No.182958

After Sky その2

After Skyから半年後。
リョウに初めて仲間ができたお話を書いてみました。
今回の作品は短編と思って作ったんですが・・・。
長くなったかも(笑)。
それでは、After Sky その2どうぞ最後まで

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2010-11-06 20:01:10 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:1037   閲覧ユーザー数:1007

After Sky2

 

 

 《ギルド》

 ここは、政府から依頼を受け、その危険度に依頼によって、高額な依頼料が受け取れる、〝賞金稼ぎの集会所〟である。別名〝もう一つの正義〟

 ここに属しているものは、自慢な己の力でお金を稼ぎたい者、正義感はあるが組織として行動するのが嫌いな者など、様々な理由を持つ者がいる。

 ギルドの拠点は、世界中にあり、ギルドに属していると、仕事も世界中どこでも請けることがある。内装は、どこも酒場をベースにしており、ギルド員が話しやすいようになっている。

 そして、仕事内容は、極悪(ホ)犯人(シ)を政府機関に引き渡すこと。

 ただし、生死は問わない。

 そう、これが〝もう一つの正義〟と言われている由来である。

 政府の黒い部分を請け負っている組織、ギルド。

 話は、世界中にあるギルドの一つから始まる。

 ホシ達の《ランク》は、BやAを狙って受けた。ギルドでは、危険度で《ランク》分けされており、S、A、B、C、Dの五段階になっている。

 

 俺、リョウ・カイザーは、そんなギルドに3ヶ月前から所属している。

 

「リョウ。少しは、ランクを落とせ。最近傷が目立ってるぞ」

「ん? ヘェツ(べつに)にバイボーブ(だいじょうぶ)だ」

「食ってから答えろ。バカたれ」

目の前のマスターが、呆れたような表情をした。だが、俺は気にせず朝ごはんを食べる。

大体、毎回成功するんだからいいじゃねーか。何の心配をしているのやら。

俺は、いつもの小言を流しつつ、飯を取っていると、不意に声を掛けられた。

「あっ、いたいた。君が新人君のカイザー君かな?」

「フォゴ(うん)?」

スプーンを咥えていた俺は、声のする方へ視線を向けた。そこには、腰に得物を提げて《防護服》を身に付けた少年?が立っていた。髪は、肩に掛かるほどの長さで揃えており、活発的な雰囲気だ。

 歳は俺より少し年上ぐらいか?

