真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-
第74話 ~ やさしき月光の下、悲しみを詠む ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋
得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術
(今後順次公開)
詠視点:
かちゃ
傾けると共に、透明な液体が流れ出す。
もちろん、本当に透明と言う訳じゃない。
その証拠に茶碗に入った液体は、うっすらと色がついており、
白磁の茶碗と相まって、美しい色合いを醸し出していた。
うん、香りも下品にならない程度に、抑えられているわね。
幾つかの茶碗に淹れ終えた後、茶器の中を確認すると、
綺麗に葉が開いて、十分にお湯の中を茶葉が泳いだ事が確認できた。
ボクはそれを、茶を淹れるために抜け出したボクを残して、作業をしている皆の所に持って行く。
と言っても、朱里と雛里そして月がいるだけだけど、
「朱里さん、雛里さん、詠ちゃんがお茶を淹れてくれたから、休憩にいたしましょう」
「ええ、わかりました」
「……はぃ」
月に言われて、離れた机に集まってくる皆に、ボクは前もって用意してあった茶菓子と茶を配る。
ボクは、月が作り置きした菓子を一口口に放り込みながら、皆の様子をそれとなく注意深く伺う。
やがて、
「へぅ……詠ちゃんに、もう完全に抜かれちゃいました」
「そ・そんな事ないわよ」
「……そんな事ないです。 詠さんの淹れるお茶、凄くおいしくなってます」
「それって、以前は美味しくなかったってこと?」
「あわわっ、あの、そのっ」
ボクの意地悪な言葉に、雛里は慌てて何か言おうとして、結局すぐに旨い言葉が浮かばなかったようだ。
……それはそれで、結構傷付くけど
「冗談よ。
以前のボクの淹れたお茶がどんなものかは、ボクが一番よく知っているわよ。
香りは飛んでいる、茶葉の量も適当を通り過ぎて、濃いか薄いかの両極端、
その上蒸らすとか一切してなかったから、今思えば、あれは酷かったわよね」
ボクの言葉に、雛里は安堵の良き吐き、今度こそ美味しそうにボクの淹れたお茶を飲んでくれる。
うん、頑張って練習した甲斐があったかな。
そして、今まで黙ってボクの茶をゆっくり吟味していた朱里が、此方を見て笑みを浮かべながら、
「此れなら、もう私が教える事はありませんね」
「あ・ありがとう」
ボクは少し照れながらも、礼の言葉を朱里に告げる。
あれから、ボクはお茶を上手く淹れれるようになるため、身近で一番お茶を上手く淹れれる朱里に教えを受けていたんだけど、どうやら、免許皆伝のようね。
「……でも、まだまだなのよね」(ぼそ)
朱里の言葉に嬉しいと思う反面、つい漏らしてしまった言葉。
「今はこれで良いと思います。
お茶を喜んでもらおうとする想い、相手を心休ませたいと想う気持ちが大切だと思います」
そんな、ボクの漏らした言葉が聞こえてしまったらしく。
朱里はそうボクに言ってくれる。
「わかってるわよ。 それが一番大切だってことわね」
「どうやったら、あの方が入れるような茶を出せるか、それは私にも分かりません。
でも、その想いをきちんと持っていれば、いつか辿り着けると思います」
「まあね、ボクもこれで満足して、此処で立ち止まるつもりなんて、これっぽちもないわよ」
朱里の言葉に、ボクはそう言いかえして見せる。
……それにしても、『 あの方 』ね。
それに、一瞬陰らせた表情……、
まぁいいわ、朱里が話さないって事は、まだ話せる段階でないのか、それとも聞かせられない話かって事ね。
