No.177364

『舞い踊る季節の中で』 第91話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 必至の思いで危機を乗り切った孫呉。 だけどその代償は決して安いものではなかった。 ……いや、そもそも人の生き死にを表すのに、代償と言う言葉は間違えている。 とにかく多くの問題を内に抱える事になった孫呉。
 そんな中、自らの罪に押し潰されそうになりながらも、家族の存在を支えとし必死に前を進む一刀。
 将兵の死を己が罪として背負い、涙を流しながらも、背負った想いのためにも笑顔を忘れず力強く生きる一刀を見守る者達は……。

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2010-10-10 01:02:10 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:16529   閲覧ユーザー数:11022

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第91話 ~ 煌びやかに舞う影に、沈む想いと浮かぶ想い ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹操との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

        

一刀視点:

 

 

 魏の進軍から十日以上の時間が流れ、俺達は戦後の処理や拠点の移動に追われるる忙しさの中。 あの我儘大王はどうしているかと言うと。

 

「お酒飲みたーーーいっ」

 

 等と、朝から病人にあるまじき我儘を言っていた。

 そしてそんな我儘大王の我儘を聞いている俺は、何をしているかと言うと。

 

「良いからとっとと食ってくれっ、片付かないだろうが」

 

 と、我儘大王こと雪蓮に少し遅めの朝食を給仕しながら、お茶を淹れていた。 ちなみに、雪蓮の目の前にある食事も俺が作った物。 何でそんな事をしているかと言うと。 俺が目覚めてから二日後の昼頃。

 

「だぁぁぁーーー、もうこんなもの食べてられないわっ!」

 

 と、かなり弱っている筈なのに、外にまで聞こえてきた雪蓮の大きな声に、俺は何事かと顔を覗かせると。

 其処では華佗と雪蓮が睨む合うように向かい合っており。

 

「何を言う。 病人には病人らしい食事が必要だ。 しかも俺が苦心した配合に何の不満があると言うのだ」

「全部よ全部っ、大体食事に配合と言う言葉が出る時点で何処かおかしいって気が付きなさい。

 そして何より不味いのよっ! これが一番許せないわっ!」

 

 ……まぁ、このやり取りだけで大体理解できた。

 一応確認のために二人の間に入って、華佗の作ったと言う病人食を見せて貰ったが。……うん、まず粥と言うにはあり得ない色をしている。 ふつうに食べ物を作っていたら、考えられない様な調理の仕方をしている事は、これだけでもよく分かると言うのに、オカズらしきものも何というか……薬草や身体に良いと言われるものが吸収を良くするために、これでもかと煮込まれている上に、生薬等がふりかけの様に掛かっており。 見ただけで味など二の次どころか、薬効を優先しすぎるために十の次位になっている。

 事実、味など一舐めしたけど、よく雪蓮が今まで我慢してたと思える程だった。

 確かに華佗が言うように薬効も大切だけど、食事が楽しくないと言うのは非常に良くないと俺は思う。

 食事は楽しくが北郷家での家訓で在る以上、流石に見かねて、華佗に雪蓮の食事に必要と思われる食材……と言うか殆ど漢方薬を聞き出すと。 幸い扱った事のある材料ばかりだったので、華佗の見守る中作ってみた所。

 

「うんうん、これよこれ。 やっぱり食事と言ったらこうでなくちゃね。

 本当、とても同じ材料とは思えないわよね~♪」

 

 と、雪蓮は満面の笑顔で美味しそうに、俺の作った薬膳料理を食べてくれた。

 一方華佗は華佗で、薬効を考えればと、ブツブツ言ってはいたが、

 

「病気は気からとも言うだろ。 食事が美味しい事も、立派な薬じゃないかな」

 

 と言う俺の言葉と、おやつと称して、其方もそれなりの物を用意すれば、足りない分は問題ないだろと提案すると、それならばと頷いてくれた。

 結局これが原因で、冥琳の口利きもあって雪蓮の食事も俺が作る羽目になったのだが、いかんせん給仕までさせられるとは思わなかった。

 

 

 

 

「ほれ、これでも飲んで、昼寝でもしてくれ」

「ぶーーっ、また薬草茶なの? せめてお茶ぐらい普通の茶が飲みたいわ」

 