「初めまして、ボクの名前は《エイダ・バッセル》。今日は、君に会いに別世界から来ました」

「それは・・・・もぐもぐ・・・ご苦労・・・もぐもぐ・・・・・・・様で」

「・・・えーと、まずは食べるか、話すか、どっちかにしようか。行儀悪いよ」

俺に会いに来たといったエイダという少年は、すぐに俺の行動を注意してきた。

 俺は、口の中のものを飲み込むと、とりあえず手を止めた。

「っで、俺になんか用?」

「今日から、君のお目付け役なったから。そのあいさつ。だから、次受ける依頼からボクも一緒に行くからね」

「・・・はぁ?」

「俺が頼んだんだ」

驚く俺に、マスターが説明してきた。

「お前が俺の言うことをちっとも聞かねーから、な。保険だ」

「はぁ!? 聞いてねーぞ!!」

いきなりの知らせに俺は、元凶であるマスターを睨みつけた。だが、マスターは、動じることなく告げる。

「いつも言ってただろ? オメーは、まだ餓鬼なんだから、『誰かと行動しろ』って。そういうことだ」

「納得いかねー!」

「納得しろ。大体、今度受ける任務だって、危険だって言うのにお前は―――」

「Aランクなんて、前も成功しただろ? 一人で十分だ」

「今回のAは、オメーが受けきたAなんかと、比べ物にならねーほど危険なんだ。Sといっても過言じゃねー」

「・・・・・なら、ちょうどいい」

「はぁ?」

俺は自然と笑みが漏らす。

「これで、俺はもう一段階上に行ける」

「リョウ。オメー・・・・・・なんでそんなに生き急いでんだ? 今のお前は、傍から見たら自殺願望者にしか見えねーぞ。何かあったのか理由でもあるのか?」

「・・・・・・復讐だ」

「えっ?」

マスターは、呆気に取られた表情をした。

「なんでもない」

だが、俺はすぐに話を逸らした。すると、先ほどまで黙っていたエイダが口を開く。

「うーん。マスターに聞いたとおり、君は確かに大物だよ。でも、まだまだ子供だね」

「・・・・・喧嘩売ってる?」

俺は、ご飯を食べようとした手が止まる。そして、エイダを睨み付けた。

 だが、エイダは、動じることなく話を続ける。

「だって、言ってることが、後先考えない、ただの《ワガママ》にしか聴こえないもん」

「・・・言いたいことはそれだけ、か?」

俺は、持っていたスプーンをカウンターに叩きつけると、カウンター立てかけていた得物を掴む。 そして、席を立ちエイダの前に立つ。

「表に出ろ。喧嘩売ったんだから、覚悟できてんだろ?」

「はぁ~。いいよ。まあ、組む相方の力見たかったし。手合わせした方が後々いいかもね」

 

 俺とエイダは、ギルドから少し離れた公園に移動した。

 

「・・・この辺でいいな」

周りは、まだ朝の早い時間なのか、人の気配は無かった。

 これなら、少し派手に暴れても大丈夫だろう。

 俺は、背負っている剣を抜くと、切っ先をエイダに向ける。

「それじゃあルールは、負けたほうが勝ったほうの『意見の訊く』っで、いいな」

「うん。それでいいよ。っで、勝利条件は?」

エイダは、余裕な笑みを浮かべる。そして、腰に提げていた剣の柄を右手で掴むと、鞘から引き抜いた。

 いつまでも、余裕ぶっているのがムカつく。

 俺は、その姿に苛立ちを覚えたが、気持ちを落ち着かせるために目を閉じる。そして、集中力を上げると、ゆっくり目を開ける。

「戦闘不能」

俺の目の色が、黒から紅色に変わる。そして、正眼の構えをとる。

「顔に似合わず、カイザー君は、言うこと過激だなー」

エイダは、左半身を前に出し、剣を胸の高さまで上げ、切っ先を此方に向けた。

 周りの空気が、ピリピリと肌に刺さるものに変わる。

 睨み合いの中、初めに動いたのは・・・・・・俺だ。

 地面を勢いよく蹴り、エイダとの距離を一気に詰める。すると、止まっていたエイダが動いた。

 エイダは、構えた剣を少しだけ引く。たぶん、接近した俺に、カウンタを合わせるつもりだろう。

 だが、予想とは違った。

 エイダは、引いた剣を勢いよく突き出したのだ。

 俺たちの距離は、約三メートル。

 もちろん到底、刃が届く距離じゃない。

 ということは、魔法か?

 その予想も外れた。突き出した刃が急に分裂したのだ。そして、そのまま俺に向かってきた。

 俺は、急な出来事に目を見開いた。その刃に目を凝らす。どうやらそれは、刃と刃を紐のようなもので繋ぎ、距離をかせいでいるようだ。

 まさか、鞭!?

 俺はすぐに脚を止めた。そして、向かってきたそれを剣で受止める。

 驚いたが、それだけだ。パワーが全然ない! 

 それを横に弾くと、すぐに地面を蹴った。

 あの長さだ。戻すのに時間が掛かるはず―――。

『リョウ!! 横!!』

「!?」

俺は、いきなり聞こえた声に、無意識に剣を持つ手が動いた。その瞬間、先ほど弾いたはずの刃が、俺の剣の刃にぶつかった。

 戻さなくても、軌道修正できんのか!?

 だが、刃は止まらない。

 なっ!? 巻きついて―――。

 

 ボクは、刃を元に戻すと、目の前の少年を見据えた。

 

「へぇ~。捕まえたと思ったんだけど。すごい反応速度だね」

「・・・・・・残念だった、な。ハズレだ」

だけど、目の前の少年に、ボクは違和感を覚える。

 笑ってる?

