とある昼下がり。猫と戯れながらパンを食べる鈴に
遭遇した理樹は、隣に座って昼食をとることにした。
ねこじゃらしを使って猫と遊ぶ鈴を眺めながら過ご
す昼休み。まったりとした空気が二人の間に漂う。
いつものように他愛もない話をしていると、鈴から
質問を投げかけられた。
「なあ理樹、モンペチっておいしいんだろうか」
「また急な話だね。猫にとっては美味しいんじゃない
かな」
無難に答えられ、鈴は更に悩む。
「どんな味がするんだろうか……」
「鈴、モンペチはキャットフードだからね。絶対に食
べちゃ駄目だよ」
「むー」
今にも手を伸ばそうとする鈴を止める理樹。鈴の顔
はますます不服そうになる。
「だってこいつらこんなにおいしそうに食べてるし、
絶対においしいはずだって」
「ぜーったい駄目。お腹壊すかもしれないでしょ?」
流石にお腹を壊すのは嫌だったのか、鈴はそれ以上モンペチについて何も言わなくなっ
た。黙々とパンを齧る鈴の姿を見て、理樹は少し言いすぎたかもしれないと後悔した。
二人の間に気まずい空気が漂う。そこに明るい声が響いた。
「やっほー鈴ちゃんに理樹くん! お昼ですか?」
三枝葉留佳、リトルバスターズの一員である彼女が偶然二人の前を通りかったのだ。
「そうだけど、葉留佳さんは?」
「いやーちょっと風紀委員の方々に追いかけられてまして……」
「またなにかやったのか」
「あははーちょっとね。それよりお二人さん、なんだか空気が重たいですヨ?」
鈴と理樹の肩が同時に跳ねる。
「あれっ、もしかして喧嘩中とか? 悪いこと聞いちゃったなー」
「おいはるかっ」
「なに? 鈴ちゃん」
「お前はモンペチの味が気にならないか」
「モンペチ? ああ、猫の餌か。そうだね、確かにあんなに美味しそうに食べてるんだか
ら美味しいんだとはおもうけど……」
「食べてみないか?」
「鈴!」
「要するにおなかを壊さなきゃいいんだろ。はるかなら大丈夫」
根拠は分からなかったが、確かに葉留佳なら大丈夫そうな気が理樹もした。
「へー、面白そう。お昼まだだしちょっと試してみよっかな」
「葉留佳さん、やめといたほうが……」
理樹が注意をするが、葉留佳はそれを気にせずモンペチを手にとる。
「だいじょーぶだいじょーぶ。はるちんはそんなにヤワじゃないですヨ」
「どうなっても知らないからね」
葉留佳はひょいっとモンペチを口に入れ咀嚼する。辺りには張り詰めた空気が漂う。
「はるか? どうだ?」
「葉留佳さん? 大丈夫?」
鈴と理樹が葉留佳の顔を覗きこむ。葉留佳は俯いたまま口を開かない。
「言葉にならないほどうまいのか? それともまずいのか? ひょっとして何の味もしな
いのか?」
心配になった鈴が葉留佳の肩に触れると、葉留佳は勢いよく走りだした。
「葉留佳さん!?」
「ごめん鈴ちゃん理樹くんこれは駄目だよおおおおお!!」
泣きながら逃げ出す葉留佳を見ながら、鈴は呟く。
「おしいひとをなくしたな……」
「間違いなく原因は鈴だよね」
「ま、モンペチは人間にとってはおいしくないってことだな」
「最初からそう言ってたから」
予鈴が鳴る。午後の授業のために鈴と理樹は教室へと帰った。
その日の放課後、練習に葉留佳は現れなかった。
「はるちゃん、どうしたんだろー?」
「悪いもんでも食べたんじゃないか」
「鈴が食べさせたんでしょ……」
おかしなものを進められても絶対に食べないようにしよう。そう心に誓った理樹であっ
た。
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リトバス短編小説コンテストへの応募作品。良い子は真似しちゃダメ、絶対。