 俺の出したお茶を孫策がそう言いながらも、それなりに美味しく飲んでくれるのを見て、心の中で苦労して配合を考えただけあったなと小さく安堵の息を吐く。

 

「少しは身体は回復したか?」

「ん、一刀の食事が美味しいからね。 華佗も驚いていたわ。 もう庭を散歩できるくらいになったって」

「そっか、でもあまり出歩くなよ。 そこで無理したら身も蓋もないからな」

「分かっているわよ。 冥琳に見張り付きの条件で、やっと許してもらったんだから無理はしないわよ」

 

 雪蓮の体調は順調に回復に向かっていると言っていい。 もっとも、それはあくまで一般的に見てだ。

 何せ華佗からは、王として復帰する事は出来ないだろうとハッキリ言われている。 毒によって蝕まれた雪蓮の身体は、命が助かったとは言っても想像以上に衰弱しており。 全快してもごく普通の生活をしている分には問題ない所まで回復するが、政務など激務に加え戦等の緊張の連続に耐えられるほどまで回復するには、数年単位で掛かると断言をされたからだ。

 その事は雪蓮自身も知っているし、本人もその事を自覚しているのだと思う。 だから雪蓮の傍らには、もう南海覇王は無い。 雪蓮が華佗にその事を告知された時、蓮華にその剣を孫呉の悲願と共に自ら託した。

 

『 貴女の背中、しっかり見守らせてもらうわよ 』

 

 そう言って、あっさりと王の座を妹に譲った。 自分の事で豪族や氏族に弱みを見せないために。 戦後の復興と各地への睨みを蓮華に率先してやらせる事で、その力を早く認めさせるために……。

 だからもう王で無くなった雪蓮はただの我儘大王だ。 ……もっとも雪蓮だって本気で我儘を言っている訳じゃない。 ただ、ああして俺の反応を楽しんでいるだけ。俺に甘えているだけだ。 一日の殆どを寝て過ごすしかできないんだ。 それくらいは仕方ないと思っている

 そんな事を考えながら、雪蓮の食べ終えた食事を片付け、部屋を出ようとすると。

 

「一刀、冷静にね。 怒るのは一刀の役割じゃないわ」

「ああ、そんな事分かっているよ。 ……感情に流される怖さは骨身にしみたよ」

 

 俺は雪蓮の言葉にそう力強く頷いて見せ部屋を後にする。

 ……もう、あんな思いは二度と御免だ。 そう小さく呟きながら気持ちを切り替える。

 

 

 

 この後の魏からの使者の謁見に向けて。

 

 

 

翡翠視点:

 

 

 曹操軍の強襲より十日あまりの時間が流れました。

 一刀君は、冥琳様の心遣いもあって忙しい日々を送っているおかげか。 それとも眠り続けた三日間の間に心の中で整理がついたのか。 悲しい笑顔をするものの、元の温かな春の日差しのような笑顔を失う事はありませんでした。

 でも、それは一刀君が人が死ぬ事に、何も思わなくなった訳ではありません。 むしろ今回の戦では、逆に何時も以上に一刀君は傷付いたと言っていいでしょう。

 仕方がなかったとは言え、一刀君は戦の空気に、皆の怒りの気勢に飲まれ。 感情のまま曹操軍の兵士を殺したのだと。 もっと効果的に敵戦列を崩していれば、味方の被害が減ったはずだと。 一刀君は今も自分の罪に苦しんでいます。 毎晩のように、その罪の重さに魘されています。

 でも一刀君はそれでも歩み続けます。 辛くても、悲しくても、一刀君は血の涙を流しながら、歯を食い縛って歩き続けています。 背負った罪が、背負った想いが、一刀君を歩ませているのです。

 そして、そんな一刀君の心を支えているのが家族の存在。 なにより私と明命ちゃんの存在です。 そしてその証拠に、一刀君は一刀君が目覚めた次の朝、私達をあの温かな笑顔で微笑んでくれました。

 

 「…ぁぅ……ぁぅぁぅ……」

 

