突然天井から降ってきた血塗れの少女は、俺達には目もくれず、袁術と張勲を見据えていた。
「あは、あはははははははは!!!み~つけた、み~つけた!それじゃあさっそく壊そうっと♪」
そう言って少女は凄まじい速さで袁術達に飛び掛った。
が
ガキイイイイイン!!!
袁術達の前に飛び出した愛紗によって阻まれた。
「貴様!何のつもりだ!!」
愛紗は少女に怒声を上げる。が、それに対して少女はただ首を傾げただけだった。
「?何のつもりって?私ただお仕事をしようとしただけだよ?」
「仕事だと!?」
「うん、袁術と張勲を始末しろって♪始末するって壊せってことだよね?だから壊そうとしたんだ♪」
「「・・・!!」」
少女の言葉を聞いて袁術はおびえた表情をし、張勲はそんな袁術を抱きしめた。
「袁術と張勲の始末ですって!?何が目的でそんなことを!!」
「しっらな~い。私はただ与えられた仕事するだけだもん♪それよりそこどいてよ~。どかないとお姉さん達もこのお城の人達みたいに壊しちゃうよ~?」
「・・・この城の人間のように、だって?・・・まさか!!」
俺ははっとして少女の顔を見る。それを見た少女はにやりと不気味な笑みを浮かべた。
「うん♪そうだよ♪このお城の人達、私がみ~んな壊しちゃったの♪ねえねえ凄いでしょ~?凄いよね~?」
少女はまるで俺達に自慢するかのようにこの城の人間を皆殺しにしたことを認めた。
この子がこの城の兵士達を皆殺した張本人なのか・・・?あんなに、酷く・・・。
俺の頭には死んだ兵士達の死体の顔が次々と浮かび上がってきた。
目を刳り抜かれ、耳も鼻も削ぎ落とされ、凄まじい苦痛に歪んだ表情・・・。
思い出すだけで吐き気をもよおしてきた・・・。
それをこの子がやったのか。まだ幼げな、この子が・・・。
「・・・何故だ」
「へ?」
突然愛紗が低い声で少女に問い掛けた。
「何故あそこまで痛めつけて殺した?ただ始末するなら普通に殺すだけで充分であろう・・・。それを何故、あそこまで兵士達を、弄ぶように、わざと苦痛を長引かせるようにして殺した・・・」
愛紗の問いを聞いて、少女はきょとんとした表情を浮かべていた。が、やがて再び笑みを浮かべるとあっけらかんと返事を返した。
「そんなの楽しいからに決まってるじゃない♪」
「楽しい・・・だと?」
「うん、楽しいよ♪それにすっごく気持ちいいんだ~!!人を壊したりすると♪
切り刻んだり抉ったりしているともう濡れてきちゃうよ~!!ああ~~、それから抵抗してくる人を壊すともっと良いよ~~!あの悲鳴と鳴き声を聞いていたらすぐにイッちゃうんだ~~♪あははははははははははははははは!!!!」
そう言って笑う少女を、俺達はじっと見つめていた。
この子はどうかしてる・・・。人を殺すのが楽しいだって?人を切り刻むのが気持ちいい?ならあの兵士達はこの子の娯楽の為だけに切り刻まれ、弄ばれたっていうのか?
