黄巾党の集合地点となっている例の城は、曹操さんの治める地の中でも一番辺境に位置しているところでした。
軍を率いて行くに丸一日ほどかかってそれに、今回向う兵の数はおよそ2万。
要は、補給物が結構あったという話です。
「ねー、真桜ちゃん、これ、何入ってるの?」
「うん?武装とかそうじゃないと兵糧とかじゃあらへんの?」
「それが、ちょっとおかしいの?」
「おかしいって何や?」
「これ、箱、何か軽くて、何も入ってないみたいなの」
「うん?そんなわきゃ…ちゃんと行く前に確認しといたのに?」
「二人とも何騒いでるんだ?」
「あ、凪ちゃん。この箱、ちょっとおかしいの」
「おかしいって?」
「なんやら中が空みたいに軽いみたいやで」
「中が空…?中身は確認したのか?」
「ううん、まだ」
「まあ、一応開けてみたら分かる話やろ」
「そうだね」
「あ、ちょっと待て、二人とも。何が入ってるかも知らずに開けるのは危険……」
「ご開帳ー!」
そういうわけで、
一刀ちゃんは槍を入れていた箱の中に入っていてもらってました。
「………」
「「「え?」」」
「……<<ウィンク☆>>」
うーん、華琳さんの前で現れたらもっとおいしかったんですけど、流石にそうはいきませんでしたね。
「一刀ちゃん?」
「一刀様、どうしてこんなところにいらっしゃ…」
「……(むっ)」『くち!』
凪さんが敬語で言おうとすると一刀ちゃんは直ぐに反応しました。
「あ、……なんでここにいるんだ?」
「まぁ、来るのは分かっていたけどなぁ…してもこんな風にくるとはな」
「知っていた!?」
「そんなんあたりまえやろ。一刀ちゃんが一人で城で大人しく待ってるはずがないないやんか。なぁ、一刀ちゃん?」
「(にこっ)」
「あーん、やっぱ一刀ちゃんかわいいのー♡」
肯定の意味でふった笑顔がまた沙和さんのスイッチを入れさせたのが一刀ちゃんに思いっきり抱きつきます。
「……」『今どの辺なの?』
「半分ぐらいってところやな。ウチはこれからちーと偵察に行く予定なんやけど」
『あ、ほんと?じゃあ、これあげる』
そう言って一刀ちゃんは真桜さんに持っていた鞄を渡しました。
「なんや、これ……」
え、一刀ちゃんアレって、この前作ったサンドイッチじゃないですか。
「何、何?アハーっおいしそーなの」
「これ、もらってええの?」
『いいよ、いいよ。どうせ一人で食べれないし、ほっとくといっちゃうし』
「ねぇ、ねぇ、真桜ちゃん、私も食べていいよね」
「ああ、まぁ、一刀ちゃん、ええよな」
『うん、いいよ』
「ありがとー」
「じゃ、じゃあ、私も……」
『凪お姉ちゃんはダメ』
「えっ!?」
『ダメ<<にこっ>>』
「ど、どうして私だけ…」
『ダメ<<にこっ>>』
うわー……恨まれてる。地味に恨まれてます。ってか地味じゃない。凪さんもう戻れないほど嫌悪フラグ立ったよ。
話が見えない人は前の話をよーく見るといいですよ。
ところで一刀ちゃん、今回どんな理由の出陣か分かってますか?
「?」【黄巾党の本拠地でしょ?】
んまあ、そうなんですけど、それより華琳さんが自ら出陣するのは、ここに張三姉妹があるっていう確信があるからなんですよ。
【張三姉妹って、あの歌をしていたお姉ちゃんたち?】
はいです。
【もし、本当にあのお姉ちゃんたちが居たら?】
うーん、まあ、逆賊の党魁なわけですからね。
けど、華琳さんは才がある人は自分の元に置く主義ですからね。
多分、そんなに質が悪いのでなければ殺したりはしません。
【そっか……よかった】
好きなんですね、あの人たちのこと。
前に何回か歌を聞いたくらいでしょう?
