真・恋姫無双アナザーストーリー
雪蓮√ 今傍に行きます 第15.3話
【学園祭二日目・後編(ドキドキ、私の好きな人はご主人様?)】
「やっと休憩貰えたよ~。んんーーーっ!……?」
廊下を歩きながら背筋を伸ばすとなんだか男の人たちの目が急に鋭くなったような気がするんだけどなんでかな?
「ねえねえ、君ってこの学園の子だよね?道に迷っちゃってさ。教えてくれないかな?」
「あ、はい!いいですよ!どちらに行きたいんですか?」
私は道に迷ったという二人組みの男の人を道案内する事にした。
「着きました。ここですよね?」
「サンキュー、サンキュー!助かったよ!ところでどう?お礼にお茶していかない?奢っちゃうよ」
「え?」
「お、いいじゃん、いいじゃん!ね?行こうぜ」
「えっと、とてもありがたいんですけど。私行かなきゃいけないところがあるので申し訳ありませんが」
「そんな固い事言わずにさ~」
「そうそう、気軽に行こうぜ」
「あ、あの放してくれませんか?」
な、なんだかお二人とも急に態度が変わって怖いです。
助けを求める為に周りに目を向けても誰も目を合わせてくれようとはしてくれませんでした。
「そんなに怖がん無くてもいいじゃん?ちょーっと一緒にお茶しようっていってるだけだしさ」
「だ、だから、結構です!」
「そんなに暴れるなよな、ただ、お茶しようっていってるだけだぜ?」
「そうそう、な~んにも怖くないからね~」
「痛っ!は、放してください!」
だ、誰か助けて!
ふと、ある一人の男の人の顔が思い浮かんだ。あの人なら助けてくれる!そう思い祈るようにその人の名前を呼ぶ。
助けて一刀さんっ!
「あれ?桃香、こんな所でなにしてるんだ?」
「か、一刀さん!」
声が届いたのかどうかは判らなかったけど目の前に一刀さんが現れてくれた事にとてもうれしくなり涙が出てきちゃいました。
「やあ、丁度、桃香の所に行こうとしてたんだよ」
「一刀さん!」
「あ、おいっ!」
男の人の手が緩んだ隙に一刀さんに駆け寄り二人組みから隠れるように一刀さんの背中に隠れました。
一刀さんの背中に触れた途端、その大きな背中と温かさに徐々に落ち着くことが出来た。
「どうかしたのか?」
「ちっ、んだよ彼氏持ちかよ。白けるぜ」
「行こうぜ」
「ああ」
二人組みは面白くなさそうにその場から居なくなってくれました。
「ふぅ、危ないところだったね桃香」
一刀さんは震える私を抱きしめて頭を撫でてくれました。
「えへへ、一刀さんが来てくれるって信じてたから平気だったよ」
「ははは、たまたまだよ。でも、危険だと感じたら叫ぶんだよ?そうすれば周りの人が助けてくれるさ。いつも俺が助けられるわけじゃないしね」
「はいっ!」
それでもやっぱり、助けに来てくれるのは一刀さんが良いな。
だって一刀さんは私にとって白馬の王子様なんだから!
自分で言っていて恥ずかしくなるけど困っている時にいつも助けてくれる一刀さんはまさに私の理想の人なんです。
「でも、こっちって私のクラスの方向じゃないですよね?どうして私がこっちに居るってわかったんですか?」
「なんでかな?こっちに桃香が居るような気がしたんだよね。自分でも良くわからないんだけどさ」
そう言いながら頭をかいて照れる一刀さんはとても子供っぽくて可愛らしいです。
「桃香も今休憩中なのか?」
「はい!あ、あの一刀さん……よかった一緒に見て回りませんか?」
「うん、俺なんかでよければ」
「ありがとうございます!」
「うわ!ちょ!と、桃香?!」
「えへへ、それじゃ行きましょ一刀さん♪」
一刀さんの腕に抱きつくと一刀さんは顔を赤くして恥ずかしそうにしてくれました。
「ほらほら一刀さん!早くしないと休憩時間が無くなっちゃいますよ!」
私も恥ずかしさと嬉しさで早くなる心臓の音を一刀さんに悟られないように急かすように腕を引いて歩き出す。
「わ、わかったら!もう少しゆっくり歩こうよ桃香」
「ゆっくり歩いたら休憩時間が終わっちゃうじゃないですか」
「大丈夫だよ。それに桃香と居るだけで俺は楽しいんだから」
「~~っ!も、もう、一刀さんったら恥ずかしいじゃないですか。えへへ……」
一刀さんはいつも真顔で恥ずかしい事を言って来ます。
でも、飾られた言葉よりも一刀さんの様に言ってくれた方がとても心に響いて温かい気持ちになっちゃいます。
「あっ、一刀さん!あれに入ってみましょう!」
私が指を指し、一刀さんに入ろうと誘ったのはプラネタリウムです。
「へー、プラネタリウムなんて小学校の遠足以来だな。よし入ってみよう!」
「はいっ!」
一刀さんも目を輝かせて嬉しそうにしていました。なんだか私まで嬉しくなっちゃいます。
「へー、狭いけど結構ちゃんとした作りになってるね」
プラネタリウムは教室の中に半球状のドームがありその中で寝転がりながら見る様になっているみたいでした。
「そうですね~……あっ!一刀さん!あそこが空いてますよ!」
「よし、早速行こうか」
「は~い!」
「ちょっと狭いね」
「そ、そうですね」
空いていた場所は二人が寝転がるにはちょっと狭く感じました。それはつまり……
わー!わー!ど、どうしよう!か、一刀さんがこんなに近くに居るよ!