そもそも、ボク達は一応侍女の身、この場でこれ以上追及する訳には行かないわ。
「では、この調子で、他のお仕事も頑張ってくださいね」
「う゛っ……わ・わかってるわよ」
「そんな事ないですよ。 詠ちゃんは凄く頑張ってくれています」
朱里の言葉に、ボクは少し気まずくなる。
月は庇ってくれるけど、侍女の仕事としては、茶を入れる事以外は相変わらずで、朱里の言いたい事も分からないまでもないわ。
まぁ、それはおいおい頑張るとしても、朱里がそのつもりなら、ボクだってこの際言わせてもらう。
「でも、そう思うなら、侍女としての仕事をやらせてよね。
こうして内政の手伝いをするなんて、侍女の仕事じゃないわよ」
ボクはそう言って、手近の竹簡を片手で上げて見せる。
それはボクが茶を淹れる前に、書し貯めた街の整備案だったりする。
「はわわ、そそれは、その街の人間が急に増えて、処理する文官が・」
朱里の言いたい事は分かる。
別にボクもこの事自体は文句は無いし、嫌と言う訳じゃない。
街が良くなって、民が安心して暮らせるようになっていくのは、楽しいと思う。
だから、ボクの手腕を認めてくれて手伝わせてくれるのは、正直嬉しい。
でもね、………ボクは先程、報告書や案件の書類の中に紛れていた本を取り出し、
「こう言うのを読まされるのは、侍女の仕事じゃないと思うんだけど」
「「 あっ! 」」
「?」
私の手にした本に、表題に『 八百一 』と書かれた本に見覚えがある二人が、驚きの声を上げる。
一人、月が取り残されているけど、(うん、月はそのままの月でいてね)
大方なんかの時に、私物が混ざりこんだんだろうけど、
最初はそうとは思わなかったから、何かの情報が載っているかもしれないと思って最後まで読んでしまった。
こんなモノを読ませられたボクとしては、このまま済ませるつもりはないわ。
何度、意識が飛びそうになったと思っているのよ。
「これ二人の本?」
「はわわ、そ・それは」
「………あわわ、どうしよう朱里ちゃん」
「ふ~~ん、二人のじゃないのなら、こんな艶本なんて、燃やしちゃっても構わないわね」
ボクはそう言って、見せびらかすように、香炉から火をおこしだすと、
「はわわ、駄目っ、駄目です。
それは少数しか出ていない上、人気がありすぎて、もう手に入らないと言われている物なんですっ」
だから、軍師が、こんな事で慌ててどうするのよ。
相変わらずこう言う時の意識の切り替えが下手よね。
幾らボクより頭が回って、深い所まで読めると言っても、
即応できなければ、軍師としては、まだまだよ。
「その反応じゃ、やっぱり只の私物のようね」
「はぅっ」
「じゃあ、やっぱり一度痛い目を見て貰わないとね」
「はわわっ、駄目、駄目です。 それは後世に残す名作です」
何が名作よっ! 思わず鼻血が噴き出るところだったわよっ!
「それに、残しておけば、きっと●●●●以上で売れますっ」
「ぶっ!」
朱里の言った金額に、ボクは思わず吹き出し固まってしまう。
その隙に、朱里がボクの手から艶本を取り返し、盗られまいと背中に隠してしまう。
まぁ、わざわざまた取り上げるつもりはないけど、
「何で、そんな艶本に学術書並みの値段が付くのよっ!」
「確かに形は艶本ですけど、
最初に載っていた作者の作品は、文章の表現も美しく、艶本の枠を超えた芸術品です」
ボクの言葉に、朱里は珍しく力説して反論してきた。
たしかに、朱里の言いたい事は分かるわ。
世の艶本が全部ああいった物なら、一つの文学だと思うし、少数しか出ていないのなら価値が上がるのも分かるわ。
でも、結局は艶本よ、艶本っ! 世の中間違えているわっ!