【…さっちゃん】
はい
【歌が歌えるって神の恵みだよ】
………ごめんなさい
何かごめんなさい。
そうですね。歌が歌えるのは天の祝福ですね。天使ですね、はい。
とりあえず、華琳さんのところに行きましょう。
【え、素で行くの?】
まさかここまで来たのに戻すとかないでしょう。
それに、そろそろ行かないとなくなっちゃいますよ。
「……?」
・・・
・・
・
で、ここは皆さんが集まっている会議場です。
「……<<パクッ、パクッ>>」
「あ、あの…華琳さま」
「……<<パクッ、パクッ>>」
「うぅ……」
「ボクも食べたい」
「季衣、今は黙っていなさい……危ないわ」
状況を簡単に説明します。
華琳さんが食べてます。食べてます。すっごく食べてます。
何かすごく食べ物並べて、一人で食べてます。
「……<<パクッ、パクッ>>」
この食べ物がどこから来たのか、言うと野暮なんですが……
はい、もちろん一刀ちゃんと一緒に今日川に行って食べようとしたものです。
それを、周りで見てる春蘭さんや季衣さん、桂花さんに上げることもなく一人でぱくぱくっと食べてます。
えっと、あれですね。そんなにストレスを食べるので解くのはよくないですよ。太りますよ?
まあ、他の人たちにあげない気持ちは分かりますけどね。
秋蘭も偵察に行っていないのに、春蘭さんや桂花さんはこの不味い空気をどうすればいいのか分からず、特に桂花さんは本当にあの以来華琳さんに一言も言えてません。
軍師なのに。敵陣が後半日なのに。
季衣さんは別の意味で苦しんでます。
「……<<パクッ、パクッ>>」
大将がこれだと士気にかかわりますけどね。すごく……
「……<<ひょこ>>」【何、華琳お姉ちゃんどうしたの?】
一刀ちゃん、早く行ってください。
【何か、空気が不味いけど?ボク行っても大丈夫なの?】
いつからそんなの気にするようになったんですか。ほら、早く。
「…(コクッ)」
「…………<<パクッ、パクッ>>」
「なあ、桂花、華琳さまはどうしてあんなに機嫌が悪くなられたのだ?」
「…あなたは知らないほうがいいわよ」
「なんだt」
「しーっ!静かにしなさい」
「む……」
「……<<パクッ、パクッ>>」
聞こえてない華琳さんではないのでしょうが、今のところ黙っていないと頭にきてしまいそうだから黙って食べてばかりいます。
頭では分かっていますね。どっちが先なのかは明らかな話です。
だけど、せっかく自分が思い切って一刀のために準備したのに無駄になってしまったのです。
こんな風になってしまってみると、あの夢の中で言われたまま結局自分は一刀ちゃんを見捨てるようになったような気がして気が気ではないのでしょう。
何より、一刀ちゃんはあの時苦笑しながらも、何も言わずに、せめて『大丈夫』だって一言でも言ってくれたら華琳さんもここまで気まずくなってはいなかったでしょうけど、ほんと一刀ちゃんの失望はそれほどのものだったのです。
そんなこんな話してるうちにも華琳さんの箸は動いてるわけですが……
「<<パクッ>>」
酢豚をとって口に運ぶ箸と華琳さんの口の間に邪魔が入りました。
「!?」
「<<モグモグ>>」
「一刀!?」
「なっ!」
「どうして貴様がここに」
「一刀ちゃん」
「………<<キラキラ>>」【おいしい】
この子は美味しいものを食べると直ぐ顔に出るのがチャーミングポイントです。
「…どうしてあなたがここにいるのかしら」
驚いたのは幕の中の人全員驚きましたが、とりあえず冷静な反応をお見せする華琳さんです。
『補給物詰めた箱に乗ってきた』
「またそんなことしてまで…危ないから来たらダメって何度言えば分かるのよ、あなたは」
『そんなことよりもっと頂戴』
「え?」
『美味しいから、もっと食べたい』
「そ、そんなの自分で食べればいいじゃない」
『だって箸一つしかないし…下品に手で掴んで食べるとは言わないよね?』
「じ、じゃあ、この箸あげるから、あなたが全部食べなさい」
『ボク箸使えない』
「嘘でしょ…」
『嘘だけどね』
嘘だったんですか…
『ほら、あー』
そう書いたかずとちゃんは目を閉じて口だけバーって開けました。
「……」
華琳さんは一度一刀ちゃんのその顔を見てから、桂花さんのところを見ました。
「桂花、凪たちのところに行って補給物資のことを再確認して頂戴。一刀ちゃんが潜り込んだせいで空いたところがないか調べてきなさい」
「は、はい……」