そう、今私は一刀さんの真横に居るのです!しかも、横を向けば目の前には一刀さんの横顔が間近で見れます。
「綺麗だな」
「えっ?!」
「ここら辺だとこんなに星見えないからさ」
「あ、そ、そうですね!」
一瞬私のことを言われたのかと思いドキッとしちゃった。
「ん?どうかしたか桃香?」
「ううん!なんでもないよ!あっ!あの星座って何かな!」
「え?どれだ?ああ、あれはね――」
話を誤魔化す為に適当な星座を指をさしたら一刀さんは判りやすく説明してくれた。
「一刀さんって星座に詳しいんですね」
「まあね。小さい時から星空を見上げるのが好きだったからさ、色々と調べてたんだよ」
「一刀さんってロマンティストなんですね」
「ははは、そんなカッコいいもんじゃないよ」
「ううん、カッコいいですよ」
「なんだか照れるな」
一刀さんの恥ずかしそうに鼻をかくしぐさにクスリと笑っちゃいました。
「あ、そう言えば一刀さんまだ休憩時間あるんですか?」
「そうだな……あと30分くらいしかないね」
一刀さんは携帯電話の時計を見てもう残り少ない事を教えてくれました。
「はぁ、残念だな~もう少し一刀さんと一緒に居たかったのに」
「ごめんな。でもあと30分あるから出来るだけ一緒に居るよ」
「ホント?」
「ああ」
「~~~っ!」
「?」
一刀さんの間近な笑顔で思わず卒倒しそうになっちゃったよ!やっぱり一刀さんの笑顔は破壊力抜群だよね。
「あ、ううん、なんでもないよ。そ、それじゃ違うところ行って見ようよ!」
「よし!それじゃ行くか」
「はいっ!」
「あっ!一刀さん!わた飴がありますよ」
「へ~、結構本格的だな。機械も玩具のじゃないぞ」
「こっちにはたこ焼き屋さんがありますよ!」
「まあ、定番だよなここら辺は」
「わあっ!お好み焼き屋さんもありますよ一刀さん!」
「ははは、桃香は食べ物ばかりだな」
「あぅ!だ、だって美味しそうじゃないですか~」
一刀さんに指摘されて思わず頬を膨らませる。
「あ~でも食べたら太っちゃうかもしれないし……でもでも、美味しそうだな~、でも太りそうだし……うぅ~」
恨めしそうに見つめながらも自分のお腹を摘んでみる。
(ぷにっ)
あぅ、ま、また太っちゃったかな?これじゃ一刀さんに嫌われちゃうよ~
「すいませ~ん。たこ焼き一つください」
そんな、悩んでいる私を他所に一刀さんはたこ焼きを買っていました。
「って、なんでお好み焼きやわた飴まで買ってるんですか?!」
「え?桃香と一緒に食べようと思って」
うぅ……一刀さんは私を太らせたいのかな?もう、ホント、女心がわからないんだから一刀さんは!
「食べないの?」
「……だって、太っちゃうもん」
「?別に太ってるようには見えないけどな~、逆に痩せ過ぎてる方が心配になるよ」
「そうかもしれないけど~、一刀さんには綺麗な私を見て欲しいし……」
「桃香は今でも十分綺麗だし可愛いよ。だからそんな無理しなくてもいいと思うよ。無理なダイエットは体を壊しちゃうんだからね」
「~~っ、もう、一刀さんたら……えへへ」
呆れながらも一刀さんに綺麗って言われて照れる私。
「もう、少しだけですからね……はふはふ……ん~っ!たこ焼き美味しいです!」
文句を言いながらたこ焼きを一つ楊枝に刺して口に運ぶ。熱さで火傷しそうになっちゃったけどとても美味しかった。
「ははは、気をつけろよ桃香……あちちっ!」
「あははっ、一刀さんも気をつけてくださいね」
苦笑いを浮かべながらも美味しいと食べていく一刀さんを見ながら私も食べる。
そんなやり取りをして私と一刀さんは残りの30分間を色々な模擬店を見て楽しみました。
「あ~あ、もう時間になっちゃったのか~。もう少し一緒に居たかったな」
「ごめんな。次の休憩時間の時は桃香のクラスに行くからさ」
「ホント?!」
「ああ、本当だ」
「やったー!絶対だよ?待ってるからね!」
「ああ絶対だ。それじゃ俺は戻るな。桃香も学園祭楽しめよ」
「はーいっ!」
一刀さんは手を振って自分のクラスに戻っていっちゃいました。
「う~ん、私はまだ40分くらい時間があるけど、どうしようかな」
そんな事を考えているとあることを思い出した。
「あっ!そうだ、あそこに行こう!」
廊下を歩きながらスカートのポケットに手を入れてあるかを確認する。
(カサッ)
「うん、ちゃんと入ってるよね。えへへ」
顔を綻ばせながら目的の場所を目指して早足で向った。
「ふぇ~~……凄い行列だな~」
行列を見てお店が繁盛しているのが良くわかります。
「えっと……あっ!あの人が案内の人かな?」
列の最後尾で看板を持っている女の人に話しかけます。
「すいません」
「はい?なんでしょうか?」
「はい、実はこれなんですけど……」
私は一刀さんから貰ったチケットを見せる。
「ああ、はい。それじゃそのままお店に行って、先頭の係りの人にそのチケットを渡してください」
「え?並ばなくて良いんですか?」
「はい、それは優先チケットになっているので問題ありません」
「へ~、そうなんだ~」
係りの人にお礼を言って一刀さんのクラスまで行くと、行列の先頭にメイド服を着た女の人が立っていました。あの人が係りの人かな?
「あの~、すいません」
「はい、なんでしょうか?」
「これを列の最後尾に居る人に見せたらここに行ってくださいって言われたんですけど」
「ああ、チケットですね。ではまずこの中からお一人お選びください」
そう言うとメイド服の人が写真が張ってあるパネルを見せてきた。その中には一刀さんの写真もあった。
「あのこれって選ぶと何か意味があるんですか?」
「え?」
「え?」
お互い首を傾げて数秒の時が止まった。
「あの……もしかして聞いて無いんですか?」
「えっと……はい」
これを一刀さんから貰った時は何も説明は無かったし、ただ『来てくれたらうれしいな』程度しか言われてなかったよね。
「簡単に言えば30分ほど専属の執事になってくれるという事です」
「……え?えええ?!そ、そうなんですかぁ?!」
あわわ!ど、どうしよう!か、一刀さんが専属執事になっちゃうよ!うれしいような恥ずかしいような、ああん、良くわからないよ!
