※この作品は魏endで一刀が"完全"に消滅した事を前提としているため、
記憶が戻るとかは無いので御容赦下さい。
後、オリジナル設定もあり、登場人物の行動や言動が原作と一致しない場合も
多々ございますので、その点も御容赦下さい。
北の街で戦いが始まったと同じ頃、許昌の城では桂花が頭を悩ませていた。
すでに9日も華琳が目を覚ましていない。
何とか華佗を見つける事はできたが、呉の国内にいたため最短でもあと6日はかかる。
15日間もの間華琳の事を伏せておける筈は無く、すでに問い合わせが殺到して許昌の城内
は殺伐とした雰囲気が漂っている。
主だった将には華琳の事を伝えているが、北の街に現れた十文字の旗印の事は伏せたままだ。
今は稟も出払っているため、実質魏の頭脳は半分しか動いていないような状況。
これは異常事態を通り越して、すでに非常事態だ。
(このまま華琳様が目覚めないなんて事になったら・・・)
自分の嫌な思考に意識を逸らした桂花は筆を取り落とし、
疲労と焦りから来る苛立ちで強く舌打ちをする。
「桂花、焦る気持ちはわかるが・・・」
「うるさいわね!」
秋蘭の労わる声に対して、思わず荒げた声が出た事に自分も驚き、小さく「ごめんなさい・・・」と謝る。
「気にするな」
という秋蘭の心遣いが逆に辛くも感じた。
しかし事態が変わるわけではない。
書簡は未だに山積み、報告の兵も代わる代わる行ったり来たりを繰り返していた。
兵の報告の取りまとめは風がこなしていた為、直接この部屋には来ないが風の負担も相当なものだろう。
秋蘭も書き終えた書簡を処理済みの机に置き、一つ溜息をつく。
(こんな時・・・北郷がいてくれたら・・・)
その事を考えて頭を振るう。
(何を気弱になっている。こんな事ではいざ北郷が帰ってきた時に笑われてしまう)
秋蘭も一刀が消えた日を思い出す。
華琳から一刀が消えた事を聞き、その理由を知った秋蘭は姉に取り縋って子供のように泣いた。
その事を思い出し、自傷気味に笑みを浮かべるとまた新たな書簡を手に取り広げる。
それは桂花の物だったが、今は少しでも負担を減らそうとの思いからだった。
その表情が強張る。
「桂花・・・この書簡は・・・どこから来たものだ?」
書簡を手に桂花に近づき、訝しげな表情をする桂花の前に見せると、桂花の表情も強張る。
その書簡には、ここ数日蜀の国にいる者と連絡が取れず、商人が困っているという報告が書かれていた。
風からはそんな報告は上がっていない。
そして昨日も蜀の国の使いのものが来ていた。
違和感。
二人が顔を見合わせるが、答えは出ない。
「この印は兵糧部隊・・・流琉の所じゃないかしら・・・」
やがて桂花が呟くようにその出所を思案する。
兵糧の元締めは桂花だが、細かい部分は流琉が取り仕切っていた。
「では、私が流琉に聞いてこよう」
桂花が立ち上がろうとするのを秋蘭が制止して、秋蘭が笑顔を作る。
桂花は度重なる仕事の量で足元がふらついていた。ここで転んで大怪我をされても大変だ。
秋蘭が部屋を出ると桂花も溜息をつく。
一息入れようと立ち上がり、水差しを持つが中には何も入っていない。
今この部屋には重要な書簡が大量にあり、侍女は立ち入らせていない事を思い出す。
ふと見れば秋蘭の茶碗にも何も入っていない。
さっき声を荒げた事を申し訳なく感じていたため、桂花がお茶を入れてあげようと部屋を出る。
お湯を貰いに行こうと廊下を進んだ先で、倒れている秋蘭を見つけた。
ゾッとする。
冷や汗が氷のように冷たく感じ、足が震える。
「誰か!誰か来て!!」
大声で叫ぶ桂花の声に反応する足音を聞きながら、桂花が秋蘭に駆け寄る。
秋蘭の腹部には小刀が刺さり、そこからは大量の血が流れて気を失っていた。
そして・・・気を失いながらも秋蘭がしっかり掴んでいた物・・・。
それは・・・真っ二つに裂かれ、血のついた────
────聖フランチェスカ学園の制服だった。
稟は自分の愚かさを呪う。
黄色い布を付けていれば黄巾党。
