No.168106

真・恋姫無双 蒼穹の果てに 第一章 第三話

ぽややんさん

真・恋姫無双の二次創作小説です。

ようやく恋姫の女性キャラの登場です。

2010-08-25 19:34:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:61005   閲覧ユーザー数:41423

 

洛陽の雰囲気が先帝の喪に沈む中、明るい1つの朗報が届けられる。

黄巾賊の壊滅、その首謀者『張角』の捕縛と斬首。つまり、黄巾の乱の終結宣言である。

この報告に皇帝『劉弁』は喜び、乱鎮圧に関わった名のある指揮官達を官職の有無を問わず全て洛陽へ招いた。

今日もまた新たな軍勢が洛陽の凱旋門を通り、その指揮官が皇帝の元へ喜びの報を献じ行く。

洛陽の民達は拍手喝采で迎え、皇帝の名において振る舞われた酒を飲み、新皇帝万歳を叫んで洛陽はお祭り騒ぎ。

各地の乱を転戦して連戦連勝、江東の虎と名高き『孫堅』とその娘『孫策』と『孫権』。

今はまだ小さな力しか持たないが、一番手柄である大将首『張角』を挙げた才知溢れる『曹操』。

官職も支配する土地も持たないが、義勇兵を集めて無視できないほどの勢力となって活躍した『劉備』。

今、後の世に英雄と呼ばれる者達全てがこの洛陽に集っていた。

 

 

<視点:一刀>

 

 

「……賑やかだな」

 

ここまで微かに届く街の喧騒が気になり、寝台に横臥して読み耽っていた書を閉じて立ち上がる。

しかし、開け放たれた窓辺に立っても街の様子は見えず、解ってはいたが一抹の寂しさを感じて溜息をついた。

今居る2階の高さをもってしても、ここ昭儀宮に広がる見事な庭園の終点は高い塀によって外界とを遮っていた。

 

「やっぱり、遊びにいきたい?」

「そりゃ、そうだろう」

「でも、外出は禁止されてるしね」

「そうなんだよな。

 ……って、ちょっ!? お前、何処から入ってきたんだ?」

 

心中を察する声に同意するが、誰も居るはずのない隣を驚きにギョッと振り向き、思わず身構えて後ずさる。

まるで何事もなかったかの様に立つ筋肉ダルマ。あの王允との会合の中で出会った貂蝉がそこにいた。

この怪人、『ご主人様』と初対面の時から俺を呼び慕い、誤解する王允の押し付けもあり、今や俺に仕えていた。

見た目のインパクトは確かにきついが、それさえ気にしなければ、明け透けてて話し相手には愉快な奴だった。

正直、10年を連れ添った奥さんが亡くなり、数週間も沈んでいた俺を諦めず元気づけたのは貂蝉の他ならない。

だから、感謝もしているし、信用もしている。だが、この神出鬼没ぶりだけはどうか止めて欲しいものだ。

先日も就寝中に寝返りをうったら目の前にこいつの顔があり、真夜中に大騒ぎを起こしたのも記憶に新しい。

ちなみに、外出禁止の理由、それはこの宮を取り仕切る侍従長からの単なる罰である。

あの会合があった日、単身のお忍びで釣りへ出かけた上、午前様で帰宅した事を未だ許されていなかった。

聞くところによると、俺が行方知れずと知り、取り乱した奥さんが洛陽周辺に大規模な捜索網を敷いたらしい。

そんな後ろめたさもあり、侍従長のご機嫌を日々伺いながら禁が解けるのを大人しく待っていた。

 

「普通にそこの入口からだけど?」

「ありえん。いつもながら、何者なんだ。お前」

「ウフ♪ 乙女には秘密の1つも、2つもあるものよん♪」

「誰が、乙女ぢゃ」

 

貂蝉は疑問に応えて部屋の入口を指さすと、その人差し指を俺の頬へ寄せてツンツンと突きだした。

その上、顔の輪郭に沿って指を這わせ、頬から顎、顎から首、首から鎖骨へと移し、身をしなだれかける。

 

「もう、つれないお人♪ でも、そこが……。す・き♪」

 

