「で?私にこれを着ろ、と?」
「そ。ぜひぜひ華雄にこれを着てほしいんだ♪」
にこにこと。
満面の笑みで、一刀は華雄にあるものを差し出していた。
「し、しかしだな、いくら北郷の頼みとはいえ、こ、こんなものが私に似合うだろうか」
その、一刀が手にしているものを見ながら、顔を赤く染め上げて、華雄は躊躇の表情を浮かべる。
「大丈夫!!絶対に似合うって!!てか、これは華雄にしか着れない!!いや、華雄が着るために、この世に生まれてきたんだ!!」
そう言って、目を輝かせながら、一刀は華雄に迫る。
「そ、そんな大げさな・・・。でも、お前がそこまで言うなら、い、一度ぐらい、着てみてもいいかも・・・・・・」
「本当!?」
「・・・頼むから、似合わなくても、笑わないでくれよ?」
一刀の手から”それ”を受け取り、やはり、恥ずかしそうな表情で、そんなことをつぶやく。
(これだけでも十分に可愛い!けど、やっぱり俺はあれを着た華雄が見てみたい!そのために、徹夜までして、職人さんの所で頑張ったんだからな!)
ぱたり、と。
自室に入る華雄が扉を閉めた後、(徹夜で)充血した目をこすりながら思考している一刀。
そして、三十分も経った頃。
「・・・ほ、北郷?そこに、いるの、か?」
「ああ、いるよ。着替え、終わった?」
「あ、ああ。一応」
「・・・じゃ、何で出て来ないのさ?」
「・・・・・・・から、だ」
「え?」
「は、恥ずかしいからだと言ったんだ!・・・頼むから、本当に、笑わないでくれよ?」
キィ、と。
恐る恐るといった感じで、部屋の扉が、ゆっくりと開かれる。
ゴクリ。
一刀が思わず、つばを飲み込む。
そして、開かれた扉の、内側に立っていたのは。
「・・・・・・・・・・・」
「な、何で黙ってるんだよ?・・・お、おかしいなら笑ってくれていいんだぞ?」
笑うなんてとんでもない。
一刀はそう思った。
だが、言葉にできなかった。
穢れを知らぬ、その真っ白な上着。
まるで、本人のその頬のように、美しい紅に染まった、その袴。
その小さな足に、まるで、やさしく包み込むかのように履かれた、その草鞋。
それらががすべて調和した、完璧なる美。
だからこそ。
一刀は思わず、その姿に魅入った。
華雄の、巫女装束姿に。
そして、その言葉を、無意識に、口にしていた。
「・・・・・・・・・・きれい、だ」
「!!・・・・・・・」
赤かった頬をさらに紅くして、華雄はその言葉に思わず固まった。
「とっても綺麗だ、華雄。・・・俺の見立て以上だよ」
「・・・・・・あ、ありが、とう・・・・」
さらに紅くなってうつむき、もじもじとする華雄。
(・・・あ。まじでやばい)
その華雄の姿に、思わず抱きしめたくなる衝動を、理性を総動員して抑えつける。
「・・・そ、それじゃあ、そろそろ行こうか」
「ほ、本当にこれでいくのか?」
「当たり前だろ?さ、早く行こう!」
「ちょ!おい!」
華雄の手を掴み、駆け出す一刀。そして、その握られた手を見ながら、恍惚の表情となる華雄。
二人が向かった先は、とある場所にある林。ちなみに、一刀の手にバスケットがひとつ、握られていた。
「んー、いい天気だ!絶好のピクニック日和だな!」
「そ、そうだな。・・・うん、最高のぴくにっく日和、だな」
普段なら、一刀の使う英語に首をかしげる華雄なのだが、このときばかりはさすがに、緊張と昂揚が優先されたらしく、一刀の言葉にそのまま同意する。
「さてと。場所はここらでいいかな?さ、お弁用にしようか?華雄手作りの、お弁当に、さ」
「あ、あまり味は期待しないでくれよ。料理なんてめったにしないんだし」
「大丈夫大丈夫。・・・世の中にはさ、食べ物と呼べないものを作る人もいるんだから」
「・・・ああ~、そう、だな」
誰のことかは深く追求しないが。
そして、ござを敷いて食事を始める二人。
「ん!これうまいよ!」
「そ、そうか?なら、こっちのも食べてみてくれないか?・・・ちょっと、自信作なんだが」
「うん。・・・あーん」
「(ぼっ!)あの、その。はい、・・・あ、あーん」
出しまきのようなものを箸で取り、一刀の口へと運ぶ。
「もぐ。・・・はあ~、これもうまいなあ~。華雄って、料理上手だよな。うん、いいお嫁さんになれるよ」
「お!およ、めっ!?・・・・・いや、あの、か、一刀が望むなら、わたしはいつでも・・・」
「ふあ~あ。なんか、おなかが膨れたら、眠くなってきたな。・・・よっと」
「え?!」
ごろん、と。
突然大あくびをしながら、その場に寝転がる。華雄のひざを枕に。
「・・・いや、だった?」
「そ、そんなことはない!・・・おまえこそ、私なんかの膝じゃ、固くて眠れないんじゃないのか?」
「それこそまさかだよ。・・・やわらかくて、とっても気持ちいいよ。華雄のひざ。どんな上質な枕だって、これには勝てないくらい、さ」
「・・・・・・・馬鹿」
こつん、と。
一刀の頭を軽く小突く華雄。
そうして、何をするでもなく、しばらく穏やかな時間が流れる。
「・・・・・・・わたしは、しあわせだな」
眠っている一刀の顔を見ながら、華雄がポツリとつぶやく。
「・・・・・・・お前の笑顔は、都の、いや、都に居ない他の者たちのものでもあるのに、こうして、今は独占していられる。・・・・この間だけは、わたしは、お前だけの、私で居られる。・・・・・・一刀、愛してる(ポソ)」
「・・・・・・俺もだよ、華雄」
「!?」
眠っていると思い、聞こえないであろうと思って言ったその一言を、自分の膝を枕に眠るこの男は、きちんと聞いていた。しかも、華雄が、他のどんな言葉よりも、最も望んでいる言葉を、その口で紡いだ。
「おれも、君を愛してる。・・・今だけじゃなく、いつでも、どこに居ても、君を、君だけを愛してる。・・・・・だから」
「あ」
ぐっ。
一刀が華雄の顔を、自身の顔に近づけ、そっと、唇をかさねた。
「・・・・・・かず、と」
次は華雄から。
二人は、何度と無く、口付けを交わす。
今このときだけは、お互いだけを、その瞳に映して。
辺りには、虫たちの鳴き声と、綺麗に紅葉した木々のざわめきだけが、静かにこだまする。
「・・・・・・一刀」
「・・・・・・何?」
「・・・・ずっと、ずっと、一緒に居ような」
~ end ~
Tweet |
|
|
48
|
4
|
追加するフォルダを選択
・・・何故だろう。
刀香譚を書かなきゃいけないのに、こんな話が浮かんでしまった。
最近、時々意識の無いときがあるし・・・。
続きを表示