 あの時の一刀君の笑顔と共に、ついあの晩の事を思い出してしまい、頭の中が真っ白になって茹ってしまいます。 一刀君が目覚めたあの晩。 私は明命ちゃんを誘い、一刀君の力になるために抱かれに行きました。

 いいえ。 そうする事で一刀君の苦しみを少しでも背負たいと。 一刀君の心に近づきたいと思う浅ましい心が、一刀君を慰めると言う口実に縋ったのかもしれません。

 そして、罪の深さに苦しむ一刀君の心の隙間を突くような私達の行為に、一刀君は流されるまま私達を求めてくれました。

 罪の重さに泣きながら、人の死の冷たい感触から逃れるように、私達の温もりを求め、激しく私達を抱き続けました。

 私達も自分達が一刀君の支えになっている事が、求められている事が嬉しくて、私達の方からも一刀君を求めます。 ……ですが、まさかあんな所まで、自分が求められるとは思いもしませんでした。 ぁぅぅ…。

 

『 はぁ…はぁ…、はぁ……。 えっ! 一刀君、其処違いますっ』

『 全部知りたいんだ。 翡翠達の全部を感じたい 』

『 んっ! 』

 

 そう言って、本来の用途とは違う場所に入ってきた痛みと感触に。 そして脳髄に叩きつけられるような感覚に次第に痛みは麻痺し、後に残ったのは……ぁぅぅぅっ……、そのうえ二度目以降は、私と明命ちゃんは躰の中に残った証の助けもあって、高い所に昇ったままになってしまいました。

 ぁぅぅ……いくら私がああいう本を愛読していたり、書いていたりしているとは言え、自分がそれを体感する日が来るとは思いもしませんでした。

 そんな顔から火が出るような恥ずかしい思いをした甲斐あって、一刀君は自分の罪と向かい合いながらも、私達にあの笑顔を向けてくれます。 私達を人に、女にさせてくれるあの笑顔を向け。 私達を甘えさせてくれます。

 でも、さすがに次の日、夕方まで立つ事すらできない程、足腰が抜ける羽目になるとは思いませんでした。

 そのおかげで仕事を一日休まざる得なかった私達は、

 

『 北郷の為と言う事は分かっている。 あやつの心の傷を思えば、それが必要と言う事もな。

  だが……、男のそれを調整してして見せるのが、恋人である翡翠達の役目であろう…… 』

『 あはは、良いではありませんか冥琳様~。 昨日中にやらないといけない仕事は、北郷さんが責任もってやってくださった事ですし。 私としては、男の方に其処まで求められる翡翠様が羨ましいですよ~ 』

『 ……穏、そう言う事を言っている訳では……まぁいい 』

 

 そう、二人に苦笑交じりに、そして生暖かい目で見守られるように注意されてしまいました。

 はぁ………、今回ばかりは自業自得ですから仕方ありませんね。

 

 

 

 ……それに初めてがあれ程なのですから、慣れてきたら、どれだけの感覚になるのかと思うと正直恐いような、それでいで……あぅぅっ……。 私、こんなにエッチな娘だったのでしょうか?

 

 

 

明命視点:

 

 

「そうか、では独立前からの氏族達に不穏な動きは無いと言う訳だな」

「はい、やはり旗色を見て、此方の傘下に入った一部の小国や氏族達が、密に連絡を取り合い不穏な動きを見せています。 それに一部で物価も上がっている所を見ると間違いないかと」

 

 そう言って私は不穏な動きを見せている一族達の名と、その不穏な動きの内容を記した竹簡を祭様に渡します。 そしてその内容に目を通すなり、祭様は『やはりこの者どもか』と呟きながら竹簡を剣で細切れにし、火にくべられます。

 祭様のその反応を見て、私はまた戦が起きるかもしれないと心の中で溜息を吐きます。 いいえ、もう戦は始まっています。 孫堅様が天下統一を目指したあの日より、私達の戦は続いています。

 ですが孫堅様亡きあと、力を急速に失った孫呉が再び独立を果たし、江東を全てを治めきってるまであと少しと言う時に、曹操軍の侵攻は私達の目的を大きく後退させてしまいました。

