No.176272

PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)⑦】

萌神さん

EP09【Assault of the Diragan ⑦】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-03 23:55:25 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:785   閲覧ユーザー数:775

襲い来る火球の爆発や高温の火炎を逃れ、必死で走っていたユエルは、突然辺りに樹木の無い平地に飛び出した。

「あ……ッ!」

小さく声を上げ足を止める。ディ・ラガンの足を緩め、身を隠す樹木が無ければ此方の不利だ。ユエルは踵を返し林の中に戻ろうとするが、そこには既にディ・ラガンが迫って来ていた。

「あ……あ……そんな……」

逃げるつもりが、追い立てられていたというのか。

ユエルは絶句して後退り、追われるままに平原に向かって走り出した。その行動はディ・ラガンにしてみれば狙い通りだ。狩る者と狩られる者の立場が変われば、ディ・ラガンは並ぶ事の無い無類の狩人。"平原の獣王"の呼び名は伊達では無い。

ディ・ラガンは逃げるユエルを弄ぶように、ゆっくりと長い首をもたげ火球を吐いた。火球は弧を描く軌道を辿りユエルに迫り地面に着弾する。

「きゃあああああぁぁぁぁぁ―――ッ!」

直撃こそしなかった物の、炸裂した火球の爆発に捲き込まれ、ユエルの小さな身体は驚くほど簡単に中を舞い、地面に叩き付けられた。

「あうッ!……ぅ……っ」

激痛に一瞬意識が飛ぶ。そのまま意識を失ってしまえば楽だったのだろうが、こんな時に限ってそう上手くは行かないらしい。朦朧とする意識の中、身体を起こそうとするが身体に力が入らない。ユエルは止む無く這いつくばって逃げるが、その時、樹林が爆発したように弾け飛び、樹木を薙ぎ飛ばしディ・ラガンが全容を現した。

遂にユエルは追いつかれてしまった。這い進むユエルではディ・ラガンから逃げ切れそうも無い。ディ・ラガンはそんなユエルの姿を嘲笑うように一際大きく吠えると、ゆっくりとユエルに迫って来た。

(殺される……死ぬ? こんな所で死んじゃうッスか……戦う事も、逃げる事も……何も出来ずに死んじゃうッスか?)

絶望と死の影がユエルを覆う。ディ・ラガンの巨大な顎がばくりと開き、無数に並んだ鋭い牙、血生臭い息がユエルに迫る。

もう諦めるしかないのか……ユエルの脳裏にはしばみ色の優しい瞳が浮かぶ。これが最後ならもう一度会いたかった……話したい事が沢山あった。

(ヘイゼルさん……)

万策尽きたユエルは観念し瞳を閉じた。

 

林の中に、その様子をじっと見つめる者が居た。それはスラリとした長身の女性キャスト。

「―――貴女はそれで良いの?」

女は誰にとも無く呟いた。

肩口まである緋色の髪と、肘まで届く緋色のケープ。

全身を覆う、動き易そうな外装パーツも緋色。

薄い眉に鋭い瞳も緋色。

全てが緋色で構成された、『緋色の女』

その中で彼女の髪に飾られた、花の形をした髪飾りだけが異彩を放っている。

「―――私はそれでも良いのだけれど、だけど……その終わりには絶望が足りないわ」

『緋色の女』の口元がニヤリと微笑む。それは下弦の月のように鋭い笑み。美しく、残酷に歪んだ笑みだった。

ユエルを追い平原を走るヘイゼルとビリーは、前触れも無く樹林に轟いたディ・ラガンの咆哮に驚き足を止めた。

「何だ!?」

それは雄叫びと言うよりも苦悶の叫び、断末魔の絶叫。

訝るヘイゼルの隣でビリーが空を指差し叫んだ。

「あれは―――!?」

瞬間、空に眩い閃光が走る。ヘイゼルも空を見上げると、木立の間から覗く空に幾何学模様の様な物が浮かび上がっていた。複数の印章(シジル)が立体的に組み合わさり、回転する複雑な紋様である。

「……転送紋か?」

ヘイゼルが言う"転送紋"とは、転移装置(トランスポーター)が作動した際の転送術式が、フォトン光となり具現化した時に生じ空中に現れる紋様の事だ。

「誰かが"SUV"を転送したんだぜ?」

ビリーが疑問を口にした。

"SUV"正確には"SUVウェポン"と呼ばれるそれは、同盟軍が所有し殲滅戦等に使われる攻撃武装である。

兵装は、『20mm~25mm機関砲』『フォトンメーサー砲』『マイクロミサイルコンテナ』『対地衛星レーザー砲』……等等、形体、用途に応じ複数の分類を持ち、個人兵装としては最強クラスの攻撃力を有する武装だが、反面、その巨大さ故、携帯はおろかナノトランサーに収納する事すら不可能な兵装システムだ。

普段は同盟軍が所有するアーセナル衛星に格納されているが、使用者の要請を受ける事で転送システムが作動し、要請者の元へ転送される仕組みになっている。

同盟軍は三つの惑星上でこれを利用する為、三惑星間、及び三惑星の衛星軌道上に張り巡らされた、ガーディアンズの衛星ネットワーク、"GSN"を利用している。その見返りとして、ガーディアンズはこの兵器の使用を特別に許されているのだ。

このシステムは"転送座標軸補正"と"ナビゲーション能力"を機能として有する、キャストのみが使用可能なシステムで、ガーディアンズに所属するキャストは同盟軍から使用権を買う事で、条件付ながら使用を許可されている。

そのSUVウェポンが使われたのだろうか?