慌てて手で追い払うと、貂蝉は力無くヨヨヨッと崩れ落ちて横座り、胸を両手で弱々しく覆い隠した。

決して、この姿に騙されてはいけない。

普通に慕ってくれるのは嬉しい。俺には特殊な趣味はない為、そっち方面の期待は応えられないが。

それ故、つい気色悪いスキンシップにきつく当たり、傷つけてしまったかなと最初は反省もした。

だが、しかしだ。俺は知っている。これが罠である事をだ。迂闊に近づいたら、何をされるか解らない。

貂蝉は初訪問時にその見た目故に呼び止められ、武装する衛兵数人を相手に素手で大勝利をあげていた。

それ以来、何処をどの様に来るのか、誰の目にも止められる事なく、警備が厳しい俺の部屋へ訪れている。

そんな一騎当千の武力と神行太保の素早さを併せ持つ男が俺の力程度で倒れるはずがない。

 

「やめれ、人を呼ぶぞ。それより、今日は何の用なんだ?」

「本当につれないんだから……。

 なら、頼まれてた件。ご希望の董卓の軍勢がやってきたわよ」

「ようやくか。真っ先にとは言わないが、もっと早く来るもんだと思ってたがな」

 

もう慣れて助け起こす気すら沸かず、溜息と共に寝台へ戻り、何事もなかったかの様に横臥して読書再開。

 

「……で、どうするの?」

「俺自身が招いても良いが、余計な詮索を受けてもつまらん。頼めるかな?」

「良いわよん。早速、行って来るわね」

 

貂蝉は唇を乙女チックに尖らせていたが、本へ視線を一瞬だけ落とした隙に貂蝉の気配が突然なくなる。

 

「お前は忍者か……。」

 

顔を違和感に上げると、貂蝉の姿は最早何処にもなく、開け放たれた窓から爽やかな風だけが吹き込んでいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「あっ!? 連環の計、どうしよう?」

 

貂蝉が去ってからしばらくの時が過ぎ、ふと重要な問題に思い当たった。

董卓と言えば、貂蝉を使った美人の計から始まる連環の計が有名だが、あの貂蝉では無理だろう。無理すぎ。

董卓が男色家ならともかく。いやいや、あの怪人では男色家でも無理、無理。相当な特殊趣味でない限り。

 

「悩んでも仕方がない。まだ手は他にもあるさ」

 

だが、策は既に動き出しているが故に止められず、董卓の人となりを確かめてから考えようと問題を先送りした。

 

 

<視点:月>

 

 

「昭儀様はこの奥の書庫に御座います」

「は、はい」

 

歩きながら横目に見た事もない見事な庭園に目を奪われていると、先導している侍女から声がかかった。

返事をする声が思わず上擦ってしまう。この先に先帝様の寵愛を一身に受けた方がおられると思うと。

侍女は一礼して今来た道を帰ってしまい。その後ろ姿を見送りながら胸がドキドキと高鳴ってゆく。

どうして、なんだろう。どうして、昭儀様とは全く面識もない私がここにいるのだろう。

事の始まりは、洛陽着任の挨拶を何大将軍に告げ、宮殿から城外に設営した自陣へ帰る道中だった。

一人の童女が私の馬へ近寄り、渡された一通の文。

その内容は、昭儀様が私と内密にお会いしたがっているとの事。

しかし、先ほど言った通り、昭儀様とは全く面識もない私が呼ばれる理由が解らない。

強いて言うなら、国の祭事で招集があった際、先帝様との仲睦まじさを遠目に拝見した事があるだけ。

最初は文が偽物とも疑った。面識もない上に身分があまりに違いすぎるから。

それでも、もし本当だったら無視する訳にもいかず、昭儀宮を半信半疑で訪ねてみたら本当の事だった。

そうなると次は別の疑問が。何故、昭儀様は面識もない私を呼んだのだろう、と。思考がグルグルと回る。

応接室に残った親友曰く、もしかしたら見初められたのかもとか、もしかしたら食べられちゃうのかもとか。

 

「へぅ……。た、食べられちゃうのかもって」

 

想像に俯いた顔が真っ赤に染まっているのが解る。耳まで熱くなっている。

だが、このまま立ち止まっている訳にもいかない。お待たせしては迷惑をかけてしまう。

緊張にドキドキする胸の高鳴りは止まないが意を決して頷く。

歩を進めて案内のあった書庫へ辿り着き、その光景に緊張を吹き飛ばして目を驚きに見開いた。

 

「っ!?」

 

部屋を埋め尽くす本、本、本。入口を除く三方の壁を書棚が天井まで埋め、床にも所狭しと平積みされた本の山。

まるで大陸中の全ての本がここに集まったのかと思うほどの量。親友がこれを見たら喜んで読み漁るに違いない。

そんな中、昭儀様は奥の書棚へ向かい、背中を見せて立っていた。

 