 今まで孫堅様の代わりに孫呉を率いていた雪蓮様が、敵の毒矢により王を退かざる得なくなった事は、以前より雪蓮様の後継者と推していた蓮華様が王位に就かれたと言っても、その影響がなくなるわけではありません。 祭様に報告した通り、此方の旗色を見てあっさり掌を返す輩が出てきてしまいました。

 

「明命、こやつ等が許せぬのか?」

「はい。 一度は我等に忠誠を誓っておきながら、こうもあっさり我等に牙を向けようとしている心根が許せません」

 

 私の言葉に祭様は、一度目を瞑り小さく溜息を吐いた後、私を優しげに、そして厳しい目を向け。

 

「おぬしが、こやつ等を許せないと言う気持ちは分からないまでもない。 その意見は儂も同じじゃ。

 じゃが、こやつ等とて必死なのじゃ。 自分を、そして一族を守ろうと必死なだけ。 その事を忘れてはいかん」

 

 分かっています。 その事は理解できます。 ですが、そんな簡単に意見を変える思量の浅さに怒りを覚えてしまうのです。 そしてその事は祭様も同じなのか。

 

「なに、こやつ等の浅見さの報いは己が身で味わう事になるだけの事。 儂等にとっても他の豪族や氏族に対する見せしめになると言う物よ」

「……ですが、他の我ら孫呉に仇なそうとする豪族達や、南の連中と共鳴されては厄介です」

 

 そこへ今まで黙っていた思春様が、祭様の楽観しているとも思えるような言葉に、祭様の御心を分かっていて意見を挟みます。 この部屋には私達三人しか居ないゆえでの言葉。

 

 

 

 

『 孫呉に反旗を翻そうとする一族が他にも多くいる 』

 

 等と、とても他の者達には聞かせられません。 そして思春様の危惧ももっともな事です。 ですが、

 

「南に関しては純夏に連絡を入れた故に何とかしてくれるじゃろうてぇ。 あやつは義理堅いからのぉ。 きっと此方の状況を知ってなお、あの地で我等を助けてくれると。 儂はあの娘を信じておる」

 

 祭様の言葉に、思春様もあのお方を思い出されます。 寡黙な方ですが、雪蓮様が冥琳様と同じぐらい信頼されておられるお方。

 雪蓮様と一緒居ると、憎まれ口を叩きあったり下らない事で喧嘩ばかりされていますが。 とても真っ直ぐな方で、約束を破るのがお嫌いなお方です。 あのお方が南は任せろと言った以上、此方で掴んだ情報さえ伝えておけば、きっと何とかしてくださると信じられるお方です。

 それに、思春様が心配されている此方側の方も。

 

「北郷の奴め巧い手を考える。 たしか"公共事業"だったか?

 とにかくそう称して、街道の整備を半金だけ此方が出し、残りをそう言った同調しそうな日和見の一族に命令してやらせる事で、戦の金を使わせ同調できなくさせようとはのぉ。

 そして我等はその浮いたお金で更に軍備を整え、そう言った連中の目と鼻の先で軍事演習をして見せるなど、普段優しい事を言う割に、なかなかエゲツのない手を考えるものじゃ」

 

 祭様が、思春様がまだ知らされていない一刀さんの策を説明しまが、それは以前一刀さんが翡翠様や七乃にお話していた事です。 

 ですが祭様の言っておられた事もありますが、一刀さんはしっかりとその後の事も考えられています。 一度進んで傘下に入っておきながら反旗に同調すると言う事は、孫呉の支配下に居る事に不安と不満があると言う事です。 ですが、それも道が良くなれば商人達の行き来が激しくなり、将来的にはその一族にも利益が生まれ、民達もそれなりに潤う様になります。

 そうした鞭と飴で、我等についていた方が得と思わせる要因の一つに出来るそうです。

 何より、戦を起こす事をある程度抑えられると言っていました。

 ……そして、それでも戦を起こしてまで反旗を翻そうとする一族には。

 

「では、こやつらの拠点とする町と周辺における情報操作。商人達への妨害活動は任せたぞ。

 人も物も集まり過ぎぬ程度にのぉ」

「「はっ!」」

 

