No.177309

PSU-L・O・V・E 【綻び①】

萌神さん

EP11【綻び①】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-09 20:08:37 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:630   閲覧ユーザー数:626

◇ ◇ -PM 07:41- ◇ ◇

 

夕食の後、ベッドに横になり寛いでいたヘイゼルの携帯ビジフォンからコール音が鳴り響く。

億劫そうに、サブディスプレイに表示された相手の名前を確認するとモリガンだった。

ヘイゼルは上体を起こしながら通話に応じた。

「……俺だ」

ヘイゼルのにべ無い応対の言葉に、受話器の向こうから溜息が聞こえる。

「お前……その電話の応答のしかたは……まあ、良い……。それよりも、今大丈夫か?」

諦めきったモリガンの言葉に、特に用事も無かったヘイゼルは「ああ」と短く頷いた。

「近くに誰か居るか?」

モリガンの問いに、ヘイゼルは必要無い行為ではあったが部屋を見渡した。ユエルとジュノーはキッチンで食器の洗浄作業中で戻ってきていない。

「……いや、今は居ない。ユエルもジュノーもキッチンに居る」

「そうか、では話しが早い。ヘイゼル、明日、私とデートしないか?」

言葉の意味が暫し理解できなかったが、理解するとヘイゼルは顔を顰めた。

「……冗談を言っているのか?」

「勿論、冗談だ。だが、お前の力を借りたい。正確には"ガーディアンズ"としての肩書きを」

(必要なのは俺の肩書きだけか……)

モリガンの言葉にヘイゼルはムッとして告げた。

「そんな用事だったら、別に俺じゃなくても良いだろう。ユエルにでも頼めよ」

「……彼女では駄目なんだ。それに、今回の件は此処だけの話し内密にしたいのと、お前には伝えておきたい事がある」

「伝えたい……事?」

「電話ではちょっとな……会って直接話したい」

モリガンは声のトーンを落とした。ヘイゼルは彼女の物言いから、何やらきな臭い雰囲気を感じ取っていた。

「……ユエルの事なのか?」

「まあ……そんな所だ。待ち合わせ場所は駅裏の駐車場、時間は十時。私の車で待っているから、ユエルには行き先を誤魔化して出て来てくれ」

「……解った」

用件が終わり、ヘイゼルは通話を切ると、重い息を吐いて再びベッドに横になった。

ユエルについて何か解ったようだが、モリガンの電話の口振りでは、面白い話しでは無さそうだ。

(……俺が気に病む事でもないがな)

ヘイゼルは気を取り直し身体を起こす。そこへユエルとジュノーが洗い物を終えて戻って来た。ユエルは一個分の林檎を切り分けて載せた小皿を持っている。

「ヘイゼルさん、カフェで林檎をお裾分けして貰ったッスよ~。私は食べられないから、ヘイゼルさんに召し上がって欲しいッス~……って、どうしたッスか、深刻そうな顔してるッスよ……何かあったッスか?」

ヘイゼルの顔を窺い、ユエルが心配げな表情を見せる。

(深刻な顔……俺が?)

何を気にすると言うのだろう、自分が気に病む事は一つも無いと言うのに。

ヘイゼルは何でもないとユエルに告げ、リンゴを一切れ掴み取り、口に運んだ。少し酸味のある甘みを堪能する。

気遣うようなユエルの視線が少し痛かった。

◇ ◇ -翌日 AM 10:04- ◇ ◇

 

キャス子カフェに向かう為支度していたユエルと、留守番のジュノーに適当な理由を告げて部屋を出るとヘイゼルは駅へ向かった。

待ち合わせの時刻は若干過ぎてしまったが、駅裏の屋外駐車場へ回り、モリガンの車を探していると、駐車場の端に停められた真っ赤なスポーツカーが、ライトをパッシングさせ合図を送っていた。

古式な外観を持つ真っ赤な車体には、高々と前脚を上げる躍動的な跳ね馬のエンブレムが飾られている。嘗て名車と謳われたスポーツカーのスタイルをレプリカした物だ。

フロントガラス越しにモリガンの姿が確認できる。どうやら彼女の車の趣味は、研修医として勤めていた頃と変わっていないようだ。変った点があるとすれば、ただ憧れるだけでなく、手に入れられるようになった点だ。

