「華琳・・・」
会議当日
いつもよりも、ずっと静かな朝
目覚めと共に出てきたのは、愛しい彼女の名前だった
夢を見たんだと思う
どんな夢だったのかはよく覚えていないけど、彼女の名前が出たということは・・・当然、彼女の出る夢だったのだろう
「はは、夢にまで見るなんて・・・な」
そう言って、俺は笑った
それから見つめた、窓の向こう
昨日よりもさらにぼやけた青に・・・目を細める
「うん、良い天気だ」
呟き、伸ばした手
ユラリと・・・その手が一瞬、揺らいだような気がした
それを見て、ふと思う
ああ、そっか
「今日、なのか」
今日・・・俺は恐らく、残りの二つも拒絶されるのだろう
なんとなく、そんな風に思ったんだ
そうなったら俺は、いったいどうなってしまうんだろう?
全てが拒絶されたまま、消えるのを待ち続けるのだろうか?
全てが真っ暗な暗闇に閉じ込められたまま、唯一人・・・
「はは、やべ・・・なんか震えてきた」
小さく震える、俺の体
俺はその手を見つめ、ギュッと拳を握り締める
カタカタと震える己を、情けなく思いながら・・・
「もう、消える為に頑張るのはやめた
今はもう違う・・・わかってる、わかってるんだ」
言いながら、俺は自身の額を思い切り殴る
痛みはない
だけど、少しだけ落ち着けたような気がする
「でも恐いもんは恐いよな、っはは・・・」
開いた手
少しだけ血が出ているのに気づいて、苦笑してしまった
どんなに頑張ったって、恐いもんは恐い
今だって、すごく恐いさ
けど・・・
「迷ったっていい、恐くたっていい
それでも俺は、『繋げる為』の覚悟だけは捨てない」
それでいい
どんなに恐くたって、どんなに情けなくたって
俺は『アイツ』の想いも一緒に背負って、歩いていくんだ
アイツのだけじゃない
この世界の想いを、彼女達の想いを・・・全部背負って、飛んでいく
「だから、信じるんだ」
この先にあるのは、終わりなんかじゃない
この先にあるのは、きっと・・・
《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》
二十六章 その時の為、今は眠ろう・・・
「ぁ・・・」
日記をめくる指が、ピタリと止まってしまった
この先に書かれていることが、私に・・・教えてくれたからだ
もう、まもなく終わりだということを
震える指
けれど、私は・・・そこに書かれていることを、しっかりと見つめた
始まりは、こう書かれている・・・
~いきなりかもしれないけど・・・多分、これが最後の日記になるだろう
そんな気がするんだ
情けない話だが、もう満足に筆も上手く持てないみたいでさ
この今の日記だって、俺の言葉を祭さんに書いてもらっている
ほんと、かっこわるいなぁ俺
それでも、俺はまだ生きている
まだ、こうして皆のことを想っていられる
なら、まだ頑張れるんだ
どんなに恐くたって、苦しくたって
俺達は、きっといつだって繋がっている
想いが、心が・・・繋がっている
そう信じていれば、不思議と勇気が湧いてくるんだ
いや、不思議でもなんでもない・・・か
当たり前だよな
俺は皆のことが大好きで、だから・・・こうやって頑張れるんだ
この後、全てを失った後
どうなってしまうのか、俺には未だにわからない
それでも、俺は立ち止まらない
約束したから
誓ったから
想いを預かったから
皆のことが好きだから
たくさんの想いが混ざり合って、それが・・・俺の力になる
さぁ、始めよう
これは、終わりなんかじゃない
新たなる始まりを迎えるための、俺の最期の戦いなんだから~
「一刀・・・」
彼の決意の言葉
私はそれを読み上げたあとに、一度だけ深く息を吐いた
そして、再び・・・読み始める
彼の、最後の『頑張り』を・・・
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「それじゃぁ、俺は曹操殿に伝えてくるぞ」
「ああ、よろしく頼むよ」
