No.160990

変わり往くこの世界 6

御尾 樹さん

http://www.tinami.com/view/160236 一話 誤字修正及び文章のおかしい所を修正。(色々 が一部使いすぎ)

2010-07-26 22:50:31 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:555   閲覧ユーザー数:535

 アンシュパイクから再び南下し、霜の下りた肌寒い山道を走る蹄の音。

  行きとは違い、結構早く到着しそうだ。然し…相変わらず鞍と尻がぶつかり

  尻が痛い。乗り方が下手なのだろう。他の連中はまるでそんな素振りが無い。

 リアルトへ急ぐ中、俺はまた色々と考えていた。改変者、未来より着て

  過去を変えようとする者。理由は様々だろうから考えても無駄だろう。

 それよりも、その改変者を追い未来より来るという武具。その台座。

  未来より来るのに、古い台座はここより過去から…いや、更に遥か過去で造っていた。

  そう考えるのが妥当なのだろうか。 少し周囲に視線を移すと、

 何時にも増して焦りを露にしているリフィル。家族というべき者の命が関わっている

  だけに、焦りも出るだろうが…それが命取りになると言う事もある。

  少し、彼女の傍に近寄りなだめようと試みるが、溜息に加え鼻で笑われて無視された。

 どうにも認められて無いようだな、俺。ま、見た目通り頼りない上に、戦力にも余り

  なりそうにも無い。それは認めるが…。かなり悔しいな。いつか見返してやるぞコラ。

 再び周囲に視線を送ると、そのやり取りを見たのかアルバートが笑っている。

  …おい。変な事を詩に書くなよ。嫌だぞ道化みたいな役割で出されるのは。

 彼女の癖が移ったのか、俺まで軽く溜息を吐き、手綱を必死で握りつつ、

  尻と鞍を相変わらずぶつけ合って走る。そんな中でまた考える。

 既に未来が変わりつつある。これは確かだろう。リザードマンやらヒュドラやらいる

  が、俺はまだ存在している。これは言い換えれば、

  未来はキチンと正された。と、考えて良いのかも知れない。

 正されたからこそ俺が存在し、未来からも武具が来ると考えて良いだろう。

  もし正されていなければ、未来から武具が来る事が無くなる可能性も否定出来ない。

  俺の存在もそうだが…。まだ大丈夫だと踏んでいいのだろう。

 …正直な所不安で一杯だ。俺みたいな戦いどころか馬の乗り方さえ知らない奴が、

  戦いで生き残っていけるのか…。不安…、そう不安だ。なのに何故か楽しみで仕方ない。

 不謹慎な話ではあるが、不安よりも期待と興奮の二つが上回っている気がする。

  そんな俺の表情から察したのか、アルバートが馬を寄せて尋ねてきた。

  何を言うかと思えば、好奇心は時として恐怖を乗り越える最良の感情ですよと。

 軽く笑いながら彼は言ったが、確かに言われてみればアルバートもそうだが、

  自分にとって新しい何かを目の当たりにすると不安はあれど、

  恐怖は余り感じなくも無い気がする。彼とは気が合いそう…いや彼がこちらに合わせて

  いるのだろうか。とても親しみやすく話しやすい。何より色々と知ってそうだ。

 そのまま馬に注意しながらも、彼から色々と聞いてみたりとしていた。

  そして、遠くに狼煙の様なものが、山と木々の谷間より

  いくつも立ち上っているのが見えた。

 位置から察する処、リアルトだろう。 それを確認して、アルバートが

  あれをどう見ますか?と尋ねてきたが、どう見るも何も、リアルトの村をセイヴァート

  が駐屯地にしているのだろう? 場が開けているし遺跡にも近く、水源も食料もある。

 それを伝えると笑顔で頷き、この後どうしますか…と。 俺は軽く首を振りつつ

  アルヴァに視線を移して、それを考えるのは彼女だろうと。

  俺の視線の先をアルバートも見ると、再び俺に視線を戻し納得したかの様に頷く。

  「その通り。ですが…彼女とて万能では無い。と言う事を忘れないで下さい」

 そりゃそうだろうが…頭をかきつつ、何を期待しているのか笑顔で俺をジッと見ている

  アルバートを横目に、万能どころか巨大な鉄の獣を倒した英雄だろうと。

  俺は軽く笑うと、彼はアルヴァに視線を移して一言。多くの犠牲の上に成り立った

  栄光であり、彼女だけが称えられて良いものではありません。と。

 成る程ねぇ…照れ隠しかと思っていたが。そういう意味合いなのだろうか。

  犠牲か…、出来る事ならそんなものは無い方がいいと思う俺は駄目なのだろうか。

  正直、俺もそうだがリフィルも犠牲に耐えられる程、精神が成熟していると思えない。

  下手すりゃ二度と立ち上がれないかもしれない。一つの不安から表情を暗くし、

  アルバートに口を開いた。それに対して何もいわず彼は、

  俺とリフィルに視線を移し、最後にアルヴァを見た。何が言いたかったのか、

  その時の俺では理解する事は出来ずにいた。

 

