No.158296

真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:程昱・郭嘉

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
……なんというかこう、文才を手に入れたいです。

2010-07-17 00:49:39 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7835   閲覧ユーザー数:6901

 

 

【拠点 程昱・郭嘉】

 

 

 それは風が稟と共に中庭にある阿舎で、策についての検討をしつつもささやかなお茶会をしていた時のこと。

 

「しかし……珍しいこともあるものですね。貴女がああも男性に懐くなんて」

 

 検討に一応の区切りがついたのをきっかけにし、眼鏡の位置を正しながら稟は言った。対して風は相変わらずの調子を崩すことなく、温かな日差しにまどろませていた瞼を僅かに開けて、のんびりと応じる。

 

「懐く、とはー?」

「決まっているでしょう、旭日殿のことですよ」

「……ぐぅ」

「寝るなっ!」

「おおっ? これはすいません、なんだか面倒な話になる気がしたものですからー」

 

 ふわりと欠伸をする風。

 いつもならこれで「……もういいです」と引き下がるはずなのだが……眼鏡越しにこちらを見つめる彼女の瞳には呆れに隠された好奇心が窺えた。どうやら、今回は簡単に引いてはくれないらしい。

 

「(やはり、こういう時の軍師は厄介ですねー)」

「ふぅ……全く、とぼけたって無駄ですよ、風。真名を容易く預けたことといい、貴女はどうも彼に心を許しすぎな気があります」

「そう言われましても、真名は華琳さまに許すよう命ぜられていたじゃないですかー」

「ですが、貴女は例え命ぜられてなくとも預けたのでは?」

「………………むーん」

 

 稟の正鵠を射た言葉に、つい風は押し黙ってしまう。

 命令に関わらず預けたのではないか、それは――おそらくきっと、預けていたことだろう。

 その理由は何かと問われても、そこに明確な答えを返すことはできない。ただ直感的に、なんとなく、今の彼になら預けてもいいと思えたのだ。

 初めて会った時の彼は少し、怖かった。

 飄々としているのにどこか余裕がない気がして、笑っているのにどこか笑ってない気がして、温かいのにどこか冷め切っている気がして――怖かった。

 けれど、次に会った時の彼はそんな怖さがどこにもない、琴里から聞かされていた話の通りの日のような人で。ちゃんと笑えていて、温かくて――優しさがあって。どうしてみんなが彼に大なり小なり好意を向けるのか、今ならよくわかる。

 居心地がいいのだ、彼の隣りは。

 まるで日向ぼっこをしているみたいに、とても。

 

「風?」

「なんでもないのですよー。んむー、でも稟ちゃん、どうして急にそんなことを訊くのですか?」

「どうしてって……友として心配しているんです。口の悪さを除けば旭日殿は有能で、人当たりの良い方ではありますが、あの気の多さはさす、流石にっ………………ぷっ、ぷはっ……!」

「はい稟ちゃん、とんとんしましょうねー、とんとんー」

 

 一体何を妄想したのか、盛大に鼻血を噴き出した彼女の首元をとんとんと叩いてやる。人の心配より、まずこの命に関わる鼻血癖をなんとかするべきだとは思うも――まあ、今更だろう。

 

「……それにしても、気が多い、ですか。みんなにとってはきっと、そちらのほうがいいのでしょうけどねー」

「ふがっ……な、何か言いました? 風」

「いえいえー」

 

 誤魔化しにもなってない誤魔化しをして、ぱくりと飴を口に咥える。

 愛しの主にぞっこんである彼女には、まだわからない。

 気が多いと感じるのは彼が誰にでも優しいせいで、当の本人は気が多いどころか好意を向けられていることにさえ全く気付いていないことに。自覚無自覚を問わず、察しやすさも察しにくさも関係なく、向けられる沢山の好意を彼はいっそ清々しいくらい見事に気付いてない。それは彼が鈍感であることが強く起因しているけれど――どうしてだろう、風には彼が頑なに気付くのを拒んでいるように思えて仕方なかった。