酷い・・・。酷すぎる・・・・。
「ねえねえ、早くそこ退いてよ~。私早くお仕事終わらせたいの~」
「ああ・・・、退いてやろう。ただし・・・」
少女の言葉に対して、愛紗は両手で冷艶鋸を握り締め・・・。
「貴様を斬り殺した後でな!!」
少女に向かって斬りかかった。
その速さはまさに神速と呼ぶにふさわしく、並みの武将なら一瞬で斬り殺され、たとえ雪蓮程の実力の持ち主でもかわすことは困難な一撃であった。
が
なんと少女は天井に飛び上がり、鉄の爪で天井に摑まって、その攻撃を回避したのだ。
「なっ!?」
「あはははははは!!!すごいすごいすご~い!!!あと少し遅かったら斬られちゃってたな~!!危ない危ない」
少女は天井に張り付きながらけたけたと何事も無かったかのように笑っていた。
一方の愛紗は自分の一撃をかわされたことに驚いている様子だった。
「でもなんでお姉さんは私を斬ろうとしたの?私、お姉さんに何もしてないのに」
「あいにくと袁術と張勲は我々が預かることになったのでな。捕虜になった者を殺させるわけにはいかん、それに・・・」
少女の問い掛けに対する答えを途中で止め、愛紗は少女に怒りの眼差しを向けた。
「兵士達を己の玩具のように弄び、惨殺する貴様のような外道、許すわけにはいかん!!この私が天罰を下してくれる!!!」
愛紗は冷艶鋸を少女に突きつけ、眼光鋭くそう言い放った。
常人ならば恐怖で動けなくなるその視線を受けた少女は、縮みあがる所か逆に笑い出した。
「あはははははははははははは!!!お姉さんおっもしろーい!!!それって私の邪魔をするってことだよね~?だったらお姉さん壊してもいいかな!!ねえいいかなあ!!!」
「ほう・・・この私を壊すだと・・・?面白い!出来るものならやってみろ!!」
少女の言葉を聞いた愛紗は、冷艶鋸を構えて少女を睨み続ける。
「ご主人様!!雪蓮!!蓮華!!袁術達と共に下がっていてください!!私はこ奴の面倒を見ますので!!」
「分かった、気をつけて!」
「御意!!」
愛紗の言葉を聞いて俺達は二人から離れる。
「一刀、関平は大丈夫かしら・・・、あの女の子相当な強さよ?」
「ああ、分かってるさ。でも関平なら大丈夫さ、きっと」
そう言った俺の目の前で、二人の死闘が始まった。
関平side
「あはははははははは!!!それじゃあいくよ~~!!!」
そう叫んだ少女は私に向かって飛び掛ってきた。
・・・速い!天井と重力を利用したか!
私はその一撃をかわすと冷艶鋸をその少女に向かって振り下ろした。
が、奴はまるで蛇のように私の刃を潜り抜け、鋭い鉄の爪で私を突き殺そうと迫って来る。私はそれを自身の重心を踵にかけ、横に回避する。私の回避したすぐそこを、鉄の爪は通り過ぎた。
私は冷艶鋸を横殴りに奴に叩き込む、しかしこれも後ろに飛ばれてかわされた。
そして奴は壁を蹴って私に飛び掛り、その爪で私を引き裂こうとする、が、間一髪冷艶鋸が間に合い、鉄の爪と冷艶鋸が擦れ合うだけで済む。私は冷艶鋸で相手を押し返し、そいつはバックジャンプで私から距離をとった。
「あははははははははははは!!!!!最高だよ最高ゥゥゥゥゥ!!!もう最高にイッちゃってるよおおおおお!!!!」
そいつは恍惚とした笑みを浮かべて狂ったように笑い出した。
くっ、どこまでも不気味な奴だ・・・。
「やっぱり戦うって最高だよおおおおお!!!弱い人達壊しちゃうのも気持ち良いけど、強い人と命がけの戦いするのはもっと最高!!!もう絶頂な気分だよおおおおおお!!!!!」
そいつは口から泡を飛ばしながら狂ったかのように・・・いや、既に狂っているのかもしれないが、そんなことを捲し立てる。
・・・何が気持ち良いだ・・・。人を殺してそんなことを感じるものか・・・。
私はいままで多くの命を奪ってきたが、後悔と懺悔の念は抱くものの、気持ち良い、楽しいなどとは考えたことも無い。
そんな私の考えてることは知らず、そいつはなおも笑い続ける。
「もっとイかせてよおおおおおお!!!!いっその事殺してええええ!!!!その鉄の塊が私の体に突き刺さること考えたら・・・・ああ・・・濡れてきちゃうよおおおお・・・・」
「ふん、そんなに殺されたいのなら、望みどおりにしてやろう!!」
私はそう言い放ち、奴に向かって突きを放つ、が、やはりというべきかかわされた。
しかし
「甘い!!」
当たる瞬間に腕を捻り、奴に向けて刃を叩き込む。そいつは体を捻ってかわそうとしたが、わずかに遅い!