「あ、あの~」
「ふぇええ?!な、なんですか?」
「それで、誰をご指名しましょうか?」
「えっと、その~……か、一刀さんで!」
「は、はい。かしこまりました。では、少々お待ちください」
「は、はいっ!」
緊張の余り声が大きくなってメイド服の人は顔を引き攣らせて中に入っていきました。
「あぅ~、緊張するな~」
ドキドキと緊張して待っているとドアの開く音がしたから振り返ってみると、
「お待たせいたしました。お嬢様……っ!」
一刀さんは私だとわかると一瞬驚いた顔になったけど直ぐに笑顔を見せてくれました。
「ふわ~!か、一刀さんカッコいい……」
「ありがとうございます。桃香お嬢様」
「……ぽっ」
思わず一刀さんの微笑みに見惚れちゃいました。
「如何なさいましたか桃香お嬢様」
「……はっ!な、なんでもないですよ。あは、あはははは」
「左様ですか。では、こちらへどうぞ」
「は、はい……」
執事一刀さんに案内されてお店とは別の部屋に案内されました。
「こちらへどうぞ」
「は、はいっ!」
通された部屋には私と一刀さん二人しか居なく、完全に密室状態でした。
はわわわわっ!ど、どうしよう!どうすればいいんだろ!えっと、えっとお、踊ればいいのかな?!
もう頭の中はパニック状態で何をどうすれば良いのかわからなくなっていました。
「落ち着いてください。桃香お嬢様」
「は、はいぃ……も、もう、大丈夫です。ありがとうございます一刀さん」
一刀さんに背中を擦られて少し落ち着きました。
「では、こちらにお座りください桃香お嬢様」
一刀さんは微笑みながら私が座りやすいように椅子を引いてくれました。
「桃香お嬢様、本日のお飲み物は何に致しましょうか?」
一刀さんはメニューを広げて私に手渡してくれました。
「えっと……」
う~ん、紅茶の名前なんて私わからないよ~。どれがいいのかな?
「う~ん……」
「お悩みでしたらこちらなど如何でしょうか桃香お嬢様」
「え?」
一刀さんが薦めてきたのは『執事が選ぶおススメセット』だった。
「えっと、それでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
部屋から一刀さんが出て行くとなぜか物凄く疲れちゃいました。
「ふぅ~、すっごい緊張したよ~。もう、一刀さんカッコよすぎだよ!」
誰も居ない部屋で一刀さんに対して文句とも言えない文句を言う。
「で、でも、ああいう一刀さんもいいな~。新たな魅力発見!みたいな感じだよね」
「あ、でも、前に雪蓮さんが言ってたっけ」
『桃香も一刀の執事姿を見れば惚れ直しちゃうわよ♪』
「確かに、惚れ直しちゃいました。雪蓮さんは前にも一刀さんの執事姿を見ていたなんてずるいですよ!」
今度は、ここに居ない雪蓮さんに対しても文句を言ってみる。
「うぅ~、どうしよう。胸がドキドキだよぉ」
「お待たせいたしました桃香お嬢様」
「は、はいっ!」
思わす背筋を伸ばしてしまいそれを一刀さんが見てクスリと笑われちゃいました。あぅ~……
「こちらはダージリンとフィナンシェになります」
「あ、ありがとうございます」
「いえ」
「はぅ~っ!」
一刀さんの笑顔に思わず胸がキュンとなりました!もう、お菓子とか紅茶の味は二の次ですよ!
そんな夢みたいな時間を過ごしていると……
(コンコン)
「失礼します。お嬢様、そろそろお出かけの時間になっております」
お出かけの時間、つまりはこの夢のような時間の終わりを示していました。
「わ、わかりました。ありがとうございます。メイドさん」
「いえ。では、失礼します」
メイドの人はお辞儀をして部屋から出て行きました。
「あ、あの一刀さん!」
「はい、何でございましょうか?」
私は思い切ってある事を聞こうと口を開いた……けど、
「えっと……その……」
『私の誕生日覚えていますか?』
その一言が口から出てこず思わず押し黙ってしまいました。
「いえ、なんでもないです……」
自分の勇気の無さに泣きたくなってきました。
二人っきりだから聞けるかなと思ったけどどうしても聞けずに居たら。
「……え?」
「無理しなくても良いよ。桃香」
一刀さんは私を抱きしめて耳元で囁いてきました。
「桃香が言える様になるまでこうしててあげるからさ」
「で、でも。クラスの人に迷惑が……」
「ちょっと位、平気だよ」
そう言うと一刀さんはいつもの笑顔で微笑みかけて頭を撫でてくれました。
「ありがとう一刀さん、でも、そうじゃないの」
「そうじゃない?」
「うん、あのね」
一刀さんから離れてじっと一刀さんの目を見る。その透き通った瞳に吸い込まれそうになる。
「すぅー、ふぅー……一刀さん」
一度深呼吸をして一刀さんの名前を呼ぶ。
「私の誕生日覚えていますか?」
「誕生日?」
「はい」
「覚えてるよ」
「……え?」
あれ?今一刀さんなんて言ったの?
