「そういえば、もうすぐ中元節ですねぇ~」
夏も盛りのある日の事、会議の最中に穏が突然そんな事を言い出したのが始まりだった
「ああ、もうそんな季節になるかのう……」
穏の発言に少し遠い目をしながら祭さんが答える
「そうね。では穏、亞莎、例年通りの準備をお願いできる?」
「りょ、了解しました!!」
「はい~。それでは会議が終わり次第、さっそく準備にとりかかりますね~」
「頼むわね。では次に……」
「あの~、ちょっといいかな?」
皆だけでサクサクと進んでいき、次の話題に入ろうかという流れの中、その話に全く付いていけない俺は話に割り込むように問いかける
「中元節って……なに?」
俺がそういうと、周りの皆は何を言ってるんだという目でこちらを見てくる……いや、確かに俺以外の皆は分かっているみたいだけど知らないものは仕方ないだろ?
ただ、思春なんかはなに戯言をいって話の腰を折ってるんだ、とでも言わんばかりに睨んでいた……ああ!みんなの視線が辛い!!
「あ、あの!!天には中元節が無いのかも知れませんし、前回の中元節の時、一刀さんは蜀への交流で不在でしたし、知らないのも無理は無いんじゃないかと!!」
そんな居心地の悪い視線に囲まれて困っている俺を見かねて亞莎が助け舟を出してくれる……うぅ、この子は本当にいい子だ!!
「そうなの?一刀」
「ああ。中元節って言葉をはじめて聞いた。それって行事か何か?」
蓮華の問いにそう答える
すると、そうですね~、といいながら穏が説明を始めてくれた
「中元節というのはですねぇ~、三元の一つで、道教でいう地官大帝の誕生日の事なんですよ。その日に贖罪の願いを込めた行事を行うというのが世間に広まって、今では故人を偲んで、その人の生前の罪が許されるようにお祈りしたりする行事になったんですよ~」
「へぇ~、日本で言う、お盆みたいなもんか」
たしか日本のお盆はその時期になると帰ってくる故人の魂を迎えて、お盆が過ぎる頃に送り出す行事だけど、故人の冥福を祈る所や、時期的にも大体合致しているのでもしかしたらお盆の元になった行事なのかもしれない
「おぼん?」
俺がそんな事を考えていると、小蓮が首をかしげながらそう聞いてきた
「そ、お盆。俺達のいた世界では中元節のことを、盂蘭盆会……だったかな?そう呼ぶんだ」
「ほう、天の世界で行われる行事か。興味深いのう」
そういって俺の話に食いついてきた祭さんを筆頭に、皆もお盆に興味があるようだったので、俺の知っている限りではあるが、お盆を説明する
精霊馬や団子などの供え物、迎え火、送り火や灯籠流し、盆踊りと言った説明をザッと話す
すると
「面白そうじゃな。権殿、今年の中元節、天のお盆とやらを取り入れてみたらどうじゃ?」
「そうね……いい考えかもしれないわね。穏と亞莎はどう思う?」
祭さんの意見を受け、蓮華が二人に話を振る
「私もいいとおもいますよぉ~。中元節はお祈りだけで盛り上がりにも欠けますし」
「わ、私も穏様と同意見です!!故人を弔うにしても、祭りというのであれば民も馴染みやすいと思います!!」
「そう、それでは、今年の中元節はお盆を取り入れる事に決めましょう」
こうして呉の宿将及び軍師二人の賛同を受け、お盆の開催が決まったのだった
「……というわけで、俺達はお供え物を用意する訳なんだけど」
所変わって、厨房に移動した俺達
急遽お盆を行う事が決まった為、お供え物の準備をする為だ
ちなみに一緒に供え物を作ってくれるのは明命、亞莎、祭さんというメンバーであり、他の人達は盆踊りの準備や盆祭りを開催する事を民に喧伝、といった仕事をしてくれている
「まずは精霊馬を作ろうか」
「しょうりょうば……ですか?」
そういって首をかしげる亞莎に、実際に作ってみせる
まあそういっても、ただキュウリやナスに棒を差して馬や牛の形を作るだけの簡単なものだから説明も糞も無いのだが
「こうして馬みたいにしてお供えをする事で、死んだ人の霊が馬で帰ってこれるように、牛の方は帰る時は牛に乗ってゆっくりと帰る事ができるように、って思いを込めてお供えするんだよ」
「ふぇ~そうなんですか」
そんな説明をしつつ、皆で精霊馬を作っていく……ん?
