No.175088 PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)②】2010-09-27 21:45:08 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:795 閲覧ユーザー数:792 |
「明日は我が身とならない事を祈るんだぜ……」
遺体の前でビリーは両手を合わせ黙祷を捧げる。この祈りの形はグラール教団の信徒が用いる様式だ。
「ビリーさんはグラール教の信徒なんですか?」
それを見てジュノーが不思議そうに首を傾げ、ビリーに訊ねた。
「俺かい? 俺はバリバリのロッカーなんだぜ」
いや、意味が解らない。解らないがジュノーもそれ以上突っ込む事は無かった。
「まあ、形だけでも弔ってやらないとな……可哀想だろ?」
手を合せたまま、ビリーはジュノーにウィンクして見せると、「そうですねぇ……」と頷いてジュノーもビリーを真似て両手を合せ黙祷をする。
祈りを終えると死体回収用のNT(ナノトランス)ボディ・パックのデバイスをビーストの遺体のすぐ傍に設置する。大きさは煙草の箱程、装置を起動させるとフォトン粒子が遺体を包み、ボディ・パックの中に収納されていく。
ナノトランサーを人へ使用する事は原則として禁止されているが、死亡した人間に限って許されていた。
「遺体の回収、済ませたんだぜ」
ビリーが遺体を発見、回収作業を済ませた事を通信でルウに報告する。
『ご苦労様でした』
ルウはその報告を作戦室でモニターしていた。彼等の動向は概ね把握している。
「だが、死体は一つきりだ。周囲を探して見たが他のは見当たらないんだぜ」
『そうですか……先程、お話しした遺体からビジフォンは回収して頂けましたか?』
「ああ、回収したんだぜ」
ビリーは右手に目を落とした。その手には遺体が握っていた携帯ビジフォンが握られている。救難信号を発していたのは、おそらくこの端末だ。しかし……。
「でも、この端末、バッテリー切れちゃってるぜ?」
『そのようです……。今回の任務はPMが同行しておりますよね?』
ルウの問いにビリーは一度、ちらりと傍らのジュノーに目を移す。彼女は"私ですか?"と言いた気に目をパチクリさせていた。
「ああ、ヘイゼルの所のGH-450がいるんだぜ」
『では、その子のフォトンリアクターから電源を回して、携帯ビジフォンに接続してみて下さい』
(なるほど、流石はガーディアンズの頭脳……その手があったんだぜ)
ビリーはルウの提案に舌を巻いた。
「解った。ジュノー、PS-USBケーブルを出すんだぜ!」
「はいです!」
ジュノーは後ろ手にスカートの中に手を回すと腰の辺りからケーブルを引き出し、先端のコネクタをビリーに差し出す。
PS-USBはデータ転送を行うと共に、電源供給も可能なバスパワー規格を有する汎用バス・インターフェースである。
「頼むから壊れてませんように……」
それを受け取り、ビジフォンに繋ぐとビリーは電源を入れた。数瞬の沈黙の後、OSの起動画面が立ち上がる。
「OK! 上手くいったんだぜ」
『では、端末のデータ履歴から情報を復元します。GH-450"ジュノー"、データ転送の中継をお願いします』
「かしこまりましたです!」
ルウとジュノー、二人の"機能(力)"により、故人が遺した携帯ビジフォンの画面にPT情報が復元される。そのマーカー・シグナルは行動を共にしていたメンバーの現在位置を示している筈だ。
表示されたマーカーは、ビリーが手にしている物を含めて五つ。その内、二つが離れた地点に隣接するように点滅している。しかしマーカーの横には"DEAD"の文字が記されており、既に死亡している事が見て取れるのだが、残り二つのマーカーは重なりあって点滅していた。縮尺の為、表示精度は十メートル程の誤差はある筈だが、それよりも不思議なのは、この二つが移動している事だ。
「移動してる……生存者がいるんだぜ?」
いや、そんな筈は無かった。移動しているマーカーの横にも"DEAD"の文字が無情に表示されているのだ。
「……どういう事なんだぜ?」
『おそらく、それが今回の目標であるディ・ラガンです』
ビリーはルウの言葉に一瞬眉をひそめたが、ある事に思い当たった。
「なるほど……腹の中って訳なんだぜ?」
『貴方が頭の回転の速い人で助かります』
ルウはビリーの洞察力を控え目に称えた。
「解ったぜ、このマーカーシグナルを俺達のナビゲーターに転送してくれ。追跡して目標のディ・ラガンを討つ、敵討ちと行こうぜ!」
