No.172488

Phantasy Star Universe-L・O・V・E EP06

萌神さん

EP06【序章の終焉】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-09-14 21:23:36 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:617   閲覧ユーザー数:610

『ガーディアンズ・パルム支部 二階 医療ブロック』

 

処置室前の待合席に、沈痛な面持ちのビリーとアリアがソファーに座っている。

アリアは深く俯き、ビリーは膝に立てた腕の指を組み、そこに顔を乗せ祈るように目を閉じていた。

もう何時間もこうしているような気がする。

前触れも無く処置室のランプが消え、処置が終わった事を無言で告げた。

処置室の自動扉が開き、白衣を着たモリガンが姿を現す。

「モリガン先生……」

ビリーが立ち上がり訊ねた。

「……どうでしたか?」

モリガンが深く息を吐き、重く口を開く。

「あいつは……」

再び処置室の扉が開き、中からひょっこりとヘイゼルが姿を現した。

「ん? 何だ、お前達、待ってたのか?」

「んぁ? ヘイイジェル……?」

ヘイゼルの声に、居眠りをしていたアリアも目を覚ます。

「よだれ、よだれ!」

ビリーに小声で言われ、慌ててアリアは口元の涎を拭った。

「先に帰ってても良かったんだぞ?」

「馬鹿野郎、お前の怪我ならいざ知らず、ユエルちゃんの事を放っては帰れないんだぜ!」

ヘイゼルの言葉にビリーが憤慨する。

「私は……その……心配だったから……」

アリアはごにょごにょと言葉を濁したが、ヘイゼルとユエルを一緒に残す事が心配だったのだろう。

「心配って言ったってなぁ……」

ヘイゼルが困ったように頭を掻いた。

「うぅ~……痒いッスよ~」

ヘイゼルの後に続いて、処置室から涙目のユエルが出てきた。

彼女の右手は、ぐるぐると包帯に覆われている。

「霜焼けで済んだだけ、有り難く思うんだね」

モリガンがポケットから出したメンソールに火を点けながら言った。

あの時―――。

ゴルモロの襲撃でヘイゼルが絶体絶命の危機に陥った、その時、突然ユエルが持っていたGRM社製 片手杖『ケイン』が暴発を起こしたのだ。

暴発した氷結のエネルギーは、瞬間的に強力な凍気を発生させ、一時的に罠(トラップ)の一つで、目標を凍結に至らせる、『フリーズトラップG』に酷似した現象を生み出した。