華佗の言葉に、俺は車椅子に座ったまま手をあげてこたえる
華佗は『おう』と言うと、部屋から足早に出て行った
そんな彼を見送ったあと、一人になった部屋の中・・・俺は深く溜め息をついた
今日はついに、三国会議の日
そんな大事な会議なわけなんだが、俺は途中から出席することに決めた
というのも、もう・・・限界が近かったからだ
視界はもう、大分ボヤケテしまい・・・耳も、よく注意しないと聴こえなくなる時がある
足も、もう満足に動かない
それほどまでに、俺の体はガタがきている
多分、今日で・・・
「ああ、もう・・・参ったな」
考えると、やっぱり・・・恐い
「・・・ジッとしてるから、こんな風に考えちゃうのかな」
うん、こういうときは気分転換をするにかぎるよな
祭さんが部屋でジッとしてろって言ってた気がするけど、そんなのもったいないよ
「というわけで、ごめんね祭さん」
そう決めた後の行動は早かった
俺は車椅子で何とか部屋から出ると、廊下をゆっくりと進んでいく
もう会議が始まるころだから、誰も廊下を歩いている人はいない
たぶん皆、会場の広間に集まっているのだろう
そんな中、進んでいく俺
「ん?」
ふと廊下の向こう側・・・誰かが座り込んでいるのが見えた
しかし、ぼやけていて誰かはわからない
気になった俺は、その人物の方へと車椅子を近づけていく
ようやく見えてきたのは、赤い服・・・長い袖
赤い服に、こんな長い袖の服を着た人は一人しか知らない
もしかして、呂蒙さん?
「ねぇ君・・・どうかしたのかな?」
「え・・・?」
とりあえず、話しかけてみることにした
返ってきたのは、何だか間の抜けた声
ここに誰か来るなんて、予想もしていなかったというような声
俺はそれに苦笑しながらも、自分の予想が当たったことにホッとする
やっぱり、呂蒙さんだ
「具合でも悪いのかな?」
「え、あ・・・えっと」
再びたずねるが、返ってきたのはまたもや曖昧な返事
う~ん、どうしたんだろ?
「あの・・・本当に大丈夫?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
流石に心配になって、三度声をかけた瞬間
今度返ってきたのは・・・相当慌てた時に出る、甲高い裏返った声
俺はそれを聞いて、思わず噴出してしまった
「ぷ、くく・・・大丈夫みたいだね
うん、安心したよ」
「あ、あの・・・貴方は」
「あぁ、そういえば面と向かって挨拶したことはなかったね
俺の名前は北郷一刀
みんなからは、天の御遣いなんて呼ばれてるよ」
「北郷一刀様ですか・・・って、え?
ててててて、天の御遣い様ああぁぁぁ!?」
彼女の叫び声が、辺りに響き渡った
お、驚きすぎじゃないか?
「あわわわ、申し訳ありません!!
御遣い様だとは露知らず、とんだご無礼を!」
おまけに、すっごい頭まで下げられるし
いやいや、なんかすっごいむず痒いというか何というか・・・とにかく、まずは落ち着いてもらおう
「あはは、そんな畏まらなくてもいいよ呂蒙さん」
「私の名前をご存知だったんですか!?」
言われて、思い出す
そういえば、俺は彼女自身から名前を聞いたことがなかったんだった
ただ遠くから見たことがあったくらいで・・・
「ああ、うん・・・なんたってほら、将来の『大都督』さまだからね」
「だだだだ、大都督ぅ!?」
とりあえず、そう言って笑ってみる
すると彼女は一度大きく驚いた後に、シュンと・・・うな垂れてしまう
あれ? なんか俺、やっちゃった?
そう思っていると、聞こえてきたのは彼女の呟き
『私なんかが・・・』という、小さな呟き
ああ、そっか・・・そういうことか
「そんなことないよ」
「えっ・・・?」
俺は、そう言って笑う
彼女はきっと自信がなかったんだ
自分のことを、信じられなかった
それはまるで、少し前の自分を見ているようで・・・ほおってはおけなかったんだ
「もっとさ、自分に自信を持ってもいいんじゃないかな?