ヘイゼルは車のドアを開けると滑り込むように座席に腰を下ろす。長身の身体はバケットシートにすっぽりと収まった。

「時間を取らせてすまんな」

モリガンの言葉を片手で制すると、ヘイゼルは性急に訊ねる。

「で、用件は何なんだ? 俺に知らせたい事とは?」

「それは目的地に向かいながら説明する。その前に、これに目を通してくれないか」

モリガンはA4サイズのファイルをヘイゼルに渡すと、車を発進させ駐車場を出た。車はそのまま幹線道路に向かう。

ヘイゼルは黙ってファイルを受け取った。それはカルテのようだった。

(……医者の守秘義務違反とかにならないのか?)

と、思いながらも、野暮な事は言わずに書類を読み進める。内容はユエルの検査結果と、彼女の身体データのようだ。

記された内容を目で追い、理解するにつれ、ヘイゼルの表情が険しくなっていく。

「身体能力……骨格フレーム強度、キャスト平均値より23%高……人工筋肉の最大値、平均値より30%高……視力・聴力等の感覚器官精度、平均値の21%高……反射速度、平均値の19%高……これは……?」

ユエルの身体データから割り出された彼女の能力は、平均的なキャストが持つ数値を軒並み上回っていた。

「能力が一つや二つが突出しているなら、まだ理解できる……。だが、ユエルのその数値はもはや異常だ。そんな数値を持っているのは、同盟軍の特殊部隊に所属するような、戦闘用にカスタマイズされたキャストだけだ」

長年、キャストを診て来た専門家が断言するのだ、間違いは無いだろう。

「だが、普段のユエルからは、そんな高性能さは窺えない……通常はスペックを抑えられているのだろう。それも、おそらく本人の無意識の内にな……」

確かに普段のユエルは平凡なキャストとなんら変る所は無い。だが思い出した、ビリーがユエルの回避力の高さに関心していた事がある。それを聞いた時は彼女のウォーテクターと言う職種に見られる回避力の高さ故にだろうと考えていたが、事実は違っていたようだ。ユエルがカタログスペックの性能を発揮すれば、それは容易い事だったのだ。

「おかしな点は他にもある。ファイルの20ページ目を見てくれ。青い付箋が挟まっている所だ」

モリガンに促され、ヘイゼルは付箋の差し込まれたページを捲る。

「彼女のナノトランサー容量は標準の物より少ない……と、言うかナノトランサーに解析できないブラックボックスがあり、それが約半分を占めているのだ」

空間湾曲を利用した収納システム"ナノトランサー"

個人が所有するナノトランサーの収納量は、4m×4m程の湾曲空間であるが、ユエルのナノトランサーは、その半分が解析出来ない状態なのだ。

「更に彼女が装備するシールドラインにも不可解な点がある。ユエルが装備するヨウメイ社製"ソリセンバ"は識別番号こそソリセンバの物だが、性能的には数ランク上の性能を有している。所謂、偽装された形跡があった」

「……」

ヘイゼルは言葉を出せずにいた。

昨夜の時点で事がユエルの話しに及ぶと解っていた時、彼が考えていたのは、レリクスでユエルが見せたリアクター不調の事だ。検査でその原因が解ったのだと思っていた。しかし事実は違い、話しはヘイゼルが思いもしなかった方向へ進んでいる。

モリガンの話しを統合すると、ユエルは高性能にチューンされたカスタム・キャストである疑いが濃厚だ。

だが、一体誰がそんな事を……何の為に?

