、この子が持っているということよ」
「……チッ」
貂蝉の言葉に、舌打ちで反応する禰衡。
「……そして、こやつはわれらも謀っていたと言うことか」
「!!師匠!!ご無事でし……た……か」
一刀たちの背後から響いた声の主。それは呼廚泉であった。ただし、その体のあちこちを、金属製の内臓をあらわにして。
「師匠!その体は」
「……ふ。そう。俺もまた、ただの造られた”人形”に過ぎん。……最も、造ったのはコイツではないがな」
「……籍を倒したか。ふふ、元の世界とは違って、生身で戦っているっていうのに、その戦闘力。……流石というべきかな?ダブ」
「黙れ!!」
「!?」
「……今の俺は、ただの武人。そして、芽衣様を守る剣。それ以上でもなければ、それ以下でもない。過去など我には要らぬ!そして、剣たる俺がなすべきは、ただ一つっ!!」
禰衡の言葉をさえぎり、呼廚泉は傷ついたその体で、斬関刀を構える。
「わが名は呼廚泉!我こそは、芽衣様を守る剣なり!!一刀!!」
「……はい!師匠!!はあーーーーっ!!」
その呼廚泉の言葉に頷き、一刀もまた、気を高めて、自身の斬関刀を構えなおす。
「ハッ!!死に底ないが一匹増えたところで、何が出来るものか!おい!何をいつまで惚けている!戦え!名もないまま歴史に埋もれるはずだったあんたに、力と知識を与えた自分を守るんだよ!!」
禰衡が、呆然と立ち尽くしていたソイツに、そんな檄を飛ばす。その瞬間、
「うがあああああああああああ!!!!!!!」
ソイツが、一刀と呼廚泉をめがけて、一気に飛び掛った。
「やらせないのだ!!みんな!お兄ちゃんたちを護るのだ!!」
『応!!』
張飛の掛け声とともに、一斉にソイツを押さえにかかる、関羽、馬超、呂布、華雄の四人。
「一刀!!」
「義兄上!!」
「一刀!!」
「一刀!!」
「お義兄ちゃん!!」
「一刀!!……やっちゃええええっっっ!!」
「応!!往きましょう、師匠!今こそ!」
「応!!共に、駆け抜けるとき!!はああああーーーー!!」
劉備たちの声を背に受け、一刀と呼廚泉が、一気に駆け出す。
「ふざけるでないよ!貴様らごとき羽虫どもに、黙ってやられるあたしじゃないよ!!」
「黙れ!」
「そして聞け!!」
「?!」
一刀と呼廚泉、その二人が、斬関刀を構えたまま、恒例の名乗りをあげて行く。
「わが名は呼廚泉!」
「わが名は劉翔!」
『我らは!悪を断つ剣なり!!おおおおおっっっ!!』
ダン!!
一刀が天へと舞い上がり、呼廚泉はそのまま、まっすぐに禰衡へと突っ込む。そして―――、
『斬関刀!一騎!!刀ーーーー閃ッッッッ!!!!!!!』
「そ、そんな!こんな!こんな馬鹿なことが!天才のあたしが!原住民と、壊れた人形なんかにいい!!あ!ああーーーーーーーーーーーー!!」
ザッシュウーーーッッッ!!
禰衡の体は、天からの一刀の一撃と、地からの呼廚泉の一撃で、十文字に断ち切られた。
「ふ……我らに」
「……断てぬもの、無し!」
ウィーム!ウィーム!ウィーム!