敵を切り裂く感触がしたが・・・、浅かったか。
私が敵に目をやると、そいつは自分の腕から出ている血を不思議そうに眺めていた。
・ ・・血の量からして、せいぜい掠った程度か・・・。
「驚いちゃったな~」
そいつは自分の腕の傷を見ながらそう呟いた、が、すぐに血をべろりと舐め取ると、にやりと再びあの不気味な笑みを浮かべた。
「でもよかったな~~♪ああ~痛いな~。でもこの痛さがたまんないよおおおおお・・・・。
ねえ、もっと、もっと味あわせてよおおおお!!!」
「いいだろう、そんなに望むのならば嫌というほど味あわせてやろう!!」
私はそう言って自分の獲物を構えるが、少女は突然動きを止めて別の方向を見つめている。私も少女の見つめている方向を見ると、そこには一羽の鳩がいた。よく見ると何か紙を持っている。
「?なんなの~、一体~」
と、突然鳩が少女に向かって飛んできて、その掌に紙を落とす。少女は、その紙を開いてしばらく見ていたが、やがてその紙を放り投げて一瞬でばらばらにした。
「あ~あ、残念、ここでお終いだよ~」
「何、どういいうことだ!?」
「仕事はいいから戻って来いって。だからここでお終いだよ~。ああ~つまんないの」
そう言って少女は天井に張り付き、ヤモリのごとく天井を這って、天井に開いた穴に入り込んだ。
「な!?き、貴様逃げるのか!!」
「しょうがないじゃない~。私だってもっとやりたかったのに~。次はもっと楽しもうね、お姉さん♪」
「な!?だ、だれがお姉さんだ!!というか貴様、何者だ!!」
私の言葉を聞いた少女はしばらく黙っていたがやがて笑みを浮かべて口を開いた。
「私はあ・・・劉表七旗将の一人、『狂将』張允っていうの~、今度は、もっと楽しませてよね、天将さん♪」
その少女、張允は笑みを浮かべて名を名乗った後、天井裏に隠れて姿が見えなくなった。
???side
「たっだいま~♪」
「なんだよ、随分とご機嫌そうじゃねえか」
戻ってきた張允をみて、待っていた男は少し目を細めた。張允はそれを見て笑いながら答えた。
「あはははははは!!だってね、噂の天将って人と戦ったんだよお!?もう最高にイきまくっちゃったよおおおお!!!」
「あ~はいはいそれは良かったな」
「それよりクロさん、例のあれは?」
張允の質問を聞いた男はぎろりと張允を睨み付けた。
「その呼び方はやめろっつってんだろうが!・・・もう回収した。あとはさっさと帰るだけだ」
「そっかあ~、それじゃあ早く帰ろう、黒刃様!!」
「はいはい、とっとと帰って親父に文句でも言うかね・・・」
そう呟いて男、黒刃は張允の後を付いていった。
一刀side
「関平!大丈夫だった!?」
俺はそう言って愛紗に駆け寄る。愛紗は俺を見て、にっこりと笑みを浮かべた。
「ご主人様!ええ、何とか無事です!」
「そっか、良かった・・・」
愛紗が大丈夫そうなので、俺はひとまず安心した。
「関平!大丈夫そうね!よかったわ」
「ああ、無事で何よりだ」
雪蓮と蓮華も愛紗に労いの言葉をかけてくれた。愛紗はそれに対して会釈して礼をした。
「それにしても・・・何者だったのかしら、あの子」
「はい、あのような残酷な事をしたのならば、相当な外道であることは確かでしょうが・・・」
雪蓮と蓮華がそんなことを話している。どうやら二人とも、あの死体を見たみたいだな。
「なあ愛紗、あの子の正体について、なにか分からなかったか?」
