No.177455

真・恋姫†無双 悠久の追憶・番外編 ~~蜀の日常 其の六~~

jesさん

拠点話第六弾。

今回は愛紗メインのお話です。
若干愛紗のキャラが崩壊している部分があるかもしれませんが、ご了承ください 汗

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2010-10-10 17:20:58 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:2589   閲覧ユーザー数:2268

番外編・蜀の日常 ~~其の六  熱と針と素直な気持ち~~

 

 

 「・・・・・疲れた」

 

もう半分お約束のようなものだが、執務室に漏れるのは一刀のため息混じりの愚痴。

 

今日も今日とて積み重なる書簡の山と朝らかにらみ合い。

 

こうして仕事に追われている時ばかりは、はるか彼方のフランチェスカ学園の詰まらない授業の方がだましだと思えることがある。

 

今となっては、催眠術に聞こえた英語の授業すら懐かしい。

 

 「もぉ~、ご主人様ったらさっきからそればっかりだよ?」

 

一人遠い故郷のどうでもいい懐かしさに思いを馳せている一刀の向かいでは、桃香が眉をひそめてあきれ顔。

 

この日は桃香も一刀と共に執務室に缶詰なので、少しご機嫌ななめの様子。

 

「ああ、ごめん。 でも、こうずっと部屋にこもって仕事じゃ気が滅入るっていうかさ・・・」

 

「ん~・・・それは分かるけど、文句ばっかり言ってても仕事は終わらないでしょ?」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「?・・・どうかしたの?」

 

 「いや・・・・桃香もたまにはまじめな事言うんだなぁ~と思って。」

 

 「あー、ひっど~い!」

 

一刀の言葉にも一理あるが、桃香は“ぷぅ~”と頬を膨らまして可愛らしく怒る。

 

こんなハムスターのような顔で怒られても、怒られた方は反応に困ってしまう。

 

 「むぅ~、ご主人様の意地悪。」

 

 「あはは、ごめんごめん。」

 

“プイッ”とそっぽを向く桃香の頭を、苦笑いで優しく撫でてやる。

 

それだけで、すぐに桃香の顔にはいつもの笑顔が戻る。

 

 「えへへ~♪ しょうがないから許してあげる。」

 

もともとそれほど怒っていないのだろうが、このくらいで桃香の笑顔が見れるのなら一刀としては安いものだ。

 

 

 「さて、んじゃさっさと仕事やっちゃうか。」

 

 「うん。」

 

桃香の機嫌もとったところで、手元の書簡に視線を戻す。

 

さすがにそろそろ本腰を入れないと、今夜は日付が変わるまで書簡と付き合わなければならなくなりそうだ。

 

しかしつづりから筆を取ったところで、一刀はふと思い出したように顔を上げた。

 

 「あ・・・・そういえば愛紗は?」

 

 「へ?」

 

いつもなら、こうして二人が仕事をしている隣では愛紗がお目付け役として鋭い表情で立っている。

 

しかしこの通り、今日は愛紗の姿はない。

 

今日は特に調練などの仕事があるとは聞いていないので、いつも通り執務室に来るはずなのだが・・・・

 

 「確かに・・・どうしたんだろうねぇ愛紗ちゃん。」

 

 「愛紗に限って寝坊ってことは無いだろうし・・・・」

 

少し前に寝ぼけて一刀の布団に入っていた事はあるが、この話は禁句だ。

 

 「心配だね。 ちょっと見てこよっか。」

 

そう言って、桃香が席を立とうとした時だった。

 

 “ガチャ”

 

 「遅れて申し訳ありません。」

 

 「あ。 愛紗ちゃん。」

 

噂をすればなんとやら。

 

慌てた様子で、愛紗が扉を開けて入ってきた。

 

 「ああ、愛紗。 今丁度様子を見に行こうと思ってたんだ。」

 

 「申し訳ありません。 少々着替えに手間取りまして・・・・」

 

 「ああ、そういうことか。」

 

 「私てっきり身体の調子でも悪いのかと思ったよ~」

 