「……と、董仲穎、お呼びにより参上いたしました」

 

再び胸が緊張に高鳴り、足が竦んで一歩下がろうとするのを堪え、その背中へ声を精一杯に出して一礼した。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「あ、あのぉ~~……。」

 

もう何度目となるだろうか、声を幾らかけても昭儀様は背を向けたまま私に気づいてくれない。

元々、声が小さいと良く言われる方だ。親友もたまに自信をもって喋りなさいと私を叱る。

自信、自分に1番足りないものだと自覚しているけど。

それにこうも気づいて貰えないと弱気になってくる。声も弱気にドンドンと小さくなっているのが解る。

小心者の自分自身が恨めしい。この悪循環に涙が出そうになる。頼れる親友も今はここにいない。

 

「あ、あのぉ~~……。」

「……おや?」

 

とうとう涙が溜まって鼻声になりかけた頃、願いが届いたのか、昭儀様が本棚から振り向いて気づいてくれた。

 

「あ、あのっ! わ、私っ!」

 

好機到来、今を逃してはいけない。ところが、今度は不意な状況に慌ててしまって声が詰まって出てこない。

頭の中が真っ白となり、口をアウアウと声にならない声を出していると、昭儀様が優しくニコリと微笑む。

その微笑みに焦る気持ちがたちまち軽くなってゆく。

ようやく願いが通じた嬉しさに胸の前で手を組み、乾いた喉に唾を飲み込んで礼儀を欠いてはいけないと名乗る。

 

「ああ、聞いてるよ。今日から入る新しい娘だろ?

 早速で悪いけど、仕事を頼めるかな。お茶を部屋の方までお願いしたいんだけど」

「……え?」

 

しかし、昭儀様に先手を取られた上、予想外過ぎる要求を受け、思わず呆然と目が点になって呆ける。

恐らく、何か勘違いをされているのだろう。それは間違いない。

 

「だから、お茶を部屋の方までお願いね。解らない事は先輩達に聞けば良いよ」

 

だが、昭儀様は重ねての指示を出すと、再び本棚へ振り向き戻ってしまう。

 

「あっ!?」

 

すぐさま呼び止めようと手を思わず伸ばすも昭儀様の注意は引けず、伸ばした指先がヘニャリと力無く落ちる。

そのままの体勢でしばらく佇んでいたが、本を読み始めた昭儀様が私に気づいてくれる事はないだろうと悟る。

 

「は、はい……。」

 

部屋を一礼して退出すると、涙が1粒だけホロリと零れ、自分の呆れる弱気さに『馬鹿』と罵って落ち込んだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「あ、あの、お持ちいたしました」

 

先導してくれた侍女に手伝って貰ったが、なかなか上手くいかず、何度も煎れ直した末に成功したこのお茶。

おかげで、味見を何度もするはめとなってしまい、歩く度にお腹の中がチャプチャプと鳴っているのが解る。

 

「やあ、ありがとう。……うん、美味しいよ。

 でも、ちょっと遅かったね。まあ、追々慣れていけば良いよ」

「は、はい」

 

そんな努力の賜物を一口飲み、読書中だった昭儀様は微笑んで褒めてはくれたが、すぐに読書に戻ってしまう。

ここで諦めては先ほどの二の舞。目を決意にギュッと強く瞑り、声を精一杯に張り上げる。

 

「あ、あのっ!」

「ん?」

 

突然、大声を出した私に驚いたのだろう。本から顔を上げた昭儀様が、私を不思議そうに見つめる。

 

「あ、あの……。」

「うん、何かな?」

 

その視線に決意がたちまち鈍り、昭儀様の視線に見つめられれば見つめられるほどに言葉が詰まってゆく。

言葉を探して口籠もり、困り果てて目も彷徨い始めたその時。ふとそれが目に止まった。

椅子に座る昭儀様の後ろ。天蓋から薄布がかけられた寝具とその中にある見るからに柔らかそうなフカフカ寝具。

同時に思い出す親友の言葉。もしかしたら見初められたのかも、もしかしたら食べられちゃうのかも。

全身が急速に熱くなってくるのが解る。一度、意識してしまうと止まらない。

 

(ど、どうしよう! ど、どうしたら、良いんだろう!

