No.176790

PSU-L・O・V・E 【Omen(兆し)①】

萌神さん

EP10【Omen(兆し)①】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-06 21:25:40 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:666   閲覧ユーザー数:661

カーテンの閉じられた薄暗い部屋、アリアはベッドの上で膝を抱えて座っている。

目の前に置かれた携帯ビジフォンがバイブで揺れながら、呼び出し音を奏でていた。

『IT HURTS ME』

この呼び出し音の設定を勝手にしたのはビリーだ。

はるか昔に絶大な人気を誇った男性歌手のバラードだと彼は言っていた。

だが、アリアは震えるビジフォンを見つめながら、通話に出ようとはしない。

ビリー・G・フォーム、今聞きたいのは彼の声ではない。

私は彼の声が、言葉が聞きたかった。

私が必要だと……。それが言い訳でも、彼の口から、その言葉を聞きたかった。

だから、私は待っている。

彼(ヘイゼル)からの電話を―――。

「駄目だ……アリア出ないんだぜ」

一向に応じないアリアへの電話を諦め、ビリーは通信を切った。

「そうか……じゃあ、後でメールで伝えておいてくれ」

他人任せなヘイゼルの言葉にビリーは眉を顰める。

「お前から連絡してやったらどうだ? 彼女も、お前から電話貰った方が喜ぶと思うんだぜ?」

「電話とかメールとか嫌いなんだよ……解ってるだろ? お前に任せる」

面倒臭そうに告げるとヘイゼルは歩き出す。ビリーはため息を吐き、ヘイゼルの後を追って、ガーディアンズ支部へ入って行く。向かうは支部内に在る医療施設である。

その二人の背中を見送る人影があった。

肩口まである緋色の髪と、肘まで届く緋色のケープ。

全身を覆う、動き易そうな外装パーツも緋色。

薄い眉に鋭い瞳も緋色。

全てが緋色で構成された、『緋色の女』

その中で彼女の髪に飾られた、花の形をした髪飾りだけが異彩を放っている。

「妬み、嫉(そね)み、擦違い……」

緋色の女は小声で呟く。

「データ検索―――」

緋色の女がガーディアンズネットへアクセスし記録を辿る。

機動警護班所属 "ユエル・プロト" 作戦履歴。

……レリクス調査ミッション同行者。

ヘイゼル・ディーン、ビリー・ゴウ・フォーム、アリア・イサリビ……。

 

【アリア・イサリビ】

 

アリアのデータがピックアップされ、彼女の個人データが展開された。

それは本人以外は知る事の出来ない個人の情報。

即ちハッキングである。

緋色の女はアリアが現在住んでいる住所を探し出した。郊外にあるガーディアンズ職員専用の短期滞在型マンション、その一室(マイルーム)。

「―――でも、それは致命的な擦違い……。さあ、絶望の種を蒔きましょう」

緋色の女の口元がニヤリと微笑む。それは下弦の月のように鋭い笑み。美しく、残酷に、歪んだ笑みだった。

作戦名(ミッション・コード) 『King in the wilderness(草原の支配者)』 終了から二日―――。

予想だにしなかった作戦の結末を迎え、困惑するヘイゼル達は現場の処理をルウ達、諜報部に引継ぎ、現地を去る事にした。

誰がディ・ラガンを処分したのか。不正アクセスにより起動したトランスポーターと、転送されたSUVウェポン。束の間、垣間見た緋色の女の正体……全ては不明であり到底、納得いく物ではなかったが、ユエルは意識を失い、ジュノーは大破という予断を許さぬ状況もあり、現地にメンバーを回収に来たランディングGフライヤーにユエルとジュノーを収容すると、その足でホルテス・シティまで帰還し、ガーディアンズ支部の医療施設へ直行した。

病院に着いて間も無くユエルは意識を回復、ジュノーも頭脳体は無傷である事が確認された事は不幸中の幸いであった。

怪我の具合の軽かったユエルは、経過観察と精密検査を兼ね、短期入院する事になったが、ジュノーは多少深刻な事になっていた。ジュノーのボディは破損が酷く、リペアが不可能だったのだ。モリガンが処置を検討した結果、ジュノーの頭脳体を新しい身体に移植する案が出たのだが、パートナーマシナリーの製造元であるGRM社に、"GH-450"型の素体在庫が無いらしく、納入まで多少時間が掛かるとの回答があり、止む無く、GH-450の素体が入荷するまで、仮のボディに移植する運びとなった。

