エピローグ
目が覚めると、見覚えがある白い天井が、目に入ってきた。
・・・頭がぼ~とする。
俺は、頭に手を置き、どこから記憶が切れたかを思い出す。
・・・だめだ。全然思い出せねー。
俺は諦めて、次に頭を横に動かした。目に入るのは、いつもの病室だ。
・・・『いつもの』って、言えるのもどうかと思うけど、な。
俺は、苦笑すると、少し視線を動かす。すると、あるものを見つけた。それを確認するために、体を起こす。だが、体は鉛のように重く、自分の体じゃないみたいだった。
「―――っ!」
体を動かすと、左腹に痛みが走った。俺は、服を上げて確認する。腹には、包帯が巻かれており、その包帯には、マジックで素敵な言葉が書かれていた。
〝勝手に取ったら殺す〟
俺は、すぐにある医者が頭に浮かんだ。
・・・というより、普通、医者が『殺す』って書くか?
俺が呆れていると、不意に、部屋の扉が開いた。
「おっ。目が覚めたみたいだ、な」
現れたのは、噂の医者だった。この病院の院長でもあり、俺の検診の担当医〝エイル・ブラン〟さんだ。
エイルさんは、部屋に入ってくると、ダルそうに近づいてきた。目の下にはいつものクマが浮かんでいる。エイルは、持っていた毛布を、俺の居るベッドに体をあずけて寝ている人物にかけた。
「あとで、目が覚めたらお礼いいなさい。この子の応急処置がなかったら、今頃アンタは、ここじゃなくて、霊安室だったのだから」
寝ている人物、リリに毛布を掛け終わると、エイルさんは、不機嫌そうな表情で教えてくれた。
どうやら、ライブ後、倒れたらしい。
俺は、説明を聞き、少し気まずくなった。
「それにしても、アンタよく来るわねー。ここホテルじゃないんだから。そう毎度毎度、こられても、ウチも困るんだが」
「・・・好きで、こんな場所に来るか。俺は、そんな特殊な趣味持ってない」
エイルさんの言葉に、俺は、呆れながら突っ込んだ。すると、エイルさんは「まあ、いいわ」と言い残し、出口の方へ歩いていった。
だが、急にその足が止まる。
「ああ、そうそう。二人っきりだからって、狼になるなよ。一応、ここ神聖な病院なんだから」
「?」
狼? 俺、変身なんかできねーぞ?
「・・・まあ、判んないならいい。健全に居ろよ」
そう言い残し、エイルさんは、部屋から出て行った。俺は、意味が判らず、首を傾げる。
「ニア、あれ、どういう意味だ?」
そして、近くに居るであろう、相棒に訊いてみた。すると、ニアは、何の感情も載せない声色で答える。
『貴方には、まだ早いことよ』
・・・ますます、訳が判ない。
俺は、考えるのがメンドくさくなり、寝ているリリに視線を直した。
「また、借りができた、な」
その寝顔を見ていると、自然とそのセリフが漏れた。
『人は、自然と〝貸したり〟、〝借りたり〟しているものよ。だから、けして一人では生きては行けないわ』
「・・・深い、な。言葉に重みを感じるぜ」
ニアのセリフに俺は、苦笑いを浮かべる。
『当たり前よ。貴方の何倍この世にいると思っているの? 数年しか生きてない子供に、人生教えるくらいの生き方は、しているわよ』
「御もっともで」
俺の口からは、自然と笑みが零れた。
目が覚めると、楽しそうな話し声が聞こえてきた。
「ん~~~っ」
わたしは、固まった体を一杯に伸ばす。無理な体勢で寝ていたので、固まった体がほぐれて、とても気持ちいい。
「おっ? 目が覚めたか?」
「えっ?」
わたしは、その声に少し驚いたけど、言葉が出た。
「ごめんなさい」
「・・・はぁ?」
わたしが謝ると、リョウ君は、訝しげな表情浮かべた。どうやら、急すぎたらしい。わたしは、補足を加える。
「わたしの所為で、危ない思いをさせて、ホントにごめんなさい」
「・・・何言ってんだ、お前? まだ、寝ぼけてんのか?」
だけど、リョウ君の顔には、呆れたような表情が浮かぶ。
わたしは、リョウ君の誤魔化し方に、胸が締め付けられた。
そして、自然と口が動く。
「だって! その怪我、わたしが我がまま言った所為なんでしょ!? だから、急いで、しなくてもいい怪我をして、命の危険にだって―――」
「アホか」
「へぇ?―――っ!?」
そのとき、額に衝撃がきた。
・・・デコピン?