こちらが有利なのを判っていないのか、少年は、うれしそうな笑みを浮かべていたのだ。

「どうする? 見た感じ、ボクが有利だけど。ギブアップする?」

「・・・・・・寝ボケてんのか? こっちは、ようやく温まったところだ。シラけること言うなよな」

やっぱりそう答えるか・・・・・・さて、次はどう出るかな?

 ボクは、彼の次の手を考えながら、愛剣《蛇刃》を構え直した。

 

 俺は、頬に熱いものに気付くと、それに触れてみた。

 血? 少しカスった、か。

『―――よく今のが、反応できたわねー。なんか、段々人間離れしていってない?』

「さあな。それより、アイツの武器。どういう仕組みか分かるか? 生き物みたいに動いたけど」

俺は、視線をエイダに向けたまま、剣のAIである〝ニア〟に問いかけた。

『仕掛けは簡単よ。刃と刃を《魔法糸》で繋いで伸ばしただけ』

「魔法糸?」

『魔力で作った糸。普通の糸とは違って術者の意思で長さが調節できるのが特徴の一つ。技量が使えば、操作することだってできるわ』

「・・・・・・それは厄介だな」

俺は吐き捨てると、構え直す。

『あの子、かなりの使い手ね。魔法糸は、捕縛や高いところを上る為に使うのが通常だけど。それを戦闘に織り込むなんて、使いこなす為にどれだけ修練を重ねた―――』

「しらねー」

俺は、ニアのどうでもいい感想を止めると、重心を低く構える。

「そんなこと興味ね―よ!!」

『ちょっ、リョウ! 作戦は!?』

「もちろん特攻(ブリッツ)だ」

俺は、地面を勢いよく蹴る。その直後、エイダが俺に向かって、剣を突き出した。それに連動したように刃が伸びる。向かってくる刃の動きに、俺は集中する。

 すると、急に伸びる刃が失速すると、地面に落ちた。

 なんだ? 操作ミスか?

 だが瞬間、その刃は地面に弾かれたように跳躍した。それは俺の顔面直撃コース。俺は、すぐに地面を蹴り、体を捻って無理やり回避行動をとる。

 だが完全にかわすことができず、右腕をかすめた。

 今だ!!

 俺は、このタイミングで素早く魔力を剣に流す。刃が銀色の光を放ち、燃え上がる。

 そのまま剣を振ると、飛ぶ炎斬撃〝炎刀斬〟を放たれた。

 それは、エイダに向かって真直ぐ飛んでいく。

「へぇー、そんなこともできるんだ。でも、ハズレだよ」

エイダは焦ることなく、横に飛び、軽々と斬撃をかわした。

「まあ、単発の攻撃なんて当たるわけないよ、な」

「えっ?」

 

 ボクは、いきなり目の前に現れたカイザー君に驚いた

 

 エイダとの距離を詰めた俺は、上段から剣を振り下ろした。

 

 まだ、足が地面についてない。これなら、

 当たる、そう確信したが、予想は外れた。俺は、目の前で起きたことに目を見開いた。エイダは、左腕を振ると、袖からワイヤーのような魔法糸が飛び出したのだ。魔法糸が近くにあった街灯に巻きつく。そして、エイダは、街灯に引っ張られるように移動し、俺の刃を回避した。

 剣は空を斬る。まさか、こんなかわされ方するなんて思わなかった。

 驚いた俺の目に、エイダの剣が写る。

 ・・・・・・まだ、刃が戻ってない。

 俺は弾かれたように、後ろに振り返る。すると、エイダの刃がすぐそこまで来ていた。

「―――っ!!」

気付いた俺は、空を斬った刃をそのまま地面に叩きつけた。

 

 砂埃がカイザー君の周りに撒き上がり、彼の姿が目視できなくなった。

 

