真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-
第70話 ~ 七つの羽が舞う空に、明るき命は想いを胸に前へ進む ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋
得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術
(今後順次公開)
明命視点:
今まで止まっていた風が、一瞬だけ強く動き、寒さで落ちた枯葉を空に舞いあげます。
目の前に立つ相手の顔の前に、枯葉が横ぎった時、
私は一足飛びに距離を縮め、"魂切"を相手の脛に向けて放ちました。
むろん相手も、そんなこと読めてたとばかりに、長獲物の柄で私の"魂切"を、打ち上げるように払います。
ぎぃーーーーーっん!
甲高い音が辺りに響きます。
そして"魂切"が私の手を離れ、空を舞うのを相手は目と獲物に伝わった感触で知るなり、笑みを浮かべながら、
「もろたでっ」
勝負をつけるために、先程の獲物の動きをそのまま利用して、その矛先を私に向けてきます。
ですが、
くいっ
私が手首を返すなり、空を舞った"魂切"は、私の手元に素早く戻り、
「な゛っ」
ぢっ
寸前の所で、その事に驚く相手の獲物を横に逸らしながら、
私は予め引き抜いていた左腿の投剣を、相手の喉元に向けます。
「勝負あり」
思春様の声が辺りに響くなり、私達の間を包んでいた緊迫感は霧散し、
「くぅーーーーーっ、負けてもうた。
せやけど、今のは少し卑怯やないか?」
「実戦により近い仕合をと、そう望んだのは霞様の方です。
まともに戦ったのでは、今の私では、まだ勝てない事は分かっています。
なら、策を弄するのは当然の事です。 格下と油断しましたね」
勝負の結果には納得したものの、文句を言う霞様に、私は私なりの考えを述べました。
もっとも、霞様も本気で文句を言っている訳ではなく、今の私がとった方法に興味があっただけでしょう。
その証拠に、
「剣を引き戻したんは、一刀の"天の糸"やんか?」
「はい、一刀さんに無理言って、少しだけ分けて貰いました」
「道理で、あっさり獲物を手放すと思うたわ、……まっ、それが油断しとったちゅう所なんやろな」
「でも、私では一刀さんのように扱う事は出来ません。
一刀さん曰く、扱う気の質が違うから、と言う事らしいです」
「じゃあ、それで相手の体を切断、なんて言う事はでけへんのか?」
「やり方次第で可能だそうですが、私が扱う上では、只の丈夫な糸に過ぎません。
それでも、私が十人以上ぶら下がっても、糸が切れる事は無いそうです」
「そんな細い糸なのに、凄いもんなんやな、天の技術と言うのは」
私の言葉に、霞様は天の技術に感心するばかりです。
ですが私としては、勝利に喜んでいる訳には行けません。
今回は、一刀さんの糸で不意を突いたおかげで勝てましたが、次に正面から戦えば、勝つ事は出来ないでしょう。
もっともっと、腕を磨かなければいけません。
今の霞様との手合わせの内容は反省していると、思春様が、
「では、もう一度私と手合せ願おう」
「おっ、雪辱戦ちゅう訳やな、ええよ、ええよ。 いくらでも胸貸たるで」
「次も同じと思わぬ事だ」
霞様は、思春様と仕合を始められます。
お二人は、私との一戦の前に、一度やられたのですが、
あと一歩足りず、思春様が負けてしまわれました。
一見、二人の間に、そんなに差は無いように思えます。
むしろ、攻撃の速度や回転は、思春様の方が上です。
ですが、思春様の流れるような攻撃も、磨き上げられた独自の術理の前に、
不意を突く刺す様な一撃も、経験に基づいた武術家の勘の前に、霞様に届く事はありませんでした。
そして、後は戦い組み立てで一日の長のある霞様が、次第に思春様を追い詰めて行きました。
