No.170415

真・恋姫無双アナザーストーリー 雪蓮√ 今傍に行きます 第15.2話

葉月さん

拠点第二段は愛紗になります。

男子剣道部には内緒で進められる女子剣道部の出し物とは一体?
そして、愛紗の恋の行方はどうなるのか!

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2010-09-04 21:38:47 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:5806   閲覧ユーザー数:4267

真・恋姫無双アナザーストーリー 

雪蓮√ 今傍に行きます 第15.2話

 

 

 

 

【学園祭二日目・前編(私のご主人様は執事様?)】

 

(チュンチュン)

 

「ん、もう朝か……」

 

カーテンを開け放ち朝の日差しを部屋へと入れる。

 

「今日もいい天気だ」

 

窓を開け放つと朝のひんやりとした空気が体を引き締めるようだ。

 

「さて、学園に行く準備をしなくてはな」

 

化粧台に座り髪を整える。ふと、化粧台に置かれた一枚の紙に目が留まった。

 

「……一刀さまに頂いたが私もこれでも同じクラスなのだが」

 

もちろん、クラスの出店の準備も手伝った、何をするかも知っている。だが、

 

「さ、流石に一刀さまに給仕の真似事をさせるのは如何なものかと思うのだが……」

 

ましてや、それを私などにやって頂くなど有ってはならぬこと!

 

「しかし、一刀さまのご好意を無碍にも出来ぬし、一体どうすれば……」

 

券を見ながら悩んではいたのだが、時計に目をやるとそろそろ登校しなくてはいけない時間に近づいていたので考えるのを止め、急いで支度を整えた。

 

「はぁ、困ったものだ。一体どうすれば……はぁ」

 

再び溜め息、自分が堅物なのはわかっているつもりだ。一刀さまからも、もう少し気楽に考えてみては、とも言われている。しかし、生まれ持っての性分ゆえ直そうにも中々直せないで居るのだ。

 

「やはり、一刀さまにお返しを……しかし、それでは一刀さまを悲しませる結果にならないだろうか?……う~む」

 

「あ~いしゃちゃん!おはよ!」

 

「ひゃぁああっ!と、桃香さま?!」

 

「珍しいね。愛紗ちゃんが私に気がつかないなんて、何か考え事?」

 

しまった、考えに夢中で周囲の警戒を疎かにしてしまった。

 

「い、いえ。何でもありませんよ桃香さま」

 

「ふ~ん、そうは見えないんだけどな~?」

 

「うっ……き、気のせいですよ」

 

「そっか~、気のせいか~」

 

「はい、気のせいです」

 

「そっか、そっか♪……あ、一刀さんだ!」

 

「へぇ?!ど、どこですか?!」

 

慌てて辺りを見回すが一刀さまは見受けられなかった。

 

「えへへ、愛紗ちゃん嘘だよ。やっぱりなにか一刀さんの事で悩んでるんだね」

 

「うぅ、お人が悪いですぞ桃香さま」

 

まったく、一刀さまといい、桃香さまといい、人が悩んでいることにはこうも敏感なのだから……

 

「ごめんね。それでどうしたの?」

 

「実は……」

 

私は事の顛末を桃香さまにご説明をした。

 

「ふ~ん、それじゃ、愛紗ちゃんはそのチケットを一刀さんに返すか悩んでたって訳か~」

 

「はい、お気持ちはうれしいのですが、流石に給仕の真似事をさせるのは心苦しく……」

 

「でもさ、結構人気みたいだよ?昨日なんて行列が出来ほどだったんだから!」

 

「そ、そうなのですか?私は、剣道部の方の出し物に掛かりっきりでしたので行くことは出来ませんでしたが」

 

「うん、凄かったよ!私もクラスの模擬店で忙しくて行けなかったんだけど、一刀さんの執事服姿がすっごくかっこよくってね!今日は、絶対に一刀さんのクラスの執事喫茶に行くんだ~♪」

 

桃香さまも私と同じ券を手に取りクルクルとその場で踊るように周っておられた。

 

「と、桃香さま、危険ですよ!」

 

「平気平気!……「おっとっ!」きゃん!いったーい」

 

桃香さまは出会いがしらに相手にぶつかってしまい鼻を押えておられた。

 

「だから言ったではありませんか!申し訳ない。こちらの不注意で」

 

「いや、いいさ。桃香も相変わらずだな、鼻大丈夫か?」

 

「ふへ?あ、かふとさんだ!」

 

桃香さまがぶつかったお人は一刀さまであった。

 

一刀さまはいつもの柔らかい笑顔を桃香さまに向けていた。

 

「ダメだぞ桃香。ちゃんと前を見て歩かないと」

 

「えへへ、ごめんなさい。でも嬉しかったから♪」

 

「なんか嬉しい事でもあったのか?」

 

「内緒だよ一刀さん!ね、愛紗ちゃん!」

 

「え?あ、は、はい」

 

「なんだよ。そう言われると尚更気になるぞ」

 

「一刀さん、しつこい男の子は嫌われちゃうんだよ?」

 

「うっ、桃香や愛紗に嫌われるのは嫌だな」

 

一刀さまは苦笑いを浮かべながら頭をかき、これ以上聞いてくることは無かった。

 

「そう言えば」

 

「ん?どうしたの一刀さん」

 

「ああ、昨日桃香も愛紗も顔を見せに来なかったけど忙しかったのか?」

 

「うん、私のクラスまだ準備が終わってなくてお昼にやっとオープンできたんだよ」

 

「恥ずかしながら、剣道部も下級生の女子に頼んでいたのですが当日風邪で休んでしまい。急ぎ、取りに行ったのですが結果的に昼過ぎになってしまったのです」

 

「二人とも大変だったんだな……そう言えば剣道部の模擬店はどうなってるんだ?俺知らないんだけど」

 

「あっ!私も知りたい!愛紗ちゃん教えて!」

 

「あ、そ、その……です」

 

「「え?」」

 

「うぅ~」

 

ああ、恥ずかしい不動殿恨みますぞ!

