第五話 ~~群雄、集う~~
――――――――――――――――――――――――――
(―――――だから言っただろう? きっと勝てるって。)
「・・・またお前か。」
もう三度目になる黒の世界と、その中で聞こえる声。
もはやさほど取り乱すこともなく、一刀は声の主と会話していた。
(―――――そんな言い方はないだろう、俺の言った通りになったんだから。)
「お前は・・・本当にあの戦いで勝てることを知ってたのか?」
(―――――さぁ、どうだろうな・・・前にも言った通り、本当にただのカンかも知れないぞ?)
「・・・あくまでも本当の事は言わなつもりか。」
(―――――ははは、まぁそのあたりはお前の想像に任せるよ。 俺が言いたいのはこれか先の事だ。)
「先・・・?」
(あぁ、これからは戦いも厳しくなる。 もっと気を引き締めることだ。)
「そんなこと、お前に言われなくても分かってる!」
(―――――そうか、それならいい・・・・・とにかく、お前の使命が終わるまでは気を抜くな。)
「俺の・・・使命・・・?」
初めてこの声と話した時に言われた事を思い出した。
―――――――――― 『お前は・・・彼女を救うんだろう?』 ―――――――――――
「なぁ、俺の使命って・・・・」
(――――――今話せるのはここまでだ。 またな、一刀。)
「・・・・・・・っ!?」―――――――――――――――――――――――
いつもと同じように白い光に飲み込まれ、一刀は夢から覚めた。―――――――――――――
――――――――――その日、突然入ってきた報告により、緊急の会議が開かれた。
「黄巾党の本拠地が分かったって本当か?朱里。」
「はい、間違いありません。」
「だったら早く行ってやっつけるのだ!」
「まぁ待て鈴々、今回は前回のようにはいかんのだぞ?」
「ふむ、確かに前回の一万など所詮は敵のほんの一部。 本拠地ともなれば、さすがに我が軍だけでは厳しいだろうな。」
「う~ん、少しずつ増えては来たけど、ウチはまだまだ兵隊さん少ないもんね。」
相変わらずの鈴々の猪突猛進ぶりに愛紗と星が反論し、桃香も困ったような表情を浮かべている。
星の言うとおり、もし黄巾党の本隊に桃香たちだけで挑もうものなら、津波に飲み込まれるように返り討ちにされてしまうだろう。
もとは貧しい農民などのあつまりとはいえ、黄巾党の本隊ともなればそれだけの規模になる。
「あの、その件に関しては・・・・心配ないかと思います。」
「どういうことだ?雛里。」
「・・・黄巾党の本拠地の情報は、すでに各地の諸侯にも伝わっています・・・ですから、どの諸侯も自らが黄巾党討伐の功名を得るために出陣するはずです。」
「なるほど、つまり放っておいても兵は集まるということか。」
「よし、そういうことなら俺たちもグズグズしていられない。 すぐに準備をして出発しよう!」
「うん。 がんばろうね、皆!」
一刀たちはすぐに準備を整え、黄巾党の本拠地へと向かった。
―――――――――――――――
「・・・すごいな。」
「ほんとだね~。」
目的地に着いた一刀たちの目に飛び込んできたのは、荒野一面にひしめき合うさまざまな軍の兵士達だった。
「さすがに壮観ですね。 大きいところでは曹操さん、孫策さん、馬騰さんに袁紹さん・・・あ、公孫賛さんの旗もありますよ。」
朱里は辺りを見回しながら言う。
軍師である朱里としては、これほどの大群が集まっている光景は見るだけでも楽しいものだろう。
「白蓮ちゃんも来てるんだ。」
「ああ・・・とりあえず、俺たちも陣を張ろう。」
兵に指示を出し、空いている場所に陣を張る作業に入る。
「あ!ねぇねぇ、もしかしてあなたが天の御遣い?」
「え?」
作業の様子を見ていた一刀は、突然かけられた声に振りかえる。
するとそこには二人の美女が立っていた。
一人は穏やかな笑みを浮かべる桜色の髪をした女性。
そして隣にいたのは、長い黒髪にメガネをかけたいかにもな感じの知的美人だった。
「えっと・・・そうだけど、あなたは?」
突然の質問に、戸惑いながらも一刀はそう答えた7。
何度言われてみても、やはり自分が天の御遣いなどと呼ばれるのは慣れない。
「あはっ♪やっぱり。 私は孫伯符、こっちは軍師の周瑜よ。」
「えぇっ!?伯符と周瑜って・・・」
笑顔で名乗る女性に一刀は驚きの声を上げる。
白符といえば、孫策伯符の事だろう。
江東の虎と呼ばれた孫堅の子で、英雄の代名詞ともいえる呉の王だ。