「あ、あの一刀さん?今、なんていいました?」
「え?覚えてるよって言ったんだけど」
「え……ぇぇえええっ!」
「ど、どうしたんだ急に?」
「だ、だって全然お祝いしてくれないから忘れてるのかと思って」
「忘れるわけ無いじゃないか」
「じゃあじゃあ、朝は?!」
「朝は準備しないといけなくて急いでたから」
「それじゃそれじゃ、さっきの休憩の時は!」
「あの時は言う機会がなくて……」
「じゃあ、今は?!」
「とりあえず接客業だから公私混同するなって女子から言われてたから」
「それじゃ、忘れてたわけじゃ……」
「忘れてたわけじゃないよ」
「な、なんだ~~~~」
思わず力が抜けて床にペタリとしりもちをついた。
「もしかして、そんなことで悩んでたのか?」
「むぅ~、そんな事じゃないよ大事な事だよ!」
「そ、そうなのか?」
「そうなの!」
でも、忘れて無くてよかった……
「ごほんっ!」
「「あっ」」
入り口の方から咳き込む音が聞こえ振り返るとさっきのメイド服を着た人が立っていた。
「北郷君?今は?」
「ご、ごめんなさい」
「学園祭終了後、反省会。いいですね?」
「……はい」
「それともう時間過ぎていますから、お嬢様はお早くお出かけの準備をお願いします」
「は、はいっ!」
急いで立ち上がり入り口へ向おうとした時、
「桃香お嬢様」
「え?」
一刀さんに呼び止められて振り返る。
「――――」
「わ、わかりました」
一刀さんが言った言葉に思わず頬を染めて頷きました。
「では、桃香お嬢様。行ってらっしゃいませ」
「い、行って来ます……」
私は一刀さんの顔を恥ずかしくて見ることが出来ず逃げるようにして部屋から出ました。
「はぅ~、一刀さんにあんな事言われるなんて思わなかったよ~」
クラスに戻った私はメイドカフェのお手伝い中です。
「桜崎さん、コーヒー二つ追加ね」
「あっ、は~いっ!」
注文を受けてカップにコーヒーを注ぐ。
「はい、コーヒー二つお待たせ~」
「サンキュ~」
「ふぅ……えへへ」
執事喫茶での出来事を思い出し思わず照れ笑い。
『誕生日おめでとう桃香。それと後夜祭の時に渡したいのがあるから待っててくれるかな?』
あの時一刀さんは私に聞こえる声でそんなことを言ってくれました。
その言葉は私が待ちに待っていた言葉でそして、予期しない言葉でもありました。
後夜祭の時に渡したものがあるってなんだろ?あ、もしかして誕生日プレゼントかな!わぁ~何貰えるんだろう。一刀さんからのプレゼントだったら何でも嬉しいな♪
……
…………
………………
(桃香、誕生日おめでとう。これ誕生日プレゼントだよ)
(い、いいんですか一刀さん?私なんかが貰っちゃっても)
(当たり前だろ?桃香の為に買ってきたんだから……受け取ってくれるかい?)
(はい!……あけても良いですか?)
(ああ、もちろんだよ)
(……っ!これって……)
(それを左手の薬指にはめて欲しいんだ)
(えっ……)
(だめ、かな?)
(ううん!嬉しいよ!とても嬉しいけど、私なんかでいいの?)
(桃香だから、だよ)
(嬉しい!私も一刀さんとこうなれたらなって思ってたの)
(……桃香)
(……一刀さん)
……
…………
………………
「……えへへ、いやん♪」
「な、なにやってるの桜崎さん……」
「ふぇ?!な、なんでもないよ!あは、あははははっ!」
あぅ、変なところ見られちゃった、恥ずかしいよぉ!
えっと、そんな事がありながらも何事も無くメイドカフェの仕事をしていると俄かに女の子たちがざわめいていました。
なんだろう?何かあったのかな?
そう思ってカーテンで区切られたキッチンから顔を覗かせると……
「か、一刀さん?!」
カーテンの隅から覗くと部屋には一刀さんが居ました。
「な、なんで一刀さんがここに?……っ!」
すると一刀さんは私を見つけてニッコリと微笑んでくれた。
(バッ!)
その笑顔に思わず恥ずかしくなりカーテンから首を引っ込めた。
ど、どうしよう!ド、ドキドキしてきちゃったよ!わ、私の恰好変じゃないよね?!
近くにあった手鏡を手に取り身だしなみのチェックをする。
「よ、よしっ!大丈夫!」
気持ちを落ち着かせて改めてカーテンから顔を覗かせてあたりを見回す。
「沙希ちゃん、沙希ちゃん!」
「え?なに桃香さん」
「あ、あのね。交代して欲しいんだけどダメかな?」
「いいですけど……なんでですか?」
「えっと、その……えへへ」
「……ああ、そう言う事ですね。なら、追加で後でジュース奢ってくださいね」
「えええ?!」
「ふふふ、それじゃお願いね♪」
うぅ、仕方ないよね。ジュースくらい!うん!
「スー、ハー、スー、ハー……よし!」
意を決して一刀さんの前に向う。
「お、お帰りなさいませ。ご主人様!」
「や、やあ、桃香。なんだかご主人様って呼ばれると照れるな」
「私も少し恥ずかしいです。えへへ」
一刀さんは恥ずかしいのかしきりに頭をかいています。
「えっと、ご主人様。飲み物は何が良いかな?」
「そうだな……それじゃコーヒー貰おうかな」
「はいっ!」
元気良く返事をして注文を取った内容を裏に伝える。
「はい、コーヒーね。まったく私だって北郷さまの注文受けたかったのに特別なんだからね」
「うぅ~、ご、ごめんなさい……」
「ふふふ、なんてね。桃香が北郷さまの事好きなのはクラスの皆が知ってることだからね。でもこれくらいは言わせてもらわないとね♪」
沙希ちゃんは悪戯っ子の様に舌をチロっと出してウィンクをして見せた。
「うぅ~、ありがとう沙希ちゃ~~~~ん!」
「きゃっ!と、桃香!コーヒーがこぼれるわよ!」
「わわわっ!」
「もう、ホント桃香はおっちょこちょいよね。よく北郷さまに飽きられないわよね」
「一刀さんはそんなことしないよ!私の事大事にしてくれるし」
「はいはい、惚気は結構だから冷めないうちに北郷さまにコーヒー持っていきなさい」
「む~、惚気じゃ無いのにぃ~」
「はいはい」
頬を膨らませながら文句を言うが沙希ちゃんは聞いてくれませんでした。
気を取り直してコーヒーを一刀さんに持って行きます。
「お待たせ。かず、じゃなかったご主人様!」
「ありがとう、桃香」
コーヒーを一刀さんに渡して向かいの席に座る。
「……(ニコニコ)」
「……」
「……(ニコニコ)」
「……あ、あの桃香?」
「なに?ご主人様」
「なんで向かいの席に座っているのかな?」
「え?だって私はご主人様専属のメイドだし♪」
(ぴたっ)
あれ?なんだかみんな動きが一瞬止まったように見えたけど気のせいかな?
