第二十一章「歌姫達」
「雫のやつ。気に入ってくれるかな?」
朝、一刀はいつもよりも少し早く訓練場に来た。一刀の手には、雫に渡す為に真桜と一緒に作った刀を持っていた。
「それにしても、少し早く来すぎたかな」
「お兄ちゃん!!」
「雫。早いな」
「今日は特別な日なので、昨日の晩から全然眠れなくて」
「雫はまだまだ子供だな」
一刀が笑うと雫は何度も一刀の胸を叩いた。
「はい。これが約束の刀だ」
「ありがとうございます」
雫は一刀から受け取った刀を鞘から出した。
「お兄ちゃん。この刀には名はあるのですか?」
「刀身の下を見てごらん。名を彫ってあるから」
一刀に言われた通り雫は刀身の下の方を見た。そこには{風切}と名前が彫ってあった。
「風をも切り裂く刀。これから雫を守る唯一の武器だよ」
「大事にします」
「あぁ、大事にしてやってくれ。けれど、こいつの力を限界まで使ってくれ」
「はい」
二人はそのまま鍛錬を始めた。最初は風切の扱いになれずぎこちなかったが、時間が経つにつれ、それも無くなった。
ガチン ガチン ガチン
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
「フゥ~~~。今日はここまでにするか?」
「いえ。まだできます」
「なら、次が最後だ。こい!!」
「はい。ハァァァァァ」
ガチン!!
「勝負ありだな」
雫の喉に一刀の斬月が突きつけられた。
「・・・ありがとうございました」
「うむ。どうだ風切は?」
「すっごくいいです」
「ならよか「いた~~」!?」
一刀と雫が声の方を振り向くと。そこには地和が立っていた。
「一刀。どうして遠征から帰って来てすぐに、ちぃに会いに来なかったの?」
「ちぃ姉さん。ちぃにじゃなくてちぃ達にでしょう」
「そうだよ。お姉ちゃんだって、一刀に会いたかったんだから」
地和の後ろから天和、人和が出てきた。
「三人とも久しぶりだね。ごめんな、昨日は忙しくて会いにいけなかったんだ。けど、今日は非番だから三人に付き合うよ」
「本当!!」
「なら、一刀。今から一報亭にご飯食べに行こう」
天和が一刀の右腕を取り連れて行こうとした。
・・・あの~~、天和さん。腕の間に柔らかい谷の感触が
「ちょっと、天和姉さん!!」
「ふ~~~んだ」
「あはは。ほら三人とも早く一報亭でご飯食べに行こう」
一刀は三人を連れて一報亭に向かった。
「雫は、蚊帳の外ですかお兄ちゃん」
雫がその時、張三姉妹に悪意を持ったことは言うまでも無い。
「華琳様。これが昨日私と一刀が共に過ごした報告書です」
華琳は秋蘭から報告書を受け取るとすぐに中身を見た。
「・・・食事に調練と中々楽しい一日を過ごしたようね。秋蘭」
「・・・はい」
秋蘭の顔が少し紅くなったのを見て、報告書には載ってないが、朝まで一刀と一緒にいた事を察した華琳は、報告書を机の上に置いた。
「今日は馬車馬のように働いてもらうわよ。秋蘭」
「・・わかりました」
「おい。あれってまさか、天和ちゃん達と北郷将軍じゃないか?」
「本当だ。どうしてあの四人が一緒に食事しているんだ」
「あぁ・・。また北郷将軍の悪い癖が、俺達の歌姫にも」
一刀と天和達が食事をしている所を見て街の人、とくに男性の人らがヒソヒソと話をしていた。
「なんか見られて無いか、俺達」
「そう?」
「一刀さんは大陸中に名を轟かせた陳留の英雄ですし、私達も数回公演していますから。それなりに」
「そうか」
「そうだ。ねぇ、一刀。今晩私達事務所で、公演するから見に来てよ」
「そうよ。一刀はちぃ達の護衛なんだから公演を見るのはあたり前よ」
「う~~~ん。なら、最前列の場所をとってくれないか?」
「わかった」
夜、一刀は自分の部下を連れて公演場所まで来ていた。
「本当によかったのですか~~?お兄さん」
「ん。なにが?」
「何がって。風達がお兄さんと一緒に付いてきて」
「いいよ。折角最前列で天和達の歌が聞けるんだ。皆と聞いた方が楽しいだろ」
「しかし、警備のほうは?」
「そこは凪達。警備隊の方でなんとかするはずだよ。それに、何かあったら俺達でなんとかするよ」