そして孫策と周瑜といえば、断金の誓いで結ばれたと言われる三国志でもかなり有名な存在である。
「ねぇ、あなた名前は?」
驚いている一刀にはかまわず、孫策は変わらずに笑顔できいてくる。
「あ、ああ。 北郷一刀っていうんだ・・・よろしく。」
「ふ~ん、一刀かぁ。 ねぇ一刀、私の事は雪蓮って呼んでいいわよ♪」
「え!?それって真名じゃ・・・」
「雪蓮!そんなに簡単に初対面の男に真名を教えるなど・・・」
「だってぇ~、一刀って思ってたよりずっとイイ男なんだもん。」
雪蓮の突然の行動に周瑜は声を上げるが、当の本人は聞く耳持たないと言った様子で笑顔のままだ。
「はぁ~、全くあなたという人は・・・」
「あ、あのさ・・・俺に何か用かな?」
「へ?ううん、別に。 ただ、天の御遣いってどんなかな~って気になっただけ♪」
「あ、ああ・・・そうなんだ。」
平然と答える雪蓮に、一刀はなんだか全身の力が抜けていく気分だった。
目の前の笑顔の彼女を見ていると、とても歴史にその名を残す英雄には見えない。
「すまないな北郷殿。 私は止めたのだが、どうしても行くと言って聞かないのだ。」
「いや、別にいいけど・・・」
「ほら、もう行くぞ雪蓮!王がいつまでも陣を開けていては士気にかかわる。」
「え~!?もう少しくらいいいじゃない!冥琳のケチ~。」
周瑜の言葉に雪蓮は頬をふくらまして反論する。
「ほ~う。 誰がケチだと・・・?」
「う“・・・」
周瑜の厳しい視線に雪蓮は少したじろいだ。
「も~、わかったわよ! 行けばいいんでしょ、行けば。 じゃあね一刀、また会いましょう♪」
「う、うん。」
笑顔で手を振って、雪蓮と周瑜は去って行った。
その背中を見送りながら、一刀は首をかしげる。
「何だったんだ・・・?」
「ご主人様。」
「!・・・愛紗!?」
「なにやらずいぶん美しい女性と話をされていたようですが・・・あの方はどなたですか・・・?」
そう言っている愛紗の顔は穏やかだが、その声は明らかに怒りで少し震えていた。
「いや違う、誤解だって!あの人は呉の孫策さんだよ!」
「孫策・・・?あの方が・・・それで何と?」
「特に何もなかったよ。 それより愛紗、何か用があったんじゃないの?」
「あ、はい。 準備が整いましたので、軍議のためにお呼びしに来たのですが。」
「ああ、わかった。 すぐ行くよ。」
―――――――――――――――――――
自軍に戻った雪蓮は、陣の奥にある椅子に座り笑みを浮かべていた。
「で、どうだったわけ?孫呉の誇る天才軍師、周公瑾から見た感想は。」
「天の御遣いの事か?・・・よく分からん、というのが正直な感想だな。」
「あら、冥琳にしては珍しいじゃない。」
「特にひいでた武を持っているわけでもなく、優れた知某があるわけでもない・・・にもかかわらず、周りには優れた人材が集まっている。 あの男のどこにそんな力があるのか・・・」
「ふ~ん。 つまり少しは興味を持ったって事ね?」
「まぁ・・・な。」
「うんうん、何よりイイ男だしね。 ウチに来てくれないかしら♪」
「あなたはまたそのようなことを・・・」
「だって一刀が来てくれれば、孫呉に天の血を入れる事ができるのよ。」
「お、お姉さまっ!一体さっきからなんの話をしているのですか!」
雪蓮の近くに立っていた妹の孫権がしびれを切らしたように怒鳴った。
「あら蓮華。 どうしてそんなに赤くなってるの?」
「あ、赤くなってなどいません!」
「心配しなくても、もし一刀が来たら蓮華にも貸してあげるわよ。」
「なっ、なんでそうなるのですか! 私はそんな顔も知らない男の事など気にしていません!」
「フフ。 まぁその話は置いておくとして、とりあえず今日の戦いで天の御遣いの力を見せてもらおうかしらね♪」
―――――――――――――――――
その頃、一刀たちは設置した天幕の中で軍議を開いていた。
机の上に地図を広げ、集まった全員がその上に視線を集中させている。
「さて、問題はこの大軍がひしめく中でどう動くかだな。」
「これだけたくさん人がいると、思うように動けないよねぇ。」
腕を組んで考える一刀の隣で桃香も困った表情を浮かべる。
そのとなりで朱里と雛里が口を開いた。
「確かに数では敵いませんが、我が軍は少ない分他の群より動きが取りやすいという利点があります。 他の軍勢が薄いところを上手く攻めれば十分に戦えるはずです。」
「・・・ここから黄巾党の本拠地までは、まだ距離があります。 大切なのは、進軍の時に他の軍に遅れをとらないことです。」