「……えっと、桃香?今なんて……」
「だから、ご主人様専属の……」
「ちょっと待った!それ以上言わないでくれ。俺の命に関わりそうだ!」
「え?う、うん」
「よし、桃香。君はここの店員だわかるな?」
「もちろんだよ!だからメイドさんの恰好して猫耳着けてるんだから」
「よし、つまりだ。店員ってことはだ不特定多数の人の注文を取らないといけないそうだよな」
「うんうん、そうだよね。皆凄いよね!」
私なんか、そんなにいっぱい聞けないよ。
「……」
「あれ?ご主人様、どうかしたの?……もしかして、私ってお邪魔なのかな?」
「そ、そんな事は無いぞ!」
「ホント?嬉しい!」
「「「っ?!」」」
「ちょ、と、桃香!だ、抱きつかなくても!」
「えへへ、だってご主人様に抱きついてるととても安心するんだもん」
「だ、だからって場所を考えてだな!」
一刀さんの慌てぶりはいつもの事だからそのうち苦笑いしながらも許してくれると思って抱きついていると。
「と・う・か・ちゃん!ちょっとこっちに来ようか」
「え?沙希ちゃん?どうしたの?あ、あれ?何でみんな怖い顔してるのかな?」
「い・い・か・ら、こっちにきなさ~~~い!」
「ふぇ~~~~ん!ご主人様助けて~~~~~っ!」
「ご主人様、少々この者をお借りします」
「は、はい、どうぞ……」
沙希ちゃんに腕をつかまれて一刀さんから引き剥がされちゃいました。
「桃香あんた何やってるのよ」
「なにって一刀さんのメイド?」
「そうじゃなくて!ちょっと周りの人見てみなさい!」
「う、うん……」
こっそりとカーテンから一刀さんの周りを見てみるとなんだかみんな殺気立ってるように見えた。
「ねえ、沙希ちゃん。なんでみんなあんなに不機嫌そうにしてるの?」
「そりゃ、桃香があんな事言えばそうなるわよ」
「あんな事って?」
「専属のメイドですって言ったでしょ」
「うん、言ったよ♪」
「それがいけないって事よ」
「えええ?!なんで!」
「なんでって……それじゃ逆に北郷さまが桃香に対して、『俺は桃香の専属の執事だ』って言われたら周りの女子はどうなると思う?」
「あ、そっか」
「あっけらかんと言ってくれるわね。憎らしい娘ね桃香は!」
「い、いひゃいよ、ひゃきひゃん!」
沙希ちゃんに思いっきり両頬を引っ張られてちょっと涙ぐむ。
「とにかくもう桃香はフロアには出さないわよ」
「ええ!?それじゃ一刀さんとお話できないよ!」
「いつもしてるでしょうが!とにかく、もし出たいなら北郷さまが居なくなったらね」
そう言うと沙希ちゃんはフロアに出て行っちゃいました。
「うぅ~、ごめんね一刀さん~」
私はカーテンから顔を出して一刀さんに出して手を合わせて謝った。
すると、一刀さんがニッコリと笑ってくれて、
(気にしなくて良いよ)
っていわれたような気がしました。
暫くすると一刀さんはお勘定を払ってカフェから帰っていきました。
「はぁい、桃香」
「桃香さま、様子を見に来ました」
暫くしてフロアに出て注文を取っていると雪蓮さんと愛紗ちゃんが一緒に来ました。
「あっ雪蓮さんに愛紗ちゃんいらっしゃい!お二人で来るなんて珍しいですね」
「ちょうどそこで会ったのよ。向うところが同じだったから一緒に来たって訳」
「そうだったんですか。あ、お席はこちらへどうぞお嬢様方♪」
「ふふふ、桃香にそう言われるのはなんだか不思議な感じね」
「少々、申し訳なく感じますね」
「なに言ってんのよ。これが仕事なんだから気にしなくて良いのよ。愛紗だって一刀にお嬢様なんて言われて赤面した口でしょ?」
「なっ!なぜそれを!」
「あっ、やっぱりしたんだ」
「ぐぅ……」
「まあ、そのことについては後でゆっくりと聞かせてもらうわ♪」
「全力でお断りします!」
「それで、桃香。一刀はここに来たの?」
「無視しないでください!」
「あはははは……はい、来ましたよ」
「ふ~ん、それじゃ『お帰りなさいませご主人様!』なんて言ったのよね」
「は、はい……」
「な~に照れちゃってるのよ。可愛いわね桃香は」
「か、可愛いだなんてそんな……」
恥ずかしくなりトレイで顔を隠す。
「ふむ、一刀もこんな仕草で落ちるかしら……ブツブツ」
なんだか雪蓮さんがブツブツ言いながら考え事を始めちゃいました。
「あ、あのご注文は何にいたしましょうか?」
「……え?ああ、私はアイスティーで良いわ」
「では、私は烏龍茶をお願いします」
「はい、アイスティーと烏龍茶ですね。少々お待ちください!」
アイスティーと烏龍茶をトレイに乗せて雪蓮さんと愛紗ちゃんの席に持っていく。
「お待たせしました。アイスティーと烏龍茶になります」
「ありがとう。ところで桃香」
「はい?」
「一刀の執事喫茶にも行ったの?」
「はい、行きましたよ」
「どうだった?惚れ直したでしょ?」
「はい!一刀さんカッコよすぎました!一刀さんの新たな一面発見!みたいな」
「でしょでしょー。はぁ~また、行きたいわね~」
「行けばいいじゃないですか~。ね、愛紗ちゃん」
「っ?!ケホッケホッ!そ、そうですね」
「だ、大丈夫愛紗ちゃん?!」
「だ、大丈夫です。行き成り話を振られたので驚いただけです。そうですね、また行けばいいではないですか」
「それがダメなのよ。まず第一にあの行列!今日は一時間くらいだけど、昨日なんて二時間とかだったのよ?」
「みな、一刀さま目当てなのですか?」
「間違いなくそうでしょうね。それに第二にあのチケットよ」
「チケット?それって一刀さんがくれた?」
「そう!一刀に聞いたんだけど、そのチケットはクラスの男子に五枚配られてるのよ。それで一刀のクラスって男子が5人しか居ないのよ。つまり、合計で二十五枚しかないってわけ。そのチケットが全部回収されたらあの部屋は撤去されるらしいのよ」
「え?!それじゃ一回しかいけないんですか?!」
「そういうことね」
「ふむ……ん?では、一刀さまは既に五枚配られているのですか?」
「ええ、私に愛紗、桃香、それに琳ね」
「あれ?でも一枚あまってるはずじゃないんですか?」
「そこなのよ!そう思って一刀に詰め寄ったらいつの間にかその最後の一枚が無くなったって言うのよ」
「それは不思議ですね」
「そうだね~」