「大体何よ、『 男の娘 』って造語はっ、
そんな言葉思いつくなんて、その作者、脳味噌に蛆でも湧いてるんじゃないのっ!」
「そんな事ありませんっ。 この作者は、今までにない手法や表現で作品を描いているだけです」
「だったら、何で艶本なのよ。 普通に文学書けばいいじゃない。
きっと作者は朱里みたいに、そういう事ばかり考えている妄想癖のある人間よね」
「違います。 生きる以上男女の営みはあってしかるものです。
この作者はきっと、その中で禁じられた行為だからこそ生まれる人の苦悩を・」
うん、ボクの失敗だったわ。
まさか朱里がこんなに熱く語りだすとは思わなかったもの。
その上、途中から引っ込み思案な雛里まで混ざりだすなんて、想像も出来なかったわ。
結局この後、艶本しかも、男同士の作品の必要性と素晴らしさを、延々と語られた上、
朱里と雛里の演説に刺激されたのか、月まで一度読んでみたいと言い出し、止めるボクを強引に巻き込んで読書会に移行してしまった。
月ぇ~~、頼むから、綺麗なままの月で、いてぇぇ~~~~~っ
数日後:
「では、袁紹はそこまで大軍を持って軍を進めながら、曹操を攻めずに引き返したと言うのか?」
「はい、袁紹さんは曹操さんの手の者の策に嵌り、引き返ざる得なかったのだと思います」
「策とは?」
「細作の報告では、増援を拒み、砦をあえて少数にしていたようです」
「それだけか? それで何故それが策になるのだ?」
「大軍を持って敵を打つのは、兵法の基本ですが、それも限度があります。
たとえばの話ですけど、愛紗さんは、子供の食い逃げ犯に対して、兵を千人動かしたら、どう思います?」
「成程、それは大人げないな、それに民に反感を買ってしまう」
「もちろん、こんな手は一度しか効きません。
次に同じ事やっても、二度目となれば、風評にさして影響は与えなくなるでしょう……」
何時もの定例報告に加え、最後に朱里が外の国の動きを報告する。
そして、朱里の報告に愛紗があえて、確認するように聞き返す事で、
事態の再確認や問題点を引き出すと言う何時もの流れ。
これは此れで良い流れだとボクは思う。
愛紗は自分から憎まれ役を演じているのは、この席にいる全員が知っている。
愛紗の想いも、不器用な優しさも、
だから、愛紗の冷たい言葉が飛び交うと言うのに、
この会議の場は、こんなに穏やかな空気が流れているのだと分かる。
「それで、袁紹さんは今どうしているのかな?」
「はい桃香様、今の所袁紹さんに大きな動きはありません。
おそらく河北四州を完全に掌握するため、内政と更なる軍備増強に力を注いでいると思われます」
「朱里よ、袁紹の次の狙いは、曹操かウチではないのか」
「はい、私も星さんの仰る通りだと思います。
引き続き、細作と軍備の増強に力を入れてはいるのですが……」
「限られた土地では、それも限度があると言う訳か」
「ええ、白蓮さんと、それなりの対策をしていたのですが、その策を実行に移す前に」
「白蓮殿が袁紹に滅ぼされてしまったと言う訳か」
「じゃあ朱里ちゃん、雛里ちゃんと一緒に何か良い案が無いか考えておいてくれるかな」
「はい」
「……わかりました」
桃香の言葉で、この議題は終わる。
たしかに、此処で考えてすぐ答えが出るようなら、とっくに二人が述べているものね。
やるべき事、考えるべき事は幾らでもあるから、桃香の判断は間違いではないわ。
でも………、先送りしているだけじゃ駄目なのよ桃香。
「それと、先日孫策さん率いる呉が、袁術さんを打ち倒し独立を果たした件ですが、詳しい報告が出ました」
朱里の言葉に、ボクは体が小さく震えるのが分かる。
やっぱり、この間の時点で、何か新しい事知っていたのね。
「孫呉は北郷さんを『 天の御遣い 』とし、袁術軍への反乱を『 天命 』と宣言しました。
その上で、北郷さんは『 天罰 』として、その袁術軍の先鋒をたった一人で、肉片に変えたそうです」
「「「「「な゛っ」」」」」
ズキッ
朱里の言葉に、皆が驚きの声を出す。
だけど、ボクは声が出なかった。
胸に走った痛みが、声を出す事を許さなかった。
朱里は、その後、民を扇動して袁術軍に精神的圧力をかけた事、
『天の御遣い』の『舌戦』と『 天罰 』の詳細
霞が、開戦後直ぐに呉についた事、
呉の精兵による猛攻で、あっという間に決着がついた事、
袁術と張勲が捕縛され、他の高官の殆どは斬首された事、
そして、あいつに付けていた細作が捕縛され、生きたまま送り返された事
そして、その細作や独力で戻って来た者から聞いた、あいつに関しての報告と噂、
皆も黙ってその話を聞いていたのだけど、
ただ一人、怒りに体を震わせていた。
そして、
どんっ!