 

「み、耳かき屋、です……」

 

「「耳かき屋?」」

 

「……はい」

 

事の発端は一ヶ月前にさかのぼる……

 

「さて、そろそろ学園祭の出し物を決めなければならぬでござるが、なにかやりたいものはござらぬか?」

 

男子抜き(と言っても一刀さまを含め男子は二人しか居ないのだが)で話は始められた。

 

「たこ焼きやなんてどうしょうか!」

 

「だったら焼きそばの方がよくないですか?」

 

様々な意見が出るが全て決定打には至らないで居た。そんな中……

 

「ふむ、中々決まらぬでござるな……あと意見を言っていないのは、愛紗殿だけでござるな。何かあるでござるか?」

 

「わ、私ですか?!」

 

行き成り白羽の矢が立ち思わず動揺してしまった。

 

「そう硬くならなくて良いでござるよ、気楽に」

 

「そ、そうは言ってもですね……」

 

「ふむ、なら愛紗殿が北郷殿にやってあげたい事はなんでござるか?」

 

「か、一刀さまにですか?料理とか」

 

「それは良くやっているのでござろ?新たに挑戦してみたいことでお願いするでござるよ」

 

「新たに挑戦……」

 

その時、テレビで見たある光景を思い出した。

 

「あっ」

 

「お、何か思いついたでござるか?」

 

「え、いや、ですが……」

 

「いいから言ってみるでござるよ」

 

「は、はい、耳かきを」

 

「耳かき、でござるか?なんでまた?」

 

「そ、そのテレビで彼女が彼氏に耳かきをしているのを見て一刀さまにもやって差し上げたいなと思っただけで」

 

「なるほど、耳かき屋でござるか……」

 

不動殿はなにやら考え込み始めた様子でなんども頷きやがて、

 

「よし、今年の模擬店は耳かき屋をするでござるぞ!」

 

「え、えええ?!そ、そんな簡単に決めていいのですか?!み、みなの意見は!」

 

「なに、問題ないでござろう。どうだ皆のもの、反対意見はあるでござるか?」

 

「何か面白そうだね」

 

「でも、人の耳の中見るんだよ?」

 

「でも小さい時は、お母様にしてもらっていたわよ?」

 

「それでもさ、男子の耳とかもやるんだよ?」

 

「好きな殿方の耳なら……」

 

「「なるほど」」

 

皆思い思いに喋っているが結果として、

 

「問題ないです」

 

「という事で決定でござるな!ちなみに当日まで男子部員にも秘密だ!判ったでござるな!」

 

「「はいっ!」」

 

「はぁ、私の一言がこのような事態になるとは……」

 

「どうかしたのか愛紗?」

 

「いえなんでもありません」

 

「ねえねえ一刀さんの休憩時間っていつなんですか?」

 

「ランダムだからな~、わかったらメール送るよ」

 

「ホント!絶対だよ一刀さん!」

 

「ああ、約束だ。愛紗にもメール送るからさ都合がつきそうな時間が有ったら来てくれると嬉しいな」

 

「そうですね。私もクラスには顔を出さなければと思っていたのでうかがわせていただきます」

 

「ああ、絶対だぞ」

 

一刀さまの笑顔で胸の奥が暖かくなる。この笑顔を独り占めしたいと思う反面、それが悪い事なのではないかと思う気持ちもあった。

 

「あ、そうだ。俺今日早く行かなきゃいけないから先に行くな!」

 

「うん!がんばってね一刀さん!」

 

「おう!桃香も愛紗も今日一日頑張れよ!」

 

手を振り遠ざかっていく一刀さまを見送っていると桃香さまが話しかけてきた。

 

「えへへ、実はね。嬉しい理由はもう一つあるんだ~」

 

「なんでしょうか?」

 

「雪蓮さんや琳さんには言って無いんだけどね。今日、私の誕生日なの♪」

 

 

「そ、そうなのですか?

それはおめでとうございます」

 

「ありがとう愛紗ちゃん!でも、一刀さんからは何も言われなかったな~」

 

「そう言えば、一刀さまには教えたのでしたね」

 

「そうなんだよ~。まさか、忘れちゃってるのかな~」

 

「そのような事は無いと思いますが……」

 

「でもでも!学園祭準備で忙しかったし、忘れてても仕方ないような気がするんだよね」

 

「そ、それは……」

 

確かに、ありそうな話ではあるが一刀さまがその様な大事な事をお忘れになるのだろうか?

 

「はぁ~、まあ、一刀さんと一緒に模擬店を回れると思えばそれでもいいかな♪」

 

表面上は明るくしてはいるが、内心、一刀さまに祝ってもらえず落ち込んでいるのでしょうね。

 

「桃香さま!きっと大丈夫ですよ。一刀さまが忘れるはずありません!ですから、待ってみましょう。そして祝ってもらえなかったのなら一発叩いてしまえばいいのです!」

 

「ええっ?!流石に叩くのは一刀さんに悪い気も……」

 

「何を言うのですか!女性の生まれた日を忘れるなど男としては最低ですぞ。構いません私が許します。それとも変わりに私が変わって差し上げましょうか?」

 

「あ、愛紗ちゃんが叩いたら一刀さんが空を飛んじゃうような……」

 

「なっ!そ、そこまで強く叩くつもりはありません!」

 

「ホント?」

 

「本当です!まあ、そうですね……では、五割くらいの力で叩きましょう。それならどうですか?」

 

「えっと……わ、私が叩こうかな?なんて」

 

「そうですか?桃香さまがそう仰られるのであれば、私がとやかく言う必要はなんですね」

 

「うんうん!……愛紗ちゃんは五割って言ってたけど、あんまり手加減出来るようには見えないんだよね……」

 

「なにか、仰られましたか?」

 

「ううん!なんでもないよ!ほら、私たちも早く学園に行こ!」

 

