No.180308

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART2~

戯言使いさん

袁家√の2です。
ワイルド一刀が好評のようでなによりです(´∀`*)
この次は雛里シリーズを載せますので、よろしくお願いします(n‘д‘)η

2010-10-25 11:56:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8386   閲覧ユーザー数:6767

 

 

 

 

夜が明け、そして朝がやってくる。

 

七乃は一人静かに朝食の準備をしていた。もしいつも通りであれば、一刀が起き出して、いつも手伝いをしてくれている。でも、今は一人。

 

胸の中から生まれる、感じたことのない痛い気持ちに、七乃は泣きそうになったが、それを抑え込むように自分の頬をたたく。

 

 

「ふあぁぁあん、よく寝ましたわ」

 

 

「あ、麗羽さん。おはようございます」

 

 

「あら、七乃さん一人?あのブ男は?・・・・そう言えば、斗詩さんたちも見ませんわね」

 

 

「あぁ、あの3人ならお暇を頂きましたよ」

 

 

「お暇・・・?」

 

 

「えぇ。つまり、我がまま麗羽さんには付き合いきれないって、旅に出ちゃいました」

 

 

「あらそうですの?なら、新しい従者をみつけなければなりませんね」

 

 

「えっと・・・・それだけですか?」

 

 

「?別になんとも・・・あぁ、主である私に恩があるにも関わらず、勝手に出て行ったあの人たちにはきつーいお仕置きが必要ですわね」

 

 

「あ、あはは、そうですねー」

 

 

七乃は呆れた笑顔を浮かべると、何処にいるか分からぬ一刀たちを想って、小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーーーーん!今日は疲れたなー」

 

 

「そうだねー」

 

 

「まぁ、今日は盗賊たちのお金も巻き上げられたし、今日は肉まんでもつまみ食いしながら帰ろうぜー」

 

 

「駄目だよぉ。早く帰って、一刀さんとご飯を食べようよ」

 

 

「そうだなー。やっぱり飯はみんなそろってがいいな」

 

 

斗詩と猪々子はそんな話をしながら、村の中を歩いて行った。体には金の鎧、そして手にはそれぞれの愛用の武器を持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一刀たち3人がこの村に来たのはほんの一週間前。

 

 

 

 

 

取りあえず、麗羽たちとは別に道に進んだ先にあった、この寂れた村で少し休憩をしようとしていた時だった。

 

この村には以前から盗賊の被害があり、そしてそれを討伐するための兵士を募集していたのだ。本来であれば、義勇兵のような扱いを受けるのだが、そこは二人の肩書が役にたった。あの名前だけ有名な袁家の肩書は偉大だった。元袁家の武将、と言っただけで、あっと言うまに部隊長を任されていた。そして、戦に関しては能力の高い二人はたった一週間で周辺地域にまで名の知れる存在になっていた。

 

部隊長と言うことで、賃金もよく、3人はしばらくはこの村で路銀を稼ぐことにした。

 

 

一刀と言えば、宿屋兼、居酒屋である小さなお店に、宿を無料で貸してもらう代わりに、朝から晩まで仕事の手伝いをすることになっていた。賃金はそれこそ雀の涙であったが、それでもキチンと泊まることのできる場所があることは、3人にとってはありがたかった。

 

 

 

斗詩と猪々子は一刀の職場である居酒屋へと向かい、そして中へと入った。

 

 

そこには、一刀が普段の服とは違い、エプロン姿で食事を運んでいる姿があった。もし麗羽であれば、宿屋で「帰りが遅い」としかりつけているだろうが、一刀はそんなことはなく、真面目に働いている。

 

 

「おーい、兄貴!」

 

 

「いらっしゃい・・・・って、何だお前らか」

 

 

「ただいま帰りました」

 

 

「おぅ。飯はもうちょっと待ってくれ。適当に席について待っててくれ」

 

 

そう言って一刀は端っこの目立たないカウンター席に二人を案内した。

それと同時に居酒屋の店長であるおじさんが現れて、お酒を二つ置いていく。

 

 