君なら大丈夫・・・絶対に、ね
俺が保障する」
だから、俺は彼女の背中を押してあげたかった
気づいてほしかったんだ
俺達は皆、無意識のうちに・・・限界ってやつを決め付けてるんだと思う
俺には無理だって、諦めているんだと思う
けどさ、それって絶対に違うと思うんだ
まだ行けるって、まだ頑張れるって・・・諦めないで、ただひたすらに信じて
俺は、ここまでこれた
ここまで、頑張ってこれた
だから、彼女にも諦めてほしくなかったんだ
「御遣い様・・・」
やがて、彼女は静かに・・・そう呟いた
その呟きに、俺はまた笑顔をかえす
「一刀、でいいよ
御遣いって呼ばれるの、未だに慣れなくてさ」
「な、ならば私のことも亞莎とお呼び下さい!!」
勢い良く、彼女が言ったこと・・・俺は、思わず苦笑してしまう
「それって真名でしょ?
いいのかな、呼んでも・・・」
「か、構いません!
ぜひそうお呼び下さい、一刀様!」
彼女の力強いその言葉に、俺は笑った
真っ直ぐな娘だなぁ、ほんと
「うん、わかった
それなら、そう呼ばせてもらうよ・・・亞莎」
「はい!」
俺がそう言うと、パァッと声を弾ませる亞莎
もう、さっきまでの暗さなど欠片もないその様子に・・・俺は、何だか安心してしまう
よかった、俺はまだ・・・誰かの力になれるんだな
「北郷様・・・こんなところに・・・っ!」
ふと、聞こえてきた声
この声は祭さんか
多分、俺のことを探しに来てくれたんだろう
そんな彼女に、俺は軽く微笑みかける
「ああ、赤さん」
「ああ、ではありませぬ
全く・・・あれほどお部屋でお待ちくださいと仰ったのに、このようなところまでフラフラ出歩くなど」
言いながら、ヤレヤレといったように祭さんは首を振った
俺は苦笑し、彼女の様子をチラリと窺う
それから、空を見上げた
相変わらずボヤケタ青だったが、なんでかな
朝に見たよりもずっと・・・綺麗に見えたんだ
「あはは、ごめん赤さん
でもほら、こうやって『聴いてまわる』のも多分・・・最後だからさ」
「そうでしたね」
そう言ってから、祭さんは俺の後ろに回り車椅子を押し始める
俺は亞莎に向かって笑いながら、軽く手を振った
「それじゃ、俺はもう行くからさ
またね亞莎」
「はい!」
元気良く返事をし、大げさに頭を下げる亞莎
うん、彼女はもう・・・大丈夫だ
きっとこれからも、頑張っていくんだろう
目指すものに向かって・・・頑張っていくんだろう
「礼を言うぞ、北郷よ」
「ん?」
ふいに、祭さんが優しげな口調で言うものだから・・・俺は首を傾げてしまう
そんな俺のことを笑いながら、祭さんは続けた
「亞莎には、いずれ冥琳に追いつくほどの力があると・・・ワシは前から思っておった
しかし、あの性格じゃろう?
