~晴歌・絢音・拠点【この思いあなたに届け】~
晴歌「……なぁ絢音。一刀様の所に行かないのか?」
絢音「………どんな顔をすればいいか分からないの。」
調練が終わり、本来なら終了の報告とこれからの確認のために一刀の所にいかなくては行けないはずなのに…二人は調練場にある木の木陰に座っていた。
晴歌「……そっか。」
絢音「……晴歌はどうして行かないの?」
晴歌「……わたしはどんな声をかければいいか分からないんだ。」
絢音「……そう」
それっきり二人はまた黙ってしまう。
先ほどから何度もこのやり取りが行われており、さすがに気になるのか近くの兵たちが声をかけようと試みているのだが……そこに漂う空気があまりにも重く声をかける前に逃げ出していた。
そうしてまたしばらく時間がたった頃
さっきまでとは違う話をし始めた。
絢音「………私はあの時から…初めて一刀さまの部下として仕官したときから絶対にこの人の助けになろうって誓っていたの。」
晴歌「……うん。」
絢音「……でもね。誓っていたはずなのに私は何も力に慣れてなかった。…あんだけ近くにいたのに。誰よりも多くの時間傍にいたのに全然気付いてなかった。……私にはやっぱり無理なのかなぁ………くやしいよ…」
そう漏らした絢音の目には涙が浮かび、体も震えていた。
晴歌「……それはわたしも同じだよ。あの日から悔やんでばっかりだもん。一刀をだれよりも傍で見ていたはずなのに…なんで気付かないんだろ。何で……何で……」
晴歌も涙を流す。
人目なんか気にする事はなく、ただただ二人は泣き続けた。
私達は北郷隊の副隊長として誰よりも近くで一刀様を見てきた。
調練・仕事・たまの休日・話し合い…三人でいることが多く今まで覚えきれないくらい会話をしていた。そのせいか…たまに二人だけで町に出るといつも言われていた……
”あれ?今日は北郷様といっしょじゃないのかい?”
この言葉は恥かしくもあったが、それ以上に嬉しかった。だってその言葉は私たちが誰よりも一刀さまの傍にいるという何よりの証拠だったから…
そんな私たちなのに、一刀さまの変化には全然気付けなかった。
だれよりも傍にいたのに…
ほとんど一緒にいたはずなのに…
その言葉が二人の頭にいつもあり、さらに苦しめていた。
涙は止まらずただ流れていた。
この涙と一緒に悲しみや苦しみが流れて欲しいと…そう体と心が考えているかのように…
二人ともこの涙を止めることが出来なかった。
しばらくうずくまりながら泣いていると晴歌が話しかけてきた。
いや…きっと話しかけているつもりは無いのかもしれない。
その声は小さく自分に言っているように感じるのだから…
晴歌「……わたしさ、やっと気付いたんだ」
絢音「?……何を?」
晴歌「……一刀のことが本当に好きなんだって。」
絢音「え!?……でもこの前言ってなかったけ?」
晴歌「……あの時はなんていうか周りの空気に乗せられたというか…あの時もたしかに一刀のこと好きだったんだけど、それは雪蓮様たちが言う好きと同じじゃなかったんだと思う。」
絢音「……同じ好きじゃない?」
晴歌「わたしは一刀の傍にいるときのあの楽にできるというか…自分を偽らなくてもいいような…そんな空間が好きなんだ。だからその空間をつくりだしている一刀のことが好きだったんだけど…それはきっと友達としての好きに似ていたんだと思う。」
絢音「……晴歌。」
晴歌「でもあの話を聞いたあとまず最初に感じたのが、怒り…なんで私に黙っていたんだっていう怒り。そしてその後にまた怒り……今度は何で気付いてやれなかったんだっていう自分への怒りだった。そうやって考えるとさ…わたしってこんなにも一刀の事を考えて…こんなにも一刀の事知りたかったんだって思った。……その考えに気付いた時初めて”友達”の好きから”異性”に対しての好きに変わった。………いやたぶん気付けたんだと思う。」
絢音「そっか…。」
晴歌の思いを聞いて絢音はそれだけしか言え無かった。
そしてその話に続くように…今度は絢音が自分の事を話し出す。
絢音「私はねなんていうのかな…最初はたぶん一目ぼれだったんだと思う。」
晴歌「…一目ぼれ?」
絢音「そう…。前絢音にも話したことあったよね?私は一刀さまに救われたの。」
晴歌「……あぁ…たしか邑が襲われた時にいたんだっけ。」