「そ、そうですね。」

 

桃香さまに背中を押され急かされるように学園に向った。

 

「それじゃあね愛紗ちゃん!よかったら私のクラスにも来てね!」

 

学園に着き、下駄箱で上履きに履き替えた後、桃香さまと別れた私は、クラスへは向わず剣道場へと向った。

 

学園祭の間は使えないクラスがあることもあり、基本的には出席は取らない事になっているそうだ。

 

「おはようございます」

 

「ん?おお、愛紗殿か朝早くご苦労な事でござるな」

 

「それは不動殿もそうでございましょう」

 

「これでも一応部長でござるからな。朝早く来て皆を迎えねばな」

 

周りを見回すと数人の生徒が既に準備を始めていた」

 

「所で、北郷殿は来るように誘ったのでござるか?」

 

「そ、それは、その……」

 

「なんだ、誘ってはござらんのか?」

 

「は、はい……」

 

「まったく、試合では強気なくせに色恋になると途端に弱くなるでござるな愛紗殿は」

 

「うぅ……」

 

「まあよいでござるよ。某に任せるでござる」

 

「如何なさるのですか?」

 

「それは秘密でござるよ。まあ、愛紗殿にも北郷殿にも悪い話ではござらんよ」

 

「は、はあ……」

 

不動殿は安心しろと言っておられるがなぜか物凄く嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

「さて、愛紗殿も荷物を置いて仕度を手伝ってくれ、某は少々所用を思い出したので出かけてくるでござる」

 

「どちらに行かれるのですか?なんだったら私もお手伝いを」

 

「いや、対した用事ではござらんよ。愛紗殿にはここの準備を任せるでござるよ」

 

「わ、わかりました」

 

「うむ、では任せたぞ」

 

そのまま部室を後にする不動殿だったのだが、先ほどと同様、嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

しかし、その予感も後にとんでもない事になるのだが今の私にはそれを知るすべは無かった。

 

そして、学園祭が始まった。

 

「ふむ、昨日と対して変わらぬでござるな。やはり女子が多いでござるな」

 

「そうですね」

 

「やはり、憧れの先輩に耳かきをしてもらえるのがよほど良いのでござろうな」

 

「そんなものなのでしょうか?」

 

「愛紗殿も北郷殿に耳かきなぞされて見たいでござろ?」

 

「なっ!わ、私はそのような事は!」

 

「はっはっは!照れておる時点で肯定しているのと同じでござるよ」

 

「うっ……」

 

恥ずかしさの余り顔がどんどんと赤くなってきてしまった。

 

ああ、こんな状態の時に一刀さまが来られたら私は一体どんな顔をすれば!

 

あ、いや。私はお誘いしていなかったのだな……一刀さまが来られるはずが無い。

 

一瞬にして恥ずかしかった気持ちが心苦しくなった。

 

「愛紗殿はコロコロと表情が変わり面白いでござるな」

 

「そのような事はありません!」

 

私の気持ちを知ってかしら知らずか、いやきっと判っていて言っているのであろうな。ですが今はありがたいです。

 

「まったく、不動殿は人をからかいすぎですぞ」

 

「なに、学園祭だ。少しは羽目をはずさなくては疲れてしまうでござるよ」

 

不動殿と話していると俄かに騒がしくなってきた。

 

「ふむ、今日も盛況でござるな。だが少しうるさいでござるな」

 

「そうですね。やはり校外から来る方々のせいなのでしょうか?」

 

「そうかもしれんでござるな。しかし、ここは安らぎを求めてくる場所でござる。少し静かにするように言ってくるでござるよ」

 

「でしたら。私が行ってまいりましょう。今は手が空いておりますゆえ」

 

「おお、ではお願いするでござるよ」

 

「御意」

 

一礼して外で騒いでいる者に静かにするよう伝える為に出入り口へと向った。

 

「申し訳ない。少し静かにしていただけ無いだろうか」

 

「やあ、愛紗」

 

(ピタッ)

 

「……」

 

「あ、あの愛紗?」

 

「……」

 

「おーい」

 

(バンッ!)

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

な、なぜここに一刀さまが居られるのだ?!

 

扉を開けるとそこには軽く手を上げて微笑み掛ける一刀さまが居られた。

 

どうやら、一刀さまが現れて女子がざわめいていたのが原因なのであろう。

 

「ではなくて!な、なぜここに一刀さまが居られるのだ?」

 

「なに騒いで居るのだ愛紗殿」

 

「不動殿、じ、実は……っ?!ま、まさか……」

 

「?」

 

「不動殿、学園祭開始前にどちらに行かれてましたか?」

 

「む?ああ、少々北郷殿のところへな。それがどうかしたでござるか?」

 

「ど、どうかしたかではございません!なぜそ『おーい、愛紗どうかしたのか?』っ!」

 

そこで不動殿は納得がいったのかニヤリと笑って私を見ていた。

 

「なるほど、北郷殿が急に来て驚いていた。と、言ったところでござるな」

 

「や、やはり不動殿の仕業だったのですね」

 

「なに、先輩が後輩に愛の手を差し伸べてやっただけでござるよ。北郷殿!入られよ!」

 

「なっ!」

 

(ガラガラッ!)

 

「あっ!」

 

止める間もなく一刀さまは剣道場の扉を開けて入ってきてしまった。

 

「良く来たな。北郷殿」

 

「まあ、不動先輩に呼び出されたら来ないわけには行かないじゃないですか」

 

「そういいつつも、いつも逃げているのは何処の誰でござったカナ?」

 

「あ、あはは……薮蛇だったか」

 

頭をかきながら苦笑いする一刀さまに軽く溜め息を吐く。

 

「それで俺を呼んだ理由は何ですか?」

 

「うむ、それはでござるな」

 

っ!しまった!。不動殿をお止めしなくては!