「何が『 天の御遣い 』だっ! 何が『 天罰 』だっ!」
愛紗の机を強く叩きつけた音が、
愛紗の怒声が会議の場に、叩きつけるように響き渡る。
「あわわっ、愛紗さん落ち着いてください。 『 天罰 』にしても北郷さんが行ったとは考えれません。
おそらく北郷さん直属の部隊が・」
「同じ事だっ! いくら戦とは言え、その様な外道が許されるものかっ!」
……違う
「あわわ、それには訳が……」
「その上、捕えた敵君主を屋敷に住まわせ、に・に・肉奴隷などっ、は・破廉恥にも程があるっ」
「そ、それはただの噂であって、真実と言う訳では」
違うっ
「そんな奴が、桃香様を侮辱し、高尚な事を説いた等と」
バンッ! (ちがうっ!)
会議の場をそんな机を叩く音が響き渡り、
愛紗も、そして皆も、その音を出した者に黙って視線を集める。
「ごめん、気分悪くなったから、ボクは此れで抜けさせてもらうわ」
ボクはそう言って、部屋を退出しかけるけど、
「あわわ、詠さん待ってください。 この話には続きがあって・」
「だいたい分かったから必要ないわ。 呉軍袁術軍共に、戦の規模に反して死傷者は少ないとかね」
ボクはそう言い残して、部屋を独り後にした。
「はぁ~、何やってるんだろ」
ボクはあの後庭の東屋で、机に突っ伏しながら、ボクは一人呟く。
ここに来て、しばらく時間が過ぎたせいか、ボクの心は落ち着きを取り戻したけど、
………今度は逆に落ち込んだ心が、ボクにそう呟かせたんだと思う。
ボクと月は、桃香達のお情けや好意で、こうして生かされているって事は分かっている。
むろん、桃香達にそんな気はなく、本当に仲間として受け入れている事もね。
でもだからこそ、さっきの態度は我ながら無いと思う。
理由は分かっている。
あいつの事よ。
あいつの事を、あそこまで悪しざまに言われた事で、ボクは冷静さを失った。
愛紗の反応は当然の事、………でもだからこそ堪えたんだと思う。
他の誰か知らない人達が、街でそんな話をしているのを聞いたなら、あんな態度を取らない自信はある。
でも愛紗達は別、ボク達を大切にしてくれている仲間だからこそ、あいつの事をあんなふうに言ってほしくなかった。
あいつが、袁術や張勲を助けたのは、袁術が治めていた土地を少しでも早く掌握するためもあると思う。
に・肉奴隷と言う噂も多分ただの噂、そうでなければ、あの時ボク達に襲いかかってきたわよ。
………それとも、袁術や張勲の方が、ボクや月より魅力的だったとか?
たしか袁術って、お子様そのものって話しよね。
もしかしてそう言うのが趣味だったとか?