「そこまで言うのでしたら」
稟達、軍師組みは納得し公演席の最前列の場所の予約席に座った。一刀達が座った後から天和達のファン達がぞろぞろと入って来て、半刻もしない内に会場の周りは人で一杯になった。その様子を舞台の裏から天和達が覗いていた。
「天和姉さん。一刀来ている?」
「来ているよ。今日は一刀のために精一杯歌おう」
「オウ」
「姉さん達。始めるわよ」
「ちょっ、待ってよ。人和ちゃ~~ん」
「「「「ほぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
舞台が明るくなった途端周りにいた観客が一気に大声が出した。すると舞台裏から天和達が出てきた。
「みんな~~。お待たせ~~」
「「「「天和ちゃ~~~~」」」」
「今日もちぃ達の歌を聞きに来てくれて、ありがとう。それじゃ、いつものやるよ」
「「「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
「みんな大好き~~~!」
「「「「てんほ~~ちゃ~~~ん」」」」
「皆の妹」
「「「「ち~ほ~~ちゃ~~~ん」」」」
「とってもかわいい」
「「「「れんほ~~ちゃ~~~ん」」」」
「「「それじゃ、いくよ!!」」」
「「「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
「すごい活気だな」
「そうですね。私も噂は聞いていましたが、ここまでとは」
「ここまで五月蠅いと風は眠れないのですよ・・・・ぐぅ~~~」
「「「「寝るな!!」」」」
「おぉ。まさかのいつもの二人ではなく全員から突っ込まれました。これじゃ、稟ちゃんの存在意味が無くなってしまいますね~~」
「それはどうゆう事ですか、風」
「それはですね~~「二人とも、折角天和達の歌を聞きに来たんだから」わかりました」
「ちょっ、風」
稟の指摘も無視して北郷隊は全員天和達の歌を楽しんだ。
「みんな~~~。今日はありがとう~~」
「「「「ほわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
「次の曲で最後だけど。その前に皆に知らせておきたい事があるの~~」
地和の言葉に辺りはざわめき出した。
「今日は、陳留の英雄で曹操軍の懐刀の北郷一刀が来ているの」
「北郷さんと言えば、天の御遣いとも言われているのは皆知っているでしょう」
・・・嫌な予感がするぞ
「だから、今から天の歌を一曲歌ってもらおうと思いま~~~す」
「それでは一刀。舞台に上がってきて」
一斉に一刀に目が向けられた。一刀はその場から逃げようとしたが、両手を椿と涼風に抑えられていた。
「逃げるのはよく無いぞ。主」
「そうだぞ。北郷様」
「お前ら。これが終わったら覚えていろよ」
椿、涼風に無理やり舞台に連れて来られた一刀。すると一刀の下に何かが投げ込まれた。
「!?」
「隊長。それ、前に隊長が言うてたやつ。良かったら使って」
一刀は中身を空けてみると。その中にはギターが入っていた。
・・・確かに、この前真桜にギターのことを話したが、まさか再現されるとは。しかし今はありがたい
一刀は急いで音のチューニングをしてマイクの前に立った。
「え~~~~。では、恥ずかしながら一曲歌わせてもらいます」
「「「「おぉぉぉぉぉぉ」」」」
「(ジャン ジャン ジャン)ねぇ、大好きな君へ笑はないで聞いてくれ・・・・・僕は 君と愛を唄おう」
「「「「おぉぉぉぉぉぉ」」」」
「いいぞ。あんちゃん」
「すげ~。俺感動した」
「御使い様の歌を聞けるなんて、私達運がいいね」
「そうだね~~」
天和達の歌を聞きに来た観客のほとんどが一刀の歌に感動していた。その時天和達は少し複雑な気持ちになっていた。
「確かに、一刀の歌はすごかったけど」
「これはないんじゃない。これじゃまるでちぃ達が一刀のために場を盛り上げただけじゃない」
「これは予想外ね」
舞台から降りてきた一刀はすぐさま自分の席に座った。
「まさか、お兄さんがここまで歌が上手かったとは。風はビックリなのですよ」