 求められたら断れない。断ったら、どうなる事か……。

 でも……。でも、こういう事はお互いにもう少し知り合ってからだと思うの!

 それに、それに……。それに、そう! 胸、ちっちゃいし! 先帝様と違って、おっきくないし! 

 うん、そうよ! 昭儀様、きっとがっかりするんじゃないかな! それで諦めて……。

 ……って、自分で言ってて悲しくなってきた。うっ、ううっ……。どうしよう。どうしたら、良いんだろう)

 

顔が火照って火照ってたまらない。思考もグルグルと回って混乱する。

視線が寝台から昭儀様の顔、昭儀様の顔から寝台へと交互に忙しなく動く。

 

「ああっ!……ごめんね。気づかなくて」

「っ!?」

 

その視線に気づいたらしく、昭儀様は首を傾げた後、本を机に置いて全てを察したかの様に大きく頷いた。

遂にその時がきた。一瞬にして混乱は消え去り、昭儀様の次の言葉を待って体が強張る。

 

「うん、これだね。

 珍しいだろ? 南蛮で作られてる果物で『バナナ』って言うんだよ。お近づきの印に1本あげよう」

「え!? あっ!?

 ……あ、ありがとうございます」

 

すると何を勘違いしたのか、昭儀様は目の前の机に盛られた果物の1つを微笑みながら差し出した。

 

「良いって、良いって。それより、これからよろしくね」

「へぅ……。」

 

挙げ句の果て、昭儀様は私の頭を満足そうに撫でると、これで話は終わりと言わんばかりに読書を再開する。

瞬く間に集中して読書するその姿。最早、昭儀様の意識が私へ戻ってくる事はないだろうと悟る。

 

「……失礼しました」

 

部屋を一礼して退出すると、涙が1粒だけホロリと零れ、自分の間の悪さに『馬鹿、馬鹿』と罵って落ち込んだ。

 

 

<視点:詠>

 

 

「……月、大丈夫かしら」

 

先帝からの贈り物なのだろうか、部屋には見事な調度品の数々があるが、今の僕には眺めている余裕はなかった。

ちなみに、月というのは、私『賈駆文和』の仕える主であり、幼なじみの董卓仲穎の真名である。

先ほど冗談で笑って月を北昭儀との会談へ送り出したが、北昭儀の用件は恐らくこうだろう。

先帝の遺児である劉弁と劉協。劉弁は皇帝、劉協は陳留王となったが、これは先帝の遺言によってではない。

何故かは知らないが、先帝は遺言を残さず、次期皇帝を定めずに逝った。

帝位継承権順位で言うなら打倒なところだが、劉弁が病弱で寝込みやすい体質なのは有名な話。

政務を牛耳る宦官達にとって、その方が御しやすいだろうが、それを良しとしない者達がいるはず。

ましてや、この帝位継承は遺言によって行われたものではない。何皇后と何大将軍のごり押しによるもの。

一方、まだ幼い劉協を後見、養育しているのは董貴人。何の教養も持たない顔だけのつまらない優男だ。

しかし、姓名が同じ『董』で気づくかも知れないが、月の遠い親戚にあたるだけ油断は出来ない。

もしかしたら、彼の動向一つで累が月にまで及ぶ可能性もなくはないのだ。

事実、今行われている北昭儀との会談もその意味合いを持つのだろう。

未だ強い影響力があるとは言え、寵愛が大きかっただけに先帝が崩御した今となっては立場が危うい北昭儀だ。

まず間違いなく、月を間に介して董貴人と結び、劉協を擁立したいと考えているのだろう。

僕は学んだ知識を生かしたい。どこまで通用するのかを試してみたい。

月自身は野心をあまり持たないが、これから来るであろう乱世を駈け上り、月を王とさせてあげたい。

だから、北昭儀との会談は上を目指す第一歩となりえる。なりえるが、もし、もしもだ。

北昭儀の人となりを聞く限りはあり得ないが、冗談が本当となり、あの優しい月を泣かす様な事があったら。

 

「ボクは親友として、軍師として……。」

 

腕を組みながら忙しなく部屋をグルグルと回っていた歩を止め、決意に力強く握った右拳を目の前に掲げる。

もしも、月を泣かす様な事をしたら北昭儀とて只ではおかない。僕の全力をもって、懲らしめてやる。

だが、相手は僕と月の力を合わせても届かない巨大な敵である。生半可な策では通用しない。

再び腕を組んで考え込み、歩が自然と進んで部屋を回り出したが、僕の真名を呼ぶ声がかかって立ち止まる。

 

