No.162367

真・恋姫†無双 蜀の夏休み

アボリアさん

恋姫†夏祭り用の作品です
募集内容に「恋姫無双シリーズ」の世界観をテーマとし、と書いてあったので、萌将伝のIFではなく、真恋姫の蜀√エンド後のお話です
もし萌将伝の話以外は駄目ということになった場合は萌将伝用に修正するか、もしくは恋姫祭りとは全く関係ない短編という扱いにするつもりですのであしからず
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有難いです

2010-08-01 10:46:31 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10340   閲覧ユーザー数:8416

「うう、暑~~い……」

 

「夏だからな……」

 

夏の日差しが燦々と照りつけるある日の事

俺は桃香と二人、暑さでダレながらも政務に励んでいた

 

あの五胡との大戦の後、三国同盟が結ばれてからというもの、俺達は多大な量の政務に追われ休みもろくに取る事も出来ず働き詰めとなっていたのだった

 

「それにしてもこの暑さは異常だろ……」

 

俺は誰に言うでもなく、一人呟く

そもそも蜀と言う土地は中国の中でも南西方向にある亜熱帯気候の土地であり、そのうえ周りを山に囲まれているから湿気も強い

詰まるところ、高温多湿、というわけだ

 

「こんな暑さじゃ、仕事なんて進まないよ~」

 

目から滝のような涙をタパー、と流しながら桃香が愚痴る……脱水症状にならないといいが

 

「何を泣き言をいっているのですか。桃香様も、ご主人様も、もっとしっかりとしていただかないと困ります」

 

俺達の態度に業を煮やしたのか、俺達の仕事を手伝ってくれていた愛紗が嘆息しながら言う

まあ、彼女の言うことももっともなのだがこう暑いと愚痴の一つぐらいは仕方ないと思う

 

「あ~……。折角夏なんだし、海にでも行きたいなぁ~」

 

「え?ご主人様、海に行ったことあるの?」

 

俺の何気ない呟きに桃香が意外と言った顔をして食いついてきた

 

「え、うん、あるけど……桃香はいったこと無いのか?」

 

「無いよ~。私は山の方の生まれだし、愛紗ちゃん達と会ってからはそんな暇も無かったし」

 

「私も、話に聞く事はありますが、実際に海を見たことはありませんね」

 

「愛紗もか」

 

まあ、つい最近まで乱世であったわけだしそれも不思議じゃない話か

寧ろ、日本とは違ってこんな広大な大陸に生まれて、尚且つ移動手段も限られているとなれば生まれてから死ぬまで海をみたことが無いという人の方が多いくらいかもしれない

「いいなぁ~、海……」

 

桃香がどこか遠くを見るような眼差しをしつつ呟く

そんな桃香を見ていると、何とか彼女に海を見せてあげたいという気持ちが俺の中にこみ上げて来る

 

「……なあ、愛紗。何とか時間を作って海に「駄目です」まだ最後までいって無いよ!?」

 

俺が主張しようとした矢先、直ぐに愛紗に否定されてしまった

 

「最後まで言わずとも分かります。確かに、今の仕事量では休みが欲しいのは分かりますが、ここ、蜀から海までどれほどの距離があることか。それほどの休みを取るわけにはいきません」

 

俺達の期待をきっぱりと絶つかのように断言する愛紗

 

「ま、そりゃそうだよな~」

 

ここから一番近い場所でも呉の領土まで行かないといけない訳だし、早馬で飛ばしても一日二日ではいけないだろう

久しぶりに思いっきり泳ぎたかったけど、仕方ない…………ん?

 

(泳ぐ……つまり水着になる、ってことだ。それは、つまり……!!)

 

「愛紗!!」

 

「な、なんですか?突然大声をだして……」

 

俺の突然の叫びに少し驚いた様子の愛紗

だが、真理にたどり着いた今の俺にそれを気にしている余裕は無かった

 

「海へ行こう!!一国の王が、海を見たことも無いなんて不憫だと思わないか!?いや、寧ろ、雄大な海を見ずして、何が王か!!」

 

「……いや、力説されましても。それに先ほども申したでしょう?仕事がある故、長期蜀を離れるわけにはいきません、と」

 

ハイテンションで叫ぶ俺に若干引きつつも愛紗が反論する

しかし、今の俺はそんな事では止められない!!

