No.158536

それがあなたの望むことならば~雛から凰まで~一歩

TAPEtさん

物語は、新しく、

雛里ちゃんがいたあの私塾から始まります

2010/7/18 鳳凰の中で凰の方が雌だったことに気づき、題を変えました。

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2010-07-17 23:31:10 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7593   閲覧ユーザー数:6182

『黒天を切り裂いて、

 

         天より飛来する一筋の流星、

 

     その流星は天の御使いを乗せ、

 

                    乱世を鎮静す』

 

 

 

 

「あなたたちはどう思うかしら」

 

夜空を見上げながら、先生は私たちに管輅という人が世に広めている占いを仰っていた。

 

「素敵だと思います。でも…」

 

占いは所詮は占い。

 

事件が起こった後に好き勝ってに当て嵌まらせることが多い。

 

「それが実現できるかは後の問題にしても、民たちがそのようなことを望んでいるということが解ります」

 

「その通りですよ、朱里」

 

私が口を止めていたら、朱里ちゃんが自分の考えを言いました。

 

水鏡先生は振り向いて朱里ちゃんの頭をなでてくれました。

 

いいなー。

 

「多くの人たちが圧政や盗賊に苦しんでいる今の時こそ、そういう話に人たちはもっとはまってしまうものですよ」

 

「水鏡先生は、その占い自体は、信用なさらないのですか?」

 

「そうね……」

 

私の質問に、先生はしばらく考えてから答えてくれました。

 

「私たちは、占いは信じなくても星を見て人の命がどうなるかを解るでしょう?」

 

「はい」

 

星は多くのことを知っている。

 

流星、星が落ちるということは、普段とても重要な人の死をあらわすもの。

 

それが天の御使い登場を示すことも、ある意味、早く世のえらい人が死んでくらないかなぁ、という皮肉は気持ちを含めているのではないかな。

 

「きっと占いさんもそれと同じでしょうね。彼らの中にはエセ占いも居るけど、多くの占いたちは、その人が望むことを言ってくれる言が一般的でしょう」

 

先生の話は続いた。

 

「でも、そんな言葉が、たとえあの時は嘘だとしても、人たちがそれを信じて、もっと多くの人が信じて、大陸の皆がそれを信じるようになれば、きっと世界は今よりもっと平和になるだろうと、私は思います」

 

「人が信じれば、本当にそうなる…ですか?」

 

「そうよ、たとえば…本当に天の御使いさまがきたとしましょう?でも誰もそれを信じてくれなかったら、その御使いさまが本当に乱世を静めてくれる力を持っていても、民たちには何の力もなれないってことよ」

 

「ああ………」

 

「雛里はどう思うかしら?」

 

「へ?」

 

「もし、本当に天の御使いさまがいたら、雛里はどうします?」

 

水鏡先生の突然な質問に私は迷いました。

 

もしそんな人が本当にいたら、それはとても素敵なこと。

 

だけど、その人が本当にそうだとどうやって信じればいいんだろ。

 

「……」

 

「そう、迷っているのね」

 

「ごめんなさい」

 

必要な時に必要な答えを出せないということは、軍師を、民たちを、人の上に立つ者たちのために働く人として決していいことではない。

 

「いいですのよ。…今日はもう遅いですね。二人とも帰って寝なさい。明日も早いわよ」

 

「「はい」」

 

 

「雛里ちゃんは天の御使いは信じないの?」

 

「いたら、いいとは思うよ。でも…そんな人が本当に居るとしても、その人が本当に乱世を鎮静して、民たちを幸せにしてくれるのかなぁって」

 

「どういうこと」

 

「たとえば…そんな凄い人だったら、今の権力者たちみたいに、それを自分のために使って、また民たちを更に辛くするのではないかな」

 

「あぁ……そうだね…でも、きっと大丈夫だよ」

 

朱里は寝台を直しながら言った。

 

「もし、天の御使いという人が本当に居たらね、私、絶対あの人のために自分の知を使うよ。もしあの方が悪い人でも私があの人を変えればいいんじゃない?」

 