「な!何だ!?」
禰衡の断末魔の後、突然、室内に響くその音。
「……まさか!」
ダッと。呼廚泉が、コンソールへとあわてて駆け寄る。
「師匠?」
「……クッ!不覚だった……。奴め、自分の命と、船の反物質炉を連結させていた!もう、爆発する!」
『うえっ!?』
反物質炉。
それが何なのかは、一刀たちには理解できなかった。だが、呼廚泉と貂蝉の表情を見れば、それが相当にやばいものだというのは、すぐさま理解することが出来た。
「おい!何とか止めらん無いのかよ!」
「……無理、だわ。もう、後五分しか、ないわ。……ロックを解除するにしても、到底間に合わない」
「そんな!……やっと、やっと、終ったと思ったのに!」
「……”それ”が爆発したら、どうなると?」
「……大陸はおろか、世界そのものが、この外史そのものが、消滅するわ」
「クッ!……何という置き土産をしてくれた」
茫然自失。
そんな言葉が、一刀たちの状況を、すべて物語っていた。
「……管理者よ。外に、わが声を伝えられるか?」
「出来ると思うけど、何をする気?」
「……”外史の新生”」
「!!……とんでもなく、分の悪い賭けよ?」
「だが、それしか希望は、もはやあるまい。……一刀」
「はい」
師の、その決死の意思をその瞳に感じた一刀は、質問はあえてせず、返事のみを返す。
「祈れ。お前たちもだ!次なる外史を!お前たちが望む、”新なる”、新たな世界を!」
「ちょ、一体どういうことだよ!?」
「外の者たちも聞こえるか!?良いか!これから世界は、新生の時を迎える!外史とは、人の想念によって生まれるもの!すなわち、お前たち”人”の想いにより、創り出すのだ!」
「そう。……起きてしまった事は、いまさら変えようが無いわ。椀からこぼれた水を、再び椀に戻せないように。けれど」
「……こぼれたのなら、もう一度、組みなおせば良い。……そういう事だね?」
貂蝉と呼廚泉の意図を理解し、劉備が笑顔を向ける。
「さあ!もう時間は無い!!詳しいことを説明する暇も無い!」
「みんな祈って!一刀!愛紗ちゃん!鈴々ちゃん!恋ちゃん!翠ちゃん!蒼華さん!そして、外に居るみんな!もう一度!もう一度だけ!みんなでやり直そう!例え、すべてを忘れても!私たちはもう一度会える!この世界が、生まれたときのように!そう、”前の世界で願った”ように!!」
劉備が叫ぶ。
そう。
以前にも、同じことを、自分たちはしたことがある、と。
皆に告げるかのように。
「劉備ちゃん……いえ、桃香ちゃん。記憶が、戻ったの?」
「……ちょっとだけ、ですけど」
「……桃香、お前」
「……結局、今回も願いが叶わなかったけど、次は、必ず、叶えて見せるよ。……皆で、笑顔で居られる、そんな日々を、生み出すために」
劉備は、一刀の瞳をじっと見つめる。そして、一刀もまた、劉備のその瞳を、見つめる。
「……また、会えるよ、な?」
「……うん、きっと。……ううん、絶対」
「……約束、だぞ」
「うん!約束」
そして、世界は、白い光に、包まれた。
~ エピローグ ~
「一刀ー!早くしないと遅刻だよー!」
「おー!今行くー!」
願いは、叶った。
「もー。いつも起こしに行く身にもなってよね」
「悪い悪い。今度こそ、寝坊しないようにするからさ」
それを為したのは、想い。
「その台詞、一体何回目かの?叔父上」
「そうだな。正直、いい加減聞き飽きてるぞ?」
想い。それは、幾重にも重なり、やがて、その姿を愛に変える。
「にゃはは。お兄ちゃんてば、全く信用が無いのだー」
「はは。……手厳しいね、みんな」
そして愛は、力へと変わる。
「あら?いつものことでしょう?」
「そうね。一刀のだらしなさは、皆が知ってることだもの」
そう、奇跡を起こし、世界を生み出す、力へと。
「……いっけない!バスが出ちゃう!」
「……遅刻、確定?」
「いや!まだ間に合うはずだ!走るぞ!みんな!」
―――そう。
奇跡は起き、世界は新生した。
誰もが皆、笑顔で居られる、新たな世界が。
「今日の当直って、白蓮先生だっけ?」
「あと、紫苑先生もな。……って、んなこといってる場合じゃない!」
「……おなか、すいた」
「学校着くまで我慢!」
皆が、笑顔で駆けていく。
その先の、未来を信じて。
「……ね、一刀?」
「……?どうした、桃香?」
――これからも、ずーっと、一緒にいようね――
~了~
と、いうわけで。
『お疲れ様でした~!!』
いやー、途中からどんどんおかしなほうに進んでったこのお話、
どうにかこうにか、終了することが出来ました!
これも一重に、こんな駄文作家の駄文に付き合ってくださった、
ユーザーの皆さんの応援のおかげです!
改めまして、お付き合いいただき、ありがとうございました。
さて。
この最終回の内容については、ここではあえて何もいいません。
ですので、いつもどおりの率直なご感想、ご意見、
楽しみに待たせていただきます。
今後の活動予定ですが、
とりあえず、北朝伝の改訂版の、第一話が、まもなく完成する予定です。
ただ、肝心要のタイトルが決まっておりませんのです。
北朝伝という文言を使うかどうかも、正直迷っております。
とりあえず(こればっかだな)、次回の投稿は未定ということで。
北朝伝以外の短編なんかを、もしかしたら書くかもしれません。
では、今後もすえなが~く、生あったかい目で、見守ってやってください。
それではまた、次なる外史で、お会いしましょう。
再見~!!
Tweet |
|
|
86
|
8
|
追加するフォルダを選択
長らくお待たせ(?)しました。
刀香譚、いよいよ最終話をお送りいたします。
正直言って、ここまでカオスになったこの作品、
続きを表示