その処置も終わり、ユエルも特に異常は見られなかった為、二人揃って今日退院する事になっている。

「また、アンタには面倒をかけちまったな」

キャスト専門医にしてエンジニアである、モリガン女医の控え室を訪ねたヘイゼルは、礼を言った。

「今更何を言っている。これ位の手間等、お前が私に掛けた面倒に比べたら何でも無いさ」

と、鼻で笑うモリガンに、ヘイゼルは渋面を見せた。

その様子に満足すると、モリガンは応接テーブルに無造作に置かれた、コーヒーメーカーのサーバーを抜き出し、二人分のカップに淹れたてのコーヒーを注ぐ。

「ジュノーの最終調整は終わっている。間も無く此方にやって来るだろう。コーヒーでも飲んで待っていると良い……。そして、ユエルなんだが―――」

モリガンからコーヒーの入ったカップを受け取り、二人がカップを口にした時、モリガンの台詞を中断させ、部屋の自動扉が開いた。

「ヘイゼル様―」

話題の主が主人の名を呼び部屋に入って来る。その声はヘイゼルが記憶していた彼女の声より若干低い気がするが……?

「お、来たんだぜ……って、ブッ!」

扉の方へ視線を移していたビリーが突然、口に含みかけたコーヒーを吹き出した。

「汚えなッ! 何してやが……ブフゥッ!」

ジュノーに目を移したヘイゼルも同様にコーヒーを吹き出す。

砂色で、柔らかそうな少し癖のある猫毛のショートカット。ルビーのように赤い瞳。華奢な作りの身体に、裾がスワロウテイルになっている空色の上着、太股も露なショートパンツを身に付け、膝下の白いソックスを穿いたジュノーが、クルリと身体を一回転させ生まれ変わった姿を二人にアピールして見せる。

「ボク、男の子になっちゃいました―」

年の頃、十二~三歳程の少年の様な出で立ちに変貌したジュノーがそこに居た。

「モリガァァァァァァンッ! アンタが用意した仮の素体ってコレかよ!?」

人差し指をジュノーに突きつけながら、ヘイゼルはモリガンに詰め寄った。

「可愛いだろ? 癒し系だぞ」

悪びれもせずモリガンは笑顔を浮かべている。

「だぞ、じゃ無えッ! 何でよりによって"GH-470"なんだよ! こんなの連れて歩いてたら俺にあらぬ疑いが掛けられっぞ!」

ヘイゼルが憤慨するのも無理は無いかもしれない。

少年型パートナーマシナリー(GH-470)は俗称"ショタ系PM"と呼ばれ、特殊な趣味のお姉さんに(一部のお兄さんにも)絶大な人気を持つPMなのだ。

「私は可愛いと思うんだがなあ?」

と言いつつ、モリガンはニヤニヤしている。

「てめえ……嫌がらせだな! わざとだな!?」

「ヘイゼル様ー……姿の変わったボク、そんなに嫌ですかぁ?」

ジュノーはヘイゼルの荒れた態度に消沈した様子で、上目遣いに主人の顔を見上げた。

「お前も涙目を止めろ! つーか、中身(頭脳体)は一緒なのに何で一人称が"ボク"になってんだよッ!」

「その方が雰囲気が出るかと思って」

それまでと違った甘えるような声を止め、ジュノーもニヤニヤ笑いを浮かべている。

「てめえもグルだったか―――ッ!」

ヘイゼルは自らのPMの背信行為に絶叫していた。そして味方を求めビリーに助けを請う。

「ビリー! 黙ってないで何か言え!」

振られたビリーは暫し考え込む仕草を見せた後、小さく咳払いをし口を開いた。

「まあ何だ……こんな可愛いパシリが女の子の訳が無―――!」

「死ねぇ―――ッ!」

ヘイゼルはそんなビリーの後頭部にとび蹴りを放っていた。

「まあ、おふざけは程程にしてだ……」

「ハイ、先生!」

一連の"コント"を見届けると、モリガンは白衣のポケットから煙草を取り出しメンソールに火を付け、その隣でジュノーが元気に返事をする。

もう、コイツは誰のPMなんだか解らない……と、ヘイゼルの胸中は複雑だ。

「ユエルは今、病室で諜報部の審問を受けている」

「審問だと?」

紫煙を吐きながら告げたモリガンの言葉を聞き咎め、ヘイゼルは眉を顰めた。審問とは穏やかではない。ユエルは今回の件で言えば被害者の筈だ。

「そう、目くじらを立てるな……今回の事件はハッキリとした目撃者が居ないのだ。現場に居たユエルが、根堀葉堀聞かれるのは仕方あるまい……最も、彼女は何も知らないがな」