 祭様は口の端から歯を覗かせ。 早いうちに、しかも被害を最低限になるように仕向けるよう、薄く獰猛な笑みを浮かべながら私達に命令を出します。 蓮華様が率いる孫呉の力を見せるための贄とするために。 双方共に犠牲となる人達が最低限で済む様にと……。

 

 

 

 

 そしてそれで取り敢えず仕事の話は終わりなのか、祭様が緊張の空気を緩められ。

 

「しかし明命。 随分と速く情報が得られたのぉ」

「はい、頑張りました」

 

 祭様の言葉に、そう私は答えます。 むろん前から怪しいと思っていた一族なので、それなりに部下を付けていた事もありますが、皆さんに迷惑をかけた分、遅れを取り戻そうと頑張ったのは事実です。

 祭様に褒められたと思った私は頬を緩ませますが、それを見て祭様は何故か目を細められ、ほぉと短く言葉を漏らされます。……あっ、何か嫌な予感がします。

 

「とても先日、足腰が立たなくなったと言う理由で、仕事を休んだ者の働きとは思えなんでのぉ」

「はあぅっ!」

 

 祭様の面白げな表情で言われた言葉に、私は顔が熱くなるのが分かります。 その原因を思い出してしまい、頭の中がグラグラと茹ってしまいます。 そんな私を、くっくっくっと小さく笑いながら、自分の悪戯が成功した事を嬉しそうにしている祭様に、私は恥ずかしさのあまり思考が上手く回らないままに言ってしまいます。

 

「あ、あ、あれは、全部一刀さんが悪いんですっ!」

「なんじゃ、また後ろの穴でも求められたのかえ?」

「ち・違いますっ! 確かに求められましたけど、あんな場所はあれっきりですっ!」

 

 祭様の言葉に私は更に顔を赤くして強く否定しながら答えてしまいます。 そして祭様は『なんじゃつまらん』なんて他人事のように言ってきますが、私としては幾ら気持ち良くても一刀さんとは普通に愛し合いたいんです。

 だからこの間だって普通に前で愛し合いました。 回数としても一回だけです。 ですがこの前の晩は、後ろを求められたのを断った代わりに、………と、とにかく、一刀さんが調子に乗ったのが全部悪いんですっ!

 その事を分かってもらうために、祭様にあの晩一刀さんが私にした事を簡単にお話したのですが、祭様は何故か呆れたように。

 

「どう聞いても惚気話にしか聞こえぬぞぉ。 そうであろう思春」

「……私にそう言う話を振らないで頂きたい。 ……だが明命、私も祭様と同じ意見だ」

 

 と、何故か思春様まで、私を困ったような呆れたような目で見られて来ます。

 そんな祭様と思春様の言葉に私が戸惑っていると、祭様は諭す様な口調で。

 

「おぬしが背中の傷跡を北郷に見られまいと、今まで服を着たままでしか、後ろからさせなんだと言う気持ちは分かる。

 我等は武官。 醜い傷の一つや二つは在って当然じゃ。 幾ら誇りや名誉の勲章と言うても傷は傷。 それを心良く思わぬ男が大半じゃ。 ……儂もそれで苦い思いもしてきたから、その怖さはよーく知っておるぅ。

 だが、北郷はその傷を含めて愛してくれたのじゃろう。 それに何の文句があると言うのじゃ」

「そ、それは…その」

「確かに調子に乗った北郷にも非は在ろう。 だがそれも全ておぬしを愛おしく思う気持ちの現れと分からぬわけではあるまい。

 それともお主は、背中のそれを北郷が受け入れ、愛してくれた事が嬉しくはなかったのかぇ?」

 

 

 

 

 私は祭様の言葉に、首を横に振ります。 嬉しくないわけありません。

 背中の傷の大半は、以前蓮華様を守る為に出来た傷。 残りも、民を、仲間を守るために出来たものです。

 恥じるべきものではありませんが、やはり傷は傷。 翡翠様の染み一つない綺麗な身体を前にしたら、どうしても気後れしてしまいます。 だからこそ今までは隠してきました。 ですがあの晩の一刀さんの願いに、このままではいけないと思い、私は勇気を振り絞りました。