  

更に俺達はリアルトへと近づき、馬を下り判り難い所へと隠す。

  どうやらここからは徒歩の様だ。流石に蹄の音で気づくだろうしな。

 アルヴァの方に駆け寄り、先ずどうするのか尋ねると、遺跡の確保が優先らしい。

  そして俺とリフィルが遺跡の内部に入り、その時を正す武具とやらに会ってくると。

 ま、いきなり駐屯地にこの人数で奇襲かけるわけにもいかないだろうしな。

  ん?アルヴァの視線が俺では無く、リフィルに…ああ、焦りからか苛立ちが

  ピークに達している様だ。素振りが荒い。地面を蹴ったり、近場の木を殴ってみたり。

 行き所の無い何かをぶつけないとどうしようもない様だ。

  それを見たアルヴァが大きく溜息をつくと、彼女の方へと歩み寄っていった。

  …俺は近寄らない方が良さそうだと、少し離れた所から、頭を殴られている

  リフィルを見ていた。おー…不機嫌そうな顔でアルヴァを睨めつけた!

  と、思った瞬間萎縮した。どうやら睨み返されたらしい。

 見ていて面白い光景ではあるけれど、俺は俺で考える事もあり…ん?

  何かアルバートが木の幹に腰掛けて、手に持った羽ペンの様なもので紙に書いてる

  な…と、足跡を殺して後ろから覗き込もうとしたが、文字が読めない事を忘れていた。

 聞き取り、喋る事はある程度できても、まだ読み書きは出来ないんだった俺。

  それに気づいたのか、アルバートが紙を懐に仕舞い、軽く俺を睨んできた。

 頭をかきつつ誤魔化していると、向こうで話がついたのか、どうやら行動に移るようだ。

  森の中を周囲を探りつつ、遺跡があるだろう方向へ暫く行くと、

  聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえる。この低い怒鳴り声は忘れもしないセドニーだ。

 然し、声が穏やかでは無く何があるのかと、その声のした崖の下の方を覗き込む。

  …うお。セイヴァート本隊だろう騎士が大量にセドニーとアリアを取り囲んでいる。

 一体何があったのか…いや、背後に何か遺跡っぽい建造物がある所を見ると、

  ついに痺れを切らしたセイヴァートが強行手段に移り、それを止めに入っている。

 という所だろう…っておい! いきなり崖から滑り降りて

  セドニー達の前に飛び出て剣を振りかざし、

  セイヴァートの騎士達を罵倒し始めたリフィル。

 うわ~…考えなしに動くなぁ、あの子。彼女達からアルヴァに視線を移すと、

  額を右手で押さえて苦笑いしている。本当に猪突猛進だわな。

 再び視線を彼女達に戻すと、セドニーがやや怒った顔でこちらを…いや、

  アリアまで怒ってないか!? いややめて俺の所為なの? これ!?

 仕方ないとばかりに、続くようにアルヴァ達も滑り降りていったが…待って!

  こんな急な崖をそんな滑り台みたいに滑り降りないで! …取り残された俺と

 その横で俺を見ているアルバート。…の視線は明らかに何で行かないのですか?

