No.181949

PSU-L・O・V・E 【L・O・V・E -Red Ring of Death-】

萌神さん

【前回の粗筋】

遂にフルスペックでの戦闘を開始したヴィエラにヘイゼルとビリーは手も足も出ない状態に追い込まれる

起死回生を図ったビリーの策で窮地を乗り切った二人だったが

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2010-11-01 21:13:19 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:673   閲覧ユーザー数:673

左肩部メイン・フォトンブースター大破……激突時、シールドライン相殺ダメージ、キャパシティ(許容量)オーバー……透過ダメージによる本体損傷、稼働率93%に低下……。

「何て事……たかだかヒューマン二人を相手に、この無様……」

積み重ねられた擁壁用コンクリートブロックを派手に破壊し、その破片にまみれ横たわりながら、頭脳体を駆け巡る損害のメッセージにヴィエラは思わず呟いていた。

「フン……頼りのブースターを失って大幅な戦力低下って事か?」

ヘイゼルが嘲笑の笑みを浮かべながら、区画を繋ぐ階段をゆっくりと降りて来ている。

「減らず口を……貴方には丁度良いハンデになったでしょう?」

ヴィエラは鼻で笑うと身を起こした。身体から落ちる砂塵とコンクリートの破片に眉根を寄せ、忌まわしげに払う。

ビリーにフォトン・ブースターを破壊され、地面に叩きつけられた衝撃でヴィエラはクレア・セイバーを紛失していた。得物を失った彼女は代わりにナノトランサーから新たな武器を取り出す。

ヴィエラが取り出した武器を見てヘイゼルは眉根を寄せた。それはヘイゼルが見掛けた事の無い武装だった。形状的にGRM社製のデザインをしているが、片手剣のようにも、ラピッドストリーム系のように大きなフォトンエッジを持つ小剣のようにも、飛刃剣(スライサー)のようにも見える形をしている。

「切り札……って訳か?」

ヘイゼルが階段を下りきった。

ヴィエラの手にする武器は市場に出回っている武装とは明らかに異なったフォルムをしている。おそらく、独自に開発された非正規品(クバラ製)なのだろう。

「出し惜しみか……なら、最初から使っとけよッ!」

「意気がるな、人間(ヒューマン)如きが―――っ!」

デスダンサーを振り上げヘイゼルがヴィエラに襲い掛かり、彼女がそれを迎え撃つ。

ヴィエラが手にする正体不明の武装は直剣サイズの紅いフォトン・ブレードを形成した。

(片手剣のフォトン・ウエポンだったか……なら!)

フォトン・ブースターは破壊され、ヴィエラは高速戦闘を封じられている。

だが、まともに挑んでは、力負けするのを先程の戦いから学んでいたヘイゼルは、片手剣を両手持ちに切り替えた。

ヴィエラが片手剣を振り上げると、突然、フォトンの刃が分解変形した。

六角形状の無数のプレートが紐状のフォトンで繋がれた見た事も無い形状だ。

(形が変わった!? フォトン・ウィップ……いや違う、これは―――ッ!?)

それは、例えて言うなら蛇腹剣と呼ばれる物だ。

剣の形態と、刀身を分割した物がワイヤー状の物で結ばれた、鞭の様な形態を持つ武器である。

しかし、それはフィクションでのみ存在する物であって、現実に存在する武器ではない。

当たり前である。振り上げた途端に自傷してしまいそうなリスキーな武器などある筈がないのだ。

それを使うと言うのか、彼女は!?

ヴィエラが右手をくるりと回すと、フォトン・ワイヤーが見事な螺旋を描く。ヴィエラはその螺旋の渦を操るとヘイゼルへ向かって放った。紅いフォトンの輪がヘイゼルの身体を包むように迫る。本能的な身の危険を感じたヘイゼルが慌てて身をかわすと、フォトンの螺旋は急速に収縮し、擦れ合ったプレート同士が激しい音を立て、飛沫となったフォトン粒子を飛び散らせる。

「良く避けたわね、私の"死の赤輪(レッドリング・オブ・デス)"……褒めて挙げるわ」

ヘイゼルの背中を冷たい汗が走る。

螺旋の渦の中に取り込まれていたら、どうなっていたかは想像に難くない。

「大人しくミンチになりなさい!」

「冗談じゃねえ! なら一気にその懐に踏み込ませてもらう!」

ヘイゼルは気を取り直すと、再び死の螺旋を掻い潜り、ヴィエラに切り掛かった。

だが、直接的な戦闘力はヴィエラの方が上である。

負傷し本体稼働率が低下した今の状態でも、それは変わっていない。

(まともに付き合っても勝てる相手じゃない……だがな、俺も負けてやる気は更々無いんだよ!)