「なに二人してそんなこと信じてるの?」
「え?だってなくしたんですよね」
「ええ、今雪蓮殿がいったではありませんか」
「それは一刀の言い分でしょ?私たち四人の他に誰か居るとは思わないの?」
「「っ?!」」
ま、まさか一刀さんに限ってそんなことは……
「無いって言い切れる?」
「あぅ!わ、私の心の中読まないでくださいよ雪蓮さん!」
「で、ですか一刀さまにそのような行動は見受けられませんでしたが。それに一刀さまならそんなこそこそせず堂々としていると思いますが」
「まあ、それもそうなんだけどね~。でもさ、いつの間にか無くなったっておかしいと思わない?」
「まあ、確かにそうですね。一刀さまのそのような事は聞いたことがありませんでしたから」
「だね~。一刀さん結構几帳面ぽいよね。ちゃんと私たちの誕生日覚えてるくらいだもんね」
「そうですね……ん?桃香さま?一刀さまは誕生日を覚えていらしたんですか?」
「うん、そうだよ!朝は準備で忙しくて言えなかったみたいなんだ。そのあとちゃんと『誕生日おめでとう』って言ってくれたよ」
「それはよかったですね」
「それで?プレゼントは何貰ったのよ」
「えっと、それが……」
「あら、まだなの?」
「はい。一刀さんはまだお仕事中だったので」
「そっか、それじゃいつ貰うの?」
「そ、その……後夜祭の時に」
「よかったわね桃香」
「えへへ」
照れる私を雪蓮さんはとても優しい微笑で見ていました。
こうして、楽しかった学園祭も終わり今は後片付け中です。
「よいしょっと……ごみ捨て完了!」
ゴミ袋を焼却炉横のゴミ捨て場に置いて一息を吐いた。
「ん~、教室の掃除も終わったし後は後夜祭を待つだけだったよね」
後夜祭の開始は大体のクラスの片付けが終わる。18時過ぎくらいから始まる予定って琳さんが行ってたから、それまでなにしてようかな。
「あ、でも、一度教室に戻らないとね。他に手伝える事があるかもしれないから」
教室に向う途中、廊下の窓からグラウンドが見えたので窓越しから覗いてみた。
「わぁ、もう準備できてるんだ」
グラウンドの真ん中には既に後夜祭用の木がくべられていた。
「あれを中心にして踊るんだよね……」
私は一刀さんと踊っている光景を思い描き頬を染める。
「えへへ……早く後夜祭始まらないかな~♪」
「あら、桃香じゃないの」
「あ、琳さん!」
後夜祭を心待ちにしながら歩いていると前から琳さんが歩いてきました。
「もう片付けは終わったの?」
「はい。とりあえず他に何か無いか教室に行こうとしていたところです」
「そう、それは何よりね」
「はい。琳さんは生徒会のお仕事まだ終わらないんですか?」
「今は各クラスの状況確認をしているところよ」
「クラスの方は良いんですか?」
「ええ、片付けは任せて来たわ」
クラスと生徒会の仕事、両方掛け持ちしている琳さんは大変だよね。
「大変ですね」
「そうでも無いわよ。むしろもう少し忙しくても良いくらいだわ」
「あは、あはははは……あ、後夜祭いつ始めるんですか?」
「そうね。片付けも大半のクラスが終わったみたいだから予定通り18時には始めようかと思っているわ」
「本当ですか?!」
「え、ええ……何でそんなにうれしそうなの桃香?」
「何でだと思います?ふふふ♪」
「大方、一刀が何かしてくれるのではなくて?」
「すごい!なんで判るんですか?!」
「……桃香がこんなに喜んでいる時は一刀関連しかないでしょ」
「あはは……」
相変わらず琳さんの洞察力は凄いよね~。私も琳さんくらい鋭くなって見たいな。
「……桃香は私みたいになれないから諦めなさい」
「ふぇ?!私、何も言って無いですよ?!」
「言わなくても顔に書いてあるわよ。『私も琳さん見たいになってみたいな』ってね」
「あぅ」
「ふふふ、桃香は桃香らしくして居ればいいのよ。一刀はありのままの私たちを見てくれているのだから」
「そうですね。私は私、琳さんは琳さんですよね」
「その通りよ。さて、私はまだ周らなければならないクラスがあるからこれで失礼するわ」
「はい。生徒会のお仕事、頑張ってくださいね」
「ええ。桃香も頑張りなさい。『今日は』邪魔しないでおいてあげるから」
「~~~っ」
琳さんはなんでもお見通しみたいです。あ、侮れません!
「ふふふ♪それでは、ね」
琳さんはそのまま私の横を通って行ってしまった。
「もう、琳さんは少し意地悪が過ぎますよ~……でも、ありがとうございます。琳さん」
そう思いながらも琳さんに感謝して教室に向った。
「一刀さんどこだろう……」
教室に戻った私は他に手伝える事が無いか聞いたところ、特にすることがないみたいだから暫く教室で友達と話をしていた。
話に夢中でいつの間にか後夜祭の始まる時間になったからみんなに挨拶してグランドに来て一刀さんを探しているところなんだけど……
「早く来すぎちゃったかな?」
人はまだ疎らで一刀さんもまだ来てないみたい。
「ふぅ、早く来ないかな一刀さん……」
グラウンド周りにあるベンチに座り既にくべられていた薪に火が灯りそれを見つめながら一刀さんが来るのを待つ。
「……(カクン)っ?!いけないいけない寝ちゃうところだったよ」
二日間の疲れからかいつの間にか寝ちゃいそうになりました。
「起きてないと……一刀、さんを……待た……な……い…………と…………」
だけど、睡魔はさらに強くなりいつしか私は眠りに落ちてしまいました。
「(ご主人様!お帰りなさい!)」
あれ?これって……
「(ただいま。桃香)」
「(ご主人様、今日は何を食べますか?)」
そっか、これは夢だ……早く起きて一刀さんを探さないと……
「(そうだな……桃香でも食べちゃおうかな?)」
「(もうご主人様のエッチ♪)」
ああ、でもなんだか起きたら勿体無いような気もするけど……
「(……だめ、かな桃香?)」
「(私はご主人様のメイドなんだから断れるわけ無いじゃないですか……)」
「(うれしいよ。桃香……)」
「(ご主人様……)」
「(二人だけの時は名前で呼んでくれって言っただろ?)」
「(だって、恥ずかしいよ……一刀、さん)」
「(そんな照れてる桃香も可愛いよ)」
「(あっ、一刀さん……)」
わわわ、一刀さんす、凄い大胆だよ!