疑問が疑念に変る。脳裏に浮かんだユエルの笑顔が暗い影の中に沈んでいく。

(ユエル……お前は……)

疑念を拭えぬ思いのまま、膝元の資料に目を落とすと、ページの隙間から、何かの紙が少し飛び出していた。

白色の書類と違い、灰色掛かった紙質が気になり、それを抜き取って見ると、それは新聞の記事を切り抜いた物だった。

モリガンはその様子を横目で見ながら説明する。

「それは、お前達がディ・ラガン討伐に行っていた時に、偶然発見した記事だ……お前が戻ったら、すぐ話そうかと思っていたのだが、ユエルとジュノーの入院騒動で今更になってしまったがな」

新聞の切り抜きには、ホルテスシティのリニアトレイン駅の近くの路上で男性の変死体が発見されたニュースが載っていた。この報道はヘイゼルも何となく聞き覚えがあった。

「死亡した男性の名前を見てみろ」

モリガンに言われ、ヘイゼルは今一度、記事の内容に目を通す。

「ハリス……ラブワード……ハリス・ラブワード!?」

ヘイゼルは目を見開いた。聞き覚えがある。それはユエルの身元引受人だった男性の名だ。

「ハリス氏が死亡している事は調べて解っていたが、何時、死亡したかにまでは頭が回っていなかった……。氏が変死体で発見されたのは、お前がユエルを発見した翌日なのだ」

リニアトレイン駅近くの路上で、記憶を失って立ち尽くしていたユエル……。

翌日、その近くで発見された、彼女の身元引受人の死体……。

「この二つ……関係ないとは言い切れまい?」

ヘイゼルの気が更に滅入る。ユエルは身元引受人の変死事件にも、何らかの関わりを持っていると言うのか。

「……ハリスの死亡原因は?」

切り抜き記事の最後は『事件、事故の可能性も考え捜査中』と結ばれている。だが、ヘイゼルの記憶にある限り、この事件の続報をニュースで見掛けた記憶は無い。

「ライブラリを検索したが、その事件に関する、その後の情報は無い……と、言うか情報は規制されているようだ」

「情報を……規制?」

「報道規制と言うやつさ。ルウに調べて貰ったんだが、事件の続報は軍警察の指示で報道規制を名目に伏せられたようだ。……名前は伏せるが、私は仕事柄、同盟軍のある大佐と付き合いがあってな。その人物から何とか情報を聞き出せたんだが、ハリス氏は同盟軍管轄の組織に関わりがあったらしい。それ以上の事は話せない様子だったがな」

モリガンの言葉がヘイゼルの混乱に拍車を掛ける。

ユエルの謎には軍まで関わっていると言うのか!?

「情報に手が届かない以上、真相は自分達で探らなければならない。そこで、お前の手を借りたい」

ヘイゼルは運転するモリガンの横顔を見つめた。彼女の目は真っ直ぐと前を見つめている。

二人を乗せた車はホルテスシティ東部の海岸地帯を目指して走っていた。

今日もメールが届いた。

 

私の様子を伺うメール。

 

でも、それは貴方からの物じゃない。

 

……何故なの?

 

私は、こんなにも貴方からの連絡を待っているのに……。

 

◇ ◇ -同日 10:15- ◇ ◇

 

胸元に大きなリボンの付いたシフォンチェニックとフジ・フィジボトム。脚には穿き慣れたオーバーニーソックス……アリアは久し振りに私服に袖を通した。

衣服とはこんなにも重かっただろうか……。

更に気が滅入るが、いつまでも閉じ篭ってばかりでは精神衛生上良くない。

ドレッサーの鏡に顔を映し軽く化粧を整える。

僅かにやつれた頬に落ち窪んだ目をした陰気な顔。

(まったく……こんなの私らしくないじゃない)

アリアは自分に苛立ちを覚えながら身支度を整え部屋を出た。

扉のオートロックが掛かった事を確認し、エレベーターへ向かう為歩き出すと、廊下の向こうから、誰かが此方に歩いて来るのに気付いた。

スラリとした長身で細身の女性キャストである。

肩口まである緋色の髪と、薄い眉に鋭い瞳も緋色。

全身を覆わせた動き易そうな緋色の外装パーツ、その上に羽織る肘まで届くケープをもまた緋色。

全てが緋色で構成された、『緋色の女』

その中で彼女の髪に飾られた、花の形をした髪飾りだけが異彩を放っている。

見かけた事の無い女性だが、この階で部屋を借りているガーディアンズ職員だろうか?