「……と、言うと?」

「私も一応、ユエルがディ・ラガンに襲われた時の状況を訊ねてみたんだが、彼女は気を失ってしまって何も憶えていないそうだ」

「手掛かりは無しか……」

そうでもない、とモリガンは続ける。

「諜報部の調査報告がまとまってな。私もルウに資料を貰って意見を求められた。機密とは言われていないし、お前達は関係者だ。教えても構わんだろう……」

モリガンは机上のパソコンを操作すると、壁に備え付けられた大型モニターにデータを映し出した。草原で発見したディ・ラガンの死骸。

「こいつに襲われたお前達には悪いが、ここまでボロボロにする必要があるのかと、同情したくなるよ」

モリガンは動物愛護主義者では無いが、あまりにも酷(むご)い死骸の状況に小さく本音を漏らした。

改めて見ると本当に異常な死に様である。原型を留めぬほど変形した顔面。鮮血に染まる身体に無数に開けられた深い孔。その身体は胴の部分から二つに分断されている。動物愛護団体から抗議(クレーム)を受けそうなほど残虐な殺され方だ。

モリガンは顔のパーツの判別が付かないほど変形したディ・ラガンの頭部を拡大表示する。

「顔面の変形は、おそらく頑強な"鈍器"で殴打された物と思われる」

「鈍器って……重機でも使ったのかよ」

モリガンの解説にヘイゼルは呆れた。

「そんな訳はあるまい。しいて挙げるなら、巨大な"鋼拳"と言ったところか」

(鋼拳……か……)

鋼拳(ナックルダスター)とは使用者の拳に装着し使用するフォトンウェポンだ。拳を保護し、ハード・ターゲットの破壊も可能な武装だが、ほぼ零距離、超至近での使用となる為、被ダメージ覚悟の武装である。

ヘイゼルの頭に、ある推測が浮かぶ。

SUVの中にも、この鋼拳型兵装が存在する。

巨大な外部腕を有し、上腕の動きをトレースし相手を殴る、マッスル・トレーサー型の"メテオ・バスター"と上位版の"メテオ・アタッカー"

有効性に疑問があるが、巨大な鋼拳を射出し攻撃する"ギガス・ファウスト"

そう、これらも"SUV"なのだ。ラフォン草原の空に見た物と同じ―――。

「身体中の孔は何なんだぜ?」

ビリーがモニターに映るディ・ラガンの身体に開けられた無数の孔を指差し訊ね、モリガンはコンソールを操作し傷口の画像を拡大する。

「杭(パイル)のような物を打ち込んだ跡だ。傷口の周辺からは硝煙反応も検出されている。旧時代の浪漫兵器"パイルバンカー"を彷彿とさせる物だ。それも、ディ・ラガンの甲殻強度を無視して破壊するような強力な」