おそらく、今度も同じ結果になるでしょう。
そんな凄い人を手玉に取って、多くの人間の前で、相手に捕まえられるように見せながら、
実際は相手を捕えていた、と言うのですから、本当に一刀さんは凄いと思います。
「……一刀さん、このままでは私は、」
数日後:
怪しい噂のある箇所の捜査、以前より妙な噂は立っていたらしいのですが、この数ヶ月でその傾向が酷くなったので、その調査をして欲しいという物でした。
私は数人の部下と共に、数日を掛けて調査をし、更に昨夜は、徹夜で本拠地を密かに探ったのですが、
結果は白でした。・・・・・・・・まぁ、完全に白と言えませんが問題はありません。
確かに、人の出入りも激しく、流血沙汰が日常茶飯事で、当事者達に詳しい話を聞いても口を濁すばかり、
そう言う事を考えれば、あの程度の事とはいえ、報告があがってきたと言うのも納得がいきます。
ですが、…………あれは放っておいても無害です。
女性向けの艶本の写本制作現場で、作業している人間が、度々鼻血を噴いて倒れているだけでした。
問題があると言えば、この一件を何と言って冥琳様に報告したら良いかです。
こんな馬鹿げた話、正直言っても、信じてもらえるかどうか、自信がありません。
となれば、……亞莎……よりは、ここはやはり翡翠様に相談した方が良いですね。
亞莎にしても、私と齢は変わりませんから、艶本の写本所の報告の相談をされた所で、困るだけでしょう。
今からなら朝食に間に合いますし、ちょうど良いと思います。
そう思って、数日振りに一刀さんが待つ家へ帰ったのですが、
あいにくと翡翠様は、早朝から急用で城に呼ばれて不在でした。
それはそれで仕方ありません。
ただ、私が家に帰ると、以前と変わった事が一つありました。
私はその事について、
「一刀さん、二人のおそろいの服は?」
「ああ、あった方が良いと思ってね」
何時か洛陽の街で、董卓達が来ていた侍女服とは違いますが、何となく似ている気がします。
おそらく、元々、似たような目的の服だからでしょう。
それに、一刀さんの言いたい事は分かります。
確かにあの服(冥土服でしたっけ?)を着ていれば、
天の御遣いの名が持つ畏怖と尊敬が、二人を守ってくれるでしょう。
だから、二人を守るためにあの服を用意した。
それは一刀さんの性格を考えれば仕方ない事です。
一刀さんに笑顔を取り戻させてくれた事や、この家に来てからの行動を見ても、
二人に他意は無く、純粋に自分達の夢を、そして一刀さんとの約束を守っているだけです。
奴隷と言う身分に堕ちたにも関わらず、袁家の老人達から解放された二人は、
以前より明るく、生き生きとしています。
何時自分達が殺されても、文句言えない立場だと言うのに………、いい加減認めましょう。
袁家の真実を知った今、
二人の本当の姿を知った今、
何より一刀さんが二人を家族として引き入れた今、
私も二人を家族として認めようとしている事を……
でも問題は、あれがおそらく一刀さんの手縫いだと言う事です。
手縫いの服を相手に、年若い女性に贈ると言う事、それが何を意味しているか。
はぁ~~っ
………分かっています。
多分、一刀さんはそんな事気が付いていないでしょうし、考えてもいないでしょう。
ですが贈られた側もそう考えるとは限りませんし、分かっていても、つい思ってしまうものです。
現に私の時も、感謝の気持ち以上のものが籠っていない事が分かっていても、あれだけ嬉しく思いましたし、
今でも、時折箪笥から出して見ては、邪推してしまいます。
だから、私は二人にヤキモチを焼き、つい一刀さんを、"じとっ"と睨んでしまいます。
「え? 明命どうしたの?」
一刀さんは相変わらずこちらの気持ちに気がついてくれません。
いったい、どうしたら良いのでしょう?