「いつもありがとな、おっちゃん」

 

 

「なーに、あんたらのお陰で最近は盗賊も出ないし、それに一刀のおかげでこの店は大繁盛さ!一刀が発案したこの一人用の席の『かうんたー席』って言うのが大人気でな?一人で飲みにくる奴らがいっぱい来るんだよ。いやぁ、あの兄ちゃんのひらめきはすげぇな!」

 

 

「あはは、でも、私たちも部屋を貸してもらってますし」

 

 

「なーに、気にすることはないよ。で、夜の方はどうなんだい?二人とも一刀の嫁さんだろ?」

 

 

「な、何言っているんですか!まだそんな関係じゃないですよー」

 

 

「そうなのか!?なら早いうちに旦那にしておきな。最近は若い娘が一刀目当てに来てるんだよ・・・・ほら、カウンター席に居る女はみんなそうだ」

 

 

そう言って、おじさんが指さした先には、お酒で少し頬を赤らめている若い女子が、一刀と話をしている最中だった。

 

 

「一刀さんって何歳なんですか?」

 

 

「あぁ?知らん忘れた」

 

 

「もぅ、いっつも冗談ばかりー」

 

 

「冗談じゃねーよ。ほら、さっさと飲んで消えろ」

 

 

「あーん♪いじわる~」

 

 

斗詩の額に、ピキっと青筋が立った。

 

 

 

「何あの女。一刀さんに気安く声かけて・・・・ねぇ、文ちゃん、あの女を・・・・」

 

 

「ほらほら、怒るなって斗詩。ほら、お酒飲んで落ち着こうぜ」

 

 

「うぅ・・・わ、私だって一刀さんと一緒にお酒飲みたいよー」

 

 

「しょうがねーな。おーい、一刀。もう仕事上がっていいぞ!」

 

 

斗詩の愚痴を聞いていた人の良いおじさんは、気を利かせて一刀にそう叫んだ。周りにいた女の子たちは「えぇー!」とブーイングをし、男たちは豪快に笑って「嫁さんと仲良くしてなー」と冷やかす。その光景はとても温かみに溢れていて、つまりは一刀たちはとても愛されていた。

 

 

一刀は「はーい。斗詩と猪々子は先に部屋に行っててくれ」と言って、厨房へと消えていった。

斗詩たちはそれに従い、宿屋である2階の自分たちの部屋へと入って行く。

 

 

その数分後に一刀はお盆に乗った夕食を持って現れた。

 

 

「待たせたな」

 

 

「いいえ、一刀さんもお仕事お疲れさまです」

 

 

「兄貴―、さっさと飯食おうぜー」

 

 

「あぁ、今日は時間がなかったから、店の残り物のシュウマイと肉まんで我慢してくれ」

 

 

「全然大丈夫さ。いっただきまーす!今日は特に腹減ってるんだー」

 

 

「へぇ。大変だったのか?」

 

 

「はいまぁ・・・・と言っても、最近、盗賊たちの数が増えてきていて、もしかしたら、近いうちに大きな戦いがあるかもしれません・・・・」

 

 

「そうか・・・大丈夫なのか?」

 

 

「はい。村長さんがお役人さんに国の軍を動かしてもらえるようにお願いしたらしいです。ですから、もうすぐで盗賊たちとの戦いも終わると思います」

 

 

「そうなんだよー、だから今のうちに稼ごうと思って、はりきっちゃってさー」

 

 

「そうか。なら、俺の分も食え」

 

 

「えっ?いいの?」

 

 

「斗詩と半分にしろよ」

 

 

「兄貴は食べないの?」

 

 

「俺はちょくちょくつまみ食いしてるし、それに客のおじさんや女共が酌させてきたりして、結構食ってるんだ」

 

 

「へぇ、それなら遠慮なく・・・・ほら、こっちは斗詩の分な」

 

 

「ありがとね、文ちゃん」

 

 

斗詩と猪々子は本当にお腹が減っていたのか、お盆の上の食事は瞬く間に無くなり、竹筒の中の水までもすべて食べ終えてしまった。

 