 ボクは、街灯の上に移動すると、伸びきった刃を手元に引き戻す。

手応えはなかった。

 彼は、石や砂が跳ね上がるのを利用して、刃の軌道を無理やりズラしたのだ。

「・・・・・・まったく、無茶するなー」

そんなことしたら、自分にもダメージが入るのに―――っ!?」

「・・・・・・俺の勝ちだ」

不意に後ろから声が聞こえた。そして、首元に冷たいものが触れる。

 

 俺は、エイダに向けていた剣を引くと、街灯から飛び降りた。

 

 すると、同じようにエイダも降りてきた。

「砂埃に隠れて回り込むなんて考えたね。いやー、負けたよ」

「・・・・・・お前、手を抜いていただろ。最後の攻撃、あれは初攻撃より格段に遅かった」

俺は、苛立ちながらエイダを睨みつける。すると、エイダは、悪戯がバレたような笑みを浮かべた。

「最後だけだよ。あとは、真面目にやったからそんなに睨まないでよ」

「・・・・・・」

俺は、やる気がなくなると剣を鞘に戻した。

「・・・・・・でも、残念」

「?」

「ボクと君が一緒に仕事することができなくて残念だなーっと思って」

「なんで?」

「『なんで』って、約束したじゃない勝った方の『意見を訊く』んだよね」

「ああ、だから言わせて貰う」

そのとき、少し強い風が俺たちの間を通った。

「お前の―――を俺に教えろ」

「・・・えっ?」

俺の言葉を聞いたエイダは、間の抜けた表情を浮かべた。

 

 それから一週間後。

 

「・・・・・・って、別に今日まで待たなくてもよかったろ」

「より確実に仕事を成功させる為だよ。前にも説明したよ」

現在、施設内に進入した俺たちは、四階のフロアを移動していた。隣を歩く俺は、エイダに疑いの目を向ける。

「大体、この変装はなんだよ。どう考えてもバレバレだろ」

その俺たちは、現在〝変身〟の魔法を使った変装をしている。俺は薄い布のTシャツに短パンとなんだか奴隷みたいな格好をしている。問題のエイダは、ここの研究員と同じ、白衣を身に付け、台車を押している。

 どう見ても、若すぎるだろ? なんで、ココの職員は誰も怪しまないんだ?

 そんな疑問を抱いていると、エイダが説明してきた。

「大丈夫だよ。最近まで、ボクくらいの歳の研究員が、この施設で働いていたからね」

「最近まで? 今は?」

「理由はちょっと。ボクが知っているのは、その子がボクの使っている情報屋に、ここの情報を売ったってこと」

「それをお前が買った、と・・・どう考えても怪しいだろ。それ」

俺は、ジト目でエイダに睨む。

「大丈夫だよ。カイザー君は意外と心配性だな―――」

 

〝ジリリリィィィィイィ!!!!!!〟

 

「・・・なにか、言うことあるか?」

「あははは」

笑って誤魔化そうとしたエイダを、俺は睨みつけた。

「・・・・・・ごめんなさい」

「べつに、そんな気がしたから」

俺は、呆れたような溜息が漏れると、〝変身〟の魔法を解いた。すると、着ていた服がいつもの戦闘服に戻る。

「カイザー君」

エイダも白衣を脱ぎ、戦闘服に戻ると、カット台に隠していた剣を俺に投げた。俺は、それを受け取ると、後ろを振り向く。

 数人の足音が、近づいてきていた。

 だが、予定外のことがもう一つ起きた。

「―――チッ!」

俺はそれに気付くと、すぐにエイダを前に突き飛ばした。

「きゃ!」

先ほどエイダが立っていた位置に、防壁が降りてきたからだ。

『カイザー君! 大丈夫!?』

壁の向こうからエイダの声が聞こえてきた。

「ああ、平気だ」

「居たぞ!! なんだ? 逃げたガキじゃねーのか?」

俺は、声の方へ視線を戻す。そこには武装した兵が三人いた。俺は、すぐに剣を鞘から抜く。

 その瞬間、俺の眼は紅色に変わる。

「エイダ! 先に行ってろ。こっちは、別ルートで屋上に向かう!」

『そんなことできないよ! 待ってて! すぐにボクが助けて―――』

「ターゲットを逃がすつもり、か? 早く行け」

「でも・・・」

なんですぐに行かないんだ? アイツ一体何考えてんだ?