そして、その日の昼過ぎ、
任務の報告を終え、私が不在中だった間の、部下からの報告の纏めに目を通した後、
徹夜明けのため、早く帰宅するように部下達に言われた私は、特に急ぐ仕事もなかったので、お言葉に甘える事にしました。
ちなみに、例の報告の相談は、登城した時に、亞莎に出会ったので、ためしに相談したところ、
「あ・あ・あのっ、そう言う事は、そ・その、翡翠様の方が、……ごめんなさい。
せっかく明命が相談してくれたと言うのに……」
「いえ、もともと翡翠様に相談しようと思っていたのですが、
それより先に亞莎に出合ったので、聞いてみようと思っただけです」
「あ・あの、明命は翡翠様の趣味については?」
「え? 翡翠様の趣味と言うと、時折思い出した頃にする悪戯の事でしょうか?」
「知らないなら良いです。 今聞いたことは聞かなかった事にしてください」
「はぁ、亞莎がそう言うのでしたら、それは構いませんが………?」
等と、後半の所はよく意味が分かりませんでしたが、半ば予想通りの反応でした。
一方翡翠様は、
「そうですか、では私の方から冥琳様への報告と、その写本所への注意等は、私の方で全てやっておきます。
明命ちゃん、任務お疲れ様です。 そして、よく私に相談してくれました。 お礼を言います」
と、何故か感謝までされてしまいました。
なんにしろ、頭の痛い案件が無事終える事が出来て嬉しいです。
そう嬉しいと言えば、翡翠様です。 何故か物凄く機嫌が良いのです。
それに、翡翠様がしておられる見た事もない髪飾り、
意匠も色合いも良いのですが、作った者の腕でしょうか、不恰好で正直翡翠様には似合いません。
何故そのような物を敢えてしているのでしょうか? そんな事を思っていると、私の視線に気がついたのか、
「美羽ちゃんが、私のために作ってくれたのですよ」
「えっ?」
私は、驚きました。
袁術が髪飾りを作って送った事よりも、翡翠様が袁術の真名を呼んでいる事にです。
むろん、一刀さんが二人を家族として引き入れた時に、
あの日一刀さんが笑顔を取り戻した時に、
袁術達の本当の姿を知った時に、
何時かそんな日が来るのではないか、と思っていました。
そして、一刀さんが望むなら、二人を家族として受け入れようと真剣に考えていました。
ですが、こんなに早く真名を呼ぶ事になるとは、思いもしていなかったからです。
翡翠様は私の驚きの声に、私が思っている事が分かったらしく、私に何があったかを、そして何を持ってそうなったかを説明してくれます。
確かに、二人には苦笑させる事ばかりですが、二人が、特に袁術が一生懸命頑張っているのは分かります。
今までやる事を許されなかった事もあり、何事も楽しいのかもしれないしれないと、一刀さんが言ってただけあって、袁術は毎日が楽しそうです。 そして、そこにある想いも、真実なのでしょう。
「この髪飾りも、数度使えば、恐らく型崩れを起こして、使えなくなってしまうでしょうね。
でも、あの娘の想いを裏切らないと教えてあげるのも、大切な事です。
あの娘達の償いの道は、きっと、その想いが通じない事ばかりでしょうからね」
翡翠様は、少し寂しげな笑みを浮かべます。
たしかに、翡翠様の言う通りです。
本当に悪いのは、袁家を牛耳っていたあの人達とは言え、そんな事は、民には関係のない話です。
多くの民達にとって、自分達を苦しめた犯人は、この二人と言う認識は、幾ら声高に上げたところで、そう簡単に受け入れられる事ではありません。
二人の想いを拒絶する者や、利用するだけ利用しようとする連中の方が多いはずです。
だから翡翠様は、二人のためにも、そして、その二人の主である一刀さんのために、二人の想いを受け取ったのですね。
「きっと、明命ちゃんにも、違う物を作っていると思いますが、良かったら受け取ってあげてください。
ちなみに受け取ると、もれなく一刀君が作った見本も付いてきますよ」
そう言って、翡翠様は、懐から同じ髪飾りを取り出して、私に見せてくれます。
そちらは確かに、素晴らしい出来で、こう言っては袁術には悪いですが、とても同じ物には見えないくらいです。
…………翡翠様、もしかして機嫌が良い理由と言うのは、袁術達の事ではなく、こちらの事が原因ですか?