「詠ちゃん、何してるの?」

「……えっ!? 随分と早かったじゃない?」

 

その聞き慣れた声に視線を向けると、月が見慣れない果物らしき物をモグモグと食べながら首を傾げていた。

 

 

<視点:一刀>

 

 

「お待ちを! お待ち下さい!」

「ええい、離せ! 触るな!」

「詠ちゃん、止めて! 私は気にしてないから!」

「月が良くても、ボクが気にする! こんな無礼、許せない!」

 

長椅子に寝そべって読書をしていたが、廊下から聞こえてくる騒ぎ声に集中力が途切れる。

 

「……何事だ?」

 

本を閉じて立ち上がり、次第に近づいてくる騒ぎ声に興味を惹かれて廊下へ出ると、奇妙な3人連れがいた。

まず先頭に眼鏡をかけた勝ち気そうな女の子。

悪鬼羅刹の如く憤怒の表情で肩を怒らせ、その両肩から下がる三つ編みを振り乱しての極端な前傾姿勢。

その腰を抱きしがみつく本日新入りの侍女。元々気弱そうな眉がますます下がって困り果てている様子。

更に眼鏡っ娘を羽交い締めて踏ん張り、逆方向へ必死の表情で引っ張っている顔見知りの侍女。

どうやら、鼻息荒くフンフンと力づくで押し進もうとする眼鏡っ娘を2人が懸命に抑えているらしい。

 

「あっ!? しょ、昭儀様、申し訳ありません! こ、この者達が!」

 

顔見知りの侍女が自分に気づき、慌てて身を正しながら一礼した途端。

絶妙に保っていたパワーバランスが崩れ、眼鏡っ娘と新入りの侍女が勢い余ってつんのめり転ぶ。

 

「「キャっ!?」」

 

そのまま2人はゴロゴロと転がって目の前で止まり、年頃の乙女にはきつ過ぎるあられもない姿をご披露。

新入りの侍女の方はまだ良い。着ているのが着物だけに被害は少ない。

仰向けとなって、乱れた裾から素足を露出しているが、太股から程度で絶対領域は辛うじて守られている。

一方、問題なのは眼鏡っ娘の方である。正直、かなり酷い。

先ほどまでの騒動で着崩れ、転んだ事で決定的になったのだろう。上着の留め具が完全に外れ壊れている。

裾の短い上着のチャイナ服が半分開き、黒い襟かけも外れ、右肩を露わにブラジャーの肩ひもを見せている。

いや、それだけならまだ良かった。深刻な問題はその体勢にある。

体をくの字に曲げ、腰を上、頭を下にした体勢。まるで前転の途中で時を止めたかの様な体勢。

もっと簡単に言うなら、新入りの侍女がブリッジに失敗し、眼鏡っ娘がスープレックスを食らったか様な体勢。

つまり、見事なくらい大股を広げた状態である。

黒いプリーツのミニスカートは完全に捲れ、その中にある黒ストッキングに包まれた白いお宝がもう丸見え。

あまりにも気の毒であり、目の毒でもある。たまらず顔を背け、2人を助け起こそうと手を差し出した。

 

「ええっと……。大丈夫?」

「……は、はい」

「痛っ!?」

「え、詠ちゃん?」

 

だが、新入りの侍女は受け入れてくれたが、眼鏡っ娘は俺の手を打ち払い、身を翻して自力で立ち上がった。

 

「無礼を承知で申し上げる!

 我が主を侮った先ほどの件! これに関して、是非とも説明を頂きたい!

 侍女扱いをして、茶を運ばせるとはどういうご了見か!

 確かに貴方から見たら、片田舎の単なる州刺史で取るに足らない存在やも知れません!

