「あの…私の顔なんか変ですか……?」
別そういうわけじゃない。
ただ,メガネをかけているのが珍しかっただけだ。
「……やっぱり,似合わないですか?」
自分でも違和感があるのか,右手でメガネの縁を持ち上げるあゆみ。
俺より身長が低いからって,そうやって上目遣いで俺を眺めるのはやめてくれ。
平静でいられる自信がない。
「……やっぱり…コンタクトにしようかなぁ……」
いや,それは無理だ。
目薬だって怖くておっかなびっくりでしかさせないお前が,瞳にコンタクトを入れるなんて絶対不可能だ。
「……うぅ~やってみなくちゃ分からないじゃないですか」
そういうのを無駄な努力というのだよ,あゆみ。
「……もう,裸眼でいようかな。今までも平気だったし」
視力0.3は,裸眼で生活できるぎりぎりのレベルだと思うぞ。
お前だって喜んでたじゃないか。『わあぁ,こんなによく見えるんですね』って。
「それはそうだけど……ね,なお君,ほんとに私変じゃないんですか?」
だから,上目遣いをやめてくれって。
「……もう,答えてよ。私,真剣なんですから」
正直に言ってしまっていいものだろうか。
それはそれで何かが変わってしまうような気がする。
「……なお君,答えてってば」
でも,ま,代わりに新しい何かが始まるのだろう。
それも悪くない,よな。
「わかったよ。正直に言う」
言って俺は立ち止った。
あわててあゆみもその歩みを止める。
「――いい」
「え? 何,なお君」
いざとなると,声が出ないものだな。
「――わいい」
「え? え?」
声が聞こえなくて近寄ってくるあゆみ。
こいつ,こんなに甘いにおいがしたっけか?
などと考えながら,俺はいい加減覚悟を決める。
「めちゃくちゃ可愛い!!!」
「!!??」
思ったより声が出てしまったようで。
あゆみの動きが一瞬止まる。
キョトンとして,やがてほほがだんだんあかくなって,うつむいて,気づけば耳まで朱に染めて。
そのあゆみの姿をみて,俺の中で完全に何かがはじけた。
「……ひゃ」
思わず伸びてしまった腕が,いつものようにあゆみの頭をなでている。
突然でびっくりしたようだけど,嫌がる様子はなかった。
「ほら,いくぞ,あゆみ」
ひとしきり頭をなでていた俺だったが,いい加減いたたまれなくなって,強引にあゆみの手を引っ張ると,また歩き味める。
あゆみは何も言わなかったけど,俺が掴んだ手を弱弱しく握り返してくるのだけは,はっきりとわかった。
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甘い。ただそれだけ。
こんな日々が送れた人は,幸せなんじゃない?