 そして、そんな私の背中を一刀さんは綺麗だと言ってくれました。 優しげに微笑みながら、私の優しさの軌跡だと言ってくれました。

 その醜い傷跡と共に私を愛してくれました。 背中と一緒に一つ一つ、丁寧に優しく何度も口付される度に、一刀さんの熱い舌を這わされる度に、一刀さんの優しが傷跡から染み込んでくるように感じてしまい。 私は嬉しくて、私の瞳は意思に関係なく涙を流しました。 そして私の身体はその喜びに震えるように小さく絶頂し続けてしまいました。

 

「そんな男、そうそう居りはせぬ。

 おぬしの男の眼を見る目は確かじゃ。 正直羨ましいとさえ思える。

 なのにその事で足腰立たなくなるほど気をやった事が、幾ら恥ずかしかったからとは言え、北郷の腕を思いっきり噛んだのは正直どうかと思うがのぉ」

「あぅぅ……」

 

 祭様の言葉に。 祭様の優しげな瞳に、私は一刀さんに申し訳ない気持ちが溢れてきます。

 確かに一刀さんは私を愛してくれただけです。 私の気にしていた傷跡すら深く愛してくれました。 気にする事は無いと、私の心と身体に教えてくれただけです。

 なのに私は、たった一回で足腰立たなくなるまで気をやってしまった事に、自分がとてもいやらしい娘に思えてしまい。 その恥ずかしさのあまり、一刀さんの腕を八つ当たり気味に思いっきり噛んでしまいました。

 私が足腰立たなくなった事で、一刀さんが謝ってきたり、優しくしてくれるのを良い事に、私は甘えていたのかもしれません。 私がいやらしい娘になってしまったのは、全部一刀さんが悪いのだと思いたかったのかもしれません。

 そう落ち込む私に祭様は、おかしそうに笑いながら。

 

「おぬしにその様な顔は似合わぬぅ。

 自分がどれだけ恵まれ、愛されているか分かったのなら、あやつの所にでも行くが良い。

 そして思いっきり甘えてくるが良い。 それがあやつにとっても一番の喜びじゃ」

「は、はいっ」

 

 力強い返事と共に、私はお二人に礼を述べてから部屋を後にします。

 行き先は一刀さんの所……この時間帯なら雪蓮様の遅めの朝食を済ませる頃です。

 お互い忙しい身ですが、今なら一刀さんが執務室に戻るまでのほんの少しの間、一刀さんと一緒にいられます。

 正直、今一刀さんの顔を真っ直ぐみられる自信はありません。 一刀さんの気持ちが嬉しくて。恥ずかしくて。顔を上げれないかもしれません。

 今あの温かな笑顔を向けられたら、人目も憚らず抱きついてしまいたくなってしまうかもしれません。

 ………でも、少しでも声を聴きたいと。 姿をこの目に捉えたいと。 そして触れあいたいと言う気持ちを抑えられません。

 ただ、あの時噛んでしまった事を謝りたい。

 ただ、少しでも早く一刀さんにこの気持ちを伝えたい。

 

 

 

 

 一刀さんが私の全てを受け入れ、愛してくれた事が嬉しかった事を。

 

 

 

祭視点:

 

 

「まったく、幾つになっても世話が焼ける」

「……良いのですか?」

 

 儂の溜息の混じった言葉の後に思春がそう言ってくるが、あの糞が付くほどの生真面目な明命が、自ら任務をそっちのけで色事に走るとは思えぬ。 精々次の任務までの僅かに空いた時間を利用して会いに行く程度の事。 その事を思春に言って見せたが、案の定目を瞑り、溜息混じりに明命の怠業を小さく否定する。

 もっとも思春が心配しているのは、その事では無いと分かってはいたが、このまま思春の話に向かうのはちと詰まらぬゆえに。

 

「明命が羨ましいとは思わぬかぁ?」

「……思いません。 あのような敵兵の死にまで一々涙するような男、面倒なだけです」

「くっくっくっくっ。 儂は明命の自信の事を言ったつもりじゃが、おぬしは北郷の事と受け取ったのか。

 あーー、まさか思春がその様な捉え方をする日が来るとは、夢にも思わなんだぞぇ」

「な、な、な、なっ、 何を言っておられるのですっ!!」

 