わたしは、額を擦りながら、リョウ君を見る。その顔には、呆れたような表情が浮かんでいた。
「これは、完全に俺のミスだ。確かに急いではいたけど、戦闘中に、そんなことを考えて戦(や)るわけねーだろ。勝手に責任感じんな」
そして、呆れたような溜息を吐いた。
「でも、わたしが出発のとき―――」
「お前、これ以上俺を惨めにさせたいの、か? どう考えても、あの場に居ないお前には、責任はねーよ」
すると、いきなりリョウ君の手が、わたしの頭の上に載った。
「だから、気にすんな。大体、お前いつも心配―――って、おい。どうした?」
リョウ君の温かい言葉に、わたしは、我慢していたものが、目から溢れる。リョウ君は、いきなりのことに困っている。だけど、わたしは、涙を止めることができなかった。
すると、リョウ君は、溜息をつくと、
「訳判んないけど、今は全部吐き出しとけ」
と言い。わたしを胸へと引き寄せた。
その瞬間、わたしは、リョウ君の服を掴んで、胸の中泣いた。
○
それから数分。
わたしは、おもいっきり泣いたおかげで落ち着いた。けど、次は恥ずかしくなり、リョウ君から少し距離をとって座る。このあと、何を言えばいいのか判らず、黙っている。チラ、とリョウ君を見てみると、リョウ君も、気まずそうな表情を浮かべていた。
うーん、気まずい。
そのとき、不意に病室の扉が開いた。
「おーい。リョウ、生きってかー?」
現れたのは、サブ君達だった。みんなは、部屋に入ってくると、各々ベッドの周りに集まる。
「残念だな。足まだあるぜ」
リョウ君は、サブ君に呆れたような表情を浮かべる。サブ君も、同じようにいつもの無邪気な笑みを浮かべる。
「まあ、元気そうで何より、や。ところで、二人とも、どうかしたん? 距離がものすごく合いとるんやけど?」
「な、なんでもないよ!」
わたしは、あわてて否定した。しかし、反って怪しくなり、ポピーちゃんは、不思議そうに首を傾げた。
すると、リョウ君が、助け舟を出してくれる。
「で、外で居るの、誰だ? さっきから、入ってこねーけど」
「なんで、判んだァ? そこからだと死角だぞォ」
「・・・匂い」
「ますます、人間離れしてきやがったなァ。てめェ」
リョウ君の返答に、リニアは、呆れたような顔で突っ込んだ。それをサブ君は、笑うと、ドアの方へ歩いていた。そして、外の人と、なにやらやり取りをすると、その人をつれて入ってきた。その人を見た瞬間、わたしは、目を疑った。
なんと、その人は、わたしたちと言い争ったシンディアさんだった。わたしは、リニアとポピーちゃんに視線を向ける。リニアは、そっぽを向き、ポピーちゃんは、苦笑いを浮かべていた。
そして、シンディアさんは、ゆっくりと、わたしの前に歩み寄ってきた。
「ごめんなさい!」
次の瞬間、わたしに向かって、頭を下げてきた。わたしは、急なことに、さらに驚く。
シンディアさんは、さらに言葉を繋げる。
「今回、貴方達の妨害をしたの。あれ、全部私がしたことなの」
「・・・へぇ、えぇええええ!?」
わたしは、いきなりの告白に、驚きの声を上げた。
「でも、まさかこんな大事になるなんて、思わなかったから。わたし、どうしたらいいか判らなくなって」
そこには、会ったばかりの勢いはなく、シンディアさんは、ものすごい暗い表情を浮かべていた。わたしは、助けを求めるように、サブ君に視線を向ける。すると、サブ君は、苦笑いを浮かべた。
「まあ、元々、魔連に籍を置いている生徒が受けるミッションだったし。どうだ? リョウ。ゆるしてやってもいいよな?」
サブ君は、被害者であるリョウ君に、尋ねた。すると、リョウ君は、めんどくさそうに返事をする。
「別に、アンタに傷負わされたわけじゃないし」
「でも、情報操作の件で、彼女は、二週間の停学処分も受けてる。ちゃんと罰は、受けているんだ。リリ、お前もいいよな?」
サブ君は、シンディアさんの弁護をすると、わたしの方を向いた。
もちろんわたしは、
「うん。リョウ君が、許すのにわたしが、どうこう言わないよ」
と笑みを浮かべて返答した。その瞬間、シンディアさんの顔の曇りが、少し晴れた気がした。これにて、一件落着かな。
だけど、わたしは、一つ引っかかることがあった。
「でも、何でこんなことをされたんですか?」
「そういえば、理由、聞ぃてねェなァ。それ聞かねェと、こっちも納得いかねェ」
リニアも、わたしの質問に載った。
リニア、目が怖いよ。
どうやら、リニアの方は、今回の事をまだ腹に持ってるらしい。だけど、シンディアさんは、すぐには答えてくれなかった。少しの間、黙っていると、ポツリと言葉を溢した。
「・・・貴女がサブ君と、仲良くしてたから」
「・・・へぇ?」
思いがけない言葉に、わたしは、キョトンとしてしまう。
「えーと、どういうことですか?」
「だって、私の方が、先にサブ君と仲良くなったのに! 貴女が横から彼を奪っていったから!」
えーと、何を奪ったんだろ?