いつも己に自信が持てずに、その力を存分に発揮できておらんようじゃった
それが、いつも気になっていてのう
じゃが、今のあやつの顔を見て・・・その不安も消し飛んでしまったわ」
「祭さん・・・」
「本当に、感謝しておるぞ北郷よ」
「別に、俺は何もしてないさ」
「はっ、よく言うわい」
祭さんの声が、とても心地良く響いていく
体が軽い・・・うん、大丈夫だ
「祭さん、いこうか」
「うむ」
温かな想いで、胸が満たされていく
そんな感覚を感じながら、『俺達』は歩き出したんだ・・・
~せっかく纏めた、『学校』についての資料なんだけど
俺の部屋に置いておくよ
皆には悪いと思ったけど、もっと他に言うべきことがあったから
『続いて・・・天の御遣い北郷一刀による、天界施設の説明です』
だから、今回だけは見逃してくれよな
『さて、ゆくぞ北郷』
『ああ、そうだね祭さん・・・って、普通逆じゃない?』
『ははは、こまかいことなぞ気にするでないわ
それ、ゆくぞっ!』
まずは、ひとまずの閉幕
その為の準備から始めよう
この・・・天の御遣いの名を、終わらせる~
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視線が、俺に集まっている
そのことを肌で感じ、俺はフッと頬を緩めた
そんな中、一際強い視線・・・
「一刀・・・」
ああ、きっとあの光は華琳だ
俺はその光に向かって、微笑んで見せた
「一刀・・・貴方、それ」
「ああ、ごめんな
ちょっと体調が悪くてさ・・・悪いけど、このまま話をしてもいいかな?」
珍しく、不安そうなその声
ノイズ混じりになった今でも、その声だけはハッキリと聴こえた
俺はその言葉に、軽く笑って返事をかえす
それを合図に、祭さんが車椅子を移動させる
視線が、さらに集中する
「ありがとう、赤さん」
「構いません」
ありがとう祭さん
そう心の中でお礼を言い、俺は静かに目を瞑った
意識が、集中していく
『さぁ、まずはこっから始めよう』
ああ、そうだな
ここから始めよう
「今日は・・・」
やがて、ゆっくりと語り始める
己の胸に、覚悟を刻み込んで・・・俺は話していく
「今日は・・・皆に伝えたいことがあるんだ」
瞬間、広間は一気に静まり返る
「本来ならここで、学校についての説明をするはずだったんだけど・・・ね
今回は許してほしいな、なんて」
俺はそんな中、話を進めていく
ゆっくりと、深くかみ締めながら
「それよりもさ・・・俺はまず、言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「一刀、貴方何を言って・・・」
「乱世は終わった!!」
華琳の声を遮るよう、俺は高々に声をあげる
ごめんな華琳・・・でも、こればっかりは誰にも邪魔はさせられないんだ
「これからは、皆が助け合い平和を守っていく時代だ」
そうだ、これからは皆が助け合い・・・平和を守っていく時代なんだ
「手を取り合い、共に生きていく時代だ」
敵だとか、そんなのもう関係ない
皆で手を繋いで、皆で一緒に生きていく・・・そんな世の中目指して、頑張っていく
そんな時代だ
「もう一度言うよ・・・乱世は終わったんだ!」
もう、戦いは終わった
乱世は、きっともう来ない
・・・来させない!
だから、これから先・・・もう必要ないんだよ
「もう・・・天の御遣いの役目は終わりだ
あとは皆が、この大陸の人々が皆一丸となって・・・この平和を守り続けて欲しい」
天の御遣いは、もう必要ないんだ
皆に必要なのは、天の御遣いじゃない
この平和を守っていこうと想う・・・強い意思
もう、御遣いに依存していちゃダメなんだ
だからこそ、俺は今日・・・ここに、宣言した
「それが俺の・・・天の御遣いの、最後の願いだ」
御遣いは託したのだ
平和の意志を、想いを・・・三国の王に、その仲間に
これで、御遣いの役目は・・・あと一つだけだ
「ちょっと短いけど、これで・・・俺の話はお終いだ」
しんと、静まり返ったままの広間
誰も声を発さない、そんな空間の中
ドクン・・・!!