「ほぉ……」

 

やっぱり、朱里ちゃんはすごい。

 

仕える主人を正しい道へ導こうと思うのは当然のことだけど、その相手が天の御使い…

 

「ねぇ、雛里ちゃんもそうだよね、ね?」

 

「え?あ、うん」

 

「良かったー。じゃあ天の御使いさまが本当に現れたら、私たち二人でその方に行くんだよ。約束だよ」

 

「…うん」

 

 

「……んん…」

 

何かよく眠れない。

 

隣の寝台で寝ている朱里ちゃんが起きないように静かに部屋の門を開けて外に出た。

 

・・・

 

・・

 

 

「……」

 

乱世を静める天の御使いを乗せた流星。

 

「……考えのしすぎかな…」

 

ぶるぶる

 

「っ…寒い」

 

部屋に戻ろう。

 

ぴかっ

 

「きゃっ!」

 

雷?!

 

ぴかっ!

 

「はっ!」

 

流星が…

 

ぴかっ

 

「うっ」

 

目が……

 

『天の御使い』

 

「もしかして…」

 

本当にいたなら…

 

 

一度も、

 

一度も一人あの私塾の扉を一人で出たことがなかった。

 

けど、今は、

 

今日だけは…

 

「はぁ…はぁ…」

 

走りすぎたかな。

 

息が……

 

流星は見えなくなった。

 

塾からあまり遠く離れたら道が探せなく…

 

ぴかっ

 

「うっ!」

 

こっち?

 

ぴかっ

 

目の前で何かがずっとぴかぴかってした。

 

まるで私に流星が落ちた場所を教えようとしているように。

 

・・・

 

「ううぅ……うぅ…」

 

こんなに森の深くまで来たのに…

 

一人で帰られるかな。

 

「うぅっ…」

 

また目が…

 

「ひゃっ!!」

 

足元の石に躓いてしまった。

 

「ふぅぅ……ふえぇ…怖いよー」

 

一度転んじゃったら心で詰まっていた怖さと恐ろしさが一気に噴いてきて…

 

「ふえぇええー」

 

私は森の中で一人で泣き始めた。

 

「こわいよーーせんせー、朱里ちゃーん」

 

でも、夜にこんなに遠くまで来たのに、朱里ちゃんが水鏡先生に私の声が聞こえるはずもなかった。

 

「ふぅぅ……」

 

泣きながら立ち直った。

 

帰ろう。

 

今ならまだ間に合うかも知れない。

 

ばさっ

 

ばさっ

 

「ひっ!?」

 

何?!

 

熊?!狼!?

 

「ひ、ひえぇえええ!!」

 

逃げた。

 

本当に狼とかだったら、逃げてもしょうがなかったけど、走るしかなかった。

 

ばさっ

 

ばさっ

 

音がついてきていた

 

「ふえええええ!!」

 

こんなに森深くまで来るんじゃなった。

 

「ひゃっ!!」

 

バタン!

 

「いたい!!」

 

足が、挫けた。

 

ばさっ

 

「ひぃっ!」

 

もう、もう駄目……

 

 

 

ばさっ

 

ばさっ

 

「待っててば…あれ?おい、大丈夫?」

 

「……」

 

「気絶…しちゃったの?」

 

「……」

 

「ふええ、嘘!ねぇ、起きて、起きてってばー」

 

「……」

 

「ああわうあわうああうああ」

 

「……」

 

「うぅぅ…とにかく行くしかないか…このお姉さんは…負んぶしていこっか。何処にいけばいいのかはさっぱりだけど、ここにおいておくわけにもいかないし…」

 

「……」

 

「近くで見たら…綺麗な人だね」

 

・・・

 

「よいっしょ…」

 

「……」

 

「軽いね、…何も負ってないみたい」

 

「……」

 

「このお姉ちゃんが逃げようとこっちに向いたとしたということは…多分こっちにこのお姉ちゃんの住む家がいるのかな」

 

 

 

 

 

 

雛里ちゃんが倒れた場所が、私塾から100メートルも離れていないところだったということは、また後の話だ。


 
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