 

「不動殿やめっ「北郷殿には愛紗殿の耳かきをして貰おうと思って来てもらったでござるよ」!」

 

お、遅かった……

 

「……へ?い、今なんていいました?」

 

「愛紗殿に耳かきをして貰えと言ったのでござるよ」

 

「え……えええ?!な、なんでですか?!」

 

「そう言う出し物だからな」

 

「だ、出し物って……」

 

「ちゃんと生徒会からも許可は得ているでござるよ。昨日、新生徒会長が直々に来て堪能して帰ったくらいだ」

 

「……本当なのか愛紗?」

 

「……はい」

 

「もしかしてその相手って……」

 

「私です……」

 

ああ、昨日の事を思い出すだけで……い、いけない。忘れなければ!

 

昨日のことを思い出しそうになり首を振って頭の片隅へ追いやる。

 

「なんていうか。ご苦労様愛紗」

 

「うぅ……ありがとうございます。一刀さま」

 

一刀さまの労いの言葉に思わず泣きそうになってしまった。

 

「では、参ろうか」

 

「どこにですか?」

 

「どこにではない。愛紗殿に耳かきをして貰うことに決まっているではないでござるか」

 

「あ、忘れてなかったんですね」

 

「当たり前でござる。そもそも、この店は「あー!あー!ああああーーーーっ!」愛紗殿どうかなされたか?」

 

「なんでもありません!か、一刀さまどうぞこちらへ!」

 

「あ、う、うん……ちょわ!」

 

一刀さまの手を取り素早く不動殿から離れた。

 

「純情でござるな愛紗殿は」

 

後ろからは不動殿のそんな声が聞こえてきたがそれを無視して出来るだけ道場の端の方へと行く。

 

「一刀さま!」

 

「は、はい?!」

 

「なぜ来られたのですか!」

 

「え?だって不動先輩に愛紗が俺に用があるから休憩時間になったら直ぐに来るようにって言われてきたんだけど」

 

あ、あのお人は……

 

「あ、あの愛紗?」

 

「何でもありませんよ」

 

「それで、その……本当に耳かきしてくれるの?」

 

「っ!そ、その……お嫌でなければですが……」

 

「そんな!俺なんかでよければ」

 

「で、では早速準備をさせていただきますね!しょ、少々お待ちくださいご主人様!」

 

「ちょ!あ、愛紗!それ止めてって!」

 

「あ、し、失礼しました。うれしくなるとつい……」

 

「は、ははは……まあ、仕方ない、かな?」

 

うぁあ……う、うれしすぎてつい出てしまった。これでも気をつけていたつもりだったのだが……

 

恥ずかしがりながらも急いで準備をして一刀さまの元へと戻る。

 

「お、お待たせしました。それでは始めさせていただきます」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

「で、でででは!こ、こここ、こちらに頭を向けて寝てください!」

 

私は自分の膝を叩いて一刀さまを向いいれる。

 

「う、うん。それじゃ、失礼して……」

 

「っ!」

 

か、かか、一刀さまが今、私の膝の上に!ああ、なんと柔らかい髪の毛だ……

 

「あはは、なんだか照れくさいな」

 

「そ、そうですね!」

 

いかん、いかん、落ち着かねば耳かきは慎重に行わなければ、一刀さまに怪我をさせてしまっては行けない!

 

「で、では、始めさせていただきます」

 

(プルプルプルッ)

 

「あ、あの愛紗?すごく手が震えているんですが?」

 

「だ、大丈夫です」

 

「そ、そう……」

 

(プルプルプルッ)

 

「あ、愛紗?」

 

「何でしょうか今、手が離せないのですが」

 

「うん、なんて言うかさ凄い緊張してないかな~って思って」

 

「そのような事はありません」

 

(プルプルプルッ)

 

「……はぁ」

 

「か、一刀さま?」

 

「ちょっと落ち着こうよ愛紗」

 

「わ、私は落ち着いています」

 

「だったらなんでこんなに手が震えてるんだ?」

 

「こ、これは……武者震いです!」

 

「……愛紗は気負い過ぎだってもう少し楽にやろうよ」

 

「ですが、一刀さまに怪我でもされては!」

 

「こんな状態でやられたほうが怪我するよ」

 

「あぅ……」

 

確かに、あれだけ震えていては……はぁ、私としたことが……

 

「……ふぅ~」

 

「ひゃう?!」

 

落ち込んでいると急に耳に息を吹きかえられて変な声が出てしまった。

 

「な、何をなさるのですか一刀さま!」

 

「え?緊張を解こうと思って」

 

「これでは緊張も何も……あれ?」

 

「取れたみたいだね。それじゃお願いしようかな」

 

一刀さまは笑顔を見せてまた私の膝に寝転んでくださった。

 

ふふふ、あなたという人は……

 

「では、始めますね」

 

「ああ、よろしく頼むよ愛紗」

 

一刀さまの頭をそっと押えると、ふわっと髪からお日様の匂いが鼻をくすぐり、その匂いにまた落ち着く事が出来た。

 

「如何ですか一刀さま?」

 

「ああ、気持ちが良いよ。耳かき上手いな」

 

「ありがとうございます」

 

耳の中はさほど汚れては居なかったがそれよりも一刀さまの耳の掃除を出来る事が私にはとてもうれしかった。

 

「一刀さま、右の耳は終わりました。次は左の耳を掃除します」

 

「ああ」

 

向きを変え左の耳も掃除をする。

 

「はい、これで終了です。お疲れ様でした一刀さま」

 

両耳合わせて僅か5分足らずだったが充実した時間となった。

 

「んーっ!ありがとう愛紗。気持ちが良かったよ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、またやって貰いたいくらいだよ」

 

「で、でしたらいつでもお言いつけください!」

 

「ああ、その時にお願いするよ」

 

「はいっ!」

 

こうして念願だった一刀さまへの耳かきは無事に終わった。

 

「一刀さま!何処に参りましょう!」

 

あの後、不動殿に休憩に入ってもいいと言われたのでそのまま一刀さまと模擬店巡りをしている。

 