  と言いたげだが、この高さと角度。怖…うおっ! いきなり背中を押されて

 俺は半ば転がりながら崖を下りるハメになり、なんとか途中で姿勢を整えられた

  が…数回、頭やら腰・肩を打ちつけた挙句、尻から落ちた。

 …。余りの強打に肺に蓋でもかかったかの様に、呼吸困難に陥ってしまう俺。

  周囲の視線が痛々しいが、それどころじゃない。何度も強く息を吐こうと

  胸元を右手で押さえたが…約一分ぐらいだろうか吐く事も吸う事も出来ず

  もがいていた。ようやく呼吸が出来る様になりも咳き込みながら周囲を見回すと

  敵も味方も…間抜けた俺に釘付けだった。軽く咳払いして何も無かった様に

  こそこそとセドニーの後ろに隠れる。なんというか、周囲の連中もリアクションに

  困った顔をしているが…、後から滑り降りてきたアルバートが、空気を戻してくれた。

  「セイヴァートの騎士様方、人を超えた力を求め、

    一体何をなさるおつもりでしょう?」

 軽く、皮肉めいた言葉で、左手を胸元に当てて頭を下げた彼。ただ、その目は

  何時に無く鋭かった。何よりその言葉にセドニー達も続き、彼らを説得し出す。

  まぁ、そりゃ対化物用の兵器みたいなものだしな…。 

 だが…強い力を求めたがるのも頷けなくもな…うわ、アルバートに睨まれた。

  俺に何をしろと…ああ。そう言う事。セドニー達を壁に、後方にある遺跡の扉

  がある事に気づいた俺はそれを見ると。確かに見慣れない文字が刻まれた金属製

  の扉がある。それも恐ろしく頑丈そうな。よく見るとその傍らに、何か手形の様な…。

 ああ。見てようやく判った。指紋か何かそれが開く鍵になっているのだろう。

  いや、指紋じゃないな。アルヴァが開き、リフィルも可能だろうという事。

 そこから考えられるのは、DNAレベルでの認証キーという所か。

  前の方で息を荒げているリフィルを、奥へと引っ張りこ…抵抗すんな!

  嫌だとばかりに剣の腹で頭をどつかれ、頭部に鈍痛が走りつつも、

  無理矢理引っ張り込んだ。全く、アルヴァも多少は教えておいてくれよリフィルに。

  「邪魔をするな!」

 うるせぇってか…痛てぇ! どつくな! 何度も剣の腹で頭を叩かれつつも、

  彼女の左手を引っ張り、皮の手袋を無理矢理取って、手形の上に手を乗せる。

 案の定、扉がゆっくりと埃や天井の石か?それを撒き散らし、

  頭を叩かれる鈍い音と共に開いていく。 妙にカビ臭く、生暖かい空気が流れてきた。

  「これは…?」

 リフィルが一番驚いたのか、目を丸くして俺を叩くのをやめて扉の奥を見ている。

  そして、アルヴァが行って来いと言った直後、中身を奪おうとしたのか、

  セイヴァートの騎士の幾人かが雪崩れ込んで来た。…が、セドニーの戦斧が容易く

  それを阻み、アリアが扉の前に立ち塞がり槍を構えている。

 アルヴァはどうやらその状態をアルバートと一緒に見ているだけの様だが…何この余裕。

  ま、まぁ、それはいいとして、さっさと中に行くぞ中に。リフィルの左腕を引っ張り

  つつ、暗い遺跡の奥へと俺達は駆け込んでいった。

 

  

薄暗い遺跡内部。空気が妙に湿っていてカビ臭い。 どうやら周囲は岩ではなく、

  完全に金属製の何かで覆われている様だ。 更に奥へと進むと、ほのかに周囲が

  明るくなった。赤外線か何かのセンサーでもあったのだろうか。

 壁自体が淡く発光して青白く輝いている。その先に目に入った古ぼけた台座。

  10くらいだろうか、階段があり中央に何かを安置している屋根の様なものも見える。

 恐らくはあそこに…あればいいんだがな。 無ければ改変者に太刀打ち出来そうにも無い

  事は明らかだ。鉄の獣みたいなものとこれから相手しなければならないとしたら。

 そんな不安を他所に、興味深そうにしつつも台座の上に駆け上がっていったリフィル。

  こいつ…何も知らないとはいえ無用心過ぎだろ!? 罠があるとかそういう警戒は

  無いのか全く…。軽く溜息をついて、彼女の後を追い周囲を見ながら台座に上がると、

 そこには、一振りの白い片手剣が周囲の青白い光に反射して輝き、台座スレスレで

  浮遊していた。それに、これは…クロスボウ?だろうか。

  うん、クロスボウだな、どう見ても。形状はやはり妙にこう…何。

  機械的というか何かしらの機能を備えてるだろう容姿をしている。

 パッと見だと判らないが、少なくともフランヴェールに匹敵する

  力を備えているのだろう事は明らかだ。 さて、どうしたものか…と、俺は

  リフィルの顔を見る…ああ。遺跡の事は当然知ってる筈。そしてそこに在る物が、

  下手すりゃ世界を変えてしまう様な物騒な物である事も。

 何かに期待して目を輝かせているが…さて、意志持つ武具が、彼女を認めるかどうか。

  見たまんま直情径行、猪突猛進。状況次第では力に振り回されて何するか判らないぞ。

  ちょっとした切欠で改変者よりたちの悪い奴になると言う可能性も…。お?