強い・・・不快感が広がっていく
【拒絶】
こんな、時に・・・
「っと・・・ちょっと、疲れちゃったな
華琳、悪いけどもう部屋に戻るよ
この後、天和達の舞台もあるしね」
「え、ええ・・・」
言って、俺は祭さんに向かって一度頷く
それだけで悟ったのか、祭さんが車椅子を心なしか早く押してくれた
「大丈夫か?」
「わかんない・・・かな」
そう言って、俺は椅子に深く持たれかかる
「すぐに部屋へと戻るからな
それまで、休むのじゃ
あと、華佗も呼んでおくかの」
「ありがとう、祭さん・・・」
言った瞬間、どっと何か疲れのようなものが襲い掛かってくる
それはすぐに、強烈な睡魔に変わっていく
・・・ああ、眠っちゃいそうだ
『もうすぐ、ということだな』
ああ、そうだな
『だけどまだ、頑張らなくちゃいけない・・・そうだろ?』
当たり前だ
この後は、彼女達の・・・天和達の、夢だった舞台があるんだから
だから、まだ頑張ろうぜ
そう思い、握った手が・・・何かを掴んだ気がした
そして、見えたんだ
ぼやけるハズの視界の中、【ソイツ】の姿だけはハッキリと見えていた
『ああ、頑張ろう』
そう言って笑うソイツ
ああ、そうだ
俺は、誰よりもコイツを知っている
誰よりも、きっと理解している
何故なら・・・
『二人で頑張ろうぜ・・・それが【俺達】北郷一刀に出来る、唯一にして絶対の手段なんだから』
コイツは俺で・・・俺はコイツなんだから
~部屋に帰ってきた瞬間・・・意識がハッキリと覚醒した
俺は、夢を見ていたのか?
一瞬そう考えたが、その考えもすぐに消えてしまった
【拒絶】が・・・治まっていたのだ
はは、やってくれるよ
おかげで、天和達の舞台まではもちそうだ
『あとは、終わりを待つのみ・・・か』
やれるだけのことはやった
打つべき手もうった
あとは、信じるだけだ
『華佗・・・任せたよ』
『ああ、絶対に・・・成功させて見せる
だから御遣い殿は、いや一刀は・・・安心して行って来るといい』
『ああ、信じてるよ』
繋がっていく
想いが、心が、道が・・・繋がっていく
それを最後に、ちゃんと・・・届かせてみせる
さぁ、行こう
俺の、最後の頑張りの・・・その舞台へと~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぬぅ・・・」
会場に入ってしばらくしたころだった
祭さんがそんな風に唸り声をあげたのは
「ちと煩いのう・・・」
「はは、仕方ないさ」
その一言に、俺は笑いながらそう答えた
仕方ない
なんてったって、いまや彼女達は間違いなく・・・この大陸一のアイドルなんだから
この盛り上がりが、何よりの証拠だ
はは、そっか・・・これが、彼女達の夢の形なんだよな
「よかったな・・・三人とも
ようやく、夢が叶ったんだよな」
心から、彼女達を祝福し・・・見上げた空
何だか、キラキラと輝きが見えた
きっと、今夜は星が綺麗に違いない
「赤さん・・・今日は、星が綺麗だよ」
「っ・・・あぁ、そうじゃな」
見上げた星空
手を伸ばし、俺は胸いっぱいに息を吸った
それから、後ろにいるであろう祭さんへと話しかける
「俺・・・ほんと幸せ者だよ」
「・・・なんでじゃ?」
うん、本当に俺は・・・幸せものだ
彼女達の夢の中、こうして混ざっていられるのだから
何よりも・・・
「だってさ・・」
~最期に聴けたのが彼女達の歌だったなんて・・・最高に幸せだよ~
ドクン・・・!!
「ぁ・・・」
あぁ、きた
光が・・・消えた
音も・・・しない
暗闇の中、落ちていく
意識が、心が・・・ゆっくりと、落ちていく
まいった
今更だけど、やっぱ・・・恐いと思ってしまう俺は、情けないのかな?
でも、こんな弱音くらい大目に見てくれよ
ごめんな
最後まで、情けない男でさ
ほんとごめんな・・・華琳
~一刀・・・!!~
声が、聴こえる・・・?