「そうだなー。……あっ!あそこに入ろうか」

 

「どれで、す……か……」

 

あ、あれは……

 

「ん?どうかしたのか愛紗?」

 

「い、いいえ!なんでもありません!」

 

「そうか?なら行って見ようか!」

 

「えっ!ちょ、か、一刀さま?!」

 

一刀さまは私の手を取り目的の場所へと歩いていった。その場所とは……

 

「やあ、雪蓮」

 

「あら、一刀じゃない!それに愛紗ももしかしてデート?」

 

そう、ここは雪蓮殿のクラスが出しているお化け屋敷、だ。

 

「ははは、そんなところかな?」

 

「ぶー、何よ弄りがいが無いわね~。それで?別に冷やかしに来たわけじゃないんでしょ?」

 

「ああ、二人で入ってみようと思ってね」

 

「何?暗がりの中、愛紗を襲うつもり?一刀って獣~」

 

「な!そんなことするわけ無いだろ!雪蓮が絶対に怖いから来て見ろって言うから来たってのに」

 

「はいはい、そんことで拗ねないのニ名ね。400円よ」

 

「はい、400円ね」

 

「毎度~♪ちょっと待っててね……二名入るけど平気?」

 

入り口から顔を突っ込み中の様子を伺う雪蓮殿だったが、今の私にはそれど頃ではなかった。

 

大丈夫だ、怖くない怖くない……わ、私は武人だ!これしきの事で怖がってどうする!関雲長の名が廃るぞ!

 

「うん。いいわよ。って一刀、愛紗どうしたの?」

 

「え?……愛紗、どうかしたのか?」

 

「はい?!な、なんでもありませんよ!」

 

「なら行こうか」

 

「は、はい!」

 

「……ふ~ん、なるほどね……ふふふ」

 

部屋に入る間際、雪蓮殿は私を見て不敵な笑みを浮かべていたが私はそんなことは気づかずに部屋の中へと入っていった。

 

「へー、結構本格的に作ってあるんだな」

 

「……」

 

無言のまま一刀さまの後ろを歩く。

 

(ガタガタッ)

 

「っ?!」(ビクッ!)

 

「お!へー、どうやって揺れてるんだこの灯篭?」

 

な、何のこれしき……

 

(ヒュー)

 

「っ?!」(ビクビクッ!)

 

「うわ!凄いなどれだけ本格的に作ってあるんだ?」

 

な、何のまだまだ……

 

『いちま~い、に~ま~い、さんま~い』

 

「ひっ!」(ビクビクッ!)

 

「おお!お菊さんか!確か一枚皿を割っちゃっただけで殺されちゃった人だよな?」

 

は、ははは、こんなの怖くもなんとも、

 

『きゅ~ま~~い……一枚た~~り~~な~~~~い~~~~~~っ!』

 

(ガバッ!)

 

「……ひ、ひゃあああああああっ!」

 

「あ、愛紗?!」

 

「……きゅー」

 

(バタッ)

 

「ちょ!あ、愛紗!しっかりしろ!」

 

「あらーやりすぎちゃったかしら?」

 

「雪蓮?!」

 

「ちょーっと脅かそうと思って抱きついただけだったのに、まさか気絶するなんて思わなかったわ」

 

「とにかく出口に向おう」

 

「あ、いいな~。私もお姫様抱っこしてよ~」

 

「機会があったらな」

 

「ケチー!」

 

「うっ、ここは……保健室?」

 

起き上がりあたりを確認するとそこは保健室だった。

 

「あ、目が覚めた?もう大丈夫か?」

 

「え、ええ。私は一体……」

 

「お化け屋敷で気を失ったんだよ」

 

そうだ、たしか後ろから何かに抱きつかれて……

 

「雪蓮もあそこまで驚くとは思わなかったらしくてさ。ごめんって謝っといてて言われたよ」

 

「そう、でしたか……」

 

そんなことより、一刀さまに醜態を晒してしまった事の方が私としては重大な事だった。

 

「それにしても以外だったよ。愛紗がお化けが苦手だったってことに」

 

(ビクッ!)

 

「でもさ、そうい「軽蔑なさるでしょ?」愛紗?」

 

「たかだか、お化けごときにあそこまで取り乱してしまい、気絶までしてしまったのです。軽蔑して当たり前です」

 

「別にそんな事思ってないよ」

 

「一刀さまはお優しいからそのような事を言うのです。きっと心の中では……きゃっ!か、一刀さま?!」

 

急に肩を掴まれベットに押し倒されてしまった。

 

「か、一刀さまなにを?」

 

「愛紗が俺の言った事を信じないなら……信じてくれるまで離さないよ」

 

「お、御戯れをかずっんん!」

 

なっ!ななな!な~~~~~~っ!

 

「んっ……か、かじゅ……ひゃ、ま……あっ……お、おひゃめ……ちゅっ……ひゃ、い……」

 

一刀さまを引き離そうとするが上から押さえつけられているせいか引き離す事が出来ない。

 

「……あいひゃが……ちゅっ……ひんじてくれるまへ……んっ……じゅる…………止めないよ…………」

 

「ひょ、ひょんなっ!んんっ!………………ご、ごひゅひん、ひゃ……は、はげひふぎ…………ちゅぱ…………す!」

 

私の抗議に一刀さまは耳を貸さずさらに舌を私の口の中へと進入させてきた。

 

「ご主人様じゃ…………ないだろ?…………ちゅっ…………」

 

「か、ひゅと…………ひゃ…………まっ!……んちゅっ…………」

 

一刀さまは一向に止める事は無かった。

 

「ひゃっ!…………こ、こんひゃことを……ぷっあ…………ひゃれては!…………こ、ここは…………んっ……がくへんでふぞっ…………」

 

「んっ……愛紗が…………俺の事………………ちゅっ……信じてくれれば…………やめるよ…………ちゅぷっ……」

 