 

「つまり、仕事さえ終わらせてしまえば問題は無い、ってことだね?」

 

「え、ええ。有体に言えばそうなりますが……」

 

その愛紗の言葉を聞き、俺は勝ちを確信する

 

「よし、その言葉、しっかりと覚えたからな!?桃香!!朱里にいって、向こう二週間分の仕事を回してもらおう!!」

 

「ええ!?二週間分!?」

 

驚きの声を上げる桃香に、俺は畳み掛けるように言い放つ

 

「ここで頑張れば、海へいけるんだぞ!?長江より広くて、空よりも青い、そんな海を見てみたいだろう!?」

 

「っ!!」

 

俺の熱い想いが届いたのか、桃香の目にやる気の炎が見えた

 

「よし!!やろう、ご主人様!!私達の想いを全部ぶつければ、何とかなる気がしてきたよ!!」

 

「よし!!その意気だ!!」

 

ガッ、と手を取り合う俺達

そしてその勢いのまま、俺と桃香は目の前の書簡をいつもとは比べ物にならない速度で片付けていくのだった

 

 

 

 

 

 

「……いつも、このくらいのやる気を見せて頂ければいいのですが……」

 

その光景を目にして、愛紗は嘆息しつつ呟くのだった……

「う、み、だーーーーー!!!」

 

ハイテンションで海に向かって叫ぶ俺

 

あの日から数日後、俺達は念願の海へと来ていた

まあ、流石に全員で来るというわけにはいかず、今回は俺と桃香、愛紗に鈴々というメンバーで来ていて、朱里や雛里たちには蜀に残って政務を担当してもらう事になったのだった

 

「おおー!!お兄ちゃん、元気一杯なのだ!!鈴々も叫ぶのだ!!う、み、だーーー!!!」

 

いつの間にか隣に並んでいた鈴々が俺の真似をして叫ぶ

 

「あれ、鈴々一人?桃香達はどうしたんだ?」

 

彼女達は水着に着替える為、一緒に行動していたはずだ

現に鈴々は今、タンクトップビキニという感じの水着姿であり、これはこれでなんとも……いやいや、思考が逸れた

 

「お姉ちゃんならあっちなのだ。愛紗が恥ずかしがってなかなかこないから、お姉ちゃんが鈴々は先に行ってて、って」

 

俺が思考に没頭していると、鈴々がそういって答えてくれる

そして彼女が指差す方向を見ると……

 

「と、桃香様!!やはり恥ずかしいです!!」

 

「え~、なんで?愛紗ちゃん、とっても可愛いよ?」

 

「そ、そんな事ありません!!私のような女らしくない者がこのような格好をして、似合うはずがありません!!」

 

「も~、いいから!!早く行かないとご主人様も鈴々ちゃんも待ってるよ!!」

 

少し離れた所で桃香と愛紗の声が聞こえてきた

それから暫くの間、その声が続いていたが、とうとう根負けしたのか声が聞こえなくなる

すると、声のした方角から、桃香が愛紗の手を引く形で二人がこちらへと向かってきたのだった

 

「お待たせ~。御免ね、待たせちゃって」

 

そういって俺達の前に来た桃香は、フリルのついたビキニに、腰にパレオを巻いた水着を着ていた

彼女が動くたびに、彼女の至宝ともいえるたわわな果実が柔らかく揺れて……ああ、仕事を頑張った甲斐があった!!

 

「ほら、愛紗ちゃんも!折角可愛いんだから、ご主人様にも見てもらおうよ」

 

桃香が自分の背に隠れるように背中を丸めている愛紗に出てくるように促す

すると、その言葉に観念したのか愛紗はモジモジとしながらも、俺の前へと出てきた

 

「ど、どうでしょうか、ご主人様……」

 

「……」

 

「あの、その……なんとか言って下さると、こちらも楽なのですが……」

 

「……」

 

「や、やはり私のような者がこんな格好、似合いませんよね……」

 

 

 

「……綺麗だ」

「……え?」

 

俺の言葉に驚いたような顔をする愛紗

ただ、それが俺の偽らざる本心だった

 