 儂の隠すことなく挙げる笑い声に、思春は声を上げて怒鳴ってくるが。 これがまた、めったに見られない光景ゆえに余計笑みが止まらなくなってしまう。

 このままからかい続けたい気持ちにはなるが、思春相手ではそうそう乗って来てはくれぬじゃろうと思い。

 儂は思春の矛先を逸らすべく話を元に戻す事にする。

 

「魏からの使者の監視は、兵達に任せて放って置けと決まったではないか」

「しかし、もし奴等が良からぬ事を・」

「ないな」

 

 思春の言葉を儂は否定の言葉で遮る。 思春の奴等を許せぬ気持ちは分かるが、感情に心を曇らせて判断を間違えるべき時ではない。

 確かに儂も、北郷に必要以上の監視は不要と言われた時は、耳を疑ったものじゃ。

 だが、奴等の此度の目的を考えれば、何か仕掛けてくる事はまずありえなかろう。 その様な事をする連中であれば、この間の戦で多大な犠牲を出してまで、あっさり軍を退くような真似はせぬ。

 此度の魏の使者の目的は口実通り、兵の暴走によって策殿の暗殺を仕掛けたと言う事実の謝罪と宣言。 そして此方の陣営の偵察任務であろぅ。

 ……まぁ、この宣言と言うのが曲者なのじゃろうが。 こればかりは我等武官の出る幕では無い。

 相手が監視を警戒している以上、余程の馬鹿では無い限り何かを仕掛ける事は無い。 そしてその程度であれば、一般兵や密偵としてはまだ未熟な者を付けた方が色々都合が良い。

 むしろ、思春や明命達の密偵としての力量を、奴等に知られる機会を与えたりする方が危険と判断した北郷の判断は的を得ていると思う。

 

「言うておったであろう。

 『 やるべき事等幾らでもあるのに”魏の使者程度”の監視に優秀な人材を使う必要を感じないよ 』

 とな。 くっくっくっ、あやつも中々言いよるわぃ」

 

 使者の先触れの報せに、あやつは魏への復讐心に逸る文官武官達の前で”魏の使者程度”とつまらなそうに言い切った事で皆の毒気を抜いた。 その言葉に苦笑を浮かべる者、声を上げて笑うもの様々じゃったか、今気にするべき事は他にあると、皆の意識を向けるべき場所へと向けさせた。

 

「今は攻めてくる心配のない怨敵より、身体の中の膿を出す事の方が優先じゃ。

 先程の一族達の件、確かに任せたぞ」

「はっ!」

「それと、心配は無いと思うが明命はあんな調子じゃ。 もしもの時はそれとなく助けてやってくれ」

「……はぁ…。 分かりました」

「溜息交じりとは、ずいぶんと冷たい姉貴分じゃのぉ。

 ここは可愛い妹分のためと思うて快く引き受けんかい」

「……別に明命のためだけなら、何の問題もありません。 その元凶となっているのが、あの軟弱な男と思うと溜息も出ると言う物です」

 

 

 

 

 思春はそう言うと「では失礼します」と言い残して部屋を後にするのを確認してから、儂は我慢していた笑いを何の遠慮も無しに吹き出す。

 

「くっくっくっ。 まったく、あやつが来てから退屈とは無縁になったのぉ」

 

 なにより皆が明るうなった。

 幾ら民が安心して暮らせるためとはいえ。 良い年頃の娘達が、政の駆け引きや戦の事しか頭に無いようでは、民の心を本当に分かってやれる事は出来ぬ。 張り続けた緊張の糸は弦と同じで、その本来の力を失ってしまう。

 必要なのは、程よく弦を緩めてやる事じゃ。 自分達が何のために命をかけておるのかを、心を緩めて眺める事。 自分達が民達の中に入る事が何より大切なのじゃ。

 策殿は、それを肌で感じ取り皆にその様に振る舞ってはいたが、孫家の長子として、王として、そうそう気を緩めっぱなしにする訳にもいかなんだが。 北郷のおかげで、皆が一人の人間である事を思い出してくれた。 あやつの優しさと明るさが、儂等を人で居させてくれる。 笑顔と言う大切なものを、見失わせずに居させてくれる。