「ひ、ひんじまふ!…………んんっ!……ひんじ……ま、ふ…………から……ひゃめ、て…………ひゃい…………あっ」

 

そこで一刀さまは口からはなれて笑顔で、

 

「信じてくれてよかった」

 

「うぅ~~~卑怯ですよ。一刀さま」

 

「愛紗が素直じゃないからいけないんだよ」

 

「どうせ、私は素直じゃなお偏屈女です」

 

「愛紗は直ぐにそうやって自分を悲観するんだからな」

 

「誰のせいだと思っているのですか?」

 

「さあ?」

 

まったく……あなたと言う人は……

 

「あ、あの一刀さま、一つお願いがあるのですが?」

 

「ん?なんだ?」

 

「もう一度、そ、そのキスをしていただけ無いでしょうか……」

 

「ああ、喜んで」

 

目を閉じ一刀さまの口付けを待つ。

 

「んんっ!」

 

「「っ!」」

 

「恋愛は大いに結構だけど、場所を選んでくれるとうれしいわね」

 

ベットの向こうで白衣を着た女性が苦笑いを浮かべていた。

 

「す、すいません」

 

「うん。まあ、今は私しか居ないから良いけれどね。でも学生なんだからもう少し節度を持ったお付き合いをしなさいね?ふふふ」

 

「~~~~っ」

 

「は、ははは……」

 

「いいわね~。若いって。私もあと10歳若ければな~」

 

「先生もまだお若いじゃないですか」

 

「あらあら?お世辞でもうれしいわね」

 

「お世辞じゃありませんよ。先生はお綺麗ですよ」

 

「~~っうれしい事言ってくれるわね。北郷君は」

 

「……」

 

「いててててっ!あ、愛紗?」

 

「……」

 

「な、何怒ってるんだ?」

 

「……しりません!」

 

「あらあら、北郷君はもう少し女の子の気持ちを考えた方が良いかもしれないわね?」

 

「は、はあ……」

 

「それに噂は聞いてるわよ。学園中の女子に好かれてるんですってね?」

 

「え、そんなわけ無いじゃないですか」

 

「……こんなに鈍い子も初めてね。そこがいいのかしら?」

 

「?」

 

「ふふふ、あなたはあなたのままで居ればいいって事よ。ね?彼女さん?」

 

「わ、私が彼女?!そ、そんな私が彼女だなんて……」

 

わ、私が一刀さまの彼女……彼女……

 

「ポーーーー」

 

「あ、愛紗?」

 

「はっ!な、なんでもありませんよ!」

 

「ふふふ♪可愛らしいわね」

 

「か、一刀さま!私はもう平気ですので次に参りましょう!」

 

「あー、そうしたいのはやまやまなんだけど、そろそろ戻らないといけないんだよね」

 

「あっ……」

 

時計を見ると既にお昼を過ぎていた。

 

「そう、ですよね……」

 

残念だが仕方あるまい。一刀さまにもクラスの仕事があるのだから。

 

「んー……そうだ!愛紗はまだ休憩時間あるんだよな?」

 

「え?はい。まだ、ありますが……」

 

「なら行こう!」

 

「行くとは何処へ?っ!か、一刀さま?!」

 

私は慌てて上履きを履き一刀さまに手を握られそのまま走り出した。

 

「あらあら、お幸せに~♪」

 

後ろからは愉快そうに白衣の女性がとんでもない事を言っていたがそれを否定する間もなく保健室から出て行った。

 

「何処へ行かれるのですか?!」

 

「俺らの教室だよ」

 

「なぜ教室へ?」

 

「愛紗に耳かきしてもらった御礼に今度は俺が愛紗に尽くす番だよ」

 

「え、ええっ?!そ、そのような事は!」

 

「いいからいいから!」

 

「えっ!ちょ!か、一刀さま?!」

 

一刀さまは私の手を取り教室へと歩き出し、私は戸惑いながらも一刀さまについていく。

 

「か、一刀さまにそのような事をさせるわけには!」

 

「そんなこと気にすること無いって、いつも愛紗にはお世話になってるんだから、そのお礼もかねてさ」

 

「で、ですが!」

 

「はいはい。もう少しで着くからね~」

 

「わ、私の話を聞いてください~~~~っ!」

 

なすすべも無く教室まで来てしまった……

 

「ちょっと待っててくれ。あっ、前に渡したチケットくれるかな?」

 

「これですか?」

 

「そうそう。じゃ、待っててね」

 

そう言うと一刀さまは教室の中へと入っていかれた。多分、執事服なるものに着替えるのだろう。

 

部活の出し物の手伝いでクラスの手伝いには一度も顔を見せておらず一刀さまの執事服姿も一度見ては居なかったな。

 

「一体どういう服装なのだろうか?」

 

興味が無いわけではないが一刀さまに侍女のようなことをさせるわけにはいくまい。

 

「うむ、やはり一刀さまには申し訳ないがお断りさせて頂き、この私が一刀さまのじ、侍女に……」

 

そ、そうすれば公衆の面前で一刀さまにご主人様と言えるではないか!うむ、これは名案だ!

 

(ガラガラッ)

 

考え事をしていると教室の扉が開き、

 

「お帰りなさいませ。愛紗お嬢様、どうぞこちらへ」

 

一刀さまの笑顔に出迎えられた。

 

「……」

 

私はその姿に見惚れてしまい声も出せなかった。

 

「如何なさいましたか愛紗お嬢様」

 

「へ?!な、なんでもないでござるよ?!」

 

わ、私は何を言っているのだ!