『……か……』
あれ?誰だろ?
私の背後から声が聞こえてきた。
『……ね…………て……か、…………し…………』
なんだかとても懐かしくて優しい声だな。
『……しば…………こ……まま…………』
それにすごく温かい……。
その優しくて温かい温もりに包まれると夢の中なのにまた眠くなってきた。
あっ……
不意に頭を撫でられたような気がして思わず声を出す。
でも嫌な感じはなく、もっと撫でていて貰いたかった……
「(一刀さん、誰かがこちらを見ていますよ)」
「(そうだな……君はここに居ても良いのかい?)」
え?わ、私?
急に夢の中に居た一刀さんが私を見つめてきた。
「(ああ、今、君の傍には大事な人が居るんじゃないかな?)」
大事な人……一刀、さん?
「(そうだ。桃香、君には待っていてくれる人が居るんだ。今君が見ている夢は桃香の夢であって桃香の夢じゃない。だから現実の世界にお戻り)」
「(そうだよ。この夢は私とご主人様の夢なんだから、もう一人の私はもう一人のご主人様と一緒に居ないとね♪)」
もう一人のご主人様?
「(ほら、起きてもう一人の私……大事な人が待ってるよ)」
ど、何処に行くの?!
「(大丈夫、きっと直ぐにまた会えるから……その時は今と違ってるかもしれないけどね)」
ど、どういう意味?今と違うって……
「(今はここまでだよ桃香……ほら、時間だ)」
「(それじゃね、もう一人の私!愛紗ちゃんや雪蓮さん、華琳さんによろしくね!それに優未さんにも)」
ま、待って!まだ話が!
そこであたりは真っ白になり、声だけが聞こえてきた。
「(鍵を……鍵をしっかりと握っていてね。ご主人様から貰った大切な鍵を……)」
「う……ん……ここは?」
そっか、いつの間にか寝ちゃってたんだ……
「あ、起きたかい桃香」
起きたばかりで視界がぼやけながらも声がする方へ見上げると夢で見た人が優しい微笑で私を見ていた。
「……ご、主人、様?」
「え?」
段々と、頭が覚醒してきて視界もはっきりしてくるとその人は驚いた顔をしていた……?
「……っ?!ふぇ!か、一刀さん!」
しかも一刀さんに寄りかかってるし!
「びっくりした。まだ、ご主人様って言われてるのかと思ったよ」
「ご、ごめんなさい。夢で見てその……」
「どんな夢だったの?」
「えっと……あれ?どんな夢だったっけ?う~ん……」
「覚えてないの?」
「はい……」
「まあ、夢だしそんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
そうなのかな?なんだか大切な事を言われた様な気がするんだけど……
「まあ、きっとそのうち思い出すんじゃないかな?」
「そう、だよね。うん、きっとそう!……あれ?」
良く見るとあたりはもうすっかり暗くなっていた。
「一刀さん、私どれくらい寝てましたか?」
「どれくらいだろう?俺が来た時には既に寝てたし、そこからだったら大体30分くらいかな」
「そ、そんなに寝てたんですか?!起こしてくれてもよかったのに」
「疲れてたのか気持ちよさそうに寝てたからさ」
「うぅ~恥ずかしいよぉ」
一刀さんに寝顔見られちゃったよ。
「ははは、可愛い寝顔だったよ」
それを知ってか知らずか一刀さんはそんな事を言ってきます。
「あぅ、わ、忘れてください~」
「どうしよっかな~」
「う~、一刀さん意地悪ですよ」
「そうだな……それじゃ目を瞑ってくれたら許してあげるよ」
「……本当ですか?」
「ああ、いいよって言うまで開けたらだめだぞ」
「……これでいいですか?」
仕方なく私は一刀さんに言われたように目を閉じた。
(ガサガサッ)
「……まだですか?」
「まだだよ」
すると不意に一刀さんが首裏に触れてきた。
「きゃっ!な、なんですか?」
「もう少しだから……よし、いいよ桃香」
「……?」
目を開けたけど特に変わったところは無いよね?