「綺麗だし、可愛いよ、愛紗」

 

彼女の着ている水着は桃香のようにビキニスタイルだったが、桃香の物と比べるとフリルが抑え目のシンプルな水着だった

だが、そのシンプルさが彼女にとても似合っていて、とても可愛く、美しかった

 

「そ、そのように気を使っていただかなくとも結構ですよ?桃香様のように女らしくも無い私がこんな格好似合わないと言うのは自分でも分かっていますゆえ……」

 

「そんな事無い!!凄く似合ってるよ!!」

 

自信なさげに自分を卑下する愛紗だったが、そこだけは譲れなかった

 

「女の子らしくないなんて事は絶対無い。愛紗はとっても可愛くて、水着も物凄く似合ってる。断言してもいい!!」

 

「ご主人様……」

 

「それとも、愛紗は俺の言う事が信じられない?」

 

俺がそう、囁くように言うと愛紗は顔を赤らめて答える

 

「……そのような言い方は卑怯です。私がご主人様を信じない訳が無いではないですか」

 

「うん、ありがとう。愛紗」

 

そうして見詰め合う俺達

 

自然とお互いの顔が相手へと近づいていき、そして……

 

 

 

 

 

 

 

「む~、ご主人様も愛紗ちゃんも、私達の事忘れてない?」

 

「鈴々も似合ってるっていってもらって無いのだ!!愛紗ばっかりずるいのだ!!」

 

……その二人の声を聞き、バッと離れる俺達だった……

 

「ねえねえご主人様。私は似合ってる?」

 

「お兄ちゃん、鈴々は?鈴々は?」

 

「う、うん、二人とも、とっても似合ってるよ」

 

先ほどの件で動揺しつつも、しっかりと答える

 

「本当!?よかった~~」

 

「よーし、それじゃあ泳ぎにいくのだ!!いこう、お姉ちゃん!!」

 

二人はそれだけ聞くと、二人して海へと走っていってしまう

 

「……そ、それじゃあ、俺達もいこうか?」

 

「は、はい。そうですね」

 

残された俺と愛紗は、お互い照れくさがりながらも桃香と鈴々の後を追うのだった

「わぁ~!!つめた~い!!」

 

「ホントなのだ!!それに塩っ辛いのだ!!」

 

「本当だな。書物では聞いていたが、本当に塩辛い水が天然であるとは……」

 

「三人とも、ちゃんと準備運動してからじゃないと危ないぞ~」

 

まずは水に慣れるため、四人で波打ち際で遊び

 

 

 

 

「よし鈴々!!あの岩までどちらが先に着くか競争だ!!」

 

「望むところなのだ!!鈴々の泳ぎを見せてやるのだ!!」

 

「……わ~、二人ともはや~い」

 

「本当だ、もうあんな所まで行ってる」

 

海に慣れてきた所で、四人で沖のほうまで泳いで行ってみたり

 

 

 

「にゃ~!!猛虎粉砕撃~!!」

 

「ああ!!せっかくのスイカが粉々に!?」

 

「ああは~、鈴々ちゃんすご~い!!」

 

「こら鈴々!!やりすぎだ、馬鹿者!!」

 

くる途中の村で偶然貰ったスイカでスイカ割りをしたり

 

 

 

「見てみて~!!鈴々が一番沢山捕まえたのだ!!」

 

「何を言う鈴々!!私の方が多く捕まえたぞ!!」

 

「わっ、二人とも沢山!!」

 

「よし、それじゃあ火も準備できたし……」

 

愛紗と鈴々が素潜りで捕まえてきた魚や貝といった海の幸を焼いて、それを昼食にしたりと、俺達は海を満喫したのだった……

「くか~」

 

「すぅ、すぅ」

 

「最近忙しかったし、桃香も鈴々も、疲れてたのかな~」

 

「桃香様は仕事の疲れもあるでしょうが、鈴々はただ遊び疲れただけでしょう。全く……」

 

嘆息しながら愛紗が言う

 

昼食後の食休みということで木陰に入ると桃香と鈴々はよほど疲れていたのか、直ぐに二人とも折り重なるように眠ってしまったのだった

 