 

 思春も言葉では、ああして北郷を否定しておきながら、きっちり信頼をしている辺りは、あやつも中々難儀な性格をしておるのぉ。

 思春は北郷の事を『 軟弱 』と言葉を繰り返し称しておるが、儂には『 軟弱 』と言う言葉を盾にして縋っているように見えてしょうがない。

 あやつはああ見えて、自分を慕う者達に優しい。 厳しい言葉と態度の裏には、その者の事を思っての事だと言う事が分かる。 照れ臭さと口下手な所があやつをああ言う行動にさせるのじゃろうが、その事を知られてしまった相手には、その行動そのものが可愛く思える事もあると言う事を本人が自覚しておらぬところが、また滑稽な所ではあるがのぉ。

 そんな思春の事じゃ。 邪推かもしれぬが、可愛い妹分の男を好きになる訳には行かないと思うておるのかもしれぬのぉ。

 まぁ、あやつが今の姿勢を貫き通すか、それとも己が気持ちと向き合う気になるかは知らぬが、まだあやつは幸せな方じゃ。 選択肢があるだけのぉ。

 

「問題は、策殿の方じゃな……」

 

 策殿の想いに気が付いておるのは、儂と公瑾、そしてあの二人位なものじゃろうが……いや、今はおそらく権殿もじゃろうな。 あれ程の男じゃ。 儂も二人の事が無く、もう少し若ければ放って置かなんだと思えるほど、……策殿が北郷に想いを寄せてしまう気持ちは分からぬまでもない。

 そこへ幾ら不意を撃たれたとはいえ、策殿と北郷が敵の毒矢を受けるとは、とても普通では考えられぬ事が起きた。 大体何があったかは想像はつくが、所詮想像に過ぎぬし、策殿の気持ちを考えれば確かめる訳にもいかぬ。

 今は権殿に王位を譲られ、主従の関係が権殿に引き継がれたとは言っても、その想いを叶える訳には行かぬ。 王位を退こうと我等孫呉を率いる王族で在り、元王である事に何の変わりはないからのぉ。 ましてや今のような時期であればなおさらじゃ。 下手をすれば内部分裂を引き起こす切っ掛けになりかねない。

 そうでなくても策殿の事じゃ。 二人の事を思えば、想いを叶える訳にはいかないと思うておるじゃろうが……。 堅殿の娘である策殿が、それで想いが止まるとはとても思えぬのぉ。

 

「……なんにせよ厄介な事になったものじゃ」

 

 策殿を哀れと思いつつも、このままで終わるはずはないと溜息を吐いた時、侍女が魏の使者が参内した報せを持ってくる。

 儂はその報せに一息で心を入れ替え、侍女に礼の言葉を述べてから玉座の間に足を向ける。

 

「曹操よ。儂等の品定めにどれ程の者を寄越したか。 その事で貴様の品定めをさせてもらうとするかのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第91話 ~ 煌びやかに舞う影に、沈む想いと浮かぶ想い ~ を此処にお送りしました。

 

 読者の皆様、私のような作品をいつも支援していただき、本当にありがとうございます。

 皆様の御支援のおかげで74話から89話まで、16連続で王冠をいただく事が出来ました。

 王冠を狙って居る訳ではございませんが、これもひとえに皆様の御声援のおかげと思っております。

 これからも、突っ込みどころは満載でしょうが、皆様に面白いと思って頂けるような作品を書いて行きたいと思います。

 

 今回も名前だけでてきた太史慈こと純夏、そのイメージを金髪のグゥレイトゥ!様の作品から拝借させていただいておりますが、その事を此処でもう一度改めてお礼を述べさせていただきます。

 さて、次回はとうとう、魏からの使者のお話になります。 原作ではあっさりとナレーションで終わってしまったシーンですが、それ故に想像を膨らまして、妄想を垂れ流したいと思います。

 さぁ、誰が来るのか、それは次回までの秘密です♪

 次回までの更新で読者様の挙げた一番多かった名前の娘の視点で、何処かの場面を書いてみようと思っています。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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