「おまえら,ずいぶんと気持ちよさそうじゃないか」
あたしの眼の前では,真っ白な毛並みに,ところどころコバルトブルーの模様をつけた白ネコが,のんびりとうずくまっている。
「そんなに暇なら変わってやってもいいんだぞ」
振り返れば,後ろのベンチでは,白というよりシルバーに近い毛並みをした猫がおなかを向けて寝転んでいる。
……なんというなごみ。
こちとら,初夏の熱い日差しの中,せっせとお庭の掃除にいそしんでるというのに。
「……本当におまえらをみてると働くのがむなしくなるぞ」
あたしの気持ちなんてどこ吹く風。
さっそうと前を横切る黒猫の優雅さは,かわいそうなあたしを一層哀れにするかんじ。
日差しが強いから,せっかくの真っ白に透き通った(笑)白いお肌がやけちゃうとか。
お気に入りの黒いパンプスがさっきっから水に浸っていることとか。
頭につけてるメイドのカチューシャについてる,ピンと一本伸びた飾りが馬鹿らしいとか。
そもそも,なんでこんなメイドメイドした格好しなきゃいけないのとか。
そんなあたしの憂鬱とはまったく関係なく,こいつらは勝手気ままに動き回ってる。
「……ま,それが猫なんだけど」
どーでもいいけど,さっきからあたし,独り言多いよね。
こんな可憐でうら若き乙女が,貴重な青春をメイドなんてすごく地味な仕事で費やしているから仕方ないのかもしれないけど。
「……ふう……」
やる気が著しく減退して,あたしは空を見上げる。
蒼い空。澄んだブルー
照りつける太陽は,眩しいけど,でも,心地よい。
暑いといえば暑いけど,光の粒子一つ一つがあたしの体を芯からあっためてくれる,そんな感じ。
うん,まあ,いい気持ち,だよね。
小高い丘に建てられた洋館。広い庭には,水辺と大理石によるアートとそれを眺めるベンチ。
そして,どこからともなく集まってくる猫たち。
街からはちょっと離れてるし,広いから掃除は大変だし,主はメイドメイドな格好させるし,不満がないわけじゃないけれど。
それでもあたしはここが好きだ。
ここで働くのは悪くない。
「…だったら,早いとこ,庭の掃除を片付けてくれると嬉しいんだけどな」
あたしはその声を聞いて,もう一つ不満を思い出した。
主がもっと優しくてかっこよかったらいいのに。
「……無視するなんてつれないなぁ。ねえ,ヴィクトリア」
だから,その昔の名で呼ぶなと言っているのに。
今はもう,あたしはメイドなんだから。
しかし,ま,そんなヤツでも,主は主。
ここはひとつ,メイドとしての定番でお答えしなければなるまい。
「わかりました。ご主人様」
振り返ったあたしの言葉を聞いて,主は優しくほほ笑むのだった。
その顔がちょっとステキに見えてしまったのは,あたしだけの秘密にしておこう。
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ツンデレと金髪とメイドって,意外と相性良いと思いません?
これはそんなお話し。