「でも、遊び疲れて寝ちゃうぐらい楽しんでくれたなら、来た甲斐があったってもんだよ」

 

「……それもそうですね。今まで忙しかったのですから、このくらいは目を瞑るとしましょう」

 

俺と愛紗は肩を並べ、同じ木の幹を背にしながら話を続ける

 

「それで?愛紗は楽しんでくれた?」

 

「う、ま、まあ、楽しくなかったことは……」

 

困ったように顔を赤らめ、しどろもどろになる愛紗だったが、ふうっ、と息を吐き、笑顔になって答える

 

「……いえ、本心から楽しませて貰いました。こんなにはしゃいだのは久しぶりです」

 

「そっか、よかった」

 

ふと、近くで眠っている二人の方へと視線を向ける

二人とも熟睡しているようだったが、幸せそうな笑顔を浮かべていた

 

「今度は皆も連れてこような」

 

「ええ、そうですね。特に璃々や美以、恋などは喜ぶでしょうな。……そのためにも、ご主人様達にはしっかりと仕事をしていただかねば」

 

「うわっ、藪蛇だったか」

 

そんな軽口を叩いていると、俺と愛紗、どちらからともなく笑いが起きる

 

俺達の海での一日は穏やかに、ゆっくりと過ぎていくのだった……

おまけ

 

 

「はわわ……!!」

 

一刀達が海でそんな事を話していた同時刻、朱里は頭を悩ませていた

とはいっても、一刀や桃香、愛紗に鈴々の仕事の皺寄せが回って来たというような話ではなく、寧ろ一刀達がやる仕事については向こう二週間分どころか一か月分くらいは終わっていた

それなのに何故彼女がこんなにも悩んでいるかといえば、〔一刀達がいない〕という理由からだった

例えば……

 

「大変です!!南蛮王孟穫殿及び南蛮兵が街で悪戯を繰り返していると報告が入っております!!」

 

「蒲公英ちゃんに協力してもらい直ぐに捕獲して下さい!!捕まえた後は紫苑さんに頼んで、もう街へは出ないように監視して欲しいと伝えておいて下さい!!」

 

鈴々という遊び相手がいない美以達が暴走をしたり

 

 

 

「呂布将軍が見当たりません!!恐らくまた無断外出をした模様!!」

 

「……仕方ありません。恋ちゃんなら時間が経てば自分で戻ってくるでしょうからそれまでは他の人に恋ちゃんの仕事を代わって貰っておいて下さい!!」

 

監視役兼、保護者である愛紗がいない事で、恋が自由過ぎるほど自由に出歩き

 

 

 

「た、大変です!!街で、またむねむね団が出ました!!現在は神輿で町中を練り歩いているようです!!」

 

「こんな忙しいときになにやってるんですかぁ!!」

 

桃香という話し相手が居なくなって暇を持て余している麗羽が好き放題に暴れまわったりと、それらの対処に追われていたのだ

 

しかし、それらよりも遥かに朱里が頭を悩ませる出来事がもう一つあった

それは……

 

 

 

 

 

「ここに居たのか朱里」

 

 

 

 

「っ!!」

 

その声にビクッと体を震わせる朱里が、恐る恐る振り返ると

 

「街でむねむね団が暴れているようだな。これは華蝶仮面の出番だ!!出陣するぞ、朱華蝶!!」

 

蝶の仮面を付け、そう宣言する星がいた

……これこそが朱里が悩んでいる一番の理由、一刀という名の突っ込み役が居ないせいで暴走に暴走を重ねる華蝶仮面だった

 

「せ、星さん。私は仕事があるので……」

 

そういって遠巻きに断ろうとする朱里だったが、星は問答無用で腕を掴むとそのまま引きずっていってしまう

 

「仕事も大事ではあるが、それよりもまず街の平和を守ることこそ正義の味方の優先するべき事!!恋華蝶は見当たらんから仕方ない、私たち二人で向かうぞ!!それと私は星では無い、華蝶仮面だ!!」

 

はっはっはー!! と高笑いをし、朱里を引きずったまま歩く星

 

「うう、ご主人様~、早く戻ってきてくださ~い!!」

 

そんな、朱里の悲痛な叫びが、蜀にこだまするのだった……

 


 
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