愛紗の顔を見て、桃香はほっと胸をなでおろす。

 

 

 「ご心配をおかけしました。 さて、それでは行きましょうかご主人様。」

 

 「へ? 行くって・・・・どこに?」

 

 「どこにって・・・・街の視察に決まっているではありませんか。」

 

 「・・・・・・・視察?」

 

当然のように愛紗はそう言うが、一刀の方はまったく見に覚えがないという様子で眉をひそめる。

 

そんな一刀を見て、愛紗は小さくため息。

 

 「忘れたのですか? 今日は昼から街の視察に行くと、昨日の晩お話したでしょう。」

 

 「昨日の晩・・・・・・・・・・・・あぁっ!」

 

頭に手を当てて昨日の記憶をたどると、確かにそんな話をした気がする。

 

夜中に仕事をしながらだったので、聞き流してしまっていたらしい。

 

 「ごめん、すっかり忘れてたよ。」

 

 「まったく、しっかりしてください。」

 

 「え~~っ! ご主人様出かけちゃうの!?」

 

二人の話を隣で聞いていた桃香は、仕事の戦力が減るときいて泣きそうな顔になる。

 

 「ご、ごめん桃香! なるべく早く帰ってこれるようにするから・・・・」

 

顔の前で両手を合わせて、精一杯の謝罪の姿勢。

 

 「桃香様、戻ったら私も手伝いますよ。」

 

 「うぅ゛・・・・は~い。」

 

ここで文句をいっても仕方ないと観念したのか、桃香はうなだれながらも気のない返事。

 

こんな姿を見せられると約束を忘れていた自分に本当に罪悪感を感じる。

 

 「さぁ、行きましょうかご主人様。」

 

 「うん・・・・・あれ? どうしたんだ愛紗、汗なんかかいて・・・・」

 

 「へ・・・・・・!?」

 

近くで見るまで分からなかったが、愛紗の額には確かにうっすらと汗が滲んでいた。

 

それに心なしか、いつもより息も上がっているような気がする。

 

 「それは・・・・・は、走ってきたので少し熱いだけですよ・・・・」

 

 「・・・・・そっか。 それならいいけど・・・・」

 

 「そ、そんな事より、早く行きましょう!」

 

 「う、うん。」

 

なぜか慌てた様子の愛紗に少し違和感を感じつつ、一刀は言われるまま愛紗と共に街へと向かった―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「いやー、この街もだいぶ賑やかになったね。」

 

街に来るたびに同じことを口にするが、それほどに街はどんどんと活気を増していく。

 

そんな街を見て歩くだけでも、戦っているかいがあるというものだ。

 

 「はい、喜ばしいことです。」

 

一刀の隣で、愛紗も笑顔で頷く。

 

最初こそ、どこかおかしい愛紗の様子が気になったが、この笑顔を見ていると自分の勘違いだったのだろうと思うようになった。

 

視察という名目ではあるが、こうして愛紗と二人きりで歩いていると一刀としてはデートしている気分。

 

城に残してきてしまった桃香には悪いが、せっかくのこの楽しい時間を満喫させてもらうことにしよう。

 

 「さて、結構歩いたし、どこかで少し休憩でも・・・・・・愛紗?」

 

上機嫌で通りを歩いていた一刀だが、気がつくと、今まで隣にいたはずの愛紗はなぜか一刀の少し後ろで立ち止まっていた。

 

胸に手を当て、うつむいている。

 

 「愛紗・・・・どうかしたのか?」

 

心配になって愛紗の元に歩み寄ると、愛紗の顔は明らかにさっきより紅潮していて、額にはかなりの汗をかいていた。

 

 「いえ・・・・少々歩き疲れたようで・・・・」

 

 「大丈夫か? やっぱり身体の調子が悪いんじゃ・・・・」

 

朱里や雛里ならまだしも、愛紗が少し歩いたくらいで疲れるなんてどう考えてもおかしい。

 

 「だ、大丈夫です・・・・・少し休めば、すぐ・・・・・っ」

 

 “ガク!”