 

「………………」

 

 

 

 

 ふと想起したのは、眩く輝いた夢。

 琴里が旅の仲間に加わり、彼女から日天の御遣いを話を聞いてすぐに視た――自分が名を昱と変えるきっかけとなった、夢。

 

「……稟ちゃん。稟ちゃんは、風の夢の話を覚えてますかねー?」

「夢……以前に貴女が視たという、日を支える夢のこと? それがどうかしたのですか?」

「もしも、のお話ですよー」

 

 そう言って風は空を仰ぐ。

 正確には――空に浮かんだ眩しい日を。

 同じだ、まるで。

 あの夢に出てきたのも、この天を照らす日輪だった。

 抱えることができないほど大きく、目を開けられないほど眩しく、触れた手が火照ってしまうほど温かい日輪と、それを支える自分。現実味なんてこれっぽっちもないのに、何故かとても鮮明に覚えている夢。

 たかが夢だろうと人は笑うかもしれないけれど――それでも。

 

「夢、の一言で片付けることはできないのです」

「……ふむ。その根拠はなんなのです?」

「根拠という根拠はありませんねー。けれど、風が《日天の御遣い》であるお兄さんを傍に置く華琳さまに仕えたのは多分、偶然なんかじゃないと思いまして」

「貴女が夢に視た日輪こそ、旭日殿だと?」

「さてさてー。夢に出てきたあの日輪がお兄さんなのか、華琳さまなのか、それは風にもわからないのです」

 

 日天の御遣いと呼ばれる旭日。

 そんな彼を手中に収めた華琳。

 名に日を有する人と、手に日を有した人。どちらとも日を有している以上、夢の日輪がどちらなのかはわからないが――どちらも支えたいと、そう思う。二人ともまるで似てないのに根元の部分はそっくり同じく、全てを一人で背負おうとする、不器用な優しさの持ち主だから。

 放っておけない。

 だから、支えたい。

 昱という名の、文字通りに。

 

「とにかく、お兄さんを軟派扱いするのはちょっと早計すぎるかと。稟ちゃんも、お兄さんともう少し仲良くなればわかるのですよ。あの人について、心配することはなんにもないということが」

「はぁ……そういうもの、なのでしょうか」

「そういうもんさ。ま、大将や鼻血のことで精一杯のねーちゃんにはちっと、難しい話かもだけどよ」

「なっ!? わ、私は別に……!」

「おいおいねーちゃん、いつまでもツン子やってちゃあ何も変わらないぜ?」

「ぐっ…………うぅ」

 

 宝譿の言葉に落ち込んでしまった稟を見て、風は何かを思いついたようにぽんと手を打ち、言った。

 

「でしたなら、稟ちゃんはやはりお兄さんと仲良くするべきですねー」

「……は? 何故そのようなことになるのです?」

「ほらー、お兄さんは請負人で、あちらの方面も優秀そうですから。稟ちゃんに妄想を超える現実を教えてくれるのではとー」

「現実ってまさか…………………………ぷっ!」

 

 しばしの溜め。

 そして。

 

「ぷは――――――――――――――――――――っ!」

 

 盛大に噴き出した赤色と、急激に血を失った為に倒れた彼女。

 

「むーん……先はまだまだ長いですねー」

 

 いつも通りの光景に欠伸を一つ噛み殺して、風は再び空を仰ぐ。

 天気は晴れ、ときどき赤い雨。

 二つの日が暮らす城内は今日もまた、平和だった。

 

 

 

 

前回のコメントへの返信

 

 

サラダさま>

 

あの鼻血にはバッジョさんが言ってたように、たとえようのない魅力があると思ってます。ご期待に沿えた回に仕上がってるとよいのですが……

 

田仁志さま>

 

旭日の過去は後々、もうしばらくお待ちください。琴里の拠点は……次回をお楽しみにっ。


 
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