②
鳥になりたいと思った、もしくは、空に憧れを抱いている。
空を飛びたい、というのとは少し違う。
すっからかんで、何も無い僕。
思春期特有の、あの方向性の定まらない不満以外、
およそ中身と呼べるものは一切詰まっていない。
僕。重みのない命。
そんな僕に翼があったなら、こんな軽い身体なんて、
その力強い羽ばたき一つで、どこまででも運んでいくことが出来るだろう。
脳みそまですっからかんな山田なら、それこそ宇宙にだっていけてしまうくらいに、
強く、強く、羽ばたいて。
僕たちの頭上に重く横たわる茫漠とした時間や、不安、人生を、軽々と飛び越して。
どこまでも続く空の、どこまでも深い青に溶けこみ、このスカスカの
スポンジみたいな身体いっぱいに空の青を吸って。
ちっぽけな僕の、その無情なまでのちっぽけさを、感じなくすることだって、
きっと出来るだろう。
鳥は、翼は、僕のそんな身勝手な期待を背負っている。
当の翼からしてみれば、こんな迷惑なこともなかっただろう。
それまで順調そうに空を泳いでいた白色の羽ばたきは、
三人分の身勝手を背負ったまま、ボキリと音を立てて丘の向こうに墜落した。
「だから言ったんだよ。強度が足りないって。重すぎたんだ」
「あれ、そんなこと言ってた?私、そんなの一言も聞いてないよ」
コロコロと、麗花は笑う。
「直君はいつもそう。いい加減なのね」
僕を責めるその言葉にトゲはない。
「そうかな」
「そうよ」
一陣の風が、麗花の髪をかき上げる。
海からの風が、草の上の滑り、丘を上り、微妙に間を空けて座る
二人の間をすり抜け、僕らの街へ吹き降ろす。
微かに香る潮の中に、麗花の髪の匂いが交じり、僕の鼻をくすぐる。
左手に僕らが暮らす街、右手に海を臨むこの高台に、僕ら3人はよく集まる。
剛士と麗花、そして僕、高崎直。
「ダメだー!根元からいってるー!」
こりゃ一から作り直しだーと、丘の向こう、
折れた模型飛行機の翼を拾いながら剛士は言う。
「一からだって。どうする?」
僕は彼女に問いかける。
「どうもしないよ。また作って、また飛ばすの」
そう言うと、麗花は剛士の元に走っていく。
その後姿を、僕はただ眺める。
麗花はある種の透明感のようなものを纏っていた。
儚げで、今にも消えてしまいそうな、手を触れたら、音もなく壊れてしまいそうな。
いや、麗花に限ったことではない。
僕らのこの関係そのものが、いつか必ず失われてしまう。
確信に近い思いを僕は薄々感じていた。
それは、きっとあの二人も同じだったのだろう。
だからこそ、僕らは計画を立てた。
「おーい直、早く来いよー!」
「直くーん!」
二人が手を振っている。
僕は立ち上がり、手を振り返す。
「今行くよ」
中学最後の夏休み。
僕たちは模型飛行機を作った。
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