その先入観が決定的な敗北を生んだ。
現れた黄巾党の数、およそ二千。
こちらは三千。
いつものように騎兵を中心とした戦法は、黄巾党が正体を見せた瞬間に砕ける。
黄巾党の正体は・・・五胡。
同じ騎兵でも、その強さは桁違いだ。
さらには篭城しようにもこの街にはそれほどの兵糧は備蓄されていない。
いざ、五胡に支配された時の為に、五胡の地に近いここにはあまり置かれていないのだ。
全てが裏目に出る。
街の民を逃がすために霞は突撃した。
稟も前線で指揮を執るが、こちらの兵はすでに半分までに減り、本陣の稟の近くまで五胡の兵が現れている。
「右を厚くしなさい!こっちは弓で対応です!」
憎い五胡・・・頭を切り替えて冷静になろうとする稟の目に、驚愕の物が映る。
「十文字の・・・旗・・・」
偽者と自分で判断した。
だが、今稟の目の前には絶望と共にその旗が翻っていた。
兵の間でも動揺が広がる。
これでは態勢を整える所の話ではない。
全滅────
その言葉が稟の頭をよぎる。
「郭嘉・・・だな」
不気味な声にそちらを見れば、すぐ近くに槍を持つ五胡の騎馬が一騎いた。
兵が打ち倒されている事から相当な実力者と知れる。その男は五胡独特の仮面をつけており、顔は分からない。
五胡の兵が戦いの最中に話しかけてくるなど今まで無かった。
それも、こちらの名前を知っている。ザワリとした予感が稟を襲い、思わず一歩下がった。
周りの兵も迂闊に手が出せず、稟を護るように展開するだけ。
「いかにも、私が郭嘉です」
怯み掛けるが、一つ息を吐いて状況を確認する。
最悪には変わりないが、この男には何か目的があるようだ。
肝心な事を聞ける好機と判断する。
「何故あなた方があの十文字の旗を掲げているのです!」
「あれは我が主の旗だ」
「何を馬鹿な事を!あれは『天の御遣い』の旗です!それを騙るなどと・・・!」
「我の主がお前を連れて来いと所望している」
感情の無い、その声に背筋がゾッとする。
何故自分を、と思うが相手が答えるとは到底思えない。
(こちらの言い分など聞く耳を持たないという事ですか)
「断ります」
眼鏡をくいっと上げて、ハッキリと言い放つ。
五胡の男が笑ったような気がした。
そして懐から何かを包んだ布を取り出す。
「手土産だ」
無造作に投げられたそれが弧を描き、稟のすぐ側に落ちてハラリと広がる。
稟は・・・それが何かを確認した途端、崖から突き落とされた思いだった。
布から出てきたもの・・・それは半分に裂かれていたが、
血に濡れた聖フランチェスカ学園の制服だった。
剣で突かれた跡を見た時、稟の思考が停止する。
そして・・・男が決定的な一言を放つ。
「我が主が北郷一刀を殺した」
全身が粟立つのを感じた。
もう考えられない。ただ一言以外。
殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、
殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、
殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、
頭に響くその言葉・・・刹那によぎる、倒れて床に伏せる華琳と、一刀が消えた日に見た
初めてみた風の哀しみの表情・・・。
「あっ!、あ・・・ああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
自分自身の絶叫が稟の心を砕いた。
崩れるように跪き、制服を抱きかかえる。
男は、確かに笑った。
お送りしました第4話。
お楽しみいただければ幸いです。
ではちょっと予告。
「魏国、壊滅」
では、また。
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真・恋姫無双の魏end後の二次創作SSになります。凪すきーの凪すきーによる、自分の為のSSです。ご注意ください。