『ナビゲーターの設定ポイントを変更しました。引き続き作戦目標のディ・ラガン排除をお願いします』
―――system scan complete. personal "Juel" boot up―――
目を開けると優しい榛色の瞳に見つめられていた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、再起動を完了したユエルが目を覚ます。
「やっと気付いたか……」
ヘイゼルは安堵したのか小さく息を吐く。ヘイゼルの感情の機微は殆ど目に見えない物だが、ユエルは最近になってやっとヘイゼルの感情が何となく解るようになってきていた。
「あれ……私は何を……?」
ユエルは頭を片手で押さえながら上体を起こす。タスク処理に混乱があるのか情報処理に鈍さを感じる。
「確か……ヘイゼルさんに休憩を取るように言われて……あ、あれ?」
「憶えて無いのか?」
怪訝そうな表情を浮かべるヘイゼルの問いに、ユエルはふと思い出した。
ヘイゼルの後を追い、そこで目にしてしまったビーストの死体。
それを見て……見て……見て?……失神してしまったようだ。
納得がいかない、自分の記憶に戸惑いがある。
何かが……何かが引っ掛かっている。
「……ユエル、やはりお前は帰れ」
唐突なヘイゼルの言葉がユエルの意識を現実へ引き戻す。彼女は慌てて顔を上げた。
「そんな!」
「死体をくらいで卒倒する奴が、この先ディ・ラガンと戦える訳が無い」
「……!」
「ユエル、お前に覚悟はあるのか?」
二の句が継げないでいるユエルに、ヘイゼルが問い掛ける。
『ヘイゼル、君の"守るべきもの"は……見つかったのか?』
その姿が何故か、あの時ヘイゼルに問い掛けたダルガン総裁の姿とだぶって見えた。
『ユエル、お前に覚悟はあるのか?』
ヘイゼルはユエルへ問う。
ユエルは"ガーディアンズ"の『グラールの平和を守る』という理念、現実を覆い隠した上辺の奇麗事しか見ていない。
彼女の瞳は、明るい世界しか映していない。それは世間知らずで稚拙な視野だ。
"ガーディアンズ"に籍を置くという事は、生易しい物ではないのだ。
ガーディアンズとして『闘う』覚悟、それは己の死をも享受するという事。
先ほど目にしたビーストの死のように、任務の果てに無様で醜い骸を晒す事になろうとも後悔をしない、それが―――。
ガーディアンズであると言う事。
「お前にその覚悟は無い……だから帰れ」
一方的な断定にユエルも感情的になり言い返す。
「じゃあ、それがヘイゼルさんにはあるッスか? 望んでガーディアンズになったわけじゃないヘイゼルさんに!」
死体処理と、ルウとの打ち合わせを終えたビリーとジュノーが戻って来たが、二人の徒ならぬ雰囲気に思わず足を止めていた。
一瞬、言葉に詰まったヘイゼルだが、彼の返答は自分でも驚くほど、すんなりと口から飛び出した。
「……覚悟は無い!」
断言するヘイゼルにユエルは言葉を失う。
「俺にあるのは諦めだけだ……だから俺は戦える」
ユエルは緋色の女性キャストから聞かされた話しを思い出す。
ヘイゼルの転落した人生―――。
ただ、決められた道の上を歩き続けるしかない奴隷の人生―――。
生きる事に意味を見い出せない人生―――。
ユエルはヘイゼルの瞳の中に暗い影を見た気がした。
その暗い色に一瞬返す言葉を失う。しかし彼女も引くわけにはいかなかった。
「だったら私にだって……!」
「もう良い」
そんなユエルの言葉をヘイゼルは遮った。
「これ以上議論する気は無い……お前は帰るんだ」
一方的な断絶の言。
断ったのは二人の繋がり。
堪えるが涙が溢れる。
ユエルはヘイゼルに背中を見せると声を殺し肩を震わせ泣いた。
見兼ねたビリーがユエルの肩に手を置き、彼女を慰める
「ユエルちゃん……あいつは君の事が心配で、ああ言ってるだけなんだぜ」
それは解っている。ヘイゼルさんは優しい人だから……。
だから、ユエルはヘイゼルの力になれない事が悔しくて泣いているのだ。
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EP09【Assault of the Diragan ②】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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