 ですが、この扱いはあまりにも……。北昭儀とて、いくらなんでも戯れが過ぎる! 応えて頂こう!」

 

そして、食ってかかる勢いで猛然と俺を捲し立て、その迫力に思わず一歩後退して更に上半身も反らす。

 

「詠ちゃん、私なら良いの。だから……。」

「良くない! こんな扱い、あんまりだよ!」

 

すぐさま新入りの侍女が眼鏡っ娘の腰に両手を回して抱き宥めるが、眼鏡っ娘の憤りは止まらない。

 

「う~~~ん……。どういう事?」

「な゛っ!?」

 

しかし、怒りの矛先を向けられても理由が解らず、眉を困惑に寄せながら視線を顔見知りの侍女へ向けた。

その様子に眼鏡っ娘は己の憤りがまるで伝わっていないと知って絶句。

 

「こちら、お客様の董仲穎殿です。そして、こちらはそのお付きの賈文和殿」

 

すると事情を察したのか、顔見知りの侍女が左掌を右拳でポンッと叩き、新入りの侍女と眼鏡っ娘を紹介した。

 

「……はっ!?」

 

何を言っているのかがサッパリと解らず、たっぷりと時間をかけて理解するが、目の前の現実が信じられない。

董卓と言えば、悪逆非道。悪逆非道と言えば、董卓。それくらい三国志初期のキーパーソンとして有名な董卓。

そのイメージが強いせいか、どんな三国志でも獣の様なギラつく目をした髭面の巨漢として描かれる事が多い。

 

「うむぅぅ~~~……。」

 

腕を組みながら天井を見上げて唸り、しばらく目を瞑想するかの様に瞑った後、改めて目の前の少女を観察する。

獣の様なギラつく目。どう見ても、獣と言うよりは小動物系。ハムスターの様に純真な瞳。

髭面の巨漢。女の子に髭があったら怖い。小脇に抱えて、お持ち帰りしたくなる可愛らしさ。

何処をどう取っても違う。違い過ぎる。目を手で擦ってみても、やはり目の前の現実は変わらない。

こうなれば、残された方法はただ1つしかない。恐る恐る2人を指さして直接尋ねた。

 

「本当に……。董卓?」

「は、はい、董仲穎で御座います」

「……で、賈駆?」

「そうよ。じゃなくて、そうです」

 

新入りの侍女は恥ずかしそうに俯きながら頷き、眼鏡っ娘も混乱極める俺の様子に毒気を抜かれて頷く。

 

「もう一回……。董卓?」

 

それでも、まだ信じる事が出来ず、新入りの侍女へ念を押して尋ねた。

 

「はい、董仲穎で御座います。お呼びとの事で参上いたしました」

「えっ!? えっ!? えっ!?

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

応えて新入りの侍女は上目遣いを向けて再び頷き、イメージと現実のギャップに絶叫をあげるしか術はなかった。

 

 

<視点:一刀>

 

 

「……あの娘が董卓とはね」

 

会談を終え、片付けがまだで机に残る杯を飲み干し、先ほどまで対面に座っていた彼女の姿を思い起こす。

この世界が何処か変なのには慣れた。慣れたが、イメージと違いすぎる貂蝉にも、董卓にも改めて驚かされる。

この様子だと劉備、曹操、孫権と言った英雄達もどんな姿をしているのかが楽しみで仕方がない。

出来れば、この洛陽をせっかく訪れているのだから、すぐにでも見に行きたい。でも、外出禁止されているしね。

それはともかく、今回の会談は有益だった。当初の予定を少し変更せざるおえなくなったが悪くはない。

重要な問題点、連環の計をどうしようかと思っていたところだけにね。

三国志通りの董卓なら心も痛まないが、あんな良い娘を踏み台にするのはさすがに心が痛む。

初対面時にお茶を持ってきてくれたのも、勧めた酒を一口飲んで顔を真っ赤にさせてウンウンと唸るのも。

あの純真さが擬態ならかなりの策士だが、あれはどう見ても天然。可愛いすぎる。遙か昔に忘れた萌えを感じた。

 

「そして……。賈駆か」

 

続いて、出会いから波乱に満ち、会談中も厳しい表情をしていた眼鏡っ娘を思い起こし、つい失笑をこぼす。

時たま、董卓だけに見せていた笑顔。彼女、笑えば可愛いのにかなり損をしている。

しかし、董卓が天然だけにいつもそうなのだろうと察する。なにせ、眉間に皺が癖になって刻まれていたから。

席を勧めても固辞して主の背後に控える姿。会談中、主が困れば即代弁して有利に運ぼうとする知恵。

なかなか見事な忠誠心であり、互いが互いを想い合っている。聞けば、2人は幼なじみで親友との事。

董卓だけでは君主として難があるが、それを賈駆が上手く補っている。清濁を併せ持つ良いコンビと言える。

まだ他の部下達と会ってみなければ解らないがまず信用がおける。この後を進む道の共謀者たりえるというもの。

部下と言えば、董卓の軍師として有名な『李儒』が居ないらしい。賈駆が軍師との事でそれとなく聞いてみた。

確かに董卓の軍師の中の1人に賈駆も存在していたが、やはり三国志として有名なのは『李儒』である。

どちらかと言うと、賈駆は董卓に仕えた以後の李カクや曹操の軍師としてのイメージが強い。

しかし、2人とも揃って『李儒』と言う名前には全く心当たりがないと言う。

 

「……そうなると、そこかな?