「春蘭と季衣はそろそろ秋蘭たちが戻ってくる時間だから迎えに行って頂戴」
「ん?華琳さま、特にお出迎えする必要は……」
「何?私の命令が聞けないっていうの?」
「い、いいえ、そういうことでは…季衣、行くぞ」
「は、はい」
そして三人が全部部屋を出たのを確認した華琳さんは、まだ口をあけてる一刀ちゃんを見て……
「……」
「……<<あー>>」
何かを箸で取って一刀ちゃんの口に入れてあげました。
「……………!!!!」【!!!】
口に入ったものをモグモグと食べていた一刀ちゃんは、急に目をパッと開けて口のものを吐こうとしましたが、
「えいっ」
「!!!」
華琳さんの口にふさがれて望みは叶えず。
華琳さんが一刀ちゃんにあげたのは、ラー油をありったけ漬けた麻婆豆腐でした。
なんで辛いもの嫌いなのにそういうのをおいてあったのかは不明です。
「何がもっと頂戴よ。人の言うことを聞かない子はこうよ」
「!!!!」【辛い!辛いぃ!!】
涙目の一刀ちゃんですが、絶対許してあげない華琳さんです。
この場面をもうちょっと引っ張っちゃってもいいのですけど、僕一人で楽しみたいのでカットしていただきますよ。
【さっちゃん助けてー】
ええー、無理ですよー。
「……ぅ……ぅ……」
「…はっ!」
何がはっ!ですか。
反応は面白くてついついやりすぎちゃったって顔しても過去は戻ってこないのですよ。
「………(しくしく)」【汚されちゃった】
まだ冗談を言える口はあるみたいですね。
もうちょっとやってても大丈夫だったのかもしれません。
「だ、大丈夫なの?」
「……<<ぷいっ>>」
遅く一刀ちゃんの様子を伺う華琳さん。
でも一刀ちゃんは拗ねたふりをしてそっぽを向きます。
「あなたが悪いのよ。私がどれだけあなたのこと心配したのに、そんなになんともない顔で現れるから…」
「……」『なんともなくないよ』
「あ……」
『ボク楽しみにしてたから、残念だと思ってるし、華琳お姉ちゃんのことウソツキとも思ってる』
「っ…」
ウソツキって言葉にちょっとショックだったのか、華琳さんは顔をしかめました。
『…でもほら、ボクだって鬼じゃないから?』
「へ?」
『後でもっとすごいとこに行かせてくれたら、許してあげなくもないよ?』
「………」
『ボクがあの時華琳お姉ちゃんにそれでも一緒に行こうって意地張ったら、一緒に行った?』
「それは…」
「…」『じゃあ、あの時のことはどうしようもなかったってことでいい。でも、後で利子付きでもらうから』
「一刀……」
一刀ちゃんは華琳さんを見て笑ってから座っていた椅子から降りてきて華琳さんの膝に上がって座りました。
「か、一刀?」
「……<<あー>>」
一刀ちゃんはまた先みたいに餌を待っている小鳥みたいに目を閉じて口を開けました。
「……」
それをしばらく見ていた華琳さんは、
「…あなたは、本当にそれでいいの?もっと意地を張ったり、泣いたりしなくてもいいの?」
「………」『どうせ大人が子供に言うことの半分は嘘だから』
「っ!」
うっ!痛い……痛すぎる…ここで精神的ダメージ子供補正(2倍)にクリティカル(2倍)来た……
【遊園地行くって、約束してたのにな……】
…え?
「……<<あー>>」
一刀ちゃんは先のあの姿勢のまま。
華琳はそれを見ていて、
箸に『ラー油たっぷり漬けた麻婆』を一刀ちゃんの口に入れてあげました。
「!!!」
「させないわ」
「ぅー!! ぅぅー!!!!」
「何よ!一刀のくせに生意気よ!」
一刀ちゃんの口を両手で塞ぐ華琳さんの顔は半分笑ってました。
一刀ちゃんが思ったよりも強い子なのが安心だったのか、自分のことを嫌ってなくて嬉しかったのか、どっちにしても華琳さんの顔は、お母さんというよりは弟にいたずらをするお姉ちゃんでした。
「!!!!!(涙目)」
「ええ、期待してなさいよ。大人の本気を見せてあげるから!利子付きでお釣りまで全部あげるから期待してなさいよ」
「!!」【それはいいから普通に食べたらダメなの!?】
これが未来の王さまと大陸を救う天の御使いなんですからね。
後が心配ったら心配で仕方ないんですけどね…ハハハッ。
・・・
・・
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私が笑うのはあなたが泣くから。
私が泣くのはあなたが笑うから。
私が馬鹿なのはあなたが賢いから。
私が子供なのはあなたが大人だから。