近接の間合いに持ち込まれたヴィエラは、蛇腹剣を素早く片手剣の形態に変化させた。

中・近距離の間合いを制する彼女に危な気は無い。

ヘイゼルは剣を高く振り上げると一気に振り下ろす。鋭くも無ければ、重さも無い一閃。

(まったく……退屈すぎるのよ、貴方は!)

単調なヘイゼルの攻撃に、いい加減飽き気味のヴィエラが攻撃に転じようとした時、剣を振り下ろした勢いのまま、身体を一回転させたヘイゼルの蹴り足が、ヴィエラの胸元へ叩き込まれた。

「うっ!?」

突然の奇襲にバランスを崩したヴィエラへ、ヘイゼルの追撃が延びる。

フォトンの刃は緩やかな曲線を描くヴィエラの胸元を掠めた……だが、浅すぎる。シールドラインは貫けない。

体術を交えた戦技。

訓練生時代、肉体的なポテンシャルが他者には劣ると判断したヘイゼルが、勝つ為に身に付けた技だ。

戦技教練と違うと訓練生仲間や指導教官からは不評だったが、命を掛けた戦いで型に拘り屍を晒す事の方が馬鹿げているとヘイゼルは思っている。それは正しい筈だ。

剣閃と思えば裏拳や蹴り脚を交えたフェイント、かと思い警戒すれば捻りの無い正直な攻撃と、トリッキーな責めに翻弄され、傍から見れば優勢なのはヘイゼルのように見える。だが、彼は内心焦り始めていた。

ヘイゼルの戦技はあくまでも奇をてらった奇襲用の物でしかない。

幾度かは相手の意表を付けるかもしれないが、それが恒久的な物で無い事を知っていた。

ヘイゼルが身体を横に一回転させ剣を横薙ぎに振るう。彼の身体の影に隠れ、見えない状態から繰り出された剣を、ヴィエラは腰を引いて避けたが、それはヘイゼルの計算の内だった。

ヴィエラを正面に捉えたヘイゼルは、右足の爪先を地面に擦るように蹴り上げた。蹴りは直接ヴィエラを襲う物ではなかったが、地面に溜まっていた砂の塊がヴィエラ目掛けて飛び散る。

砂塵を蹴って目潰しとしたのだ。

キャストは半機械の生命体だが、目の構造は生物のソレと似通っている。

効果は有る筈だったのだが、ヴィエラはその砂塵を避けていた。

ちらりと盗み見た顔の口元には余裕の笑みさえ浮かべている。

(避けられた―――!?)

手の内を読まれ始めている。

優秀な戦機である彼女は、短い交戦時間の中でヘイゼルの戦闘スタイルさえ学んだようだ。

その事実にヘイゼルの焦りは加速した。

「何とかの一つ覚えも品切れかしら?」

「ぬかせッ! その減らず口もビリーが合流するまでだ!」

ヴィエラがふふんと嫌味に鼻を鳴らし、カッとなったヘイゼルが言葉を返す。

「あら、そう? それにしては来るのが遅いんじゃないかしら、彼? そう言えば彼はどうしたの? 狙いは逸れたとは言え確かな手応えは有ったのだけど……まさか、見捨てて来たのかしら?」

「黙れと言った! 奴なら、その傷を薬で癒している所だ! 直ぐに此方にやって来る。その時がお前の最後だ!」

ヘイゼルの言葉にヴィエラはまた鼻を鳴らした。

「そうなの……でも彼も貴方も、今日は非番だった筈よね?」

二人の剣が打ち合わさり鍔迫り合いとなった。

睨み合いながらヘイゼルが吐き捨てる。

「……何が言いたい!」

「非番の日も戦闘に備えた準備をしているのかしらね……?」

ヴィエラの言葉がヘイゼルの動揺を誘う。

確かに……ヘイゼルは非番で有った為、回復薬品の持ち合わせが万全ではなかった。

それに、別れ際にビリーが見せた回復薬、あれが本当に回復薬だったのか確かめた訳でない。

(ビリー……お前、まさか―――)

僅かな隙を見せたヘイゼルにヴィエラの鋭い一太刀が浴びせられる。ヘイゼルは辛うじて受け流したが、間髪を入れずヴィエラが前蹴りを放ち、ヘイゼルを蹴り離した。十八番を奪われたヘイゼルは数歩後退り姿勢を保とうとする。

間合いが離れた―――。

機会を逃さず、ヴィエラは再び剣の刃をを蛇腹剣の形状に変形させた。

(ヤバイッ!)