『・・・・ま・・っ』

「ん?」

『待ってるからね! 約束だよ!』

その言葉を残し、壁の向こうから気配が遠ざかって行った。

「・・・お人よし」

吐き捨てるように呟くと、勢いよく地面を蹴る。

 

 カイザー君と別れたボクは、急いで屋上へと続く階段を駆け上がった。

 

 扉を勢いよく開けると、目の前にヘリコプターが停泊していた。そこでボクは、ヘリに向かう、一人の学者を見つけた。

「ベイリー教授! 止まりなさい!」

ボクの声に反応した教授は、足を止め、こちらに振り返った。

「・・・何だね、君は?」

「ギルドの者です! ベイリー教授。貴方を非合法な実験及び、人的侵害の容疑で拘束します!」

「・・・なにを言っているか分からないねー。証拠でも―――」

「これに、その証拠のデータが入っています」

ボクは、教授に見えるように一枚のチップを掲げる。それを見た教授は、明らかに顔色が変わった。

 ボクが見せたチップには、《政府》が非合法な手段で取得したデータが入っている。これが、今回依頼がギルドに周ってきた理由だ。

「無駄な抵抗は、やめてください」

「・・・・・・」

教授は、力が抜けたように俯くと、動きが止まった。

 ボクは、教授の動きに警戒しつつ、ゆっくりと近づく。そのとき、なにかが近づいてきた。ボクはそれに気付くと、急いで鞘から剣を抜いた。鈍い音が辺りに響くと、ボクは勢いを殺すことができず下がった。柄を持つ手の痺れを我慢しつつ、ボクは目の前に現れたそれを見つめた。

「・・・くっくくくくく」

すると教授は、嬉しそうな笑いを漏らした。

「《戦闘(マリオ)人形(ネット)》。私の作品の一つだよ。どうだい? すばらしいだろ?」

「・・・悪趣味だね」

ボクは、苦笑いを漏らすと、魔力を練りこむ。

「そう人形だよ。だから、気にせず本気でやりたまえ。でないと―――」

教授の話が終わる前に、マリオネットが動き出す。その瞬間、懐に入られた。そして、気付いたときには、マリオネットの右拳が迫っていた。

「死んじゃうよ」

 

 邪魔なのを片付けた俺は、上に向かう階段を見つけるため、通路を進んだ。

 

 それにしても、広い建物だなー。どこから上がれるんだ?

 余りの広さに呆れる。さらに通路の所々、さっきの警報で降りた防壁の所為で、潜入したときより入り組んでいる。

 迷路みたいになってるなー。面倒だから、外から行く―――。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「?」

そのとき、どこからか悲鳴があがった。

 近い? ・・・・・・あっちの、か?

 俺は、なんとなく、悲鳴が聴こえた曲がり角に足を進めた。そして、壁に背中をつけ、横目で確認する。

 そこで見えたのは、通路ギリギリの大きさのパワードスーツに身を兵と、その足元に一人の少女が通路に倒れていた。

 被験者か? 運がねーな、アイツ。

 そんな感想を残し、俺はこの場から離れる。

「い、イヤ。だ、だれか。たすけて―――」

「・・・・・・」

そのとき、少女の助けを求める声が耳に入った。

 俺は先を急ぐことに―――。

 

 チッ!!