絢音「……あの時私も頑張って戦ったんだけど、何も出来なかった。唯一できたのは助けを呼ぶ事だけ…。一刀さまたちはそんなこと無いって言ってくれたけど、私はそう思っていないの。…それで助けを呼ぶときは本当に必死だった。次々と平和に暮らしている人達が死んでいる中で私は走った、誰でもいい…この地獄から助けて欲しい。そう思って手を伸ばしたときにその手を掴んでくれたのが一刀さまだったの。…その手を掴んでくれた一刀さまの顔を見たとき私はとても安心した。まだ状況なんてほとんど変わっていないはずなのに…一刀さまの顔を見たときに救われたって思ったの。そして……一目ぼれをした」
晴歌「……危機的状況下において助けてくれた異性を見ると好きになってしまうっていうやつだよねそれ…」
絢音「そうなの。でも言葉を交わして、一刀さまが仕事している所を見て…そして他人の死にあれだけ悩まれている姿を見て私は思ったわ。”この人を支えてあげたい”って。そしてこの人を好きになって本当によかったって思ったの。……それからは変わってないわ」
いつの間にか流していた涙は止まり、その顔には笑顔が浮かぶようになった。
それから話の内容は一刀の話になっていく…
ここが素敵とか…ここはだらしないとか……種馬の噂は本当なのか……などどんどん話が弾んだ。
前に誰かが言っていた。
好きな人の話になるといつの間にか笑っていて、そしてその話題は尽きる事がないと…
まさにその通りだと思う。
その事に気付いた二人はお互いに顔を見てクスリと笑った。
晴歌「……たっく…どんだけ私たちは一刀のことが好きなんだろうな。」
絢音「……たぶんどんだけでもだと思うよ?」
晴歌「……違いないね。話に一刀話題が出るだけでこんなにも心が暖かくなって笑えるんだから。」
絢音「そうよね…。本当に好きになってよかった。」
そこでまた会話は終わる。
しかし今度はさっきまでの暗く重い空気ではなく、やさしく暖かい空気になっていた。
絢音「……晴歌。私一刀さまに見せる顔分かったよ。」
晴歌「……わたしも一刀にどう声をかけたらいいか分かったよ。」
絢音「それってたぶん近い答えじゃないかな?」
晴歌「なら一緒に言ってみる?」
絢音・晴歌『せ~~~の!!』
絢音「笑顔!!」 晴歌「笑い声!!」
絢音・晴歌『ぷっ……あはははははっ…』
絢音「せ…晴歌。なにその笑い声って。あははは…」
晴歌「/////うっせいやい。だって笑って話していればそれは笑い声だろ?とにかく楽しい話をするんだよ!!そういうなら絢音だって…笑顔って言うけどどうせまた変な妄想して自爆するくせに…」
絢音「なっ!!/////////し…失礼な!私だってそうたびたび妄想なんてしないもん!!」
晴歌「ほんとに~?」
絢音「……たぶん……絶対……もしかしたら……きっと……そうなってほしいな……」
晴歌「おーい自信がないなら言わないほうがいいと思うぞ~?」
絢音「せ~い~か~ちゃ~ん?」
晴歌「ごめん、ごめん。とにかく私達ができる事はきまったね。」
絢音「そうね。まだ私達じゃ一刀さまの支えになれてないかもしれないけど、心配かけないように私達は笑ってよ?そしていつか一刀さまが私達を頼ってくれるようにがんばろう。」
晴歌「おう!!……じゃとりあえず一刀の所に行きますか。かなり遅くなくて怒ってなきゃいいけど…」
絢音「あうぅぅぅ…でも一刀さまのせいだから仕方が無いよ。」
そう言いながら二人は立ち上がり大好きな一刀が待っている部屋へと向かう。
その足取りは軽く、二人とも笑顔だった。
自分たちではまだ一刀さまの支えになっていないのかもしれない。
だけど、いつかなってみせる。
だって私達は一刀さまが大好きなんだから……
絢音・晴歌『私達は北郷隊。一刀さまの命と心を守るもの。そして……他の誰よりも笑顔で一刀さまを支える女なり!!』
兵士’s『い……いやふぅぅうぅぅ……!!』
絢音・晴歌『ビクゥゥ!!』
兵士’s『やっとお二人に笑顔が戻ったーー!!これでまた厳しい調練にも耐えられるぞーー!!』
絢音「……けっこう私たちって人気あったんだね。」
晴歌「……そうみたいだな。でも血の涙みたいなもの流しているのなんでだろう?」
兵士’s《たとえ二人の心が北郷様のものだとしても…俺達は一生ついて行くぞーー!!》
~思春・拠点【弱き心】~
思春「スゥー………ハァッ!!」
細く息を吸って掛け声と共に剣を振る。
一息に約五連撃…これが今私が出来る最高の速さだ。
私の武は力ではなく速さ…。
圧倒的な手数によって相手を追い詰める戦い方だ。
…というよりもそれしか猛将と呼ばれている武将達と戦う事が出来ないのが本音なのである。
私には相手を一撃の下斬り伏せる力は持っていない。
もしかしたらそこら辺の武将よりも力は弱いかもしれない…だからこそ私は速さを求めた。