「はあ・・・確か劉表七旗将の・・・張允とか言ってましたが・・・・」
「!?りゅ、劉表七旗将ですって!?か、関平、それって本当!?」
「は、はい、確かにそう言ってましたが・・・」
愛紗の言葉を聞いた雪蓮は突如黙り込んでしまった。
「あの・・・お姉さま?」
「・・・まさか、劉表七旗将が出てくるなんて・・・くそっ、劉表め・・・」
蓮華の心配そうな声に対して、雪蓮はなにやらぶつぶつと呟いていた。
しかし、劉表、か・・・。
まさかあの人が介入してくるとはな・・・。
おそらく袁術に玉璽を渡して皇帝になるよう唆したのは劉表だろう。
わざわざ袁術に刺客を送ったのも玉璽の事を口止めするためだとするなら説明が付く。
でも何でそんな回りくどい事をしたんだ?袁術を潰すのが目的なら自分から攻めればいいのに・・・。
いくら考えても答えは出ないのでとりあえずこの件については保留にした。
雪蓮はまだどこか納得がいかない顔をしていたけど・・・。
その後、俺達は袁術と張勲を捕虜にして、自軍の陣地に連れて帰った。
こうして袁術との戦いは終わり、孫呉は独立を勝ち取った。
しかし
ある一報が俺達を震撼させることとなった。
それは
「南陽が劉表軍の手に落ちた」という知らせだった。
???side
「ふん、案外簡単に落ちるものだな」
その女性は降伏した南陽の守備兵を見据えながらつまらなそうにそう呟いた。
その女性は、均整のとれた体をしており、腰には二対の双剣をさしている。
女性の髪の毛は美しい銀色をしており、瞳は紅玉のように真っ赤であった。
「兵の指揮が落ちていたからでしょう。既に賊軍とされた袁術の為に戦う者など、そうはおりますまい」
女性の後ろでは、蒯越が無表情で女性にそう説明した。それを聞いた女性は笑みを浮かべた。
「まあいい。これで南陽は手に入り、荊州全土は全て我らのものとなった。黒が偽の玉璽を回収してくれば、完璧だ」
「は、それにつきましては、既に回収は完了したとの知らせが入りました」
蒯越の知らせを聞いた女性は、より笑みを深めた。
「ならば上々、我等もそろそろ父上の下へ戻るとするか」
「はっ、朱刃様」
女性の、朱刃の言葉を聞いた蒯越は返事をして、彼女の後に付いていった。
あとがき
いつも私の作品をご覧になってくださってる皆さん、こんにちは。真・恋姫第三十四話
更新しました!ようやく袁術編も完結致しました。まあ物語そのものはまだまだあるんで
すけど・・・。さて、今回ようやく例の残虐少女の正体が明らかになりました。
性格はとにかく残酷の一言、人を痛めつけて、苦しませて殺すことに快感を見出す頭が
少々逝っている女の子です。ただその実力は恋並の為、主に敵の重要人物、敵将の抹殺が
任務です。あと、今回の話に出てきたオリキャラ二人については、まあ文章から推測して
ください。
さて、次は少々番外編をはさんだ後に、少しばかり拠点編を書くつもりです。
支援してくださってる皆さん、そしてコメントを下さる皆さん、これからも私の作品を、
楽しんで読んでください!ではこれにて!
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いつもご覧になってくださる皆様、お待たせいたしました。ようやく袁術編、完結です!自分で言うのもなんですがよくここまでこれたものだと思います。では、どうぞご覧下さい。