「あの一刀さん?一体なにをしたんですか?」
「胸元を見てご覧」
「え?……っ!こ、これって」
私の胸元には桜の花びらを模ったペンダントが首から掛けられていた。
「誕生日おめでとう、桃香。良く似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。一刀さん」
「裏を見てくれるからな?」
「裏ですか?」
ペンダントをひっくり返してみるとそこには歪だがしっかりと刻まれた文字があった。
『K to T』
「俺から桃香へって意味で削らしてもらったんだけど上手くいかなくてさ」
うれしさの余り涙が溢れて来ちゃいました。
「ううん、そんな事無いです。大切に、大切にしますね。ぐすっ……ありがとう一刀さん」
ペンダントを両手で包み込むように握り締めて一刀さんに微笑みながらお礼を言った。
「喜んでくれてよかったよ」
「……一刀さん……もう一つお願いしても良いですか?」
「ん?なんだ?」
「そ、その……キス、してくれますか?」
「こ、ここで?」
「……はい。あの、ダメですか?」
「……いいよ」
「あっ」
一刀さんは優しく私を抱きしめた後、顔を近づけて来た。
「ん……か、ひゅと……さん…………んっ…………」
「ひょうか…………ちゅっ………………」
一刀さんの温もりがとても私を包み込む。
「……んんっ!…………ちゅぱっ…………も、もっひょ………………か…………とさ、ん…………」
「…………ん、かわいいよ…………ちゅ…………桃香………………」
「かひゅ、とひゃん!…………くちゅっ…………かひゅと、ひゃん!…………んんっ…………」
私はたがが外れたかのように一刀さんを求めてしまいました。
理由は良くわからなかったけどなんとなく夢のせいなような気がします。
「……しゅき…………んちゅ……しゅき……だいしゅきです…………かひゅとひゃん!…………」
「ああ…………俺…………も好きだぞ…………桃香…………むちゅっ…………」
「……もちろん、私の事も好きよね一刀?」
「ああ、もちろ……ん?」
「か、一刀さぁん…………」
急に一刀さんがキスするのをやめちゃったから催促するように一刀さんに私からキスしようとしたら。
「桃香、いい加減にしなさい。ここを何処だと思っているのかしら?」
「……へ?…………か、華琳さん?!」
「?華琳って誰よ」
「あれ?誰だろう?って、なんでここに居るんですか?!さっき邪魔しないって!」
そこには琳さんの他にも雪蓮さんに愛紗ちゃんまで居ました。
「そりゃ、邪魔するつもりは無かったのだけど、こんなグラウンドの横にあるベンチでするなんて誰も思わないでしょう?」
「あぅ……」
「それに人払いをするのも大変だったんだからね桃香」
雪蓮さんは苦笑いを浮かべて腰に手を当てていました。
「ご、ごめんなさい……」
「それで?桃香が貰ったのはそのペンダントね」
「はい」
「良くお似合いですよ桃香さま」
「ありがとう愛紗ちゃん」
ちょっと恥ずかしくなり頬が熱くなる。
「それにしても大胆だったわね。『……んんっ!…………ちゅぱっ…………も、もっひょ………………か…………とさ、ん…………』なんて」
「はぅ!」
雪蓮さんは私の声を真似してニヤニヤと笑っています。うぅ~……
「それに『……しゅき…………んちゅ……しゅき……だいしゅきです…………かひゅとひゃん!…………』ですものね。焼けちゃうわね」
「はぅぅ!」
琳さんもニヤニヤと笑いながら伝えてきました。ふ、二人とも意地悪です。
「……愛紗ちゃんも見てたんだよね?」
「あ、あの、その……はい…………すいません」
愛紗ちゃんは申し訳なさそうに謝って来ました。
「謝る必要なんて無いのよ愛紗。こんな所でしてるのが悪いのだから」
うぅ、琳さんのごもっともな意見に何もいえません。
「ほらほら、そんなくらい顔してないで、まだ祭りは終わってないのよ!」
「ちょ!雪蓮?!」
「あ、一刀さん!」
「か、一刀さま!」
「くっ!先を越されたわ」
「ふふふ、あなたたちは後で一刀と踊りなさい♪」
そう言うと一刀さんの手を取りキャンプファイヤーの周りで踊っている人たちの中に混ざって行っちゃいました。
「まったく、雪蓮は抜け駆けが上手いわね」
「そうですね……」
「あは、あはははは……それで次は誰が一刀さんと踊るんですか?」
「「……」」
「……じゃんけん、しましょうか?」
「それが良いわね。手加減は無用よ」
「ええ、もちろんです!いきますよ……じゃんけん!」
「「「ぽん!」」」
こうして二日間の学園祭は終わりました。
え?踊る順番ですか?それは……
「くっ!私が最後ですって!」
「やったー!私、二番目だよ愛紗ちゃん!」
「よかったですね、桃香さま。私は三番目です」
おわり
葉月「こんにちは~、一週間ぶりになります」
桃香「みなさんこんにちは桃香です」
葉月「今回のお話はちょっとぶっ飛びすぎちゃいました。支離滅裂になっている気がします」
桃香「特に執事喫茶のところが話しが飛びすぎてた気がするね」
葉月「そうなんですよね。あんなきっかけで話が通じるわけが無いと自分でも思ってるんですが今の私ではあれが限界でした」
桃香「そっか、それじゃ次は頑張ろうね!」
葉月「はい、精進します。それにしても、桃香さん。随分と積極的にキスしてましたよね」
桃香「は、恥ずかしいですからあんまり言わないでください」
葉月「まあまあ、さてさて今回のお話は如何だったでしょうかね」
桃香「私が見た夢って何か意味があるんですか?」
葉月「あるような無いような。それは秘密です」
桃香「ふえ~、秘密なんですか」
葉月「はい、秘密です」
桃香「そう言えばこれで全員プレゼントを貰ったんですよね?」
葉月「いえ、まだ雪蓮が貰ってませんよ」
桃香「あれ?ブレスレットしてたじゃないですか」
葉月「あれは雪蓮のじゃありませんからね」
桃香「そうだったんだ~」
葉月「(まあ、雪蓮以外覚えてませんからね)」
桃香「何か言いましたか?」
葉月「いいえ何も。さてとても積極的になった桃香さんでしたが、一刀さんの執事服姿は如何だったですか?」
桃香「わわわ!お、思い出させないでくださいよ~。思い出すだけで恥ずかしくなるじゃないですか」
葉月「恥ずかしくなるって何を思い出しているんですか?」
桃香「な、何ってそれは、その……と、とにかくかっこよかったです!」
葉月「夢見る女の子ですね~(ああ、きっと喫茶店出た後の妄想の事を思い出したんだろうな。言わないけど……)」
桃香「そ、それで次回のお話はどうなるんですか!」
葉月「そうですね。とりあえず16話、つまり学園際後の話になります」
桃香「それじゃ、なにか進展があるんですね?」
葉月「そのつもりです。とりあえず筋肉達磨が山脈を駈けずり回っているので早いところ回収しないと」
桃香「あは、あはははは……」
葉月「それでは皆さん。次回またお会いしましょう!」
桃香「ここまで読んでくれてありがとー!」
葉月「次回からは雪蓮がナビゲータに戻ってきます。では、また!」
桃香「ばいばーい!」
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拠点最後を飾るのは、学園天然ボケアイドル!桃香です!
一刀が自分の誕生日を覚えていないのではないかと思い悩む桃香。
しかし、そこにはちょっとした展開が!
では、お楽しみください
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