手数を求めたのだ。
思春「ふぅ……シッ!!」
力を抜いてそこからまた連撃を出す。
これまでの戦いの中で、力を入れようとするほど速さがなくなってしまうことに気付いた私は、体の力を抜いて脱力からの攻撃をするように心がけていた。
でも…まだまだ私は未熟だ。
あの時……曹操達が私達の陣営に現れた時その傍にいた……たしか夏候惇とか言ったか?その人物を見たときに私は瞬間的に思ってしまった。
今の私では到底敵うものではないと…
きっとあの者は天に愛された武を持っているのだろう。
だが私の武はけして天に愛されてなどいない…私はただ必死なだけ。
必死に鍛錬を積み何とか戦えるようになっているだけなのだ…
だから私は鍛錬を続ける。
私が日々積み重ねている武で守りたい人、愛している人を守るために…
……「ん!?おおそこにいるのは思春か?毎日せいがでるのう…」
集中力が切れ始め、少し休もうとしていた所に声が掛かる。
思春「え?…あぁ祭殿でしたか。当たり前です。私には武の才ない凡人なのですから…」
祭「そんなことは無いと思うがのう…じゃが鍛錬する事は良い事じゃ。」
思春「いえいえ…私など。…それよりも祭殿はどうしてこちらに?」
祭「ん?…あぁワシは今さっきまで一刀の修行を見ていたのだ。最近技の修行に入ったからの。ワシがいないと始まらんからな。」
思春「そうでしたか……祭殿?この後はお時間ありますか?」
祭「おう。もう今日やることは終わっておるわい。じゃから酒でも飲もうかと持っておったんじゃが…その様子だとワシに何か用か?」
思春「はい。ちょっと私の鍛錬を見ていただけないでしょうか?何分今まで一人でやってきてそれも限界を感じていましたので…」
祭「ふむ…わかった。ならしばらくの間見せてもらおうかの」
思春「よろしくお願いします」
私は快く申し出を受けてくださった祭殿にお礼を言うと、早々と休憩を終わらせて先ほどまでやっていた様に鍛錬をした。
力を入れず速さ、手数を意識して何度も何度も剣を振るう。
この剣筋を極めてこそ初めて猛将たちと渉りあえると信じながら…
そしてしばらく時間がたった後祭殿が声をかけてきた。
祭「ん…だいたいわかったわ。」
思春「ハァ…ハァ…。どうでしょうか?」
祭「そうじゃの…。はっきりと言えば今のままではお主のことは怖くないな。」
思春「………ッ!!!!」
いきなりの祭殿の言葉に私は思わず愕然とした。
私が鍛錬してきた事は無駄だと言われているような気がして…
私は目の前が真っ暗になっていくのを感じていた。
祭「すまんな。ワシは遠まわしに言う事が苦手じゃからはっきりと言わせてもらった」
思春「……いえ。むしろそっちのほうがうれしいです。……私のどこがいけないのでしょうか?」
何とか気持ちを落ち着かせてそう答えた。
私のどこが間違っていたのか?その答えを知るために…
祭「まず何よりも剣に力がこもっておらん。今のを見ているとお主は速さと手数を意識して鍛錬し続けていたようじゃがそちらに意識が行き過ぎておるわ。」
思春「し…しかし!!」
祭「まぁ最後まで話を聞け。けしてお主の考えが間違っておるわけではない。お主には誰にも負けない速さがある。そしてその速さを最大限に生かすように手数を増やそうとしているのも別に良い。じゃが今はあまりにもそちらに意識が入っている為に一撃一撃があまりにも弱すぎるのじゃ。それじゃ猛将と呼ばれておる者たちはとまらんよ。むしろ無駄に体力を使ってしまいお主のほうが先にまいってしまうじゃろう」
思春「………」
祭「剣の基本は力強く振り切ること…本来速さ手数などは二の次なのじゃ。じゃがお主は先に速さ手数を求めてしまい振り切ることを忘れてしまっておる。…しかしワシは感心もしておるのじゃよ。よくぞ誰にも教えを請わずここまでこれたものじゃ……やはりお主は類まれなる素質を持っておるのかも知れんな。」
祭殿はそう言って笑みをこぼした。
祭殿にそう言ってもらえると正直とても嬉しい。祭殿は今まで呉をその武によって支えてきたお方そして戦場では無類の強さを誇っている。
実質、呉最高の武を持っているだろう。
そんなお方からそう言ってもらえるのはうれしい…うれしいのだが…。
私は自分が到底素質があるとは思えない。
どう考えても私は祭殿や雪蓮様…そしてあの夏候惇に勝てるとは思えないのだから…
思春「……ですが。私にはやっぱり自分が武の素質を持っているとは思えません。祭殿や雪蓮様…そしてあの夏候惇に勝てると思いません。…曹操とはいずれ戦う事になると思います。でもそんな時私は……」