 

「・・・ったく。世話焼かせやがって。さあ、こっちに来い!」

パワードスーツを着た兵のアームが少女に向かって伸びる。そのアームが少女に触れたそのとき、

 

〝ガン!!〟

 

 車輪の様に回転する俺が、パワードスーツにぶつかった。

「なっ!?」

「!?」

少女は、なにが起きたのか判らず、信じられないものを見る目を向けてきた。

 兵は、予想外の攻撃に足元をヨロめかせ、バランスを崩した。

 俺は、そのまま追撃をかける。接触した勢いを使い、天井近くまで跳ね上がると、体重と魔力を溜めた刃を相手に叩きつける〝金剛落とし〟を、コックピットに叩きつけた。

 その攻撃で兵を守っている強化ガラスが、粉々に割れ、中の兵ごと叩き斬った。すると、制御を失ったパワードスーツは、ゆっくりと後ろに倒れた。

「あ、あ」

「・・・・・・」

戦闘終了後、背中から驚きと恐怖で言葉にならない声が聞こえてきた。だが、俺はそれ以上に、自分の行動に呆然としていて、相手にする気が起きなかった。

 なんで俺は、こんな無意味なことしたんだ? 急がないといけないのに―――。

「あ、あの」

「あん?」

「ひっ!」

考えている最中に後ろから声を掛けられたことに、少し苛立ちながら、俺は振り返った。女の子の声で、俺は思考をとめた。女の子は、なんだか俺に恐怖しているみたいだった。

 怖いなら声かけなきゃいいのに。

 俺は、無視して近くの窓の方へ足を向ける。

「んっ? なんだこれ?」

そのとき、足の爪先になにか小さなものが当たった。俺はそれを拾い上げる。

 イヤリング? 付いてるのは・・・花?

「そ、それ、わたしの」

「えっ? ああ、悪い」

って、なぜ謝る?

 俺は、頭をガシガシ掻くと、女の子にそのイヤリングを放る。そして、剣を使って窓を割った。

そのまま俺は、外に出ようと窓枠を持つ。

「あ、あの!」

「・・・なに? まだ何かよう?」

俺は面倒だったけど、振り返った。

 だが、女の子は黙ったままだ。

「なに? 急いでんだけど」

「えっ、そ、その・・・」

俺は意味が判らず、どうしたらいいのか困る。なので、俺は女の子から外に視線を戻す。

「た、助けてくれてありがとう!」

そのとき、後ろから驚くことを言われた。

 俺はどうしたらいいか分からず、逃げるように窓から外へ飛び出す。

 そのとき、なぜか頬に熱いものを感じた。

 

 ボクは、軋む体を無理やり起こすと、目の前のそれを見つめる。

 

 ヤバいなー。魔力も残り少ないや。

 戦闘は一方的だった。攻撃力、機動力、戦闘技術。どれも相手の方が優れていて、ボクは、防ぐのが精一杯だった。

「どうしたんだい? もしかして、もう限界かな?」

「はぁ・・・はぁ・・・」

体が鉛のように重く。立ち上がるのがやっとだった。ボクを見ていた教授は、悦に浸った笑みを浮かべている。

「もう、飽きたねー。MI―01。もう終わらせなさい」

それだけ言うと、教授はヘリの方へ歩き出した。その命令を聞いたマリオネットは、ゆっくりとボクに近づいてくる。

 このままじゃあ、殺されるね。でも、

「まだ、負けるわけにはいかないんだあああああ!!」

次の瞬間、ボクは力いっぱい剣を縦に振った。蛇刀の刃が分裂し、勢いよく伸びる。その刃は、マリオネットに向かった。だが、マリオネットに簡単にかわされた。だけど、ボクは、口元に笑みが浮かぶ。

 ・・・成功。

 狙い通りにマリオネットが動いてくれた。マリオネットが避けた刃は、そのままヘリに向かう教授に巻きつく。

「・・・まったく、鬱陶しいね。MN―01、早く消しなさい」

教授は、巻きついた刃を見下ろすと、不快そうな表情を浮かべた。マリオネットは、地面を蹴り、ボクに飛び掛ってきていた。5メートル近くある間合いが一瞬でなくなる。

 振り上げた拳が迫ってくる。

 ・・・ハズレ。

 

〝ガシャン!!〟

 

 次の瞬間、マリオネットは、横から飛んできた〝銀炎の斬撃〟が直撃し、吹き飛んだのだ。

「遅刻だよ。カイザー君」

「・・・仕方ないだろ。どこも通行止めだったんだから」

ボクは、斬撃が飛んできた側に視線を向ける。そこには、闇の中で紅い目を輝かす、少年が立っていた。

 