「わかった、それじゃあ進軍の指揮は朱里と雛里に任せるよ。 それから少数の隊をいくつか展開して、常に戦場全体の状況が分かるようにしてくれ。」
「わかりました。」
「・・・はい。」
「では、進軍の合図まで、兵を待機させておきます。」
「あぁ、頼むよ愛紗・・・・ん?」
軍議も終わりに近づいていた時、外からなにやら音が聞こえてきた。
「オォ“ーーーーーーーーー!!」
「何だ?」
それはかなり大人数の雄叫びのようで、地鳴りのようにも聞こえる。
気になって外に出ようとすると、一人の兵士が息を切らして入ってきた。
「ほ、報告します!遠く前方より、黄巾党の大軍がこちらに向かってきます!」
「何だって!?」
慌てて天幕の外へ出ると、果てしなく続く荒野の向うから、ものすごい数の黄巾党が土煙を上げてこちらに走ってくるのが見えた。
「オォ“ーーーーーーーーーー!!」
前方を埋めつくさんばかりの大軍の雄叫びは、まるで雷のように辺りに響き、“ビリビリ”と大気を震わせる。
「どうやらこちらの接近に気付き、こちらの準備が整う前に責めるつもりのようですね。」
驚く一刀の隣で、朱里が険しい表情をしている。
「くそ、先手をとられたってことか・・・」
―――――――――――――――――――――
「あらあら、わざわざ向こうから来てくれるなんて、手間が省けて助かるわ。」
迫ってくる大軍を見つめながら、雪蓮は不敵に笑う。
不意を突かれたというのに、その表情に焦りの色はまったくなかった。
「どうするつもりだ、雪蓮?」
「フフ。 もちろん、ひねり潰してあげるわ♪」
雪蓮は腰の剣を抜き、空に掲げる。
「行くぞ、我が精兵たちよ!愚かにも我らに牙をむく下郎どもに、孫呉の力を思い知らせてやれ!」
「オォ“ー--ーーーー!!」
雪蓮の鼓舞に応え、兵士たちは一斉に駆けだした。
それを合図に、周りにいた他の軍勢も我先にと続いて行く。
――――――――――――――――――
「あわわ・・・皆どんどん出陣していきます。」
次々と駆けていく周りの軍勢を見て、雛里はうろたえている。
「ここで遅れるわけにはいきません。 愛紗さん、こちらも出陣してください!」
「わかった。 ゆくぞ鈴々、星!」
「承知!」
「待ちくたびれたのだ!」
朱里の指示で愛紗たちは出陣の準備を始める。
「頼むぞ、皆!」
――――――――――――――――――戦場では、先立って出陣した軍と黄巾党がすでに戦いを繰り広げていた。
さまざまな場所で、鉄と鉄がぶつかる音と悲鳴が上がる。
数々の軍勢が入り乱れる中、その中心に雪蓮はいた。
「あっははは♪」
“ザシュ!”
「がぁっ!」
「ぎゃあっ!」
笑いながら剣をふるう彼女の顔はすでに大量の返り血を浴びていた。
それをいちいち拭うこともせず、次々と賊を物言わぬ屍に変えていく。
「どうしたの?もう少し楽しませてよ♪」
“ズバッ!”
「ぐぁっ!?」
彼女の剣に斬り伏せられた賊たちは糸が切れた人形のように地に沈む。
赤いしぶきにまみれながら賊を切り捨てる彼女の姿に、周りを囲む黄巾党の目には恐怖の色が浮かんでいた。
彼らから見れば、今の雪蓮は笑いながら人を殺す鬼のように見えているだろう。
「ひぃ・・・バ、バケモンだ・・・」
「あら、乙女に向かって失礼しちゃうわね。」
“ザンッ!”
「ぎゃあっ!」
まるで無邪気に遊ぶ子供のように剣を振り、その度に血しぶきが舞う。
もはや彼女が着ている赤い服は、それがもとの色なのか血によるものなのか区別がつかなくなっていた。
口元についた血をペロリと舐めて、雪蓮は怪しく笑う。
「ヤバい・・・ゾクゾクしてきた。」
彼女の活躍により、呉軍の士気は一気に高まり、家臣たちも声を上げる。
「お姉さまに遅れをとるな!我々も力を見せるのだ!」
「甘寧隊も続くぞ!一気に突き崩せ!」
勢いに乗った呉軍は、数で勝る黄巾党を圧倒していった。―――――――――――――――
というわけで黄巾党との最終決戦始まりました。
そして雪蓮初登場です。
彼女の戦闘シーンはなんとなくこんな感じかなぁと思って書きました。
ちょっとマッドすぎたかな・・・・ (汗
次の話では曹操が初登場です。
ではまた次回 ノシ
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五話目ですww
黄巾党との最終決戦に臨む一刀たち。
この辺りから少しずつ原作と離れた展開になってきます。