 

「さようでございますか。では、こちらへどうぞ」

 

「は、はぃ……」

 

恐縮してしまい返事が尻込みしてしまった。

 

「こちらにお座りください。愛紗お嬢様」

 

「は、はい」

 

別室に案内され、言われるままに椅子に座りメニューを渡される。

 

「如何なさいましょう」

 

「で、でで、ではこれを!」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

礼をとり部屋から一刀さまが出て行かれるとどっと疲れがでてきた。

 

「はぁはぁ、あ、あれは流石に不味いぞ。まともに一刀さまのお顔が見れないではないか……ぽっ」

 

思わず頭の中で先ほどの一刀さまの姿を思い出すと頬が熱くなり惚けてしまいそうになる。

 

「い、いかんいかん!しっかりするのだ愛紗よ!」

 

自分を奮い立たせるように首を振った後、頬をニ・三度叩く。

 

「よしっ!もう大丈夫だ!」

 

「お待たせいたしました。愛紗お嬢様」

 

「ひゃい!」

 

あぅ、大丈夫と言ったそばから声が上ずってしまった……

 

「こちらはオレンジペコに本日のおススメの苺のタルトでございます」

 

目の前に紅茶とケーキが並べた後、一刀さまは私の後ろに回った。

 

「あ、あの一刀さま?」

 

「何でございましょうか?」

 

「なぜ後ろに立つのですか?」

 

「ここがわたくしめの立ち位置なので」

 

「た、食べずらいので出来れば座っていただきたいのですが?」

 

「ご命令とあらば」

 

「そ、そんな!一刀さまに命令など出来るわけがありません!」

 

「ですが、わたしくはご命令が無い限り、ご一緒する事は出来かねますので」

 

「う……お、願いではダメでしょうか?」

 

そこで一刀さまは苦笑いを浮かべ、

 

「では、ご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「は、はい!よろこんで!」

 

思わず笑顔になって喜んでしまう。

 

「愛紗お嬢様、一つお願いがございます」

 

「?なんでしょうか一刀さま?」

 

「わたくしの事は『さま』を付けず呼び捨てでお呼び下さい」

 

「そ、そんな恐れ多い事出来るわけがありません!」

 

「私はあくまで執事でございます。主が執事に対して『さま』をつけるのはおかしいことかと」

 

「し、しかし……」

 

「しかしではありませんよ」

 

「うっ……」

 

「さあ、一刀と及び下さい。愛紗お嬢様」

 

「か……」

 

い、言っていいのか?言ってしまっていいのか?!

 

「か、かか……」

 

どうする私!

 

そこでなぜか、三枚のカードが頭の中に浮かんできた。

 

一枚目:思い切って呼び捨てで呼んでみる。

 

二枚目:無理だ!やっぱり一刀さまと呼ぶ。

 

三枚目:戦略的撤退だ!逃げる!

 

どうする私よ!どうする!

 

答えはWebで!ってちっがーーーーう!

 

ええい、こうなれば!

 

「かっ!……かずと……はぅ!」

 

「はい」

 

「……きゅ~~~」

 

ああ、もう死んでも良いかもしれない。

 

呼び捨てで呼んだことによる恥ずかしさと一刀の笑顔も合わさり頭から湯気が出て倒れてしまった。

 

「うぅ、一刀さまにあんな醜態を二度も晒すとは……」

 

あの後、目を覚ました私は倒れる前のことを思い出し恥ずかしさのあまり教室から逃げ出してきたのだった。

 

「これでは、一刀さまに合わす顔が無いではないか」

 

廊下を歩きながらボソリと呟く。

 

「……一刀」

 

その呼び捨てに呼ばれた名前は私の心を暖めてくれた。

 

「一刀……」

 

名前を呼ぶたびに暗い気持ちが私の中から消えていくようだった。

 

「あ、居た居た、おーい、あい「一刀、ふふふ♪」……え?あ、愛紗?」

 

「え?……し、ししし雪蓮殿っ?!」

 

後ろを振り返ると雪蓮殿が驚いた顔で私を見ていた。

 

「あ、愛紗?今、なんて言ったの?」

 

「こ、これはっ!ち、違うのです!か、一刀さまが無理やり!」

 

「っ!む、無理やりですって!」

 

「ああっ?!そ、そういう意味ではなくてですね!」

 

「じゃ、どういう意味なのよ」

 

「で、ですから!一刀さまが執事で!私が主で!ああ!で、でも一刀さまはご主人様で!私はその家来で!」

 

もう、自分でも何を言っているのか判らなくなってきていた。

 

「ああっ!もういいわ!直接一刀に聞きに行くから!」

 

「うわああ!お、お待ちください雪蓮殿!」

 

「ええ、その手を離しなさい愛紗!」

 

なんとか雪蓮殿の腕を取りここに止まらせようと試みる。

 

くっ!なんて力だ。私が力負けしているだと?!

 

おそらく雪蓮殿は怒りの余り無意識に気を使っているのだろう。だが、このまま行かせては一刀さまに危機が!

 

「あ、愛紗。こんな所にいたのか!」

 

「っ?!」

 

「っ!!」

 

ああ、一刀さま。なぜ、あなた様はこう間の悪い時に来るのですか!

 

「一刀!覚悟ぉぉおおっ!」

 

「し、しまった!一刀さま、お逃げください!」

 

「へ?……ぶほぁっ!」

 

雪蓮殿は私を振り切り、一刀さまに向かい思いっきりお腹に鋭い一発をお見舞いしてしまった。

 

「か、一刀さまっ!」

 

「一刀答えなさい!愛紗に何をしたの!」

 

倒れていた一刀さまの上に乗り襟首を揺する雪蓮殿を慌てて止めようとする。

 

「ナ、ナニヲシタッテ?」

 

「ナニをしたのね?!私を差し置いて愛紗を愛するなんて許さないんだから!」

 

「ちょ!し、雪蓮?!」

 

「ちょ!し、雪蓮殿!ご、誤解です!私と一刀さまはまだしておりません!」

 

雪蓮殿のまさかの告白に私も慌てて誤解をとことしたが、

 

「まだ?!それじゃ、いつかするつもりだったのね!」

 

「ああっ!?こ、これは言葉のあやで!」

 

逆効果になってしまった~~~!