 俺はエイダに近づくと、傷だらけの姿に呆れて溜息が漏れた。

 

「・・・お前、ふざけてんのか?」

「えーっ!? 普通ケガ人に言う? そのセリフ」

大げさなリアクションをするエイダを、俺は睨みつけた。

「・・・なんで、本気出さないんだ?」

「本気でやってこれなんだけど。ひどいなー」

「持っている力を使わないのは、ただのバカだ」

「―――えっ?」

エイダは、さっきまでとは違い、明らかに驚いた表情を浮かべる。

「・・・匂い」

「匂い?」

「俺は、人より鼻が良くなったからな。だから判るんだよ。お前から人と、なにか違う匂いが混ざっているのが、な」

「・・・・・・ゴメン。でも違うんだよ。これには訳が―――」

「俺が言いたいのはそれだけ。そろそろ向こうも動きそうだぜ」

俺は、エイダの言葉を遮ると、気持ちを切り替える。それは、先ほど吹き飛ばした人形が、ゆっくりと立ち上がったからだ。

「MN―01!! いつまで掛かっているのですか。さっさと前の二人を掃除しなさい!」

ターゲットが、人形に大声で命令を出す。

「・・・そういえば、俺もお前に言ってないことがあった」

「えっ?」

急な俺の言葉にエイダは、キョトンとした表情を浮かべる。俺は気にせず話を続ける。

「俺も人間じゃない―――」

俺は、魔力のギアを入れ替える。その瞬間、体中から魔力が溢れ出てきた。それに合わせたように、体に傷のような跡が浮かび上がった。

「―――化け物だ」

その瞬間、人形が飛び掛ってきた。俺もそれに合わせて地面を蹴る。

 間合いを詰めた俺は、剣を縦一閃に振り下ろす。だが人形は、それを左腕で受け止める。

鈍い音が当たりに響く。

 そのとき、柄を握る腕に、鉄板を叩いた衝撃が伝わった。

 鋼鉄製か? 殴られた痛そうだな。

 俺は、歯を食いしばり、痺れる腕を我慢した。そんなこと感じない人形は、無表情で右ストレートを返してきた。俺は、それを体を振ってかわす。

 俺たちの攻防が、目まぐるしく変わる。

 スピードは、ほぼ互角だった。

 だが・・・・・・。

「ぐっ!?」

力が違った。俺は、人形の左ジャブを剣で受けたが、抑えきれず体が宙に浮き、後ろに吹き飛ばされた。そして、あまりの圧に受身が取れず、背中から地面に転がった。

「ガッ!!」

肺を圧迫され、苦しさと激痛で、言葉にならない声が漏れる。衝撃の所為か、筋肉が硬直してすぐに動けない。

 だが、目の前の人形は、待ってくれない。

 人形は、俺にトドメを刺すため、地面を蹴った。

 動け! 動け! 動け!

 胸の中で自分に呼びかけた。だけど、気持ちと裏腹に、体は全然動いてくれない。

「カイザー君!!」

「―――っ!?」

俺は、目の前の光景に驚いた。人形が俺の体に届く前に、エイダのワイヤーで動きを止まったからだ。すると人形は、俺からエイダに狙いを変えた。

「あの、アホ!」

 エイダに向かって悪態を漏らすと、人形を止めるため、魔法糸で作ったワイヤーを伸ばした。それは、人形の右足に撒きつく。すると、人形はバランスを崩し、膝をついた。

 だけど、俺は今それどころじゃない。

「エイダ!! お前、なに考えてんだよ! 的になる気かよ!」

すると、エイダは俺の言葉に対して、なぜか笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。君を信じてたから」

「―――はぁ?」

その答えに俺は、間抜けな声をもらしてしまう。たぶん、顔も同じだろう。

 わけが分からない。どう考えたら俺を信じられる?