 まあ、何にせよ。役者は揃い始めた……。やってみせるさ」

 

筋書き通りにいかないもどかしさが愉快でたまらず、歪む口元を掌で覆い隠しながら新たな策に思いを巡らせた。

 

 

あとがきなよもやま~

 

 

皆様の応援、ありがとうございます。

正直、自信がなかったのでとても嬉しいです。

で、やっと女の子キャラが出てきましたが、いかがだったでしょうか?

正直、2話の貂蝉のギャップネタと被っているんですが、やっぱり董卓のギャップネタも外せないなっと。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

霊帝の旦那様設定

 

何皇后

劉弁の父親、ぐうたらな姉に扱き使われてた元お肉屋さん。

霊帝が洛陽をお忍びで出かけた際に見初められて後宮入り。

姉同様に虚栄心が強く、成り上がりであるが故に失う事を恐れて嫉妬心が非常に強い。

あまりの嫉妬深さに霊帝も呆れ、一時期廃嫡されたが、宦官達の取り成しで復帰している。

 

北昭儀

最初は道化師として宮中に招かれたが、酔った霊帝が……で後宮入り。

王美人を除くと寵愛を最も受け、霊帝は1年の半分以上を北昭儀の元へ通っている。

何皇后の謀略に何度もあっており、かなり警戒している。

 

董貴人

劉協の後見人で月の遠縁、三国志の董太后がモデル。

反袁家の宮中工作によって後宮入り。

貴人の称号を貰いながらも、お忍びで娼館や賭場に通ったりと遊び人で評判が悪い。

しかし、それが何皇后の嫉妬を恐れての擬態であると知るのは霊帝と北昭儀しかいない。

 

王美人

劉協の父親、何皇后によって謀殺される。

霊帝が地方視察の際に見初め、連れて帰ってきた地方豪族の三男坊。

生前は圧倒的に霊帝の寵愛を受けていた。

 

袁美人

袁家の宮中工作により本人の意に反して後宮入り。

その為、霊帝との間に愛情は生まれなかったが、お互いに役割を認識した関係で終わる。

基本的には引き籠もり。

 

 

全員男性です。

最初は男だけに称号を変えようと思ったのですが、三国志の雰囲気が壊れるので敢えてそのまま使いました。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

董卓 仲穎(真名:月) 女

 

統率:7 武力:2 知力:6 政治:8 魅力:9

槍兵:C 弓兵:A 騎兵:A 兵器:C 水軍:C

野望:B 漢室忠誠:A 義理:A

特技:仁政(現在いる都市に所属する武将の忠誠度が自然低下しない)

装備:なし

 

元データより大幅な修正があります。武力、下方修正。政治と魅力を上方修正。

特技も月らしいものをとコレに変更。

 

 

 

賈駆 文和(真名:詠) 女

 

統率:8 武力:4 知力:9 政治:8 魅力:6

槍兵:S 弓兵:A 騎兵:B 兵器:A 水軍:C

野望:S 漢室忠誠:B 義理:S

特技:反計(仕掛けられた計略を見破ると同じ計略で反撃)

装備:眼鏡(武力-修正)一般品

 

魅力を少し上方修正、性格を修正。

 

 

数値基準

 

S:歴史上レベル 9:時代上レベル 8:国家のレベル 7:地方のレベル 6:一都市レベル

5:村や町レベル 4:得意なレベル 3:普通なレベル 2:苦手なレベル 1:困ったレベル

 

兵科適正はSの最優秀、Aの優秀、Bの普通、Cの苦手の4段階。

野望などの性格はSの非常に高い、Aの高い、Bの普通、Cの低いの4段階。

装備の修正は数値が上がると言う意味ではなく、同値と比較して有利になると言う意味です。

 

尚、これらの数値はとあるSLGの数値を基本として修正を加えた私の独断と偏見です。

皆さんの希望にそわない場合があるかも知れないのを予めご了承下さい。

 


 
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