祭「このたわけが!!」
私が弱弱しく話をしているといきなり祭殿が大きな声を出して怒鳴った。
その声に驚いて祭殿を見るとその表情はとても怖く、いつも見せているような何処か子供っぽい表情は消えて私を敵として見ているような感じで睨み付けてきた。
祭「お主というやつは…もうすこし自分の武に誇りを持っておると思ったら実際はこれか!!思い上がるのもいい加減にせんか!!勝てない?そんなものは当たり前じゃろう!!剣の実力よりも先にお主は心が負けておるんじゃ。そんな心の持ちようではそこら辺の兵でもお主に勝てるわ!!」
思春「………」
祭「…よいか思春よ。相手の強さを認める事は良い事じゃ。相手の力量がわかるのも強さのうちじゃ。しかしのう…たとえ強さを認めても自分が積み重ねてきた強さを否定してはいかん。否定してしまったらお主が武に捧げて来た時間は無意味なものになってしまう。そしてなによりもお主を慕い信頼しているワシ達の信頼を裏切っているようなものじゃ。お主はそれでいいのか!?答えよ!!」
思春「!!…良い訳がありません!!私は私に信頼を寄せている人達の気持ちを踏みにじる事などできません。」
祭「なら己を信じよ。今まで武に捧げて来た時間を…その積み重ねを信じるのじゃ。そしたらきっと今よりも強くなれる。…何回も言っておるようにお主には武の才がある。自分の才を信じるのじゃ。もし信じることが出来ないのであれば、お主の武を信じているワシ達の言葉を信じろ。よいな?」
思春「はっ!!」
祭「よし。まぁここらで説教は終わるとしてだな…先ほど自分を信じろとは言ったが、ワシが少しちょっかいを出してやろう♪」
私の返事に満足がいったのか、先ほどまでの怖い顔が優しい顔になる。
いつもは戦場意外だと、冥琳殿とかにいろいろ怒られている姿しか見ていないがやっぱり祭殿は人より歳…んんっ…他の方よりも経験が豊富なため私達をいつも影から支えてくれる。
やはり呉の宿将は伊達ではなかった。
だが…その後に気になる事を言われたのだが、一体どういうことなのだろうか?
思春「は…はぁ…。ちょっかいですか?」
祭「そうじゃ。速さと手数…それらについてはワシから言う事などない。じゃからワシはそこに強さと重さが加わるようにしてやろう。」
思春「!!お願いします。」
私は全力で頭を下げた。
もともと、もう私だけでは限界に感じていた鍛錬だったが祭様が手伝ってくれると言ってくださったのだ。これほどうれしいことはない。
ただ…一刀に話を聞いていると祭殿の鍛錬は尋常じゃないらしいが、そこは望むところ。
一刀を守ると決めているのに、その一刀より楽な鍛錬をしていて守れると思うほど私はたるんでいない。
その決意が祭殿に伝わったのだろうか?私を見て”うむうむ”と頷きながら嬉しそうにこちらを見ていた。私もその顔を見て”絶対に教えをものにする!!”と決意を新たにして剣を構えると、何か思うところがあったのだろうか?祭殿がまた話しかけてきた。
祭「そういえば…お主、武具に名前などはつけておるか?」
思春「?…いえ特にはないですが。」
祭「そうか…。ならまず武具の名前を付ける事から始めるか。」
思春「え!?…あの一体それに何の意味が?」
祭殿の言葉の意味が良く分からなかった。武具に名前をつける…そんなこと今まで考えた事すらなかった。武具は武具…名匠から造ってもらった私だけの武具だから大切にしていたし、手入れも欠かした事は無かった。だが名前など一度も付けた事が無い。そもそも名前など必要なのだろうか?そんなことを思いながら私は祭殿にその真意を聞く事にした。
祭「ん?…そうじゃの。そもそも武具というのは武官にとっては己の一部、共に戦場を戦い守ってくれる相棒みたいなものじゃ。特にそれは名匠が造ったもの…命が宿っておっても不思議はなかろうて…」
思春「この剣に命が…」
祭「そうじゃ。…まぁワシもそれをすべて信じておるわけではないが、それでも名をつける事によってまるでワシ達の考えておる事が分かっているかのように動いてくれる……気がするぞ?ほとんど感覚でなんとなくそう思うだけじゃがな。」
思春「そうなのですか?」
祭「おう。ワシのこの多幻双弓もたまにワシが動かすよりも先に動いたりしてだな…」
思春「なんと!!」
正直驚きを隠せない。私の考えを分かってくれるということにも驚いたが、名前をつけるとこの武具が私よりも先に動いてくれるという…。きっと祭殿は危ない時に武具に助けてもらった事があるのだろう…。名前をつけるだけでこんなにも変わることができるとは!!