その武器を何を相手に……?

想像する事は難しくなかった。

だが疑問は残る、SUVを誰が召還したかと言う事だ。

「……まさか、ユエルちゃんか?」

「違う、あいつはSUVを所持していなかった!」

ユエルもSUVの使用が可能なキャストである。だが、ビリーの疑念をヘイゼルは否定した。以前、ユエルと話した事がある。彼女はSUV使用権を持っていないが、権利を買う為に貯金しようと思っていると……その後、彼女の口から権利を買ったとは聞いていない。実際、ヘイゼルが彼女のステータスを覗き見た時、彼女はSUVを管理するユニットを装備していなかった。

『今、こちらでも解析中です……』

作戦室から口を挟むルウの指は、物凄い勢いでコンソールの上を走っていた。

「SUV転移ゲート開放中……要請者検索……これは……ダミーデータ?」

今現在、ガーディアンズ管理システムで処理されているデータは、召還者の情報、転移されたSUVウェポンの種類、履歴に至るまで巧妙に偽装されたデータであった。

「ファイアーウォールが突破されて管理システムがクラッキングを受けています。SUV要請者、GSネットワーク内で特定できません」

転送装置で転移したと思われるSUVウェポンは正規の物では無い。解ったのはそれだけだ。

「埒が明かない、とにかくあそこへ行ってみようぜ!」

ビリーの意見にヘイゼルも頷いた。

転送紋が確認された地点は、ディ・ラガンにより木々が薙ぎ倒された先に有る。おそらくユエルも其処に……二人は樹林を走った。高速で過ぎる緑の景色の中に、違和感の有る緋色が交じる。ヘイゼルは一瞬、木立ちの間に立つ人影を見た気がした。

「!?」

装束かどうかは判断できなかったが、緋を纏った身躯、緋色の髪。身体つきから言って女性の物だったかもしれない。全てが緋で覆われた緋色の女。それは不快な薄ら笑いを浮かべていたような気がした。

「ビリー、今……」

足を止めずにヘイゼルはビリーに訊ねる。

「ああ……木立の中に誰か居たんだぜ」

やはり自分の見間違いではなかったのだとヘイゼルは思う。

だがこんな所で、一人で、誰が、何故?

あの女がSUVを召還したのか? と、すれば緋色の女はキャストと言う事になる。いや、そもそもあれは人だったのか? 幽鬼めいた、この世ならざる存在では無かったのか? 疑念は尽きない。しかし―――!

「今はそれどころじゃない筈なんだぜ!」

「そうだ、解っている!」

今はユエルを救う事が最優先だ!

 

走る、走る、走る、走り―――。

やがて二人は樹林を抜け平原に飛び出した。一瞬、眩しさに視界が眩むが、その白ずむ視界の中でヘイゼルは地面に横たわる少女の姿を発見した。

「ユエル!」

此処からでは彼女が無事かどうかは解らない。ヘイゼルは少女の名を呼びながら一目散に駆け寄る。ディ・ラガンにあれほど感じていた殺意は今は何処かに吹き飛んでいた。今はユエルの無事を確認する事しかヘイゼルの頭には無い。

「!?」

並走していたビリーが何かに驚き足を止めたが、ヘイゼルは構わず、地面に横たわったユエルの身体を抱き起こしていた。

「ユエル……」

ヘイゼルはユエルの全身をくまなく見渡した。彼女の身体には多少の擦り傷や、火傷の痕が有る物の生命に関わる負傷を負ってはいない。どうやら意識を失っているだけの様子だ。ヘイゼルは一先ず安堵した。

ユエルを介抱するヘイゼルから、少し離れた位置でビリーは立ち尽くしている。視線は二人を捉えていない。ビリーはイヤホンに片手を当てながら、携帯ビジフォンのカメラを周囲に向けていた。

「作戦室……見えるんだぜ?」

ヘイゼルは作戦室との通信を繋ぎ、カメラの映像を送る。その声色には戸惑いと驚愕の色が強い。

『―――はい、こちらも確認しております。ですが、これは……』

作戦室のモニターに送られる映像を見ながら、ルウも呆気に取られていた。

此処で何があったのかは解らない。

ただ、僅かな時間の内に異常な出来事があったのは想像に難くなかった。

目前に巨大なディ・ラガンの身体がある。本当に大きい巨体だ、記録される最大値を更新する大きさかもしれない。正直、このディ・ラガンと戦う気は起こらなかった。そのディ・ラガンの頭蓋は原型を留めぬほど変形していた。あれ程二人を苦しめた頑強な甲殻にも、いとも容易く無数の孔が開けられている。

 

煙を上げ燻ぶる肉の断面、夥しい血痕で染められた平原の大地―――。

 

ディ・ラガンは腹部から上の部分と下の部分、身体を腹部から断たれ、二つに分断され―――。

 

既に絶命していた。


 
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