「俺もビックリだよ。まさかここまで受けるとは思ってもなかったから」
「しかし、これから大変ですよ、一刀様。なんてって、これほどまで人気を取ったのですから」
「わかっている。しかし、これじゃ地和達に怒られるな」
「どうしてですか?彼女達が一刀様を舞台に呼んだのですよ」
「それでもだよ。なんだか俺が彼女達の舞台を取った気分だよ」
「一刀様は、優しいのですね」
「当たり前のことを言ったまでだよ。それじゃ俺は舞台裏に行って来るから、皆は先に帰ってくれ」
「わかりました」
一刀は舞台裏に行き。稟達は歌が終わり次第に帰って行った。
「三人ともお疲れ様」
「も~~~、最悪よ」
「ねぇ、一刀。これからご飯食べに行こう」
「う~~~ん、そうだな。今日は三人とも頑張ったから一報亭でご飯でも食べに行くか」
「やった~~~」
「もちろん。一刀の奢りよ」
「はいはい。好きな物を頼んでくれ」
「なら、早く行こう」
天和と地和が急いで着替えると二人は先に行ってしまった。
「人和は行かないのか?」
「一刀さん。一つお願いがあります」
「なに?俺が叶えるものならいいけど」
「それは・・・。私達に天の歌を教えて欲しいのです」
「どうして?」
「さっき初めて一刀さんの歌を聞きました。それは私達には無い音楽だった。愛に満ち溢れるような歌だった。だから「人和」・・!?」
一刀は叫ぶ人和を優しく抱き寄せ頭をなでた。
「大丈夫、君達はすごい。それは俺が、華琳が認めている事だ。だから自信を持って歌を歌えばいい。それに俺は歌を教えないとは言っていないからきちんと教えるよ」
「よろしくお願いします」
「あぁ・・・」
「あぁ~~~~」
「「!?」」
一刀と人和は叫び声を聞き急いで離れた。
「なかなか来ないから来てみれば。一刀。なに人和と抱きついているのよ」
「いや~~。それは・・・」
「しらない。今日は絶対に一刀の財布を空にしてやるんだから。覚悟してなさい」
「はいはい」
「わかったのなら、早く行く。天和姉さん待っているんだから」
「わかったよ」
「一刀さん」
「なに?」
「例の件。よろしくお願いします」
「おう」
一刀は急いで一報亭に向かった。
一報亭に着いた地和達は、高い料理ばかり注文したが、一刀の財布を空にする事はできなかった。
「一刀の財布の中は、一体いくら入っているのよ」
「ふふふ。それは秘密だ」
第二十一章 完
「第二十一章。終了。いやはや、まさか一刀がここまで歌が上手いとは」
「そうですね~~。種馬以外の大発見ですね~~」
「俺・・・一応主人公だよね」
「一刀様。今度私と一緒に・・・」
「稟さん。ずるいですよ。私が一刀様と一緒に歌います」
「何言ってるのですか。お兄ちゃんは雫と歌うのです」
「そ、その~~、お館。できればワタシと一緒に・・」
「へぅ~~。詠ちゃん。私達もご主人様と一緒に」
「え!!月。駄目よそんな事」
「でも~~~」
「なんや、隊長。大変な事になってるな」
「さすが種馬なの~~」
「コラ!!沙和、真桜。一刀様になんて事を」
「本当は凪が一番最初に言いたかったんやろ」
「凪ちゃんは乙女なの~~」
「ふ~~た~~り~~と~~も~~」
「え!!どうして、思っている事が凪ちゃんにばれたの?」
「それは、この世界が思っていることを相手に伝えるからです」
「そんなのきいてないの~~」
「第九章に言いました」
「そんな~~なの~~」
「それで。一刀はいったい誰と歌うのかしら?」
「華琳!!」
「だれとうたうのかしら?」
「・・・」
「え~~~と、皆さん。とりあえず、この辺で終わっておきませんか?続きはまた今度と言うわけで」
「・・・しかたがないわね。一刀。今度更新が合った時までに誰と歌うか決めておきなさい」
「・・はい」
「それでは皆さん。また会う日までBY」
「BY]
「「「「バイ」」」」
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平和な時間。一刀は久しぶりに張三姉妹に会う。これから始まる乱世の最後の一時と成るのか?