私は自分の武具をジッと見つめていると……なぜか祭殿が私から顔をそむけて震えていた。
なんだろう?…笑いを堪えているように見える。
祭「……ぷっ…あっはははは。」
思春「ん?いきなり何を笑っておるのです?」
祭「いや…今のはさすがに嘘じゃ。」
思春「っ……!!!祭殿!!」
祭「クククッ…いやすまん。あまりにも素直に返事をしたりするものでな…それにあまりお主のそういった所見た事なかったしの♪」
思春「//////」
祭「おうおう…。赤くなりおったわ。じゃが先ほどのことは嘘だとしても名をつける事はしたほうが良いぞ?名はその者のすべてを表す。お主がその剣に願う事をその名に込めればきっと剣もこたえてくれるじゃろうて…」
思春「……名」
祭「まぁ急に決めろと言われても思い浮かばんじゃろ?だからそれは手が空いておる時にでも考えるんじゃな。さてと…話などはこれくらいにしてそろそろ始めるぞ?」
思春「お願いします。」
今思いつかない名前の事を頭の隅に置き、私は祭殿との鍛錬を始めた。
祭殿の教え方はやっぱり一刀が言っていたように厳しいもので、これをずっと受け続けていた一刀を尊敬し、そして負けたくないと思った。
もともと智ではどんなに頑張っても一刀に勝てないだろう…だからこそ武に関しては負けたくない。いくら一刀が強くなっても私はそれより強くなければ私の気がすまない。
だって武は私の誇りで、私が呉や一刀に捧げる事ができる数少ないもので…一刀を守るために磨き続けている私の思いすべてだ。
だからこそ、私より強いものを見たときに一度折れてしまったが祭殿のおかげでもう折れる事はない。
そしてその思いを剣に込めるというならば、けして折れる事のない私にとって最高の剣になる事は間違いない。だが私は一体どんな名前をつければいいんだろう。
私の思い…それを表した名前。
今度じっくり考えてみようと思い、鍛錬にさらに力を入れるのだった。
キン…ガッ…キン…
祭「わっははは…。いいのう♪最近一刀ばっかりじゃったから違うものと戦うのは面白いのう」
思春(ムカ!!)
ギン…ガガガッ……ガキン…
祭「おお!!なんじゃ急に剣が重くなったの♪ふむ…なるほどの。一刀と一緒に鍛錬しておるワシがうらやましいのか?」
思春「そ…そんなことはない!!/////」
祭「クククッ…口ではそう言っても、先ほどからどんどん剣が重く速く良い感じじゃの?ほれほれ♪ワシがうらやましかったら倒してみんかい!!」
思春(言動といい…無駄にゆれる乳といい……今ここで倒してやる!!巨乳無くなるべし!!)
~雪蓮・拠点【託された思い】~
雪蓮「はぁ~やっと終わった~。」
溜まっていた政務を片付けてやっと一息をつく。
まぁ…たしかにためていた私が悪いんだとは思うんだけど、はっきり言って多すぎ!!
これじゃ戦場で死ぬ事は無くても、政務で死んじゃうと思う。
とくに私は…と、そんなことを考えながら傍に置いてあったお茶をすする。
雪蓮「あ゛~生き返るわ~」
思わずそう呟くと誰もいないはずなのにいきなり声を掛けられる。
冥琳「あ゛~って…雪蓮年寄りみたいだぞ?」
雪蓮「なによ!!冥琳だって同い年の癖に…最近皺が増えたんじゃない?」
冥琳「…もしそう見えるのなら悪い事は言わない。眼鏡を買え。かなり視力が落ちていると見える」
雪蓮「ぐぬぬぬ…」
冥琳「むむむむ…」
そう言い合うと二人でにらみあう。
これは大体いつものことだ。私たちが仲良しだからしていること、なので決して本気になんてならない……たぶんだけど。
冥琳「はぁ…もういい。それより溜まっていた政務の方は終わったのか?」
雪蓮「何とかね~。でも多くない?何か今まで以上に多かった気がするんだけど…」
冥琳「ああ…それは黄巾党で得た風評のおかげで今私たちの所に人が集まっているせいだな。」
雪蓮「あーなるほどね。たしかに最近町にいっぱい人がいるし、市も多くなってたわね。」
冥琳「そうだ。それ自体は嬉しい事なのだがその分…」
雪蓮「面倒ごとが増えたという事ね。」
冥琳「その通りだ。こちらでも対策を考えているところだが…難しくてな。しばらくは政務の量が増えると考えてくれ。」
雪蓮「はぁ…わかったわよ。」
冥琳「ん?今日はやけに素直だな。明日は雨か?」
雪蓮「ちょっと!!私だってたまには…」
冥琳「たまには?」
雪蓮「ぐっ…ちょっと蓮華と話をしただけよ」
冥琳「蓮華様と?」
そう聞いてきた冥琳に蓮華と話したことを伝える。
それを聞いている冥琳は最初驚いていたが、その後嬉しそうな顔になり話が終わると笑い出した。
雪蓮「ちょ!なんで笑ってるのよ?!かなり真剣な話だったんだけど?」
冥琳「クククッ…いやすまん。なにお前がちゃんとお姉さんしているんだなと思ってな。」
雪蓮「それどういう意味よ?私はいつもお姉さんしてるでしょ?」
冥琳「さぁ…どうだろうな。そのおかげでこうして政務を逃げずにやってくれているのだからその意味でも良い事だな。まぁ…それは置いておくとして…」
雪蓮「私としては姉の沽券に関わる事だから置いておくわけにはいかないんだけど…」
冥琳「あるのか沽券?」
雪蓮「あるわよ!!」
あるに決まっているでしょ?これでもちゃんと姉として王としての背中を見せているんだから!!