 

 「愛紗っ!?」

 

もはや喋ることもままならず、愛紗は力が抜けたように膝が折れ、その場に崩れそうになる。

 

そんな愛紗の身体を支えると、初めて愛紗から感じる熱が異常に高い事に気付いた。

 

 「愛紗っ! しっかりしろ愛紗っ!」

 

 「はぁーっ、はぁーっ・・・・」

 

力なく目を閉じる愛紗を抱きながら肩を揺すっても、返事は無い。

 

呼吸のたびに肩が上下し、口からは苦しそうな息使いが聞こえてくる。

 

 「愛紗! くそ、早く医者に・・・・・」

 

 「・・・・医者をさがしているのか?」

 

 「え・・・・?」―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ここは・・・・・・

 

 

 

 「・・・・・まったく、熱があるのに動き回るからだ。」

 

 「どうなんだ、愛紗の様子は?」

 

 

 

――――――この声は、ご主人様と・・・・・

 

 

 

 「大丈夫だ。 恐らくそろそろ・・・・・・お、噂をすればお目覚めのようだな。」

 

 「ん・・・・・・・・っ」

 

 「愛紗! よかった、気がついたんだ。」

 

 「ご主人様・・・・・ここは? それに、あなたは・・・・・・・」

 

目を覚ました愛紗の前にいたのは、一刀の他にもう一人・・・・見慣れない赤い髪の男だった。

 

男の手には、数本の針が握られている。

 

 「ここは城だ。 そして俺は華佗(かだ)・・・・医者だ。」

 

 「医者・・・・・では、あなたが治療を?」

 

 「そうだ。 あんたは運がよかったな。 他の医者なら、少なくともあと二日は目を覚まさんぞ?」

 

手に持っていた針をしまいながら、華佗は自信満々に言う。

 

 「それは・・・ご迷惑をおかけしました。」

 

 「礼なら、俺じゃなくお前の主に言うんだな。」

 

そう言って、華佗は親指で後ろに立つ一刀を指さした。

 

 「あんたをここまで担いできたのは北郷だ。 そのおかげで、迅速な処置ができた。」

 

 「ご主人様が・・・・?」

 

 「いや、助かったのは華佗がいてくれたおかげだ。 ありがとう。」

 

 「礼を言われることじゃない。 俺は自分の仕事をしただけだ。」

 

そう言いいながら華佗は立ちあがり、治療道具一式が入っているであろう荷物を背負って扉の方へと歩き出した。

 

 

 「それじゃあ俺は行くが、少なくとも今日一日は安静にしておくことだ。 そうすれば、明日には元通りになる。」

 

 「わかった。 本当にありがとう、華佗。」

 

 「フ・・・・また何かあったら呼んでくれ。 俺はお前が気にいった。 呼ばれれば、なるべくすぐに駆けつけよう。」

 

 「ああ。」

 

 「ああ、それから・・・・・・関羽。」

 

 「え?」

 

華佗は扉を開けて外へ出ようとしたところで立ち止まり、寝台に座る愛紗を振り返った。

 

急に名前を呼ばれ、愛紗も少し不思議そうに顔を向ける。

 

 「俺は医者・・・・人の身体を治すのが仕事だ。 だがな、自分で自分を傷つける奴を救う術は持っていない。」

 

 「!・・・・・・・・・・」

 

華佗の言っていることの意味が分かったのだろう・・・・愛紗の表情が、驚きと共に暗くなる。

 

『着替えに手間取った・・・』なんて、もちろん全くのウソだった。

 

今朝執務室を訪れるのが遅れたのは、なかなか熱が下がらず寝台から起きれなかったから。

 

 「お前の気持ちも分からなくはないが、もっと自分の身体を大切にしろ。 お前の事を想ってくれている人間が居るのなら・・・・・・な。」

 

華佗は口の端に笑みを浮かべながら、“チラリ”と横目に一刀を見る。

 

そんな華陀の意図が伝わったのか、一刀も静かに“コクリ”と頷き返す。

 