「杭って……そんな物、武器になるんだぜ?」

「炸薬の爆発力で杭状の物体を刺突させる、この兵器の威力を舐めない方が良い。ビリー、試しに手を貸してみろ」

言われた通り、ビリーが手を出すとモリガンは彼の手を机の上に置き、ペン立てからキャップの付いたボールペンを取り出し、手の甲に先端を軽く押し当てた。

「まあ、こんな風に普通に押し当てた位じゃ痛くも痒くもないだろう。だが―――!」

モリガンはそう言ってペンを握る右手を振り上げると、手加減なしに振り下ろした。ビリーが慌てて手を引いた直後、ペンの先端が激しく机を打ちつけた。

「あ、危ねえってばッ!」

「おっと、すまん。つい解説に熱が入ってしまったよ」

文句を言うビリーだが、モリガンは悪びれる様子も無い。

天然サディストめ……とヘイゼルは内心思ったが言葉には出さなかった。八年前の無知な自分では無いのだ。

「とにかく、爆発力と加速度が生み出す単純な攻撃の威力は途方も無いって事さ……それよりも一番気になるのは、ディ・ラガンの身体を分断した攻撃だ」

モリガンが今度は二つに断たれたディ・ラガンの上半身画像を拡大する。甲殻の断面は黒く焦げ付き、肉や内臓は熱せられたように所々、白っぽく変色している。

「この傷口……レーザーで焼切った痕みたいなんだぜ?」

気を取り直してビリーが言う。

携帯型レーザーカノンとは文字通り、高出力の光学兵器を小型化し、携帯可能にした武装だ。携帯と言っても、その大きさは個人兵装の中ではかなりの大きさを持っている。

「でも、こんなの"携帯型レーザーカノン"じゃ無理なんだぜ?」

「聡いな、流石はスペシャリスト(フォルテガンナー)だ。ルウに意見を求められた私も、彼女にそう答えたよ」

モリガンはビリーの答えに感心した。確かに彼の言う通り、携帯型のレーザーカノンにはディ・ラガンの身体を焼き切れるだけの出力は無いのだ。と、なると―――。

「……SUVか」

ヘイゼルがポソリと呟いた。

集中型フォトンメーサー砲 "グロームバスター"その上位版"グロームアタッカー"

旋回型フォトンメーサー砲 "ブリッツバスター"その上位版"ブリッツアタッカー"

どちらも大型フォトンリアクターを搭載し、携帯型のレーザーでは実現不能な出力を生み出す、個人兵装最強の光学兵器だ。

「―――それも無いな」

しかし、モリガンはあっさりとヘイゼルの意見を否定する。

「幾らSUVとは言え、SUVとして運用されているフォトンメーサー砲の出力ではディ・ラガンの身体を真っ二つにする事は出来ない。出来るとすれば、それは艦載砲クラスのフォトンメーサー砲だが、その熱量を発生させるには、少なくとも三倍のリアクター出力が要るだろう。現状のSUVが持つフォトンリアクターで、その出力を引き出すのは不可能だ」

モリガンはそこで言葉を切った。その視線が暫し中を彷徨い、黙考する素振りを見せる。

「A・フォトンリアクターならば、その出力を生み出す事も可能だが……いや、それは無いな」

モリガンは首を横に振り、一人で納得する。

従来のフォトンリアクターを越えるエネルギーを生み出す、次世代エネルギーシステム"A・フォトンリアクター"

しかし、この分野の発展は途上段階で、装置を小型化するには至っていない。現状、A・フォトンリアクターで稼動している物は、大規模な発電施設やAFR搭載空母、AFR搭載戦艦と言った大型の施設や艦船に限られている。

かつてグラール太陽系に存在した未知の先史文明は、高度な科学力を持ち、このA・フォトンリアクターの小型にも成功していたと言われるが、現代の人類の科学は、その域まで到達していないのだ。

「で、結局そこから何が解ったんだぜ?」

一連の推察を聞いたビリーが訊ねると。

「相手の正体が不明だって事が解ったのさ」

モリガンは肩を竦め、降参のポーズを見せた。

「オイオイ……」

ビリーがオーバーアクションでズッコケ、ヘイゼルは呆れて突っ込みを入れる。モリガンは短くなった煙草を灰皿に捨てると、もう一本取り出し火を点けた。

「事実だから仕方あるまい。だが、ガーディアンズネットワーク管理に侵入しハッキングを行う能力。ディ・ラガンを歯牙にも掛けない強力な武装……。いずれにしても只者じゃあるまい」

モリガンは大きく吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出す。

正体は不明と言葉を濁したが、気に掛かる点が有る。

(相手が何者であれ、相当な技術力と武装、そして、それを運用する資金力を持っている事は想像に難くない。しかも、ヘイゼル達が見た物が本当にSUVだったとするならば、SUVを独占して開発、製造しているのは、同盟軍とも関わりの深い軍産複合体"GRM"社、イロイロと黒い噂も絶えない企業だ……。噂を鵜呑みにする訳では無いが、ひょっとすると面倒な物が相手かもしれん)

その時、再び自動扉が開いた。


 
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