そう言えば、あの時見た娘も、お子様体系だったわよね。
あっ、でもそれなら月だってお子様体系で言えば負けてない訳だし。
「って、何考えてるのよっ」
ボクは首を振って、逸れた思考を元に戻す。
とにかく、噂の原因である袁術と張勲は、あいつの所で保護されているんでしょうね。
ボクと月を桃香に預けたように。
孫策があの時袁術の客将でなければ、きっと桃香に預けられることなく、あいつに保護されて、
ボク達が噂の原因になっていたんでしょうね。
「……天の御遣いか」
確かに変わった奴だった。 あの変わった考え方は、少なくても大陸の人間の考え方じゃないわ。
桃香も変わった性格だけど、それでも大陸の人間と言う事は分かる。
でも、あいつの考え方は、策は明らかに異質。
普通の人間は、あいつの雰囲気、そしてあの温かな笑顔に騙されるけど、その能力は異才で異常よ。
『 天の御遣い 』と言うのも納得がいくわ。
そして『 天罰 』
「……何処まで、大馬鹿なのよ、あいつは」
朱里は、あいつが率いた部隊がやったと思っているようだけど、
……………たぶんそれは違う。
霞は、あいつに手玉に取られたと言ってた。
ボクにはとてもそうは見えなかったけど、
少なくても、霞にそう思わせるだけの武が、あいつにはあるわ。
恋には届かなくても、数合は打ち合える霞がそう言うのだから間違いないわ。
だから、どういう手を使ったか知らないけど、噂の方が真実。
あいつは、
あいつの手で、
愛紗が言うとおり、
兵を、いいえ人間を、
多くの人間をその手で、
細斬れにしたのよ。
愛紗に外道と言わせるほどの罪を、
決して許されない罪を、
背負いきれない重い罪を、
あいつは自ら背負ったのよ。
より多くの人間を助けるために、
「……本当、大馬鹿よね」
さく
前方からの足音に、
ううん、敢えて足音を出し始めた足音に、
ボクは机に突っ伏した顔を起こす。
「会議を途中ですっぽかした事を、お説教しに来たの?」
ボクは机を挟んで立つ愛紗に、そう言ってしまう。
………正直、今は顔を合わせたくない。
分かっている。
愛紗は悪くない。
愛紗はあいつの事を知らないから、
あいつの隠している苦しみを知らないから、
知るはずないから、当然の事を言っただけ。
愛紗の反応が普通なのよ。
だから悪いのはボク。
でも……、
「後で説教でも何でも受けるから、もう少しだけ一人にさせて頂戴」
「すまない」
えっ
愛紗はそう言って、ボクに深く頭を下げてきた。
「ちょっ、ちょっとやめてよ。 なんで愛紗が頭を下げるのよ。 とにかく頭を上げてよ」
ボクの慌てる言葉に、愛紗は頭を上げ、
どこか辛そうな顔をしながら、それでも愛紗らしく真っ直ぐボクの目を見て、
「私の発言が、詠を、そして月を傷付けてしまった」
そう言って、もう一度頭を下げてくる。
今度はボクに気遣って、直ぐに頭を上げてくれる。
そう言えば、愛紗の顔………そう、そう言う事
「………それ月の仕業?」
「ああ、……あの後、頬を叩かれた。
正直驚いた、あの大人しい月が、涙を流しながら、あんな剣幕になるとはな」
……本気で怒ったんだ……月。
でもそれは、あいつのためもあるけど、たぶんボクのため、
だって月は、あいつの苦悩を知らないもの。
知っているのは、あいつが底抜けに優しいのと、
霞より強い事、そしてボク達の命の恩人であると言う事だけだもの。
短い間だったけど、一緒に暮らしていた以上、他にも知っている事はあるでしょうけど、それだけの事。
でも、月の気持ちはとても嬉しい。
ボクのために、そこまで怒ってくれた事はね。
「ボクも本気で怒った月は、片手で数えるくらいしか知らないわ。
でも忘れないで、あの娘はあれでも董仲穎よ。
その気になれば、将として働く事も出来るし、兵を震え上がらせる事も出来るわ。
もっとも、そんな真似なんてしなくても、兵は動いてくれてたけどね」
そう、心を殺して、辛さを飲み込んで、兵を動かすわ。
だから、ボクは月にそんな思いをさせたくなくて、そんな真似をしなくて済むように頑張ってきた。
「……月はなんて?」
「ああ、…………」
愛紗は、ボクが望むまま月に聞かされた事を、そして朱里や雛里に聞かされた事を教えてくれた。
袁術と張勲の処遇が、より速くそして人的損害が出ないように土地を掌握するためと、風評を得るため、
そしてその本当の意図は、ボク達を保護したのと少しも変わら無いであろう事、
軽蔑すべき噂は、無責任な民が噂しただけではないかと言う事。
