No.178321

冷たい夏①

saitou1038さん

初投稿作品。①

2010-10-15 03:50:14 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:317   閲覧ユーザー数:302

 

 

 

今年の夏は、うだるような暑さ、という程でもなく、かと言って

 

 

 

朝晩の冷え込みに悩まされる、なんてこともない、世間一般で言う過ごし易い夏だったと思う。

 

 

 

僕のこの認識が間違いでないことは、今日、およそ一月ぶりに顔を合わせた山田の

 

 

 

「今年の夏はこう、なんか、どっちつかずで煮え切らなかったな。お前みたいだ」

 

 

 

という発言からも窺い知る事が出来る。

 

 

 

 

朝の8時を回ったばかりの朝の教室は、まだ人も疎らで、独特ののんびりとした

 

 

 

気怠い空気を作り上げている。

 

 

 

元気なのは隣の席の山田ばかりで、眠たそうに目を擦っているクラスメイトを

 

 

 

片っ端から捕まえては、自身の夏の武勇伝を聞かせている。

 

 

 

 

そんな山田を視界の隅で眺めながら、僕は窓から校庭を見下ろす。

 

 

 

ちょうど登校時間もピークのようで、目に映る生徒が段々と増えていく。

 

 

 

5分もすれば、この教室の席も埋まっていくだろう。

 

 

 

パズルのピースを一つ一つはめていくように。

 

 

 

なんでもない朝の教室という一枚絵を完成させるべく。

 

 

 

およそ一月前の修了式の日と全く同じ景色が出来上がる、はずだった。

 

 

 

 

登校時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 

 

 

HRは既に始まっているが、教壇に立つ担任の口からは5分以上言葉がない。

 

 

 

先程までとは一転して重く息苦しい空気に、流石の山田も困惑している。

 

 

 

山田だけではない。クラスの誰もが戸惑いの表情を浮かべている。

 

 

 

担任を除けば、僕だけが。当事者である僕だけが、この状況を正しく理解していた。

 

 

 

 

「HRを始める前に、みんなに話しておかなければいけないことがある」

 

 

 

空白の机。

 

 

 

「とても辛い知らせだ」

 

 

 

パズルのピースが足りない。

 

 

 

「本当に突然だった。今朝早くのことだ」

 

 

 

なんでもない朝の教室という一枚絵はとうとう完成しなかった。

 

 

 

「麗花と剛士が事故で亡くなった」

 

 

 

この絵に欠けているピースは二つ。

 

 

 

三沢剛士。僕の唯一無二の親友と、

 

 

 

相原麗花。僕のかけがえのない恋人だった。

 

 

 

 
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