 「じゃあ俺は行くぞ・・・・・どっかのわがままな王様が、頭痛がするってうるさいんでな。」

 

『じゃあな』と軽く手を振って、華佗は部屋を後にした。

 

部屋に残ったのは寝台に座る愛紗と、そのそばに立つ一刀の二人だけ。

 

 

 

 「・・・・・・あの、ご主人様・・・・」

 

 「・・・・さあ、今日はおとなしく寝てるんだ。 華陀もそう言ってたろ?」

 

愛紗の言葉を遮るようにして、一刀は座っている愛紗の肩をだいてそっと寝台に横にさせる。

 

汗で濡れた前髪をかき上げて額に手を当てると、そこから伝わる愛紗の熱はまだかなり熱い。

 

 「まだ熱があるね・・・・手ぬぐいを代えようか。」

 

一刀は愛紗の額にあるすでにぬるくなってしまた手ぬぐいを手に取り、傍にある桶で水にぬらす。

 

しかし、自分のために手ぬぐいを絞る一刀の横顔を見つめる愛紗の顔は暗かった。

 

なぜなら愛紗には、目が覚めた時からずっと気になっていることがあったから。

 

今それを言うことが正解なのか戸惑いながらも、愛紗は重そうに口を開いた。

 

 「・・・・・・ご主人様。」

 

 「・・・・・なんだい?」

 

 

 

 「怒って・・・・・・いらっしゃいますか?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

手ぬぐいを絞っていた一刀の手が止まる。

 

二人の間には、再びの沈黙。

 

 

 

一刀の声は、いつもと同じ・・・・・いや、いつも以上に愛紗を気遣う優しい声だった。

 

しかしそれでも、その優しい声の中に隠れていたほんの少しのその感情を、愛紗はずっと感じていた。

 

それは、相手のことを想っているからこその感情であり、想っているからこそ感じられるもの。

 

 

 

 「・・・・・・・そうだね。」

 

 

 

ここで取り繕うことに意味などない。

 

一刀は考えるように目を細め、揺れる桶の水面を見つめながらそう言った。

 

 

 

 「少しだけ・・・・・・怒ってるよ。」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

今度の言葉は、しっかりと愛紗の方を向いて。

 

その目は愛紗を責めるようなものでは決してなく、いつもの優しい・・・・それでも真剣で真っ直ぐな目。

 

 

 

 「どうして、熱があるのを黙ってたんだ?」

 

 「私のせいで・・・・・・ご主人様に、迷惑がかかると・・・・」

 

 「それで無茶して、こうなるとは考えなかった?」

 

 「それは・・・・・・・」

 

 

一刀の真っ直ぐな問いかけに、愛紗はうつむいて言葉を詰まらせてしまう。

 

相変わらず一刀の声は、ただ愛紗を諭すかのような優しいもの。

 

しかし彼のこのいつもと変わらぬ優しい声が、この時ばかりは愛紗にとっては辛かった。

 

激しく怒鳴って、叱り飛ばしてくれた方がどれだけ気が楽だろう・・・・・

 

この優しい声音を聞けば聞くほど、胸が罪悪感で満たされていく。

 

 

 「俺を気遣ってくれる愛紗の気持ちは嬉しいよ。 でもね、俺のために無理をして愛紗の身に何かあったら、俺はきっと自分を許せないと思う・・・・・・・・」

 

 

今回は幸い、少し寝込む程度で済んだ。

 

だがこれがもし、愛紗の身にずっと残るような大事になっていたなら、いくら悔やんでも足りないだろう。

 

今日でさえ一刀は、なぜ今朝の時点で愛紗の様子がおかしいことに気付けなかったのかと、もう何度後悔したか分からない。

 

 「俺はバカだからさ・・・・愛紗や桃香や、皆の力を借りなきゃ何もできない。 でもそれで誰かが犠牲にならなきゃいけないなら・・・・・俺はバカのままでいい。」

 

 「ご主人様・・・・・・」

 

真っ直ぐに本音を語る一刀の声は静かなままその強さを増していて、愛紗も一刀の瞳から目を離せなくなっていた。

 