再び踏み込むか? いや、それより彼女が蛇腹剣を振り下ろす方が速い!

瞬時にそう判断したヘイゼルは、ヴィエラと距離を取る為に後退した。

予想通り振り下ろされたヴィエラの蛇腹剣は空しく地面を叩いたが、彼女の操作でまるで生き物のように蠢く蛇腹剣がヘイゼルを執拗に付け狙う。

防戦に持ち込まれたヘイゼルは蛇腹剣の攻撃圏を逃れるべく、近場に山積みにされたコンクリートブッロクの影に飛び込んだ。

「それで隠れたつもりなのかしら? なら、燻り出して上げる!」

煽るヴィエラをブロックの隙間から覗くと、彼女の手にする武器が"く"の字のフォトン・ブレードを形成していた。

(また変形しただと……今度は何だ!?)

ヴィエラは腕を前方に真っ直ぐ伸ばすとフォトン・ブレードを真横に構えた。ブレード部分にフォトン・エネルギーが集束していく。

(フォトンアーツ、チッキキョレンジン……!? と言う事は今度は飛刃剣『スライサー』か!)

飛刃剣は形成したフォトン・ブレードを射出して攻撃する中距離攻撃型の武器で、射角が広く、攻撃時の隙も少ない強力な武装の一種である。

「ミンチが嫌なら、そのブロックごと粉々にしてあげるわ!」

そう言ってヴィエラが射出したフォトン・ブレードがコンクリートブロックを次々と破壊していく。長くは持ち堪えられそうも無い。

「クソッ!」

コンクリートブッロクの影に身を隠したヘイゼルは思わず悪態を吐いた。

その武装、身体能力、戦略と、あらゆる上でヴィエラの戦闘力はヘイゼルを圧倒的に凌駕している。

奇襲も奇策も騙し討ちも効かない!

(駄目だ……実力では到底歯が立たない! 考えろ、考えてアイツの隙を作るんだ……)

だが、急くほどに余計な雑念が湧き上がり、冷静な判断力を奪って行く。

焦りが様々な光景を生み、ヘイゼルの脳裏を目まぐるしく巡る。

その中でふと、ヴィエラの髪に止められた花の形の髪飾りが脳裏に浮かんだ。

不釣合いだが、彼女の緋色に良くあった白い花の飾りが―――。

試す価値はあるかもしれない。

「ユエルの様に愛されなかった事が、破滅を望んだ理由か……」

隠れたコンクリートブロックの影から、ヘイゼルの声が聞こえる。

ヴィエラはその言葉に眉を顰めた。

暗い研究所の片隅で、只一人、メンテナンス用のベッドに括らる日々。

それはまるで壁に掛けられた人形……。

ヴィエラの顔が憎悪に歪む。

「貴方に……何が解るの……」

調整途中で身動きすらできなかった彼女には、幾日も幾日も、視界に入るモニターの光景を見詰める事だけが慰めだった。

そこに映された白い外装パーツに薄紫色の髪の少女の姿。

彼女は絶えず研究員達に囲まれ、嬉しそうにカメラの前を行ったり来たりしている。

それが彼女の姉に当たる存在(モノ)だと、後に聞かされた。

 

私の姉……私と同じ機械として産まれたのに―――。

 

「君達は……そう、特別なマシナリーなんだ……マシナリーと言うよりも、キャストに近い存在なんだよ」

言い淀みながら眼鏡を掛けた若い研究員は言った。

「……MSC-00X-P……」

ポツリと呟くヴィエラの言葉に若い研究員は絶句し、息を飲んだ。

それは彼女達に与えられた形式番号……。

「……でも、"マシナリー"なのね……」

その形式の頭にあるMSと言う文字は、彼女達がマシナリーである事を意味している。

研究員は口を噤み、視線を落とした。

まるで懺悔をしているかのごとく……。

そうだ、この研究員が何をどう言い繕うと、自分達は疑う事なきマシナリーなのだ。

それなのに……それなのに……。

 

(姉さんは私の存在を知らされていないようだったけど、私はいつも姉さんを見ていた)

 

他の研究員に囲まれ笑顔を浮かべている白い少女の姿を……。

 

何故、貴女は笑っているの?

 

何故、貴女だけ愛されているの?

 

何故、貴女だけ……何故、私だけが!

