夏の暑さは人の心に一瞬の油断を与える。
まさかこのわたしが、あんな失言をするなんて。
ほんと、全てはこの夏の暑さのせいだわ……
「……行かないで」
何を思ったのか、部屋から出て行く一刀を呼び止めていた。
「華琳?」
一刀が不思議そうな顔でわたしを見ている。
ああ、何でわたしは一刀を呼び止めてしまったのかしら?
一刀だって用事があるだろうし、ずっとこの部屋に居させるわけにはいかない。
それなのに――
暑さにやられてしまったのか、または寂しさを感じたからだろうか。
とにかく一刀に何処にも行って欲しくなかったのだ。
「華琳どうかしたのか?」
「何でも無いわ。いいから早く出て行きなさい」
行くなと言ったり、行けと言ったり、わたしは何を言っているのかしら?
「そうは言ってもな華琳……」
一刀はわたしの言葉に苦笑いを浮かべながら、ある場所を指差す。
「お前が俺の服の裾を掴んでるから、動けないんだよ」
「……あ」
指摘されて慌てて手を放す。
自分でも気がつかない内に一刀の服を掴んでいたようだ。
「なぁ、華琳。本当に何も無いのか? 何か言いたい事があるなら言ってもいいんだぞ」
「言いたい事なんて……」
そんなの言えるわけないじゃない。
わたしを一人にしないでなんて絶対に言えない。
「何も気にしなくていいわよ」
だからわたしは、普段通りを装う。
一刀は、わたしだけの物じゃないんだから。
「そうか。分かった」
それだけを言って一刀は――
何も言わずにただわたしの側に座っている。
何で? どうして? 何か用事があるんじゃないの?
「一刀。あなた用事があるんじゃなかったの?」
「ああ。確かに用事はあるし、この後仕事も控えてるぞ」
「じゃぁ、なんで――?」
こんな所に居るのよ!?
「寂しそうな顔をしていたから……」
「え……?」
「華琳が寂しそうな顔をしているから。今日は華琳の側に居るって決めたんだ」
「寂しそうな顔なんて……」
わたしがそんな弱い部分を見せるわけが――
「好きな女の子が悲しい想いをしているのに、それを無視して他の所に行くなんて俺には出来ない」
「…………ばか」
ほんと、この男はバカなんだから。
「だから今日は華琳の側にずっと居てもいいだろ?」
バカでスケベでエッチで変態な男。
そんな、どうしようもない男だけど――
「……察しなさいよ馬鹿」
一刀と一緒に居られるのは嬉しく思う。
幸せだと感じる。
こんな事、本人を前にして言うつもりはなかったけど、
「好きよ。一刀」
こんな暑さだ。多少おかしな事を言うのは仕方が無い。
だって、夏の暑さは人の心に油断を与えるのだから。
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恋姫†夏祭りをやっている事に最近気が付いたので、軽い気持ちで書いてみました。
華琳様がいる! それだけで十分なんです!
短いのは勘弁して下さい。