もう聴こえなくなったはずの耳
響いたのは・・・愛しい彼女の声
華琳・・・
『『『隊長!』』』
凪、真桜、沙和・・・
『お兄さん!』
『一刀殿!』
風、稟・・・
『兄ちゃん!』
『兄様!』
季衣、流琉・・・
『『北郷!』』
春蘭、秋蘭・・・
『一刀っ!』
霞・・・
『この、全身性液男っ!』
桂花・・・
『『一刀!』』
『一刀さん!』
天和、地和、人和・・・
もう聴こえないはずの声が、何度も・・・何度も、俺の鼓膜を、心を揺さぶっている
これは、いったい・・・
そう思った瞬間、俺の目の前
真っ暗な闇の中、温かな光が広がった
光っては消え、光っては消え・・・ただひたすらに、それを繰り返す
儚い、だけど何よりも強い光
俺は、この儚くも優しい光を知っている
これは・・・
「花火・・・」
そうだ、これはきっと・・・花火
消えてはまた上がり、消えてはまた・・・眩いばかりの輝きを放つ
いつまでも俺達の心の中、輝き続ける・・・花火
こんなことできるのは、一人しかいない
「は、はは・・・真桜か
まったく、ほんと大したやつだよ」
本当に、たいした奴だ
俺は『こういうのがあるんだ』って言っただけなのに、まさか本当に作っちゃうなんて
はは、まいったな
「なんだよ、ちくしょう・・・こんなの見せられたら、まだ諦めるわけにはいかなくなるじゃないか」
伝わってくる
皆の想いが
繋がっていく
未来へと続く、その為の道が
満たされていく
俺の、俺達の心が
「なら俺は『最期の瞬間』に賭けよう」
僅かだった可能性が、少しずつ広がっていく
そんな気がしたんだ
「赤さん、いるんでしょ?」
不思議と・・・恐怖は無くなっていた
「アレを・・・頼むよ」
これから先、俺を待つのが深い暗闇だったとしても
もう俺は・・・恐くない
だって俺は、一人じゃないんだから
『そうだ・・・俺達は、一人じゃない』
ああ、そうだな
『俺達はきっと、いつだって繋がってたんだ』
うん、きっとそうだったんだ
だから・・・
「はは、何だか今日はもう・・・疲れちゃったな
皆には悪いけど・・・今日は・・・もう・・寝よう・・・・かな」
今は、少し・・・ほんの少しだけ眠ろう
大切な人たちの心地良い声に、この身を委ねながら
ほんの少しだけ・・・休もうか
《おやすみ・・・一刀》
あぁ、おやすみ・・・華琳
~お疲れ様、御主人様
後は・・・私達に任せてちょうだい~
★あとがき★
二十六章です
今回で長かった『一刀編』はお終いです
次回からは最終章にむけて、再び彼女達の場面へと舞台をうつします
ていうか、今回はガチで長すぎた・・・疲れますね
軽く3話分くらいはいってるから、無理もないのですが・・・
しかもまた、応援メッセでまでわざわざ『暗すぎる、こんなのより明るいの書けよww』ってww
また軽く鬱になりかけて、もうやめよって思った時
友達の「こんな名前も出さないで、ばれない様コソコソ文句言うようなチキン気にすんなよ♪俺、お前の小説楽しみにしてんだぜ?」って言葉に救われました
今回の投稿も、その友達の言葉のおかげです
本当にありがとう
おかげで、ようやく最後の段階に進めました
次回からは最終章を含む『誓い編』に入ります
もう4あるかないか・・・むしろ、最終章の直しの方が大変そうだ
前にも言ったかもしれませんが、ボクは驚くほどに雑食です
原作重視も書けば、オリ主だって書きます
そのうち、チートも書きたいなって思ってたり・・・
まぁそんなボクですが、これからもどうかよろしくお願いします(!?)
・・・オリ主、チートフラグですねわかります(!?)
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二十六章、公開です
今回で、『一刀編』終了です
次回からは最終章に向かう、最後の章・・・『誓い編』に入ります
一刀の最後の頑張り物語
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