気付いてくれているよね蓮華…。
冥琳「そうか…それはすまなかった。だがそんなことよりも蓮華様も前に進みだしたという事だろ?そちらの事のほうが重要だ。」
雪蓮「まぁね。これまで私の後ばっかりついて来ていたから、これで少しは自分の道と言うものもかんがえるでしょう。」
冥琳「そうだな。私達を目指してくれている者達には私達を越えてもらわなくてはならん。特に蓮華様、穏、思春、明命、そして…」
雪蓮「一刀でしょ?」
冥琳「そうだ。それにしてもその切欠が一刀だとはな…やつは天の知識の他にも私達に良い影響を与えてくれたということだな。」
雪蓮「そうね…。本当にありがたいことだわ。」
冥琳「一刀といえば…雪蓮?今回のこと良く分かったな。」
雪蓮「何のこと?」
冥琳「一刀が秘密を抱えていた事についてだ。思春なんかは幼い頃から一刀を知っていたし偶然ということもあったのだと思うが、お前の場合は違うだろ?」
雪蓮「だって私一刀のこと好きだもん♪」
冥琳「……ちゃかすな。理由があるのだろ?それとも私にも話せないことか?」
雪蓮「……さすが冥琳ね。別に隠す必要なんて無いんだけど…これは別に言う必要が無い事だし、言わなくていいかなって思ってたのよ。」
冥琳「ふう…。まぁそれはこちらが決める事だと思うのだが…まぁいい。話してくれるんだろ?」
雪蓮「分かったわ。あ、もう政務終わったんだからお酒飲んでもいいよね♪」
冥琳「………わかったから。はやく話せ。」
雪蓮「あ…あはは…じゃ話すわね。」
雪蓮「んーとこれは一刀が正式に私の部下になってくれる前の話なんだけどね…」
そう切り出すと私はお酒を少し飲んでから話し始めた。
あの日託された思いを…
一刀が部下になってくれると言ってくれた時、私はとにかく嬉しかった。
冥琳も祭も認めていて私達を震えさせてくれる志をもっている人が私に力を貸してくれるって言ってるんだもん。嬉しくないわけが無かった。だからその日は思いっきりその後の宴会で騒いでたんだけど、次の日になってちょっと考え付いた事があったの。
それは一刀の親に挨拶に行くこと。
なんで?って言われても良く分からないわ。だって本当に思いつきだったし…ただ多分一刀の親にあって見たいって言うのが本音だと思う。
普段の私としてではなく王としての私として…
そこからの行動は早かったわ。皆に気付かれないように抜け出して一刀の親がやっている酒屋に行って来たの。丁度一刀は城で酔いつぶれていて寝ていたし好機だと思ったわ。
そこには普段変わらない二人の姿があって私に話しかけてくれる顔はあぁ…やっぱり親子なんだな…って思うくらい似ていたわ。二人ともやさしい顔をしてた。こんな人の子供を戦場に連れて行くことになって正直申し訳ないって思ったの。
でも…それでも私は諦めたくなかった。それぐらい一刀に惚れていたの。別に変な意味じゃなくて一刀の人間性に惚れていたのよ?