 「愛紗、俺たちは仲間だ。 助けられてばかりの俺が言う事じゃないけど、仲間っていうのはお互いに助け合わなきゃいけいと思う。 それは愛紗も分かってるよね?」

 

 「・・・・・・はい。」

 

 「俺が怒ってるのはね・・・・それをちゃんと知っている愛紗が、仲間を頼ろうとしてくれなかったからなんだよ」

 

 「・・・・・・・・・・申し訳・・・・・ありません・・・・・・」

 

 

もはや限界だった。

 

愛紗の目には、こらえきれなくなった涙の粒が“ゆらゆら”と揺れている。

 

溜まった涙が、頬を流れ落ちようとした瞬間・・・・・・・

 

 「でもね愛紗・・・・・・」

 

 「あ・・・・・・っ!」

 

今まで悲しみに暮れていた愛紗の顔は、花がさいたように赤く染まった。

 

なぜなら小さな悲鳴と同時に、愛紗は一刀の腕の中にいたから。

 

 

 「ご、ご主人様・・・・いきなり何を・・・・・」

 

目に涙を浮かべたまま、愛紗は戸惑った様子で自分を抱く一刀の胸に手を当てる。

 

そして一刀は自分の腕にすっぽりと収まる愛紗の黒髪にキスをするように顔を落とし、今度は正真正銘・・・・優しさに満ちた声で囁いた。

 

 「無事でいてくれたから・・・・・今回は許してあげる。」

 

 「!・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その優しい言葉が耳に届いた瞬間、愛紗は真っ赤な顔のまま、一瞬時間が止まったかのように固まった。

 

病の熱とは別に、身体が“カァ~”っと熱くなる。

 

 「・・・・俺のために頑張ってくれてありがとう、愛紗。」

 

 「ご主人様・・・・・・っ」

 

いままでなんとかこらえていた物が、愛紗の瞳からゆっくりと流れ落ちた。

 

しかしそれは、きっと今まで目に溜まっていた時とは違う理由の涙だったはず。

 

彼女を抱きしめる一刀も、胸から伝わる熱とは別の愛しい温もりに、しばらく浸っていたいと思った。

 

 「あの、ご主人様に熱が移っては・・・・・」

 

嬉しさに目を細めながらも、一刀の身を案じて身体を離そうとする愛紗。

 

しかし、一刀は愛紗の背中にまわした腕を緩めようとはしない。

 

むしろ更に彼女の温もりを確かめるように、そっと力を込めて・・・・・

 

 「だめ。 もう少しだけこのまま・・・・・・ね?」

 

 「・・・・・・・・・・・・はい。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「・・・・さて、じゃあ俺はそろそろ戻るけど、ちゃんと大人しく寝てるんだよ?」

 

 「はい。 本当に、ご迷惑をおかけしました。」

 

隣に立つ一刀の言葉に、寝台に座りながら愛紗が答える。

 

二人としてはもうしばらくあのままお互いの温もりを感じていたいところではあったが、愛紗の熱がこれ以上悪化しても困るし、一刀に熱がうつっても困る。

 

少しの名残惜しさを感じながらも、どちらからともなく抱擁はほどかれた。

 

 

 「いいかい愛紗。 頼りないかもしれないけど、身体の調子が悪い時くらいは俺を頼りにしてくれよ? いくら強くても、愛紗は可愛い女の子なんだからさ。」

 

 「そ、それはっ・・・・・・・・・・・はい・・・・・・。」

 

 「よし、良い子だ。」

 

 “ナデナデ”

 

 「うぅ゛~~・・・・・」

 

子供をあやすように頭を優しく撫でてやると、可愛らしくうなって拗ねたフリ・・・・・まるで桃香みたい。

 

普段の愛紗なら照れ隠しに怒るところだが、今回は自分の播いた種なので大人しくされるがまま。

 

 「さぁ、身体が冷えるといけないからもう寝ないとね。 何かあったらすぐに誰か呼ぶんだよ?」

 