ますます、意味が判らなくなり、困っていると、急に、ポピーちゃんが答えた。
「なら、ウチも口説かれたでー。その子は、そういう奴や」
「えっ?」
ポピーちゃんは、理解したのか、楽しそうに笑い出した。すると、それを聞いたシンディアさんが、逆に驚いた。
「ようするに、てめェの嫉妬かよ。くだらねェ・・・・・・待てよ。元を辿れば」
そして、リニアは、ある一人を睨みつけた。そして、その人に歩み寄ると、
「すべて、てめェの女関係が原因じゃねぇか! うざけんじゃねェエエエエエ!」
サブ君の襟を掴むと、窓に向かって投げた。
すると、サブ君は、勢いよく窓ガラスを突き破り、そのまま落ちてしまった。
その瞬間、病室に沈黙が流れる。
「そや、もう一つ質問なんやけど。自分どうやって、学園のセキュリティー、破ったん? もしかして、自分、凄腕の《クラッカー》さん、なんか?」
何もなかったことにした!?
わたしは、ポピーの行動に驚く。
「え、えーと、いいの? サブ君、落ちたけど・・・」
シンディアさんは、最もな質問を、ポピーちゃんに訊く。しかし、ポピーちゃんは、笑みを浮かべると、サラッと言った。
「大丈夫です。あれくらいじゃ、死なへんから。何時ものことです」
いや、ダメだと思うけど。
「そ、そうなんだ。貴方達、激しい付き合いなのね」
すると、シンディアさんは、ほぼ無理やり信じてしまった。
そのときわたしは、少し、サブ君に同情した。
今さっき、サブが落ちたのに女子達は、話を進めている。
てか、ここ四階なんだけど・・・ま、いいか。
俺は、面倒なので、気にしないことにした。すると、シンディアという女子が、話を聞かせてくれた。
「いいえ。私の専門は、情報処理だけど。あのセキュリティーは、破れないわ。ナミぐらいの《ウィザード級》ならやれるんだろうけど」
シンディアは、自嘲するように笑った。
へぇー、ナミって、そんなにすごいのか。
「それだったら、どうやって、データ改ざんしたんだァ? てめェじゃあ、無理なんだろォ?」
「貰ったのよ。進入を楽にするソフトを〝金髪の青年〟に」
エピローグ2
同時刻 某廃ビル
マントのフードを深く被った青年は、ボロボロの通路を歩く。
そして、一つの部屋に入ると、前触れもなく声を掛けられた。
「よう。生きてたか、お前の目をつけてる奴は。見舞いに行ってきたんだろ?」
スナイパーライフルを抱えて座っている青年は、楽しそうな笑みを浮かべる。
「ええ。彼がこの程度で、死ぬわけはないと思っていますが。一応、この目で確認しておきたいこともあったので」
遠目ですがね、と青年は、無邪気な笑みをライフルを持つ青年に向けた。
「そうか、そりゃあよかった、な」
「ですが、僕は、教会の〝シスター〟を殺してくれと、お願いしたんですが。まさか、貴方ほどの方が、目測を見誤るとは、思いませんでした」
「仕方ねぇだろ。時海から《世界の壁》を貫いて、当てるのは簡単だが。弾を発射した後の時差はどうしようもねぇんだから。あの餓鬼が、コースに入って、勝手に喰らっちまったんだよ。よほど、あの餓鬼の運が、ねぇんだろうなー」
ライフルの青年は、呆れたような表情を、フードの青年に返した。それを聞いたフードの青年は、
「それは否定できません」
と苦笑いを浮かべる。
「まあ、目的は果たせたので。良しとしましょう。ところで、彼の調整は、どういった状況ですか?」
「ん? ああ、なんでも『最終調整段階』に入るんだと、よ。まったく。俺は、《メッセンジャー》じゃねぇぞ」
ライフルの青年は、ものすごく不機嫌な顔をフードの青年に向けた。だが、フードの青年は、口元に笑みを浮かべるだけだった。
「仕方がないんですよ。皆さん出払っているんですから。空いたのが偶々貴方だけだっただけですよ」
「そうかよ」
ライフルの青年は、言葉を吐き捨てた。
「しかし、三年もよく、こんな茶番に時間を費やせるなぁ。金も、もってぇねぇし」
「ウチは、お金は、撒くほどありますからね。大丈夫ですよ。それに余興にしては、楽しいじゃないですか」
「それは、てめぇだけだ」
嬉しそうに話すフードの青年に、ライフルの青年は、ウンザリした表情で突っ込んだ。
「まあ、これから始まるショーまで、じっくり育ってもらわないと」
不意に、壁の隙から、風が入ってきた。フードが揺れるそこから見えた髪は、神秘的な金色をしていた。
To be continued
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あとがき
初めましての方は、初めまして。
久しぶりの方は、お久しぶりです。
masaです。
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