とにかく。二人にちょっと仕事を止めてもらって一刀が今度お城に仕えるという事を話したわ。
もちろんその時にいろいろ覚悟していたの。
何の覚悟って?それはもちろん私達の都合で一刀を命の危険にさらすんだから罵倒や襲い掛かってきたりしても仕方が無いでしょ?だって親って子供の為ならたとえどんな人でも立ち向かうものだしね…だけど一刀の親は何もしなかったの。ただ私の話を黙って聞いていて何処か納得した表情をしていたわ。そのことが気になって私は聞いたわ。そしてその後に聞いた話が今回のことにつながったんだと思う。
雪蓮「あの…誘った私が言うのもなんですが、私の事を恨まないんですか?」
父親「?どうして恨むんです?」
雪蓮「どうしてって…私は私達の都合で一刀を…あなた達の息子さんを命の危険がある場所へと連れて行ってしまうのですよ?」
父親「たしかにそうですが…それは兵士を徴兵する時も同じでしょう?それに比べれば孫策様達直々に誘われたんです。良い事だと私は思いますよ。」
雪蓮「それでも…それでも納得いかないのでは?」
母親「孫策様。私達は貴方様がこうして私達にちゃんと報告してくださっただけでもありがたいと思っています。実を申しますと私達も覚悟はしていたのです。あの子ならきっとそうなるだろうと…」
雪蓮「それは……私の将達と仲が良かったからですか?」
母親「それもありますが、あの子は本当に私達の子供なのかと思うくらい頭がよくて、武の心得もあります。たとえ今仕える事がなくてもきっと近いうちに一刀自身で仕官しに行ったでしょう。それともう一つ理由があるのです。」
雪蓮「理由と言いますと?」
母親「あれはあの子が生まれる少し前だったと思います。その日私は夢を見たんです。その夢は大きな川の夢でした。その川は濁っていて魚などまったく見えませんでした。でも川下から一匹の魚が泳いで来たん時変わりました。その魚の背びれが川をまるで斬るように泳いでいくと濁っていた川が綺麗になっていきその後を先ほどいなかったはずの魚達が泳いでいったのです。」
父親「私も家内からそれを聞いた時最初はたかが夢だと思ったのですが、それでもその夢が現実になるように一筋の清流、すべてを斬る刀と言う思いを込めて真名を一刀としたのです。そしてその時に私達は覚悟をしていました。あの夢を信じているからこそ、きっと私たちの傍から離れていってしまうだろうと…」
雪蓮「……そうですか。そんな夢を…」
母親「はい。こうして孫策様が来てくださっているのがあの夢が啓示という何よりの証拠。あの子は孫策様たちに認めらているということでしょうから…」
雪蓮「……はい。私達も彼のことはとても好ましくそして頼もしい存在になると思っています。」
父親「そうですか…。それを聞けて嬉しいです。……あの孫策様、まことに勝手なお願いだとは思うのですが一つだけお願いをしていいでしょうか?」
雪蓮「願いですか?」
父親「そうです。…あの子は人が困っていると見過ごせない性格で、子供の頃からいろんな人の手助けをしていました。それはいいことなのですが、他人ばかり気にして自分の事はいつも後回しにしてしまっているのです。そのため自分がたとえつらくてもけしてそれを人に見せることはありませんでした。……お恥ずかしながら私達親でもあの子が相談してきてくれた事はありません。なのでもしあの子が何か悩んでいるようなら相談に乗ってあげて欲しいのです。」
母親「私からもお願いします。あの子はいつも一人で抱え込んでしまうのでほんの少しでも気にかけてくれているのであれば、無理やりにでも聞きだしてあげてください。もしかしたらあの子は嫌がるかもしれませんが、そうでもしないときっと悪い方向に進んでしまいますから…」
雪蓮「わかりました。その願い必ずかなえます。…私も彼が暗闇に落ちてしまうのは嫌ですから…」
父親「ありがとうございます。……それではこれから一刀のことよろしくお願いします。」
母親「お願いします」
雪蓮「はい。私の名に懸けて」
それを言った後私は一刀の家から城へ帰っていったの。
帰る途中いろいろ考えたわ…。夢の事…一刀の性格…両親の思い…いろいろとね。
それからかな…私が一刀をよく見てたり気にかけたりしたのは。
それで今回の事が分かったってわけ。
雪蓮「ふぅ…。これが私が秘密にしていたことよ」
その日の出来事を一気に話し終えると私は一息ついた。
その横では冥琳が何か考え込んでいて私は冥琳が話しかけるまで黙っていると考えがまとまったのか?冥琳が話し出した。
冥琳「その話…私以外には誰にもしてないのだな?」
雪蓮「あたりまえでしょ?おいそれと話せる内容じゃないし…これは私が一刀の親に託された思いなの。話す必要なんかないでしょ?」
冥琳「まぁな。…だが私には話して欲しかったよ。たぶん祭殿も同じ事をおっしゃるだろう…。その願いは雪蓮だけではなく私達も背負うべきだ。……一刀を戦場に向かわせた私たちがな…。」
雪蓮「…そうかもしれないけどさ。なんかこういうのって言われた本人が背負うものじゃない?」