 

愛される事も、愛する心も持たされず、ただ破壊と殲滅を齎すためだけに産まれた。

言い知れぬ暗い感情が腹の底から、ふつふつと湧き上がる。

「私は人の心を持つ事を許されず、戦術と戦略と敵を憎み破壊する意志だけを与えられた! 人間の感情など知った事ではない! だけど……その私の"ココロ"を……お前達に理解できるものか!」

人(キャスト)でも機械(マシナリー)でもない、中途半端な存在の胸の内を誰が知る。

「ふっ……ざけやがって―――!」

ヘイゼルの胸に湧いた怒り。

だが、今は自分が熱くなる時ではない。

「だから、憎んだのかよ……!」

ヴィエラの姿を一目見た時から感じていた違和感。

彼女を構成する物の一つにして、最も似つかわしくない物……一か八かの賭けだった。

「……ならば、お前のその髪飾りは何だ!?」

「!?」

予期せぬ問いに、続けられていたヴィエラの攻撃がピタリと止む。

反応が有った! ヘイゼルは畳み掛けるように言葉を続ける。

「戦闘重視……ユエルと違って無駄の無い徹底した殺人特化の合理主義……キリングドールの鏡だよ。 ならば、その髪飾りは!?」

戦う為の戦機に飾り等必要では無い。彼女もそれを知っている筈だ。

だからそれは―――。

「お前が選んで付けた飾りじゃないだろう。だったら、それは誰が付けた!?」 

思いも掛けない言葉が、衝撃となってヴィエラの胸を貫く。

不意に眼鏡を掛けた気弱そうな男の姿が脳裏に浮かんだ。ヴィエラの開発に関わった若い研究者。暗い研究室に括られた自分の傍に気が付けば何時も居た男。

ある日、メンテナンスから目覚めると自分の髪に見慣れぬ髪飾りが付いているのに気付いた。不思議な思いだったが、その真意をヴィエラは尋ねようとしなかったし、男も語ろうとはしなかった。

 

髪飾りの意味。

 

研究所がSEEDに襲撃されたあの夜―――。

襲って来たSEEDと戦っている最中、不意を付かれたヴィエラを庇い、彼はSEEDに殺された。

戦闘用に作られた自分を庇う意味が何処にあったのだろう?

血の中に横たわる男をぼんやりと見下ろしていると、彼は今際の際にヴィエラに何かを告げた。

あれは何と言っていたか……。

束の間の邂逅に意識を馳せるヴィエラの耳にヘイゼルの声が届く。

「愛されていたんじゃないのか……お前も!?」

言葉が稲妻のように身体を駆け抜け、ヴィエラは目を見開いていた。

眼鏡を掛けた研究員の死に際の姿がフラッシュバックする。

あの時、彼は私に……。

「そんな……そんな事……私には解らないわよっ! だってそうじゃない! そんな感情理解できない。私は、そう言う風に作られたのだからっ!」

いやいやをするように後退りながらヴィエラは再び攻撃を再開した。

だが射出されたフォトン・エッジは、ヘイゼルが身を潜めるコンクリートブロックを大きく逸れる物が多くなっている。

その攻撃から先程までの精度が欠けていた。

ヴィエラは明らかに動揺している……今ならば!

ヘイゼルは身を隠したコンクリートブロックから飛び出すと、ヴィエラへ向かって駆け出した。

襲い来るフォトン・エッジの弾幕を掻い潜り、ヘイゼルは彼女の間合いに踏み込む。

「ぃっ…あああぁぁぁぁぁああああぁぁあああぁぁぁぁっ!!」

ヴィエラの叫びは意味を成していない。しかし戦機としての本能だろうか、混乱しながらも間合いを詰められたヴィエラは、武器をスライサーの形態から片手剣の形態に変形させてヘイゼルを迎え撃った。だが、その剣閃は支離滅裂で精細が無い。

 

それでも―――!

 

ヘイゼルは理性の無いヴィエラの攻撃を防ぐのに精一杯で、攻撃に転じきれない。

(及ばない!? 俺の力はこんな物か、クソッタレ!)

ヴィエラの切り上げにヘイゼルは大きく剣を弾かれた。勢い余って体勢を崩され動きが一瞬止まる。

(しま―――ッ!)

隙を付いたヴィエラの剣がヘイゼルへ迫る。

次の瞬間、突然襲ってきた衝撃波がヘイゼルの身体を叩き付けた。

(なッ―――!?)

一瞬、ヘイゼルは何が起こったか理解できなかった。

ただ、その視界の片隅でヴィエラの身体が爆ぜ吹き飛んでいた。


 
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