No.162742

真・恋姫無双 幻の浴衣美人

狭乃 狼さん

夏祭り参加用SS、第二弾。

都で夜な夜な目撃される、なぞの美女。

果たしてその正体は?

2010-08-02 16:13:25 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:15041   閲覧ユーザー数:13129

 

 「また?」

 

 「はい。昨晩も目撃されたそうです」

 

 一刀に報告をする一人の兵士。

 

 「で、やっぱり顔はわからないんだ?」

 

 「はい。ただ、北郷様のおっしゃったとおりの服装には、違いないそうです」

 

 「そっか。わかった。報告ご苦労様。下がっていいよ」

 

 「は!」

 

 敬礼して部屋を出る兵士。

 

 「ふう・・・」

 

 椅子にもたれかかり、大きく息を吐く一刀。

 

 

 じつはここ最近、一刀の都にひとつの噂が流れていた。

 

 夕方から夜半にかけ、町の中心を走る大通りのあちこちで、目も眩むような美人が目撃されているらしい、と噂されていた。。しかも、その人物はこの国にはない、不思議な衣装を身に纏っているとの事だった。

 

 その衣装の特徴を聞いたとき、一刀は椅子から転げ落ちるほど驚いた。

 

 「・・・この世界で、俺以外にあれを知ってるとなると、どっかの筋肉だるまぐらいのはずだけど、その人物は間違いなく女性だって事だし・・・。いやまあ、美人だから気になるとか、そういうことでは決してないんだけど」

 

 誰もいないのに一人いいわけめいたことを言いながら、いろいろな可能性を一刀は考えてみた。だが、あの衣装のことを話した人物となると、たった一人しか思い浮かばなかった。

 

 「・・・よし!」

 

 おもむろに椅子から立ち上がり、部屋を出る一刀。

 

 

 

 「あの衣装?あれなら確かに作ったのー。でも、出来たその日に買い取られたのー」

 

 「誰が?」

 

 沙和の部屋兼、デザインルームを一刀は訪れていた。

 

 「それは言わない約束で売ったのー。だから、隊長でも教えるわけにはいかないのー」

 

 そういってそっぽを向く沙和。

 

 「・・・そう。じゃあ、しょうがないか。・・・うん、しょうがないな。新しいデザイン画はまた今度って事で」

 

 ぴくっ!!

 

 一刀の台詞に反応する沙和。

 

 「結構渾身の一作なんだけど、仕方ない、あー残念」

 

 わざとらしく言う一刀。

 

 「うー、隊長の意地悪!!・・・沙和がばらしたこと、黙ってて欲しいのー」

 

 「わかってるって。・・・で?」

 

 「・・・(ぼそ)さんなの」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ」

 

 沙和の口から出た名前に、あっけにとられる一刀であった。

 

 

 

 その日の夜。

 

 大通りを歩く人々の間を、一刀は周囲に目を配りながら歩いていた。

 

 「噂じゃ、このあたりでよく見かけるらしいけど、・・・どこにいるのかわかんないな」

 

 見渡す限りの人、人、人。

 

 ちょうど今は、夏祭りの真っ最中。他の将たちはあちこちの警備で忙しく、手が離せない。その為、一刀は一人で件の人物を探しに出ていた。

 

 「・・・けど、どー考えても、イメージと合わないんだよなあ・・・」

 

 おそらく噂の人物は、一刀が今探している人物のことだろう。しかし、普段の姿や言動からはまったく想像がつかなかった。

 

 そこまで思考したとき、一刀は一人の女性とすれ違った。

 

 その服装は、件の”それ”だった。

 

 「・・・ちょっ!まっ、待って!!君!!」

 

 一刀がその女性に声をかけると、女性は一瞬振り向き、二人の目が合う。

 

 「!!!!!!」

 

 その瞬間、女性は突然走り出す。

 

 「くそ!何も逃げなくていいだろ!!」

 

 後を追い、駆け出す一刀。

 

 

 

 城壁の上、楼閣の近くに彼女はいた。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 肩で息をしながらも、一刀はようやく女性に追いついた。

 

 「・・・・なんで逃げるんだよ。てか、その格好で良くそれだけ走れるもんだ。さすがってとこかろな?」

 

 さらに近寄ろうとする一刀。だが、

 

 「こ、来ないでくれ!!」

 

 「え?」

 

 一刀を制止する女性。一刀も思わず足を止める。

 

 「頼む、お願いだから見ないでくれ!こんな、こんならしくない姿の私を!!」

 

 そう、なみだ目になって懇願する女性。

 

 「き、気の迷いだったんだ!!こ、この姿になれば、私なんかでも、お前の気を引けるんじゃないかとか!!お前を独り占めしてみたいとか思うなど!!私は、私は・・・!!」

 

 早口で、女性がそこまで言った瞬間、

 

 ひゅるるるるるる・・・・・どおーーーーん!!

 

 ぱあっと、花火が上がり、その輝きが女性を照らし出す。

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「・・・・な、なんだ?そんな、大口を開けて」

 

 花火の光で照らし出されたその女性を見た瞬間、一刀は思わず見惚れてしまった。そう、淡い紫の”浴衣”を身に纏った、その姿に。

 

 「綺麗、だ・・・・」

 

 一刀の口から、思わず漏れる一言。

 

 それを聴いた瞬間、女性はボッ!と、顔を真っ赤にする。

 

 「ば、ばかな事を言うな!!私なんかのどこが・・・!!!」

 

 顔を背ける女性。その彼女に、一刀が近づき、そして、

 

 「!?」

 

 ぎゅっ、と抱きしめた。

 

 「ほ、北郷・・・・?」

 

 「とっても綺麗だ・・・この世のものとは思えないくらいだよ・・・華雄」

 

 どどおーーーーん。

 

 二発目の花火が上がり、二人を照らし出す。

 

 「北、郷・・・」

 

 「俺のために、これを着てくれたんだ。とってもうれしいよ。・・・よく、似合ってる」

 

 「北郷・・・・」

 

 「一刀、って呼んでくれないの?」

 

 「!!・・・・・かず、と」

 

 「華雄・・・・・・」

 

 三発目の花火が上がる。その光が映し出すのは、一つに重なる二人の影。

 

 

 

 

 

 

 その日、一刀は華雄と夜遅くまで、ともに祭りを楽しんだ。

 

 

 

 

 次の日、それを聞きつけた面々に毎日交代制で付き合うことになったのは、また別の話である。

 

 

 

 もちろん、全員が浴衣装備だったのは、言うまでもないことであろう。

 

 

 

 ~完~

 


 
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