ヘイゼルに飛び掛かろうとしていたゴルモロは、瞬間的に凍りつき、ヘイゼルは危ういところを救われたのだ。

しかし、片手杖を持っていたユエルは、暴発の余波を受け、右腕だけ凍結に捲き込まれてしまった。

幸い大事には至らなかったものの、凍結された生体パーツが霜焼けを起こしてしまっていた。

「まあ、一番大きな怪我を負ったのが、ヘイゼル一人だけで済んで良かったじゃないか」

「……嫌味か?」

からかうようなモリガンの言葉に、ヘイゼルがムッとした表情を見せ、その予想道りの反応が可笑しくてモリガンは笑う。

「まあ、全員無事が一番さ。……さてと、私は患者の巡回もあるから、今日はこの位にしてくれないか?」

「ですよねー。じゃあ先生、ご面倒をお掛けしましたんだぜ!」

調子の良いビリーが、ヘラヘラと笑いつつモリガンに会釈し、「帰るぞ」とアリアとユエルを促す。ヘイゼルも続こうとすると、不意に背後からモリガンに耳打ちされた。

「ユエルの件だが……」

熱い吐息に一瞬、ギョッとしたヘイゼルだが、直ぐにレリクスで、ユエルを襲ったリアクター不全の事だと悟る。

「調べた限り、彼女のリアクター稼働率に特に異常は無かった。症状が出た時に、いろいろ調べてみないと何とも言えんな……」

「そうか……」

「もし、またその症状が出たら、すぐに連絡をくれ」

ヘイゼルは承知し頷いた。

「おーい! ヘイゼル何してるんだぜ?」

いつまでも着いて来ないヘイゼルを訝り、ビリーが振り返っている。ヘイゼルは「今、行くと」ビリーに声を掛けると、改めてモリガンに礼を言い、三人の後を追った。

四人の後姿を見送ると、モリガンは難しい表情で自分の控え室に戻って行った。

ヘイゼルには告げなかったが、ユエルの体調の件以外にも、まだ納得のいかない点がある。

果たして、今回の事故は只の法撃デバイスの暴発で片付けれる物なのか……。

暫し黙考すると、モリガンは机の上のビジフォンの受話器を取った。

登録リストから目的の人物へ通話を掛けると、ピッタリ三回目のコールで相手が応じる。

ディスプレイに桃色の髪をしたキャストの少女が映った。

「もしもし、『ルウ』か?」

『ルウ』

諜報部所属の女性キャストの名である。

彼女は只のキャストではなく、ガーディアンズの中でも特に重要な役割を担っていた。

主となる本体、『ホスト・ルウ』の他に、数百体の同型のボディを有し、意識を共有して諜報活動を行っているのだ。

また、『ホスト・ルウ』はガーディアンズ・コロニーのシステムを統べて掌握し管理している。ガーディアンズの頭脳とも言える存在だ。

だが彼女は、数百体のボディの統率とシステムの維持の代償として、処理の妨げとなる『感情』を抑制しなければならない運命にある。

「はい、お久し振りです。モリガン博士、その節はお世話になりました」

抑揚の少ない声で、ルウがモリガンに挨拶をする。

「堅苦しい挨拶は良いさ。ところで、お前さんの諜報部としての腕を見込んで、折り入って頼みたい事があるんだが……頼めるか?」

現存するキャストの中で、最も高い処理能力を持つ彼女は、考える事も無く答えた。

「現在、全てのルウ・タイプは活動中です。しかし、内容によっては空き時間を利用し、動く事は可能かと思われます」

「そうか……何、お前さん達なら、大変な事じゃあるまい」

「解りました。内容を確認させて下さい」

モリガンの勝手な解釈にも文句を言わず、ルウは内容を訊ねた。

「GRM製の法撃デバイスで、今までにリコールがあった製品のリストアップを頼みたい」

「リコールされていない、非公式な記録はどうしますか?」

出来る、出来ない、の返答ではなく、ルウは質問で返す。

「抽出できるかい?」

「おそらく可能かと思われます」

「できるなら頼みたい」

「了解しました。原因と思われる部品(パーツ)の一覧表も添付して、後ほど送らせて頂きます」

「流石だな、ありがとう」

依頼した事以上の情報が得られそうである。モリガンはルウの厚意に感謝した。

「いえ、いつかの恩返しと言う事でご理解下さい」

ディスプレイの向こうで、無表情なルウが最後に微笑んだ気がした。無感情だと思われている彼女だが、抑制しているだけで、心は持っているのだ。だが、それを理解する者は少なく誤解を受けやすい。

電話を切った後、モリガンはユエルから預かり、今は目の前の机の上にある、リアクターのフォトン管が砕けた『ケイン』を改めて見て思う。

(何か……何かこう、噛み合わない歯車が点在して空回りしているような、嫌な感じがする……)

噛み合う歯車の部品が見つかり、組み合わされた時、それはどう動き出すのか……?

嫌な予感が治まらない。それは科学者としての勘か?

(いや、これは女の勘と言うやつだよ……)

そして悪い事に彼女の嫌な予感は良く当たるのだ。

ガーディアンズ支部の庁舎を出ると、もう夕刻を回っていた。名残の残照が薄っすらとビル街の隙間に残っている。半球の空に映るべき星空は、街の灯りに打ち消され僅かに覗くばかり、だが東の空に上る下弦の月は白々とした姿をくっきりと覗かせていた。

「飯でも食っていくか……って、ユエルちゃんは食べられなかったな……スマナイんだぜ!」

ビリーが提案するが、ユエルが食事を出来ない事を思い出し慌てる。

「ううん、良いッスよ。食事は出来ないけど、皆が食べて、話してるのに参加するのは好きッスから、お供しまッスよ!」

ユエルは気にする素振りを見せずに、ニコリと微笑んだ。

「って、お前は金持ってねえだろうが!」

そのユエルのこめかみを、ヘイゼルが拳でグリグリ押さえつける。

「イタタタたぁー!? 私は食べないから、お金掛からないッスよ!?」

皆、仕事を終えた後の開放感でハイになっているようだ。

「良いじゃない! 仕事も終わったんだし、ご飯食べに行こうよ! ね、ヘイゼル」

アリアがヘイゼルの腕を強引に抱き抱え走り出す。

「お、おい!?」

「私、パスタが食べたいな―――!」

二人の姿は、じゃれあう恋人達に見えなくも無い。

アリアは一瞬、ユエルの顔を一瞥した。目が合うが、何か言いた気な彼女の視線の意味を、ユエルは理解する事はできなかった。

「おい、待てよ! ユエルちゃん行こうぜ、置いて行かれちまうんだぜ!」

「あ、うん!」

ビリーに肩を叩かれ、ユエルはヘイゼルの後を追い掛けて駆け出した。

初ミッションを終え、仲間達と触れ合うひと時……記憶を無くしたユエルには今、全てが楽しくて仕方が無い。

(記憶を失う前の私にも、こんな楽しい記憶があったッスかね……?)

そんな事を考えていると、ユエルはふと視線を感じ取り、足を止めて振り返った。

しかし、行き交う人の中に、彼女と目が合う者は居ない。

(気の……せいッスかね?)

「ユエル!」

ヘイゼルの呼ぶ声がする。見れば、アリアに腕を引っ張られながら、ヘイゼルが足を止めてユエルを待っていた。

「今、行くッスよ~!」

ユエルは感じた視線を気にしつつも、自分を待っている仲間の元へ向かって歩き出した。

ガーディアンズ・パルム支部庁舎、医療施設の屋上に眼下を見下ろす人影があった。

スラリとした長身の女性キャストである。

肩口まである緋色の髪と、肘まで届く緋色のケープを夜風になびかせていた。

全身を覆わせた動き易そうな外装パーツも緋色。

薄い眉に鋭い瞳も緋色。

全てが緋色で構成された、『緋色の女』

その中で彼女の髪に飾られた、花の形をした髪飾りだけが異彩を放っていた。

『緋色の女』の口元がニヤリと微笑む。

空に浮かぶ月のように鋭い下弦の笑み。

それは美しく、残酷に、そして、歪んでいた。


 
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