私は半ば呆れながら、『……考えておきます』と言って、翡翠様の部屋を退出してきました。
そんな事を思い出しながら歩いていると、やがて屋敷に辿り着き、
屋敷の庭で、私の目に映ったのは、
「力の入れすぎだよ。 もっと相手の力に合わせないと、ほらっ」
「えっ・ きゃっ」
ぼすんっ
「…うぅぅっ・痛いです」
「美羽も、ほら捕まえた」
「し・しまったなのじゃ」
「美羽は七乃が捕まったからって、固まっていたら駄目だよ。 美羽まで捕まったら、誰が七乃の危機を伝え
るんだい? 例え七乃が心配でも、美羽が逃げ切れば、助かる可能性が出てくるんだ。 それを忘れてはい
けないよ」
地面に転がされる張勲に、一刀さんに襟首を掴まれている持ち上げられた袁術は、手足を"ぶらん"とぶら下がらせて、一刀さんの指摘に、"しゅんっ"としています。 袁術がお猫猫なら、きっと鼠を狩らないお猫猫ですね。
って、そうじゃありませんっ!
「明命お帰り、泊まりがけの任務、大変だったね」
一刀さんは、私の心境など気がつかずに、帰ってきた私を笑顔で迎えてくれます。
何時もだったら、私もそれを笑顔で受け入れていましたが、今日ばかりは、それを受け入れる訳には行きません。
私は一刀さんに詰め寄りながら、
「一刀さん、どう言う事ですっ!?」
「え?」
「何で二人が、一刀さんの指南を受けているのですかっ」
「あぁ、二人はもう帯剣を許されないし、街に出れば身の危険もあるから・」
「そう言う事を聞いているのではありませんっ!
一刀さんは、家族には例え稽古でも、手を上げたくないんじゃなかったんですかっ!?」
私の言葉に、私の勢いに、一刀さんは驚きます。
そして、驚きながらも、私の怒りを静めようとしますが、
「二人は、七乃達とは・」
「一刀さんは、この間二人は家族として扱いたいと言いました。
では私と翡翠様は、一刀さんの家族ではないと言うんですか!?
それに、翡翠様はこの事を知っておられるんですか!?」
一刀さんの言葉に、私は益々、声が荒げます。
そして、心は逆に悲しみで一杯になって行きます。
やがて、視界が滲んでくる頃には、一刀さんは私に何とか泣き止んで貰おうと、色々言って来てくれますが、
それでも、私が欲しい答えは、本当に欲しい言葉は、一刀さんの口から出る事はありませんでした。
「はいはーい、お二人とも其処までにしましょうねぇ」
そこへ、原因の一端である張勲の無駄に明るい声が、私達二人の間に割り込みます。
そんな無神経な張勲に、私はつい苛立ち、
「貴女は黙っていてください。 斬られたいんですかっ」
そう、八つ当たり気味に、心にもない言葉が出てしまいます。
だと言うのに、
「斬りたければどうぞ。 でもその代わり、ご主人様を責めるのは止めてくださいね」
「えっ?」
にこやかな顔で、だけど、まっすぐな瞳で私に微笑みかけながら言って来ます。
その笑みに、そして自分の口から出てしまった言葉に、私は冷水を浴びせられた様に、熱くなった心が冷えて行きます。
「今のは本気では・」
「分かってますよ。 周泰さんはそんな人ではないと言う事は」
私の謝罪の言葉を最後まで言わせず、張勲は今度は優しい笑みでそう言うと、今度は一刀さんに向かい合い。
「事情はだいたい分かりました。 今回はご主人様が悪いですよ」
「あ・あぁ、二人を家族に迎えると言っておきながら・」
「違いますよ。 まだ、気づこうとしないんですね。 まあそれは今は置いておいて、
ご主人様は、私達をきちんと家族として迎え入れてくれています。
その事は深く感謝していますし、今回の私の無理を聞いて下さった事も、嬉しく思っていますよ。
確認しますが、ご主人様は、周泰さんと翡翠さんが大切だから、例え鍛錬でも傷つけたくないから、周泰
さん達の鍛錬を断っているんですよね?」