『・・・リョウ』

そんな混乱している俺に、ニアが声をかけてきた。

『少しの間でも、一緒に居ると繋がりができるものよ。《人間》っていう生き物は、ね』

「・・・うるさい」

ニアが、諭すように言ってくるのを切って捨てる。それは、なぜか判らないけど恥ずかしくなったからだ。

 するとニアが、クスクスと笑いだした。

 コイツ、本当に機械なのか?

『さて、この状況どうするつもり? あまり長くは、もちそうにないけど』

その声に俺は、視線を人形に戻す。人形は、俺とエイダのワイヤーを切ろうと、どこに隠していたのか、ナイフをとりだしたのだ。

「・・・考えはある」

 そう答えると、俺はワイヤーに魔力を流した。すると、ワイヤーが銀色に輝きだした。

「これだよ!!」

次の瞬間、人形の足に巻きついていたワイヤーが、音を発てて破裂した。

 周りに砂埃が巻きあがる。

『へぇー、考えたわね』

それを起きた後、ニアが感心したような声をもらした。

『《魔法糸》は、術者の魔力で作った糸。元々属性が備わっているそれを使ったのね』

「まあ、思いつきだったんだけど、な」

砂埃が徐々に消える。すると、人形の姿が現れてきた。

 俺は、その姿が目視できると飛び出した。

 爆発を受けた人形の足は、導線がはみ出しており、ダメージは大だ。

 俺は、一気に距離を詰めると、横一閃で人形の胴体を分断した。

 中に浮く人形の胴体は、力なく地面に落ちる。

そのまま、人形は動かなくなった。俺は、それを目視で確認する。

「・・・さすがに、もう動かねーよな?」

『これで動いたらホラーね。手だけでこっちに動いたら悲鳴ものだわ』

それはさすがに嫌だなー。

 冗談に聴こえないニアの言葉にうんざりした気持ちになる。戦闘が終わった俺は、地面に座っているエイダの方へ向かう。

「お疲れさま」

エイダは、笑みを浮かべ、労いの言葉を掛けてきた。

「お、おう」

なんだか照れくさい。

 すると、遠くの空からヘリの音が聴こえてきた。どうやら、騒ぎを聴きつけたみたいだ。

「結構騒ぎになったからなー。ここに居たら、事情聴取だね」

その声に俺は、視線をエイダに戻す。そのときのエイダの顔には、苦笑いが浮かんでいる。

「それじゃあ、逃げるか」

そう言うと、俺はエイダに手を差し出す。するとエイダは、一瞬驚いた表情を浮かべたが、

「うん!」

笑顔で俺の手を取った。

 

 事件から二日後・・・。

 

 俺は、ギルドをあとにした。

 今は、世界を渡るため時空港に向かう街道を歩いている。

 任務後、マスターに訊いて知ったんだけど。あの施設では、同時に被験者の脱走があったらしい。その所為で、防犯システムがはたらき、任務が大変になったわけだ。

 俺にとったら迷惑な話だ。

「ホント、別にボクたちが潜入したときに逃げなくてもいいのに、ね」

「・・・で」

俺は、普通に横を歩いている奴をにらみつけた。

「なんで、お前がついてきてんだよ? もう仕事は終わったんだから、お目付け役は終わったんじゃねーのか?」

「ん? あれ? 言わなかったっけ? ボクが君の監視係だって」

「はぁ? だから―――」

「ギルド全体の決定みたいだよ。今年一杯は、君はボクと共に行動しないと、ライセンス剥奪だって。はい、これが辞令書」

エイダは、一枚の紙を差し出してきた。

 俺は、それを受け取ると、目を通した。そこには確かに、エイダが言った内容が書かれていた。どうやら、俺が若すぎるのがギルド側で問題になったらしく。だから、ギルド全体で会議が行なわれ、これが決定したのだった。

「と言うことで、これからもよろしく、ね。リョウくん」

そんな俺を尻目に、エイダは笑顔を浮かべていた。

 その笑顔に俺は、深い溜息が漏れた。

                                   To be continued


 
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