 

その後、一刀はその食事の後片付け。

 

その間に斗詩と猪々と子は、汚れた体を濡れた手拭いで綺麗にし、そして寝巻へと着替える。

 

 

そして、一刀が後片付けを終えて帰ってきたら、今日の活動はおしまい。

 

 

 

たまにお酒を飲むこともあるが、一刀の仕事は朝が早いため、夜更かしはあまり出来ない。

 

一刀は部屋の隅に藁で作った簡易ベッドで、斗詩と猪々子は少し小さいがキチンとしたベッドで二人一緒に眠るようになっている。

 

 

「それでは、お休みなさい」

 

 

「お休み、兄貴」

 

 

「あぁ、二人ともお休み」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

「一刀さん?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「眠ってますね?」

 

 

斗詩は隣に眠る猪々子を起こさないように静かに起きあがると、一刀が眠るベッドへと近づいていく。

 

一刀を見ると、寝息を立てながら眠っている。

 

 

「うふふ、可愛い寝顔・・・・」

 

 

つんつん、と頬を指でつっついて一刀の感触を楽しむ。

 

 

そして

 

 

 

「それでは、いただきます」

 

 

 

 

と、斗詩が一刀のベッドの中に入ろうとした瞬間

 

 

「斗詩。兄貴は明日早いんだから、我慢しろ」

 

 

と猪々子が小さく囁いた。

 

 

「だ、だって同じ部屋で寝ているのに、何もしないんだよ!?だからさっさと既成事実を作って、他の女が近づいてこないようにしないと・・・」

 

 

「安心しなって、兄貴が心変わりする筈ないよ。それより、眠れないなら、あたいが相手してやるからさ・・・・ほら、おいで」

 

 

 

 

「あっ・・・・文ちゃん・・・・」

 

 

 

 

 

もぞもぞ、とベッドが動き、そして一瞬、ビクビクすると、また静かな夜になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に一週間の時がたち、一刀たちは順調に路銀を稼ぎならが、村人たちと楽しい時を過ごしていた。

 

 

今日も、斗詩と猪々子は客の男たちと楽しく語らいながら、愉快にお酒を飲んでいた。一刀も口では嫌々言いながらも、きちんと客たちに付き合い、それなりに楽しい時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――しかし、それは唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「すまねぇ!ここに文醜さんと顔良さんはいるかい!?」

 

 

手に槍をもった、見張り番のような男が、突然居酒屋の中に入ってきた。突然の来客者に、さすがに客たちも酔いが冷めて、静かになる。

 

 

「あの・・・私たちがそうですが、一体、どうしたんですか?」

 

 

「盗賊が来たんだ!しかも、その数は今までの数倍だ!今から義勇兵を集めても、全然足らないんだ!」

 

 

「そ、そんな・・・・」

 

 

「それで、向こうは文醜さんと顔良さんを差し出せって・・・・もし、差し出さなければ、この村の住人を一人ずつ殺して首を掲げるって・・・・女子供、老人であろうとも見境なく殺すって・・・・。もうすでに家に火矢が打ち込まれて、村人も何人も捕まった!」

 

 

 

 

 

―――外で大きな音がなり、そして人の叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

居酒屋の空気が一瞬にして、張り詰めたものになり、そして居酒屋の客全員の視線が、二人に注がれた。

 

 

その視線を受けながら、斗詩と猪々子は考える。

 

 

有名になったことで、義勇兵は増えたが、逆に敵を作ってしまった。今から義勇兵を集めて、そしてどうにか立ち向かわなければならない。そうしないと、村人たちに迷惑をかけてしまう。かと言って、何か特別な策があるわけでもない。

 

 

 

 

 

 

・・・・どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

と、二人が頭を悩ませていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文醜と顔良を探せ!探せ探せ!見つけたら縄をかけろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、声が聞こえてきた。

 

 

一瞬、盗賊が来たのか、と思ったが、その声をよく聞いてみるとそれは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村人の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――恐怖は人を簡単に狂わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 

 


 
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