「ああ、たと・」
「私達と周泰さん達の差とは、いったい何でしょうね?」
「え? そ・それは…」
「同じ家族の筈なのに、何ででしょうね?」
張勲は、私の時の様に、一刀さんの答えも最後まで聞く事無く、質問をしていきます。
そして、
「まぁ、その答えは後で、じっくり考えておいて下さいね。
ご主人様は、これからもお二人の鍛錬の申し出を断るつもりですか?」
「そのつもりだよ」
「それでは軍師である翡翠さんはともかく、周泰さんは何時か命を落とすでしょうね」
「な゛っ」
張勲の言葉に、驚きの声を上げる一刀さん。
でも、……張勲の言葉は、決してあり得ない事ではありません。
「意味分かってますよね? ご主人様なら、気がつかない事ではないはずですよ。
でも、気がつかなかった。 何故、こんな簡単な事すら気がつかない程、ご主人様の目が曇ったのか、これ
も後で考えておいて下さいね」
まるで子供相手に、謎かけを言う様な明るい調子で、張勲は一刀さんに問いかけていきます。
そして、
「ご主人様が、鍛錬で周泰さんを傷つけない分、きっとご主人様が知らないところで、周泰さんは、誰かに傷
つけられ、命を落とすのでしょうね。 失礼ながら単純な武の強さだけ言うなら、周泰さんより上の方は、
この大陸に沢山居ます。
それが分からないご主人様ではないはずですよ。 それともご主人様は、その方がマシだと言うおつもりで
すか? もちろん言いませんよね?」
張勲はそこまで言うと、一刀さんから離れ、
「では、邪魔者は消えますから、周泰さん、後は貴女次第ですよ♪
ささ、美羽様、屋敷に戻って、遠目に出歯亀しましょうねぇ」
「七乃、出歯亀とはなんじゃ?」
「出歯亀とはですねぇ………」
そう言い残して、二人は屋敷の中に消えて行きます。
……本当に覗き見しませんよねぇ?
そう不安になりつつも、私は張勲がくれたこの機会を無駄にする訳には行かないと、
先程とは違い、一刀さんに静かに向かい合い。
「一刀さん、もう一度お願いします。
私に稽古をつけて下さい。 私は思春様において行かれたくありません。 夢半ばに、倒れたくないんです。
密偵にしても、武将にしても、私はまだまだ未熟です。 悔しいですが、今までの様な鍛錬では、限界も
見えています。 助言でも構いません。 思春様のついでではなく、もっと私を見て言って欲しいんです」
「……」
「私達密偵は、いつ戦闘になるか分かりません。 任務の特性上、そうなれば無事帰還できる可能性は、小さ
くなります。 それは武将にしても、大なり小なり同じ事が言えます。 ……私は、生きて帰ってきたいん
です。 任務を達成した上で、雪蓮様達、そして一刀さんの元へ、家族の元へ帰って来たいんです」
「……明命」
「私の夢は、雪蓮様が目指す国のために手伝い、そしてその国を、この目で見る事です。
民が安心して暮らし、民が笑っていられる国を作る。 それは荒廃した今の時代、誰もが夢見る国です。
そして、孫家は本当に民を想って力を尽くしてきました。 そのためには庶子の出である私でも、江族出身
であった思春様ですら、周りの反対を押し切って、こうして末席に加えて下さいました」
「……俺は」
「一刀さんが私達を大切に想って下さる気持ちは、大変嬉しいです。
でも、だからこそ、時には傷つけて下さい。 それが必要なら、遠慮無く叩きのめして下さい。
私は武官です。 厳しい鍛錬程度では根を上げません。
それに、家族のやさしい想いを知っていて、弱音を吐く程弱くありません。
一刀さん、それでも、私に、私達に稽古をつけるのが嫌ですか?」
「……ごめん」
私の想い限りに尽くした言葉の後に出た言葉、
一刀さんのそんな言葉が、私の心に深く突き刺さります。
「……俺が間違えていたよ」
え?