尤も、短期滞在のアリアが、この階の住人全てを把握している訳では無いのだが……。

「こんにちは」

「……どうも」

目前に迫った緋色の女性キャストが会釈をし、アリアもそれに倣って挨拶を返す。

二人が擦違おうとしたその時、不意に女性キャストが声を上げた。

「あら?」

その声に反応し、アリアが女性キャストを振り返ると、彼女もアリアを見返している。

「違ってたらごめんなさい……。貴女、もしかして機動警護班の"ヘイゼル・ディーン"とよく行動している人じゃなかったかしら?」

「……ええ」

何故、この女性はヘイゼルを知っているのだろう……。

女性キャストの質問を訝りながらも、アリアは返事をした。

「それじゃ知ってるかしら? 彼のパートナーのキャスト、"ユエル・プロト"が作戦中にディ・ラガンに襲われて入院したって話しなんだけど……彼女、大丈夫なのかしら?」

思いもしない人物の口から、あまり聞きたくない"彼女"の名前を聞かされた。

ビリーから届いたメールには、ユエルが短期間の入院をしたとは記されていたが、ディ・ラガンに襲われたと言った詳細な情報は知らされていない。

いや、引っ掛かるのは違う点だ。

今、彼女はなんと言ったのか……ヘイゼルの"パートナー"、ユエル・プロトと言ったのか!?

(私を……差し置いて―――!)

アリアの心にどろりと粘ついた暗い感情が湧き上がる。

「知らないわ! 彼女の事なんか……!」

震える声を殺し、アリアは冷たく告げた。女性キャストは彼女の心根に気付かぬのか更に話しを進める。

「あら、そうなの? 貴女なら何か知ってるかと思ったんだけど……ヘイゼルさんからは、何も聞かされてないのね?」

「……!」

詰まるような痛みがアリアの胸を刺す。ヘイゼルからの連絡は無い……一度も……。

緋色の女性キャストの口元に笑みが浮かぶ、下弦の月のように薄い笑み。

「彼、付きっきりで看病していたそうよ。あ、そう言えば、二人は同棲してるんだったかしら? 仲が良くて羨ましいわね」

彼女には付きっ切りだと言うのに、自分には連絡の一つも無い現実。

敗北感にアリアの目の前がぐらつく。動悸が止まらない。沸騰しそうな程、頭に血が昇っているのに、顔面の血は潮のように引いている。冷静でいられない。

故に気付かなかった。

ユエルの情報を訊ねてきた筈の彼女が、自分より情報に詳しい矛盾に。

「私はてっきり、貴女とヘイゼルさんが、お付き合いをしてるんだと思ってたんだけど……違っていたみたいね。勘違いしてごめんなさい」

丁寧な物言いだが、緋色の女性キャストが浮かべるのは嘲笑。

冷静さを失ったアリアは緋色の女性キャストの真意を理解する事はできなかった。

それよりも、アリアの心を抉った言葉があったから。

『貴女とヘイゼルさんが、お付き合いをしてるんだと思ってたんだけど……違っていたようね―――』

ヘイゼルのパートナーは私ではなく、彼女……ユエル・プロト。

それが他人の認識。

ヘイゼルの隣に並び立つユエルの姿が脳裏に浮かぶ。

今まで彼の傍に居たのは私だった……。

なのに貴女はいとも容易く、それを奪った……。

貴女が……貴女は―――っ!

逆上したアリアは緋色の女性キャストを突き飛ばすと、その場を走り去り、宿舎を飛び出した。

後に残されたのは緋色の女、只一人。

彼女はかなり強めにアリアに突き飛ばされた筈だが、バランスを崩しただけらしく平然と立っている。細身に見えるが、かなりの膂力の持ち主なのだろう。

「絶望の種は蒔いた。後は芽吹くのを待つだけ……今日は忙しい一日になりそうね……姉さん」

緋色の女は走り去るアリアの背中を見つめながら呟く。

ニヤリと口の端を吊り上げ、残酷に微笑みながら……。


 
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