愛紗の肩を抱いて寝台に寝かせ、布団をかけてやる。

 

 「はい。 あの、ご主人様・・・・・・」

 

 「ん?」

 

 「早速ひとつ・・・・ご主人様を頼りたいことがあるのですが・・・・・」

 

 「ああ、もちろんいいよ。 どんなこと?」

 

 「いえ、その・・・・・ですね・・・・・・・・」

 

一刀が笑顔で問いかけると、愛紗はなぜか目を泳がせる。

 

その顔が赤いのは、どうやら熱のせいだけではなさそうだ。

 

 「?・・・・・・・・・・・・あぁ。」

 

 

そんな愛紗の様子をみて少し考えた一刀だが、なんとなく彼女の言いたいことが分かった。

 

 

 

 「ひとりじゃ寂しいの?」

 

 「~~~~~~~~~ “コク”」

 

図星の一刀の回答に、愛紗は真っ赤な顔を布団で半分隠しながらも小さな頷き。

 

なんだか目の前にいるのが小さな子供のように思えて来た。

 

 「はは・・・・・今日の愛紗は随分と甘えん坊だね。 それじゃあ、どうしてほしいのか言ってごらん?」

 

 「え?」

 

一刀の思いもよらない切り返しに、愛紗の顔は驚きと恥ずかしさで更に赤くなる。

 

 「どうしたの愛紗? ちゃんと言わなきゃ分からないぞ?」

 

意地悪な笑みを浮かべながら、赤くなった愛紗の頬を優しくくすぐる。

 

 「う゛~~、今日のご主人様は意地悪です。」

 

そう言われても仕方がない。

 

これは一刀の、無茶をした愛紗へのせめてもの罰のつもり。

 

しかし愛紗は恥ずかしさをなんとかこらえながら、隣に立つ一刀の手をとって布団の中から決死の上目づかい。

 

 

 

 「・・・・・・今夜は、私の傍にいて下さい。」

 

 

普段はなかなか聞くことのできない、愛紗の我がままとさえ言える素直な気持ち。

 

それが聞けたことが、一刀には何よりうれしくて・・・・・・

 

 

 「いいよ・・・・・それじゃあ甘えん坊の愛紗が眠るまで、ここにいてあげる。」

 

さっきまでほんの少しだけ残っていた怒りはどこへやら。

 

優しく目を細めて、もう一度彼女の美しい黒髪を優しく撫でる。

 

 

 「・・・・だから、ゆっくりお休み。」

 

 「・・・・・・・・はい♪」

 

 

素直な愛紗の笑顔は、今まで見たどんな表情より愛らしく・・・・・・そして愛紗は目を閉じ、ゆっくりと夢の中へと落ちて行った

 

きっと今夜は、最高の夢がみられると信じて・・・・・

 

 

 

 

 

 

『眠るまで・・・』とは言いつつ、一刀は一晩中愛紗の傍を離れようとはしなかった。

 

 今夜だけは甘えん坊の・・・・・目の前で眠る愛しい少女の安らかな寝顔を、いつまでも見つめていたかったから・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその頃・・・・・

 

 「ふぇぇ~~~~ん。 誰かお仕事手伝ってよぉ~~~~~~~~~!!」

 

甘い時間を過ごす二人とは裏腹に、一晩中減らない書簡の山と戦う桃香だった。

 

 

はい、拠点話第六弾でしたww

 

何気に今回華佗が登場しましたが、彼にはこの先本編で出てきてもらわなきゃいけないところがあるので、今のうちに登場させました。

 

ちなみにこの話は、私の最初の投稿作品である『雛里の災難』を愛紗版にしたものですww(正直ネタが思い浮かばなかった・・・・汗)

 

この話の愛紗はどうでしたかね?

 

賛否両論あると思いますが、個人的にはこれくらいデレてくれてもいい気がしますww

 

さて、そろそろ本編に戻らないといつまでたっても進まないので、次回からは久しぶりに本編行きたいと思います。

 

次回はやっと董卓篇突入です。

 

また読んでやってくださいノシ


 
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