「本当、目が曇っていたと言われても仕方ないよな」
それは、いったい
「考えれば分かる事なのに、そんな事に気がつかないなんて、本当どうかしているよな」
……つまり、それは、
「明命、俺で良かったら鍛錬につきあうよ」
「一刀さんっ」
私は、一刀さんの言葉に、まっすぐ飛び込みます。
何時もの様に、だけど久々に一刀さんの胸に、飛び込みます。
「ちょっ、明命そんなにくっつかれたら、その色々と・」
一刀さんが何か言っていますが、構いません。
私は祭様の教え通り、心のままに真っ直ぐに、そして思いっきり一刀さんの胸に飛び込みました。
一刀さんの温もり、
一刀さんの少し汗臭い匂い。
でも何処か安心する匂い。
そして、私に抱きつかれ、速く鳴っている一刀さんの胸の鼓動、
とても、心地良いです♪
そうです。 せっかくですから、このまま一刀さんに私の想いを・
「あぁぁーーーっ、隊長やっと見つけたっ」
等と、せっかくの良い雰囲気の時に、一刀さんの向こうの方から、そんな声が聞こえてきます。
この声は確か、
「あれ? 朱然どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよぉ。 昼過ぎたら、調練に顔を出して下さいって連絡行ってないんですかっ!?」
「えっ? そんな話聞いてないよ。 それいつ頃の話?」
「丁奉に昼前に……って、あれ、周将軍? ……やばっ……お・お邪魔しました」
「朱然」
朱然は一刀さんを迎えに来たようですが、どうやら一刀さんの影になっていた私に、気がつかなかったようです。
ですが途中で、私と状況に気がつき、慌てて逃げだそうとしますが、もう遅いです。
私の声に、条件反射的に、立ち止まって姿勢を正す朱然は、とりあえず置いておいて、
「一刀さんは、まだ将の行う調練と言う物が、よく分かっていません。
朱然達も、その気が無いとは言え、其処に甘えが出てしまうものです。
一刀さんが慣れるまでの間、偶には、本職の将軍が喝を入れる事も必要でしょう」
「あ・あの明命何か、えらく不機嫌じゃ?」
「気のせいです。 今日の一刀さんの部隊の調練は、私が見ておきますから、一刀さんは、先程の続きをして
あげて下さい。 確かに、あの二人には必要な事ですから」
「いや、それは明命に悪いし・」
「しっかり稽古つけてあげて下さいね。 さぁ朱然、貴女の腕が、あれからどれだけ上がったか見てあげます」
私は、一刀さんにそう言い含めてから、何故か汗をだらだら流している朱然を半ば引きずって、帰ってきた屋敷を再び後にします。
幾ら密偵の任務が多い私の部隊を離れたからと言って、状況をろくに確認せずに感情のまま先走る等、少し頭の巡りと勘が鈍っているようです。 天の御遣いの部隊になった事で、少し自惚れがあるのかも知れません。
天の御遣いの部隊になった事、それは孫呉の弱点でもある一刀さんを、何があっても守る事。 その意味を、体と心にしっかりと叩き込んであげた方が良いようですね。
それと張勲には、いえ、七乃達には後でお礼を言っておかねばいけませんね。
悲しみに、怒りに飲まれそうになった私を、どこまで読み切っていたかは分かりませんが、ああして身を盾にして私を止めてくれました。
そして一刀さんを説得してくれました。 ああいったやり方でしたが、一刀さんに考えを改めさせてくれました。
七乃の言った言葉、以前であれば、きっと一刀さんの心は動かなかった。
私や翡翠様が、もしくは他の者が言ったとしても、きっと一刀さんの心は動かなかった。
多くの事を乗り越えた今だからこそ、そして、私の知らない何かで繋がった七乃達の言葉だからこそ、一刀さんは自分の過ちを認め、考え方を変えてくれたのだと思います。
………それにしても、ずいぶんと一刀さんは素直に七乃の言葉を聞いてくれました。
やはり一刀さんは、ああ言う女性らしい方が好みなのでしょうか?