その噂も、二人を守るため、敢えて放置しているんのではないかと言う事。
それから愛紗が一番怒っていた『 天罰 』も、五万対十五万と言う大決戦をしたのにも拘らず、
死傷者は共に合わせて二万に遥かに届かないと言う、信じられない損害の少なさ、そしてそれは決戦後の事を考えた策である事。
全体でみれば、もはや異常とも言えるほど死傷者が少なくなっている事を、
そして、そんなボク達の命の恩人を、あそこまで悪しざまに言うのは、ボク達に対する侮辱だと、
そう月に諭されたと、ボクに話してくれた。
途中何度も『 すまない 』と謝りながら。
ボクは、そんな愛紗に怒っていないと伝える。
それは本当の事だし、愛紗の立場からしたら仕方が無い事だもの。
ただ、自分の中で、嫌な気持ちが高まっただけ。
そして、あの大馬鹿に、腹がたっただけ、
あの大馬鹿を、ぶん殴りたいと思っただけ、
あの大馬鹿が、とても哀れに思っただけ、
月光の下、いつか見たあいつの泣き顔を思い出しただけ、
………それが、何故かとても悲しく思えただけよ。
「失礼を承知で聞く、北郷一刀と言う人物はどういった人物なのだ」
長い沈黙の後、愛紗はそんな事を聞いてくる。
「前にも言ったが、私も一度顔を合わせた事はある。
とても朱里や雛里、そして星があそこまで気にいる御人には見えなかった。
ましてや桃香様を批判し、説き伏せるなど……正直只の庶民としか見えなかった」
そう、それがあいつの罠、
あいつは自覚してい無いみたいだけど、あいつを少し見た程度では、あいつを計る事なんて出来ないわ。
「ボクだって、そこまで詳しくないわよ。 たった三日間、一緒に居ただけだもの」
そう、それだけ、
ボクだって、霞の言葉が無ければ、
汜水関や虎牢関でのあいつの策、
敵対する者として言葉を交わしていなければ、
そしてあの晩の出来事を知らなければ、
あいつを勘違いしていたと思う。
それに知り得た事にしたって、あいつのほんの一部でしかないわ。
「お前達にとって、恩義ある者だと言う事は百も承知の事、 話せる範囲で構わない、聞かせて貰えないか」
愛紗の言葉に、ボクは深く溜息を吐き。
「ねぇ、もし桃香があいつと同じ様に『 天罰 』を演出しろと命じたら、愛紗はどう思う?」
「桃香様がそのような非道…すまない。 そのような命をするはずが」
「いちいち謝らなくても良いわ。 それにもしもの話よ」
我ながらこれは無いなと思う、あり得ない質問に、
愛紗はボクが何を言いたいのか分かったのか、辛そうな顔をし、
やがて、
「……桃香様がそう命じたなら、それだけの覚悟と想いの上で、出された答えなのでしょう」
そう歯を食いしばりながら答えてくれる。
「そう言う事よ。 悪いけど、今話せるのは此れだけ。
それと、愛紗を怒っていないと言うのは本当の事よ。
明日には普段のボクに戻れるから、安心して」
ボクのその言葉に、愛紗は気を使って、この場から立ち去ろうとしてくれる。
ボクはそんな愛紗の背中を、
「……心配してくれてありがとう」(ぼそっ)
そう呟きながら見送る。
ことっ
「う・・うんっ」
「あっ、詠ちゃん起きた?」
物音と、かけられた言葉に、ボクの意識は急速に浮上してゆくのが分かる。
「……そっか、ボク眠っちゃったんだ」
「うん、もう起こそうと思っていた所、そのまま朝まで寝たら、風邪ひいちゃいます」
月の言葉に、ボクはまだ寝ぼけた頭で、周りの状況を把握する。
周りは暗くなり、月が輝いている。
まだ、日が落ちて間もないと言うのは、体に感じる気温でなんとなく分かる。
とと…
そんな音と共に、湯呑に茶が満たされているのが視界に映る。
「詠ちゃんには抜かれちゃったけど、たまには私のお茶も飲んで欲しいかな」
そう言って、月はボクの目の前に湯呑を置く。
「……美味しい、 それに温かい」
月の淹れてくれたお茶は、本当に美味しく、心と体を温めてくれる。
……月を抜いたなんて、とんでもないわよ。
「やっぱり、月には敵わないわ」
「そんな事ないよ。 詠ちゃんの淹れてくれたお茶、本当に美味しかったよ」
月はそう言ってくれるけど、このお茶を飲んだら、そうは思えないわ。
確かに、この所ずっとお茶を淹れる仕事を、月から奪ってでも練習したおかげで、技術的には月より上になった自信はある。
でも、朱里にも言われたけど、やっぱりお茶は心なんだと思う。
あいつや月を見ると、本当にそう思える。
………、
「……ねぇ月」
「ん、何かな詠ちゃん」
あいつ、今も苦しんでいるのかな?