冥琳「そうか…そうかもしれないな。だが話を聞いた以上私もその願いを背負う事にしよう。雪蓮だけには任せておけん」
雪蓮「それってどういう意味よ!!」
冥琳「別に深い意味は無いよ…。ただ…単純に背負いたいと思っただけさ。」
雪蓮「そっか…ならかってにすれば?」
冥琳「そうするよ」
ぶっきらぼうに言ったが心では素直に”ありがとう”と冥琳に言っていた。
一刀の親から託された思い。
それはこれからも私は背負っていくと思う。
でも私は王だ。
ずっと一刀のことばかり気にかけて入れない。
実を言えば今回の事だって生まれ持った勘のおかげで気付けた所が多い。
だから一刀が師と仰いでいる冥琳達も背負ってくれてさらに気にかけてくれるのであればこれほど安心な事は無かった。
……正直な話私は蓮華には”いざとなったら一刀は殺す”ということを言っては見たものの多分その時になったら出来ないかもしれない。
もし心を殺して出来たとしても私はきっともう前を向いて歩いていけないだろう…。
だが冥琳達も入ればきっとそんな未来は来ない。
いや…来させない。
だから私は感謝する。
一刀の事をさらに気にかけてくれる人が増えた事を…。
冥琳「さて…そろそろ酔いを醒ましてくれないか?」
雪蓮「ん?なんでよ。今日の分はちゃんと終わらせたでしょ?」
冥琳「……実はなここに来たのは報告したい事があったからなのだ。」
雪蓮「………なんかあまりいいことじゃないみたいね。」
冥琳「……あぁ。私の予想が間違っていなければ、また戦いが起こる。それも今度は賊討伐なんて単純なものじゃない。……見得と欲望が渦巻いた戦いがな…」
冥琳の報告を受けて私は顔をゆがめる。
私も覚悟をしていたし、多分来るかな?って予想はしていた。
でもできれば来て欲しくなかった。
しかし、そう言ってはいられない。
私たちからしたらこれは好機だ。
私たちが私たちの思いや願いを叶える為の…
雪蓮「……話はだいたい分かったわ。……冥琳皆を呼んでくれるかしら?」
冥琳「ああ…。」
平和な時間はもう終わり。
いつになったら永久の平和が訪れるのか…
そんなもの私なんかに分かるわけが無い。
だから今は進もう。
私たちが望む戦いじゃなくても。
私は私らしく…私たちが望む未来を目指して…。
やっとUPする事が出来ました。秋華です。
思春「…今回の話に納得がいっていない思春だ。」
あれ?どうして納得できないんです?
思春「どうして…だと?私はあんな弱くない!!それに春蘭より私は強いはずだ!!」
それについてはたしかに賛否あると思いますが、私は多分こうじゃないかなって思ってました。
思春の武ですが、原作でも速さと手数を際立たせているんですが、一撃の強さについてはあまりかかれていません。
そこで思ったんです。
実は思春は力のなさにコンプレックスを持っていて春蘭や愛紗などをうらやましかったんじゃないかなって。
力が無いものが力を持っているものに嫉妬を抱くのは当然だと思います。
なので今回はそれが思春を苦しめていたということにしてみました。
思春「……ん話は分かったが、春蘭に私は嫉妬したというのか?あの脳筋に…」
まぁ…たしかに脳筋ですが、強さは最強です。
萌将伝でそのすごさが出てましたし…
思春「あれは…無しだろ?」
まぁ…そうなんですけどね。
さて次回ですが、まずは総大将を決めるところまでいけたらいいなと思っています。
それと……次回でいろいろ変わっていきます。
思春「変わるとは?」
えーはっきりいいましょう。原作とかなり違ってきます
思春「……あー私にはなんとなく分かった。いろいろ伏線?みたいなものあったしな。」
はい。分かった人は次回までそれが合ってるかどうか…分からない人は時間があるのなら読み直してみてはいかがでしょうか?
では恒例今日の思春ちゃんですが……
思春ちゃんが手料理作ってくれたよ?
これになります。
思春「……私は料理など…」
はいそこまで。……私たちの夢を壊さないでください。
思春「夢だと?」
思春が実は料理が得意だったっていうの萌えるじゃないですか!!……なんか萌将伝でそれっぽい事やってたけど…
思春「………わかった。」(なぜか秋華の背後に他の人まで見る…)
では次回で逢いましょう。あでゅー!!
思春「今日はな、近くの魚屋でいい魚が入ったんだ。だから私の得意料理を作ってみたんだが…味はどうだ?……/////そ、そうか♪おいしいか。…それはよかった。………そうだ。…………あ、あのな?…よかったらあ~ん♪してやろうか?/////」
うむ!よろしく頼む!!
思春「わ…わかった。/////ほ…ほら。あ~ん////」
いただきます。…ん。うまゴハァ………ガクッ
思春「……安心しろ。ただ三日痺れるだけだ。」
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遅くなりまして…秋華です。
これが終わり次第反董卓連合編に入ります。
さぁ…一気に書き上げますか♪
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