でも、例えそうだとしても、一刀さんはお二人には絶対渡しません。
武術の鍛錬も、そして、恋も決して負ける訳には行きません。
通常視点:
朱然が一刀達の屋敷にやってきた頃、城のある場所にて、
褐色の肌をした黒髪の美しい女性が、年若いと言うにもかかわらず、孫呉の総都督と言う位に就いたその女性は、その美貌故に、冷たい眼差しをすれば、一般的な容貌の女性より凄味が増すと言うのに、
更に、赤黒い何かを体の彼方此方から、靄の様にゆったりと吹き出させながら、己が主である王が執務をしている机に向かって
「確か北郷の隊の丁奉だったな、何故貴様が其処に座っている?」
「そ・そそ・孫策様の命で、こ・」
「分かった。 それ以上何も言うな、言えば貴様を罰せねばならなくなる」
視線で人を殺せるなら、まさにこの事だろうと、心の奥深くまで刻まれた哀れな男は、背骨を引き抜かれ、代わりに氷柱でも入れられた様な心地で、冷汗をだらだら流しながら、自分がおいそれと口が聞けない相手の言葉を、半ば安堵しながら聞いていた。
もっとも、今の状況を作り出した原因は、彼女より更に上の、自分達が決して逆らう事の出来ない相手だったのだから、この男の理不尽な今の状況は、すでに不幸として片付けるには、少々気の毒と言えた。
「貴様はすぐに本来の任に戻れ、それから、次に同じ事があれば、例え伯符の命令があろうと、私に伝えろ」
「は・はっ!」
「それと、机上の書類を見たか?」
「と・とんでもありません。 そ・そのような恐れ多い事」
「それならば良し、ただし、其処に書かれている事について噂が立とうものなら、その事実に関係なく
ふふ……分かっているな?」
男は、目の前の女性の冷たく感情の映さない瞳と声に、まるで自分の首に剣が突きつけられた様な……いや、己が魂を死神の手で掴まれた様な心地になり、ただ頷く事しかできず、命令のまま部屋を退出する。
そして、将や軍師という物が、どれだけ自分達一般兵と比べ、かけ離れた化け物だと言う事を、身をもって知る事になったのだが、別の意味で、同じ日に二度も同じような感想を浮かべる事になろうとは、この男に知るよしもなかった。
そして男が去って、しばらく
「さすがに、見られて不味い物は何一つ無いようだな。
……遠目に人影があるから大丈夫と思っていたが、書類が一向に廻ってこないと不審に思い見に来てみれば
この様か、まったく、北郷の一件が片付いたと思ったら早速これか、まったく、今回は流石に目をつぶる訳
にはいかんな」
そして、その夜、王の執務室は、夜遅くと言うか、朝方まで明かりが灯り、時折王の悲痛の声が響いたのは、言うまでもない事だった。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第70話 ~ 七つの羽が舞う空に、明るき命は想いを胸に前へ進む ~ を此処にお送りしました。
今回は予告通り、明命視点で書く事が出来ました。
武官として、腕を磨いているも、それ以上に腕を上げていく思春、そして霞の登場に、今の自分に対する限界を痛感していたところに、今回の美羽達への鍛錬で、とうとう明命の怒りが爆発してしまいました。
まぁ結果は、作中に話した通りですが、一刀は七乃の他の問いかけに答えを出す事が出来るのでしょうか?
そろそろ、こちらの方も、進展させていくつもりです。
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
PS:朱然と丁奉、そしてその他の一刀の部隊の皆に、冥福を祈りましょう( 死んで無いってっ(w )
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
笑顔を取り戻した一刀、
その事に喜びつつも、武において、一人置いて行かれている事を痛感している明命。
思春の様に、例え僅かと言えど、直接指示を仰ぎたいと願っている時、明命の目に……
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