「……いや、明命。お猫様はいいから」
「はうあ!!す、すみません、つい……」
明命の作った精霊馬を見ると、全部の精霊馬の、顔に当たる部分に猫耳らしきものが乗っかっていた
うん、無駄に器用だ
「ま、いいか。それじゃあ次はお供えの団子を作ろう」
これは別に特別な訳ではないので説明するまでもなく、皆で団子を作っていくのだが……
「うん、亞莎。やるとは思ってたけど、お供え物なんだからゴマ団子にする必要は無いよ」
「あう、すみません……いつもの癖で……」
亞莎の作った団子だけ、全部ゴマ団子になっていた
まあ、これはお供え用じゃなくて後から皆でおやつにでもすればいいか
「あとはお神酒の準備だけど……」
そういって俺は残る方のほうへと視線を向ける
「祭さん……いえ、やっぱりいいです」
「なんじゃ、儂への突っ込みはなしか?」
不満そうにそういう祭さんの手には……予想通り、お神酒と杯が握られていた
「分かりやす過ぎて突っ込むのも嫌になったんですよ!!」
そんな漫才をしながらも、俺達は何とか供え物の準備を進めていくのだった
そんな慌しい準備になったが、何とか無事お盆までに準備を間に合わせる事が出来、盆祭りの前々日にはお供え物を備え、迎え火を焚いて故人の霊を迎えた
そして盆祭り当日
「……凄い、幻想的な光景ね……」
蓮華がポツリと呟く
俺達の眼前には無数の蝋燭の火が揺れ、それと同じ数だけの小さな灯籠を乗せた船が波に揺らめいていた
「ああ……それにしても、凄い数だよな」
現在俺達は送り火として、長江にて灯籠流しを行っていたのだが、盆に参加している民達の分も合同で行っている為長江を埋め尽くさんばかりの灯籠が長江に浮かんでいた
でも、と隣に立つ蓮華が呟く
「美しい、幻想的な光景だけれど……この光と同じだけの人が亡くなったと思うと、儚げな、悲しい光景ね……」
「……そうだな」
何もこの灯籠全てが今年のうちになくなった人というわけではない
もちろん戦で亡くなった人達もいるだろう
この中の多くが、孫呉の、天下泰平の夢のために散った魂だと思うと……国を守るためとはいえ、悲しさは拭えない
でも
「だからこそ、国の為に命を尽くしてくれた人達の為にも、俺達は頑張らないといけないな」
そういって俺の頭に浮かぶのは……もちろん兵もだが、なによりも
孫呉の為に命を燃やし尽くした、王と軍師の姿だった
「……そうね。こんな風に弱音を吐いていたら、姉様や冥琳にしかられちゃうわね」
「そうだね。……もしかしたら、二人も帰ってきて、俺達のことを見ていてくれてたかもしれないしな」
俺がそういうと、蓮華は苦笑をして答える
「ふふ、そうかもね。二人が、今の平和な孫呉を見てくれたとしたら、なんていうかしら?」
――そうねぇ、頑張っているじゃない、二人共。ってところかしら?――
――そうだな、まだまだ未熟な所はあるが、立派に王として、都督として頑張っていると思うよ――
「「え……?」」
何処からともなく聞こえた、懐かしい声に驚いた俺達は周りを見回す
けれども、周りには誰もおらず、ただただ長江に灯籠が揺らめいているだけだった
「今の声……」
蓮華がそういって俺に問いかけてくる
「うん、二人共、本当に帰ってきていたのかもね……」
盆の日ならば、そんなありえないような事が起こっても不思議じゃない
亡くなった人達の為にも、何より二人の想いに応える為にも、もっと、もっと頑張っていこう
そう心に誓いながら、俺と蓮華は灯籠の流れを見つめ続けるのだった
おまけ
灯籠流しを見送った後、俺達は祭りの会場に戻り、盆踊りを開催したのだが
「わはははは!!飲め飲め、踊れぃ!!」
「ちょ、落ち着いて祭さん!!」
会場に戻るや否や飲み始めた祭さんの暴走により、盆踊りは大騒ぎになっていた
……いや、民達も巻き込んでの、いい意味での大盛り上がりではあるんだけど、流石に騒ぎすぎだろう
「なにをいう北郷!!魂を見送るのに、しんみりしていては辛気臭すぎるじゃろ!!こういうときは酒を飲み、大騒ぎで見送ってやるのが本道じゃて!!」
「だからって騒ぎすぎだ~!!」
俺がどう止めても馬鹿騒ぎを続ける祭さん
こうなったら止められるのは王である蓮華しかいないと思い、周りを見渡すのだが……
「あはははは!!明命も思春も、飲みが悪いわよ~!!」
「お、落ち着いてください蓮華様~!!」
「明命、こうなっては蓮華様は止まらん、大人しく従っておけ……」
……あちらはあちらで出来上がっていた
「ああ、もう!!皆羽目を外しすぎだーーー!!!」
そんな俺の嘆きの声が、祭り会場へとこだましたのだった……
――……まったく、祭殿はいつもの事として、蓮華様まで――
――ま、いいんじゃない?皆、楽しそうだし♪――
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恋姫†夏祭り用の作品です
今回は呉√エンド後の子供が生まれる前の話です
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有難いです