 

「もうどうでもいいわ。一刀行くわよ!」

 

「い、行くって何処へ?」

 

「決まってるでしょ。保健室よ!」

 

「「ちょっ!」」

 

『きゃあああああっ!』

 

私と一刀さまはそろって驚きの声を上げ。

 

周りの野次馬からは黄色い悲鳴が木霊した。

 

「あ、愛紗!と、とにかく雪蓮を連れて落ち着ける場所で話すぞ!」

 

「はい!雪蓮殿!とにかく移動しましょう!」

 

「ええ、いいわよ!詳しく聞こうじゃないの!ナニの話を!」

 

「だから誤解です。雪蓮殿っ!!」

 

「あははははっ!な~んだ、そんなことだったんだ!」

 

荒れる雪蓮殿をなんとか屋上に連れ出した私と一刀さまは雪蓮殿になんとか事情を説明して誤解を解いた。

 

「もう、早く言ってくれればいいのに」

 

「言おうとしてるのに雪蓮が暴走して聞こうとしてくれなかったじゃないか」

 

「あはは~、そうだったけ?」

 

「はぁ、まあ、誤解が解けてよかったよ」

 

「でも、それじゃ一刀の初めてはまだってことよね?ふふふ、だったら私が頂いちゃおうかしら?」

 

「「なっ!」」

 

雪蓮殿は舌なめずりをして一刀さまを艶かしく見つめる。

 

「な、何を考えているのですか雪蓮殿!」

 

「あら、別に良いじゃない?それとも愛紗が一番乗りでもするつもり?」

 

「なっ!ななななぁーーーーーーっ!」

 

(ボフンッ!)

 

「雪蓮、からかい過ぎだぞ。愛紗は純情なんだから」

 

「なによ~。私がピュアじゃないみたいに言うじゃない」

 

「そ、そんなこと言って無いだろ?とにかく!これでこの話はもうおしまい!」

 

一刀さまはこれで解決とばかりに両手を叩き、横では不服そうな雪蓮殿が頬を膨らませていた。

 

「それじゃ俺はクラスに戻るから」

 

「はい、本日はとても楽しかったですありがとうございました」

 

「俺も楽しかったよ」

 

笑顔で答えると一刀さまも笑顔で答えてくれた。

 

「ぶー、なによ。二人だけで笑っちゃってさ……いいも~ん、絶対にいつか最初に一刀を食べてやるんだから♪」

 

「し、雪蓮殿!た、食べるとか言わないでください!」

 

「それじゃあ、頂く?」

 

「同じです!」

 

「もう、だったらなんて言えばいいのよ!」

 

「あは、あはははは……」

 

一刀さまは苦笑いを浮かべるしかなく、私はというと、

 

「で、ですから!その……こういった事は公に言うのではなく……その~ごにょごにょ……」

 

顔を赤くしてモジモジとしていた。

 

おわり。

 

葉月「9月に入り残暑が厳しい日が続いておりますが如何お過ごしでしょうか?こんにちは葉月です」

 

愛紗「愛紗だ」

 

葉月「え、それだけですか?」

 

愛紗「うむ、どうもこういった事は苦手でななんて言えばよいものか」

 

葉月「そんなの……『はぁい!みんなの恋人!愛紗で~す!』くらい言えればいいんじゃ……嘘ですごめんなさい。ですから青龍刀を収めてください」

 

愛紗「まったく、いつも思うのだがおふざけが過ぎるのではないか?」

 

葉月「ま、まあまあ。とりあえず今回のお話について語りましょうよ」

 

愛紗「うむ、そうだな」

 

葉月「(ふぅ、危うくお説教モードになるところだった)」

 

愛紗「何か言ったか?」

 

葉月「いえ何も、それよりどうでしたか主従逆転は?」

 

愛紗「正直、もうこりごりだな。一刀さまに命令するなど出来るわけが無いだろ」

 

葉月「そう言いながらゲームでは色々と買い物とか頼んでませんでしたか?」

 

愛紗「そ、それは、ご、ご主人様が聞いてくるのであって、私からは……」

 

葉月「でも、頼んでるんですよね?」

 

愛紗「うっ……ええい!その話はもう良いではないか!次の話に移るぞ!」

 

葉月「あ、逃げた」

 

愛紗「なにか?(すちゃっ)」

 

葉月「ナンデモアリマセン」

 

愛紗「よろしい(スー)」

 

葉月「さて、ではずばり聞きましょう。一刀に耳かきをした観想をどうぞ!」

 

愛紗「そ、そうだな……と、とてもうれしかったのは確かだな。あれが女の喜びというものなのだろうか?」

 

葉月「ああ、私も愛紗に耳かきをしてもらいたい!」

 

愛紗「は?」

 

葉月「いえ、何も言ってませんよ。さて、次回ですが」

 

愛紗「うむ、とうとう。桃香さまの出番だな」

 

葉月「ええ、それにしても拠点を書くたびに思うのですが」

 

愛紗「何だ?」

 

葉月「なんでこんなに甘ったるいんですか?」

 

愛紗「……書いている本人からそんな事を言われるとは思わなかったぞ」

 

葉月「いやだってですよ?毎回毎回一刀にチューしたり、チューされたりじゃないですか」

 

愛紗「チューとか言うな!恥ずかしいではないか」

 

葉月「ピュアですね~。愛紗は」

 

愛紗「う、ううううるさい!いいからもう終わりにするぞ!」

 

葉月「はいはい。ではみなさん。次回をお楽しみにしていてください!次回のゲストは桃香です」

 

愛紗「桃香さまの活躍をしかとその目に焼き付けるのだぞ!」

 

葉月「……ドジっ子さの間違いでは?」

 

愛紗「なにか?(すちゃ)」

 

葉月「なんでもありません!」

 

愛紗「そう言えば、話が途中になっていたな、お前はおふざけが過ぎる!いつもいつも……グチグチ」

 

葉月「(ああ、これから二時間も愛紗の説教を聞かないといけないのか……)」

 

愛紗「聞いておいでですか!」

 

葉月「はいぃっ!」


 
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