No.175721 PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)④】2010-10-01 01:57:54 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:781 閲覧ユーザー数:778 |
腹に響く爆発の衝撃が空気を震わせる。
「ユエルさん、ヘイゼル様の所に戻りましょう。今ならまだ二人の応援に間に合うですよ!」
ジュノーがそう言ってユエルの腕を引っ張った。
「うん、そうッスね……でも……」
心惹かれる誘惑の言葉に一瞬躊躇したが、ユエルは自分の気を落ち着かせるように瞳を閉じた。
ヘイゼルは優しい人だ。戻れば彼はきっと自分達の事が気に掛かり全力で戦えない。
レリクスでの一件を思い出す。襲い掛かってきたゴルモロから、ヘイゼルは身を挺して自分を庇った。あの時は自分が所持していた片手杖の暴走により事なきを得たが、そんな偶然がいつも起こるとは限らない。そして偶然が起こらなければヘイゼルがどうなっていたのか……それは想像したくなかった。
今回の敵はゴルモロのような小型エネミーではなく、"リンドブルム"種。パルムの原生生物の頂点に君臨する獣王、ディ・ラガンである。ユエルが戦った事の無い強大で未知の敵。意地を張ってヘイゼルに付いて来たものの、果たして自分がまともに戦えるかどうかの自信は正直無かった。
『―――お前に覚悟はあるのか?』
ヘイゼルは問う。
考えた事が無かった"覚悟"の意味。ガーディアンズとして戦う事だけが"覚悟"では無い。その"覚悟"は死すら内包した意味の"覚悟"だ。
死は恐ろしい物だ。自分を失う事、その先にある物が不確かだからこそ人は死を恐れるのだろう。
だが今の自分が恐れるのはそれだけでは無い。恐れるのは自分がヘイゼルの足をひっぱる事。だから戻れない。戻る訳には行かないのだ。
「今の私は役立たずッスよ。二人の力にはなれそうも無いッス……。でも心配は要らないッス! あの二人強いから……きっと、きっと大丈夫ッスよ……」
まるで自分に言い聞かせるようにジュノーを諭し、ユエルは野営基地へ戻る道を進み続けた。
ディ・ラガンとヘイゼル達の戦闘は長期化の様相を呈していた。
二人が攻撃を続ける羽と脚部への攻撃は、共に有効なダメージソースとはならず決定打を欠く。
執拗さに流石に嫌気が差し、ディ・ラガンが空に逃れ上空からの火球、ブレスによる攻撃に手段を移すが、その攻撃は二人に容易く避けられてしまう。ヘイゼルは攻撃を銃に切り替え、比較的装甲の薄いディ・ラガンの腹部を狙って射撃を行い。一方のビリーはディ・ラガンをおちょくるように鼻先を狙撃する。怒ったディ・ラガンが再び地上に降りると、二人は再び同じ位置へ移動し羽と脚部への攻撃を続ける。その作業的な流れが、いつ果てるとも無く繰り返されていた。
しかし、ヘイゼルの長槍は相変わらずディラガンの装甲を貫ききれない。突き込んだ長槍の柄を握る手が"ずるり"と滑り、ヘイゼルの掌に生じた肉刺が潰れ血が滲む。
「クッ!」
ヘイゼルは一瞬痛みに顔をしかめた。
「呆れるほど堅えな、この化け物が……ッ!」
ガーディアンズの中にはディ・ラガンを軽くあしらう猛者も居ると聞く。名高い英雄達の伝説(エピソード)。ビリーはどうだか知らないが、自分にそんな実力は無い事をヘイゼルは良く知っていた。皮肉交じりの薄笑いでヘイゼルが口の端を吊り上げる。
「だがな……!」
歯を食いしばり痛みを堪え、槍の柄を握り締める。
「この世に不死身(イモータル)の怪物なんて居ねえんだ……! みっともなかろうが、諦めが悪かろうが、知った事か! 凡人の意地ってやつを見せてやる!」
渾身の力を込めた"ドゥース・ダッガズ"、地を這う者の意地を込めた執念の連撃。
だが、変化は無い。全ての攻撃は厚い装甲に弾かれる。
意地も執念すらも効果は無いと言うのか!?
不意に乾いた音を立ててディ・ラガンの甲殻に亀裂が走った。
涓滴岩を穿つ。
水の滴さえ、繰り返す事で固い岩に穴を穿つ事が出来る。
繰り返し与え続けた衝撃で、ディ・ラガンの甲殻に疲労破壊が起こったのだ。
手応えを感じたヘイゼルは一度後方へ飛び退くと、再度止めとばかりの三連突きを亀裂目掛けて突きこんだ。
「おおおぉぉぉッ! 貫け―――ッ!」
甲殻が弾け飛び、遂にディ・ラガンの分厚い装甲が破断する。破断した甲殻の隙間からは、赤い筋肉組織が覗いていた。
「ビリー! 破壊完了だ!」
ヘイゼルがビジフォンを通しディ・ラガンを挟んだ反対側に居るビリーへ呼びかける。
「OK! 相棒、今……」
ビジフォンを通してノイズの混じったビリーの声が聞こえる。
ビリーはライフルを撃つ手を休めると、ジャケットの内ポケットからジュースの缶状の物体を取り出し、地面に落とすと蹴り飛ばした。
「……そっち行ったんぜ!」
蹴り飛ばされた物体はディ・ラガンの腹下を通過し、狙い通りにヘイゼルの足元へ転がって来る。
トラップデバイス "バーントラップG" 任意起爆型の小型爆弾である。
ヘイゼルは右手で掬うようにそれを拾い取ると、ディ・ラガンの砕けた甲殻から覗く筋肉組織目掛けて投げつけた。
「ビリー、今だ!」
ビジフォンに向かって叫び、ヘイゼルが身を投げ出すと同時にビリーが起爆スイッチのボタンを押した。
爆発と共に盛大な炎が上がる。
同時にビリーが撃ち続けた羽の骨格にも亀裂が走り、自重により圧し折れ始めた。
「グガアアアアアア―――ッ!?」
折れた羽に引っ張られ、バランスを崩したディ・ラガンが絶叫を上げながら横倒しに倒れる。派手な地響きと砂煙が上がり辺りに広がった。
「機動力を断った……」
身を起こしたヘイゼルが水平に構えた長槍を返しながら言った。
「制空力を奪ったんだぜ!」
ビリーがライフルのボルトを引き、PPシリンダーを排出しながら言った。
空を支配する獣王も羽が折れれば飛べない。
後ろ脚に致命的な負傷をしては移動もままならない。
どんな強大な敵も、行動力さえ奪ってしまえば恐れる事は無い。
二人の狙いはこれにあったのだ。
ディ・ラガンは苦労して身を起こすと、獣王の誇りを捨てて二人に背を向け逃走をし始めていた。その姿は滑稽でもあり、また哀れでもある。最早、ディ・ラガンを待っている運命は決していた。獲物を嬲るハイエナのように、ヘイゼルとビリーはジリジリと堕ちた獣王を死へと向けて追い立てていった。
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EP09【Assault of the Diragan ④】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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