「……ううん、なんでもない」
「……そう」
そんな事は言えない。
あいつが苦しんでいる事、
あいつはきっと、知られたくないはずよ。
だから、あの時、ボク達と一緒の部屋で寝た時、
あいつは、その苦しみを見せなかった。
そこまでして耐えている事を、勝手に話すなんてできないわ。
だから……、
「月、久々に怒ったんだって?」
「へぅ……そ・それは」
「愛紗驚いていたわよ。 凄い気魄だったって」
「そ・そんな事は・」
「鬼神、戦神と呼ばれ、泣く子も黙る関雲長をたじろかせるなんて、猛将董仲穎健在って事ね」
「え・詠ちゃん~~」
ボクの誤魔化しの言葉に、月は情けない顔で、目じりに涙を浮かべながら、ボクを恨めし気に見てくる。
「ごめん」
「うぅ~っ、詠ちゃんの意地悪」
「そんな子供みたいに頬を膨らませないでよ」
「どうせ、私は詠ちゃんと違って子供体型だから、問題ないんです」
どうやら本格的にいじけ始めた月に、ボクは背中から抱きしめ、
「……月、……有難う」
そう感謝の言葉を出す。
言葉に出来ない、沢山の感謝の気持ちを込めて、
月の温もりを感じながら、
そう、短い言葉を紡ぐ。
そして月は、
「……うん」
そう、同じく短い返事で、
いじけるのを止めて、ボクの気持ちを、優しく受け止め、
今降り注ぐ月光の様に、月の優しさがボクを包み込んでくれる。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第74話 ~ やさしき月光の下、悲しみを詠む ~を此処にお送りしました。
詠の乙女(?)視点で今回は書いてみました。
冒頭は、まあ枕ですが、楽しんで書きました。
少しづつこの外史を浸食と言うか汚染していく某作者の作品(w
今回は詠と月が、その被害にあってしまいました。(まぁ染まるかどうかは別の話です)
最後まで読んでしまう詠は詠で、可愛いと思うのは私だけでしょうか?(w
まだまだ書きたい事はいっぱいありましたが、月との親友としての友情もそれなりに書けたで、私的には満足しています。
そして、今回も汚れ役を快く気受けてくれた愛紗ですが、如何でしたでしょうか?
この外史の愛紗は嫌いだと言う方も多いと思いますが、あの不器用な優しい娘の立場や役回りからしたら、こうなっても仕方ないと思います。
ですが私は愛紗は嫌いではありません。
他に好きなキャラが多いだけです(w
ピタッ
ア・アノ、アイシャサン クビ ニ ナニカ ツメタイモノ ガ アタルノデスガ………
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
桃香達との生活にそれなりに馴れた詠と月、
朱里達の内政の手伝いをしている時に、詠はそれを発見してしまう。
そして、会議の場の最期で、もたらされた報告に、愛紗は武人として激怒する。
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