 遺跡内に少し低い声が響く。聞いた事の無い…というよりも合成音声に近い声だな。

  だが、性格というか感情はあると言う事は判る。その声の主が男であり、

  剣からだろうと言う事は判ったが…やはりというか、リフィルを危惧しているようだ。

 それを知らずと、手に取ろうとしたリフィルの右手の手袋が一瞬で凍りついた。

  おいおい…まさか右手完全に凍結したとかじゃないだろうな…。いや、手袋だけの様だ

  が、成る程。高熱の次は冷気の力という所か。相手が爬虫類だけに。

 台座から一歩引き下がったリフィルを他所に、次に語りかけてきたのは女性の様な

  合成音声。明らかに俺に対して…だが、ふむ。武具を手に入れる以前に、

  聞きたい事を尋ねておくべきか、機嫌損ねる前に。

 先ず聞きたかった事。何で俺が時間遡ってこんな時代にいるのか。

  改変者と代行者は、先の代行者アルヴァより聞いた事も俺の居た西暦も添えて尋ねる。

  それに驚いた様に俺の方を苛立った表情で、眉間にシワを寄せてみているリフィル。

 暫くの沈黙の後、男性の方の声が聞こえ、時間移動の際。極稀に不具合が生じ、

  出発と目的の時間の間にある部分を巻き込んでしまうと言う事。

 それが、神隠しと俺の時代で良く言われているものだと。…不具合かよ。

  そんな物騒で迷惑なバグ抱えたまま動かすなっての!…いや感謝してなくもないけどな。

 ん?なんだと、俺が代行者に? いや、リフィルだろうと答えると、

  彼女は精神的に力を制御するには未熟の様だと。あの一瞬で見抜かれてるな。

  それに改変者と代行者を知る俺ならば適任らしく。何より時代干渉について説く手間が

  省けるとの事。…いやそりゃそうだが、俺も時代干渉にならね?これ。

 俺はリフィルの方を向くと、何かやっぱり苛立ちを抑えきれない様に

  地面を踏み躙っている。それだから駄目なんだろうがよと。溜息を漏らす俺。

 暫くの沈黙の後、俺はやはりリフィルに代行者となって貰うのがいいだろう。

  それを告げるが、相手さんはだんまりだ。まぁなぁ。

  俺は必死に身振り手振りで、リフィルの良い所と悪い所をハッキリと伝えるが、

  黙り込んだままだ。何より俺だと剣の扱いなど全く知らないと言う事。

 使えて精々、命中精度の極端に低い当たらない弓だと。 それを伝えると、

  女性の方だろう声が聞こえ、クロスボウの方を手に取りなさいと。…。

 どうしようもないか。俺はクロスボウを手に取…軽いなおい。どんな素材だよ。

  素材不明だが非常に軽い。何より先端を見るとレーザーサイトの様なものもついている。

  こりゃ便利だな。この時代向けに造られた中距離用のライフルみたいなものか。

 う…リフィルの視線が痛いな。然し相手さんが受け付けない以上、どうにもならんよ。

  全くどうしたものか…ねぇこれは。 …て、お? 何、地震?

 突然、鈍い音が地面から響き渡り、軽い縦揺れがおこった。

  「こりゃ外で何かまた化物でも暴れてるな」

  想像するに易い。リザードマンやヒュドラ、

  爬虫類で地面揺るがす程のトカゲやら蛇といや…。

  余り考えたくは無いが…ドラゴンか。ますますもってファンタジーになってきたな。

 俺はリフィルにはここに残る様に告げて、クロスボウを右手に持ちその場を後に…。

  しようと思ったらついてくるどころか、追い抜いていきやがった。

  ちょっとはあの武器を説得してくれ!! と、怒りを露にしていると、

 男性の方の声が聞こえてきた。今はまだ彼女には早い。私は暫し見ていよう。

  クリス。頼んだぞと。クリスと呼ばれた女性の合成音声がそれに答えると、

  俺を急かす様に声をかけてきた。…へいへい。取り合えずやれるだけやってみますか。

 軽くクリスと呼ばれた彼女?に相槌を打ち、俺も遺跡外へと後を追う様に駆けて行った。

  


 
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